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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
住めば都の異世界生活編(自分を除く)
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閑話「初めてのお茶会」



 智也を咥えて走り回る巨大猫を追いかけるなんて騒ぎがあった後、寮に帰ったら待ち構えていたかのように貴族のお嬢さん達が私達を待っていた。

 私は楓子と顔を合わせ、これって面倒な奴よねーとアイコンタクトを交わす。

 さぁ、どうやって逃げようかなと智也を見たら、智也もどう言う状況か察したようで、なんと自分がいてもしょうがないだろうから先に行くと上に上がってしまったのだ。

 逃げられた。

 いや、冷静に考えれば、私たちがこう言った令嬢との付き合いを完全に避けてはいられない事くらいわかっているので、この際交流を持ってみればいいと言う事だとはわかる。

 わかるけど、もうちょっと猶予とか欲しい。

 それこそ、智也を執事的な位置と言う事にして後ろに待機させておきたいくらいだ。

 あの巨大猫はひとしきり遊んだ事で落ち着いてはいるけど、智也と一人と一匹にして大丈夫なのかな? また咥えられて、今度は寮内を走り回った挙句女子側に行って変態扱いとかされたりされなかったり――。

 なんて事が頭を過り、楓子と顔を見合わせるとシャルが事も無げに言うのだ。


「大丈夫。二人が魔力制御出来てから二時間は暴れまわったから、そろそろ縮む。私はちょっと出かけてくる」


 そう言うと、急に空間の裂け目みたいな暗い空間がシャルの後ろに出来て、そこに何事も無く消えて行ってしまった。

 王都に来た時に自分たちが入ったのと同じだと思うから、転移門の魔法なのだろう。

 私達に声を掛けた貴族の令嬢は、元々シャルがこう言う場に来るとは思っていなかったようで、特に驚きも失望も無く私達をロックオンして離さない。


「さぁ、チエ様、フウコ様、こちらにいらっしゃってください」

「わたくし達、お二人が帰ってくるのをずっと待っていましたの。今日の為に最高級の茶葉と選りすぐりのお菓子を持ち寄ったのですよ」

「何でしたら殿方も一緒で良かったのですけど、あの方は遠慮してくれたようですわね」


 三人共、制服から自前の恐らく室内着にしている控えめなドレスに着替えていた。

 これが実際、お嬢様方の間ではドレスと言う扱いでは無く『部屋着のワンピース』と言う扱いのようで、うわーなんかすごい恰好してるわねぇなんて感慨深く見ていると逆に訝しがられるのだ。

 寮の女子側には結局入ってはいないけど、三階の階段で数度すれ違う子は大体そう言った格好だったから、恐らく帰ったら一度着替えるのが基本なのだろう。

 こんなのを着てリラックスなんて出来ないけど、こういう格好をしているせいで立ち居振る舞いがどうしてもお嬢様然とする部分はあるようで、文化の違いが人種の違いを生むんだなぁなんて他人事のように思うのだ。

 いや、だって実際そんなの着る事になったら嫌だし。興味本位で一回は着たいけど。

 部屋着は冬だとしても暖房を入れつつティーシャツと短パン姿が最高だと思うのだ。

 まぁ、楓子の場合はツーサイズくらい上のシャツにしないとお腹の辺りが浮いてしまうんだけど。

 自分達も昔は『帰ったらシワになるから着替えなさい』なんて言われて来たけど、この子達を見ると服装にも格が存在するようで、私たちに声をかけてきた子のドレスがレースのあしらい方や刺繍も派手で、最後に声を発した子が一番地味な装いだった。

 今の所名前は知らないが、派手子と金魚の糞と下っ端とでも命名しておこうか。

 いや流石にそれはかわいそうだなと思いなおし、一番派手な子は金髪縦ロールと言う如何にもな子だったので『縦ロール』、次の子も金髪ロングだけど明らかに縦ロール一派で顔色を伺いながら動いていると言う感じだったので『太鼓持ち』、最後の子は貴族としては珍しく髪がセミロングくらいまでしか無い子だったけど、ちょっと観察するにどうも酷い癖っ毛のようでピンで何か所か止めているから『天パ』とする事にした。 

 私の見立てでは、この天パの子は変に留めないで髪を伸ばせばボリューミーでいい感じの髪型になると思うんだけど、何となく力関係で目立たない方向にまとめようとしている雰囲気がある。

 私達が呼ばれた、と言うか半ば引きずり込まれたのはエントランス脇のお茶会が出来るラウンジで、他にも何組か見えるが、どうやらこの三人がこの中では最大派閥の人間らしい事は何となくわかる。

 で、案内してくれるのはいいけど、空いてる椅子が二つしか無かった時点で、どう繕っても智也には遠慮してもらう気だったのだろう。


「では自己紹介をさせていただきますわ。私は西のピレネー公爵家五女、オレリー・ピレネーです。この子は分家のシモーヌ・ピレネー。そちらが我がピレネー家の遠縁にて一般貴族のエミリー・ターナーですわ」

「千絵よ」

「楓子です」


 自己紹介を受けた感じだけで言えば、この公爵家の五女は分家や一般貴族落ちした子にしても好きなんだろうなと思えた。

 貴族間の繋がりが強いような話は聞いていたけど、一般貴族になった子にも普通に接しているのであれば好感度は上がる。

 どうにも良くわかっていないけど、そこら辺の格付けと言うか序列みたいなものは結構ハッキリしているような噂は聞くし、公爵家と言うと貴族の爵位の中ではトップらしいから、扱い上貴族の中で最下層らしい一般貴族を友達のように扱っているのはむしろ不自然なはずだ。

「わたくしは戦闘系の適正が無い代わりに政治的な方面に使える適正をいくつか持っていますの。シモーヌは女子生徒の中では抜きん出て剣術が優秀で、エミリーの家も三代前は本系で、小母様が一般貴族と恋愛結婚された事で一般貴族にはなってしまいましたが、将来はアークウィザードになるであろう高い素質を持った子なんですの」


 どうやら公爵家の血筋と言う事で、能力も他よりは高いのだと言われているみたい。

 正直変に貴族と関わると面倒そうだけど、どうしたって立場上少しは付き合いは持たざるを得ないと思う。

 幸いにも仲間内には優しいタイプの子のようだし、程々に話を合わせて適当な所で区切って帰ろう。


「私達、公爵家と言うのはよくわかっていないんだけど、四公爵家って言われているけどどう言う役割なんですか?」


 と歩み寄ってみたら、シモーヌが目を輝かせた。

 この子は多分家名を物凄く誇らしく思ってるタイプだ。


「まぁ、チエ様から公爵家に興味を持っていただけるとは大変光栄な事ですわ!」

「シモーヌ様、落ち着いて」

 エミリーが恐らく一瞬で暴走しかけたシモーヌに待ったをかけると、シモーヌは面白く無さそうな顔を一瞬して笑顔に戻った。

 立場上、三人の中では一番下のエミリーだけど、だからこそ一番冷静にも見える。


「わたくし達公爵家の一番の役割は領土の保守管理ですわ。治安維持や万が一の為に王都四方の公爵の街には公爵家直属の兵がおり、街道に出て悪さをする魔物の対応や少数ですが野党の討伐が主だった仕事ですの。他にも公爵家に付いている伯爵家以下に領地内の町や村を任せたりもしますけど、これは借り物とは言え領土を欲しがる家向けですわね」

「凄く嫌な事を聞いてしまいますけど、公爵家くらい大きいと税収だけで足りるんですか?」

 ざっと貴族の話を聞いて一番疑問だったのがそこだった。

 結構贅沢してそうなのに、今の所税金がどうと言う話をあまり聞かない。

「むしろ王国の税収の大半は公爵家に集まりますの」

「王にじゃなくて?」

「ええ。あくまで領土はわたくし達の家である公爵家の物なんですの。エルフの王になった時に、あくまでも暫定の王だから土地もいらなければ税も最低限回ってくればいいとの事でしたので、それ以来、各貴族家が爵位毎に金額を決めて献上しているだけなんですの。それはそれで結構な額が集まりますから、そのお金を使って王都の管理や近衛兵団や魔法師団、一般兵団の運営と、最近シェリール様が行っている改革にも使われているようですわね」

「それじゃあ、税収だけで足りるんですか?」

「年間を通して言えば特産品の原料が取れない時期等は落ち込みはしますけど、公爵家は分家からそれ以外の傍系に関しても色々と仕事をしておりますし、エルフの王がいる国と言う事で外国も良くしてくれる事が多いので外貨も結構入ってきますの。ですので、これまで税が高いと言われたこともありませんし、どこの公爵家も安定して領土の運営をしていますのよ」

「それでは、この王国は結構潤っているんですね」

「それに関しては程々と言った所でしょうね。これも難しいバランスでして、エルフの王が治める国が変に稼いでもエルフの名で売ってると叩かれかねませんし、かと言って売れないと税を上げなければなりませんし、正直な所近隣諸国が合わせてくれるから実現しているバランスだと思いますの」

「意外と大変なんですね」


 下世話な事を聞いたなとちょっと悪く思ったけど、向こうは特に何も思っていないようだった。

 あと何か聞く事あったかな、と考えていると隣の楓子がトントンと肩を叩いてくる。


「ね、ちーちゃん。アレ聞こうよ。えっと、シュバインシュタイガー伯爵家?」

「あら、もう動いたのかしら。彼の家は保守派の中でも最大勢力で、シェーバー公爵家と懇意にしていますの」

「チラッと名前を聞く機会があったから、どう言う家なのかと思ってただけなんですけど」


 香苗が物凄く申し訳なさそうに名前を出していた家は、どうやらお嬢様方にとっては有名な家らしかった。


「そうですわね、古くからの貴族然たる貴族と言えばいいのでしょうか。とにかく血統が全てと言う考えで、大昔は公爵家だったと言われていますの。まぁ時代の変化と共に頭の固さが仇となって伯爵位に落とされ、代わりに勇者を迎えて新たに公爵位を得たスズウキ家がシュバインシュタイガー家の代わりになったらしいですが、エルフの王が退位したら次はシュバインシュタイガー家から王を輩出すると息巻いていたと言われていますわ。ちなみにスズウキ家はコボルトの魔王討伐の功と、シュバインシュタイガー家を引きずり下ろしたい一部の有力者の工作で公爵位を与えられたと言う噂ですわ」

「あ、そうか、エルフの王が人に王位を返す可能性もあるんですね。でも、魔王の討伐って中々難しいって聞きましたけど」

「コボルトの魔王に関しては数十年周期で発生しますの。一番弱い魔王とも言われ、勇者で無くとも多大な犠牲を払えば倒せると言われていますが、その時はスズウキ家初代当主の勇者様が倒したそうですわ」


 一番弱いと言われていても、勇者じゃないと多大な犠牲が出ると言うのか。


「それで、王位をエルフから引き継ぐって、なんか色々大変そうですね」


 エルフが無理やり停戦したとかエルフのおかげ王国がやってこれてる風の事を聞いているだけに、簡単な事ではないと思う。


「そもそも二千年ほど昔の王国は、王国では無く共和国で、公爵家が持ち回りで代表に就いていたと言われていますの。戦争前にそれが変わって当時の代表が王族として名乗りを上げて王国としたようなのですが、一説によるとその初代王となった人がシュバインシュタイガー家の血筋の者だったなんて話もあるんですの。眉唾ですけどね」

「じゃあ、その眉唾ではあるけどシュバインシュタイガー家って言うのは、何なら復権してやろうとしてるって事なのかしら」

「そう思っている方もいますが、現状の四公爵家の体制は盤石ですの。彼の家も表向きは大人しくシェーバー家に付いていますし、果たしてどこまでが本当なのか」

「ちなみに信頼できる家なんですか?」

「約束事は守るし頭は固いけどいい家だとは言われておりますが、色々暗躍してると言う噂もありますし、正直若い世代にはあまりいい印象を持たれていないですの」

「そうですか」


 丁度そう言う話になりましたし、とシモーヌが乗り出してきた。


「チエ様もフウコ様も、わたくし達と仲良くしていただけないかしら」

「シモーヌ、少し落ち着きなさいな。勿論わたくしもお二人とお友達になりたいですが、お二人は立場上気を付けなければならない事が沢山ありますの」

「わかっておりますオレリー様。だからこそ、女子生徒としては最大勢力であるわたくし達がいれば、きっとお二人の損はさせないと思うのです」

「その通りですシモーヌ。ですから、わたくしはお二人に声を掛けたのですから。ですが物には順序があり、強く要望すればそれだけ離れてしまうのが人と言うものですの。お二方にはシモーヌが申し訳ありませんですの」

「い、いえ気にしないでください……」


 縦ロールことオレリーがシモーヌを窘めているようで、これが予定調和である事は雰囲気から何となくわかった。

 これでも学生社会の中で色々やっかみを受けつつも生きてきた私だ。

 派閥の雰囲気や話の進み方、各々の視線なんかで多少は読める。


「そうですわね、まずはお二人には貴族のお茶会の作法をお教えする事から始めましょう。別にそれを聞いたからと言ってわたくし達と懇意にする必要は無いのですよ」


 そう言いながら、一人称は女性は『わたくし』で男は『わたし』が表向きの呼び方だから、お茶会やパーティーでは気を付けないとマナーがなってないとされると言われた。

 確かに三人共『わたくしわたくし』と言っているので違和感はあった。

 別にそう言った貴族社会に混ざる気も無いし、そもそも自分がお貴族様でも無いので現状維持のつもりだけど。

 他にも挨拶は片足を斜め後ろにクロスするように引いて膝を曲げて沈み込み、手でスカートの横をつまんで少し持ち上げると言うのを実演してくれたが、自分たちの世界でもヨーロッパの方なんかでやる挨拶だった。

 確かカーテシーなんて言ってた気がする。

 この世界ではそう言った作法は遥か昔から伝えられているらしいけど、一説によると昔の異世界人が伝えたなんて話もあると言う。

 他にも色々話を聞いたけど、顔で『ほら、私たちに付いた方が有利でしょ?』と言っているのがわかってしまった。

 楓子も私なんかより交流の少ない女子から攻撃される事が多かったから、そう言った事を察する力があるので、苦笑いをしつつ胸焼けしたような顔をしていた。

 しまいには説明ついでにピレネー家が如何に慈善事業をしているかとか、多くの貴族は元より平民に愛されているかとか、言わなければいいのになと言う事まで言い始める。

 そろそろ限界ね。

 私よりも楓子の顔色を見て判断すると席を立った。


「色々為になるお話をありがとうございました。私達はちょっと用事がありますので、今日はこれで」


 こういう場合強硬するに限る。


「あら、そうなんですの。また今度お誘いしてもいいかしら?」

「ええ、しばらくは勉強に忙しいと思いますけど、またいずれ」

「少し慌ててしまったとわたくしも思いますの。でもお二人を害するつもりはありませんし、何か困ったことがありましたら派閥関係なく相談してくださいね」


 向こうも、私の言い方に脈無しと判断したようで、深追いはせずにすんなり返してくれた。いや、むしろ派閥関係なくと言うくらいだから、『ほかの公爵家に取り入らないでくださいね』と言われた気もする。

 ただ話によると何処も彼処も親戚筋なんて話なので、家同士のバトルになるような争奪戦と言うわけでも無いと思う。

 少なくとも敵対する気は無い事はわかってくれたと思うけど、かと言ってどこかの貴族家とだけ懇意にすると言うのはまた違うと思う。

 なんて表向きは言うけど、私も楓子も既にハイリッヒ家のマリーネとはお友達だったりするけど。

 マリーネに関しては家がどうと言う話は一切せず、王城での暮らしの事やお互いの趣味なんかを普通に友達感覚で話せたのでよかったけど、今回のように正式にピレネー公爵家に付かないかと言う提案には進んで乗れない。

 智也もさっき別れる時に気を付けろと言っていたし、これで変に交友を深めたなんて言ったら呆れられてしまう。

 別に仲良くする事自体はいいけど、勇者関係は利権が発生しかねないから色々難しいらしい。

 にしても圧が強くて疲れたわー。

 正直、多分友達になれるとしたら天パのエミリーだけかなと思った。

 ちなみに生徒会活動で分かってはいたけど、こう言う席で楓子はあんまり発言できない。

 一緒にいるだけで心強いし、何かあっても楓子の顔を見ればなんか癒されるからいいんだけど。




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