表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
50/194

とりあえずのハッピーエンド



 王国としての正式発表は、『地脈の異常が見つかったので、ドワーフ王国、魔人を統べる大魔王、我が王国の共同作戦で無事異常を回復し、地脈が正常化した』と言う形で行われた。

 そのまま報告しないでもいいのではと思ったのだが、地脈が繋がって一週間で、王国南部の荒れ地が急激に回復しだしたのだ。

 そして魔力感知に鋭い何名かが、地脈を流れる魔力の質が変わったと騒ぎはじめ、これは放っておいても変な勘繰りを受けるので発表してしまおうと言う事になった。

 この事でわかったのが、遥か北に地脈と同じ大きな魔力の塊を感じられることが出来たのは、王国でも俺達と近衛兵団と魔法師団の極一部で、他の人はそこまで感知能力が高く無いらしい。

 ドワーフ王国はこの際いいとして、魔人が絡むとなると反発は必至だったが既に解決した後である。

 それもシェリールの独断による承認の無い勝手な行動ではなく、完全に俺の独断だ。

 一応婚約者とされてはいるが、事実俺は貴族でも無ければ王族でも無く、何かやらかしてもシェリールに致命的なダメージを与える程ではない。

 その上で実際に地脈の問題は解決され、更にドワーフ王国の王女だったシエルとの婚約も発表され、王国がドワーフ王国との国交を開始する事になった。

 こうなると貴族はドワーフの職人と直接交渉できるようになるので、その旨味を考えるといつものようにドワーフを嫌ったり距離を置くよりかは受け入れた方がいい。

 一番の目玉は各種鉄製品ではあるが、鉄製品じゃなくてもドワーフ製の物は全ての品質が高いので、種族云々の確執はあるが実際手に入るなら喉から手が出る程欲しいのだ。

 ドワーフ王国との国交は利権の塊なので一気に派閥が変わり、反ドワーフだったエルフ信仰の過激派が一気に窮地に立たされる事になった。

 勿論水面下ではそう言ったドワーフ排斥派は残るのだろうけど。

 ちなみに王国を最後に挙げたのは、あくまでお手伝いをしただけですよと関与の薄さを表したのだが、各方面へ説明をしてみるとお手伝い以上にガッツリ関わってることが浮き彫りになってしまって無意味だった。


 で、極めつけの発表である。

 人類、と言うか周囲の国々にとって目の上のたんこぶだった魔人の王、大魔王が元勇者で、魔王討伐を成功させたが為に魔王の強大な魔力を受けて魔人化してしまった事を発表した。

 その事を今回の件で知った俺が、魔人とドワーフの橋渡しをして無事解決に漕ぎつけた、と言う美談で纏められてしまっている。

 個人的にはもうちょっと何とかならなかったのかと思ったのだが、変に細かく話すと地脈への細工とかベスターの城の細工なんかの話が出てきてしまうし、ベスターやドワーフ王と意見の擦り合わせをしたら『面倒だからトモヤが被れ』と二人揃って言い出して逃げられなくなった。

 まぁ、ドワーフ側としてもやらかしていたし、魔人側も理性的だと言うのを見せつけた方がいいので、人間の、それも遊び人で主夫である俺が対話によって解決した事にした方がいいと言う事だった。

 それによって俺の株が上がるかと言えば、これまた意見が分かれるのである。

 ちなみに俺がなんで関わったかについては、魔力探知だけは人一倍なのとシエルからの情報でと言うことになっている。


 ドワーフとの交流は利権云々の関係もあって概ね受け入れられた。

 が、魔人との交流は悲鳴が上がるほど受け入れがたい問題で、この件については魔王ベスターの勇者の頃を知るアドリアン国王陛下に演説に立って貰い、彼は正しく勇者であって国の命に従い魔人討伐に向かった事、倒したと言うのに魔人化したのは結果として国の責任もある事を強調してもらい、それを無碍にするようなら今後勇者は魔王討伐なんてしなくなってしまう、それならば彼を認めようではないか、として貰った。

 魔王化に関しては完全に昔のドワーフのせいだったが、これまで勇者を無理に派遣してきた事実もあり、そうする事で今後無理な派遣を無くそうと言う魂胆と、ドワーフ王国への恩を売る事が目的だ。

 勿論そう言った演説があっても反魔人派が圧倒的ではあったが、同情する人も出てきて、とりあえず魔王が元勇者で信頼に値する事を強調して今後の交流に備える事にした。

 そう、ベスターが魔力を抑えられるようになったら、王国に招くことになっているのだ。


 地脈の回復と共に南側の土地が潤ってきた件は、回復から一ヶ月程で他の土地と変わらない程度に魔力量が戻ったらしかった。

 今は冬なので作物の育成が遅いが、今後土壌の改良をすれば他の土地と同じ収穫が期待できるのと、南端の山脈が潤う事でこちら側に流れ出る川も復活が見込まれていて、すぐにでは無いが住みやすくなるだろうと言われている。

 この事から、どうやら何千年か前に根が断たれたせいで、先端が枯れてしまっていたのだろうと言う結論になった。

 世界樹の根の異常な回復力で枯れきってないあたりまでは一気に回復したが、植物の根と言うものは切れたりすると他から出たりするもので、どうやら南側は枯れた辺りから細い根が複数本出て一気に成長して、他の土地よりも豊かになる可能性もあるらしい。

 ドワーフ王国でも切断した付近から伸びた根を切って材料にしていたと言う。

 世界樹の根は魔力の保有量が多いので、根の皮を加工してドワーフ謹製の道具袋が作られたらしい。

 そりゃ口のサイズ以上の物が入る摩訶不思議な袋も作れるわけだ。

 シャルがシエルの袋を見て微妙な顔をしていたのは、どうやら原材料に予想がついたからのようだった。


 で、大きな問題が残っている。

 シエルとの婚約の話が出たのはいいが、元々婚約者だったシェリールをどうすんの、ってなる事だ。

 勿論王国側としては、本妻はシェリールである。

 これで本妻がシエルとなってしまったら、俺はドワーフ王国に追いやられてしまうだろう。

 その点、シエルも父親のドワーフ王――後になって名前を聞いたがクリストフ・グランドにも了解を取ったが、向こうとしても嫁に出すのだから構わないとの事。

 ドワーフ王の家は長男がいるらしいのだが、最悪クリストフが今回の件で死ぬ可能性も考えて表には出てきてないらしい。

 こうしてエルフとドワーフの婚約者ができた以上、ドワーフ側に先を越されてなる物かと考える貴族が実は山ほどいて、早く結婚をと急かされるようになり、あれよあれよというままに結婚の準備が進んでしまった。

 エルフに傾向していた王国民故にエルフを優先させようとするのは仕方のない事だと思う。

 でもさ、どうせやるなら式は一緒にやるんだし、ただ単に俺の首を絞めてるだけだと思うんだ。

 俺、まだ結婚する気なんて無いんだけど?

 これまで俺とシェリールの結婚に難色を示していた家ですら賛成に回ったのだから、シエル効果が悪い方向に向かってしまった。


「私は良かったと思っている。シエルはいい子だから」


 話す内容が内容なので、王城のシェリールの私室に二人で来て相談していた。

 流石にシエルにもシェリールがシャルだとは言っていないし、結婚話が進んでシエルも浮かれてしまっているので、とりあえず少しでも冷静な話がしたくてこうしたのだ。


「……まぁ、シャルがそう言うのであれば。いやだがちょっと待て、本気で結婚すんの? 俺が? 八歳と?」


 軽く引っぱたかれた。


「トモヤ」

「はい」

「約束は守らなきゃ駄目だと思う」

「前にもそんな事言ってたよな」

「うん。前にも言った。前にも」

「何となくそんなキャッチフレーズみたいなのあった気がしないでも無いんだが――」


 遥か昔にそんな記憶があるのだ。

 前に聞いた時も思い出しそうで思い出せなかった。


「ねぇ智也お兄ちゃん、私が元気になったら結婚してね」


 フラッシュバックだった。

 あの暑い夏の日、田舎で療養していた、従妹の。

 俺は縁側に座っていて、出されたスイカが美味しくて齧り付いていて、あの子は直射日光に当たれなくて部屋の中、布団の上にいて。

 多分小学校の三年とか四年の時の記憶だ。


「約束したからね」


 『ああ、だから病気なんて治そうなー』

 そんな事を言った気がする。

 『嘘ついたら針千本飲ませるのは可愛そうだから、約束は守らなきゃ駄目だよ』

 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

 そう、毎年夏にしか会えないから、『また来年来てね』『また来年な』と約束を交わし、それに対して『約束は守らなきゃ駄目だよ』と寂しそうな顔でいつも言われていたのだ。


「約束は?」

「……琴美、桑原さんちの琴美。……嘘だろマジかよ」


 正直名前も忘れかけていたし、苗字なんか今出て来たくらいだ。

 琴美と会った最後の夏、その少し後に何かが原因で亡くなったと聞いたのだ。

 小学五年の夏には行ってないと思うから、多分八年くらい前の話で、転移や転生で時間の繋がりは無いとされているから偶然なんだろうけど、亡くなってすぐ転生して来たなら実年齢と符合するのかもしれない。

 ぼんやり覚えているのは多臓器不全だかなんかで、俺が帰って少しして体調を崩してそのまま亡くなったとかで、多分両親も俺と遊んだせいだと思わせたくなかったと思うのだが、家で琴美の話題は一切出なかったし、琴美の両親が田舎から都内に引っ越してきて割と近所だったらしいが、俺が会う事はその後無かった。

 多分あっちの両親にも、俺を見れば琴美の事を思い出すと思ったのだと思う。


「私が一歳半で自立できた理由。転生者」

「嘘だろ……」

「エルフの成長は早い。一歳半で脳の成長が一定に達したみたいで全部思い出した。その後は今まで出来なかった事を色々してた。とりあえず人の暮らしがしたいから転移門の魔法を使える同族に送ってもらって、自分で覚えたり色々勉強した」


 王国の発展自体は、王国民の為ではなく自分の為だったようだ。

 それも次第に変わって、今では立派に統治者としての考えで動いているようだけど。


「あの自称神が知ってて智也も呼んだの。ある意味私のせい。ごめんなさい」

「いやそれはいいんだけど、本当に琴美なのか……」

「ほらね」


 そう言うとくるっと一回転し、戻って来たシェリールの体が縮んでシャルサイズになっていたが、そこにいたのは記憶の中にいる琴美だった。

 にこーっと。

 ヤバい。

 そう言われて思い起こすと仕草や風呂嫌いな所なんかが合致してしまう。

 元々病弱で風呂なんて数日に一回だったからだけど、シャルでいる時は言われてみれば記憶の中の琴美に近かった。


「これで結婚出来ないって言われたら、私どうしたらいいの?」

「……降参です……」


 多分琴美――シャルにとって唯一の希望だったのだ。

 転生して健康な体で、そして俺が来て。

 なんか最初からフレンドリーだったり妙に懐いてたり、そう言う事だったのか。


「苦節六年、やった」


 両手を胸の前でぐっと握るとぴょんぴょん飛び跳ねる。

 昔はそんな事も出来なかったのになぁ、なんて感慨深く思いもするのだが、まだ理解が追い付いていないと言うかちょっと待って欲しい誰か説明を。


「はぁ……、マジかー。転生者って話には聞いてたけどこんな身近にいたのか……」

「だから絶対結婚は譲れなかったの」

「……いやでもそんなので結婚していいのか?」

「私が嫌い?」

「いや嫌いじゃないけど、かと言ってそれだけで結婚出来るかと言うと――」

「しないの? 約束は?」

「……わかりました……」


 駄目だ。

 あの頃の琴美を知っていて、今もその想いを貫き通すシャルがいる。

 約束を胸に死んでいった琴美の事を思うと、そんなの断れるわけが無かった。


「そうだ、カムチャッカ半島の件、教えてくれたのトモヤだから」


 申し訳ありません申し話ありません申し訳ありません。

 確信を持って言える。

 絶対ワザとだ。






 式は盛大に執り行われた。

 場所はあの時お披露目をした王城のバルコニーで、下の広場には王都中の貴族や平民で溢れかえっている。

 アヤメさんも仕方なさそうな顔で見上げているが、これに関しては拉致ってきたので文句を言われても仕方ないと思う。

 他にはドワーフ王と王妃も国賓席にいたが、この王妃がシエルと姉妹かと言うほどに似ていて若く見えるのに、実年齢はベスター並らしい。

 そういえばドワーフ王がベスターの魔王化の頃を知ってる風だったので、実は結構な年齢のようだ。

 その年齢で女の子が産まれたものだから大層可愛がっていたそうだが、今回の件で隠れて泣いているらしいとの噂。

 そしてシェリールの親族席だが、ここにはアドリアン陛下のみでお義母さんは来なかったらしい。

 と言うか自分の娘の結婚なのにシェイプチェンジした姿だし、今後の話をする上でも後日別対応ということになっているようだ。

 実は偶に王都で見かけるシャル以外の女性エルフと言うのがお義母さんらしく、アルバート先生が言っていた『おっきいんだ』のエルフがお義母さんになった事で少々胸がときめいております。

 早速シャルに察知されて蹴られたけど。

 俺の右には純白のマーメイドタイプと言われるウェディングドレスを着たシェリール。

 そして左に同じく純白の、ミニ丈のウェディングドレスを着たシエル。

 シェリールはスカートが膝から広がるタイプを選んだらしく、スレンダーで大人びて見えて綺麗だしカッコいい。

 シエルは一転して子供っぽく見えてしまうのだが、むしろ小柄で元気が取り得なシエルだからこそ許されると言うか似合っている。

 そのまんまドレスをミニ丈にするとバランスが悪いとかで、シェリールがギリギリ許せるだけのボリュームとシエルが妥協できる程度の動きにくさをアンリさんと何度も話し合っていた。

 本人曰く『床を引きずる丈は邪魔』との事。

 正直な所貴族の女性陣には不評なドレスだろうと言われていたし、実際の反応も決して良くは無いのだけど、シェリールとある意味正反対とも言えるので対比的に映えて見えると思うのだ。

 今後真似る人は絶対出て来ると思う。

 勿論だが今回の式がエルフとドワーフの王女二人と同時に結婚するものだと言う事は周知の事実だった。

 貴族からも根強くバッシングがあったらしいが、それに関しては教皇を使って黙ってもらった。

 エルフを崇拝するのは勿論構わないが、かと言ってドワーフを敵とみなすのはまた別の話だと。

 本当なら先にシェリールと二人で式をやって、その後で規模を縮小してシエルとの式を、と言うのが貴族側の要望だったのだが、俺の心労は置いといても予算や人員の確保やらとんでもなく大騒ぎな事なので、意地でも一回で済ますと押し通した。

 ドワーフ王国との国交開始もある手前、シェリールとシエルを同列に扱わないとまずいだろうなと言うのもある。

 勿論理解ある貴族、特に公爵家はその辺りをわかって協力に回ってくれて、おかげ様で今日の式は滞りなく終わる予定なのだ。

 終わってしまう予定なのだ。


「本当にこんなんでいいのかな……」

「あら、別にいいじゃない」

「そうだよー。バランスもいいでしょ? 長身スレンダーエルフとロリ巨乳ドワーフで」

「私がぺったんだって言いたいのかしら」

「違うよー」

「頼むからこの場で喧嘩はしないでくれ。それと自分でロリ巨乳ドワーフとか言わないで」


 顔だけはにこやかに手を振りながらそんな事を言い合うのだ。

 にしてもロリとか言葉に出されるとビクッとするのだ。怖い怖い。

 はー。

 結婚しちゃうよ俺。


「トモヤ、凹んでるね」

「アレよ、こいつずっとチエとフウコの事好きだったから」

「あー」


 わかっててこの場で言うのも酷くないですかねぇ。


「そりゃ小さいころから一緒だったんだ。あんなのと一緒にいて嫌いになるわけが無いし好きになって当然だろ」

「それじゃあ、トモヤは私達の事が嫌い?」

「嫌いじゃなくて断り切れなかったから余計に凹むんだ……」


 一夫多妻で無ければ頑として断っていたとは思う。

 一夫多妻だから、今後何とかならないかなと言う淡い期待を抱いている。

 まぁ早々上手くいかない世界である事は重々承知しているのだけど。


「しかもあの二人見に来てないしね」

「俺泣いていい? いい? 泣くぞ?」

「新婚生活から大変そうだわね。シエル、覚悟しなさいよ」

「大丈夫だよー。私こう見えて空気読まずに突っ走るから」

「見たまんまじゃない」

「あれ?」

「……泣きたいなぁ」


 この二人のせいで泣く気分もどっか行っちゃうんだけど、これからどうなるんだろうなぁ、俺。


『ちょーっと待ったーっ!』

『私達を忘れて貰っちゃ困るからねっ!』


 いきなり拡声魔法で声が響いてきた。

 何事かと下を見渡すが、下の人達も何事かと辺りを見回している。

 千絵と楓子の声だった事は確かだ。

 まさか後ろから登場とか、と思って振り向いても誰もいない。

 一体何なんだとざわざわし始める会場に、下の観客が上を指さして何か騒ぎ出した。

 何事かと思ったらそれが俺の目の前に着地する。

 多分飛行魔法だ。

 その着地したのは二人で、二人とも純白のドレスに身を包んでいる。


『私達も智也と結婚するもんね!』

『ちゃんとシェリールちゃんに許可貰ってますからねー』


 くるっと振り向いたら千絵と楓子。

 してやったりと言う顔でにんまり笑うのだ。

 俺はなんかもう、正直嬉しくて嬉しくて涙ぐんでいる。


「お前ら本気かよ……」

「当たり前じゃない。だって元々、シェリールだと種族の関係で子供出来にくいから、私達も一緒に結婚しましょうって事で話がまとまっていたんだもの」

「驚いた? ねぇ智也君、驚いた?」

「お、おどろい……」


 それよりも、二人が俺をちゃんと好いていてくれた事にホッとしたし嬉しくて、ああもう駄目だ泣く。


「やった成功だよちーちゃん」

「成功しすぎて泣いてるじゃない。ちょっと智也、驚かせたのは悪かったってばー」

「大好きだー!」


 この場でなら許されるだろう。

 がばーっと二人まとめて抱きしめ、シェリールとシエルからも抱きしめられ、民衆からは盛大な拍手が巻き起こる。

 あー、もう軽く絶望してた部分はあったけど、俺は今日で死んでもいいかもしれない。


 この後、仕切り直してバルコニー上で指輪の受け渡しと誓いのキスを四回した。

 執り行った教皇は若返った顔で何とも満足そうに頷いていたが、この若返り、未だに気づかれていないんだそうだ。

 と言うのも一般的に教皇を近くで見る事があまりないようで、遠目で尚且つ老け顔の化粧もしているとかでしばらくはそうやって誤魔化すらしい。

 だが、そう遠くない将来、教皇を退いてただの貴族として生きるつもりだと言っていた。

 それらが終わるとバルコニーから城内に戻り、中央エントランスの階段を俺を中心に横一列で下りてゆく。

 千絵も楓子もプリンセスラインとか言うタイプのやたらゴージャスにスカートを盛ってるウェディングドレスで、『パニエおもーい』と二人して言いながら階段を降りる。

 勿論純白で、シェリールやシエルと比べるといかにもお姫さまみたいに見えるのだが、その分重たくてしんどいようだ。

 どうやら鎧なんかの場合は勇者特性で軽く感じる癖に、ウェディングドレスはその範疇で無いらしい。

 下には双方の家族や招待客や公爵家、外には公爵家の分家や伯爵家、その先にも階級ごとに左右に並び、王城を出て大通りには一般市民の皆さん。

 俺達は馬車に乗ってパレードをし、十字に走る大通りを行ったり来たりとして二時間くらいかけて再び王城に戻るとそこで終わりだ。

 こう色々な人に祝福されもすれば、やはり俺やシエルの存在は一部では疎まれているんだろうなと言うのは嫌でもわかってしまう。

 とりあえず王位とかいらないから平穏に幸せに暮らしたいなぁ。


「トモヤ」


 今日は執務も無く、関係者も引き上げて誰もいないはずの王城一階のエントランスで、聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声に反応したのは俺だけじゃなく、その場にいる全員。


「おめでとう」

「ありがとう。でも来れたんだな。気付かなかったよ」

「何、トモヤに気づかれなかったのだとしたら、ドワーフの技術が素晴らしいと言う事だ」


 そう言って、正装で立つベスターがポケットの中から拳よりは小さいクリスタルの塊を取り出した。

 それに超高密度の魔力が集まっていて、そのクリスタルの塊自体が半分ほど小型の転移門に埋まっている。

 小型で尚且つ常時展開できる魔力と集中力。

 誰か見たってあり得ない芸当だ。

 クリスタルが吸収した魔力は転移門の魔法の先、恐らくベスターの城に魔力を放出しているのだろう。

 フローラさんも魔力量が多くて隠蔽しきれないらしいから、恐らくどこかに隠し持っているのだと思う。

 正直、これさえあれば地脈の修復もいらなかったんだろうなぁと思える一品だが、ドワーフとの問題があったからこそ出来た物だし、そこは仕方ない。

 二人とも魔力が多すぎな上に結果として濃くなってしまうので、抑え込んだり魔法で偽装して隠蔽できるレベルではなくなってしまっている。

 王都にはエルフの結界と呼ばれる対魔人用の感知魔法が設置されているので、ある程度大きい魔力に反応してしまう。

 それをクリスタルは綺麗に吸収してくれるようだ。

 体から漏れ出る魔力は十秒間で見ても千絵のフレイムバーストより多いが、倒すならドワーフ王国の地下都市を吹き飛ばすつもりでやらないと駄目と言わしめたゴーレムと同じクリスタルだ。

 小型とは言え、常に魔力を受けているから強度は補強されて壊れないし、吸収量も何とかベスターの放出量を上回っているようだ。

 ベスターと同じく正装――目立たないように男爵家の奥さんくらい――で来たフローラさんは、花嫁四人を褒めたたえて夫婦とはどうすれば上手くいくみたいな話をしていた。


「さっきまでドワーフ王もいたのだが、どこに行ったかな」

「反ドワーフ派がいるから早々に帰ったと思うよ。後日向こうでシエルを連れて披露宴をやるつもりだし」

「そうか」

「今日は泊っていけるのか?」

「いや、こっそり娘を観察して帰るよ。また後日正式に会談の場を設けよう」


 ベスターの演説を計画しているので、それの悪だくみだ。


「そうだな、私からも円満な夫婦生活の為に一言」

「と言うと?」

「適度に尻に敷かれろ。これに尽きる」

「……適度じゃなくて大体敷かれる気がするんだよなぁ」

「では我々もそろそろ帰るとしよう。再度だが、おめでとうトモヤ。そしてトモヤの妻たち」


 そう言って俺たちにお辞儀をすると、フローラさんの使った転移門の魔法で帰って行った。

 流石に転移門を二つ同時には使えないようで一瞬魔力が漂ったが、それすらもクリスタルが回収して魔力の残滓すら残さない。


「さーって、宴よ宴!」

「お腹空いたよー」

「ちょっとフウコ、それは私のキャラだから取らないでよね」

「あのねシエル。ここにいる女子全員、お腹出ないようにご飯食べて無いんだから限界なの。ほら行くわよ」


 そう言ってエントランス中央の階段を上がっていく四人だが、宴って公爵家の家長が参加する実質食事会だから、ハメ外せないと思うんだけどなぁ。

 ただ内緒だが、使われる野菜はベスターの所から分けて貰った物なので、恐らく絶賛される事だろう。





 それでも俺たちは学生なので寮生活である。

 そしてシャルがシャルとして隣で寝ているのである。

 王城へ引っ越す計画もあるのだが、学生である以上は一応寮生活をしておかねばと言う事で、結婚して二日後には寮に戻ってくるのだから学生たちは大騒ぎだった。

 今回の騒動は結果的に俺の手柄みたいになったので、一応次期国王としての箔付けにはなったようだが、正直国王とかなりたくもない。

 ただ唯一ホッとしたのは、千絵も楓子も俺を好いていてくれた事と、見捨てられてなかった事だ。

 でも長年の付かず離れずな距離感の幼馴染と言うのは厄介で、意識してやらないと触れ合ったりができないのだ。なんせ恥ずかしい。

 例えば手を繋ぐとか、そう言う次元の物も。

 何となくいつもの距離感で、それを特に縮めようともせず普通に生活する。

 新婚初夜が不味かった。

 俺達は五人共、疲れで爆睡していたのだ。

 いや起きていたからと言って何があったと言うわけでも無いと思うし、シェリールもひっそりとシャルの姿で寮に帰って寝ていたらしい。これは普通に限界だったのだろう。

 ただまぁ、結果今まで通りっぽいけど俺の中では凄く安心したし、こうなるのであれば結婚してよかったなと素直に思えたのだ。


「うぅ~……トモヤぁー……きすー……」


 夢の中で俺にキスしているであろうシャル。

 正直、近い将来バレると思うんだ。

 その時俺にどんなバッシングが来るのか、今から怖いがとりあえずシャルの頭を撫でるのである。



これにて二章は終わりです。

この後閑話を一つ挟んで三章に入ると思います。多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ