一番怒らせちゃいけない人
「正直、もっとフローラさんが暴れているかと思いました」
「昨日は私もちょっと戦ったんですが、私がやるとやり過ぎてしまうので……。ちょっと気晴らし程度に暴れるだけにしておきました」
さっきの戦闘を見るに、ドワーフ側の被害は大した事無さそうだった。
それなのに昨日フローラさんは、せいぜいフルヒール一回分の怪我だと言っていた。
フルヒールは入院する程度の大怪我なので、つまりそう言う事だろう。
「後は首謀者を締め上げさえすれば、とりあえずの溜飲は下がりますので」
「……いいかシエル。世の中には怒らせちゃいけない人っているんだ」
「わ、わかってるよぅ……。別に私のせいじゃないのにとか言うつもりは無いし、ドワーフの誰かの責任なら私も精一杯謝るから……」
それはそれは何とも献身的で。
通路は狭く長い。
行軍も黒い巨人の匍匐前進のせいで牛歩と言っていい程に遅く、数百メートルを三十分くらいかけて進むと次のフロアに出た。
微妙に狭くて通れない部分もずりずりと削りながらの力技だから、どうしても遅くなるらしい。
これで変に切り崩しながら行ったら崩落するかもしれないし、かと言ってあの巨人を外すには存在が魔人軍にとって無視できないほど大きい。
最早ゆっくり過ぎてどれくらいの距離を進んだかわからなくなってきてしまうが、今度のフロアはさっきよりも広く、ドワーフのロイヤルガード達もさっき以上の軍勢で展開していた。
ほぼドーム状の作りで次へ進む通路が右にあり、その前に部隊を展開させていた。
正面に前衛部隊が縦五列くらいに並び、その後ろに後衛部隊と何やら奥に大きいのがいる。
「多分ほぼ全員集まってると思う……。あ、奥にいるのがドワーフ王だよ」
シエルの視線の先には、金色の鎧に身を包んでこれまた金色の戦斧を持った一回り大きいドワーフがいた。
あれが王と言う事は、ここが最終防衛ラインであの先には地脈があり、王すらも出て意地でも止めてやろうと言う事だろう。
とは言えドワーフの力で魔人を止められるとも思えないし、今の所さっきのゴーレムみたいな秘密兵器も見えない。
突破されれば魔人にドワーフが殺されても文句が言えないだけの証拠が出て来るだろう。
となれば、この場は勇者が救援に来るかどうかに掛かっているのではないだろうか。
少なくとも俺がドワーフの立場なら、あと少しで来ると思いながら戦う他無い。
「トモヤさんとシエルさん、あなた方が見つかると少々面倒なので、通路まで下がって隠れていてください」
「いいですけどどうするんですか?」
「王が出てきたのであれば交渉の可能性もありますから」
まぁそれなら、勇者の援軍云々の可能性を持ったシエルを表に出すのはまずいか。
今の所最後尾で見てたから見つかってないはずだし。
フローラさんに言われた通り、俺たちは少し戻って通路の影から様子を伺う事にした。
するとフローラさんは優雅に堂々と歩いて行き、まるで海が割れるかのように魔人達が避けて行く。
そして先頭に立つと、柔らかい笑みを浮かべながら恭しく頭を下げるのだ。
そのフローラさんからは凄い量の魔力が発せられているが、どうやら極度の緊張下か敵だと思ってる相手は魅了できないようだ。
「ドワーフの王とお見受けしますが、対話での解決の可能性はありますか?」
「――馬鹿な事を。攻め込んできたのはそなた等では無いか。しかも意味の分からぬ事を言いおって」
「意味が分からない、ですか。おかしいですね、あなた方の中にも魔力探知が得意な方はいるでしょうに、この異常性を気付かないわけはありませんよね?」
「さぁな」
「地脈の異常、そして魔人の王の住まう城にある不可解な魔法陣。これらはセットとして考えなければ不自然です。さて、そうなると地脈の異常を維持するあなた方が魔法陣にも関わっていると見て間違いは無いと思うのですが、何か申し開きはございますか?」
「知らぬ事だ」
このドワーフの王はよほど胆力があるのか、それとも魔人側と話す可能性を考えて来たのか、とにかく堂々と惚ける気らしい。
もしくは最初から会話をする気はあるが、それはただ単に時間稼ぎの為だろう。
だが一つ悪手だったかなと思う事は、地脈の異常に関しては最終的に認めざるを得ないとしても、ベスターの城にある魔法陣に関しては完全に知らないと言い切っておかなければ不味かったと思う。
そう、それこそ『地脈の異常は知っていたがドワーフにとって都合が良かった、しかしそちらにある魔法陣など知らない』と言うくらいで無いと。
もし本当に魔法陣までドワーフの仕業だった場合、フローラさんが怒って大虐殺になる可能性も――いやそもそもドワーフのせいだと既に思っているから今更か。
でも仮にシエルが連れて来る勇者を待っているなら、とにかく時間は引き延ばさなければならない。
既に魔人側にドワーフを殺す気が無い事はわかっているだろう。
少なくとも確固たる証拠が見つかるまでは殺されないと。
撤退戦を繰り返して時間稼ぎをしまくって、それでもシエルの到着が遅れている、だがあと少しすれば来るはずだ。
ドワーフの王が堂々とすっとぼけるのも、そのとぼけ方が雑なのもシエルが連れてくると信じていて、分の悪い賭けでは無いと思っているからかもしれない。
「そうですか。でしたらあなた方が待つシエルと言うお嬢さんですか、彼女を頭と脊椎にひん剥くまで拷問する事に致しましょう。きっと彼女でしたら何かご存知でしょうし。ええ、大丈夫ですよ。ちゃんと死なないようにヒールをかけ続けますので。とても痛いでしょうけど、ドワーフは頑丈だと言うので大丈夫ですよね」
すげー怖い事を言い出した。
それを聞いて顔色を変えたのは、王だけではなくその場にいたロイヤルガード全員だった。
「何を馬鹿な事を!」
「シエル様にそのような事をしたら貴様を八つ裂きにしてくれるわ!」
その反応こそ、シエルが脅しに使えると言う証拠になってしまったのだが、彼らはあまりの出来事にそこまで頭が回っていなそうだ。
それも、魔人と言う種はそれだけ恐れられているのだから仕方ないのかもしれない。
人間側からすれば、魔人と言うのはある種汚点と考えられている部分があるので、単純に存在が禁忌とされているようだった。
魔力による変質で魔人になってしまったとはいえ、それを人間と同種として扱う事には山ほどリスクがあるし、魔人化すると精神までも変質して狂暴だったり残虐になってしまうと言う。
そんなモノを認めるわけにも行かない、となれば逆に敵として追い立てるわけで、そうなると自然と『奴らは凶悪な化け物だ』と言う噂が蔓延し、今の魔人と言うイメージに繋がるらしい。
実際凶悪なのはいるだろうけど、どうやらベスターやフローラさんの話ではそうでもないらしい。
恐らく最初は人間が作ったイメージなのだろうが、事実驚異的な力を持つ魔人、それも種によっては最早人型を維持していなかったり凶悪な風貌になってしまっている事もあり、そのイメージが更に加速し他の種に広まるのも当然と言えた。
ベスターの話では魔物からも恐れられているような事を言っていたし。
そんな魔人に、『シエルの頭と脊椎だけになるまで拷問する』と言われたら冗談だなんて思いもしないだろうし、なりふり構わず取り乱しても不思議ではないと思う。
正直俺としては、王が顔色を変えるだけで踏みとどまった事が凄いと思った。
「あなた方が待つ勇者は来ませんよ? あちらの王都でお仲間の転移門使いが待っているようですが、既に彼女は私達の手に落ちているのですから」
そこら辺の話は情報共有の観点で伝えてはあったが、まさかこんな脅しに使うとも思わない。
「……何故我が方の使者の事が分かった」
「私達にも情報網があります。あのような時期に憎むエルフの治める国へドワーフが家出だなんて不自然すぎます。しかも勇者に近づくのですからとても明白では無いですか」
「シエルは無事なのか」
「ええ、今のところは。ですが活きのいいインキュバスに檻を監視させているので、今頃味見くらいはされているかもしれません。あの子ったら凄いんですよ? 相手にした子が泣いて懇願する程に夢中になってし――」
「シエルは何も知らぬのだ! 今すぐ開放しろ!」
「それにしてもシエルさんはいい子ですわね。私達魔人を前にしても、それも大魔王様を前にしても少し怯えるくらいでしたもの。可愛らしいし胆力もある。是非魔人化して私の配下に加えたいと思う程でした」
「貴様……! 魔人化などふざけた事を……!」
「まぁその前にゆっくりお話を聞く事になりますけど。あなた方が話してくれない以上、手っ取り早く拷問して聞き出せそうなシエルさんに頼るしか無いではないですか。嗚呼、楽しみですわ。あのような可愛らしい子の恥辱と屈辱に染まった顔を観察できるなんて……」
殺意が熱気となってフロアを包んでいる。
怒りで各々の持つ魔力が爆発しそうになっていた。
フローラさんの脅しも大概だと思うが、良くもまぁあれだけ言える物である。
俺の後ろにいるシエルが『わ、私どうされちゃうの? ねぇ、どうされちゃうの?』と本気で怯えているくらいだ。
インキュバスはフローラさんとある種同族とも言える、サキュバスの男版と言っていい魔人だ。
実は行軍にも参加していたりするのだが、サキュバスもインキュバスもまともに人型を維持しているせいか、実は理性もちゃんとあって魔人の『力関係』による縦社会に順応して生活している。
よって、魔人の中ではベスターに次いで力のあるフローラさんの命令には絶対なようだ。
そんな姿を見ているせいで、仮にシエルが檻に閉じ込められていたとしても、命令通り見てるんだろうなぁと思うのである。
一般的なインキュバスの印象は女性を性的に襲う化け物らしいが、やはりサキュバスと共に愛を司るとかで襲うとかは無いらしい。
流石に王も歯噛みして怒りと焦りを隠そうともしなくなったが、それでも王としてフローラさんと対峙していた。
「くっ……、シエルに何かあってみろ、死して尚我等の怒りは貴様を呪い続けるだろう……!」
もはや死んでもいいから一矢報いるつもりらしい。
「本当の事を話して頂ければ、今すぐにでも連れてきて差し上げますわよ。ドワーフは同族思いだと言いますし、私も交渉目当てで生かしているのです。交渉出来ないのであればこちらで自由にさせていただきますわ」
「ぐぬ……!」
王の側近らしきドワーフが何やら耳打ちをしている。
それを受けて王は脱力した。
これ以上は無駄と判断したのだろうか。
「……こうなっては我等は絶対に負けられぬ。いいか皆の者。シエルが捕まった以上、既に魔人によって殺されたと思うべきだ。全軍健闘を祈る」
そして出てきた答えが斜め上過ぎた。
これには流石のフローラさんも『やり過ぎたかしら』と頬に手を当てて考えている。
ドワーフの考えとしては、魔人は残忍で捕虜などすぐに殺して当然だと思っているのだと思う。もし生きていても、無事ではないと。
一般的な魔人へのイメージが酷すぎるので、むしろ捕虜として丁重に扱われていると思う方が無理なのかもしれない。
その上でインキュバスに見張らせてるだのと言ったら、最早シエルはおもちゃにされて殺されたであろうと思われても不思議でも無い。良くて繁殖用に生かされてるか。
何となく千絵と楓子が捕まった姿を想像して血の気が引いたが、あの二人の力なら大丈夫だろう。シャルの場合はあっさり転移門の魔法で逃げてそうだ。
「そのシエルさんが生きていても無茶をするのですか?」
「ふん、既に殺しておいて何を言うか。仮に生きていても、死なせてやった方が救いと言う状況であろう。我らが貴様ら魔人の言う事など信じるわけが無かろうが!」
「その魔人を長年利用して来たのはあなた方ではないですか」
「頭の悪い魔人をどう使おうと知った事か! ああそうだとも、大魔王の魔力さえあれば地脈の一本くらい維持なんて容易かろう、それを利用して何が悪いと言うのか!」
「お認めになるのですね。それでは残念ですが――」
流石にイラッとしたらしく、笑みを消したフローラさんはそう言うと転移門の魔法を使い、現れた黒い歪みに手を突っ込んだ。
そして出てきたのは何となくシエルっぽいモノである。
生きているのか死んでいるのかわからないくらいボロボロの、多分人形だと思うのだが、左手でそれの頭を掴んで引きずり出すと右手で胸を突き刺し、尚且つその場で炎系の魔法を使ったらしく激しく燃やした。
どさりと音がしてフローラさんの足元で燃えている。
ドワーフ達が絶句し、悲痛な悲鳴があちこちから聞こえた。
「う、うおぉぉぉぉぉぉっ!」
「貴様ぁぁぁぁっ!」
ロイヤルガードが涙をボロボロ流しながら膝をついてそれを凝視し、王はただ茫然とそれを見つめる。
炎は十数秒で全てを燃やし尽くしてしまった。
「驚きました? 生きていましたよ?」
二コリと。
こっちはシエル横にいるので無事だとわかっているが、捕らわれていると思っているドワーフ側からすれば、転移門の中から出て来たのはボロボロのシエルで、それが即座に貫かれ燃やされたように見える事だろう。
業火に焼かれているせいで人形っぽいそれは多少の動きを見せるし、激しい熱気で空間が歪んで見えるので微かに藻掻いているようにも見えた。
「あなた方のせいで大魔王様は三百年間城から身動きが取れず、先代も数百年に渡って城に閉じ込められておりました。これがあなた方の業の結果です」
「……ろせ。皆の者、その悪魔を殺すのだ。シエルの仇を――っ!」
フローラさんはしてやったりと言う顔でこちらを振り向いた。
いやその、あの、マジ悪魔やねんこの人。
ベスターが好き故にドワーフを殺したいほど憎んでいたのは承知していたがそこまでするのか。いや女性の恨みは怖いとは言うけど。
王様なんて歯を噛み締めて血の涙を流しているし、その場にいる全員が命を投げうつ覚悟でフローラさんを怒りと殺意の眼で凝視している。
俺は蚊帳の外であり対岸の火事をボケーっと眺めているだけだが、そりゃこれだけの悪逆非道をフローラさんみたいな超が付くド美人がやったら魂抜かれた気分でボケーっともするわ。
「と、心底後悔したようですので茶番は終えましょうか。出てきていいですよ」
そう言うけど、この場に出ていくとか普通出来なくないか。
チラッとシエルを見ると、フローラさんの美貌の裏に悪魔を見ているかのような恐怖の表情で、しかし自分が出て行かねば収拾が付かない事は理解しているようで立ち上がりはする。
多分、フローラさんとしてはシエルも含めて恨みを晴らしたかったのだろう。
シエルにしたって事情は知らないとは言え、勇者に助けを求めてあわよくば魔人を倒そうとしていたのだ。
まぁ何にしても一人では動けそうにないので、俺も立ち上がってシエルの手を引いて前に出た。
「その、ドワーフ王、初めまして。ああすみませんマスク被ったまんまだ」
こほーっ、と聞こえる自分の息で気付いてガスマスクを引っぺがした。
肺に入る空気が痛い感じがする。
「王国で勇者の仲間をやってるトモヤです。一応本人で生きていますんで、落ち着いてもらえると助かるのですが……」
いきなり出てきた人間と、死んだと思ったシエルの登場に全員して固まってしまっている。
「ごめんなさいねシエルさん。実はあなたが来た時点で、こう言った脅しも策の一つに考えていたんです。だって殺すなって言われてしまった以上、何とかして報復したいじゃないですか」
「その、なんというかやり過ぎですよフローラさん……」
いやもう本当に。
まだシエルが立ち直れないくらいに。
「ほ、本当にシエルなのか……?」
ドワーフの王は自分の立ち位置なんてかなぐり捨て、ついでに戦斧も捨てて駆け寄ってきた。
シエルは『えへへ……』と苦笑いを浮かべているが、この状況でどうすればいいのかわかる奴なんて多分いないと思う。
「おお……シエルだ、生きているぞー!」
うぉー! とロイヤルガードの面々も雄たけびを上げた。
フローラさんは今度こそ溜飲が下がったようで終始ニコニコしている。
「大丈夫だったか? 何か酷いことはされていないのか? 怪我は?」
「だ、大丈夫だから。昨日は大魔王様のお城で一晩普通に部屋を借りて寝てたし、トモヤもいたから……」
「ん、彼は何なんだ」
「さっき言ってたでしょ? 勇者の仲間のトモヤ。次期王国国王って言われてる」
「ああ……、彼がそうなのか……。しかし一体これはどうなっているんだ……」
まぁこれだけ色々な事が起きれば混乱もすると思う。
「とりあえず落ち着いて話しましょう。えっと、フローラさんは部隊を待機させて会話に参加してもらって、そちらのロイヤルガードの方々も不安でしょうから王様の護衛に何人か残して下がって頂いて」
「う、うむ……」
こうしてシエルが魔人側から出て来たら、戦闘がどうのと言う状況では無くなった事は理解してくれているようで、俺の提案を受けて王様は各所に指示を出し始めた。
もしかしたら勇者の仲間である俺が来た事も要因の一つになってくれたかもしれない。
これでフローラさんの脅しが無くシエルが出て行っても、多分スムーズに事は運ばなかったと思う。
ドワーフ側としても地脈や魔法陣の事は意地でもシラを切りたかっただろうし。
可能性としてはシエルによる王への説得だが、シエルがガーディアンであってもただのドワーフなら知らんの一言で片付けられてしまうだろう。
この場で話すのもと言う事で、少し歩いた所に座って話せる場所があると言うので付いていく事に。
どうやら地脈管理の部署の、現地の会議室みたいな場所らしい。
「さて」
フローラさんは粗方満足されたようで、俺が進行するのなら口出しはしないつもりらしい。
粗方と言うのは、最後に魔人を馬鹿にされた事だけは怒りが残ってるようだ。
「まず最初に騙し討ちみたいな事になって申し訳ありませんでした。正直ここまでやるとは思っていませんでした」
「……一体何が何やら……」
まぁ戦って当然みたいな雰囲気から、フローラさんの悪魔の演技でそれどころじゃ無くしてしまったわけだし、あのままスムーズに会話の席に就けただけ儲けモノである。
下手したら更に怒らせてシエル争奪戦が始まってた可能性も有るし。
拗れたら面倒そうだなと思い、ドワーフの王がシエルに駆け寄った時にフローラさんとアイコンタクトしてしまったくらいだ。
目と目で通じ合っちゃうなんて実は相性いいんじゃ、とか一瞬思ってしまって、ごめんベスターと心の中で謝罪するのである。
だって美人過ぎて、魔力云々関係なく魅了されてもおかしく無いんだよなぁ。
「えっと、シエルから勇者の派遣の相談を受けたのですが、実は地脈の異常についてはこちらの魔人の方々がここ数ヶ月で調べていまして、ここで事情を知らない勇者が変に介入すると死人が出そうなので派遣は却下、魔人の方々にもドワーフを殺さないようにとお願いをしていたんです。ちょっと色々あって、勇者の二人は知らないのですが自分にはそう言うツテがありまして」
「私も昨日の晩聞いたばっかりなんだよー」
「で、シエルと魔人を引き合わせ、魔人がなんで侵攻しているかの説明をして地脈の調査の協力を仰ぎ、侵攻に乗じてやって来たと言うわけです。ちなみに先ほどのフローラさんの芝居は完全に彼女の一存で、それだけ怒っていたと言う事なので、そこはご理解をお願いします。えーっと、自分は関与してないので恨まないでください」
アレに関与してたとなったら、俺は多分一生涯ドワーフの方々に恨まれてしまう。
「……つまり何か、君は地脈の異常の調査と言う点で魔人と繋がりがあり、何なら協力していたと言う事だな」
「まぁざっくり言うとそんな感じです」
いいように解釈してくれたようだ。
そりゃ何か理由が無きゃ人間と魔人が手を結ぶなんて考えられないだろう。
「そこにシエルが相談を持ち掛けたのだな」
「そうですが、先ほどフローラさんが言ったように正直穴だらけで、多分そのつもりで王国に来たんだろうなと言うのは侵攻の噂を聞いていたので何となく予想していました」
「では最初から今回の作戦は失敗していたのだな……」
多分その作戦と言うのは、勇者をドワーフ王国側に付ける所までがセットだろう。
その点でシャルと険悪になって第二の問題が発生していた可能性は非常に高い。
「それで今回の核心なのですが、やはり地脈には細工をしてあって、魔法陣もドワーフ側が設置したものと言う事で間違いないのですか?」
「……ああ、その通りだ。元々今の大魔王が住んでいる城は、何千年か前にドワーフの王族が住んでいた城だったのだ。その森に魔人が住み着き始め、次第にドワーフが脅かされ始め、元々都市を築いていたこの地下に引っ越すことにしたのだ。まぁ王族の城と言っても対外的な物であって、人間族を招くにあたって作っただけで生活の殆どは地下だったのだが――」
対外的で人間族を招く為だったからこそ、あんな城になったのか。
普通にドワーフが暮らす城として作ったら、多分全てのサイズが半分でいい。
この世界全てに言える事らしいが、首都や重要拠点は地脈の上に建てるらしい。
それは魔法陣等で永続的に防御系の魔法をかけ続けたりと言う事が容易になるからだが、ドワーフも対外的に作った物であれ拠点防衛や種族的な問題もあり、ドワーフの地下都市の周囲で最も太い地脈が一番地表付近に来てる場所に城を建てたらしい。
元々拠点防衛も考えていたのに魔人に城を明け渡す事になったと言うのは、それだけ魔人が強かったと言う事だろう。
当時のドワーフ達もかなり悔しかったに違いない。
「その時、どうせ追い出されるのなら仕掛けを作ってやろうと思った奴がいたのだ。当時魔法の知識にずば抜けたのがいたらしく、地脈の力を使って魔人に魔力を注入し魔王クラスまで強化し、そこで地脈を切り離して魔王の発する魔力で切り離した先の地脈の維持をしてもらおうと。勿論話はそう簡単ではなく、様々な魔法陣を随所に描いて相乗効果を狙ったらしいのだが、これが効果覿面だったらしい。元々強い魔人が城を根城にする事は予想していたようで、結果的に魔王クラスまでの強化ではなく魔王化させることに成功したようだ」
「それって魔力の注入だけで魔王化したって事ですか?」
「いや、何やら魔法陣に色々な効果があるらしく、そう言う変質を促す物があったらしいのだ」
「それで今の大魔王のシステムが出来上がったんですか?」
「ああ、そうだと聞いている。魔王を倒すとその場にいる力のある者に魔力が集まり魔王にしてしまう。そして地脈の維持をさせる。魔人自体が魔力によって変質したモノだからこそ出来た事だな。昔の我々からすれば魔人への意趣返しみたいな物だったのだが……」
「そんなピンポイントに魔王化なんて出来ると思わないから、どっかの神様でも介入してるのかと思いましたけど」
「無いとも言えないな。我等ドワーフの崇める神から神託を受ける事が出来た者は過去に存在したらしい。その魔法陣を完成させた術者がそうだった可能性はある」
どうやらジャポニーな神では無いらしいし、本当に介入してるかもわからない。
「そうか、じゃあ今の大魔王って元々勇者だったから、前の魔王よりもポテンシャルが高い分余計に強化されたって事か……」
「恐らくそうだろうと言う結論にこちらでもなっている。その辺りも当時予想していたようで、倒せば倒す程強い魔王が生まれ、より地脈の維持が楽になるから問題無いだろうと言う事のようだった。しかし人間の勇者が魔人の王を倒せるとも思っていなかったので、勇者が魔王になったらしいと言われた時は流石になんて事だと嘆いたものだ……」
「その切り離した魔力で何をしていたんですか?」
「我等ドワーフにとって地脈の魔力は無くてはならないものだ。それが多ければ多いだけ種の力も強くなり質のいい武具が作れる。特性に恵まれた者も出やすい」
「シエルみたいに?」
「シエルはドワーフにとっても特別だ。ガーディアンなんて五百年ぶりくらいだろう」
それでも五百年前に出たと言う事だから、人間族よりは確率が高いと思う。
「それで、地脈は戻せるんですか?」
「……可能ではある。だがとても時間が掛かる。すぐとなると、高レベルのアークプリーストのヒールが必要だろう」
「それは心当たりあるんで後日。で、これらの問題に対する謝罪と賠償と言いますか、流石に魔人側に何も無いとまずいと思うのですが」
「ドワーフ製の武具を無償提供しよう。我々にはそれくらいしか出せる物が無い」
「と言っていますが」
フローラさんを見ると、別に興味無さそうだ。
「私達魔人は姿も千差万別、武器を使うのもいれば使わないのもいますし、特に必要にも感じません」
「ではどうすればよろしいか」
「そうですねぇ、シエルさんをおもちゃにしてもよろしければ――、冗談ですよトモヤさん。流石にそこまでは致しません」
「いや冗談なのはわかっているんですけど、さっきのが迫真の演技だったのでつい」
フローラさんが慌てて否定するくらい、俺は酷い顔をしていたらしい。
しかしあれも、迫真の演技であると同時に実際やってしまいたい狂気でもあったと思うのだが。
頭の悪い魔人とか言われてイラっとしたのは見えていたので、その辺りの仕返しもあると思う。
何にしてもしばらくはドワーフ弄りが凄い事になりそうだ。
「そうですね、でしたら大魔王様に直々に謁見して頂き、誠心誠意謝って頂きましょう。そこで大魔王様が何かお望みになられれば、それを叶えて頂くと言う事で」
「わかった。――ドワーフ王国を隷属させたりと言うのはありうるのか?」
「そう言ったことに興味が無いお方ですので」
あからさまに王様がホッとしていた。
まぁ一国の王様なのだから、魔人に支配されましたなんてなったらドワーフ王国は一巻の終わりだ。
なんせ人間族との取引なんて無くなる。
「んで粗方解決したわけだけど、シエル――姫は、今後どうする気?」
「あー……わかる?」
物凄くバツの悪そうな顔でシエルは言うのだ。
「そもそも最初に攻め込んだ時点で魔人だって即座に思われなかったって事は、魔人が攻め込むって情報が秘匿されていて一般に知られていなかったって事だ。それを早いうちに知っていて、尚且つ強い力を持っているドワーフとなると血統がいいはずだし、シエルは普通の女の子をやっていたつもりだろうけど端々に上品さがあったからな。そこにロイヤルガードの方々がシエル様とか言っちゃうし、王様もシエルの事可愛がってるし。元々貴族か下手したら王族の可能性も考えてたけどね」
「あちゃー……」
「シエルが介入して場を収める方法も考えはしたんだけど、さっき言ってたみたいにシエルが先に様子見に行ったりしたら、王の護衛辺りにつけられて帰してもらえなくなる可能性も考えてた」
「なんかトモヤには負けっぱなしだよー。お父さん、これでこの人の特性、遊び人と主夫って言うんだからおかしいでしょ」
「……公の場でお父さんは止めなさい。いやしかし、それが本当だとしたら遊び人が魔人とツテを持っていて、我等ドワーフ王国を滅ぼしかけたと言う事に……」
「いや俺は滅ぼそうとしてませんから。精一杯待ったを掛けた方ですから」
「ね、お父さん」
「だから公の場では」
「私、トモヤに嫁ぐから」
「は? あのシエルさん……? 今後どうするかってそう言う話では」
ドウイウコトダ。
シエルを見るとはにかんだ笑顔で目一杯照れていた。
それを見て王が眉間にしわを寄せて頷く。
「え、ちょ」
「……仕方あるまい。我等ドワーフ、負けを認めた者ならばそれも良かろう」
「あのね、ドワーフの王族の婚姻って、父親に何かしらで勝たないと認められないの。普通は戦いを挑んで勝つか負けるかなんだけど、ほんっとお父さんが強い事だけは感謝してるんだよー」
これは過去何度かあったって事だな。
「いや俺は望んでなんか」
「私が望んだ場合も有りなんだー。やったねトモヤ、ドワーフ王国王女のシエル・グランドが婚約者だよー」
ちなみにグランドは大昔からドワーフ王国で王に就いてきた王家の家名だそうな。
正真正銘、脈々と続いてきた由緒正しいお姫さまだそうな。
はー?
「だって私の事好きって言ってくれたもんね!」
「いやそれは言ったけど」
友人としてのつもりだったんだけど。
「ほらー、やったね!」
「いやちょ、まっ」
「なんだねトモヤ君、うちの娘では不服かね。これでもどこに出してもおかしくない淑女にすべく、様々な教育を施してきたのだが」
「えっとその、お嬢さんはとてもよく出来たいい子ですけど、その」
「そうだろう」
え、ナニコレ父親直々に不満かねって、本気で認めたって事?
ちょっと待って欲しい誰か助けを――。
「さ、トモヤさん。そろそろ毒が体に回り始めていますので帰りましょう。細かい打ち合わせはまた明日にでもお伺いいたします」
「了解した。明日はちゃんとした場を設けよう」
「さ、行きますよ」
「えーっと、どう言う事だー?」
と言いながら転移門の魔法に吸い込まれて行くのだ。
毒云々と言うのは何となく気持ち悪いなー程度には自覚があったのだが、ガスマスクを外したことによってじわじわと侵されていたらしい。
一応フローラさんに解毒はしてもらった物の、体調が戻り切らなかったのをいい事にもう一晩ベスターと語らう時間が出来た。
なお、シエルはいっつも隣でニコニコしていた。




