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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
32/194

いつの世もどの世界でも女性の買い物は長い



 と言うわけで、俺は週何度か一般兵団の訓練に混ぜてもらう事にしたのだが、筋肉至上主義の方々が『とにかく筋肉だ! 筋肉さえあればパワーが出る!』と毎回必ず強引に拉致りに来る上に、本気で肉体改造させたいらしくプロテインっぽいのも飲ませてくるので、実際体格はある程度良くなってきてしまっていた。

 まぁ元が日本人なので、よっぽど恵まれた体格でもない限りは筋骨隆々な見た目にはなり難いし、良くて細マッチョかそれよりも少しがっちりする程度だろう。

 マッチョすぎるの嫌いと言う我が部屋の女子四人組はと言うと、日々締まる体を指で突きまわして何やら悦っているが、痛いしくすぐったいので本当に止めて欲しい。


 さて、シエルが来て二週間ほど経った辺りで、いい加減シエルの事が浸透して学校の連中も慣れたようだが、体格のいい人間だらけの中に見た目小柄で幼い子が混じっているので、どうしたって目立つ。

 その点シャルも同じではあるし実際他にも自分達より年下は少数人いるけど、ただでさえ目立つ幼さの上に種族的な問題もあるので仕方ない。

 幸いにも、と言うかシエル自身が物怖じしない性格らしく、ドワーフと言うことでどの程度馴染めるか心配し、何ならしょっちゅうシエルの動きを目で追っていたシャルも安心したようだった。

 まぁ貴族のお嬢様方のお茶会に普通に参加し、礼儀作法も会話も問題無くこなしているし、千絵や楓子、下手したらシャルより学校に馴染んでる可能性すらある。

 シエル恐ろしい子。

 実際、シエルの注目度は非常に高い。

 ガーディアン特性持ちと言う点もそうだが、通常前衛系の特性を多く持てば反比例して魔法系の特性が減る、もしくは魔法自体不得手になりがちらしいのだが、シエルの場合は一般的なウィザードレベルに使いこなす。

 ガーディアンとしての戦い方も単純にガチンコ勝負では無く技術面がしっかりしている立ち回りをするし、何なら小手先の技を多用したりもするので、他の前衛系の生徒からしたら強い癖に戦い方がずるいと言われることもあるようだが、ガチンコ勝負はその分リスクもあるのでシエルの動きはむしろ正解と言える。

 多分ドワーフと言う種族が人に比べれば格段に少ない事もあって、人のような集団戦術よりも個人での立ち回りに磨きをかける方が効率的だったんじゃないだろうか。

 住む場所も地下の洞窟のような所みたいだし、集団よりも個々の力が発揮させやすいのかも知れない。

 ガーディアンとしてですらその状態なのに、前衛が最も苦手な中距離や遠距離においても魔法で牽制して近づけるし、切りあいながらも相手の背後を起点とした攻撃魔法を使って不意打ちを食らわす事も出来るので、仮に個々人のパラメータみたいな物があったとしても、それでは計り知れない程の戦闘の才能を持っているようだ。

 って言うか、おそらくドワーフ王国で普通に実戦経験か、それに近い激しい訓練を受けていたとしか思えない。

 それくらい動きが洗練されている。

 もしくはそれくらいが当たり前の練度で、王国の生徒や兵士の練度が低いだけと言うのも全く考えられないわけでも無いんだけど。

 と言うのも、他の国では数十年周期で戦争が勃発しており、王国のように千五百年も戦争知らずと言うのは無いらしい。

 結局戦争や大規模な魔物討伐みたいなのが無い限り、こう言った技術は廃れて行く。

 少なくともシエルを見てる限り、フローラさんがドワーフ王国に侵攻しても一方的な蹂躙とは行かないように思えた。

 で、だ。

 そんなシエルは俺たちとも非常に良好な関係で、と言うかシエル自身が若者文化に非常に飢えていたせいもあるのだろうが、千絵や楓子とは親友と言えるくらいに仲良くなっていた。

 これには横山香苗もビックリで、言い方が悪くて申し訳ないがおそらく飼い主に偵察してこいと言われているようで部屋には来るが、シエルの勢いとか圧に負けてろくに喋れないでいる。

 横山香苗を保護――と言うのが本来正しい――しているシュバインシュタイガー家は、四公爵家のすぐ下に位置する程度には大きい、昔は公爵家として栄えていた家だ。

 これがシェリールの作ろうとしている貴族に偏らない王国とは真逆を好む家だったようで、前々から多少なりとの衝突があったらしい。

 それは寮での部屋割りでも見て取れて、家の格的には三階にいるべきらしいのだが二階に割り振られている。

 そこに横山香苗と同じ時間軸から来た異世界人が現れ、それがシェリールのお気に入りとあらば調べないわけは無い。

 ちなみにこの世界の同じ時間に生きている異世界人でも、ここに来る前の記憶では何年の何月何日だったと言うのを調べて照合すると、転移してきた日時と来る順番がバラバラだったらしい。

 この世界の一日の時間が元の世界よりも長いから、とか世界間移動による誤差だ、とか研究者は言うらしいが、どうもシェリール、と言うかシャルの話では神の気まぐれらしい。

 元の世界で死んだ人をとりあえずストックしておいて、特性を見て配置したり気まぐれで配置したりしていると言うのだ。

 それを聞くと、やはりこの世界に来る寸前の面談みたいなので言っていた、神々のゲームみたいな発言に信憑性が出てきてとりあえず殴りたい。

 明日異世界人が来たとしても、俺たちのいた時間よりも過去の人かも知れなければ未来の人かもしれない。

 そこら辺から同じ時代に生きていた異世界人と言うのは稀で、尚且つ同じ時間軸に生きていた同性同士なら仲良く出来るだろうし、こちらの内情やシェリールの弱味なんかも握れると思っているのだろう。

 実際に大きな爆弾は抱えているが、元々シェリール自体がシェイプチェンジ後の姿だし、シャルが寝ぼけていない限りは大丈夫だと思うけど。と言ってもシャルのシェイプチェンジ自体、別段バレた所で事情を説明すれば問題ないだろうし、むしろそんな幼子が王国の為に働いているとなれば好感度爆上がりな気がしないでもない。逆に子供に政治を任せられるかと怒り出すのもいそうだけど。

 シュバインシュタイガー家自体を何とかする気は無いようだが、今現在何かやらかす貴族がいるとしたらそこが筆頭になりそうだとの事で、シャルとしても気にしていないわけでも無いらしい。

 まぁ横山香苗の存在自体は実害が無いと言ってもいいし、何かあったとしても一国の軍事力に余裕で勝る二人とシエルがいる時点で何とかなってしまいそうだ。

 これで反シェリール組織みたいなのがあって一斉蜂起でもされたら面倒な事にはなるが。


「それで、買い物に行きたいの」


 自分のベッドに寝転がり、腹の上で丸くなるトラ子をもっふもっふしながら何気なく耳を傾けていたのだが、どうやらシエルは学校の敷地から出たいらしい。

 俺たちもシャルの転移門以外では出ていないが、ちょこちょこと出る機会があるからか、何となく上手くやっている。


「全員で行動するならおっけー」


 思いのほかと言うよりか度肝を抜かれる程あっさりと許可が出てしまった。


「ねぇシャルちゃん。それってシェリールちゃんに聞かなくていいの?」

「いい。元々希望があればこう答える事になってたから。あんまり好き勝手出歩いてほしくないから言わなかっただけ」


 何だよ。

 って言うか、楓子の目が爛々としてることの方が思いのほかだった。

 こういう場合、絶対千絵の方が反応するのに。

 その千絵はと言うと、シエルをじーっと見てあーでもないこーでもないと言っているので、頭の中でシエルの私服のシミュレートでもしているのだろう。

 元の世界で言う子供服系の物になってしまうんじゃないか、と思ったが胸だけは凶悪に育っているので下手したらオーダーメイドだ。

 シエルが普段着にしているワンピースもドワーフ王国で裁縫を生業にしてる人に作ってもらったらしいのだが、着の身着のままこっちに来たらしく一着しかないから、制服かそのワンピースかの二択になってしまうらしい。

 幸いにもと言うか学校生活をしている分には替えの下着さえあれば問題無かったようだけど。


「お金足りるかなぁ」

「大丈夫よ楓子。そこにお金使わないのがいるから」

「おいこら馬鹿言え」

「何よ、何か買う気?」

「……いやまぁ特にこれと言っては――トラ子の餌くらいかな?」


 そろそろ尽きそうだし。

 そう言えば、トラ子の餌を最初に貰った貴族の所へは、ついこの間行ってきた。

 愛猫家との事でさぞかし猫だらけなんだろうなと思っていたのだが、行ってみたらある意味地獄絵図。

 巨大トラ子では無いにしろ、ライオンサイズの猫があちこちで飛び跳ね駆け回り丸くなって寝ていた。

 で、そいつらが俺を見つけて駆け寄ってくる、と言うよりかは飛びついて来てガチで死ぬかと。

 その辺り、一緒にいたシャルが物理シールドを展開して完全シャットアウトをしてくれたし、連れて行ったトラ子もシャルが魔力を注入して巨大サイズ――座った状態で人の背丈以上の大きさ――になって俺の前に立ちふさがってくれた。

 やっぱお前が一番の仲間かもしれない。

 そのトラ子の姿を見た愛猫家の貴族は甚く気に入ったようで、巨大トラ子にも物怖じせず真正面から首元に抱き着いてもふもふしていた。


「うん、まぁ別にそれくらいっちゃーそれくらいなんだがー」


 俺たちには、国からお小遣いが出ている。

 異世界人で学生をやってる間は一律で出るのだが、そもそも俺はベスターから貰った金貨が手つかずで残っているので、お金の心配をする必要が全く無かった。

 うん、それなら別にいいかな。

 と言うか外出する機会が殆ど無いから使ってないと言うよりかは、金貨一枚の価値が高すぎて使いにくいのだ。

 フローラさんから貰った銀貨があるからいいけど、どこかで上手いこと両替出来ないだろうか。


「無駄使いするなよ」

「ちゃんと智也の分も選んであげるわよ」

「……なーんか自動的に服買いに行く事になってる気がするんだよなぁ」

「え? だって買い物って大体それでしょ?」


 ねぇ、と千絵が喋る隙間が無く笑顔を張り付かせていた横山香苗とシエルに聞く。


「勿論他にも小物とかお化粧品とか色々見るけど……」

「私はね、チエやフウコの世界だとどんな風なのか知りたいからお任せだよ」

「あは、あははー……」


 私、ここにいる意味あるんだろうか。

 もうずっと横山香苗がそんな顔をしている。

 本人としては上からの命令があるし、かと言って千絵や楓子と仲良くしたい気持ちもあるだろうし、しかし演技力抜群に立ち回る実力もなさそうだし、これは非常にかわいそうなポジションだ。

 勿論横山香苗の状況等々についてはこの場にいる全員が大体わかっているが、それをわかっている風も出来ないので、こちらとしても横山香苗を救い難い。

 これでシエルが居なければ千絵と楓子と三人で日本人女子会をするのだが、シエルが若者の女子文化に貪欲すぎて千絵と楓子に質問しまくっているのだ。

 問題は、俺たちが殆ど外を出歩いていないから店の品揃えが全く分からない事で、『私たちの世界ではこうだったのよ』と言った会話に終始してはいるが、それもそれでシエルの好奇心を滅茶苦茶刺激するらしい。

 流石、諸々が嫌になって自国を飛び出してきた若い娘さんだ。

 その点において横山香苗に一条の光が差し込んだようで、『えっと、こういうのを扱ってるお店があってー』と女性陣に説明している。


「シャルは何か買うのか?」

「ん……選んで」

「子供服かな? んが」


 俺と同じように隣でごろ寝してたシャルが俺の頬にグーをねじ込んできた。

 だって、シャルに関してはシエルのように一部の発達も無く、普通に子供服でいいんですもの……。


「私だってシェイプチェンジすればバインバインに」


 なお、シェリールの姿でもバインバインじゃなかったのは、本人が上手くイメージできなかった為だそうで、無理して失敗して大惨事になる可能性を考えると、もうぺったんでいいやとなったらしい。

 なんかもう哀れでお兄さん涙出てきちゃう。


「お、おう痛いぞシャル痛い」

「超失礼」


 ぐりぐりと。

 何を考えていたか容易に想像がついたようです。


「でも覚悟しろよな。絶対無事じゃ済まないから」

「どうして?」


 そんなの言うまでも無いと思うのだが。





 なんでそんな話になっていたのかと言うと、翌日が学校の休みの日だったのだ。

 みんなして朝食を食べて支度をすると、寮の前に出て横山香苗を待つ。

 合流すると、シャルを先頭に初めて自分の足で学校の敷地外に出た。

 ここまで苦節四か月弱になるのだろうか。

 なんか目まぐるしくていつの間にって感じだが、季節は既に冬だ。

 この世界にも四季はあるのかと言えば非常に微妙で、王都よりも北へ行けばある程度四季っぽい変化はあるらしい。

 日本にしたって南は暑いし北は寒いが、王国の場合は日本よりも何倍も大きいようで、四季として定義していないようだ。

 とは言え夏と冬はハッキリ分かれてるわけで、寒い季節が続けば冬だなぁと思う物なのです。

 表門を出て王城方向に少し歩くと、前に徒歩で学校に来た時に見た店が見えてくる。

 大抵は雑貨系、もしくはカフェテラスっぽい店に雑貨が置いてある場合が多い。

 学生がそれなりに多い事もあって、学校が休みの日はこの辺りは学生だらけになり、カフェの客も三割四割は学生っぽい。

 まぁ学生は学生だけど、そう言った優雅な休日を満喫するのは貴族の子くらいなものである。

 付き人か金魚の糞的なポジションじゃない限り、平民だけでこのクラスのカフェには中々入れないと思う。

 

「どこに行くんだ?」

「王都のメインストリート。トモヤが初めて王城に来た時に通ってきた所」

「あー」


 兵士に連れられて歩いた表通りを何となく思い返してみて、色々店があったなぁなんて。


「学校の回りは学生向けのお店が多い。本来はメインストリート付近にお店が集中していて、行商人が買い付けに来たり他国の旅行者なんかも買い物してる。異世界人が異世界人向けにやってる店なんかもある」

「どんな?」

「この世界の食材であっちの世界の料理を再現とか」

「行く」

「絶対行く」

「ラーメン食べたい」


 横山香苗のラーメン発言には一同笑った。

 実際ラーメンは過去の勇者が再現したらしいのだが、そのレシピが上手いこと伝わっておらず大分変化してしまっているようだった。

 なのであるか知らないが普通のラーメンが食べたいとの事。

 さて、そんなわけで表通りまで出ると、まー目立つ目立つ。

 先頭に小さいとはいえエルフが居て、その後ろに次の王と目される俺がいて、その更に後ろに勇者二人だ。

 シエルの事が外で噂になっているかは知らないが、少なくとも人相なんかは知られていないだろう。

 ドワーフと一目でわかるかどうかは、女の子の場合ドワーフと交流がある人ならわかるかな、程度らしい。

 これで男だと小柄で滅茶苦茶オッサン顔だから一発らしいが、女の子は逆に小柄で童顔だから子供に見られがちだと言う。

 だが、見る人が見れば、その大きな瞳や小柄な割に骨太でしっかりした体で判断がつくらしい。


「この辺りは屋台が多い」


 とシャルが言う前から他の女子達が一斉に屋台を物色しに行くのだから、集団行動とは何ぞやと考えさせられる。


「むー……」


 シャルも少し不満気だが、逆にくっついて来て俺の手を掴んだ。


「迷子にならないように」


 見た目的に、どう考えてもなる方はシャルっぽいよなぁと思ったが絶対に口に出さない。


「にしても、あいつらはしゃいでるなぁ」

「逆にトモヤはなんではしゃがないの」


 表に出してはいないだけで実際外に出た解放感に喜びを感じていないわけはなかった。


「いやさ、ああも暴れまわってるの見ると逆に冷静になると思わない?」

「思う」


 前を行く四人は、屋台だろうが表通りのお店だろうが全てに興味を示しては大はしゃぎをしている。


「って言うか、横山香苗に関してはさ、普段から外出てるだろ」

「そこは女の子だから。友達と一緒に遊びにくれば楽しいと思う」

「――」


 シャルの、何とも普通の女の子発言に滅茶苦茶違和感を感じてしまった。


「何」

「あ、いや、うん、まるで自分がそうしたことあるように言うから」

「無いと思った?」

「うーん……」


 全く想像がつかない、と言うかシャルの内情をある程度知っているだけに、誰とそんな風に遊び歩くんだろうと考えてしまう。


「まだまだトモヤの知らない事、一杯ある」


 ふふん、と得意気に言うような事なんだろうか。いやシャルの事を思えばそうなんだろうなぁ。

 なんせまだ実年齢八歳だし。

 あるとすれば同族であるエルフの子と出歩いたりしたのだろうか、とも思ったがシャルの姿で学校外に行く事は無いらしいので、その場合シェリールかカモフラージュ用にシェイプチェンジした姿か。

 どっちにしても想像つかなかった。


「ねー! 私たちの世界の服売ってるんだけどー!」


 キャーキャーと。

 千絵が早く来いと手招きするので追いつき、ショーウィンドウを見ると確かに元の世界にありがちな普通のブラウスにスカートに何らかの毛皮のコート姿のマネキンが置かれていた。


「ここは異世界人の店。この世界の服も作ってるけど、元の世界の服も作ってる。クローゼットにあったスケスケ下着もここの」


 って事は、わざわざお前はそれを買って入れておいたって事だな。

 よし後で何かしらのお仕置きだ。


「香苗はここ来てるの?」


 千絵がなんで教えなかったと言わんばかりに拗ねた顔をしている。


「高いから来れないよー。普通に服買うよりも何倍もするんだもん」

「この世界の生地は基本厚手で荒いから、そっちの世界の服を作るのに合わない。だからそれ用に生地を作るところからだから高くなる。生地の質がいいから貴族のパーティー用ドレスは大体ここに注文する」

「俺たちの制服のシャツなんかは普通にいい布だったと思うけど」

「制服もここで作ってもらってる」


 千絵を筆頭に女子四人はさっさと店内に行ってしまった。


「ちなみにおいくらなんだ。普通の服で」

「平民の一か月の収入じゃシャツ一枚も買えない」

「……おう」


 異世界に来たものの、戦えない人は何かしらの職について稼がなければならない。

 ここの人は実店舗として大通りに店を構えているし、大成功した人なのだろう。


「ちなみに私が出資した」


 ふふん、と。小声で俺にだけ言うから、恐らくシャルというかシェリールが出資したのだろう。

 考えてみれば異世界人であれば特性すらシャルは知ってるし、本人がどの程度洋裁が出来るか見れば出資するかどうかの判断も出来よう。


「つまり、シャルが気に入るものを作ったんだな」

「私のドレスも私服も全部作ってもらった」

「いくらしたんだ……」

「出資したから、原価でいいって言われてる」


 それでも結構しそうだと思うのだが。


「それよりもトモヤが大変。これまで王国から出たお小遣い全部なくなる」

「それだよなぁ」


 ベスターから貰ったのは金貨なのでこの場で出せないが、フローラさんから貰った分は銀貨だから多少は誤魔化して使える。

 こうして考えると本当に金貨って使いにくいなぁ、と言うかベスターとの関係を言えない時点で使いようが無いんだけど。

 二人して外で待っているのも変な話なので、四人を追って中に入るとこの世界の服で溢れていた。

 あちこちに掛けられている服なんかには目もくれず、一角に集まって何やら騒いでいた。


「基本的にこっちの服なんだな」

「当然。この世界の人たちはそっちの世界の服を好まない、と言うか露出が多くて嫌がる。でも貴族にはそっちの世界のコートとか人気」


 そう言われ、そう言えばそれっぽいのを王城で見かけた気がする。

 コートと言っても色々種類はあるが、こちらの貴族が着ているスーツ系に合うトレンチコートと言えばいいのか、特に違和感無かったので深く考えもしなかった。


「異世界の寒いところのファッションは貴族の女性の間で人気」


 そう言って指さす先には、なんかロシアとかそっちの方で着られてそうな毛足の長いもこもこのコートとか帽子が並んでいた。

 決して需要が無いわけでは無いが、いわゆる若者ファッションはこの世界に受け入れられなかった様子。

 で、四人が何を見てるかって、その若者ファッション系コーナーだった。

 売れない物でも置いておく辺り、こだわりなのか未練なのかはわからないが、その少ないラインナップでも目を輝かせて見る位に千絵も楓子も喜んでいるようだった。


「いらっしゃい。珍しいお客さんね」


 騒いでいたからか奥から店員が出てきた。

 黒髪ショートの三十代行くかどうかの女性だ。

 もう見た目からこっち側の人だとわかるが、その服装は俺たちの世界の物でジーンズにフリースっぽい上着を着ている。


「シャルロットもいるのね」

「うん、来た。あっちの服沢山見せて欲しい」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 ちょっと待つのはシャルだ。

 また奥へ引っ込むのを見てから、シャルの頭に手を乗せて無理やりこっちに向ける。


「外ではその恰好じゃないんじゃ?」

「採寸するのに必要だった。バレてない」

「あ、そう」


 言われれば確かにである。

 少しして、手ぶらでお姉さんは戻ってきた。


「ちょっと多いから奥へいらっしゃい」

「この人服作るの趣味だから、店頭に並んでない物沢山ある」

「そうそう、シャルロットに上げようと思って何着か作ってたから持って行ってよ」

「うん」


 そう言ってシャルまで女性陣に混ざってしまった。

 さー、こうなると男一人手持無沙汰になる。

 何となく遠目に見ていると、どうやら服に関しては本当に様々な物があるようだった。

 全体的に流行り廃りを感じさせない普通のラインの物が多いが、かと思えば昔こんなの流行ってたっけなーと言う物もあるし、どっかのコスプレ衣装じゃないかと思うようなナース服やらチャイナ服やらバニーガールなんてものまであるあたり、完全に趣味の世界である。

 それもねじ曲がった方に。

 誰が着るんだこの世界で。

 千絵や楓子や横山香苗と言う元の世界組は、服を手に取って体に合わせては『これと合わせよう』だの『こっちのがいいかも』だのとワイワイやっているが、シャルとシエルはそれを観察している感じだ。

 俺たちのいた世界のファッションと言う物は多岐に渡りまくってる上に個人の感性によりけりだが、こっちの世界の女性の服装は先ほどシャルの言っていた生地の問題か厚手のワンピース系が非常に多く、上下の組み合わせとかあまり考えないらしい。

 男性の服も作業系の人はツナギっぽい服が多かったりするらしいが、大抵は厚手で丈夫なシャツとズボンが主体で、それに上着を着るかどうか。

 貴族階級になると質のいいシャツにズボンとなるが、それが元の世界で言うスーツ系の物で、貴族階級の女性になると質のいい薄手の肌着にフリル過多だったり装飾多めのワンピースタイプの服が基本のようだ。

 そんな風に大体の服装が決まってしまっている為、こっちの世界では尚更俺たちの世界の服装は手を出しにくいらしいとの事。

 固定概念を崩すのって大変なのはわかる。

 日本の若者向けのファッションなんて一部は露出高すぎなわけで、そんなの着て外に出歩けるかと言うのが一般的な評価だと言う。

 ただ、貴族の男性用のスーツは意外と古いタイプよりも現代風のシュッとしたスマートなタイプが好まれる傾向にあるらしいので、露出云々さえクリアーすれば特に既存の物でも異世界風の物でも受け入れられるっぽい。

 むしろパーティー用のドレスなんかだとある程度露出もあるのだから、異世界風でも結構行けるんじゃないかなーと思うのだが、公爵家が着ない事には『あいつ目立つ気だ』と思われかねず中々難しいらしい。

 で、公爵家は公爵家でそう言った冒険はせず堅実に行く風潮があるらしく、中々思うように普及しないとの事。

 って言うのも胸元から背中までぱっくり開いてるドレスとか、この世界の人の倫理観では冒険を通り越して一種の露出狂扱いだろうけどな。


「生地が全然違うんですね」


 仕立て前の生地のロールがいくつも転がっていたので観察してみたが、麻布っぽい物もあれば絹っぽい艶やかな物まであった。


「基本的にはあっちの世界と変わらないのよ。ほら、ジーンズの生地みたいなのもあればツルツルのシルクみたいなのもあるじゃない?」

「はい」

「そっちの荒いのはそこらの村々で織られてる流通が一番多い物だし、そっちの綺麗なのはジャイアントキメラワームの糸を織って作られた物ね。ほら、貴方たちの制服にも使ってるのよ」

 そう言えばそんな話を最初に聞いた気がする。

「ジャイアントキメラワーム自体は極少数だけど蚕みたいに人間の手で養蚕してるからある程度確保できるんだけど、それでもドレス一着分となると一匹が一年間吐く位使うのよねぇ。王女様の一張羅なんか、元々変種だったジャイアントキメラワームの更に亜種から五年掛けて取った滅茶苦茶細かい糸を使って作ったんだけど、あれ原価でも金貨十枚だから」


 だそうだぞ、とシャルを見ると目を逸らされた。

 金貨十枚って。銀貨ですら結構な価値があるのに金貨って。

 価値がありすぎておいそれと使えなくて困ってる俺がいるってのに。

 ざっと二百万くらいかなーなんて大まかに計算すると、意外と安い気がしないでも無いが原価がだ。

 そこから技術代やら諸々掛かかるのだから、手作りの一点モノとして考えると一千万とか行くんじゃなかろうか。

 だがしかし、うーん、一国の姫ともなれば逆に安い気がしないでも。


「品種によってやっぱり違うんですか?」

「肌ざわりとか勿論違うけど、この世界特有の話だけど魔力の通りがいいのよ。王女様のは防汚魔法だけじゃなくて防御魔法系一通りかけても付与魔法で喧嘩しないし、何なら持続ヒール系の魔法もかけてあるからほんの少し疲れにくい効果もあるのよね」

「付与魔法で喧嘩って?」


 問うと、楓子が顔を上げた。


「私たち人間にも魔力量の上限があるみたいに物にもあってね、それを超える付与魔法をかけると打ち消しあっちゃうの。私たちの制服でも結構多くかけられてるらしいよ?」


 そんなのまだ授業でやってないから、お茶会での情報だろうか。


「持続ヒールってのも初めて聞いたなぁ」

「普通のヒールの数百分の一程度の効果だけど生地にヒールが付与されてるの。それを本人か空間の魔力で発動させるんだけど、低位のヒールじゃないと使用魔力が多すぎて魔力欠乏症になっちゃうのよね」

「防御魔法系も何種類もとなるとそうじゃないんですか?」


 防御魔法自体は気休め程度であれば非常に魔力消費は少ないらしいが。


「そこはほら、王女様の魔力量って王国でもトップクラスらしいから」


 それもそうか。

 転移門の魔法をポンポン使えるだけの魔力があるんだし大丈夫か。


「それにしても、今度王女様からあなた達のドレスを新調してくれって言われてたんだけど、丁度実寸取れるじゃない」


 ほら一人ずつ来て、と最初にシャルが拉致られた。

 新調って何かイベント事あったっけ?

 シャルに聞こうと思って目で追っかけて行ったら、ずぼっと、それはもうあっさりとシャルの着てるワンピの後ろのボタンを外して上に引っこ抜いた。

 そして現れる幼女の裸体である。

 さー後ろ向こう。


「外行ってまーす」

「三十分か四十分で終わるから時間潰しててねー」


 なんつーか初対面なのに、すげーフレンドリーな店主さんだった。



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