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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
34/194

いつの世もどの世界でも女性の買い物は長い その2



 店に戻ると丁度全員が終わった所だったのだが、シャルにシエルの服の事を相談すると、何を当たり前の事をとオーダーメイド決定。

 我らが楓子も既製品だと全体的にゆるーい服装以外は中々着れないので、今回は今ある売り物をベースに仕立て直してて貰うことになった。


「でもさシャル、ドレスとか必要なイベント事ってなんかあったっけ?」

「伯爵家以上は、毎週末とは言わないけどしょっちゅうパーティーをしてる。イベント事とか関係ない」

「ん、ん? 何?」


 まるでパーティーがあるような口ぶりだ。


「トモヤは強制。チエとフウコも極力参加」

「何に」

「四公爵家主催のパーティー。三か月に一回、持ち回りでやってる爵位持ち貴族の交流会」


 マジかー、と言うのが真っ先に浮かんだ。

 少なくとも貴族連中からは、この中ではシエルの次に俺は疎まれている事だろう。

 にしても爵位持ちとなると相当な規模になるだろう。

 この王国では爵位は四公爵家を筆頭に伯爵、子爵、男爵と言う順に明確な上下関係が形成されている。

 戦争前は侯爵の位もあったようなのだが、扱いとして代表や王の側につかない中立貴族を区別されていたとかで、戦後の貴族の繋がり強化と共に消えて行ったんだそうだ。

 戦争中は王位の他に大公なんかもあったと言うし、今よりも複雑だったようだ。

 で、爵位自体は家全体に係る物だが、一応三親等までは『〇〇伯爵家の』と言う肩書を使うことを許されている。

 つまり、三親等までは分家ではあるがパーティーに参加する資格があるらしく、そのせいで物凄い人数になる。


「いやほら俺たち貴族じゃないし」

「トモヤはシェリールの婚約者だからほぼ王家の人間扱い。チエは勇者として力を見せつけたから十分爵位を与えられるし、フウコは女神だから爵位なんて凌駕してる。と言うか四公爵家から勇者の社交界デビューはまだかって催促が多いから問題ない」


 まぁ確かに女神相手に爵位云々とか言ったらバチ当たりだろうけど、それを言われた楓子は軽く頭を抱えていた。


「でもパーティーはまだ先の話」

「シャルはどうするんだ」

「私はエルフなだけだから参加しない、と思うけどシェリールの手伝いがあるかも」

「手伝いって……」


 同一人物なのにどういう事なんだか。


「それならシャルも新調するのか」

「一応。他にも服は必要だから採寸する意味はある。どうせ殆ど成長しないけど」

「……成長しないのか?」

「エルフは極端に長命なせいか成長も極端に遅い。大きくなれるのは世界樹の魔力を直に浴びるから」


 って事は、シャルは今の生活を続けている以上、このサイズ感のまんまと言うことか。


「もしシェリールくらい成長するとしたら、後三年は世界樹にいないとダメ」


 逆に三年で実年齢の倍くらいには成長出来る事のが驚きだが。


「その後は世界樹の魔力を浴びても成長は緩やかになって、五百年くらいしたら老化が始まる」

「私たちドワーフはその五百年くらいで寿命なんだけどね」


 何にしても人間にとっては途方もない数字だ。


「じゃあシエルたち女ドワーフは、逆に地脈の魔力を浴びてなかったら老けてくるって事か? あいや、言い方が悪いのは気にしないで欲しい」

「うーん、私たちドワーフが王国以外で暮らしたって話を聞かないからわからないけど、もしかしたら成長期みたいなのが来るかもね。来てほしいなぁ」


 シエルの趣向を考えるに、おそらくシェリールみたいにスラっとした子に憧れていると思う。その実シャルだと言うことはこの際置いといて。

 今でシャルと変わらない背丈なのだから、これで数年王国で生活してたら人間の成人並に育ちましたとか、それはそれで面白いのだが――、その場合、逆にずっとこっちで暮らしていたら人一倍老化が早いと言う事だ。

 ドワーフがドワーフ王国から出ない理由は、実はそう言う所もある可能性も。


「エルフはさ、見た目に成長と言うか老化が無いだけで、寿命自体は変わらないんだろ?」

「世界樹の魔力を浴びていた方が長生き。私みたいに年間のほとんどをこっちで暮らしていたら、寿命は人間の倍くらいだと思う」


 と言うことは、魔力で生命力を補っている、もしくは世界樹の濃い魔力による変質なのだろう。

 俺も浴びてたら魔人化しない程度で強くなれない物だろうか。

 この場合ドワーフもエルフ程でないにしろ似ていると思うのだが、エルフで人間の倍程度まで寿命が縮むのであれば、ドワーフの場合人並み程度まで縮むのだろうか。

 それこそ下手したら人間以下まで縮まる可能性もありそうでちょっと怖い。


「とーもーやー、どっちがいいー?」


 シャルやシエルと話していたら、割と投げやりに千絵が聞いてきた。

 どっちも何も全く見ていなかったので、千絵の持つ二つの服を交互に見て直感で答える。


「右」

「って事はこっち?」


 自分の左手を上げる。

 千絵が持っていたのはカジュアルなブラウスと膝丈のスカートと、シャルの髪色みたいな色合いの割と生地のしっかりしてるタイプのワンピースだった。

 ちなみに俺が選んだのは前者なのだが、千絵の雰囲気ではこの手のワンピースって似合わなくは無いけど楓子のが似合うので除外だ。

 勿論楓子の方が似合うから着るなと言うわけでは無いのだが、本人的にもそのあたりわかってて聞いて来るのだ。

 千絵も楓子もなのだが、恐らく自分でこっちと決めていて、それなのに千絵なら楓子に、楓子なら千絵に似合いそうな服も選択肢に入れて聞いてくる。

 楓子の場合はサイズ的な問題で、多少大き目の服じゃないとオーダーメイド一直線と言うこともあって、ワンピースとかロングのニットとかの中でもルーズなタイプを着がちだが、本人としては千絵に似合うスラっとした体のラインが出るタイプの服も着たいらしい。

 それに関しては、ラインが出る以上、世間の男の視線がどうしても集まるのが嫌ではあるらしいが、まぁ一種の夢とか願望みたいな物のようだ。

 俺としては胸のおっきい楓子が片肩出るようなニットを部屋着にしてたりすると、なんかもう男で申し訳ありません最高ですだったが。

 千絵の場合、単純に何を着ても最低限似合ってしまう。

 千絵は海外のファッションモデルみたいなスタイルに憧れが無くも無いらしいが、その上で自分の程々に細く引き締まっていても一部の肉付きがいいスタイルが優れている自覚はあるようで、楓子と二人で服を見に行く時は死ぬほど写真が送られてきたものだ。

 あれだよね、スレンダー系の子が着る服でも似合う癖に、出る所は人並み以上に出てるせいで男が見ても女が見ても嫌味なく凄くスタイルが良く見えるってズルい。

 俺ももうちょい背があったらなぁとか思うんですが、残念ながら平均身長くらいか少し上程度で止まってしまいました。残念。


「やっぱそうよねぇ。うーん、ちなみにこっちだったら?」

「そっちも楓子寄り」

「そうよねぇ。じゃあこっち」

「シャルかシエル向け」


 白っぽいピンクの生地にフリルだけじゃなくリボンも随所にある、かわいい系と言うよりかは最早甘ロリ系に片足突っ込んだような服を引っ張り出してきた。

 そんなのこの中じゃ、ロリロリしてるシャルかシエルに着せたくなるじゃないか。シエルは多分着れないけど。


「うー。私そんな子供じゃない」

「ばっか、俺たちの世界じゃそう言うファッションが一部では大人気でだな、俺も実は結構好きだけどこの手は千絵も合わないし、楓子は合うだろうけど狙ってる感あるからなぁ」


 何と言うかこうコスプレと言うか現実味が無いと言うか、衣装っぽくて割と好きだったりする。


「この子なら私よりかは似合うけど、なんかいかにもって感じもあって微妙なのよねぇ」


 ゆるふわ系の巨乳娘に甘ロリとか完全に狙いに来ている。俺は嫌いじゃないけどな。決して。

 今度なんかあったら着て貰おう。


「そんな事言われても着ない」

「えーっ。シャルちゃん着ーてーよー」


 ぬっとシャルの背後に現れた楓子が、何とも見事にシャルを羽交い絞めにして持ち上げ、部屋の隅っこに追いやる。


「智也君、後ろ向いててね」

「助けて、トモヤ」


 シャルは普段がゆるふわ系のワンピースばっかり着てるので、それにレースやリボンが付いただけと言えなくも無いので、童顔と言うか実際幼いシャルに似合わないわけが無いのだ。


「残念だ、シャル。俺も見たい。おそらくこの場にいる全員が」

「うーっ」


 物の一分もしないでシャルは脱がされ着せられ、ちょっと頭がぼさぼさで不貞腐れた顔をしているけど、かわいいお人形さんがそこにいた。

 いやほんと北欧系の顔立ちなせいで余計に似合うんだよなぁ。


「とりあえずそれお買い上げで」

「毎度ありー」

「トモヤ」

「はい」

「私ならシェイプチェンジで服変えれる」

「って言って、結局してくれないから無理やり着せられる実物があった方がいいんだよな」

「……裏切り物」

「さー、次だ次」


 結局の所だ。

 シャルの分は取り合ず俺が出し、横山香苗は奮発して自分で気に入ったのを買っていたが、それ以外は採寸のデータを使って仕立てて貰うことになった。

 それにより何だかんだ正午を通り過ぎ、入店から三時間くらいしてようやく服選び地獄から解放されるのであった。

 まぁ今日に関しては横山香苗がいたおかげで千絵も楓子も俺にあんまり聞いて来なかったけど、慣れてはいてもやっぱり結構疲れるので横山香苗の存在は大助かりだったりした。


「さー、ごはん食べたら次は小物よー!」


 おー、なんて女性陣で拳を天に突き上げている。

 まぁ俺も腹減りましたけど、なんか買い物になると女性陣の体力底なしだよなぁと思い知るのだ。

 ちなみに今の店にも俺たちの世界風のアクセサリー系の小物は置いてあったが、どちらかと言えばこちらの世界の物が気になるらしい。

 アクセサリー関係に関してはその土地の特色みたいなのが出るが、シャルの話だと平民向けから貴族向けまで何店舗かあるらしい。





 で、最初のうちに話題に出た、元の世界の人間がやってる料理店である。

 表通りから外れた場所にこじんまりとあるせいで、なんかあんまり人が入ってないように思える。

 シャルを先頭に我が物顔で中に入ると、空いてる大きな丸いテーブルに座る。

 思った通りと言っては悪いが、外で感じた通り客は誰もいなかった。

 俺たちも中に入ると、店内はこの世界で普通の板張りの作りに、何処かの民芸品みたいなのが壁やら棚に飾ってあった。

 とりあえずシャルと同じように座ると、紙に手書きで書かれたメニューを見る。

 同じ事が二段に分かれて書いてあった。

 片方は微妙に接続詞が変だったので、これはと思い翻訳札をテーブルに置いてもう一度メニューを見ると、片方は日本語だった。

 カレイっぽい魚の煮つけ。って、ぽいってのが怖い。


「私は今日の定食」


 シャルはメニューも見ずに決めていた。

 こいつ、この姿で外に出ないって言ってたから町娘スタイルでしょっちゅう来てたな。


「豚っぽい肉の角煮って、ぽいってのがこの世界風よね」


 ちなみに千絵は角煮が好物だったのだが、流石に手を出しにくいようだ。


「大丈夫。ちょっと見た目が良くないのもあるけど味はおいしい」


 この世界人のシャル基準なのが不安だが、少なくとも味覚に関しては俺たちに近しい大丈夫だとは思う。


「シャルが定食で行くんなら、俺はこのカレーっぽい香辛料料理ってのにしてみるか」

「じゃあ私は豚っぽい肉の生姜焼き」


 どうやら角煮は断念し、同じ肉の別料理で様子見をする事にしたようだ。


「えー、じゃあ私はマグロっぽい魚の煮つけにしようかなぁ」


 と、シャルを筆頭に俺たち三人は割と早いうちに決めたし、横山香苗も少し悩んで季節の野菜のパスタにしていた。

 このパスタに関しては危険な雰囲気が無い。

 なんせ穀物自体はこの世界にもあるし、その中でパスタの生地として使えそうな物があれば麺は問題ないだろうし、野菜に関しても見た目や風味は馴染みない物だったが幸いにも不味いと思う程酷い物に当たった事は無い。アヤメさんの所で食べたアレも美味くは無いが吐き出す程不味い物でも無かったし。


「みんな早いよぉ、私は何が何だかわからないんだからー」


 シエルがふにゃふにゃとした声で不満を述べるが、一応この世界の言葉で書かれたメニューには、この世界の食材の名前が書かれているっぽい。

 単語は結構覚えて来たので何となく何を使ってるのかわかるが、見慣れない生き物だったり植物ではあれど元々日本が世界中から食料品を輸入してた国だったし、『へー、この動物って牛っぽい肉なんだー』と思う程度でそれほど嫌悪感は無い。

 どちらかと言えば、元々魚なんてグロテスクなのが多いから、肉よりは魚の方が嫌悪感が少ない。

 これで昆虫食だったりしたら全力でお断りだが。


「うー、じゃあ私はシェフの気まぐれ定食にする」


 と言うことで全員決まったので、すみませーんと声をかけると奥からいかにもな人が出てきた。

 どう見たってヤの付く自由業な人相。

 坊主頭に剃りこみが入っていて、ブラウンの透過率そこそこなサングラスを掛け、多分身長は俺よりあるし体格も兵隊系のゴリマッチョでがっしりしている。

 そう、どこぞのロケットランチャー担いで大暴れするタイプの元海兵隊系坊主をヤクザ風にすれば丁度合致する。


「おう、いらっしゃい。なんだやっとお前ら来たのか」


 そう言うと怖い顔に笑顔を浮かべた。

 あ、この人見た目に反していい人だ。


「日本から来た勇者一行が話題になったから、いつか来るだろうとは思っていたが思いの外遅かったな」

「いやあのすみません……」


 いい人だろうとは思いはしたが、見た目の怖さに委縮するチキンです俺は。


「今日初めて自由な外出。仕方ない」

「おう、そうか。で、お前ら何食うんだ」


 やはりと言うか怒ってはいないので、話自体はスムーズに進んだ。

 シャルの今日の定食、俺のカレー、千絵の生姜焼き、楓子のマグロの煮つけ、横山香苗のパスタ、そしてシエルのシェフの気まぐれ定食。

 このラインナップ、この人を見た後だと特にシエルのが危機感ある。


「煮つけはちょっと時間貰うな。なぁに待つって言ってもそんな長くは無いさ」


 そう言って、のしのしと擬音が聞こえそうな歩みで奥へ戻って行った。


「……元ヤクザ屋さん?」

「あれで三ツ星レストランの料理長やってたって言う本物の料理人。味は確か。学食の異世界料理も監修してもらった」


 そんな人がこんな表通りから外れた場所で店を開くって、本人としてはどうなんだろう。

 何だったらこの世界の料理を覚えて一流店を作れてしまえそうだけど。


「なんでこんな所で元の世界の料理なんて作ってんだろう」

「この世界に来る異世界人たちの為らしい」


 メニューを見ると料金も大分控えめに思える。

 この世界の物価にはまだまだ疎いが、俺たち全員食事しても銀貨一枚程度だろう。

 しかし、メニューにも魚系がチラホラ見えるが、この世界の流通事情的に魚の入荷は中々難しいらしい話を聞いた。

 やるとすれば転移門を使っての物流か、氷系魔法で氷漬けにして陸路で運ぶか。

 転移門自体は使おうと思えば使えなくはない施設だが、これも地脈を使っての魔法技術なので魔力の供給量的な問題で頻繁には使えないらしいので、基本的に物流には使われない。

 氷系の魔法で氷漬けにしたとしても、よっぽど高位のウィザードじゃ無いと港町からは遠すぎて途中で魔力が尽きて腐ってしまう。

 一応魚を使った特別な時に食べる料理と言うのもあるらしく、そう言う時は貴族が転移門の魔法を使えるウィザードを雇って運んでもらうらしい。

 よって、王都で魚を食べようと思ったら川魚がメインとなるのであるが、この世界の言語でメニューを見ても生息域が海の魚ばっかりだ。

 って事は、魚自体の単価は多分お高い。


「この価格設定でこの店やっていけるのか」

「無理」


 ですよねー、と頭の中で納得してしまったが、じゃあなんで今営業出来ているのだと言う疑問が。


「でも、料理人としての腕はあるから王城勤めの料理人への指導とか、貴族お抱えの料理人への指導で結構稼いでる」

「ああ……、その手があったか」

「他にも異世界の各種包丁や調理器具なんかの開発の監修もしてるから結構お金持ち」


 なんかホッとした。

 あの厳つい見た目にビビりはしたけど、この店をやってる理由を聞いてしまうと色々気を揉んでしまう。


「嬢ちゃん結構詳しいな」


 ほらよ、とシャルの定食が来た。

 ここまで数分である。


「シェリールとはマブダチ」

「ああ、そうか。あの王女にもまた来いって言っといてくれ」

「ん。それ言うといつでも来る」

「そりゃー嬉しいねぇ」


 と言いながらまた奥へ戻って行った。

 どうやら町娘スタイルどころか王女スタイルで来てた疑惑。

 いや立場上そっちでの姿で会う方が多かったとか、試食やらなんやらで結構食べてたとかだと思うけど。

 今日の定食は、エビフライっぽいのと小さなハンバーグっぽいのと魚のフライっぽいのがメインで、ごはんとスープがついている。

 ちゃんとキャベツっぽい野菜とポテトサラダっぽい物まで添えてあるのだから、あの人の本気度が見て取れる。

 って言うか米だ。

 一応学食でもたまーに見かけるから存在は知っていたが、こうして当たり前のようにあると感動を覚える位には日本人です。

 その後も短期間にポンポンと料理が出てきた。

 俺のカレーは真っ黒に近い色だが匂いはカレーで、よくよく見てみると野菜は別物だし肉も何肉かよくわからない。

 千絵の生姜焼きは見た目から匂いから何もかもそれっぽい。

 楓子のマグロの煮つけとやらは、元々大型の赤身の魚っぽいのを煮付けたようで、煮付けと言うよりかは見た目はマグロステーキにひたひたにソースをかけた感じ。

 横山香苗のパスタは予想通り、見た目麺は白いが質感はパスタっぽいし、季節の野菜とやらも瑞々しく鮮やかな緑で見た目においしそうである。

 で、シエルの気まぐれ定食だ。

 気まぐれって言うのは有り合わせの物だったりするのかと思ったのだが、なんかの牛っぽいステーキと何かしらの鶏のグリルと何かしらのソーセージ、とぶっちゃけミックスグリルっぽいのだが量が他より多い。


「なんか気づいたら多くなっちまった。食えなかったら周りに分けてやれ」


 がっはっは、と豪快に笑うが俺でも食いきれるか微妙な量の肉が乗ってるのだが。


「大丈夫。どうせみんな分けて食べる」

「そか。それとコレな、緑茶っぽいお茶」


 っぽい、と言うのはここまで来ると信用できる。

 まだ食べてないけど。


「んじゃごゆっくり」


 さて。

 各々いただきますと口にすると、おもむろに料理を口に運ぶ。

 人間、料理を見ただけで味や匂いが脳内再生されるされるが、見た目と匂いは十分それっぽいし美味しそうだ。

 これで味が予想外だったら、仮に美味しい物だったとしてもイメージの祖語で不味く感じてしまう程なのだが、一口食べて泣きそうになった。

 と言うか千絵も楓子も涙ぐんでる。

 横山香苗も文句なしと言った感じだし、異世界人組はそれはもう満足な味でございましたと。

 そうなるとこっちの世界の人間の味覚と合うかどうかだが、シャルは既に何度も来てるっぽいのでいいとして、シエルはどうかと見たら牛っぽいステーキが既に無かった。

 おう……。

 次の瞬間にはフォークを鶏のグリルに突き刺して、ほぼ一口で食うんじゃないかと言う勢いで口に突っ込んで噛み千切る。

 もっしゃもっしゃもっしゃ。

 ごくん。

 残りも突っ込んで、大人の拳二つ分くらいあった鶏のグリルが二口で消えた。


「あの、シエルさん……?」

「ん、はひー?」


 口一杯頬張ったはずなのに、既に半分くらい噛んで飲み込んでる。


「そんな一気に食って大丈夫なのか」

「すっごい美味しい。もうこれで喉詰まって死んでも許せるくらい美味しい」


 俺にも分けて欲しいなーと言おうと思ったが、これは奪えない。


「あ……、ごめんね、みんなで分けるって今言ってたばっかだったね……」

「いやいやいやシエルがそんなにも気に入ったならいいけど」


 食べっぷりの半端なさのがショックだったし。


「トモヤの貰う」


 なんてやってる間に、シャルが俺のカレーを強奪した。


「私もー」


 と千絵が手を伸ばし、楓子も伸ばし、なんか申し訳なさそうな顔で横山香苗も手を伸ばす。

 黒いだけでいわゆる日本的なカレーなので、匂いだけで手が出ないわけないのは俺も理解できる。

 実際日本にあるカレーだって黒っぽいのはあるわけだし。

 が、そういうのに慣れていないシエルにとっては、俺が食べている物が理解できない様子だった。


「それってどう言う料理なの?」

「香辛料ってわかるか。この世界でも味付けに使われるんだけど」

「うん、なんか辛かったり苦かったり臭かったりするあれでしょ?」

「それを調合した料理って言えば多分正解だと思う」

「へー。おいしいの?」

「じゃなきゃこうならないよなぁ」


 四方八方から伸びてきた手によって、俺のカレーはもはや三割程しか残っていなかった。


「私もちょっとちょーだい」

「はいはい」


 シエルが一口含み、もきゅもきゅと咀嚼する。

 飲み込んでから、急激に顔が赤くなった。


「かっ、辛い……」

「えっ、これそんな辛くないよ?」

「そうよねぇ。普通よりちょっと辛いかなー程度だと思うけど、ちゃんと辛いってよりかはカレーとして丁度いい辛さよね」

「ドワーフ族、基本的に辛い物食べない。苦手」


 シャルさん、それを先に言いましょうや。

 緑茶っぽい物を一気飲みすると、シエルは『ふあーっ』と大きなため息をついた。


「多分美味しいんだけど私には辛いよー……」


 まぁ辛みを感じるまでは美味しそうに噛んでたし、辛さを減らせばドワーフでも美味しく食べれるとは思うけど。

 その後に標的になったのは横山香苗のパスタで、野菜なんかよりも通常よりも白い麺に興味が行くのは当然で、一口貰ったが味はどちらかと言うと米粉に近い気がする。

 それでいてモチモチ感は米粉程無いし、塩茹でされてるから誤魔化されてる分はあるだろうが目を瞑って食べていたら普通にパスタと答えそうではある。

 それこそミートソースみたいな物に和えてしまえばわからなそうだ。

 当初、料理としてはシエルのが一番興味あったが、実物を見てどんなものか興味が湧くのは楓子の煮付けだ。

 少し貰ったが、醤油と酒とみりんっぽい風味はするけど、色はずっと濃いし粘度もある。

 魚自体の味は煮汁で誤魔化されてる感があるが、かと言って身が不味いかと言うとそうでも無さそうだ。

 ショウガっぽい物で臭みを誤魔化してるのもわかる。

 色々考えて想像してみたが、何とも評価の付けにくい料理だ。

 だが、これも魚の煮付けと言われれば確かにそうだし、それがマグロだと言われたらそんな気はする。

 実際、火を通して硬くなったマグロの身ってこんな感じだよなーと思うし。

 さて、とりあえず一通り食べてみたが、味は申し分なく美味いし見た目との齟齬も殆ど無い。

 これで六人で銀貨一枚程度とか何を考えているのだろう。


「で、こっそり食べに来てたシャルに言いたいことがある」

「ん」

「もっと早く連れてきてほしかった……」


 あの初期の食事に対してのある種の恐怖と言うか、コレ大丈夫かなみたいな頃に知ってたら毎日通ってた。


「こっちの世界の料理に慣れないで来たら、こっちの世界の物が食べられなくなる」


 正に思った通りの理由でした。


「にしても、こっちの世界でもこんなメシ食えるんだなぁ」

「ありきたりな食材もあれば希少な食材もある。国の力をフル活用で色々集めて再現した結果。個人レベルでこんな再現料理作れない」

「って事は、それを作る提案があった上に国が乗ったって事だよな」

「そう。異世界人を保護してるわけだし、衣食住で元の世界に近い物が欲しいと言うなら場合によっては協力する」


 前々から思っていたが、シャルって俺たちの世界の事に寛容すぎると言うかなんというか。


 食べ終えた所で食後のコーヒーっぽい飲み物が出てきた。

 そんな物まであるのかと思ったら、コーヒーの木に似た物は気候の関係か王国付近では見つからず、タンポポっぽい物があったので根っこを使って作ってみたら意外といけたらしい。

 タンポポコーヒーなんて元の世界じゃ飲んだ事無いし、そもそもコーヒー自体がさほど飲む頻度の高い物では無かったが、香りから味からコーヒーだったので何故か懐かしさを感じてしまった。


「店長」

「おう」

「俺を弟子にしてください」

「おう。……おう?」


 全員ポカンとしていた。


「いやお前、俺の弟子になってる場合じゃないだろ」

「じゃあ何か他の形で教えてください」

「まぁそれくらいなら……。にしても食材は大体高いぞ?」

「ここに転移門の魔法が使えるのがいるんで大丈夫です」


 ぽん、と隣のシャルの頭に手を乗せる。

 なんで私がと言う顔をしているが、俺たちにとって死活問題だ。


「まぁそういう事ならいいだろう。でも料理出来るのか」

「これでも特性は遊び人と主夫なので」

「……それは何というか、噂通りこの世界では生きにくい特性だな……」


 と言うことで店長の協力の元、寮でもお茶やコーヒーは勿論の事、簡単な元の世界の料理も復元される事になるのである。

 そもそも何で元から寮に無かったのが疑問だが。――って異世界人が少なすぎるから学食にあるだけでも優遇されているのか。

 飲み物自体はこの王国では紅茶っぽいのが主流で、それが別段問題無く飲めてしまうので困りはしなかったのだが――考えてみれば紅茶って緑茶の葉っぱを発酵させたものなんだから、十分緑茶を飲める可能性はあったのだ。


 その後アクセサリー関係を見つつ、この世界での主流が革製の靴の所、布と皮で作ってる異世界風靴屋を見つけてスニーカーっぽい物を買ったりした。

 もう自分たちが履いてきた通学用の革靴が限界だった事もあったが、何よりスニーカーっぽい物の方が軽いし楽だからだ。

 これも元々は異世界人が作っていた物で、今はその子孫が細々とやっているらしい。

 後日オーダーメイドの服が完成して出来上がったのは、ぱっと見では『街中で普通に見かける若い女の子』な千絵と楓子の姿である。

 その姿はこの世界では異彩を放つが、これが勇者である千絵や女神となった楓子が着ていれば事情が変わってくる。

 特に楓子の露出度低め且つ緩めな服装はこの世界の女性陣にも受け入れやすい物だったようで、『女神フーコフォロワー』として楓子に似た服装の女性が急激に増える事になった。

 千絵も寒い季節と言うこともあって厚着はする物の、膝上丈のスカートを履いてる時点でこの世界の女性的には少々受け入れがたいようだった。

 とは言えこれを機に、王国のファッション業界は異世界風へ舵を切る事になる。

 それでも制服のスカート丈は、防御性能の関係もあって一般的には膝下丈で落ち着くのだが。


 夕方に解散して夕食も済まし、いつものように部屋でゴロゴロする。

 さー今日も色々あったし寝ようかな、と思った所にサクラの魔力の気配を感じてベランダに出た。

 極々微かな物ではあったが、どうやら俺は魔力感知能力だけずば抜けているようで、千絵や楓子に比べても魔力探知の精度が上がっているようだった。サクラも魔力を隠蔽して来ているので他の面々には気付かれていない。

 カモフラージュにトラ子を抱いてもっふもっふしながら行くと、すっと透明化を解除したサクラがベランダの隅っこの柵に腰かけていた。

 サクラとしても俺がなんとなく気付いた事が分かったらしい。


「今日はどうした」


 ほらよとトラ子を手渡すと、膝の上でゴロゴロと顔をこすりつけては喉を鳴らす。

 この姿、楓子に見られたら『その人誰ですか、何ですかその懐きようは』といろんな意味でキレそうだ。


「さっきの不届き者三人組、貧民じゃなかったわよ」


 急にそんな事を言われ、一体何を言っているんだろうと少し混乱した。


「ん、いたのかあそこに」

「トモヤが外出するって言うんじゃ観察しないわけにもいかないじゃない。パパが根掘り葉掘り聞きたがるから」


 最初のうちこそベスターの子と言うのを隠す気配があった癖に、こっちには魔人族がいないからか最早オープンすぎる呼び方だった。

 って言うか特別サクラに報告をしているわけじゃないのに、何とも情報収集に長けた物である。


「根掘り葉掘りって……」

「あの三人、隠密スキルでずっとトモヤを見てた。あの後追いかけたら貴族の手下だったわよ」

「どっち狙いだったんだ」


 この場合、次期国王としての俺を良しとしないかシエルを良しとしないかの二択だ。


「どっちもだけど、どちらかと言うとドワーフの子ね。あの香苗って子からドワーフの存在を聞いて使えると思ったみたいよ」

「って事はシュバインシュタイガーか」

「そう言う事。一応脅しは掛けといたから、しばらく大丈夫だと思うけど」

「……脅しって何だよ脅しって……」

「盗み聞きしたついでに、当主の寝室に『お前達の事を気付かないと思ったか。今日みたいに下っ端をけしかける事があったら覚悟してもらう』って書置きしておいたわ」

 やる事が怖い。

 ああいった貴族の家は、王国内にあろうと警備はそれなりにしっかりしていると言う。

 それなのに当主の寝室に変な書置きがあって、それが何か事をした当日の晩だとしたら今頃真っ青な顔をしていても不思議じゃない。


「でもさ、なんでそこまでしてくれるんだよ」

「パパからトモヤの事を頼まれているもの」

「あ、はい……」


 ベスターがサクラを送り込んできた事自体、社会勉強云々と言う名目だが実質俺の様子見である事は感づいている。

 その上で、俺くらいとしか喋れないから良くしてますと言われたら、なんというか申し訳なさ過ぎて辛い。


「何はともあれありがとうな。今度何かお礼をさせて欲しい」

「それなら、私と一緒にパパの所に行くの、考えておいてね」


 じゃーねー、とトラ子を返したと思ったらさっさと消えた。


「ねー智也、寒くない?」


 と思ったら千絵が来た。


「生きるカイロがあるから大丈夫」

「それトラ子が寒いだけじゃない」

「戻るって。ちょっと外の空気吸いに来ただけだから」

「あそ」


 実際、俺以外が女性陣なせいで部屋の香りがなんというか、元の世界の千絵や楓子の部屋みたいにちょっと甘い匂いがするので、ずっといると外の空気を吸いたくなる。

 人間の鼻と言うものは疲労しやすく匂いには鈍感になりやすいと言うが、それでもやっぱり空間が女子のソレなのだ。

 それを知ってか知らずか、俺が偶にベランダに出る事に変に突っ込んでくることが無いのは助かる。



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