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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
43/194

社交界 その2



 で、流石に中ばっかりじゃ飽きるので、日が暮れるまでに表立った伯爵家くらいまでの挨拶は済ませた事だしと、その後は外に出た。

 遠くの空に少し茜色が混じっているくらいの時間だったが、庭園には魔法の明かりが灯って遠くからでも人の顔の判別が出来るくらいだ。

 俺たちが現れると、主に若者しかいないその場は騒然となって一斉に近くに寄ってきたが、流石に冷静さも併せ持っているようである程度の距離を開けて止まる。

 そして誰から行くかの目配せが始まったが、そこは勿論ホストである北の公爵家の誰かだろう。

 幸いにもと言うか、シェリールが一人にしろと言う為にマリーネも俺たちにくっついて来ている。

 ずいっと前に一歩出てきたのは、俺達よりも一回りくらい年上だろうか。

 しかし見覚えはあった。


「ハイリッヒ家次男、ツヴァイだ。と言っても既に自己紹介は済ませているので今更だと思うが。社交界デビューとの事、おめでとう」

「果たして自分にとってめでたい事なのかどうなのか、判断がつかないのですが」


 マリーネの兄にして近衛兵団の団長。

 この場合の団長は、当主と同じく第一師団団長で近衛兵団のトップと言う事だ。

 まだまだ若いのに近衛兵団の団長と言うのは凄い。

 所がだ、実力は勿論あるのだろうが、近衛兵団自体が貴族の血を大事にする一派なので、単純に公爵家の団員の中で次男と言う高い位置にいたのが要因じゃないかと思う。

 勿論俺相手じゃ瞬きの間に切り殺されるくらいの実力差はあるんだろうけど。

 千絵や楓子が一緒になってやる近衛兵団と魔法師団、そして一般兵団との対戦後、必ずツヴァイが近衛兵団の分の報告書を持ってくる。

 これが毎回事細かに書いてあって、しかも本人が悔しさを隠さないので熱意だけは凄いと思うのだが、大抵が他がもっと自分達くらい強ければみたいな事を書いているのでまだまだだと思う。


「トモヤ様。兄は筋肉馬鹿ですので色々ご迷惑をおかけしてると思いますが」

「うちのそそっかしい妹が何かやらかしてはいないかな」


 俺達を置いて二人で何やらバチバチしているし。

 少し観察してみたが、決して仲は悪くないようだが、近衛兵団団長と言う地位と、王城中央で働くと言うある種の特権を持つ妹。

 今のハイリッヒ家は男子の倍近く女子がいるせいで、何やら女側の方が発言力があるようなのだ。

 その後も続々と紹介が続くが、外はある程度顔を知ってるのがチラホラいる。

 学校で会うのもそうだが、近衛兵団や魔法師団にいる人達ともある程度顔見知りなので、さっきのエントランスホールよりも大分気楽だ。

 だが、問題はそこにいるのは若い男だらけ――勿論女性陣もいるが紹介の優先度としては下なので遠巻きに見ているだけ――で、ともすれば興味は俺なんかよりも女性陣だ。

 俺がシェリールの婚約者である事で、他の三人なら問題無かろうとガンガンアタックを仕掛けてくるのがいるのだ。


「お触りは厳禁でお願いしまーす。自己アピールは一回のみ、すぐ次の人にチェンジしてくださーい」

「こら」

「トモヤ君」

「助けてよ」


 ゴツン、コン、ゴツン、と三人からグーが飛んできました。

 割と本気で痛いので少々お怒りのご様子。


「えーっと、本人たちの希望により無しでお願いします」


 勿論不満は出るが、本人に相手する気が無いならしょうがないじゃないか。

 俺としても相手してほしくないんだけど。

 と、左右を千絵と楓子に固められ、シエルは俺の前で腰にしがみつくと言う異様な光景になった。


「私たちに何か用がある時は智也を通してでお願いします」

「でも智也君に何かあったら本気で怒ります」

「ガーディアンの本気見せちゃうよー」


 威嚇なんだろうけど、俺を盾にするせいで全ヘイトが俺に向かってそうなんだが。

 それこそ、『シェリール王女がいるってのにあいつは』とか『キレイどころ総取りかよ』とか妬みが凄い。

 総取りも何も、異世界人だけど一夫多妻制って適用されるんだろうか。

 別に爵位を持っているわけでも無ければ勿論貴族でも無いし、仮にシェリールと結婚しても人間に王位をと言うのであればシェリールが嫁に来ると思うから――と、そこは王位も三親等までは何らかの威光が使えたりするのだろうか。

 何もわからない俺に誰か教えてくれ。教えられそうなのはベッドでダウンしてると思うけど。


 中よりも外の方が解放感もあれば年齢層も自分達寄りなので、寄ってきた人に挨拶をしつつも次々に運ばれてくる料理を食べ、何なら談笑できるくらいまでになってきた。

 三人も息の詰まる中よりかは外の方が良かったらしく、『このお肉美味しー』とか『ちーちゃん、食べ過ぎるとお腹出るよ?』とか『私は鍛えた腹筋で抑え込むよー』とか言いながら食べまくっている。

 うーん、シエルの腹筋、少し気になります。

 いやぶっちゃけ同室である以上チラッと見る事はあるけど、筋骨隆々なわけでも無いしなぁ。

 この女性陣のお腹が出る問題は非常に大きな物らしく、特にドレスのような服装だとポッコリしたのが見えて非常に恥ずかしいのだとか。


「トモヤ様」

「ん」

「そろそろシェリール様の様子を見に行こうかと思うのですが」

「あ、お願い。タイムテーブルは知らないけど、何なら終盤まで寝ててもいいと思うから、無理に起こさなくてもいいよ」

「はい、では失礼します」


 簡易版カーテシーをすると邸宅の中へ行ってしまった。

 どうも話によると、マリーネとしては王都の邸宅はそれほど馴染み深い物では無いようなのだが、それでも自分の家の一つだからかいつも見かけるマリーネよりも行動的に思える。

 と言うか四公爵家揃って言える話だが、基本的に自分の領地にここよりも大きな邸宅を持っているらしい。

 あくまで王都の邸宅は王都で働く人間の寝泊まりをする場所と、王都で客を招いたりする時に使う程度で、常にここに住んでいるのは家の管理をしている人たちくらいのようだ。


「ね、智也。その変な黒いのって何だと思う?」


 緊張も抜けて食い気が出てきた千絵が色々な物に興味を示すが、残念、それはなんかの蛇のブツ切り料理だ。

 これはゲテモノ枠かどうかで少し悩んだが、頭さえ見なければウナギっぽい料理に見えるんだよなぁ。

 料理は場合によっては材料を見ると食欲が失せるものである。

 そして俺は頭を見た後なので、正直ゲテモノ枠に入れて考えている。

 よって答えは一つだ。


「それよりもこっちのサラダとかフルーツなんかどうだ」

「もう食べたけど結構おいしかったわよ。ほら、これ」


 千絵が持っていた皿には、今俺が指さしたサラダとフルーツが乗っていて、それをフォークで突き刺すとこっちに向けてくる。


「はい、味見」

「うーん」


 まぁいいか。今更だし。

 サラダを食べ、次に差し出してきたオレンジっぽい果実をカットした物を食べる。

 サラダ自体はやや青臭さはある物の、かけてあるドレッシングが美味しいので何の問題も無い。

 果実は見た目通り柑橘系の味だったが、どちらかと言えばレモンを甘くした感じだった。


「有り」

「でしょ。よかったわー、変な料理とか無くって」


 さっき興味を示した黒い物は変な料理かもしれないが、幸いにも既に興味が無いらしく違うところを見ている。

 多分ブツ切りの頭の部分でも見つけた日には、結構な大声を上げていた事だろう。

 トコトコとやって来たシエルはそれを丸かじりしていたけど。


「んー? トモヤも食べる?」

「遠慮します」

「美味しいし、元気になるんだよ? ほら、元気になって」


 ぶすっと刺してずぼっと口に突っ込んできた。

 一瞬の抵抗もむなしく、味付けだけは美味しかったのでそのまま食べてしまい、色々と思いが噴き出す。

 俺、汚されちゃった……。的な気分と見た目に反して美味い事へのちょっとした怒りとその他諸々。


「下半身が元気になるんだってさ。やったねー」

「いやいやいや。そんなもん食わせてどうする気だ」


 なんてもの食わせるんだマジで。


「どうするも何も……する?」

「しない」

「ちぇー」


 そう言って去っていくシエルに代わって、今度は楓子が来た。


「智也くーん……」

「今度は何ですか楓子さん」

「すっごい見られるの」

「は?」


 何事かと辺りを見回すと、俺達と同じくらいの男共がこれでもかと言う程に視線で楓子を追う。

 その楓子は人の背中に隠れるのはいいんだが、その、当たってるんだよ。むしろ当ててんのよくらいの勢いで。

 幸いにもと言うか、いかにもエロい物を見る目付きと言うよりかは、楓子の可愛さも含めてずっと見ていたいと言った感じなので、お前らは俺の同士だヒャッホーと言いたい気持ちもほんの少しある。

 だが、他人に楓子をジロジロ見られて喜ぶような特異な性癖は持ち合わせて無い。

 って言うか、それならシエルとかどうなんだと思ったら、一部熱狂的なファンが出来たっぽいがシエルは基本的にスルーのようだ。

 やはり種族の問題か、大抵は変に関わらないようにしているように見える。

 千絵に関しては見られるのが顔か何となく胸元程度なので、視線を浴びていてもそこまで嫌と言うわけでも無さそうだった。

 こうして見て行くと、我らが女神様の認知度も相まって少々かわいそうだなと思わざるを得ない。

 とりあえずだが、このまま外にいるのも楓子には辛そうなので、千絵とシエルに声をかけて一回引き上げる事にした。

 マリーネもシェリールを呼びに行ってしばらく帰ってこないし。

 邸宅内に入ると、実は外って結構寒かったんだなと思えるくらいに熱気を感じた。

 俺はちゃんと上下着てるからいいが、女性陣は寒かったんじゃなかろうか――と言う所まで考えて、楓子のシールドが展開されてる事に気づいた。

 ちゃんと冷気はカットしてたらしい。


 控室に戻ると、俺はシェリールの様子を見てくると言って再び部屋を出た。

 別室で寝ているとか言っていたが、場所は魔力探知で一発でわかる。

 どうやらマリーネも一緒らしい。

 部屋の前まで来るとノックをして、ドアノブを回す。

 着替えてたりしたら嫌だなーと数秒待ってから開けたが、特に中で着替えている等のイベントは無かった。


「おーい、どうだー」

「あの、トモヤ様。その……」


 ベッドにはシャルが寝ていた。


「シェリール様の代わりにシャルロット様が寝ていらしたのですが、シェリール様はどちらへ行ってしまわれたのでしょうか……」


 これはシェイプチェンジが切れたか、むしろ元に戻ってから寝たな。

 よくよくちゃんと魔力感知をするとシェリールの魔力に擬態してるのがわかるのだが、実際見たらシャルなので迂闊な事この上ない。

 幸いにもマリーネはそう言った感知が出来ないようだ。

 元々シェリールとシャルの魔力は同じもので、しかし同じだとまずいから『シェリールの魔力の波長』みたいな物を偽装している。

 今回見つけたのがマリーネと俺で良かったが、これで千絵と楓子だったら気付いた可能性もある。


「会場に居ないんだったら、用事でも出来て一回城にでも戻ったんじゃないかな」

「そうなのでしょうか」

「控室の方にいるかもしれないし、今は三人とも控室で休んでるからそっちお願いしていいかな」

「わかりました」


 素直に出て行ったマリーネが少し離れるまで待ち、何とも気持ちよさそうにベッドで寝るシャルの横に座る。

 時間的にはまだ寝てても大丈夫だと思うけど、シャルのまんま寝られているとシェリールどこ行った問題が再発しかねないんだよなぁ。

 これは、『シャルに聞いたけど一回世界樹に戻って回復してるらしいよ』とでも言って誤魔化すか。

 そう決めて立ち上がろうとしたら、シャルにがっつり腰を掴まれた。

 抱き枕の如く。

 それされると、俺は何も出来ないんですけど?

 そんな俺の思いも何のその、起きる気配が無く、そのままマリーネが戻って来て微笑ましく見られるまで一時間弱座っている事に。

 即座に引きはがしても良かったのだろうけど、思った以上に今日のシャルの働きっぷりが凄かったので、ギリギリまで寝かせておいてやりたいなと言う気持ちが勝ってしまったのが敗因だ。

 って言うか、『トモヤ様って本当に良く懐かれてますね』ってのほほんと言わないで欲しい。

 結婚云々の話が進みそうな現在、シェリールとしての姿を知っているから何とか割り切れる部分はあるが、こんな風に無邪気な寝顔で寝るシャルが実際の婚約者かと思うと後ろめたい気持ちが加速する。

 まぁ、これまで幾度も考えてきた事で、その都度打開策も浮かばず現状維持を選択するのだけど。

 うーん、せめてシャルが俺達と同じくらいの年齢に成長してくれればいいんだけど。

 ――とか言うと、世界樹の秘薬とか裏技とかで急成長してきそうなので本人には言えない。

 結婚云々を置いといても、幼女シャルロットの存在はそれはそれで癒しなんです。かわいいは正義。


 で、総評としては決して失敗では無かった。

 とりあえず主要な所とは顔合わせした。

 わからなかったら、公爵家に連なる貴族グループを大体網羅してるシャルに聞けばいい。

 この三親等以内は爵位の威光を使えるなんてのがあるせいで、政略結婚の繰り返しで誰もが割と近い親戚となってしまっているので、どんなに記憶力が良かろうが一日のパーティーで細かくなんか覚えきれるわけが無いのだ。

 そこら辺の細かいルールは昔の戦争以前から伝わる物らしく、エルフの大雑把な性格のせいでそこら辺の改革もしてこなかったので、今の世で考えると非常に面倒臭い。

 じゃあ成功かと問われれば、なんか知らないが『あの辺りの女は全員次期国王とデキてる』と噂されるようになっていた。

 どうやら俺達の自然とやっている振る舞いがそう見えたとの事だが、いやいやまさかそんな。

 一応一通り主要な人には挨拶できたと思うし、その子息達とも一応顔合わせは出来たと思うし、結果だけ見れば及第点を超えていえると思う。

 今回ので実はシャルが本当にすごい子だった事と、シエルが地味にすごい奴だってのが分かった事が大きな収穫だ。

 ただ、それを本人に言うと調子に乗るので言わないけど。



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