聖女の誕生
討伐隊が編成され出立して更に二週間と少し、何とも呆気なく王国側の兵は敗走してきた。
敗因は、コボルトの奇襲による連携の失敗と、コボルト自体の強化によって手も足も出なかったとか何とか。
こちら側の主力が思いのほか少なかったと言うのも大きいらしいが、戦力の全てを投入して王国の守りを無くすわけにもいかない。
それなら手を出さなければいいのにと思ったが、コボルトに関しては過去魔王が発生する度に攻め込まれている歴史があるとかで、どうやら魔王が発生すると非常に好戦的になるらしいとされているようだ。
一体その歴史にどれだけの信憑性があるのかは知らないが、そこらへん詳しいはずのシェリールが早々に討伐を指示したらしいので事実なのだろう。
結局数日間の行軍すら出来ない状態に追いやられ、仕方なくシェリールがシャルに頼んで転移門の魔法で回収して回ったらしい。
病院ではベッドも手が足らないとの事で学校の戦闘訓練用ドームを開放して、教会所属のプリーストや楓子までもが治療に当たった。
現場のヒールで何とかなってる軽症者は早々に家に帰し、残っているのは全身ズダボロだったり四肢の欠損をグレーターヒールで無理やり傷を塞いだ重傷の兵士ばかりだったが、そう言った重傷者は教会所属のプリースト程度では治癒に時間がかかるか治癒しきれず、特に重篤な患者のいる病院では懸命に治療を続けながらもお通夜ムードだったと言う。
そこに現れたのが全身から癒しオーラを発する楓子である。
使用者によってヒールの効力も変わるとは聞いていたが、内臓にダメージがあるくらいの重傷患者ならグレーターヒールで治り、手足が吹き飛んだ人もフルヒールで完全に回復すると言う、誰の目にも神の奇跡としか言えない事をやってのけたのだ。
そうすると一瞬で噂は広がり、楓子の事を『聖女』と持ち上げる輩のせいで、わずか半日で聖女と呼ばれるようになっていた。
その後も楓子は自身にも負担があると言われているフルヒールを平気な顔で使い続け、二日の間に病院関係者や教会所属のプリーストが諦めていた患者ですら治してしまった。
楓子曰く、『助けられるなら助けなきゃって思ったんだよ』とはにかんでいたが、俺は楓子が血なまぐさいのが心底苦手なのを知っている。
血だらけの兵隊なんて見たら気を失いかねない位に弱い癖に、それでもやり切ったのだから事実聖女として祀り上げられてもいいとすら思う。
実際教会からは、フルヒールの使える司祭や司祭長が派遣されたのだが、死ぬ間際の重傷患者を楓子が治してしまったが為に出番は無く、むしろ楓子の治療を隣で見て目を丸くしていたと言う。
一通り落ち着いて、これってもしかしなくてもヤバい奴だよなぁなんて思っていたら、俺たち三人は王城に呼び出された。
「と言うわけで、もうどうする事も出来ないの。本当に申し訳ないんだけど、最低限攻め込む気が無くなるくらい痛めつけられればいいから」
もうどうしようも無いと言わんばかりに凹んだ顔のシェリールが頭を下げていた。
この世界において頭を下げてお願いと言う光景を見ていなかったので、シェリールのその姿にどこか懐かしさを感じる。
「なぁ、実際の所戦いになるのか? 俺たち三人で」
「トモヤは論外だけどチエとフウコならコボルトの一軍くらいなら魔法で瞬殺出来るわよ」
俺は論外ですねそうですね。
「じゃ何で魔法師団とやらは出来ないんだ?」
「それだけ力に差があるって事。魔法師団が合同で広範囲魔法を使う余裕があれば倒せたと思うけど。本当はまだ学生だし二人とも戦闘なんてさせたくないんだけど……」
「魔法師団も結構な数いたみたいだけど、それでそこまで差があるのか」
「うん……、雑魚はいいんだけどコボルトロードとかコボルトメイジが厄介なのよ。ロードは単純に強化種でタフいしメイジはうちの魔法師団くらいの火力でガンガン魔法使ってくるらしいから」
「……それって普通の人間に処理できる問題か?」
敗走後に緊急閣議が行われ、関係者への聞き取りで、通常のコボルト以外にも何タイプか居た事が判明しているらしい。
「ロードやメイジの数は多く無いはずなの。沢山いるなら森に引き込んでから囲んで一気に殲滅されてたはずだし。それにちゃんと作戦通りに動けばうちの兵でも少数なら対処できる程度だから。今回は奇襲だったり多すぎて手が出せなかったのよね。あとは本丸の魔王がどの程度の強さかだけど、これに関してはチエの火力とフウコの防御魔法があれば絶対に大丈夫。コボルトの魔王は記録が残ってる限り知性がずば抜けてる知将タイプで、本体に辿り着きさえすれば勝てるって過去の文献には軒並みそう書いてあるから」
そう言うと数秒間無言になり、千絵と楓子の様子を伺う。
二人はそんなシェリールを見て、二人で顔を見合し、うんと頷いた。
「大丈夫よ、さっと行って倒して帰ってくればいいんでしょ?」
「シェリールちゃんが私たちなら大丈夫って言うなら……。戻ってきた人たち、大怪我してた人もいたから、もう行かせられないし……」
その怪我をさっと治すフウコの姿を見た連中が、この国が祭る神をほったらかして楓子を神と崇め奉ろうとしていたのが印象的でした。
と言うのも怪我の治療には司祭やプリーストであるシスター達が総動員で当たっていたいたのだが、そのシスター達のエキストラヒールやグレーターヒールの回復力が楓子に比べると天と地とも月とスッポンとも言える程に差があり、一時間当たり司祭十人分の仕事を楓子は難なくこなし、魔力切れで休んでる司祭をしり目に殆ど休み無く数百人の治療をしてしまったのだ。
その上、瀕死の重傷だった人にもフルヒールで無傷にしてしまったので、しまいには司祭長だけではなく高齢で治療に参加してなかった大司教まで楓子のヒールを見に来る始末で、『今度教会を上げてお礼がしたい。暇な時にでも訪ねて来てくれ』と言われていた。
実際の所、教会としては今回の敗走で治療が間に合わずに死んでしまう兵士は三桁近くいるだろうと予想していたらしい。
全体で千人を少し割るくらいの人数で行ったらしいので、ほぼ十分の一が死ぬと言う予想は多すぎやしないかと思ったのだが、あのドームの光景を見れば誰でも多くの人が死ぬだろうと思ってしまう状況ではあった。
それほどまでに敵が強い、と言うよりかは魔王と強化された魔物の御伽噺が貴族の間では有名で、近衛兵団がビビってろくに動けなかったなんて噂がある。
通常近衛兵団と言うのは対モンスターをやる事が滅多に無い王城勤務で、自分の身を危険に曝して任務に当たると言う事がまず無いらしい。
と言うのも、王族が近衛兵団を連れて出歩く事がまず無く、最近ではシェリールが転移門の魔法を使いこなし一人でポンポン飛んでるものだから、日々の訓練程度で実戦に参加した人の方が少ない。
その点、魔法師団や一般兵団は討伐依頼があれば部隊を編成して魔物や野党と戦うし、実戦経験があるだけ近衛兵団よりも幾分マシだったようだ。
今回の件で楓子に助けられた人や治療の光景を見ていた大半が楓子を崇めるようになってしまい、いつか楓子を神と崇めるフウコ教でも出来てしまうんじゃないか、と言う程に楓子の人気はうなぎのぼりで、ついには『聖女』から『聖女フーコ様』と呼ばれるようになったのだから本人は笑えない。
ちなみに、翻訳の魔法札のおかげでフウコと聞こえる事が多いが、愛称的に名前を呼んで来る場合は『フーコ』と聞こえる。
実際日本人でもはっきり発音するよりかは伸ばしがちな名前なので、そこら辺疑問に思う事がおかしいのかもしれない。
「でも本当にいいのか? 魔王を倒しに行くって事は、それまでにもコボルトと戦わなきゃいけないし、それって殺し合いをするって事だからな? 千絵や楓子にそんなこと出来るのか?」
「私だって勇者だなんだって言われた時からずっと考えて来たわよ。覚悟があるかって言われればあるとは言えないけど、あんな状態で帰ってきた人たちを見ちゃったら、私たちがやらなきゃって思うわよ」
千絵は楓子が治療して回ってる間、同じ勇者なのに自分に出来る事が無いと凹んでいたので余計に思うところがあるようだが、千絵の強いところは凹みっぱなしじゃなく、治癒魔法が使えないシスターに混ざって雑用に奔走した事だろう。
一応本人も多少の回復魔法は使えるが、出力に難ありで『生命の危機に瀕さない限り使わない事』と言われている。
「うん。十中八九倒せないって言われてるならまだしも、私たちなら大丈夫ってシェリールちゃんが言うなら、私はそれを信じるよ」
楓子に関しては、あんな一歩間違えれば死者だらけの現場を見てしまったから、もう気持ちが引けないところまで来てしまっているのかもしれない。
二人して意を決したように言うが、正直そんな簡単に割り切れる問題でもないと思うんだよなぁ。
何だかんだ言った所で俺たちは現代日本で生きてきた、争いを嫌い平穏無事に生きる事を信条とする現代っ子だ。
それがいきなり殺し合いをすると言うのだから、土台無理な話なのだ。
「数日中に馬車に食料と水を積んで用意しておくわ。行きは西の街の先まで私が連れて行くから、スムーズなら一週間もすれば行って帰ってこれるはずよ」
「帰ってきたら英雄かしら」
「うーん、私はそういうのいいかなぁ」
「どうせならトモヤに手柄を取らせたいのよね。そうすればあなた達といても不思議じゃないでしょ?」
うん、死ぬ気がする。
どうせ遊び人で主夫の俺に何か出来るわけでも無いし、不釣り合いな功績なんていらないと思うのだが、この二人だけを行かせるなんて選択肢はそもそも無かった。
連れていけないと言われても行く気ではあったし、仮に置いて行かれても駄目元で追いかけるくらいはするつもりなので、ハナから俺も含まれているなら万々歳である。
にしても、俺に手柄をと言っても付いて回る以外何も出来ないと思うのだが、一体シェリールは俺に何を期待――はしてないけど何か功績を上げてこいと言う事か。
まぁ、確かに何かしら無ければ将来的に俺は二人の召使枠で生きる事になってしまいそうなので、これはいい機会なのかもしれない。
で、そんなわけで聖女フーコがいる勇者パーティーが出立すると噂が一気に広まり、王国中が討伐し終わって無いにもかかわらず祝賀ムードになった。
訓練場のドームが急遽病院となった二日間と片づけに一日を要した後は、学校自体は通常通り授業が行われている。
となれば勿論生徒の目は千絵と楓子に集まるわけで、主にクラスでの話題は楓子の神懸ったヒールと魔王討伐の事である。
基本寮生活なので学生の全員が今回の件でドームが使われた事を知っているし、実際に行軍に参加した人もいれば看護の手伝いに出た人も結構な数いるわけで、あの時の鬼気迫る表情でヒールをかけて回っていた楓子の事は語り草になっている程だった。
幸いにも学生で重傷になった人は居なかったようだが、家族の誰かが危なかったと言う人は居たし、実戦の最中に近距離でフレイムバーストが炸裂して吹っ飛ばされたなんて学生もいた。
学生にとっては今回の魔王討伐の行軍は殆どが将来を見据えての箔付けで、とりあえず参加したと言う事実さえあれば後列で喋って時間でも潰してればいいだろうと考えてた人の方が多いと言う。精々援護する程度で、まさか自分が死の危険に直面するとは思ってもいなかったと言うのだから、教育の難しさが浮き彫りになったなんてシェリールは言うのだ。
ともかくとして、貴族の子供は様々な教育を受けてはいるが基本箱入りである。
そんな連中が死の恐怖を味わい、何なら目撃し、今死のうとしてる人を目の前にして来たら価値観が変わってもおかしくは無い。
そう、病院やドームで真摯にヒールをかけて回る楓子を見て、そこに神を見たと言う人が現れたら同調してもおかしくは無いのだ。
「あの、聖女フーコ様。この度は兄を助けていただき――」
「私は叔父を――」
もう大人気である。
「なぁトモヤ。実際問題魔王討伐出来ると思うのか?」
俺の席の後ろが女子で大盛況なのを尻目に、初日以来ちょくちょく交流を持っているジャンが話しかけてきた。
当初商会の長男だなんて言っていたが、正しくはスズウキ家の傍流に当たるらしい。
当人曰く、長年傍流で傍流同士の婚姻が続いたせいで、もう殆ど他人程度の血の濃さしか無いらしい。
ただ商才だけは昔からある家系で、四公爵家の関係する商会の中でも特に輸入に強く、傍流の癖に金だけはたんまりあるから血が薄かろうが本家との繋がりは強いらしい。
結局金なのかーと思ってしまう俺、悪くないよな?
「さぁな。シェリールは余裕だって言うけど、逆にあれだけ被害を出しておいて余裕だったら亡くなった人に申し訳ない気もする」
「そこは運が悪かったと言うしか無いだろ。敵の事が何もわからないで勇者を送り込んで、敵のが上手で負けましたって言うパターンは過去にもあったらしいからな」
「今回の件は貴族的にどう思われてるんだ。その、千絵や楓子の事を」
「ああ、別に心配しなくても表立って叩こうとする奴はいないよ。それも聖女様のおかげで一命を取り留めるどころか吹っ飛んだ手足ですら完全再生してるんだから、叩くより何とかして身内に引き入れようとするに決まってる。これから大変だぞー、嫁に来てくれってな」
「それはお断りだ」
「……いやトモヤが決める事か?」
食い気味に断ったら引かれた。
「実際さ、公爵家から嫁に来てくれって言われたらどう?」
ジャンが隣で斜め後ろの楓子と喋ってた千絵に声を掛けた。
千絵はいかにも面倒だと言う表情を隠さない。
「あり得ないから」
「ですよねー。とりあえずしばらくの内は結婚とか一切考えてないって言っとく」
ジャンはある意味で二重スパイみたいな奴で、俺と話す仲にある事をわざわざ親戚筋に吹聴して地位を上げているらしい。
勿論そんな事をしたら、俺から千絵や楓子の話を聞いてこいと言われるのはわかり切っている事で、それを聞く代わりに公爵家を始めとして色々な貴族の話を聞かせてくれる。
今回のように、とりあえずしばらくの内は、と付け加えたり色々考えて貴族内で俺達の立場が悪くならないように調整してくれているようだ。
この婚姻の話は下手をすれば四公爵家の中でどこが誰を獲得するのかで大騒ぎになるのが目に見えている為、ジャンとしても程々のラインで収めておきたいようだ。
これで『勇者は公爵家と結婚する気が一切無い』とハッキリ伝わったら伝わったで、一部強硬手段に出そうな派閥や勇者に反発を持つ人が出て来る可能性もあるので、こう言った事は令嬢達のやってるお茶会で話すよりかはジャンを通してしまった方が無難だ。
お茶会はお茶会で色々と外に出せないような内緒話とかもあるらしいが、少なくとも千絵と楓子は嫌われないように立ち回って何となく大体みんな友達くらいの距離感を維持しているらしい。
ジャンに関してはこれまでの事から信頼してる部分があるからいいが、お茶会の場で変に曲解する子がそのまま家族に伝えてしまう可能性もあるので、千絵と楓子には当たり障りない範囲で会話するようにとシェリールから直々にお願いがあったらしい。
シェリールとしても、千絵と楓子の行動次第で自分が動きやすくもなれば動きにくくもなるようで、保守派の血統を重要視する派閥が厄介なので特にシェーバー家付近の貴族には気を付けて欲しいと言われている。
とは言え幸いにもシェーバー家の子供は他の三家に比べれば少ないので、学校の中ではさほど関わる機会も無い。
逆にハイリッヒ家の女子軍団が学校の女子派閥の中ではピレネー家三女の派閥に次ぐ一大勢力だとかで、マリーネの事もあって他の派閥より多少仲良くしてしまっているそうだ。
どうしたって多少の好き嫌いなんかはあるから、仕方ないとは思うんだけど。
「そう言えば二人が討伐に出てる間、トモヤはシャル嬢のお守りか?」
「いや一緒に行くけど」
「……あれ、おかしいな。幻聴が聞こえた」
「いや行くけど」
「いやいやいやいや。死ぬから。ぜーったい死ぬから。近衛の第一師団が初手全員ぶっ飛ぶって言う事件があったのに、遊び人のトモヤが生き残れる理由が無いから」
「だろ? 俺も今からどうやって死の危険を回避するか考えてるんだけど、行ってみないとわからないから困るんだよな」
「はー、別にお前行かなくてもいいじゃん。何でわざわざそんな危険を冒すかな」
「恥ずかしい話、俺の目の届かない所でこいつら二人に何かあってほしくないから、それなら死ぬかも知れなくても一緒に行った方が安心する」
「だそうだけど」
ジャンは呆れて隣の千絵に言うが、千絵は千絵で俺が付いて来ないと思っていないのだ。
シェリールから俺に功績をなんて話が出なくても、俺が来る事を疑っていない。
「どうせ授業に出てたって近接訓練で一歩間違えれば死にそうだもの。それなら私が傍に居たら守れるし、即死しなければ楓子が何とかしてくれるわ」
この間も千絵ラブな伯爵家の五男坊に模造刀で頭蓋骨陥没一歩手前までぶっ叩かれて死ぬかと思った。
一応反応出来て剣でガードしたって言うのに、そのガードごと叩き潰せるんだから適正の差ってズルいと思う。
尚その五男坊は、慌てて俺の回復をした楓子と鬼の形相の千絵に世界樹の杖でしこたま殴られていた。
木なのに頑丈な剣を一発で叩き折るんだから恐ろしい。
って言うか楓子なんか小まめにヒールしながら殴るものだから、それ以来五男坊は俺に寄って来なくなった。
あんなんトラウマだわ。
一応二人とも本気じゃなくポカスカとやってた感じではあるんだけど、勇者適正は軽く引っぱたくだけでも威力を上げてしまうのだった。
ちなみに確定では無いが、千絵や楓子当人に相手を害してやろうとする気持ちがあると身体強化が入るような事を言っていた。
過去何度か殴られ蹴られているが、たまーに凄く痛い時があるのは本気で怒っている時なのだろう。
「私はシャルちゃんが付いててくれるなら、智也君が残ってもいいと思うけど……」
授業開始直前になったので、楓子に群がっていた女子軍団は席に戻ったらしい。
「でも、功績が欲しいって言ってたよね」
「それなぁ」
どうやら勇者の傍に遊び人がいる事が許せない貴族連中がいるようだった。
それを黙らせる功績があればいいのだろうけど、俺が魔王に止めでも刺せばいいのだろうか。
逆に殺される未来しか見えない。
もし奇跡的に何らかの功績が得られたとして、めでたく勇者パーティーの一員として認められた場合、またしても有事の際に前線に送られて今度は死ぬかもしれない。
「ねねシャルちゃん。シャルちゃんはどう思う?」
「トモヤが魔王を倒せばいいと思う」
「無理だっつーの」
嗚呼。
なぜこの世界は俺に対して当たりがキツイのだろう。
倒してもいないのに王都中がお祭り騒ぎになってるせいで、俺達の出発はとりあえずパレードからになった。
王城からスタートして中央を経由、西門に向かって行く。
沿道には平民から貴族から行商人からと様々な人達がいるが、誰もが恥ずかしそうに手を振る千絵や楓子を見ている。
幸か不幸か知らないが、本来高火力である千絵はさほど知名度が高くない。
どうしても王国の民からしたら、楓子のヒールの話題で持ち切りなので楓子に視線が集まる。
どう言うわけか馬と言うよりかは毛の無い羊とかヤギっぽい顔の馬にも懐かれた俺が馬を扱い、二人を左右に乗せてパレードをすると、城門を出た所で後ろに隠れていたシェリールが顔を出す。
シャルは何やらやる事があると言ってお留守番だったが、これでこっそりついて来られても困るので大人しくしていてくれた方が助かる。
アレでいてやり手ではあるのだろうけど、見た目幼い子が戦闘に加わると言うのは気分的に良くない。
「その丘の先からは王都から死角になるからそこで止めて。転移門の魔法で運ぶわ」
「はぁぁ、恥ずかしいよぉ……」
フーコさまー!
聖女フーコさまー!
聖女さまー!
いまだに耳の奥に大歓声が残っている。
「有名になるって大変だな」
「智也君他人事だと思ってるでしょ」
「でもさ、それって楓子がここの人に認められたって事だし、喜んでいいと思うんだよなぁ」
「嬉しいけど大勢すぎて胃に穴が開いちゃうよー……」
「その横で堂々と手を振ってた千絵みたいなのもいるけど」
「あの場で楓子だけ立たせて手を振らせるわけにもいかないじゃない。一応私達が討伐に行く事になってるんだから」
俺なんかハナから馬車の制御でそれどころじゃないし、手を振ったってお前誰だと言う扱いになるのは目に見えている。
「本来ならシェリールもああやって歓声を受ける立場なんだろうに」
「エルフってだけで色々大変な世の中なんだから、私は極力裏方でいたいんだけどね」
どうやらエルフを崇める宗教があるらしいと噂では聞いているのだが、幸いなことにシェリールは人前に出ないし、シェリールの父である国王陛下も基本的に表に顔を出す事は公式行事でも無い限り無いらしい。
それならシャルに聞けばわかるかなと思ったら、あいつ学校以外は転移門の魔法で移動するから、そもそも人に見られる事が極端に少ないのだそうだ。
「でも、普通にシェリール美人だから勿体ないよなぁ」
「そう? トモヤはこういうの好き?」
そう言って顔を近づけて来る。
北欧系の顔立ちの美少女を前にして嫌いだとも言えず、かと言って好きと言うには両隣のプレッシャーがキツイ。
なんで追い込まれてるんだろう。
「まぁ美人だとは思うよ」
「好き?」
「その」
「すーきー?」
「……嫌いじゃないです」
「やったー」
後ろからギューッと抱きしめられた。
「こらーっ!」
「シェリールちゃんアウト! そこまで!」
「いいじゃない。これくらいのスキンシップなら」
うーん、割とぺったんだし俺もちょっとセーフかなと思わなくは無いのだけど、それを言ったら後ろからガチの攻撃魔法が飛んできそうなので何も言えない。
「もしかしてシェリールちゃんって……」
「それこそまさかでしょ。それほど接点無いし……」
何やら俺を挟んで二人が話し合っているが、シェリールはシェリールで二人の要望に応えて俺から離れていた。
「ちなみにトモヤ」
「はいトモヤでございます」
「約束って大事な物よね」
「う、うーん。まぁ意味わからないけど約束自体は大事だとは思うけど……」
「約束は守らなきゃ駄目だと思うの」
その言い方が、何かのキャッチコピーなのかどこかで聞きおぼえあるのか、凄くしっくり来て何も言えず黙ってしまった。
なんかシェリールと約束なんてしたっけ?
功績を上げる話はしたけど、あれはあくまで希望だしなぁ。
「さ、そろそろ馬車止めて大丈夫よ。後は三人に任せるわ。頑張ってね」
こうしてシェリールに送られた俺たちは、王国の西の公爵領を西に向かって進むのだ。
その後、三日程野営をしながら進み、多分あれが国境の山脈だろうなーと言うのを見つけた所でコボルトのパーティーを発見したわけだが、ここで話は冒頭に戻る。




