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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
46/194

ドワーフ王国



 着の身着のまま寝てたので、起きてから特に着替えるなんて事もせずだったのだが、目が覚めて少しすると扉がノックされた。


「はい」

「おはようございます、トモヤさん。お食事の支度が出来ておりますが――」


 まだシエルは夢の中である。


「もう少し後の方がよろしいですか?」

「いえ大丈夫です。起こせば起きるんで」


 ほら起きろ、と揺すると一発で起きてくれるから、シャルにも是非とも見習ってもらいたい。


「あぅー……おはようございます……」

「メシだってよ」

「たーべーるー……」


 そして食欲魔人のシエルさんだ。

 流石に寝たのが遅かったので眠いようだが、ふらふらしながらも立ち上がる。


「ではこちらです」


 案内してくれるフローラさんの後に続くと、ふらふらとしたシエルが俺の腰にぶら下がって来た。

 ショートヘアが寝癖で大暴れしてる。

 何となくシャルの時の癖で頭を撫でていて、いかんなこれはと手を離した。

 サイズ感が一緒なのが悪い。

 朝食が用意されていたのは、最初に来た時に通された大部屋だった。

 既にベスターは座っており、その斜め前に二人分用意されている。


「おはよう」

「ああ、おはよう。あの時間からだったがちゃんと寝られたかな」

「気が付けばぐっすりと」


 俺は以前と同じように、恐らく上座にあたるであろうベスターの席のすぐ脇に座り、その隣にシエルを座らせた。


「ふむ、やはり一人よりかは二人の方が気が落ち着いたのかな」

「それに関してはノーコメントで」


 肯定しても問題だし否定してもシエルに怒られそうだ。

 そのシエル、一晩経ってしっかり落ち着いてはいる物の、朝から極大の魔力量を誇るベスターを見てビクビクしている。

 まぁ、それに関してはある程度は仕方ないのかなとも思うのだ。

 言動はまともだが魔力は化け物だし、そもそも魔人だし。


「さて、今日の予定だが、夜まではドワーフ王国での調査と言う事でいいのだな」

「そのつもりだけど」

「その後はどうするつもりだ」

「解決するんなら帰るし、一日で終わらないなら目途が立つまで様子見かなぁ。多分魔人とドワーフの間に立てる人がいた方がいいと思うし」

「それをトモヤが担うつもりか」

「まぁ、とりあえずは」


 それに関してはシエルが実は適任なのではと思うのだが。 

 これは本来魔人とドワーフの問題であって、そこに人間族である俺が介入する必要は無いのだ。

 まぁ第三者視点で冷静に見れるとは思うけど。

 朝食はベーグルとちょっとしたサラダとフルーツと言った、元の世界では割とオシャレでこの世界では極々普通の物だったが、その質はやはり王国の物よりも断然上だ。

 王国でも同じ葉っぱが出てきたなーと口にすれば、とても柔らかく青臭さもえぐみも全く無くてドレッシング無しで行けてしまう。

 これをこの土地で作れるのだから、もし本気で俺が王位に就くなんて間違った未来が起こり得てしまったら、何とか流通経路を確保したいものだ。

 多分土地が肥沃とかは勿論、日当たりとかそう言った部分の管理が違うのだと思う。

 野菜も植物である以上、ある程度その環境に適応する。

 王国で流通している野菜がここよりも硬いのも、環境的にそうなる要素があるのだと思う。

 元の世界の野菜だって、実はハウス栽培の方が柔らかく食べやすいとかあったし。


「トモヤさん、旦那様はトモヤさんが一日くらい暇を作ってくれないかなと思っているのですよ」

「あー、うん、今日一日で終わるようなら多分……」

「やめておけトモヤ。それを言うと無理を押してでも今日中に片づけようとするのがいるぞ、そこに」

「あらいやですわ、私はそのような事は。おほほほほ」


 目がガチなんだよなぁ。

 大暴れする理由を探してるのではとすら思う。


「それはそうと、王都でのサクラはどうだ」

「何日か置きに遊びに来るよ。うちの猫が甚くお気に入りで、本当ならこっちでも飼いたいみたいだった」

「この土地で猫は難しかろうな……。仮に生きながらえる個体が居たとしても、それは最早猫ではなく魔獣であろう」

「やっぱり魔力の関係かー」

「ああ、その通りだ。猫だった魔獣はそこら中にいるだろうが、最早一目で猫とわかる個体はいないだろうな」

「あんまり見たくないなぁ」

「恐らくトモヤになら懐くと思うが」

「あー、うん、これまでの事を考えると懐きそうだけど、ちょっと遊ぶだけで体中ボロボロになりそうだからいいや……」


 ベスターは、恐らく魔力の親和性云々で魔獣にも懐かれるだろうと言っているのだろうけど、もう既にトラ子で酷い目を見た後なのだ。

 またあの地獄を味わうつもりは無い。


「そうだ、俺の強化を何とか出来ないかと思ってるんだけど、何か無事で済みそうな案は無いかな」

「その無事で済むと言う中に魔人化が含まれてないのであれば、少し難しいと言うかギャンブルだろうな」


 やっぱりそう言う話になるのか。

 結局は魔力が肉体を強化するので、特性を持っていたとしても魔力が無ければ発動はせずだ。


「恐らくだが、トモヤほど極端に魔力が少ない人間がこの城に居ても変質しないのであれば、キャパ自体は大きいのだと思う」

「そう言えば、この間色々あって幼馴染の片っぽの魔力を注入した事があったんだけど、自分の魔力の数百倍の魔力が入っても一杯って感じはしなかったな」

「ふむ、他人の魔力を入れた所で使えなかっただろう」


 別に使えるかどうかの実験じゃなかったけど、実際やろうとしてダメだったのは確かだ。


「掴みようが無いと言うか、面白いくらい手からすり抜ける感じだったよ」

「他人の魔力とはそう言うものなのだ。中には扱える者もいるが、通常は自然に吸収しないと自分の魔力とはならんのだ。地脈を流れるマナが大地から放出され、人はそれを無意識に受けて吸収しているし魔法の行使に利用もしているだろう」


 魔人化してしまった人は、多分その吸収が過度だったりしたのだろう。

 噂によると地脈から濃度の濃い魔力が噴き出すホットスポット的な場所が現れる事があるとかで、過去魔人が発生してしまったのはそう言う場所だったのではと言う話がある。

 他人の魔力を扱える者がいると言うのは、実はサキュバスやインキュバスがそれに当たるらしい。

 この両主族はドレインで対象の精気、と言うか魔力を吸える。

 吸って何も出来ないのでは勿論意味が無く、種族の特性として自然と扱えるのだと言う。


「まぁ言ってしまえばちょっとした認識の差なのだがな。トモヤも他人の魔力を体内に入れた時、自分の物とは明確に違うから分けて意識してしまったのだろうが、それを同一と認識できれば操作できるようになると思う」

「いやー、楓子のは何というか質が違いすぎて同一とは思えなかったなぁ」

「恐らく個人の魔力としてしっかり染まっているのだろうな。逆にだが、私はトモヤの魔力であれば操れる自信がある」

「なんで?」

「以前も言ったが親和性の高さだな。ああそうか、その他人の魔力を注入された時、トモヤが無意識に自分と他人の魔力を区別していたから良かったが、それをしていなかったら他人の魔力に飲まれていた危険性もあったのだな」

「どう言う事?」

「逆の話なのだ。他人の魔力によって浸食されやすいとも言えるのだ。通常は多少染まっても本人の性質が残るだろうが、トモヤの場合は魔力が微弱過ぎて完全に染まり切ってしまいそうだ」


 親和性が高いが故にか。

 その場合、俺は下手したら自分の魔力が無くなって楓子の魔力に染まっていたのだろうか。


「もしそうなった場合、何か問題が?」

「何も無い可能性もあれば、侵食された魔力と同質の物を発するようになる可能性もある。トモヤの本質に影響が出かねないと言う事だな」


 って事は動物に好かれなくなってた可能性があるって事だな。

 いやなんか本質的にヤバいようなニュアンスがあるけど。


「そんなにヤバい事かな」

「トモヤは魔法を使えないから危機感が無いだろうが、本人の魔力が変質してしまうと身に付いた魔力操作が上手くいかなくなるから魔法が使えなくなるだろう」

「それはヤバい」

「仮に一気に注入されていて、自分の魔力の認識が出来ないほどに混ぜられていたら、トモヤがトモヤではなくなっていたかもしれないな」


 そう言えば占いのお婆さんも、ゆっくり入れろみたいなことを言っていた。

 まぁ俺の場合、魔力が少なすぎるせいで楓子の魔力と自分の魔力を比べてしまっていたから、結果として自分の魔力に意識が向いていたのだけど。


「でだ、話しは戻るが、長い年月をかけてその体に魔力をしみ込ませて自分の物とできればいいのだ」

「それこそ魔人化するんじゃ?」

「キャパの問題だろうな。私は先代の魔王との戦いでいつの間にか魔人化していたが、トモヤの魔力を観察しているとそう言った兆候は見られない。よって数日間の滞在なら全く問題無いと思う」


 それは暗に、数日間泊っていけと言ってるだけじゃなかろうか。


「現に一晩で少し魔力量が増えているようだからな。恐らくだが、多少のインターバルを挟んで数か月から一年ここで魔力を受ければ、人並み以上の魔力を得られるのではないかと思うぞ」


 って事はやっぱり、主夫が増えたのはここで一晩過ごしたせいか。


「じゃあ、俺が強くなるとしたらここで生活するのが一番って事かー」

「何ならすぐ部屋を用意するが?」


 この大魔王は、俺が頼まないとわかっていてニヤニヤしながら言うのだ。


「むしろ、この城から解放されたら王都に引っ越してくればいい」

「その手があったか」


 ヤバい、これは本気で目から鱗な顔をしている。

 別に俺はいいけど、こんな魔力の濃いベスターが王都になんて来たら阿鼻叫喚の大騒ぎだ。


 朝食後は先にフローラさんが部隊の集合場所に行ってドワーフ王国に送り込み、その後で俺とシエルを迎えに来た。


「大丈夫だとは思うが、向こうでは気を付けるようにな」

「こういう時自分の弱さが嫌になるなぁ」

「私が守るから大丈夫だよー」


 シエルの強さは知っているが一抹の不安は残る。

 と言うのも、いつも鉄壁の守りを誇る楓子の複合シールドが身を守っていたのだ。

 それが無いと言うのは少々心配だ。


「ああ、それとトモヤにはこれを渡しておこう」


 ガスマスクだった。

 二度見した。

 は?


「何このガスマスク」

「恐らくそのままだと思うが、並の人間では辛い環境だから持って行くいい」


 ベスター自身はガスマスクなんて単語を知って――いそうではあるか。

 まぁつまり見た目からしてそのまんまのアイテムのようだ。

 濃い緑の迷彩模様のマスクは、この世界の物と言うよりかは元の世界で軍隊が使っていた疑惑すらある。


「こんなんどうしたんだ」

「誰かの遺品なのだが、異世界人の書物で見た事があったのでな。恐らく効果はあると思う」

「遺品……」


 きっと果敢に攻めてきた勇者の誰かの物だろう。

 でも遺品かー、無いよりはマシかー。


「とりあえずありがたく借りとくけど……。普通に人間も立ち入る国なのに必要なほど空気が悪いのか?」

「どうやら居住区に比べると大分空気が悪いようだ。魔人の中にも一日の行軍で解毒しないとならないくらいに毒を吸収してしまったのがいたらしい」

「それだと俺じゃ長くても半日持たなそうだな……」

「では用意はいいでしょうか」


 そう言って差し出してきた手を掴む。

 ああ、なんと柔らかい事か。

 うーん、この前と違って魔力探知ができるからわかるが、魅了の魔力を食らってはいないけど普通に美人だから困る。


「トモヤ? 鼻の下伸びてないかなー?」

「あ、はい」


 シエルの目が少々怖いが、こればかりは仕方ないと思うのだ。

 こうしてフローラさんが開いた転移門に俺たちは入るのだった。






 第一印象は暗い臭い。

 薄暗いとか言うレベルじゃなく暗く、この匂いは何だろう、生ごみっぽさもあれば何か腐敗した感じもあれば硫黄臭みたいな物もあるし、石油っぽい油臭さもある。

 頭にひっかけておいたガスマスクをちゃんとつけると、『こほー……、こほー……』と呼吸音が。


「トモヤさんは暗くて見えませんよね」

「すみません」

「私でも薄暗くしか見えないので大丈夫ですよ。ライト」


 ぽわっと、フローラさんを中心に周囲が明るくなった。

 眩しい程では無いけど暗くも感じないし、光源がフローラさんなのかと思えばそうでも無い。

 ライトと言う魔法はどこが光源と言うよりかは、効果範囲を明るくする魔法のようだ。


「シエル、どの辺りかわかるか」

「うーんと……、もう結構根まで近い所だと思う。地脈の魔力が近くに感じられるから」


 そう言われて魔力探知をすると、確かに魔力源が何となくわかる。

 それは太く、ずっと向こうから一直線に走っていた。


「多分ドワーフ王国の南西側の根だと思う。こっちは魔人の森に近いから開発が禁止されてるはずなんだけど……」

「そう言えば隣って言ってたけど、そんな近いのか?」

「魔人の森自体がすごく広いんだけど、多分一部は魔人の森の地下まで伸びてると思うよ。地下だと魔力を探って掘り進めることになるから」

「行き過ぎる事もある、か。でもなんでそんなに掘り進めるんだ?」

「一番は鉄鉱石だよ。この辺りは一大鉱脈で何百年分掘っても尽きないって言われてるんだ。でも鉄鉱石以外にも色々必要だから、あちこち掘って出ないか試してるんだよね。鉄鉱石の次に大事なのが石炭と鉄に混ぜる他の金属類かな」


 王国は王国で鉄鉱石の確保が難しいなんて言ってたけど、そりゃドワーフ王国の地下に一大鉱脈があったら王国の入手は難しかろう。


「フローラさん、魔人の部隊はこの先ですか?」

「ええ、もうすでに戦っていますね。あら嫌だ、あんなゴーレムまで出してきて」


 どうやら何らかの方法で戦闘を見ているようだ。


「大丈夫かと思いますが私は一応指揮官なので行きます。トモヤさん達はどうしますか?」

「とりあえず付いていくしか無いと思いますが……」

「私も付いていきます」

「わかりました」


 こうしてフローラさんの後を付いていくが、ドワーフ王国の通路は人間族一人がギリギリ立って歩ける程度の高さしかないようだ。

 理由は単純でドワーフが小柄なせいだと思うが、この高さで戦闘となると物凄くやりにくいと思う。

 少し歩くと目の前に開けた空間が見えてきたのだが、そこは戦場で魔法がガンガン飛び交っていた。

 フローラさんはライトの魔法を止め、俺とシエルを岩の影に誘導する。

 魔人側の攻撃魔法は高さ二メートルくらいの、横幅のあるガラスっぽい色合いのロボットみたいなのが受け、ドワーフ側の攻撃魔法は魔人側が展開するシールドに阻まれている。

 どうやらあのロボットみたいなのがゴーレムで、ガラスっぽい色合いだが水晶か何かで出来ているように見える。

 そのゴーレムは魔法耐性がえらく高いようで、王国の魔法師団も真っ青な規模のフレイムバーストを難なく受け止め――と言うか半分くらい吸収してるようだ。

 ある程度で魔法攻撃が止むと、今度は完全武装のドワーフ達がゴーレムの後ろから出てきた。

 基本的にフルプレート且つ大型の盾で、武器は剣だったり斧だったりハンマーだ。

 中にはシエルが使っているようなおにぎり型の大きな盾を持っているドワーフもいるけど、立ち位置的にタンクっぽい。


「お前ら掛かれーっ!」


 うぉー! と言う雄たけびと共に走り出すドワーフ達。

 それを冷静に観察し、黒く硬い外皮を持つ巨人系の魔人が前に出て盾となる。

 この魔人が化け物じみた硬さを誇り、ドワーフの攻撃にビクともしないのだ。

 多分あのドワーフが使う剣はシエルの物と同等だろうし、硬い物を叩き壊す為の斧やハンマーですら弾き返してしまっている。

 その上から魔人の近接攻撃部隊が飛び掛かって乱戦となった。

 だが魔人は程度の低い武器か素手である。

 あれではドワーフに致命傷を与えるのは中々難しい――と、ここまで来てそれがワザとである事に気づいた。

 ドワーフを殺す気は無いのだ。

 逆にドワーフもそれをわかっているようで、最早捨て身と言ってもいい程に果敢に切り込んでゆく。

 さっきまで魔法を弾き吸収していたゴーレムも、その質量を以って殴りかかっていたが、それでも黒い外骨格の巨人といい勝負と言ったところで、同じくらいのサイズの黒と白が殴り合いをするも、どちらも傷つかないし一歩も引かない。

 それだけであのゴーレムの性能が恐ろしく高いことはわかるし、何ならドワーフとしても切り札だったのだと思うけど、多種多様な魔人の種類と強さの前には今一歩及ばなかったようだ。

 ドワーフ達は己の武器が壊れるほどに魔人を攻撃し続け、しかし致命傷は与えられず、魔人の攻撃により鎧が凹んでもひしゃげても怯まない。

 それでも元々のポテンシャルの違いか、段々とドワーフは押され、開けたフロアの奥へ奥へと追いやられて行った。

 俺はシエルと共にフローラさんの後ろに隠れてそれを見るだけだが、シエルは何度か飛び出そうとしていた。

 飛び出した所でどうすると言うのか。

 戦いを止めろと言って止めた所でドワーフが降伏するとも思えないし、どちらかに加勢するわけにもいかない。

 魔人が殺す気でドワーフと戦っているなら本気で止めるべきだが、そうで無い以上見守るのが無難な選択だった。

 それでもやはり同族だからか、シエルは気が気じゃない様子だけど。

 にしても、王国の近衛兵団と比べると地力も装備も上だ。

 何人いるのかはわからないが、五十人以上いるならコボルトの軍勢と戦っても難なく勝ててしまいそうである。

 隣の芝生は青いなんて言うが、人間族とドワーフ族の違いを見てしまうと少々羨ましくもある。

 あの老け顔は頂けないが。


「全軍てったーい! 逃げるぞー!」


 追いつめられる寸前に一気に通路に逃げ出した。

 魔力探知的にもう少しで地脈に到達してしまう。

 この地脈の感じが少し異質で、片側は魔人の森の魔力、ベスターの魔力なのだがもう片方はシャルの魔力に似ている。

 恐らくそのシャルの魔力に似ているのが世界樹本来の魔力なのだろう。

 だとしたら断裂してるとされる地脈はすぐ先にある。

 魔人達は大したダメージが無さそうだったが、後衛の魔人がヒールで全員を癒している。

 魔人の部隊もポテンシャルの高さを考えなくても中々に優秀だった。

 タンクとしての黒い外骨格の巨人に、各種前衛系の魔人とアークウィザードクラスの魔人。

 当初の魔法戦の時はアークウィザードクラスの魔法をガンガン使っていたが、しかし魔力の温存はできているようで、ドワーフの魔法攻撃が終わった所で効率のいい前衛対前衛の戦いに移れるように即座に魔法攻撃を中止していた。

 そして黒い外骨格の巨人にシールドではなく余分のある魔力を注いでいるようだった。

 多分だが、あの外骨格は魔力で強化出来るのだろう。

 ある程度で破られるシールドより頑丈なのか、それとも適宜ヒールの方が魔力効率がいいのか。

 そして殴り合いメインの前衛職には物理シールドを掛け、後は下がって瞑想して魔力の回復に勤めていたようである。

 地脈の魔力が近い事もあって、魔人の魔力回復も早いようだ。

 それでも使いすぎない運用をしているので、前衛職も何かあった時に十分なサポートが来ると信じて目一杯戦える。


「シエルさん」

「は、はい?」

「あの方々達はドワーフの通常の部隊なのですか? それにしては妙に動きがいいと思うのですが」

「えっと……ロイヤルガードの方々です。王国の近衛兵みたいに特性に恵まれていて、最高品質の装備を持つドワーフ王国最強部隊と言われている人達なんです……」


 なんか凄く申し訳なさそうだ。


「やはりそうでしたか。最初の戦闘から動きが良く、うちの部隊を短時間でも足止め出来るだけの力を持っていましたので、普通の兵隊では無いとは思っていたのです」

「ロイヤルガードって事は、ドワーフ王国の王様もこの事態に気づいてるだろうに、会見の打診とか無かったんですか?」

「今の所特にはありません。一応最初にあちらの兵にはこちらの要求を伝えているのですが」

「地脈の調査ですか?」

「そうです。調査を受ける気が無いなら滅ぼす用意があると告げたのですが……」


 お怒りのフローラさんがついつい余計な事を言った疑惑だ。

 滅ぼす用意があるなんて魔人に言われたら、尻尾巻いて逃げるか徹底抗戦かのどっちかになりそうではある。


「ちなみにシエル、ドワーフ王国として何か切り札みたいなのってあるのか?」

「うーん……。そこに転がってるゴーレムですら私は知らなかったけど、大量殺戮系の武器は外に出たら大変だから開発が禁止されていたし、多分これ以上は無いと思うんだけど……。考えようによっては、私が連れてくることになっていた勇者かも」


 ゴーレムは動かすのに操作する人がいるのか、ドワーフの部隊が撤退した後は微動だにせずだった。

 このまま置いといて魔人が逆に使おうとしたらどうすんだと思ったけど、このサイズをこの先の狭い通路で運ぶのは難しい。

 多分元々バラして持ち運んでいるのだろう。


「では先へ行きましょう。あなた達、今まで通り進みなさい」


 フローラさんが命ずるままに魔人たちは先の通路へ入ってゆく。

 広さ的にどうしても二列が限界で、魔人の中には長身なのもいるので屈んだり這って進むのもいた。

 さっきの盾になってた黒く硬い巨人も大きいので、最初に入って匍匐前進でずりずりと進んでいる。

 何で開けたところに出る前で待ち伏せして戦わなかったのかと思ったら、おそらくこの黒い巨人が通路を塞ぐ上に硬すぎて抑えきれなかったのだろう。

 多分ドワーフにとっても通路で戦うと武器を振り回せないと思うので、次に考えるのは開けた所に出て直ぐの所にある程度の空間を確保しておき、魔人の前衛だけ通路から出して叩く方法だが、魔人の突破力を考えるとこれも押し切られてドワーフ側の部隊が散り散りになる可能性がある。

 今回に関してはゴーレムの配置もあったし、あのような真っ当に部隊展開をする方法になったのだろう。


「私、先に行って見てこようと思うんだけど」

「変な話、人質みたいになったりしないよな」

「うーん、私が勇者を連れて来るって信じてるからこういう戦いをしてるんだと思うけど、私がこうして魔人側で地脈の調査をしようとしてるなんて思ってもみないから大丈夫じゃないかな?」

「むしろ勇者を連れてきてない時点でドワーフ側がどういう手に出るかわからないから怖いんだけど」

「それは私にもわからないよ……」

「シエルが戦わされる可能性は?」

「ほぼ確実に戦闘への参加を打診はされるけど、参加する振りで何もしなければいいから」

「ああ、確かに」


 どうせならシエルと一緒に先に進んで状況の確認をしてしまいたいが、地脈の調査に来た事が知れれば俺が捕まる恐れもある。

 そうなったらフローラさんがどう出るかわからない。

 シエル一人で行かせた場合、そして戦闘に参加した場合、何らかの事故で攻撃を受けてしまう可能性もある。

 よって先に進むのはノーだ。


「本来なら先に進んで俺達で解明だーって言いたい所だけど、それによって何か起きたらフローラさんに迷惑がかかるし待機だ」

「トモヤの意気地なし」


 俺としてはシエルを戦いに巻き込みたくないのだが、それを面と言うのもなんか恥ずかしいので胡麻化すことにした。


「ばっか。シエルとしては仲間が傷つくのを見てられないのかもしれないけど、もし俺が魔人側だとバレて捕まりでもしたら、フローラさんが何するかわからないんだぞ。ねぇ、フローラさん」

「私とトモヤさんに何かしらの危害が加えられた場合、命を最優先に行動せよと言われておりますので、ドワーフの安全は保障できかねます」

「ほら」

「……なんかトモヤってすっごく魔人の王様に気に入られているよね」

「さっきチラッと話してたけど、ベスターって先代の魔王を倒したから魔人になっちゃっただけで、本来勇者なんだよ」

「うそでしょ」

「マジで。本人は記憶が無くて元の世界の事を覚えてないけど、どうやら俺と同郷らしくてさ。ほら、何となく見た目似てたろ」

「それはちょっと思ったけど……」

「で、一晩掛けて話してたらマブダチになってた」

「むー……、本当ならトモヤもチエもフウコもドワーフ側に引き込むつもりだったのにー……」


 そこにシャルが入ってないあたり、やはり種族間の確執はあるのだろう。

 勿論シエルがシャルを憎んでいるとかではないのは承知だが。


「でも考えようによっては良かったじゃないか。原因が何であれ、解決さえしちゃえば魔人側から狙われる事も無いんだし」

「それはそうだけど……」


 ようやく魔人軍の最後尾が通路に消え、その後ろから俺達も付いていく。


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