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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
住めば都の異世界生活編(自分を除く)
22/194

サクラ



 とにかく酷い目に遭った初日だったが、何とか部屋まで帰ってくるとベッドにダウン――しようとして自分が猫の唾液まみれだったことを思い出した。

 いやほんとあの巨大化は何とかしないと不味い。

 シャルの話では、千絵と楓子が垂れ流してる魔力を吸って巨大化しているから、二人が魔力操作を覚えれば解決するなんて言っていたのだが、帰る頃には二人とも何となく魔力が見えて操れるようになっていたにも関わらず猫は巨大だった。

 とりあえずシャワーでも浴びよう。

 女子三人は一階エントランス脇にあるラウンジで貴族の女子生徒のお茶会に捕まっていた。

 猫のせいか俺を一人にする事にどうやら抵抗があるらしい楓子がチラチラとこちらの様子を窺っていたが、むしろお前達の方が心配なんだよなぁとはその場では言えず。

 かと言って遊び人の俺が貴族のご令嬢の提案を断ろうものなら俺だけでなく他の三人――この際シャルは関係無いか――立場を悪くするかなぁなんて思い、派閥に気をつけろよと言って三階まで上がって来た。ちなみに猫は一通り遊んだせいか、部屋までついてきて俺のベッドに上がろうとした物の、大きすぎて上がれなかったので諦めて床で寝ている。

 制服を脱いでどんな酷い有様かと見てみれば、これが何ともない。それもワイシャツですら新品同様だった。

 そう言えば防汚加工の魔法が施されていたんだっけか。

 まぁ制服が無事とは言えあまり気分のいい物でも無いし、何より生身の部分がテカテカパリパリしている。

 これまで動物に好かれる事は多々あれど、丸飲み寸前を味わうとは思いもしなかった。

 幸いにも食用と思われていないらしく、ちょっと振り回されて牙が刺さったとか、なんかぶつかって手足が変な方向を向いていた時期もあった気がするが、二人の懸命なヒールのおかげで生きている。

 脱衣所で真っ裸になって浴室にてシャワーを浴びると一気にさっぱりする。

 何なら生身の体に防汚加工の魔法でもかけてくれればいいのにと思ったが、常在菌のおかげで皮膚の健康が保たれてるなんてやってた番組を思い出した。

 この世界でも人に対してやってるなんて聞かないから、恐らく体にはよろしくないのでは無いだろうか。


「んにゃー」


 さぁ出ようかと思った束の間、猫の鳴き声で体が硬直する。

 今じゃれつかれたら、しかも咥えられて寮内を走り回られたら死ぬ。社会的にも。主にフルチンで。


「よ、よーし後で遊んでやるから今は近づくなよー」


 そもそもどこにいるんだと脱衣所に繋がる扉を見るがいない。

 鳴き声は脱衣所の外からではなく中からだった。

 と言うわけで中にいるはずで、こっちの扉は開けていないので残るは明り取り用の窓だ。

 恐る恐る振り返ると逆光の中、猫の影が窓枠に――


「ってサイズ戻ってるしな……」


 いつの間に回り込んだのかは知らないが、ホッとした瞬間に疲れもどっと出てきてへたり込んだ。

 色々矢面に立って処理しようと頑張ってはいるけど、俺なんか中の中を行く普通の高校生だ。

 幼馴染が普通じゃないせいで色々頑張らざるを得ないだけで、見た目も中身も本来ならごく普通の特に変哲の無い学生なはずだ。

 それが異世界に来ました遊び人です、はたまた巨大猫に追いかけまわされて食われる寸前まで咥えられますと来たらへたり込んでも仕方ないと思うんです。

 と言うわけで誰か浴室を使う人がいるわけでも無いし、みみっちく体育座りで膝を抱えてみたりして、何でこうなったんだろうなあぁなんてぼんやり考える事にした。

 勿論死んで異世界に飛ばされた結果であるけど。

 そんな事をしていたら猫が窓枠から飛び降りて来ていて、真っ裸の背中にすりすりとすり寄って来る。

 こいつは人の苦労も知らないで、と憤るべきなのか、実は慰めてくれてるのかな何て淡い期待もしたりして、撫でてみたらゴロゴロと喉を鳴らしながらごろんごろんジタバタふにゃーと床を転がる。

 何だかんだあったけど猫は猫らしい。

 なんか飼うハメになりそうだけど、寮則的には大丈夫なんだろうか。

 後でカインを捕まえて聞いてみなければ。

 まぁ何にしても飼うなら綺麗にせねばなるまい。

 幸いにも無添加らしいボディーソープも桶もあるし、俺は猫を捕まえて洗ってみる事にしたのだが、こいつ水を怖がること無く大人しく洗われやがりますよ?

 普通は散々暴れ嫌がって逃げると聞くのに、こいつは洗われながらも俺の手にすり寄って来る。

 意外といい子じゃないか。

 大分薄めて使ったボディーソープを綺麗に洗い流し、しばらく桶に浸かってもらってノミが出ないか確認してから出た。

 本当は人間用だと匂いが強かったりとか色々問題もあるんだろうけど、この世界で猫用シャンプーがあるかも知らないので今回は我慢してもらおう。

 タオルで拭かれてる最中も静かな物で、これならいいなぁなんて思いつつ自分も部屋着に着替えて脱衣所から出てくると、妙に疲れた顔の千絵と楓子が帰って来ていた。


「おかえり、早かったな」

「家の自慢と、いかに自分と懇意にしていれば得かの押し売りしかしないんだよ?」


 普段なら千絵が率先して怒る所を、珍しく楓子がぷんすかしていた。これはこれで何か癒し成分が出てる気がしないでもない。

 では千絵はと言うと、疲れ切ったらしく俺の顔を見て文句を言おうとし、しかし止めて楓子のベッドに顔から突っ込んだ。お前上段だろ。


「そういえばシャルは?」

「なんか用事あるって言ってどっか行っちゃったよ?」


 まぁ夕飯には帰って来るだろう多分。

 帰ってこないとしても、見た目が幼くともしっかりしてる子だし大丈夫だろうけど。


「それさっきの子だよね?」

「ああ。縮んだ」

「私達が魔力を抑えてるからだよ? 気を抜いたらすーぐ大きくなっちゃうんだから」

「俺が押しつぶされるかどうかは二人に掛かってる。いいな」


 楓子がおいでおいでーと声を掛けながら手招きしたり指をチラチラさせているが、猫は生乾きで俺の足元に来てエンドレスすりすり状態だ。

 何となく楓子が不憫で、女子陣地側にある椅子に腰かけて猫を膝の上に乗せると楓子がすぐさま目の前に来て、両膝に手をついてかがんでいる。

 俺が座ってるせいでビッグな二つの塊が目の前にだな。

 制服の上にカーディガンを着てるとは言え楓子のサイズじゃ破壊力変わらんなぁ、なんてしみじみ思いつつも見て無い振りをして猫を差し出した。


「ぬぁー」


 いやだと体を捩って俺の膝に着地なさいました。


「……私泣くよ? 泣いたら制御とか知らないよ?」

「俺を脅すな」


 言いながら既に目が潤んでるんだからどうしようもない。


「そうだ、この子に名前つけないと」

「トラ」

「えー、もっと可愛いのにしようよー。茶太郎とか」


 可愛いかもしれないけどセンスは良くないと思います。いや世の茶太郎さんすみませんだけど。


「じゃあゴンザレス」

「わざと可愛くないの言ってる」

「いやだってさぁ。猫と言ったら何だかんだ飼わずにどっか行っちゃうものだって頭にあるからどうにも」


 猫好きの楓子が過去何度も拾ってきたが、その度に里親探しをするハメになり結局手放してきたのだ。


「大丈夫だよ智也君。飼うから」


 あかん、楓子がガチや。


「いやほら規則的な問題もあるわけだし」

「聞いてくる」


 ピューっと部屋を飛び出して行き、そもそもカインどこにいるのかわかんのかよと思ったら十分ほどで戻ってきた。


「そもそも今まで誰も飼おうとしてなかっただけで、特に規則は無いって」


 どうやら魔力探知で見つけた様子。


「あなたの名前は今日から茶太郎ね。はい、茶太郎おいでー」

 猫って物音がすると耳をそっちに向ける習性があるのに、命名茶太郎は俺の膝の上で俺を見上げて耳は真っすぐ俺の方だった。

 嗚呼、楓子が不憫で仕方ない。


「なぁお前、悪いけど楓子と仲良くしてやってくれ……」


 はい、と楓子に手渡すと、『しょうがねぇなぁ』と言わんばかりのンニャーと泣いて楓子の腕に収まった。

 嗚呼お前ちょっと待てそこは羨ましい。

 その猫当人としては、楓子の突き出してる部分に圧迫されるのが嫌なのか身じろぎしている。

 くっそー。

 って、そもそも猫の性別確認してないなと思い、楓子の膝の上で軽く押さえつけられてるかわいそうな茶太郎をひっくり返したところ、なんとついてなかった。


「おい、メスだぞこいつ」

「えー、茶トラってオスのイメージなのに」


 いや確かに毛色とかでどっちの性別が多いとか性格がどうってあるらしいけど。


「じゃあ茶太郎じゃダメ……?」

「楓子が楓太郎って呼ばれて嫌じゃないなら」

「うーん、じゃあトラ子」

「一気に安易」


 さっき俺のトラを却下したくせに。


「じゃあ何がいいの?」


 と言われても、名前を付けるのなんて過去何匹もいた野良猫で苦手なのはわかり切っているので、この際楓子の案を採用となった。


 楓子が満足するまでトラ子を貸し出し、ようやく放したと思ったらトラ子はシャルのベッドまで駆け上がり、長い尻尾をくねくねさせながらこっちの様子を見下ろしていた。

 まぁ静かにしている分にはいいや。


「結局智也も猫飼う気満々じゃないの」


 どうやら復活した千絵が楓子のベッドに座ってこっちを呆れた目で見ていた。


「仕方なくだぞ。どうせついてくるんだし。と言うか追いかけられたらガチで生命の危機だし」

「猫って遊びたいと追いかけてくる子いるけど……。それよりもご飯よご飯」

「もうそんな時間か。シャル帰ってこないけど大丈夫かな」


 いつの間にか暗くなっていたが、慣れてもいないので時間がいまだによくわからない。

 さっき遠くの方で、共通の鐘が六回か七回鳴った記憶はあるのだが。


「来なかったらあの子の分は持ち帰ってくればいいわよ」

「そだ、トラ子の餌も貰ってこないと」


 あるんだろうか。猫の餌なんて。

 一般的に人と同じ物は塩分が多いからダメなんて言うけど。


「案外、シャルがネズミでも取って来るかもな」


 そう言った瞬間の二人の表情の険しさは写真に残しておきたいくらいだった。

 いや俺も冗談で言ったし、シャルが本当に連れて来るとは思っていないけど。

 ただ、この学校で特に猫に構う生徒はいないようだったにも関わらずトラ子がいたと言う事は、何かしら餌にありつけていたと言う事じゃ無いだろうか。

 そうなるとネズミでも捕ってたかな? と考えるのは割と自然だと思うんです。


「もしそいつがネズミ捕ってきたら、智也よろしくね」


 この部屋が恐慌状態にならない事を今から祈る。

 それじゃあ行くかと部屋を出た所で何かにぶつかり、慌ててぶつかった物を両手で抱き留めたらふわふわしていた。手触りが。

 視界に入らないので一瞬何事かと思ったが、落ち着いて下を見たら制服姿のままのシャルが俺に抱えられていた。

 いやうん、ふわふわしていたと言っても変なところ触ってるわけじゃなく、制服の材質的とかシャルの髪質的にね?


「ああシャル、お帰り。どこ行ってたんだ」

「ん。餌」


 そう言って右手をグーにして上げた下にはシャルには不釣り合いな大きさの袋があり、どうやら猫の餌が入っているようだったが、何とも軽々持つものである。

 おそらく魔法で軽くしてるんだろうな、と言うのはシャルの動きでわかった。


「貰ってきてくれたのか」

「餌無いとかわいそう。トモヤが」

「……それってどういう意味だろうなぁ」

「肉食だから」

「それって何がかなぁ!」


 言わずもがな猫だけどさ。

 寝てたら半身食われてましたとかホラーもホラーだ。


「冗談。あの子、トモヤを気に入ってるからじゃれる事はあっても食べはしない」


 そうであって欲しいと心の底から思います。


「貴族の中に愛猫家がいるから分けてもらった。今度見せに連れてくることが条件」

「あ、ああ、そう。それはそうと俺たちもメシ食いに行く所なんだ」

「行く。ちょっと待って」


 そう言ってシャルは部屋に入り、どこかにあったらしい人用の皿に袋から餌を出した。

 どうやらドライフードのようだが、いったい何からできているんだろう。

 そして洗面所に行って、どうやら手を洗って来たのか外に出てきた。

 なんか小柄なシャルがちゃんと手洗いして来ると、なんとなく無意識にいい子いい子と頭を撫でてしまうのだ。


「ん……」


 やってからしまったと思ったが、本人が嫌がらないのでセーフと言うことで――と思ったら千絵と楓子が目じりを釣り上げてこちらを見ていました。


「待ってくれ誤解だ。俺はロリコンじゃない」

「そんな風に思ってないし、シャルちゃんに失礼だからね」

「私も撫でたいなぁ」


 楓子に関して言えば欲望駄々洩れで、しっかり聞こえてるシャルがちょっと悩むように楓子を見上げている。

 うーん、割と嫌じゃない様子。


 その後の夕食は、やはりある程度視線は感じる物の特に何事も無く、食後に再び話しかけてきた横山香苗が二日連続で部屋に遊びに来たが、トラ子が寄って行って膝の上で落ち着く物だから楓子にいたく喜ばれ、何となく友達付き合いすべきか警戒すべきかと考えていたっぽい千絵も『香苗自身は敵じゃない』と判断したらしく、結構遅くまでワイワイやっていたようだ。

 ようだ、と言うのも防音性能もあるらしい天井からぶら下がるカーテン式の間仕切りで仕切ってしまえば、同室とは言えそこまで向こうの声が聞こえるわけでも無いし。

 シャルも眠そうにしていたが、何かやることがあると言って転移門の魔法でどこかへ行ってしまった。ふわふわもこもこなパジャマ姿のままで。勿論帽子付き。

 まぁあれで外を出歩くとも思えないので、シェリールの所とか世界樹とかだと思うけど。

 さてトイレ済ませて寝ようかなと寝転がっていたベッドから起き上がり洗面所へ行くと、目の前が怪奇現象だった。

 キュッ、キューッ、と小さな音と共に洗面所の鏡に何もないと言うのに赤で文字が書かれていく。

 その文字は書き終わるとこの世界の文字から翻訳の魔法札の効果で日本語に自動変換されて見えるのだが、『中庭、フローラ代理』と書かれたかと思うと数秒で消えた。

 お、おおう……。

 中庭ですか。

 でも今の時間にわざわざ中庭まで降りていくと何事かと思うのが少なくとも二人は居るので、とりあえずベランダに出て確認しよう。

 済ますものを済まして部屋に戻るとベッドを素通りしてベランダへ。

 窓越しに間仕切りの向こうをチラッと見たら、二人と目が合ってしまった。

 まだまだ横山香苗はいるようだが、このままだと今日か明日にでも泊っていくんじゃないかとすら思うほど馴染んで見える。

 さて、中庭はと言うと、見下ろしても誰の姿も見えない。

 まぁ誰かいたらこの時間だし目立つことこの上ないし、フローラさんの代理とは言え魔族だろうし変に出てこれないんじゃいかと思うんだが――、と思ったらベランダの手すり、自分のすぐ横に殆ど着地音無しに誰か現れた。

 正直驚いて叫ばなかったのが不思議でならないが、見上げるとおパンツ様とうちの制服、それと女子生徒。

 蹴られたら確実に脳天吹っ飛ばされる位置なので、すぐに視線を下げた。


「フローラさんの代理?」

「トモヤね。私は妹のサクラ。ベスター様からの伝言を預かってきてるわ」


 妙に日本チックな名前だなと、今度は下着を覗かないように後ろに下がって見上げると、サクラと名乗った子は名前の通り桜色の髪をした、それも日本風の顔立ちの綺麗な子だった。

 フローラさんの代理と言った癖にベスターからの伝言とか言うし、どうも変な奴だ。


「……フローラさんの妹……?」

「と言うことにしないと同族が抜け駆けだなんだとうるさいから。本当は娘」


 あの若々しいフローラさんに娘がいる事に驚きながらも魔族だしなぁと納得する自分も大概かなと思いもしたが、父親が誰か想像ついてしまったので何も言わない。


「じゃあサクラって名前は父親からか」

「ええ。この名前だけは翻訳しなくてもそのまま聞こえるはずよ」


 ベスターは記憶喪失ではあれど、微妙に覚えている事もあるようだった。

 桜もおそらく覚えていたのだろう。

 にしても、フローラさんと同族と言うがフローラさんほど引きつける物を感じない。


「ここの学生だったのか」

「そんなわけ無いでしょ。私の見た目で制服を着ていれば目立たないからよ。それで伝言は『今度からサクラの見聞を広める為にに王国へ置くから、今後何かあったらサクラ経由で連絡を取り合おう』との事よ」

「なんかサクラさんには申し訳ないなぁ」

「さんとか付けなくていいから。私たちは生まれて数年で一気に成長するからわからないでしょうけど、これでも貴方よりも少し年下なの」


 そう言われてまじまじ見てしまったが、自分と同い年か下手したら顔が整ってる事とか落ち着いて見えるせいで年上に見えなくもない。


「サキュバスすげえ」

「使える魔法も簡単な攻撃魔法と防御魔法、あっちとこっちしか座標固定できない不完全な転移門の魔法だけで、社会勉強で王国に来たのも事実だから」

「それで一人でこっちに来たとか凄いなぁ」

「べ、別に凄くなんか……」


 素直に照れた。かわいいぞこいつ。

 何となく話し方に棘があると言うかツンケンしてるように思う部分もあったが、何から何まで不慣れで緊張しているっぽい。


「ベスターは、サクラのお父さんは他に何か言ってた?」

「ここ数日、貴方がこっちに来てから地脈を調べているみたい。いい加減外に出たいって嘆いていたわ」

「何とかなればいいんだけどなぁ」

「私としてはちょっと怖いかもしれないわ。だって地脈への魔力充填が無ければ自由に動き回れるんだもの。行く先々で魔王だって言われるのは辛いと思うの」


 果たして本人がそこらへん気にしているか知らないが、少なくともサクラはベスターが大好きな様子。

 ええ子や。


「っと、あのエルフが帰って来たから消えるわね」


 そう言うと姿が見えなくなった。

 簡単な防御魔法とか言っていたけど、一種の透明化じゃないのか。


「トモヤ」


 窓が開いてシャルが顔をのぞかせた。


「変な気配がした」

「なんもなかったけど、気配って?」

「強い魔力」

「俺が魔力感知できないの知ってるよなぁ」

「うー。気のせいでは無いのに。変な人とか動物には気を付けて」

「わかったよ。まぁ変な動物はすでに一匹いるしなぁ」


 顔だけひょっこり出したシャルの頭を撫でて部屋の中に戻る。

 いつの間にかトラ子が俺のベッドで丸くなっていた。


「シャルはどこに行ってたんだ?」

「シェリールのとこ。神託の儀式が近いから手伝い」

「そう言えば近いうちにやるって言ってた気がする」


 と、ここで気付いたがシャルの格好がさっきのパジャマでは無く白いドレスっぽい物になっていた。

 あっちで動き回るから着替えたのだろうか。


「ほらシャル、寝るんならちゃんと着替えろよ」

「あ、うー」


 何か失敗したような顔に一瞬なったかと思えば拗ねて唇を尖らせる。

 そして着替えるのではなく、音もなくドレスがさっきのパジャマに変わった。

 どうやらシェイプチェンジの一種らしい。


「これでおっけー」


 シェイプチェンジってあくまで見た目を変えてるだけだから、果たして元はパジャマなのかドレスなのかでちょっと気になってしまう。

 まぁシャルの事だから、あっちで着替える必要が出てきて面倒だからとシェイプチェンジを使ったんだろうけど。

 そしてシャルは二段ベッドの上に行き、布団を被ったかと思えば上からこっちを見る。


「一緒に寝る?」

「……トラ子を貸し出そう」


 ベッドの真ん中を占領して邪魔だったこともあり、俺はトラ子を抱え上げてシャルの顔の前に置いた。

 トラ子は迷惑そうな顔をしながらも眠気の方が勝ったようで、のそのそとシャルの布団の中に潜り込んでしまった。


「じゃお休み」


 こうして俺もベッドにあがって横になり、まだまだ女子会を続ける間仕切りの向こうをほんの少し気になるなーと思いながら眠りについた。

 ちなみに翌朝は一人と一匹が俺の領地に増えていた。

 偶然にしろ確信犯にしろ、ちょっとどうにかしないとヤバいんじゃないかなと思う今日この頃だった。




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