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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
住めば都の異世界生活編(自分を除く)
19/194

初登校


 結局食事は三人ともパンとスープと卵料理で済ませたが、シャルは慣れた物で俺達からすれば得体のしれない物を無表情ながら微妙に美味しそうな顔を浮かべながら食べていた。

 他にも得体の知らない肉料理とか得体の知らないサラダもあったのだが、朝から未知の食材を食べる気にもなれず、俺達は見慣れた物で済ましたのだ。

 食後は一旦部屋に戻り、身支度の再チェックを行い外へ。

 昨晩の事もあって横山香苗も何かしらアクションを起こすかなと思ったのだが、食堂で見かけた時も会釈をしてくる程度だったし、その後も特に何も無い。

 目指す校舎は正面入り口から歩いて少しの場所で、昨日最初に行った校舎だ。

 寮からもさほど離れていないが、寮の脇にある駐輪場からは大勢の生徒が自転車に乗って登校している。

 その行先はやはり同じ校舎のようだ。

 色々と施設はあるが、午前中の授業は主にこの校舎で行い、午後の授業は各々選択している学科の教室や実技が行われているドーム等の施設に行くらしい。

 シャルの言う、午後は神聖術を見に来てと言うのも、午後の選択はとりあえず神聖術を見に来てくれと言う事で間違ってはいないのだろう。

 でも勇者養成学科に先に行かなきゃ行けないような気が、いやしかしその後は楓子も神聖術だったと思うし、後は千絵が何を選択するかで、結局の所何が優先なのかわからないからアルバート先生にでも後で聞こう。

 俺達はシャルの案内で校舎に入り、教員のいると言う所謂職員室へ。

 学校のシステム自体がどうも自分達の世界の物と似ているようで馴染み深くはあるのだが、そこに通う人は全員と言って差し支えない割合で外国人の容貌なので、それで男子はブレザータイプだからいいとしても、女子はセーラー服なんか着てるから違和感しかない。

 この場合、教職員の男性がスーツで女性がカジュアルなドレスっぽい服なのは見た目とマッチして凄く落ち着いた。いやまぁ数日滞在して見慣れたと言えば見慣れてはいるってだけで、未だ頭のどこかでは違和感と交戦中なのだけど。

 きっとそこら辺に慣れて馴染んでしまったら、元の世界に帰りたいと思う気持ちも薄れるんだろうな。


 副担任の一般的な白人――アメリカ人的な適当さを持つ――ブラックと名乗る先生は、教室への移動中にジョークを交えつつにこやかに色々な事を話してくれた。

 入学可能年齢と言う物が無く、ここで学ぶに相応しいと判断されれば誰でも入学できる事。

 ただし学費は貴族階級でもない限り払えるような物では無く、平民で在席してる生徒の殆どが高い能力を認められ王国からの援助を受けているか、でなければ貴族の援助を受けているかのどちらかだと言う。

 貴族の援助を受けていると言う事は、将来的に援助を受けた家で働くことになるのだろう。

 貴族の援助を受けている生徒は、結果を出して自分が如何に優秀かを見せないと貴族の見る目を疑われてしまうとかで、結構競争が激しいらしい。

 がしかし、変に貴族よりも優秀だと出る杭を打たれかねないので、中には力を出し切れず正しい評価を受けないまま卒業していくらしいが、数年間の実務研修として魔法師団入りした事で遺憾無く発揮されて認められた人もいるんだとか。

 ちなみに援助を受けている以上、国の為に使われる魔法師団なんかに骨をうずめる事は無く、数年で援助元の貴族家で警備の仕事をする事になるのだそうだ。

 授業の成績でも貴族の上に行くことが許されない風潮もあり、人によっては力をセーブしてやる為に訓練にならない場合もあると言う。

 平民の中に驚異的な力を秘めている人が極少数いると言う事なので、そう言った平民に貴族は支援として学校に入れて家の力を増そうとするらしい。

 実際使えるようなら報酬は正しく渡され、その平民の家族にとって非常に大きなプラスになるので、そう言った支援、場合によっては金の力で無理やり従わすような場合でも大きな問題にならないらしい。勿論本人のモチベーションには多大な影響を及ぼすが。

 一般貴族と呼ばれる層は平民よりも能力的に秀でている事が多く、遠くの親戚に爵位持ちが居れば売り込んだり、むしろ目を付けられて支援されたりと言う形で在学していることが殆どだと言う。

 シェリールも貴族回りの事は気にしてるらしいとシャルは言うが、大きな問題にならない範囲で上手い事やってるようで、特に手を出す事も無いようだ。

 どうやら保守派の貴族はシェリールに反抗的らしいし、そう言った貴族が変に力を付ける事に関しては面白くないようだが、どうやら貴族社会に巨岩で一石を投じているシェリールなので反発があっても仕方ないように思える。

 そう言った環境は俺達異世界人であろうが関係ないらしいが、少なくとも勇者二人がいる以上、貴族側はすり寄りに来る方だから心配しなくていいだろうと言う。


「ああ、君は孤立したらアウトだから気を付けて」

「何となく俺に向けられる視線だけ刺々しい気がしなくは無いんですが」


 昨日の生徒の様子を見れば一目瞭然だったが、千絵と楓子に向けられる視線とは明らかに違う物だし、大半の人が二人をチラチラ見てたから俺を見て来るのは少なかったが、能力の無い奴は消えろくらいの視線を数回食らっている。

 まぁいい感情を持たれる要素なんて無いからしょうがないけど。

 学年と言う区分が無く、優秀な子なら年齢が一桁でも入学出来てしまうと言う事で、クラスには一定数幼い子がいると言う。

 逆に二十代半ばから三十歳くらいの人もクラスによってはいるらしいが、学校側としても延々在席されても困るらしく、これ以上学ぶことも無いと判断されたら強制的に卒業させる事もあると言うが、つまり延々居座ろうとする生徒がいると言う事だ。

 理由は家に戻りたくない、この場所が気に入っている等何パターンかあるらしいのだが、それならばと教職員としての就職口を用意したり外部講師として招いたりするとか。

 まだ五年ほどで学校の歴史は短い物があるが、王都において冒険者育成学校と言うのは大きな要素になっているようだ。

 問題は冒険者育成と銘打っておきながら、結果的に貴族の巣窟となって貴族の家を強化する為の学校になってしまっている事だが、有事の際はむしろ貴族が先頭に立って指揮しなければならないので、決して悪い事でもないようだ。

 実際貴族の下の方の子の中には、冒険者として活動しているのも多数いると言うので、一応学校としての面目は保たれているようだ。


「で、お前達のクラスはシェリール様の希望でシャルロット嬢と同じだ。どうやらシャルロット嬢と早くも仲良くなったようで安心したよ」

「ええ、まぁ、この二人が気に入ってしまいまして」


 ずっと無口で歩くシャルは、千絵と楓子に左右を固められて迷惑そう――と言う事は一切無く、どことなく楽しそうに歩いている。

 エルフ自体が北欧系の顔立ちの種族みたいだが、幼い見た目のシャルのセーラー服姿と言うのは最初は違和感があった物の、その可愛さと制服自体が安物の衣装ではなくガチな物だからか、『私立の小学校に通う外国人の子』みたいな感じだ。


「にしてもシャルロット“嬢”ですか」

「お前達はまだよく知らないのだろうが、エルフ族自体がこの世界において稀有であり非常に有能な種族なんだ。今後担任のアルバートから勇者養成学科の方で色々教わる事だろうが、この国の長い戦争を調停し千年を超える平和をもたらしたのもエルフの王になったからで、特にこの国の民はエルフ族を特別視する者が多い」

「何となくは聞いてますけど」

「それとこの星のマナの源である世界樹から発生したとされる事、世界樹の管理者をはるか昔からやっている事など、この国に限らず世界中でエルフ族は尊敬される存在だ」


 そこら辺を聞くと、恐らく世界樹の濃い魔力によって変質したのがエルフ族と言う事なんだろうなぁと思うが、そう考えると魔族と変わらないのではとも思ってしまう。

 割とよくあるファンタジー系の物語では妖精系の種族だけど、この世界のエルフは人間族の亜種なんじゃないかと思う程人間らしい。

 人をベースに世界樹の魔力が変質させたのなら理解が追い付かなくも無いが、何もなく世界樹の魔力が発生させましたと言われると人間と殆ど同じ姿である理由や必然性がわからない。

 それこそ管理者として作られたのであれば、フェアリーみたいに羽があって飛べる方がそれっぽいと思うんだけど。

 今度ベスターに会ったら聞くことがどんどん増えていくなぁ。

 と言うかベスターとは気軽に別れたし、何ならまたすぐ会えるくらいの気軽さだったけど、この世界に来て初めての友達と言える存在だし連絡手段くらい聞いておくべきだった。

 なんかもうそこら辺スルーしてしまうくらい当たり前に会えるような感覚だったから不思議だ。


「よし、ではアルバートに引き継ぐからここで待っていてくれ」


 クラス名にFと書かれた教室に着くと、ブラック先生は俺達を止めて中に入って行った。チラッと見えた内部は中学や高校のソレと変わらず、何人もがこっちの様子を窺うように廊下の方を見ていて軽くビビる。

 世界観的に魔法学校みたいな、教室も大学の講義室みたいに生徒の席が階段状に上に上がっていくタイプだったりしたら気分も上がるのだが、この学校はどこもかしこも現代の義務教育の学校と変わらない。


「よし、中に入っていいぞ」


 戻って来たブラック先生はそう言うと、そのまま職員室の方へ歩いて行ってしまった。

 うーん。

 二人とも顔を見合わせちゃってるし、先陣を切るしかないのか。

 と思ったらシャルが普通に扉を開けて中に入ってしまった。

 ――いやまぁ、確かに既に在学してるから当然なんだけどさ。

 と、戻って来て俺の腕を取って教室に引きずりこもうとするのだが、いかんせん力が弱くてちっとも動きやしない。

 なんと可愛い生物なんだこいつ。

 なんて思ったのも束の間、自分の非力さに怒ったのか俺が動かない事に怒ったのかムッとなったかと思うと凄い力で引っ張られた。

 それが普通では考えられない力だったので、恐らく魔法を使ったのだろうと言うのはすぐに分かったが、わかった所で抗えるわけも無く、たたらを踏んで転びそうになってシャルにしがみついた所で入場となった。

 つまり、俺が幼女を襲うかしがみつくかの二択にしか見えない状況で、やべえぞこれやべえと必死に思考を巡らせた結果何故かシャルをお姫様抱っこして前に進み出てしまった。

 人間混乱すると何するか分かったもんじゃないな。

 いや他人事みたいに言うけどすげー見られてる、すんごい見られてる。何ならアルバート先生も呆れた顔をしてる。

 よいしょ、とシャルを下ろすとシャルは何事も無かったように自分の席に着いてしまった。

 俺を追いかけるように意を決した二人も俺の横まで来るが、今の出来事で俺の視聴率半端ねーっす。


「えーっと、今ブラック先生が言ったように今日から編入してきた異世界人だ。今馬鹿やらかしたのがトモヤ、その隣がチエ、そしてフウコだ。既に噂になっていると思うがチエとフウコは勇者適正を持っていて、チエはアークウィザードの勇者適正持ち、フウコはアークプリーストの勇者適正持ちだ」

「せんせー、そっちの男はー?」

「トモヤは何と不幸な事に遊び人だ」


 どっと教室中が湧いた。

 そりゃもう大爆笑に次ぐ大爆笑で、笑ってないのなんてシャルくらいな――ってあいつもうっすら笑ってやがる。

 さっきの登場シーンも相まってなのだろうけど、これは俺の人生お先真っ暗じゃなかろか。


「が、シェリール王女のお気に入りでもある。こいつに何かあったら覚悟しろとの伝言があった事をここに言っておく」


 タラシか、タラシね、シェリール様を誘惑しやがったのか、あいつコロス、くっそシェリール様に拝謁できる機会があれば目を覚ましてあげれるのに、とりあえず殺そう、等々。

 シェリールの気の利かせ方一つで俺の状況の悪化具合が酷い。


「それとシャルロット嬢も懐いてるらしいから、お前ら秘密裏になんかしたら飛行魔法の実験体にさせられるから覚悟しておけよ」


 水を打ったような静けさとはこの事かと言わんばかりに静まり返った。

 同じエルフ族とは言え身近なシャルですら、と言う事のようで、面白いくらいに悪意を隠してしまった。

 どちらかと言えば、エルフ族をたらし込む天才、と言う称号が与えられているっぽい。

 何処と無くそんなひそひそ話が聞こえる。


「じゃあ自己紹介」

「……ただいま紹介を頂きましたトモヤです。えーっと、色々あってこの学校にお世話になる事になりました。極力大人しくしてるんで許してください」

「お前後ろ向きな」

「あの、アルバート先生。今の状況でどうしろと」

「折角俺が場を温めてやったんだから、シェリール様とシャルロット嬢は俺の物、くらい言わないかなーとは思ってた」

「多分その瞬間殺されます」


 目の前の生徒じゃなく、隣に並ぶ二人の突っ込みで。

 勇者適正のせいで元々の身体能力も少なからず上がってるはずだ。


「はじめまして、チエです。まだこの世界の事を良く知らないので色々教えてください。それと智也に何かあったら私も許しません」

「私はフウコです。同じく右も左もわからない異世界に来てしまったので色々教えていただけると嬉しいです。あと智也君にに何かあったら私も怒ります」

 水を打ったような静けさが一転、うひょーだのキャーだのうわーだの、所謂黄色い悲鳴があちこちで上がった。

 うっわマジかよと二人を見たら、二人してしてやったりと言う顔なのだ。

 やられた。

 アルバート先生の言葉を受けての事なんだろうけど、この二人のこう言う悪戯は割と洒落にならない。

 そのせいでどれだけ男子生徒と極一部の女子から恨みを買った事だか。

 いやマジで百合とか漫画の中だけかと思ってたけど、二人とも部の後輩に物凄く好かれていて、その中で数人過激なのがいただけの話なのだが、男のやっかみよりも女子の恨みの方が怖いのだ。

 上履きに画びょうが入ってたかと思えば目撃者の話では女子だったとか。

 一度は教室後ろの個人ロッカーに使用済み雑巾と牛乳がぶちまけられていたことがあって、流石の千絵と楓子もキレて犯人探しを始めるなんて事件もあったが、結局犯人は見つからず、俺への過度な嫌がらせはぱったり止んだ。


「トモヤもこれくらい柔軟に対応出来なきゃな。よし、席は自由なんだが、シャル嬢の所しか空いてないし丁度いいな」


 最早先生もシャルを辛うじて嬢とは付けているが愛称で呼んでしまっているので、エルフ様と言う扱いもあるのだろうが八割方はマスコットキャラ的な扱いのようである。

 シャルは教室の右後ろ、窓際の角地でぽつんとしているのだが、これはハブられてるとかではなくエルフ族として近寄りがたいとかそう言う感じに思える。

 丁度隣と前の二つが空いているので、俺も色々あったし隅っこがいいなーと窓際に座ろうとしたら千絵に阻まれ、じゃあ後ろにと思ったら楓子に阻まれ、結局この一角の中では一番視線が集まりやすい場所、シャルの斜め前で千絵の隣で楓子の前と言う席になってしまった。

 これはアレか、二人ともこの位置が嫌だっただけか。くそう。

 でも後ろを向いたら机に楓子のおっきいのが乗っかって見えて眼福でした。隣から貫き手がわき腹に刺さったけど。


「授業に関してだが、チエとフウコは午後の選択科目で俺の所に来てもらう。トモヤはあれだ、えーっと、好きにしてくれて構わない」


 その言葉とアルバート先生の表情から、俺は何処に行った所で何もできないだろうと言うニュアンスはヒシヒシと伝わって来た。

 まぁ、とりあえずこれで最優先は勇者養成学科であることが確定されたので、逆にシャルにもついて来てもらおう。


「なに、まぁ無難に三人まとめてこの世界の常識なんかを学ぶのが妥当だろうがな。午前中の授業に関してはわからない事だらけだろうが、それは仕方ないので気にしないでいいぞ」


 ではまた午後、と言ってアルバート先生は出て行ってしまった。

 そもそもどんな授業があるのか殆ど聞いてないのだが、放り込まれてしまった以上言う通りにするしかあるまい。

 しかし参ったな、なんて頭を抱えてみた所で解決するでも無し、これは気合を入れようと顔を上げたら強烈なまでに視線が突き刺さっていた。

 その視線は各々の席に座ったままではなく、クラスの半数、大体十五名程は立ち上がって友達と話す素振りをしながらもこちらから視線を外さない。

 これはあれだな、誰が先陣を切るのかとかそう言う奴だ。


「なぁお前遊び人なんだって?」


 そして、この場合は奥地にいる千絵や楓子では無く窓口に座る俺にアタックしてくるのが妥当だろうし、当然そうしてきた奴がいた。

 しかもさっき、俺の適正は何だと聞いてきた奴だ。


「残念な事に何も出来ない遊び人だけど」

「いやいや、この学校において遊び人がいる事自体が奇跡だからな。それこそ、そこに二人いる勇者適正持ちよりも少ないわけだ」


 なるほど喧嘩を売りたいのかこいつは、よーし買ってやろう。――なんて思うだけ思っても何も出来ないけど。

 基本的にこの学校にいる男子は皆筋骨隆々である。

 その中では今話しかけてきた男子は細い方だし、どちらかと言えば戦闘向きでは無いように思えるのだが、それを言ったらクラスの四分の一程を占める女子でがっしりとした体格は半分程だし、見た目から判断するのは危ない。


「俺はジャンだ。王国で三本の指に入るジャクソン商会の長男で、適性は商人と微妙に魔法適正が高いって言う実に商会の長男に向いた適正持ちだ。よろしく」

「……よろしく」


 何だろう、遠回しな自慢のような、自己紹介の定型文として言いなれているような不思議な感覚だ。

 このジャンの行動で他の連中も動くと思いきや、未だ様子見を続けている。

 どうやら俺の動向云々よりも、千絵と楓子がどう反応するかを見ているらしい。

 中では女子に「お前行って来いよ」とせっついてる輩もいるが、高圧的に命令している風でも無いのでクラスメイトとして対等ではあるらしい。

 どうも食堂の光景とか見てると男女の溝でもあるんじゃないかとか、場合によっては完全なる男尊女卑の社会じゃないかとか思っていたが、そこら辺は普通の学校と同じような人間関係が出来ていそうだ。


「そう警戒するなって。ほら、この学校って戦闘系適正持ちの方が偉いみたいな風潮あるから、俺達みたいな非戦闘適正持ちは仲良くしないと」

「それはありがたい話だけど、俺を窓口に取り入ろうと考えてるなら辞めた方がいい。こいつら最近俺の言う事殆ど聞かないから」

「失礼ね」

「ちゃんと智也君の言う事聞いてるよ?」


 の割にはさっきみたいに俺をハメるような事を言ってみたり、今朝みたいに際どい恰好で寝て驚かせようとするのだ。


「なんかさっきの感じだとトモヤってすげー弱気に見えたのに、そうでも無いのな」

「そりゃ気張らないで済むならそれでいいけど、この状況を見たら俺が頑張る以外にどうしろと」

「つまりトモヤは彼女達のナイトって事だな」


 変な事を言い出した。

 ジャンはうんうんと頷いているし、それを聞いた二人も顔を見合わせて『それだ』みたいな顔をする。


「そうね、それなら今度から私達のナイトって事で」

「智也君なら私達を守ってくれるもんね」


 ええ、そりゃトラックが突っ込んできたときに真っ先に二人を庇おうとする位には守る気もありましたけど、この世界じゃどう考えたってお前達のが強いからな?


「面白いなトモヤって。いやほら、勇者二人を従えた遊び人ってどんなよって噂になってたけど、嫌な奴じゃなくてよかったよかった」


 そう言ってバンバン肩を叩いてくるが、こいつもやっぱり人並み外れた力を有しているようで結構痛い。

 ジャンは満足したようで自分の席に戻ったが、ジャンの後に続いてくる人はおらず拍子抜けした。

 それよりもジャンの周りに人が集まって何やら喋っている。

 こいつ、非戦闘系はどうとか言ってたくせに、所謂クラスのムードメーカー的存在なんじゃないだろうか。

 家が商会と言っていたし自分も商人適正があるようだったから、そういう意味でも人心掌握に長けているのかもしれない。

 と、女子が数人集まっていた中から小柄な子がポイっと排出されて、恐る恐るこちらに近づいてきた。

 これは何と分かりやすい力関係。


「あのー……」


 その言葉は教室後ろ側の楓子に掛けられ、楓子も小柄な子――と言うか多分十歳くらいの年下の子だからかにこやかに対応し始めた。

 どうも何かあると、いつの間にか二人とも俺の後ろにいて俺が矢面に立たされる事が多いのだが、年下の同性同士ならちゃんと対応しようとしてくれるから助かる。

 それこそ比率的に少ない女子は一致団結しそうな気もするのだが、女子が十人ほどしかいないこのクラスでも一番大きな塊はこの子が排出されてきた所で、他にも二人組で話してる子達、三人組で話してる子達と合計三グループに分かれているようだ。

 軽く観察してみた所、大きなところはどうやら家柄的に上っぽく、それに連なる家系なのか援助してる平民の子達なのかが集まっていて、どうやら頂点に立つ女子生徒はあいつだなと言うのだけはわかる。

 で、多分この子は態度からすると貴族では無く平民っぽい。

 割合的には貴族の方が圧倒的に多いが、空気感や行動や表情なんかで貴族じゃなさそうなのが何人かいるのは見て取れた。


「えー、私達だって勇者だなんだって言われてるけど元々は普通の、この世界で言う平民なんだから普通にしててくれればいいのよ。ねぇ?」

「うん。シェリールちゃんみたいに王女の友達がいたりするけど、私達は私達だもんね」

「シェリールも王女って言うけど、実際は何かふつーだったしねぇ」


 ごふっ、と小さく咳き込む音が聞こえて何かと思ったら、シャルが外を見ながら咽ていた。

 同族の王女をやってる人を相手に普通と言ったのがツボに入ったのだろうか。


「それに私達よりもここでは先輩なんだから敬語も使わないで。じゃないと私達がずっと敬語で話しかけるからね」

「それが出来ないならー」


 この二人の対女子の社交性は凄いと本気で思う。

 年下だろう女の子に敬語を使うなといい、それが出来ないならこっちが敬語になるぞと脅し、それが出来ないならと楓子が有無を言わさずハグをして、そう、何と言うか全身くまなくまさぐるのだ。多分本人はくすぐってるつもりなんだろうけど。

 それに千絵も混ざり、一体この場は何なんだろうと言うカオス空間が出来上がったと思えばあっさり解放し、真っ赤な顔でぜーはーぜーはーと息の荒い小柄な子が観念するのである。

 二人とも、千絵はともかくとして楓子もこれで体育会系なので、仲良くなるにはスキンシップからと思ってる節があり、そのせいで一部に熱烈なファンを作ってしまうんではないだろうか。

「いい? 毎朝ちゃんと挨拶をするし、敬語は使わないし、クラスメイトなんだから最低でも対等の関係だからね?」

「出来なかったら毎回くすぐっちゃうよー」

「わ、わかりました、わかったからもうやめてーっ!」


 ドタバタと集団に戻ってしまった。

 うーん。

 多分、勇者適正持ちと言う事で畏怖の念を持つ生徒が多いのだろうけど、そこら辺一気にぶっ壊しにかかって、それが意外と成功していそうなのだ。

 今のやり取りで女子達は二人が意外とフレンドリーな性格をしている事を知っただろうし、下っ端にしてる子が二人とタメ口で会話するのであれば自分達も続くしかあるまい。

 未だ様子見の段階で中々近寄っては来ないけど、少なくとも千絵と楓子に関しては全く心配してなかったけど問題無く溶け込めそうだ。



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