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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
住めば都の異世界生活編(自分を除く)
3/194

地獄に仏が実在したと言う実例




 数秒にも感じれば数時間にも感じるような不思議な感覚の後に、俺達の下には突如として石畳が現れたのだ。

 地面にうつ伏せで這いつくばっていた。

 顔を上げて辺りを見渡せば、そこにはアジア系とは違う顔の人と中東辺りにありがちな土壁の建物、家はそんななのに目の前には加工された石でできた噴水なんかあっちゃって、おー、すげー異世界だすげーなんて口にしてしまう。

 チラホラと見える辺りの人たちは俺達を見て驚きこそすれ、騒ぎにはならず遠巻きにチラチラと見て来る程度だ。


 さて、これからどうすればいいのだろう。

 記憶の上では自分たちは下校途中で夕方だったのだが、この世界は非常に明るい。

 自分達の姿はいつもの制服姿だし、下校時に持っていた鞄やポケットに入っていたスマホもそのまんまある。勿論圏外だったので一応電源は切っておいたが、表示された時間は下校時刻よりも一時間程進んだ十八時過ぎだった。

 それなのに現在は真昼間。

 とりあえず、地べたにペタンと座り込んで呆然としてる二人をそのままにしてもおけないので、噴水の周りにあるベンチに二人を引っ張り上げて連れて行き座らせた。


「千絵、楓子、大丈夫か」


 声をかけてもまともな反応は無い。

 無表情でぼーっとしているような、気が遠くなっているのか色々頭の中を駆け巡ってるのか、今すぐ何とかなりそうではなかった。

 うーん、ここの人達って言葉通じんのかな?

 とにかくこのままでは埒が明かないので、すぐ隣のベンチからこちらの様子を窺っていた四十半ばくらいに見える青髪の白人のおじさんに声をかけてみた。


「あの」

「あwせdrftgyふじこlp」


 たいへんだ。いみがわからない。

 何やら好意的な笑顔で返事してくれたのに、キーボードを適当に打った文字列を読んだような言葉で意味がわからない。

 ヤバいぞこれは。

 千絵のせいで生徒会役員に立候補なんてさせられた結果、仕方なしにコミュニケーション能力を磨いて何とか体裁を保ってきた俺でも、言葉の壁がある以上どうしようもない。

 これでボディーランゲージで何とかなるんならいいけど、これも国の違いで失礼にあたったり、場合によっては射殺されても仕方ない事もあったりするらしいので、あんまり下手に動けない。

 うーん、すんごい優しい笑顔で何か喋ってるんだけどなぁ。

 って言うかすげー髪色だなぁと思ったら、黒とか茶とか金髪の人の方が少ないってくらい奇抜な髪色の人ばかりだった。


「ぉきじゅhygt」


 しばらく話しかけてくれたおじさんは、俺が困ってるのを見て何やら気付いたのか、俺に向かっておいでおいでと手招きしてきた。

 そこら辺の仕草は日本人と変わらない。

 おいでおいでの仕草って、英語圏だと手を逆向きにしないと逆の意味になるはずだから、ジェスチャー文化は日本的なのだろうか。

 手招きされても、あの千絵と楓子を置いて行けないので、おじさんに申し訳なさそうな顔をして二人を指さした。


「bhじんkp」


 自信満々に親指をビンと上に立てた。

 そして、駆け足で案内しようとしたらしい方へ走って行ってしまった。

 さー、困ったぞ。

 あのクソ神様、言葉くらい何とかしといてくれよ。

 どう考えたって地球上の言葉には思えないし、アルファベットの羅列を無理やり読んだ風にしか聞こえない。

 これから頑張って言葉を覚えなきゃいけないと言う果てしない労力は、割と楽観的且つ実は勉強自体はそこそこ出来る俺でも勘弁して欲しいと切に願う。

 だって日本語ですら昨今の日本人は正しく使えなくて、必須科目の英語ですら日常会話が出来る人の方が稀で、さらにもう一言語大学で取る事になったらちんぷんかんぷんで放り投げるだろうなと思っていたのだ。そこに来て異世界語とかシャレにしたって凶悪じゃなかろうか。


 何にしても頼みの綱はさっきのおじさんと言う事にしといて、二人の前に立って虚ろな目をしてる二人の肩を叩いたり頬をぺちぺちしてみた。

 さっき起き上がらせた時も反応が殆どなかったけど、一応反応と言うか嫌がる風ではある。

 うーん。


「何なら胸でも揉むか」


 うっかり言葉に出してしまったが、特に反応は無い。

 え、いいの? 揉んじゃうよ? 千絵はバスケをするには大きくて邪魔だとか言うくらいにはあるし、楓子は男子生徒がすれ違う度に凝視すると言われる程立派なものをお持ちだ。

 いいのかな? 昔、一緒にお風呂に入った事もあるし、何かそう考えるとセーフなような気がしてきた。

 よし、とりあえず肩から。


「やめて」

「はい」


 千絵がはっきりこっちを見て言いました。

 正直怖いです。


「何で、そんな、普通なのよ」

「お前は俺が普通に見えるのか」

「……」


 そう、俺も多少は混乱している。

 覚えている光景から恐らく死んだんだろうなと思いはするし、目の前に広がる世界は見知らぬはずなのに五感は現実感を訴えていて、こんなの知らないと思いつつも村の光景や心地いい気温や風の匂いや地面を踏みしめる足の感覚までハッキリしているから、実は生きて海外にでもワープしたかなとか思っちゃったりしなくもないのだ。

 まぁワープとか言っちゃうあたり、超常の現実を受け止めつつあるのだろうけど、そっか、俺死んで異世界飛ばされたんだなとか簡単に納得出来るわけも無い。いや確かに神様には行くって言ったけどさ。


「とにかく何とかしなきゃってのはわかってる。色々考えたり思う所あったり頭の中ぐちゃぐちゃだけど、今この場で騒いだところでどうしようもなさそうだから、とりあえず冷静になろう」


 そう、冷静になろう。

 何とかして現状を打開しなければならない。

 それには楓子が一人で動けるようになってくれると助かるので、転がったせいで砂の付いてる頭に手を乗せてわしゃわしゃした。

 人目がある所では嫌がるけど、昔から家族や俺達にされると喜ぶ楓子スイッチである。

 世の女子の何割かは頭ぽんぽんを好むなんて話もあったが、楓子の場合はぽんぽんでは足りないらしい。

 とは言え公衆の面前でわしゃわしゃやる光景は恥ずかしい。

 何とか再起動した千絵も、いまだ呆然としてる楓子の手を取ったり抱きしめたりして声をかける。

 少しして、ツーっと楓子の目から涙が流れて来て、ようやく俺達を見た。

 何かしら心の整理がついたのか、ただ気が付いただけなのかはわからないが、千絵と向かい合って無言で見つめあったかと思うと、二人して抱きしめあっていた。


「rrtryyp」

「うおっ」


 急に未知の言語で話しかけられるとすげーびびる。

 日本語に直すならば、『るるとりぃぷ』と言われた感じだが、日本語的な発音では無いし、かと言って英語みたいな物でもない。幸いにも電子音のような機械的な音じゃなく、何かしらの感情が乗ってる温かみのある声ではあるのだけど、何にしたって意味わからな過ぎて怖い。

 いつの間にかさっきのおじさんが戻ってきていたのだが、どうやら人を連れてきたらしかった。

 見た目は三十手前くらいのアジア系――と言うか日本人の女の人で、髪はベリーショートで身長は女性としては平均的な所だと思う。細見でブラウスにウェスタンチックな革製っぽいベストにロングスカートと言う服装。

 この村の人が大体そんな開拓時代のアメリカ人みたいな服装なので、一般的な恰好なんだと思う。って言うか逆に俺達みたいに制服姿の方が浮く。


「一回に三人もまとめて来るなんて珍しい事もあるものねぇ」


 地獄に仏とはこの事か。


「日本語」


 と一言だけで、えっと、何を話せばいいんだっけと詰まってしまった。


「そ、日本人。これでも十年ちょっとこっちで暮らしてる先輩よ、後輩君たち」

「えっと、斎藤智也です」

「とりあえず自己紹介出来る位には冷静で何よりだわ。私は塚本彩芽。こっちでは基本的にファミリーネームは使わないから、アヤメって呼んでくれればいいから」

「はぁ。で、何から聞けばいいのやら」

「とりあえず移動しましょ。色々調べて登録しなきゃいけないから。そっちの子達は歩けそう?」

「多分」

「そう、事故とかで足やられちゃってると、しばらく歩けない人もいるのよねぇ」


 そう言えば二人がどう死んだか知らない。

 俺の記憶は二人に飛びついて抱え込んだ所で終わってるから、どうやらしばらく苦しいんだらしい二人が、実は足に大怪我を負った記憶があって、今自由に歩けないなんて可能性もあるのか。


「千絵、楓子、立てるか」

「私は行けるわよ。ほら」


 千絵が楓子を促すと、楓子は小さくひくひくと嗚咽を漏らしながらも立ち上がった。


「あの、アヤメさん、遠いですか?」

「大丈夫大丈夫。役場に行くんだけど、この村って小さいからすぐそこよ」

「はあ」


 さっきから生返事ばっかりだな、なんてちょっと反省するが思考が追い付かない。

 ただ一つ言えるのは、この人が救世主だ。

 その救世主様について行く他に道は無いわけで、アヤメさんの先導に俺たちはついて行く。

 どうやらアヤメさんは今回みたいな事に慣れているらしく、足取りのおぼつかない千絵と楓子を気遣ってゆっくり歩いてくれている。

 噴水広場から先に進むと、地面は石畳では無く舗装もされていない、踏み固められた土の地面だった。

 どうも乾燥地帯のようで、服装からしてもこの世界はウェスタンな世界なのかなとしばし考える。

 俺は少しでも情報が欲しいので、役場に着くまでにあれこれ聞いてみる事にした。


「この世界って何なんですか?」


 聞いてから、いや神様とか言うオッサンが言ってたじゃんと後悔した。


「私たちがいた世界とは違う世界らしいわよ。人によっては、どこか遠くの宇宙にある星じゃないかって人もいるけど、何にしても私たちの暮らしていた世界とは別世界って事で異世界って呼んで差し支えないわ」

「アヤメさんはここで何をしてるんですか?」

「私は特に何の特性も無かったから、日本での知識を使って村の発展――と言っても微々たる物だけど、百均に売ってるような便利グッズをこっちで作ってみたり、村の人の相談に乗ったりっていう便利屋みたいな事やってるわね。ほら、どこにいたって生きていくには働かないとだし」

「うちらみたいなのって何人もいるんですか?」

「この王国だけで年間一人か二人は来るわよ。その中でも専門知識のある人とか特性の高い人は王都に招かれたりしてるわね」


 王都。

 いかにもファンタジーかよと思いつつも、実際元の世界にも王政はあったものだし不思議では無いのか。


「特性って何なんですか?」

「それをこれから調べに行くの。こっちの世界では知識か技能か、でなければ何かしらの特性――ざっくり言うとゲームの勇者とか魔法使いとかそんなのがあるのよ。と言うかそういう人たちを送り込んでるみたいだけど、神様とやらも完全ではないみたいで結構高い確率で大した特性無しだし、勇者なんてこの村じゃ出たこと無いわね。だから異世界人は行商人にでもならない限り、大抵は目覚めた村で暮らしていくんだけど、ここ数人は王都行きか行商人になってるわ」

「勇者」

「そ。私も最初は馬鹿らしいと思ったけど、実際に魔物もいれば魔王もいるみたいよ? 数十年に一人は勇者適正を持つ人がいて、何人かで徒党、と言うか所謂パーティーを作って討伐に向かうみたい。でも魔王って魔物の種族毎にいるみたいで、強いのから弱いのまでピンキリらしいのよね。その中でも弱いのを倒したって話も殆ど聞かないわね」

「なんか他人事って言うか、そんな危機感なくないですか」

「実際魔王の脅威とか感じないもの。特にこの国は一番近くの魔王の居城から離れてるらしくて、それほど強いモンスターも出ないし、結構平和に暮らしてるのよ。私なんかは日本にいた頃が結構酷い生活してたから、むしろこっちの方が居心地よくていいわ」

「帰りたいとか思わないんですか?」


 自分で聞いておいて、その欲求が自分にある事に今更気付いた。

 そりゃ平和な日本から変な世界に飛ばされたわけだし、一応死んだことになってるから大騒ぎになってるだろうし、帰れるものなら帰りたい。


「帰る方法とか無いんですかね」

「今の所聞いたこと無いわね。歴史書によれば二千年くらい前から異世界人が現れてるらしいけど、その人達が元の世界に帰ったって記述は無いの」

「……いやそんな前からっすか」

「時間軸が微妙にねじれてるらしくて、たまーに江戸時代の人が来たり微妙に未来人が来たりとかもあるけど、少なくとも十年くらい先の未来人じゃ帰る方法を見つけられなかったみたいね。その二千年前に来た人って言うのも、どうやら私たちとそう変わらない年代から来たみたいだし」

「そんな人いたんですか」

「未来人に関しては未来の技術を知ってるかもって王都に呼ばれたけど、本人は専門知識があるわけでも無いし、実際技術的な進歩もそこまで大きく無いとか。この世界は機械的な文化が殆ど発達してないから応用しにくいとか色々問題もあって、今はその未来人も居酒屋でアルバイトして生活してるらしいわ。二千年前の人がなんで私たちと変わらない年代から来たかってわかるのは、その人が持つ知識を本にしてあるからなんだけど、知識的には多分昭和生まれで平成の早いうちに亡くなってるっぽかったわね」


 異世界に来てまで居酒屋でバイトとかしたくないなぁ。

 いや、むしろ異世界だからこそ楽しい可能性も大いにあるけど。


「ちなみに今や令和の時代ですけど」

「なにそれ」


 年号が変わった事をアヤメさんに告げると、『時代も変わるのねぇ』と大して興味無さげに言っていた。


「仮に専門的な知識を持ってる人でも、機械よりも魔法を頼ってしまったこの世界だと地球みたいな発展は難しいみたいね。だって数年前やった実験が簡易的なモーターを使った発電機と白熱電球だって言うんだから、かの偉人もびっくりよね」

「いやいくらなんでも」

「銅線とか磁石とか、そういうのの調達に手間取ったらしいわよ」


 そう言われると、元々の文明が違えば磁石なんかが無いのもわからないでもない。

 自然に出来ることもあるだろうけど、工業として使うレベルの磁石ともなれば電気的な処理は必要不可欠だろう。

 にしたって、理系の人とかだったら、もっと何とかできそうな気がするんだけどな。


「でもこの数年の研究で、王都では既に蓄電池と電球の開発は済んでて、発電施設を作ろうって事になってるらしいわ。問題はエネルギーを何に求めるかだけど、そこに交代制で貴重なアークウィザードに延々炎系の魔法を使わせようって案が出るくらいだから、しばらくは無理でしょうね。実際発電所を作っても作った電気で何をやるかも決まってないらしいし。発電所だけじゃなく、どうも噂を聞く限りでは、自分が知ってる完成形を作ろうとして部品が無くて作れないってパターンばっかりらしくて、この世界の工業の発展を一からやり直さないと無理じゃないかって」


 魔法と聞くとちょっと胸躍る。


「私たちなんかの常識だったら、火力や水力や風力ってのがこの世界なら使えそうだけど、元々魔法が存在する世界だから、推進派と魔法至上主義の反対派で争ってて、実用化が難しいらしいわね。ただあれば便利なことは反対派もわかってるから、発電所建設については反対派の中でも意見が分かれてるみたい」


 この村を見た感じ鉄製の建造物っぽいのは見えないし、鉄筋コンクリートのビルなんてあるわけもない。ああいった発電施設はある程度大きくないとエネルギー量の確保が出来ないだろうから、そもそも建築ともなれば建築技術のレベルをもっと上げる必要があるとかなのでは。

 個人利用程度なら、川を使った水車式のでも問題無いんだろうけど。

 でも、アヤメさんの話では、電気を作っても資源的な問題で中々先に進まないんじゃないかとの事。

 ただランプが欲しいと言うだけなら可能だろうけど、異世界人的な思考では電気はあって当たり前、何でもスイッチ一つで点く世界だ。

 一気に工業化を進めたとして、その道のプロがいたとしても集積回路が出来るのは数十年後の話じゃなかろうか。


「でも、元の世界の人がこっちに来てるなら、やっぱり色々変わったんじゃないですか?」

「小物系とか割と簡単に作れるもので生活は大分変ったみたいね。服装もこれでも大分近代に近寄ったし靴も王都から離れた僻地ではスニーカータイプが主流になってきたわ。まぁ噂程度にしか王都の情報が入ってこないから、私が知らない数年間の間に何か大発明とかあっても不思議ではないけど、そもそも鉄鉱石とかの資源の採掘が進んでないらしいから期待できないわよね」

「王都から離れた所でスニーカーが主流になってくるんですか」

「王都は、今あなた達が履いてるような革靴が貴族の間では主流だから。一般市民も質の悪い革靴か、布製の靴の底に板を敷いたものね。そもそもこの世界で出回ってるスニーカーがその布製の靴の事を言っているから、私たちの知ってる普通のスニーカーとは違うわよ」


 その程度なのか。

 あのオッサンが何やら嘆いていたが、こう聞くと異世界に人を送り込んでもあんまり意味が無いんじゃないかと思えてしまう。

 でなければ、もっと人を選べ。

 ガチな研究者と建物の設計士あたりを連れてこないと無理じゃなかろうか。と、アヤメさんが足を止めた場所は、木造の現代建築でした。


「……すごく見覚えのある作りですね」

「ね、プレハブ小屋を木造でちょっと大きめに作ったらこんな感じよね」


 他の家屋は質の悪そうなレンガや土で作られてるのに、役所だけ木造建築だ。


「これも王都に招集された建築家の人が試しに作ってみた建物なんだけど、みんな木造なんて壊れそうで怖いとか、慣れた建物の方が安心して住めるって言うからダメだったの。で、丁度役所を立て直そうって話が出て来た頃で、それならここを使おうってなったのよね。建築を手伝った人達は短い工期でこれだけの建物が出来た事に関心しきりだったけど」


 アヤメさんはプレハブ小屋なんて言うが、木造校舎のような作りだった。

 ぱっと見では田舎の公民館のような規模で、設計士の人は多分元々一軒家としてではなく、村の人が集まれる施設を作ろうとしたのだろう。

 まぁ見た目と手作業で作れるから選んだ疑惑が無きにしも非ずだけど。


「千絵、楓子、大丈夫か」


 さっきよりかはちゃんと歩いているが、後ろからついてくる二人の足取りは遅い。

 やはりショックから立ち直るにはまだまだかかりそうだった。


「さ、行きましょう」


 そして、俺たちはアヤメさんに促されて役所に入るのである。

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