シエルさんマジぱねーっす その2
そそくさと表に出ると、いや俺一人じゃん単独行動じゃんとちょっと心細くなった。
そう言えばあの店主の名前を聞いていないが、看板を見ると『アンリの洋服』と書いてある。
店名としてはどうかと思うが、多分これは翻訳の魔法札の誤差だろう。
と言うわけでおそらく店主さんはアンリさんであろう事が分かった。
「トモヤー」
声に振り向くと、早々に開放されたシャル、では無くシエルが出てきた。
「私は採寸無いからトモヤの護衛だって」
「無いって、何で?」
「ほら、私この間採寸したばっかりだしね。他のみんなも半年以内に採寸してるから別にいいみたいだけど、この世界に来てからの食生活で太ったり痩せたりがあるだろうから一応だってさ」
「にしてもいやーマジ助かるわー。護衛云々ってよりも一人で街を彷徨うのはちょっと心細い」
「トモヤって変に素直だよね」
いやほら、冷静ぶってるけど俺もそれなりに浮かれてますし、ちょっとテンション上がってるから口も回るんです多分。
「んじゃ、ちょっとぶらぶらするか」
「うん」
今いたアンリの洋服店の位置は把握しているし、店に入る前に鐘が鳴ってた気がするので次の鐘が鳴ったら戻ってくればいいだろう。
「シエルは服見てなくてよかったのか?」
「可愛いんだけどサイズが無いもの」
納得。
「シエルって、こっちの女性の服装よりかは俺たちの世界の服装のが好みなのか」
「うーん、って言うか住んでた場所が場所だけに、みんなラフな服装だったから。ほら、布地が多ければ多い分、洗濯が大変でしょ?」
「そんなもんか」
「地熱で結構熱いってのもあるんだけどね」
「地熱って事は近くに火山でもあるのか?」
「ううん、世界樹の根って魔力も豊富だけど多少の熱を発してるの。それで地中に熱が籠るんだよ」
「植物なのに熱も出るのか……」
不思議すぎる。
「うーん、と言うか自分の生育にいい環境を作ろうと、自分が出してる魔力であたりを作り変えちゃうらしいよ?」
流石星を覆う植物だ。
「とりあえず、シエルの服に関してはシェリールに金を出してもらうから作ってもらおう。街中歩ける服ってそれか制服しかないんだろ? いやその服で何か問題有るわけじゃないんだけどさ」
今日のシエルは王都に来た時に着ていたと言うワンピース姿だったが、それ以外に見た記憶が無い。
その服自体は見た感じそれほど質が悪くも見えないし平民が着るような厚手の物でも無いので、おそらくそれなりに高価な部類だとは思うんだけど。
「いいのかなぁ。高いんでしょ?」
「いいだろ。多分」
「次の王様は適当だね」
「少なくとも自分のドレスに金貨何枚も使ってるんであれば、女の子に一着や二着服を買うくらい大した事無いだろ」
「そうかなぁ」
ここで『やったー』とかならないあたり、この子は根っからいい子だと思うんです。
と言うか金銭感覚がちゃんとしてるっぽい。
何かにつけて過保護なシャルが、まだ出会って二週間ちょっとのシエルと俺を外で二人きりにするくらいだし、シャルもシエルの事は信用しているようだ。
人間性な部分もさることながら、実力的にもシエル一人で王都を半壊させる程度にはあると思う。
「それよりもちょっとお腹空いたかも」
「昼まであと一時間ちょいはあるなぁ」
シエルの難点は、小さい体に有り余るパワーを持っているせいか、非常に燃費がよろしくない。
空腹も我慢できない程じゃないらしいが、ドワーフ王国自体が食料が潤沢にあるわけでも無かったらしく、叶うならずっと食べていたいと言う。
ここでドワーフの食糧事情にちょっと疑問が浮かんだのだが、シエル曰く食料の大半は輸入で、洞窟内で栽培できるキノコとかが主食だったらしい。
そこまでしてなんで地中生活に拘るのか不思議でしょうがないのだが、エルフにとっての世界樹がマザーツリーと呼ばれるように、ドワーフにとっても世界樹の根は信仰していると言ってもいいほどに大事にされているもので、その近くで住む事がドワーフの誉れなのだとか。
まぁその根から発生する魔力が最も大事っぽいし、それがあれば多少飢えていても何とかなるらしいけど。
逆に、外に出てしまうと根から遠ざかってしまうので、世界樹の魔力で補えない為に余計腹が減るらしい。
「でもさ、エルフって世界樹の魔力を浴びる事で成長が早まるらしいのに、ドワーフは小柄なんだよな」
「魔力の属性によるらしいよ? ドワーフ王国の場所が地中だから地の魔力になるみたい。地の魔力は生命エネルギーに近いって言われていて、生命力あふれる子供みたいに私たちは小柄だし、女性は魔力の影響で老けにくく男性は魔力の影響で老け顔になるって」
「不平等だ」
魔力による変化が足並み揃えて同じ方向を向かず、男女で逆方向に向かうなんて。
おそらく小柄なのはエルフの長寿と似たベクトルで、成長しない事で寿命を延ばそうとした結果なんじゃないだろうか。外見も女性が幼い顔のままでいる事も同じことが言えるし、男性のオッサン顔もその状態でほぼ変化が無いのであれば同じことが言えるだろう。
「若いうちなんて、老け顔であればあるだけ人気なんだから不思議だよね」
「その点女性は?」
「童顔で、特に目が大きくてパッチリした子が人気」
「……」
ドワーフ男子を少し憐れんでもいいだろうか。
「でもそれで言ったら、シエルって相当上になったんじゃないの?」
「あれ、私口説かれてる?」
「いやコレは普通の感想として」
「うーん、それなりにかなぁ。オッサン顔が嫌いで相手にしてなかったからよくわかんない」
と言うと、整った童顔且つパッチリとした目で俺を見上げてにぱーっと子供っぽい笑顔を浮かべた。
話に聞くとドワーフ女子の顔立ちは基本童顔ではあるのだが、目が大きすぎてアンバランスになりがちだったり、顔のパーツ全体が大きかったり、逆に小さかったりと意外と差が大きいらしい。
テレビの子役を見て、そこらの普通の子供と変わらないように見えてしまう子もいれば、この子将来美人になると誰もが言う程に整った子がいるのと同じだ。
そんなパーツの比率を考えてシエルを見ると、普通にめちゃんこ可愛い子だと言えよう。
二週間も経って何冷静に考えてるんだろうと思いもするが、まぁ大体シャルが傍にいたし、シエルと話すと自己主張してきたので、こうゆっくり二人でシエルと話すのなんてこれが初めてだった。
っつーかシャルって実はやきもちでも焼いてんのか。
「私はトモヤの事、結構好きだよー」
「そういう事を無邪気に真正面から言われると照れるんだけど」
「その割に真顔」
「いやほら、これまで千絵や楓子に散々いたずらされて来たから耐性はあるんだ。悲しい事に」
「トモヤってあの二人の事好きだよね」
それに関しては最早隠す気も無いのだが、普段から距離感が至近距離な付き合いなので灯台下暗し状態なんだと思います。
最近じゃシェリールとの婚約話で、他の女子に手を出さないのが当然くらいの空気感だしなぁ。と言っても俺の交流ある女子ってこれまで名前が出てきただけで終わるんだけど。
「それでもシェリール王女と婚約してるんだ?」
「俺の意見とか感情じゃどうしようも無い大きな流れってのがあるらしい」
「断ったの?」
「断ったけど拗ねながらダメって言われた」
「それで受けちゃったの?」
「うー、んー、結局俺って優柔不断なんだろうなぁ。あの場で二人が断固として止めてくれたら、意地でも婚約しないって言いきってたかもしれないけど、あの二人が折れて俺はその程度にしか見られてなかったんだなって思っちゃったら、なんかもう流れに任せちゃってて」
「それなら私がトモヤを貰っちゃおうかなー」
「はいはい」
何とも屈託ない笑顔で言うものだから、嘘か本当か区別がつかない。
まぁ悪い子じゃないし可愛いし、そう言われると慰められてるなぁと情けないながらも嬉しかったりする。
って言うか、なんで俺はこうもペラペラ相談してるんだか。
喋りながらも何となく表通りを歩いて回り、裏路地にもちょっとした店が立ち並んでいるのでくねくねと路地を行く。
王国は中心から十字に延びる表通りが最も栄えていて、そこから離れると『西区の平民街』とか『南区の貧民街』みたいな呼ばれ方をするエリアに入り、街並みが一変する。
北に王城があり、その周りに貴族家が軒を連ねているので北側が貴族街と呼ばれ、逆に遠い南が貧民街、東西が平民街となるようだ。
とは言え王都の中なので、貧民街と言えどそこまで酷い暮らしでは無いようなのだが、主に貴族が公爵を頂点に子爵や男爵と言った位があるように、貴族以外の民にもランク付けを行って行き、結果的にそんな分かれ方をしたようだ。
貴族連中はそう言った上下関係をハッキリさせたい傾向があるらしく、この風習は無くなりそうにないらしい。
で、その貧民街エリアにまで来てしまったのだが、古い洋風のアパートメントっぽい二階建てが立ち並び、壁には蔦が蔓延って時代を感じると言うか見るも無残と言った有様だった。
付近の住民は目に見えて汚い恰好をしているとかでは無いが、雰囲気からして表通りとは打って変わって少し闇を感じる。
貧民街と言われてるくせに、ここまで綺麗ならシェリールの治世もそれなりに上手く行っているのだろうが、当人達からしてみれば貴族との大きな隔たりは感じてるだろうし、変に刺激しないでさっさと戻った方が得策だろう。
なんせ俺、特に王都の中では滅茶苦茶顔知られてるし。多分シェリールや楓子の次くらいに。
「戻ろうか」
「うん。……こっちは賑やかじゃないんだねぇ。お店も無いし」
「まぁ、うん」
俺も知識の上で知ってただけだから、シエルがあまり知らないのも仕方ない。
「なぁなぁ兄ちゃん」
踵を返した途端に声をかけられてしまった。
相手は四十代くらいの王都では珍しいアジア系っぽい顔の三人組で、幸いにもチンピラとかその手の輩には見えない。
「兄ちゃんって、あの次に王様になるって言う異世界人だろ? なんでドワーフと一緒に歩いてるんだよ」
「ドワーフと言えば王国的には敵みたいなもんじゃねーの?」
「なぁなぁ、エルフ様に兄ちゃんは盾突く気かい」
見た目がそう見えなくてもタチの悪い奴等だったらしい。
どうもシエルを見てドワーフだと気づいた事と、この三人が三人ともエルフを神格化してる一部の人間と同類のようだ。
この王国の成り立ちからエルフを敬い奉る人たちは後を絶たないらしいが、その中でも神格化して神のように崇める宗教が実際存在するらしい。
この三人がそう言う物に属しているのかは知らないが、それと同類であることは言動から間違いなかった。
じゃなければ単純に誰かの差し金だ。
どっちにしたって相手にするだけ分が悪い。
「シェリールが彼女を受け入れると決めたので、どうにか彼女の事を認めてやってもらえませんか」
この世界は特性と言う厄介なものがある。
仮に相手が逆上し、戦闘系の特性を持っていた場合、グーパンチ一発で俺がお陀仏する可能性もある。
なので相手にするだけ分が悪い事は承知の上で、何とか穏便に済まないかと提案してみた。
「エルフ様がドワーフを受け入れるわけがねーだろうよ。兄ちゃんそいつに騙されてるんだよ。なぁ、目を覚ましてくれよ」
「そうだ、騙されてるんだよな。大丈夫、俺たちでそこのドワーフを退治してやっから。兄ちゃんはこの国の今後に必要な人だしな」
「どうやって始末しようかなぁ。そのガキみたいな顔を地面に押し付けて削ってやろうか」
ヤバい。
何がヤバいって、どう転んでもいいようにならないのが一瞬でわかってしまった事だ。
こいつら、元々シエルに狙いを定めてきてる。
俺は咄嗟にシエルの手を掴んで後ろへ走った。
方向的に貧民街の奥へ向かってしまうが、上手い事抜けられれば南門の方に行ける。
「おーいー! 待てよー!」
「ちょっとトモヤ、離して。大丈夫だから」
「違う、大丈夫じゃないんだ。ここは逃げなきゃ不味い」
「何でよ。私があんなの相手に負けるわけ無いじゃない」
「それがヤバいんだって」
ボチボチ行ってる一般兵団の訓練で体力はついた。
にしても、貧困街の男連中なら一般兵団に所属して報酬を得ていそうだが、あの三人は見た事無いし、もしあの三人が一般兵団で訓練に来ていたらシエルの事を知らないわけは無いだろう。
ああやって喧嘩を売ってくると言う事はそれなりに腕に覚えは有りそうだし、真っ当な人間なら一般兵団入りしていない方が不思議だ。
となれば素行が悪くて弾かれた者、王都在住で無い者辺りだ。
たまたま会ってなかった可能性もあるし、月に二、三回の訓練参加で報酬が出るから普段は他の仕事をしているのかもしれないが。
「どういう事なのーっ」
本気で走れば俺より早い癖に、俺に引っ張られるがままにシエルはついてくる。
「もしシエルが市民をぼこぼこにしたら、どんな理由でもドワーフが市民に暴力を振るったって事実が出来て、ああ言ったドワーフを嫌う連中が騒ぎかねないだろ。ただでさえドワーフを王国に受け入れる事は微妙な問題なのに、それによってシェリールを良く思ってない貴族がちょっかいを出してくる可能性もあるし。何よりシエルがここに居れなくなる可能性がある」
「うーん、そっかー……。私ってここでは嫌われ者のドワーフだもんねぇ……」
「シエルみたいないい子が嫌われ者だなんて俺は許さないからな」
「えっ」
ん、何だろう、一瞬変な空気になった。
「とにかく、その先辺りに南門があるはずなんだけど――」
南門前にある大きな宿屋の建物が目の前に立ち塞がっていた。
袋小路では無いが、右を見ても左を見ても来た方向に戻りそうなカーブを描いている。
もっとちゃんと区画整理しといて欲しいマジで。
あの三人組は思いのほか早く、数件分後ろまで迫っている。
「よっし。それなら私はトモヤを信じるね」
「へ?」
いつの間にかシエルにお姫様抱っこされていた。
「いよっ!」
すんごいGが掛かって地面が遥か彼方にあった。
そして、宿屋の屋根の上にいた。
「……ぱっと見五階建てくらいあったぞ?」
客室の窓の数を見れば何となく何階建てかはわかる。
そうじゃなくても、俺がこの王都に初めて来た時に物珍しさであちこち見てたから、最低でも五階はあったと記憶している。
「降りるねー」
「ちょ、まっ」
数秒の浮遊感の後に軽い衝撃。
俺は地面にいた。
あの高さから飛び降りて、なんちゅう身体能力してるんだこいつは。
って言うか小柄な癖に大きい胸部の感触が消えない。
いきなり飛び降りてきたシエルと俺を見て、道行く人がポカンとしてる上に南門の兵士までこっちに駆け寄っている。
「何事だーっ!」
「あ、どうも……」
「ん、あれ、トモヤじゃないか」
地獄に仏とはこの事。
今日の南門担当者は隊長さんだったらしい。
ざっと事情を説明して驚かせたことを謝罪し、この事は極力内密にしたいと伝えるとすぐさまオッケーが出た。
「嬢ちゃんには世話になったし、そう言った輩がいるのも知ってはいるからな。あんま無茶しないでくれよ」
「ほんとすみません。んじゃまた今度訓練に参加させてもらいますんでよろしくお願いします」
「おう、待ってるぞー」
手を振って見送ってくれる隊長さんに手を振り返し、とりあえずこの場から離れなければならないとシエルの手を取って中心部へ向かう。
「トモヤってさ」
「うん?」
「大した特性も無い癖に行動力はあるよね」
「いや、まぁ、うん……」
千絵や楓子とやっていた生徒会のおかげだろうなぁ。って言うか大した特性も無いのにって酷い。
もしも間違ってシエルがあの三人を切り殺すなんてなった場合、それこそ最悪なので意地でも逃がしたかった。
最悪俺一人残って金貨でもばらまけば足止め出来るかな、とか考えていたくらいだ。
「ちなみにこの事って、あの子たちに話す?」
「内緒にしとこうか……。シェリールに知られたら犯人探しと過激派探しで大騒ぎになりそうだしな……」
「私、トモヤだったらなんでも言う事聞いてあげるね」
「なんだよ急に」
「えへへー」
あんな事があっても満面の笑みを浮かべてるし、本人がああ言った連中に対して怒りを感じていないならいっかなーなんて。
まぁ、後日俺たちが何かから逃げ回ってたことが噂になり、シャルにはファンらしい奴に追いかけられたから逃げといたと誤魔化す事になるのだが。
既に第二部は全部書き終えててチェックしながらの投稿作業なのですが、やはりこの時期忙しすぎて死ぬる。




