楓子とデート その2
店を出て少し歩く。
噴水広場を中心に十字に走るメインストリートは栄えていて、どこを見ても人がいて店がある。
ついでにあちこちに出店も出ている。
この王国はエルフを旗印に栄えてはいるが観光地では無いので、こうして外を行く人の大半が王都に住まう人々だ。
それなのに出店とかやって行けるのかと思ったら、昼食は割と適当に済ますことが多いらしい。
普段から家にいる奥さんや子供はパンを買っての自炊が一般的だが、それ以外は仕事の合間に出店で何か買って食べたり、普通に店に入って昼食はするけど、長い昼間の合間に間食として出店で何か買うと言うのが日常のようだ。
それなので、祭りで見かけるぼったくり価格の出店は無く、普通に適正価格で売られているらしい。
まぁその適正価格と言う物が良くわからないが、会計が銅貨数十枚で済む当たり適正なのだろう。
「次はねー、南の貧民街との境目辺りにある占い屋さんなんだけどね」
「胡散臭い」
「魔法があるのに?」
占い自体がガチなら全ての人が上手くいくと思うんだ。
「じゃあ、俺が本当にシェリールと結婚すべきか占ってもらおう」
「うーん、むしろしないと立場的に大変そうだけど……」
いやほんとその通りなんだけど、さも当然と言わんばかりに返されたものだから少々ショックを受けております。
人にセクハラする程度には距離感バリバリ近いのに。
南の貧民街との境目までは二十分ほど歩くので、その間に屋台で串を買って食べながら向かった。
最近ではこの世界の食べ物にも大分慣れてきたが、それでも見た目的な問題で中々食べる気にならない物はいくつもある。
幸い出店ではそういう物の扱いが無いからいいが、今度あると言うパーティーには出ないとも限らないので少々怖い。
どんなものかと言うと、例えば元の世界でも豚の頭を丸ごと焼いたのが出てきたら見慣れてなくて驚くのと一緒で、恐らく気にしなければ普通に食べられるであろう食材だ。不思議とゲテモノ系は見ないので、とりあえずそっちの心配は今の所していない。
食糧事情としても滅茶苦茶豊かでも無いので、だからこそ祝いの席では丸焼き系の料理が出やすいと言う。
それが見慣れた家畜ならまだしも、この世界の動物なのでどうにも食指が動かないのだ。
俺は一応無理にでも一回は食べる事にしてるけど。
千絵と楓子も最近でこそ試しに食べてみる気が起きるようになってきたが、それでもまだまだ食べられない物は多い。
勿論丸焼きではなく、普通に捌かれた物であれば問題無く食べられるのだが。って言うか元の世界でも豚の丸焼きとか出て来たら、ほんのちょっと考えて悩んだ上で食べると思う。
時間は丁度お昼を回った辺りで、昼休みで昼食に出てきた人でメインストリートは賑わいを見せていた。
一旦噴水広場に戻ってから南下するのだが、一番賑やかな噴水広場前は出店でも人気店が立ち並び、あちこちで列を作っているのが見える。
そう言えばサクラはどうしたのかな、と軽く魔力を探してみたが、メインストリートの北側を歩いているようだった。
どうやら俺を監視してはいないらしい。いやそもそも監視が仕事では無いんだろうけど、たまーにふと気づくと近距離にいる事があるので、何となく暇があれば見られてる気がしていたのだ。
考えてみればサクラもサクラの生活があるだろうし、四六時中俺を見ているわけじゃない。
「ね、智也君。あれって……」
楓子が噴水前あたりを見ていた。
何だろうと視線の先を探ると、ビシッとスーツを着て帽子を被っている初老くらいのオジサンが、自分たちの親世代くらいの女性と何やら楽しそうに話していた。
それ自体は別段不思議な光景では無かったのだが、そのオジサンが問題だった。
「……教皇猊下じゃねーか」
「だよね? だよね? 見間違えじゃないよね?」
「早速動いてんのか……」
そう、つまりは多分ナンパだ。
相手は目の前の人が教皇だなんて思っていないだろうが、別段嫌そうでも無く楽しく話しているようだ。
教皇も元々は人格者で物腰柔らかな人だから、若返りに固執したあの時の険しさが嘘のように和やかにしている。
でも貴族は一夫多妻が多いから、それなりの歳の貴族の女性となれば既婚者のはずだ。
中には旦那と死に別れて、とかあるかもしれないが。
少しするといい感じに会話が終わったようで、女性の方が北へ歩いて行った。
教皇も辺りを見渡し、暇そうにしている女性に声をかけては楽しそうに会話している。
うーん。
「数打ちゃ当たる?」
「当たらないと思うけど……」
「だよなぁ」
前提条件として未婚、もしくは未亡人で今の教皇の見た目の歳とそこそこ釣り合うような女性と言うのはまずいない。
これで不倫ともなれば色々問題が出てくるし、そもそも教会としても不味いはずだ。
何より教皇の本来の願いはパートナー探しもだが子孫を作る事で、そうなると結構高望みしないと難しくなってくる。
やっぱり、俺は若返りの実験に協力しない方が良かったのかもしれない。
ただ、これはこれで教皇が凄く楽しそうにしているので、もしかしたらこれでいいのかもと思わなくも無いんだけど。
「声かけてく?」
「いやー、やめとこう。俺たちが声を掛けたら目立っちゃうし」
「うん、それじゃ行こ」
逆に声を掛けられる恐れもあるので、そそくさと噴水前から立ち去った。
南下していくにつれて何となく雰囲気が変わってくる。
それは店の佇まいとかでは無く、道路の散らかり具合だ。
メインストリートから一本、どこの路地に入ってもすぐの所に、恐らくそう言う場所が定位置なのかゴミ捨て場があるのだが、南に行くに従って綺麗なのだ。
貧民街なんて名前だと汚らしいイメージが有りそうな物だが、逆にそう言う所に住む人程無駄を嫌うようでゴミが少ないのだ。
そもそも貧民街なんて言うのも明確な格付けによって分けられてしまっているだけで、実際アヤメさん達みたいな遠くの村の生活の方がここよりも何倍も悪い。
なんせ王都であれば水は普通に使えるし。
あるとすれば下水の問題だろうか。
生活排水は地下を通る水路に流れてどこかへ行くようなのだが、垂れ流しだと下水環境が劣悪になるし流れ出た先の汚染が問題になる。
なので、地下水路に流す前に地表の下水道で目の粗い網から目の細かい網を経るのだが、この網の清掃具合が貧民街ではよろしくない。
恐らく優先順位として北が一番で次に平民街の方となっているんだと思う。
大抵そう言った汚れ仕事は貧民街に住む人の仕事なので、後回しにされても文句を言うに言えないだろう。
ちなみに生活排水は地下水路に下水処理施設があるので、元居た世界程では無いがそれなりに濾過していると言う。
この世界の知識で何とかなる物じゃないのではと思ったら、やっぱりシェリールが絡んでいるようだった。
シェリール、と言うかシャルがあんな小さい体で良くもまぁ考える物だが、実際上下水道の問題と言うのは生活の上で非常に重要なので、王都の発展を考えれば避けて通れない。
後はトイレの出たモノの扱いだが、こちらも水洗方式を採用しており、通常の下水とは分けていると言う。
専用の処理施設が地下にあり、そこで分解の魔法陣が刻まれたいくつかの貯水槽を経て他の生活排水と共に放出されるのだと言う。
って事はかなり地下の工事を細かくやったのだろうが、この世界では魔法での掘削が出来るので元の世界ほど大掛かりでも無いようだ。
そう言った工事は魔法師団の訓練がてらやってしまえばいいし。
昔は貧民による汲み取り作業があったらしいが、衛生的な問題もあったらしい。
彼ら元作業員は、今では下水施設の管理に当たっていると言う。
ぶっちゃけ生活排水と一緒に処理できない物かと思ったのだが、分解の魔法にもある程度カテゴリがあるらしく、大まかに設定して地脈の魔力で魔法を発動させると消費が多いので、多少細かく設定した上で消費魔力を絞った方がいいのだそうだ。
「この辺りらしいんだけどー」
境目、と言うのがあやふやではあるが、大体噴水広場を起点に南側に三割程進むと建物の雰囲気が変わってくる。
メインストリート沿いは統一された造りで一体感があるのだが、その奥に見える建物が急に古臭くなってくるのだ。
楓子がきょろきょろと辺りを見回す横で、俺も何となく見ていく。
噴水広場前付近はレストランと食料品の店が多かった。
これは単純に人が一番集まる場所だからだろう。
そこから離れるにつれ、雑貨とか服とかの店だったり何らかの専門店になってくる。
この王国を本拠地にする会社も大きい物はメインストリート沿いにあるが、小さい会社の事務所みたいなのは路地の先にあったりする。
王都は土地そのものが王の物と言う事になっているので家賃が発生する。
エルフが王族で元々税収に頼った生活をしていないから、家賃の設定も元々お安いのだと言う。
そこに来て貧民街は月々の家賃が銀貨数枚から十枚程度で大体済んでしまうので、小さな会社なんかがこの辺りには軒を連ねていると言う。
ちなみに元の世界料理の店も位置的には貧民街に片足突っ込んだ位置にあった。
何か特別な物と言えば、この世界だから有る武器防具屋だ。
大体が門前宿として東、西、南門の前にある宿の付近に店を構えているのだが、武具と言う物は嵩張るので結構大きな建物が必要になる。
王国的には一般兵団や近衛兵団や魔法師団で一括で買うので直接買いに行く事は無いらしいが、町から町へ行き来する行商人や旅人は武器防具屋で装備のメンテナンスをしたり、場合によっては新調したりするようだ。
ちなみに学生は支給された制服が破格の防御性能を持っている事や、学校に置かれてる貸し出し用武具ですら平均的な性能を超えているらしいので、まず行く事が無い場所のようだ。
にしても、通り沿いにあるとすれば占いで相当稼いでるんだなと思ったら、路地側に看板を見つけた。
『アンダルシアの占いの館』と書かれている。
「おーい楓子、そこじゃないのか」
「あ、本当だ。智也君良く見つけたね」
どうやら店自体はメインストリートから一件分奥にあるようだ。
貧民街との境目とは言うが、もうこの辺りは完全に貧民街の様相で、占いの店も相当に古い作りをしていた。
「……入るのか?」
「そのために来たんだよ?」
看板こそあるが、そこは古びた二階建ての一軒家だ。
玄関扉も普通だし、店に来たと言うよりかは誰かの家に訪ねてきた感じで入りにくい。
だと言うのに、楓子は扉についているノッカーをコンコンと躊躇なくやった。
……反応は無い。
「昼だしメシでも食べてるんじゃないのか」
「そうかなぁ」
コンコン、と再度やるが無反応で、よし次に行こうと言いながら踵を返そうとしたら楓子がドアノブを掴んだ。
開いた。
「ごめんくださーい」
こいつ、変な所で積極的だ。
「はいよ。こら珍しいお客さんだ」
杖を突きながら出てきたのは、多分本来の教皇と同じくらいの年齢のお婆さんだった。
一応接客業だからだろうか、特に険の無いと言うか普通の応対で少し拍子抜ける。
と言うのも、占いとか言うから偏屈な店主がやっているようなイメージがあったからで、何となく某お菓子のCMで何やら練って美味いと太鼓判を押すあの手の姿を想像していた。
で、実際出てきたのは服装も何から何まで普通のお婆さん。
うーん。
「お昼休みでしたか?」
「お客が来る以外は暇してるから気にしないでいいよ。ほら、何見て欲しいんだい女神様」
「……女神様……」
ずーんと目に見えて凹んだ楓子もどことなく可愛らしいが、そう言ったことを口にすると調子に乗りかねないので飲み込んだ。
お婆さんが奥のリビングに案内してくれて、テーブルを挟んでソファーに座った。
「えっと、この人の特性がどうなのか占ってもらいたくて」
「楓子」
えへへ、とはにかんで笑ってらっしゃる我らが女神様。
「そんなのお城にある水鏡で見れば一発じゃないかい」
ですよねー、と俺も苦笑いをして軽く説明した。
「実は読み取るための魔力があまりにも少なくて」
「ぬーん」
じーっと見られた。
穴が開くかと思う程見られた。
「私も特性を占うなら魔力を読み取るしかないねぇ。違う方法としては、魔力が混じってぼやけるけど、何となくわかる程度ならお嬢ちゃんが彼に魔力を注入して、私が反対側から読み取る手もあるよ」
「そんな事出来るんですか?」
「片手からゆっくり魔力を送り込んで彼の魔力を圧縮するのさ。あんまり強くやると悪い影響があるかもしれないが女神様なら大丈夫だろうさ」
「女神様……」
一々凹まんでよろしい。
「智也君、どう思う?」
「シャルが言ってた魔力を変に込めると最悪魔人化するって言うアレがあるけど」
「だよね」
「ほんの数秒だから力いっぱい注入しない限り大丈夫だよ」
まぁそう言うなら、と右にいる楓子に右手を差し出す。
そして左手をテーブルの上に出すと、お婆さんは俺の左手を手に取る。
「やってみぃ」
「はい」
暖かい楓子の手から、更に暖かい何かが手を伝って来た。
それは段々と、前腕から肘、二の腕、肩と来て、体の半分くらいまで来たところで急激に楓子の微かに甘い匂いに包まれたように錯覚した。
それが楓子の魔力の匂いである事は自然と理解出来たが、他人の魔力に侵食されるような疼きを感じつつも、それが楓子の物だと思うと妙に心地いい。
何とも不思議な感覚だった。
「もう止めていいよ」
「はい」
「さて」
楓子から魔力の注入が終わっても、俺の体の中には楓子がいた。
同一化したわけじゃないのに変な一体感があり、ずっと体の中を漂っている。
「結論から言うとよくわからん」
「そうですか……」
「だがね、結構な数の特性は持っていそうだったね。こう、お嬢ちゃんの魔力が強くて濃霧の中を手探りで探す感じだったけど、そこいらの凡人と同じでは無いね」
「だってさ」
「まぁ詳しくわからないにしても、まだ希望がある事はわかった」
「申し訳ないねぇ。他の事なら結構わかるんだけどねぇ」
「あ、じゃあ私の恋愛運をお願いします」
そう言うと、お婆さんは予想していたのかノータイムで語り出す。
「お嬢ちゃん、近いうちに大きな転機があるよ。それを自分で知ってるね。なぁに、自分の思うとおりに進めば悪い事にはならんさ」
「特に何か見たわけじゃないのに……」
「わたしゃね、その人を見れば何かが見える特殊な特性を持っているんだよ。隠し事したって何となくぼんやりと見えてくるんだよ。それに上手い事焦点を合わせるとその人の事が見えてくるんだよ。お嬢ちゃんのお仲間もみんな同じように上手くいくから安心するんだね」
「あのー、ちなみに俺は……?」
「女難の相が一番大きい。これは多分女王陛下だろうね、いい感じに振り回される人生さね。結婚は人生の墓場の一面もあれば幸せの極みでもある。大丈夫、助けはあちこちから来る」
「うわー、うわー、やっぱ結婚しない方がいいじゃないのかこれ……」
「ダメだよ智也君。しないと」
「ふむ、まぁお嬢ちゃんとしてはその方がいいだろうね。将来の先行きは――」
お婆さんが固まった。
「彼史上最悪の危機が訪れる。大丈夫死にはしない。が、これは……」
ガン見しながら何かブツブツ言っている。
「うーむ、良くわからん。まぁ大丈夫じゃないかね」
「……史上最悪の危機って何だ一体……」
シャルに振り回されるのが確定された未来だとしたら、その時点で危機だと思うんだけど。
「助言としては、常に冷静で自分らしくあれ。他に聞きたい事は?」
「えっと、えっと、私達って元の世界に戻れますか?」
「元も何も世界自体は一つであり人それぞれじゃ。元居た場所に帰りたいと言うのであれば、神の力があれば可能かもしれんが――」
期待は出来ない、と。
「そうじゃ。彼を観察する彼女とは恐らく長い付き合いになるだろう。仲良くするんだよ」
それがサクラの事である事はすぐに分かったが、長い付き合いって事は今後もずっとついて回ると言う事か。
「他に聞きたいことが無ければお代を頂こうかの。そうさな、そっちの彼の有り金全部と言ってもいいんだが、銀貨一枚でどうだい」
大体千円か二千円と言った所だろうか。
元の世界の物価とこの世界の物価じゃ違い過ぎて比較にもならないが、仮に言う事が全部本当だとしたら滅茶苦茶安い。
楓子も何やら当てられたらしく、何のためらいも無く銀貨を取り出した。
――って言うか、俺の有り金って俺が袋一杯の金貨持ってんの見抜いてんじゃん、このお婆さん。
あの金貨を除いた所持金は既に銀貨一枚を切っているから、本当に見えているとしたら請求の辻褄が合ってしまう。
だとしたら、尚更俺の将来が先行き不安なんだが。
「また何か聞きたいことがあったらおいで。ついでにお茶菓子も持って来て暇つぶしに付き合ってくれたら最高だね」
「今度友達と来ますね。ありがとうございました」
「どうも。その、生きて乗り越えたらまた来ます……」
その言葉ににんまりとした笑顔を浮かべたお婆さんは、少なくとも俺が死ぬとは思っていないようだった。
安心なんだかどうなんだか。
「ちなみになんですけど、そうも言い当てられるのならシェリールにも何か聞かれたことが?」
「私に見えるのはあくまで人間族だけなのさ。だからこそお前さんの窮地がどういう状況なのかよくわからないんだがね。しばらく先を見るに無事王国で生きているから多分大丈夫だと思うがね」
すげー怖い。
何だ、つまり人間族以外が絡むのか。
直近では魔人とかドワーフとかいるけど。いや最も身近にエルフもいるけど。
そう考えるとサクラとは長い付き合いになると言うのは、ずっと未来の俺がサクラっぽいのと付き合いが続いていると言う事だろうか。
占いって物は抽象的に言って質問者がいいように解釈する物だと思っていたが、このお婆さんマジで怖えなと思いながら、この占いの館を後にした。
占いの件について楓子に事細かに聞こうとしたが、乙女の秘密と言われて何一つ答えを貰えなかった。
逆に俺の先行き不安な未来がどうなるのかの予想が盛り上がったのだが、楓子の中で俺は王国中の美女を嫁にして国王に君臨しているらしい。
そんな未来嫌だ。
ただでさえシャル一人でも大変だろうに、一夫多妻とかよっぽど甲斐性が無きゃ辛すぎやしないか。
占いの後も軽く見て回ったが、思いのほか時間の経過が早くみんなとの合流の時間になってしまい、待ち合わせ場所の現地に向かった。
アンリの洋服店には既に全員集まっていて、奥でわーきゃーやっている。
そこに俺が入っていくのは少々ハードルが高く、着替え中だった日には何をされるかわからないので手持無沙汰に店内に残されるハメになるのだが、女性陣の試着手直しの賑わいが簡単に落ち着くわけも無く、外が真っ暗になるまで続いた。
うーん、俺、この場に必要だったか?
ちなみに、俺の中にまだ楓子がいる。
楓子の力が強すぎるのか、でも体には特に異変も無いし、とりあえず様子見でいいかなと自己診断。
これでさっきこんな事があった、なんてシャルに言ったら烈火の如く怒りそうだし。
が、少しして俺の持つ魔力に違和感がある事に気づいたシャルが問い詰めてきて、諸々の説明をしたら唇を尖らせて言うのだ。
「激おこ」
やはり魔力の注入と言うのは危険な行為だと言うのだが、正直な所実際やってみて何の怖さも感じなかった。
体に残る楓子の魔力は自分の魔力と喧嘩する事も無く自然と居座り、それによって何か不調を感じる事も無い。
他人の魔力だからか、その魔力を扱おうにも霧の如く手をすり抜けるような感触で、どう頑張っても自分の魔力しか操作できなかった。
とは言っても自分の魔力が微量すぎて、楓子の魔力の中を漂うせいか余計ハッキリ少なさが感じ取れてしまって軽く凹んだのだが。
ちなみに、楓子の魔力はそれから二日ほどで全て抜けて行った。




