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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
ドワーフ王国編
29/194

ドワーフ少女



 何はともあれ、ようやく自分の状況にも慣れて余裕が出て来たかな、と言うところで問題が起きた。

 ドワーフの国から離脱した若いのが入学を希望している、と言うニュースをシャルから聞いて、一週間もしないで入学が決まっていた。

 この事自体が非常に面倒な問題である事は、エルフとドワーフの関係を考えればわかる事だ。

 それなのに何で早いうちに入学が決まったのかと言うと、ドワーフの国から来たと言うのがシャルくらいのサイズ感の女の子で、ドワーフの在り方について疑問を感じ、国を飛び出してきたと言う事かららしい。

 流石に小さな子を放り出す事も出来ないし、お国柄、国民もドワーフに対して思うところが無い事も無いと言う人が多数いるが、この際自分が責任を取るとシェリール王女の名でオッケーを出してしまったのだ。まあ小さいと言っても種族的な特性であって、実年齢は俺たちとそう変わらないようだけど。

 シャル自身、ドワーフに思うところが無いのかと言うと、特に個人的に恨みがあるわけでも無いし、本人がこちらと敵対する気が無いのなら問題ないらしい。

 何にしても色々が急過ぎて、スパイの可能性も十分ある中、受け入れるとしても寮に入れなければならないし、学校での保護を考えるとうちらに任せるのが一番であると言う事で、面倒を見てくれとシェリール王女直々の命を受けたのだが、その実、特にうちらの情報が流れた所で千絵や楓子が国の重大な情報を握っているわけでも無いし、何かあってもどうにかなってしまう勇者二人組なので、ドワーフの女の子一人なら何とかなるだろうと言う考えらしい。

 なんせ、この間のサンバーストが新魔法だと疑われた所で実際は既存魔法だったし、あくまで二人の能力が異常なだけで別段隠す事は無いのだ。

 一応暗殺とかの危険性も有ったはずなのだが、楓子が常に物理系のシールドを張る事でどうにでもなると言う結論に至ったようだ。

 シールド系の魔法に関しては特に高出力でも無ければ、寝ていたとしても常時展開する事自体は可能らしく、楓子も既にそう言う事が出来るようになっているらしい。

 となると残るは、一応シェリールの婚約者であり次の王が内定してる自分の事だが、それに関してもドワーフがエルフから人間族に王位を継承する事を邪魔する意味が無いので、一応注意はするけど問題は無いであろうとの事。

 ドワーフと言う種族自体は、人間族とは割と友好的らしい。

 と言うのもドワーフの作る製品も買い手がいないと収入にならず、人間族が一番人口が多く金を持っているので必然的に顧客のほとんどは人間族なわけで、種族的に嫌っているエルフが人間族に王位を譲る気であると言うなら喜ばしい事だろうと。

 それが傀儡政権だった場合は一悶着ある可能性もあったが、現状では『人間族に移る可能性が非常に高い』と言うだけだし、その候補である俺に危害を加えた所でドワーフにとってプラスになる事は無いだろうと。

 他に何か問題があるとすれば、ドワーフ族と言う事で迫害される可能性や、一部の貴族がシェリールの政策に不満を持っていることで、他のドワーフのコネを得るか逆にドワーフを悪者に仕立てて嫌がらせをするんじゃないかと言う事くらいらしいのだが、そこら辺も全て千絵や楓子と言う最強と名高くなってしまった勇者二人にドワーフの少女を任せる事で、迫害や貴族の介入を許さない環境にしてしまおうと言う思惑があるようだ。

 少なくともシェリールを嫌ってる貴族であろうと、勇者まで敵に回そうとは思わないだろう。


「と言うわけで、ドワーフ族のシエルさんよ」


 対面は王城辺りで行われると思ったら、夕食後にだらけてたらシェリールがいきなり転移門の魔法で現れて連れてきた。

 夕食後にシャルがふらっとどこかへ消えたのでトイレかなと思ったら、迎えに行っていたらしい。

 紹介されたシエルと言う子は、なんというか一言で申し上げるとロリ巨乳だった。

 ショートカットの茶髪に小さな顔と大きな瞳、身長はシャルと同じくらい。

 顔立ちは女の子らしいと言えばそうなのだが、どちらかと言えば男の子をかわいくしたような線の細さだ。

 その身長なのに胸部装甲は普通よりは大きく千絵より少し無いくらいで、見た目の幼さや身長での対比で見ると楓子並のサイズ感に見えてしまう。

 シャルもその点に関しては不満があるようで、シェリールの姿でシエルを見下ろしているのに、主に視線が胸元な気がする。

 多分服装のせいもあるのだろうが、恐らく間に合わせに渡したブラウス少々きつく、律儀にボタンを留めてるせいでその部分だけはち切れそうなのだ。

 うーん、これは見てしまう。いや努めて見ないようにはしてるけど。

 その様子を察知されたようで、シェリールの目がすっと細くなって俺を射抜いていた。


「そ、その、シエルです。よろしくお願いします……」


 恐る恐ると言った風に猫背に上目使いで、俺たちを観察するようにしながら頭を下げた。

 まぁいきなり転移門の魔法で寮の一室に連れてこられたんだから仕方ないと思う。

 と言うのも、シャルが居なくなった時間はほんの数分で、どう考えてもいきなり連れてこられているのだ。このシエルと言う子は。


「あー、そのなんだ、そこの二人が一応勇者特性持ちの千絵と楓子。俺は遊び人で主夫の智也。よろしく」


 どの程度聞かされていたのかは知らないが、勇者特性持ちと言う言葉に『は?』と疑問符を浮かべた顔でぽかんとしていた。もちろんその後で遊び人で主夫の俺を見てもぽかんとしていたが。


「この子はガーディアンな上にある程度メイジ系の能力も高い珍しいタイプなのよ」


 ガーディアンってのは授業で出てきたことがある。

 千絵も覚えがあったようで、『えーっと、えーっと』と言いながら言葉を探している。


「いわゆるナイトの上位職と言うか、ナイト特性がある人の中で一部いるタンク特性がある人の上位職と言うか、とにかく貴重な特性よね」

「ああ。重装備だろうが特性の補正で問題なく動ける、はたから見たら脳筋職だよな」

「それはどうかと思うけど……」


 本人を目の前にして言う事じゃなかったが、流石にどうなのと楓子に呆れた目で見られてしまった。


「近衛兵団のタンクって魔法系のシールド使うと千絵の広範囲魔法くらいならギリギリ耐えるよなぁ」

「ナイトとタンクの複合型上位互換だから、本来ならトモヤがそうであればよかったのにって言う特性ね」

「……その物言いの報復は後でするとして」


 それもシャルの時に存分と。


「そこにある程度の魔法技術が使えるから、これで勇者特性も持ってたら立派な万能型勇者の出来上がり、って言うか今現在で勇者の下位互換って感じの子ね」

「なんでそんな子がドワーフの国から抜けて王国になんて来たんだよ。どう考えたって自国で重宝されるやつだろ」

「その……、だからこそ逃げてきたと言いますか……。今うち、隣の魔人族から攻撃を受けそうで、そうなったら戦いに駆り出されてしまうので……」

「つまり、本人は戦いなんか嫌いで、でも能力があるから戦わされる、じゃあ逃げようって事らしいわよ」


 正直に言おう。

 安易な考えだ。

 だがしかし、魔人族からの攻撃と言うのはつまりはサクラの話と合致してしまうので、そりゃ逃げたくなる気持ちもわかるなぁと納得してしまうのだ。


「私としても北の魔人族の脅威はそれなりにわかっているつもりだし、もし全面戦争なんて起きたら恐らくドワーフの国もただじゃ済まないのもわかるのよ。追い返した所で脱走したこの子の居場所は戦場にしかなくなるし、王国をうろついててもドワーフってだけで迫害されかねないし、もうここで受け入れるしかないじゃない?」

「シェリールがいい子だってのはわかった」

「やめてよ照れるじゃない」


 後で報復はするけどな。


「いや別に茶化してるわけでもないんだけど。んでも、ここにいた所で結局戦闘訓練なわけだろ?」

「正直、ざっと見た感じその子の能力なら卒業自体は簡単に出来るはずだから、必死に授業受けないで適当に過ごしてればいいのよ」

「俺は実技で落ちそうなのにな……」

「と言うかトモヤの場合は十中八九落第ね」


 世知辛い世の中である。

 何から何まで特性だ。

 ただ、俺の場合は次期国王である事や、授業自体は血反吐を吐く位真面目にやってるので、実力的には落第であっても内申点を稼いでギリギリ合格できている。


「と言うわけでよろしく頼むわ。部屋もここで、シャルのとこ使わせるから」

 その言葉に俺たち三人は頭の上あたりに?マークを浮かべる。

「ね、シェリールちゃん。その場合シャルちゃんは?」

「本人の寝たいところに潜りこむでしょ」

「って言っても、あの子私たちの所には来ないからね。智也のとこにしか行かないんだもの」

「可愛がってあげてね」


 これは酷い。よりにもよって本人談である。


「じゃ、私は一回戻るから。明日の朝にはシエルの制服も届くから――シャルに取りに来てもらうわ」


 その方がシャルが急に転移しても不思議じゃないしな。

 一回戻るからとか言っちゃってるあたり、多少ボロが出てる気がしないでもないけど。


「じゃーねー」


 転移門の魔法で消えた。

 少ししてシャルが扉から入ってくる。

 おそらく寮のどこか人気が無い所に出て、シェイプチェンジを解除して来たのだろう。


「……みんなぽかんとしてる」

「うーん、とりあえずさっきのシェリールの物言いに対する不満はシャルで発散だな」

「うっ、なんの事……?」

「とりあえず楓子、悪いんだけどシャルのお風呂お願いな」

「任せて」


 目が爛々とだ。

 逆にシャルが助けを求めるような顔をしているが、そんなに風呂が嫌いかね。

 正確には嫌いでは無く面倒なだけらしいのだが、各種魔法で体に付着する汚れは最低限だから毎日入る必要も無いらしい。

 とは言え物理的にシャワーを浴びてさっぱりするのって重要だと思うのだ。若い娘ならば綺麗にするべきだと思うのだ。


「それなら女性陣全員で行きましょ。ほら、シエルもいきなりで戸惑ってるし、何ならいきなり裸の付き合いで」


 千絵のそういう体育会系な考え方は、同性に好かれる点だと思う。


「え? えっ?」


 ほら行くわよー、と千絵と楓子は着替えとバスタオルをクローゼットから引っ張り出すと、千絵はシエルを洗面所の扉の中に押し込み、楓子はシャルを小脇に抱えて行った。

 最後の最後に極めつけの混乱が待っていたシエルには申し訳ないが、色々微妙な立ち入りらしいし、あの二人とは早々に仲良くなっておいた方が本人の為だと思う。

 にしても女四人の風呂とか中々出てこないだろうなぁ、俺いつになったら入れるんだろう。

 毎度の事、人のベッドを寝床にするトラ子を撫でながらぼんやり考えていたら、ベランダの窓をコツコツと叩く音が聞こえた。

 これはサクラだ。


「よ」

「ドワーフを抱え込むとは私たちに喧嘩売るつもり?」


 いきなりご挨拶すぎだが、とりあえず外に出る。

 サクラは透明化状態だったが、俺が外に出ると透明化を解除した。

 ベランダの手すりに腰かけて足をぶらぶらとさせている。

 あのフローラさんの娘だけあって、いやサキュバスと言う種族的な事もあるのかもしれないが顔立ちもスタイルも芸能人並に整っているので、なんか凄く絵になる光景だ。

 タイミング的にしばらく外からこちらの様子をうかがっていたのだろう。


「どうせ色々調べはついてんだろ」

「そこまで詳しくは調べられてないけど、一応トモヤに危害は無いと思うわ」

「本当にドワーフの国に攻め込むのか」

「そのつもりで準備してるみたいだし、何ならもう始めてるかも。でも一筋縄じゃいかないからどうなるか」

「ドワーフってそんなに強いのか?」


 ベランダの手すりに腰かけて足をぶらぶらと言うのは確かに絵にはなるが、最初は制服だったのにいつの頃からか私服のこの世界にしては短かめのスカートだったり、酷いと庶民が着てそうな質素なネグリジェっぽい事もあり、なんか見えそうな見えなそうな、ちょっと気になってしまう。


「タフさで言えば魔人といい勝負よ。向こうには性能のいい武具があるし。場合によっては盾代わりにゴーレムも出てくるし」

「ゴーレムって?」

「魔法で動く、材質は様々だけど巨大な人型の人形ね。普通は供給魔力量の問題で戦闘には不向きで労働用にしか使わないんだけど、戦闘用に研究してるって噂があるの」

「へぇ」

「でもママに勝てるわけ無いけど」


 そう言う口元は緩い。

 これまで数回こうして話してきたが、どうやら両親の事が好きすぎるタイプの子らしく、ベスターやフローラさんの話になると顔が緩む。


「そんなに強いのか」

「そっちのチエに比べれば魔法の威力は弱いけど、人間族やエルフ族からしたら考えられない位の力はあるわよ」


 千絵が化け物すぎるのはわかっているが、それに準ずるくらいと考えると相当なものだ。

 一国を壊滅と行かなくとも、一発の魔法で多大な被害を出す程度には力があっても不思議じゃない。

 逆に考えると、そういう力を持つ人が大人しく暮らしているのだから、この世界は意外と上手く回っているんじゃないだろうか。


「トモヤ、開けてって」


 足元でカリカリと音がすると思ったら、トラ子が開けてくれと窓をノックしていた。

 開けてやると、トラ子は俺の足に体当たりするかの如くスリスリするとサクラの膝の上まで一気にジャンプする。

 流石サキュバスの魔力と言えばいいのか、サクラとトラ子は一発で仲良くなっていた。

 そう言えば、最初にサクラが来た後にシャルが慌てて帰ってきた事があったが、あれはサクラがあえて魔力を隠さずに瞬間的に放出して、シャルを慌てさせただけらしい。

 なんでそんな事をしたのかと聞くと、世界樹の魔力によって産まれた精霊に近いエルフと言うのは、他の人間族以外の精霊に近い種族や魔人から妬みを受ける事があるらしい。

 ドワーフがエルフを敵視する理由の一端もそこにあるらしいが、魔人もエルフのように人型であっても魔力が高い種族に対しては思うところがあるようで、それほど良く思っていないようだ。

 何なら魔人と同じくらい強い魔力を持っていても肉体が変質しないとか、それによって人間社会に溶け込めるとか、特に人間社会に憧れのある魔人からしたら妬んで当然らしい。

 まぁサクラの場合は言うほど憎いわけでも無く、ちょっとした嫌がらせ程度らしいので俺も深くは追求しない。


「近々、半日から一日暇ない?」

「なんで。今の俺の立場だと中々一人になれないんだけど」

「ちょっと帰るからついて来ないかと思って」

「…………」

「悩むわね」

「行きたいのは山々なんだ」


 地脈云々の事を詳しく聞きたいのもあるし、いい加減俺自身の強化についてベスターに意見を聞きたいのもある。

 シャルは、その人によって魔力の許容量が違うから、過剰に魔力を得て身についたとしても魔人化する可能性が高いと言っていた。

 俺の魔力の許容量なんてタカが知れているだろう。

 今でこそ千絵や楓子が規格外だから何とかなってるが、これで今後俺一人で何とかしなければならない場面とか、場合によっては千絵や楓子よりも強い敵と言う可能性も否定は出来ない。

 なんせ仮に、ここにいても魔力を感知できるくらい強烈な魔力量のベスターを相手にする事になった場合、どう考えても勝てる気がしない。

 特に多い千絵の魔力を百として、魔法師団の人を五、一般人を一と仮定した場合、ベスターは千や二千では利かない。

 補正云々で実際の所千絵の強さはその十倍くらいにはなるのかもしれないが、それでも元勇者で現魔王のベスターが何の補正も無いわけは無いだろうし、ともすれば戦うだけ損だ。

 まぁ勿論ベスターと戦うなんて論外なので仮定だが。

 だが、他にああいうレベルの敵がいても不思議ではない。


「書置きでも残して一日ふらっと消えるかな」

「大騒ぎになるわよ」

「うーん、シャルを連れていけたら色々解決する気はするんだけど」

「魔人でもない限り、魔人の王なんて見たらパニックで何するかわからないわよ」


 それは何となくわかる。

 あんな強大な魔力の塊を間近で魔力検知なんてした日には恐慌に陥っても不思議じゃない。

 そもそもシャルにベスターの事を説明しようにも、相手が相手だけに信じて貰えるだろうか。

 説明だけで一晩かかりそうだし、出来る事ならバレるまでは黙っていたい。


「とりあえずそれに関してはちょっと考えてみる。俺も用あるし」

「あそ」


 トラ子はサクラの傾斜した膝の上に何とかして居座ろうとしたいようだが、サクラとしては胸に抱っこしたいらしくちょっとした攻防が繰り広げられている。


「あっちで猫飼って無かったのか」

「やめてよね。あの城で飼ってたらどんな大きさになるかわからないわ」

「……そう言えばそんなんあったなぁ」


 最近巨大化しないから忘れていた。


「だから、こうして強い魔力に慣れてる猫は珍しいの」

「ん、そうなのかこいつ」

「猫だって馬鹿じゃないから変に大きくなっても不便だってわかってるもの。この子が大きくならないのはチエやフウコの魔力制御が上達したのもあるけど、ちょっとやそっとの魔力ならこの子自身が制御できるからよ」


 意外と凄い奴らしい。


「それなら向こうの猫もそうなるんじゃないのか?」

「魔力に敏感な生き物だし、多分いても変質しちゃうわよ。ここ数年であの森の中では一度も見た事無いから、魔力が濃すぎて生きていけないんだと思う」


 だから、とまさに猫可愛がりと言うやつだ。


「さて、そろそろ行くわ。ここを抜け出すの考えといてね」

「うーん、出来るだけ前向きに」


 だって、もう何か月か寮生活しているのに、数えるほどしか学校の敷地外に出ていない位に扱いが厳重だからなぁ。

 サクラは透明化してどこかへ消えてったが、トラ子の視線を追うに屋根の上に飛び乗ってどこかへ行ったらしい。

 不思議なもので、透明化で目にも見えず、魔力の隠蔽をして魔力感知にも引っかからないと言うのに、トラ子にはわかるようでサクラが来ると出てくるし、帰る時も目で追うのだ。


 その後、寝るまでシエルに色々と話を聞いたのだが、ドワーフの国と言うのは王制で、正確にはドワーフの王国らしい。

 ドワーフはドワーフである事に誇りを持っているとかで、国名からして『ドワーフ王国』が正式名称だと言うのだから頑固者が多そうなイメージだ。

 ドワーフ王国は地表には一切何も無く、地中に大小様々なドーム型の空間を作ってトンネルで繋げているらしいのだが、そんなので崩落しないのかと聞いたら、非常に硬い岩盤の地層で建国から一度も大きな崩落事故は無いと言う。

 それでも各所に支柱を立ててはいるらしいけど。

 一番大きな空間は王都として街があり、数千人規模でドワーフが生活していると言う。

 その周りに小さな空間がいくつもあり、ドワーフの得意分野であるモノづくりが行われていると言うのだが、思った通り頑固だったり秘密主義だったりで、鍛冶系の仕事も調合系の仕事もその他諸々大抵が親から子にしか引き継がれないらしい。

 そのせいもあって、例えば武器系の鍛冶なら得意分野はそれぞれだが数えきれないほど店があるし、防具系も他の仕事もとにかく件数が多いのだとか。

 それって競合して潰し合いとかにならないのかと思ったが、大きな括りとして鍛冶屋なら鍛冶屋のギルド、薬品の調合系はアルケミストのギルドと言う形で纏める組織自体はあって、その中で得意分野同士で仕事を分け合ったり競い合って切磋琢磨しているんだとか。

 で、そう言ったプロだらけのドワーフ王国には各国から色々な注文が入るらしく、それによって生計を立てているらしい。

 シエルからすると、そんな外国からそっぽ向かれたら終わる生計なんて不安でしょうがないらしいが、それこそドワーフ制作の物として太鼓判を押せるから成り立っているのだろう。

 ドワーフと言う種族は、ある意味ではエルフと兄弟と言っても過言では無いらしい。

 と言うのもエルフが世界樹の魔力によって産まれた世界樹の精霊や妖精のような種族と言われている物と似ていて、ドワーフは世界樹の根から発する地のマナを発端にした種族だと言う。

 だから世界樹の根から魔力が供給されれば、多少環境が悪かろうと問題無いのだそうだ。

 その点がシエルが最も許せない部分らしいのだが、それを聞いて女の子だなぁと思ってしまった。

 まず、モグラみたいな生活をしているせいで夜目が利く、と言うかマナの濃いドワーフ王国内なら真っ暗でも大体わかるらしい。

 地中暮らしで空気の循環が少ないせいで悪臭が凄いとも言う。

 ゴミは魔法で焼却したりするらしいが、特に鍛冶系の仕事が多い種族なのでどこに行っても汗臭いと言うか泥臭いと言うか、外に出た時の爽快感だけで涙が出てくると言う。

 環境的に酸素は薄いし、薄い有毒ガスが常に蔓延している状態だし、そんな状態で生活する事でドワーフは皮膚や免疫系が特に強くなるのだが、その代わりに女子にとって羨む柔らかい肌とか艶やかな髪といった物とは無縁になってしまうらしい。

 そう言うシエルを見ると無縁では無かったのかと思う程綺麗にしているのだけど。

 ドワーフ王国内では基本的に水気が少なく、シャワーに浴びる事など週一回あればいい方だと言うのもシエルには我慢ならないらしい。いや俺も我慢できないそれは。

 これもドワーフ王国のある場所は浅い所に水脈が無く、水脈が近いとそれだけ地層がもろくなったり冠水の危険性もあるので、あえて水脈の無い方向に拡張した結果、水が貴重品になったと言う。

 外に行けば川は流れているが、外に出るまでに技術の流出を防ぐ為の関所いくつか通らなければならないとかで非常に不便だし、水浴びしてさっぱりした所で王国内に帰れば悪い環境が待っている。

 工業用にどうしても水は必要になるので深い井戸は掘っているが、それはあくまで工業用であってそれ以外の使用は禁止されているのだとか。


「だからもう本当に耐えれなくて」

「わかるわ。私もこっちに来た当初、水が殆ど使えないって聞いて絶望したわ」

「辛いよねぇ。本当に辛いよねぇ」

「転移門の魔法を覚えばいい」


 女子特有の同調をぶった切ってシャルが画期的な事を宣ったが、結構転移門の魔法って特性に恵まれてないと難しいらしい事が最近わかった。

 もちろん一定の条件をクリアしてれば使えるらしいが、その条件って勇者クラスや一部の能力の高い人間がクリアできるだけで、普通の魔法使い系の人は使えないのだ。

 魔人であるサクラでさえ、まだ実家とこっちの二か所しか行き来出来ないようなことを言っていたし。


「でも、産まれてからずっとそう言う生活をしてたら慣れるもんじゃないのか?」

「小さいころまでは何の不満も無かったんですけど、一回この王国の西の国に行く機会があって、そこで人間族の普通の生活を目の当たりにしたら、もう耐えられなくて耐えられなくて……」

「あー、まぁ確かに一回知るとそうかもな」

「後はそうですね、他に何が嫌って秘密主義すぎて一部の人たちが怖いんです。一体何の実験をやってるやらってのが」

「地中で何かあったらアウトだと思うんだけど」


 爆発すれば崩落の危険があるし、強い毒ガスでも発生した日には一網打尽だ。


「大きな崩落事故は無いって言いましたけど、小規模のはあるんです。主に変な実験の影響で」

「こっわ」


 その光景を思い浮かべたらしい千絵が、うへーとした顔で言った。


「世界樹の根から高い魔力を得られるので色々と実験が出来るらしいのですけど、何かあったら王国が一夜にして壊滅しかねないのに……」

「まぁつまり、そう言った事情からドワーフ王国を飛び出してきたんだな」

「はい。あ、いえ、なんか魔人の方々がうちに宣戦布告しそうだってのもあったんですけど、それに関しては何が理由かもわかりませんし、魔人の方々の戦闘なんて簡単に王都が崩壊しそうですし、とりあえず逃げてきました」


 俺はある程度話を聞いているが、シエル目線だとなんで魔人が来るのかわからないと言う。


「後は――、同い年でも私と殆ど身長変わらないくせにオッサン顔のドワーフって種族に飽き飽きしたとか」


 それはドワーフとしての性質だろうに。


「私、同族の男を男として見れないんです」


 これは同族としては残念な子扱いされるやつだ。

 しかし、多分こっちの世界の感性でもシエルって可愛い子の部類のはずだ。

 実年齢より幼く見えるし、小柄とか頭を振った時にちらっと覗く少し尖った耳とかドワーフの特性はあるみたいだが、年下好きにはドストライクではなかろうか。

 まぁ年下好き(ロリコン)と言う注釈は付くだろうけど。

 厳密にドワーフの種族の特徴と言うのはあるらしく、外見では低身長、エルフ程では無いが尖った耳、大きな瞳、女の子でも小柄な割に体つきはややがっしりしている、と一般的なのはこの辺りだそうだ。

 目に見えない特徴としては、集中すれば世界樹の根が近くに無くても暗視が出来るとか、薄い酸素でも行動できるとか、多少の毒素は分解してしまうと言った、先ほどシエルが不満気に語っていたドワーフ王国事情によるものばかりだ。


「じゃ、ゴツいのよりかは細いほうがいいんだ」


 千絵が食いついた。


「はい。トモヤさんとか丁度いい感じです」

「面と向かって言われると照れるなぁ」

「ダメだから。トモヤは」


 シャルがむーと口をへの字に曲げて抗議するが、どうもあっけらかんと言うせいで照れもするけど流せも出来てしまう。


「うーん、智也は先約があるから他を当たってもらった方がいいけど……」


 千絵が困った風に言うが、俺としてはそれを確定にしたくないんだがー。

 と、なんか楓子が静かだなと思ったら、座って船を漕いでいた。

 そしてシャルも眠気の限界なのか、人の太ももを枕にしようともがいている。

 だがなシャル、お前のサイズに男の太ももは高すぎるのだよ。はっはっは。

 とか思ってたら胡坐の上に座って全体重を後ろに掛けてくるのだ。


「はい、わかってます」


 うん、これは俺がシェリールの婚約者とかわかってた上での発言だな。

 小柄で幼く見えるけど、話し振りから中身は同い年くらいの快活な子として普通に扱った方がよさそうだ。


「うーん、魔人がどうのってのは勿論大きかったんだろうけど、普通にドワーフ王国にいるのが嫌になったって事かな」

「ええ、言ってしまえばそうです。勿論同族の仲間の事は好きですけど、もうあの環境で暮らすのは耐えられないんです」


 そういうシエルに、千絵がうんうんと頷いていた。


「私も絶対無理だから。せめて一日一回シャワー浴びたい。空気のいいところがいい」

「それに関しては、まぁうちらは当然っちゃー当然の環境ではあったんだけど。でも向こうに家族いるんじゃないのか」

「いますけど、ドワーフって実家の仕事を継ぐ以外では結構ドライなんですよね。仕事の鬼と言うか職人気質と言うか」

「じゃあシエルも鍛冶見習いだったりするのか」

「うちはちょっと特殊でそう言うんじゃないんですけど、親とは最近あまり上手くは行ってないですねぇ」


 水の豊富さは他所の国も場所によりけりらしいが、この王国は上下水道の整備が進んでいるおかげで他所よりも環境がいいらしいとは聞く。

 空気も特に悪くなるようなものが付近に無いので問題ないが、これに関しては他所の土地だと酪農関係でありがちな臭いとか、人間も家畜も含めて糞尿の処理方法が悪いとか、乾燥地帯は砂埃が舞いやすいとかで、環境のいい土地と言うのは実はそれほど多く無いらしい。

 王国内で言えば王都と四方の公爵領位まではいいが、そこから離れれば整備しきれない小さな町や村もあるし、南部はマナの少なさで荒れがちだから言わずもがな。


「王国内の環境改善はシェリールが最初に手を付けた所。数年前までは辺境の村とそんな変わらなかった」


 と、本人談であるが、上下水道の整備をした割には風呂が嫌いなんだよな。

 まぁ、気候的にも日本みたいなジメジメでは無いので数日に一回でいいなんて話も聞かなくは無いし、上下水道の整備自体が風呂に直結するかと言うとそう言うわけは無く、ただライフラインの整備の一環みたいなものだろうし。

 そこら辺風呂、もしくはシャワーを交えて考えてしまうのは日本人特有かもしれない。

 でもシエルは体を綺麗にしたいようだったし、シャルが特別風呂を面倒だと思ってるだけじゃなかろうか。


 いつもより少し夜更かしをしてしまったが、シエルは俺の上の段に上がった。

 そしてシャルはさも当然と言わんばかりのドヤ顔で、トイレを済ませると横になってる俺を乗り越えて壁側に来るのである。

 トラ子はトラ子で俺とシャルの間に入って、丸くならずに縦長に伏せてくぱーっとあくびをする。

 それに対して不満気なのはシャルで、しばらくどうしてやろうか考えた結果、抱え上げて寝がえりを打つかの如く壁際を向き、トラ子を置いてゴロンと戻ってくると俺にくっついてくる。

 うーん。

 これ、懐かれる云々とかじゃなくて、普通に好かれてね?

 実はシャルの実年齢をハッキリ聞いた事が無いのだが、エルフは早熟で人間よりも早く成長すると言う。

 仮に人間の倍早く成長したとしたら、今の見た目だと五歳程度と言う事になる。

 ただこれは世界樹の濃い魔力を浴びてと言う事だから、基本的にこっちで暮らしてるシャルは、恐らく成長ペースは人とそんなに変わらないと思うので、一般的なエルフが世界樹の元で人の倍程早く成長しなかったとしても、シャルの見た目的に下手したら五歳以下の可能性もある。

 その場合だが、ただ懐かれてるだけなら俺も『おーよしよし』と気楽に頭を撫でてやれるのだが、ガチな好意となったらちょっと不味い気がするし、それ以前に婚約者と言う事実が重くのしかかる。


「な、シャル」


 その事実を確かめるべく、俺は小声でシャルに声をかけた。

 既に眠いたい子であるシャルは、俺の方を向いて眠る猫の如く手足を縮めて人間版丸くなるスタイルを取っていた。


「んー」

「実際の所、シャルって今いくつ?」

「んー……」


 片手でぱっぱっとジェスチャーした。

 とりあえずだが、五以上の数字で少し安心した自分に蹴りを入れたい。

 最悪それ以下だったら子供と言うか幼児じゃねーかと頭に浮かんだ上に、ペドとか犯罪者と言うテロップが脳内を駆け巡っていた。

 だがしかし、そうか。

 許嫁ではあっても、すぐに結婚と言う話が出てこない理由は多分年齢なんだな、つまり最低でも数年は猶予あるんだろうな、とホッとしてしまった。

 そこら辺のエルフの倫理観は知らないが、そもそもが長命な種族なので結婚云々と言う話は数十年後と言う可能性すらある。

 にしても人間としての倫理観で言えばやべーと思うんだよなぁ。

 なんせ俺の許嫁、まだ八歳らしいです。

 いや逆算して三歳くらいの時にはシェイプチェンジ使って神託の巫女やってたって事だから異常すぎんだろ。

 何がシャルをそうさせるのかは知らないが、俺は自分とシャルと隅っこのトラ子に布団を被せつつ、とにかく色々お疲れ様とシャルのふわふわの頭を撫でながら眠りについた。


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