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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
住めば都の異世界生活編(自分を除く)
18/194

その寝間着はあかん(真顔



 翌朝、重厚な『リーン……、ゴーン……』と言う鐘の音がして目覚めた。

 もう朝かと起き上がろうとしたら非常に強い抵抗感があり、何だそんなに疲れていたのかと眠い目をこすりながら横を見たら薄緑色が広がっていた。


「……ああ――、うん」


 幸いにも寝起きは弱く無いのだが、それでも背中に幼女がしがみついていたら驚かないほど百戦錬磨のロリコンではない。と言うかロリコンではない。


「おーい、シャルー」


 我が領土である二段ベッドの下段に侵攻してきたエルフ族の幼女、に見える年齢不詳のシャルは穏やかな寝顔で、しかし俺の腰に手を回してがっちり抱えていた。

 仕方ないのでとりあえず腕を外し、寝起きのせいで軽くふらつきながらも非常に軽いシャルを抱え上げ、ハシゴに寄りかかりながら一段一段上って上段にシャルを放り込んだ。

 抱えた時に思ったのは、シャルの匂いと言うとフェティッシュと言うか変態チックだがシェリールと似ている事だ。

 シェリールも距離感が近かったので思春期男子のエロい妄想を掻き立てられたが、流石にシャルに感じるほど飢えてもいないと言うか、シャルの場合は見た目が幼いせいで保護欲を掻き立てられる。

 多分そこら辺もあって、慌てずに上段に上げようと思ったのでは無かろうかと自己分析をした所で、間仕切りの先の二人に動きが無い事に気付いた。

 先ほどの鐘が時報なのか目覚ましなのかは知らないが、既に外が明るいので起きなければ不味いだろう。

 ベランダに出て外を見下ろしてみるが、生徒が出歩いている風でも無いし、どことなく空気感が清涼な早朝のそれだったので、まだ早い時間なのでは無いだろうか。

 だが早すぎる時間でも無い事は、同じようにベランダに出て来ていた隣の公爵家の誰かが居たことでわかる。


「おはようございます」


 とりあえず挨拶だけはしなければと声をかけると、小さく手を上げて返してきた。

 どうも眠そうだが、西洋人の割と彫りの深いゴツい学生で、食堂で見かけた気がしないでも無いが正直確証は持てない。

 そもそもだ。

 日本人からしたら西洋系の顔つきなんてどれも似たり寄ったりで見分けがつきにくい。

 それも、公爵家の男子とあらばみんなして体つきがゴツいのだ。

 面と向かって話したカインならばわかるが、いや起き抜けで眠そうな顔をしていたら自信が持てないかもしれない。

 これで子爵家や男爵家にまでなってくると体つきが穏やかになって来るので、公爵家として体を鍛えるのが義務なのか、遺伝的な物なのか。


「さっきの鐘ってどう言う時間なんですか?」

「ああ――」


 やっぱりすげー眠そうだ。


「まずは自己紹介をしておこう。ハインリッヒ家の八男でアハトだ」


 アハトってドイツ語の数字で八だったはずなのだが、実際にこの世界でもそう言う意味合いの名前なのか、それとも翻訳の魔法札さんが適当なのか判断が出来ない。

 だがそう翻訳されていると言う事は、恐らく日本名にすると元々八郎とかその辺りの名前なんじゃないだろうか。


「あ、俺はトモヤです。ってハインリッヒ家って、王城で俺達についてたのがマリーネだったんだ」

「そうか。アレは俺の双子の姉なんだ。何か不手際が無かったろうか」

「むしろこの世界の事を知らない俺達が不手際だらけだろうから」

「なるほどな。――で、そうか、時間か。今の鐘は六時の起床の鐘で、次に鳴るのが食堂が解放される六時半だ。他には始業の八時、昼の十二時、終業の合図として日没前、夜八時の夕食の時間に鳴る。これは学校敷地内の鐘で、近隣国を含め基本的には朝六時から夜八時まではその数字分鐘が鳴らされる。校内の鐘も回数は同じだが、朝食の六時半に関しては一音高い鐘が鳴るのでわかりやすくなっている」

「時計が無いのがここまで不便で不安だとは思わなかったなぁ」


 アヤメさんの所では日時計自体はあったが、鐘が壊れていたので何時に鳴ると言った事までは聞いていなかった。

 アヤメさんも俺たちが王都で暮らすと思ってなくて教えて無かったような気もするが、今にして思うと聞いた事の大半が僻地で生きて行く為に必要な事だったので、王都でどの程度知識が通用するのかはわからない。


「トモヤ達の世界には一目で時間がわかる物を誰もが持ってると聞くが、事実なのか?」

「色々と形は違えど、そう言う機能を持った物を大抵の人が持っているのは事実だよ。その分時間に細かい世界なんだろうけど」

「そうか。この世界では前後三十分は誤差だからな。授業開始の時間に遅れないようにとは言われているが」

「ありがとう、アハトと呼んでもいいかな」


 昨日の千絵と横山香苗の仲良くなり方を思い出して言ってみた。

 とりあえず名前の呼び方やフレンドリーは話し方が主だった部分だったのでやってはみたが、初対面の相手にグイグイ行ける奴ってほんとすげえな。


「そちらの世界ではどうか知らないが、この世界ではそれが普通だが? 下の者が呼ぶ時は様をつけるが、トモヤ達異世界人は別だからな。中には異世界人を従属させているのもいるが」

「ハインリッヒ家はその辺りどうなの」

「四公爵家は伯爵家や子爵家や男爵家にも偉ぶる事は許されていない。貴族の模範たる公爵家なれば、領土を預かり領土と領民を守る義務があり下々の者を抑圧してはならないとされている」


 下々と言うので位の差はしっかり区別してそうだ。


「とは言え、これは五年ほど前にシェリール様が言い出した事なので、中にはいまだに反発する者もいると言うがな。少なくとも自分よりも地位の低い者は守るようにと言う事らしいのだが、下々の者は奴隷と変わらんと思ってるのもいまだにいる」


 シェリールの改革とやらは正しいのだろうが、貴族の一部に反感を持つ人が一定数いるらしい事は王城でも何となく聞いていた。

 それでも反乱が起こらないのは、やはり世界樹の管理者とか長寿で知識を多く持っているなんて言われているから手が出せないのだろうか。

 なんたって世界樹の管理者と言うことは、実際出来るかどうかは置いておいて地脈に何らかの細工をして土地を枯らす事も出来そうだし。


「シェリールほど人間の事を考えている奴はいないと思うんだけどなぁ。人類皆平等って感じで」

「そう、恐らくシェリール様は将来的に貴族制度を廃止するのではと言われている。だからこそ貴族特権に溺れてる輩から疎まれているのだろう。いやしかし朝からする話ではないな」

「何分わからない事だらけだから助かるよ」

「トモヤは不思議と話しやすい奴だな。いや、私が公爵家だとしても遠慮が無いからか」

「それに関しては不作法で申し訳ないと言うか何と言うか」


 寝起きなのもあるけど、マリーネの双子の弟だと言うのもあって、俺の虚勢に満ちたフレンドリー戦法は成功を収めた模様。


「いや、異世界人の勇者となれば国賓と変わらない。仮に遊び人だったとしても勇者の従者――いやこの場合は友人が正しいのか、それならば同じく国賓級の扱いをされるべきだろう。ならば公爵家にとっても丁重に扱わなければならない客人だ」

「いやいやあくまで俺達は一般人だから」

「それならそれでいいさ」


 俺がどう思おうが、周りはそう見てくれないと言う事だろうか。

 何にしても、千絵と楓子のおかげで俺は勇者の仲間として表向きは杜撰な扱いをされないで済みそうだと言う事はわかった。

 勿論、『あの遊び人が』みたいな扱いを陰ではされるだろうけど、この際陰口は仕方ない事として早々に諦めた方が精神衛生上いいだろう。

 昨日の弓術場でだって、遊び人と知られた時の反応は酷い物だったが、シェリールの友人と言う事で対応自体は決して悪くはなかったし。

 と言うか、多分昨日の弓道場の一件もあって噂が爆発的に広がってるんだろうなぁ。

 勇者云々だけでも爆発力あんのに、そこに来て謎のベールに包まれてると言うか謎の塊であるシェリールの友人と言うのだから。


「さて、では朝の支度があるので失礼するよ」

「あ、色々教えてくれてありがとう。これからもよろしく」


 アハトは薄く笑みを浮かべ部屋に戻った。

 うーん、アヤメさんからも貴族連中はクソなのが多いみたいな事を聞いていたけど、十人十色と言うだけあって必ずしも悪い奴ばかりでは無いのだろう。

 実際のところ、勇者一行だから優しくしてる可能性が無いとも言えないが、これまでの経験や人間観察の結果からして、アハトは悪人では無さそうだ。

 何より寝起きで眠そうなのに丁寧に対応してくれる辺り、非常に好感が持てる。

 さぁ、とりあえず三人を起こして朝の支度をしよう。

 自分も間仕切りのカーテンの反対側から部屋に戻り、二段ベッドを観察する。

 二人の寝息が聞こえる。

 千絵も楓子も朝練があったから朝には弱くは無かったはずだが、昨日は少なくとも早く寝れそうにもなかったので、恐らく起こさなければ起きないだろう。

 とりあえず下の段の楓子を起こそうと近寄って、おーいふーこーなんて言おうとした瞬間に凍り付いた。

 楓子、その恰好はあかん。

 お父さん許しません。

 所謂ベビードールとかそう言う部類の物になるのだろうが、薄いピンクで微妙に透けてる上にはだけていてギリギリ重要なポイントが見えないくらいの塩梅なのだ。

 と言うかパンツはしっかり見えておりますが。

 これは直視できない。

 じゃあ千絵はどうなのかと、下の段に足をかけて上の段を覗き見ると、綺麗な寝顔の千絵が目の前にいた。

 そして、やはり着ているのは楓子と同じで色違いの薄い赤。

 この薄いと言うのがポイントで、色自体が薄いと言うよりかは生地が薄いから色も薄く透けて見えるだけだ。

 千絵の整い過ぎてる寝顔に目を少し反らしたら意図せず胸元の方に視線が行ってしまい、薄い赤色の布の隙間から胸の何割かがこんにちはしていて、あかんやっぱり直視できん奴やとベッドから離れる。

 これはリーサルウェポンを使うしかない。

 間仕切りの反対側、自分の陣地に来てハシゴの真ん中まで登ってベッドの上段に乗り込むと、プラチナブロンドに緑を混ぜたような綺麗な髪色のシャルを揺する。

 これはもう虐待じゃなかろうかと言う程に揺する。


「ぁー……」

「おはようシャル。朝だよシャル。早く起きないと大変な事になるよシャル」


 主に俺の理性が。


「ぅぁー……、あ……さ……」

「そう、朝だぞー」

「うー……」


 あれだけ早く寝ていたおかげかは知らないが、思いのほか早くシャルが眠い目をこすりながら上半身を起こした。


「おはよう」

「……おは、よう……」


 ほっといたら二度寝しそうだけどな。


「さてシャル。起きたら千絵と楓子を起こしてほしいんだ」

「うー……起こす……」


 のそのそとこっちに来たので、ハシゴから降りて少し待つ。

 何を思ったかシャルはハシゴの上段に腰かけた状態から俺に向かって飛んできて、反射的にそれを受け止めてた。

 軽いなぁ。


「うー、起こすー」


 まだ開き切らない目でのそのそと間仕切りを迂回して反対側へ行くと、『おきてー』と気の抜けた声が聞こえてきた。

 どうやら楓子を揺すってるようだ。

 しかし、そのシャルの声や動きの気配がぱたりとなくなる。

 おぅ、これぞミイラ取りがミイラになった奴や。

 結局、理性フル動員で三人を叩き起こす事になるのである。


 シャルがシャワーを浴びてる間に二人は身支度を整え、制服のスカートの長さ談義を始めていた。

 昨日の感じでは巻き込み無しの膝下丈がデフォらしいが、千絵としては膝上十センチくらいは最低でも上げたい、何なら十五センチや限界に近いニ十センチもとか言い出して楓子に呆れられていた。

 そんなん元の世界でもエロい産業の服装だ。

 結局、異世界人のファッションセンスはこうなのだと千絵と楓子で揃って膝上十センチくらいにする事で合意を得たようだが、男からしたら短い方がいいに決まっているので特に何も突っ込まない。

 ぶっちゃけ長ければ長いで清楚感があっていいと思わなくも無いが、自分達の世界では短めの方が一般的だったし。

 これで、二人に触発されてこの世界の女子が真似ないかな、膝丈の長さと言うのも西洋系の顔と相まって何処と無く心躍る物があるのにな、などと考えなくもない。


「結局二人とも何時に寝たんだ?」

「何時かとかわからないけど、智也が寝てから大分経ってたわよね」

「うーんと、多分三時間くらいは経ってたと思うよ? あの後色々試してからお風呂行ったもんね」


 その試したおかげか知らないが、二人ともスッピンでもアイドル級の綺麗な顔立ちなのに、薄く化粧をしてバッチリ決まっている。

 かなり注意深く見ないと化粧してるかどうかわからないのだから、技術なのか化粧品がいいものなのか。

 そもそも二人は眉ですら軽く整えてる程度だし、肌も綺麗だし、男からしたら化粧なんてする意味なんて無いように思えるのだが、女子としては一点でも気になる部分があったら手を加えたいらしく、全くのノーメイクで外を歩くなんてゴミ出しと近所のコンビニか俺の部屋に来るぐらいだなんて豪語された事がある。

 でも、実際ノーメイクと比べると華やかさがかなりアップされてるから否定できないし、むしろ周りの人間が二人は人並み外れたかわいさであるべきだ、みたいな印象を持ってしまっているが為に、二人とも化粧をせざるを得ないと言うか何と言うか。

 何とも女子は大変な物だ。

 それにしても疑問が一つあるのだが、先ほどはピンクな光景に動転してしまったが、昨晩二人が見ていた服の中にあったパジャマは極普通の物だった。

 それなのになぜ、あんなベビードールを着ていたのか。

 普段から二人がああいうのを愛用しているわけでも無い。と言うのも割と寝起きの二人を見る機会はあったわけで。

 と言う事はだ。

 俺が寝ている間に発見し、二人して俺を驚かす気で着ていたのだろう。

 お前ら恥ずかしく無いのかと言う事を平気な顔でやってのける二人だ。

 例えば公開処刑と言わんばかりに、三人揃って朝の教室に入った瞬間、二人で大きな声で俺にバレンタインチョコを渡してきたりとか。それもこれ見よがしに大きなハート型のを。

 他にも大勢の生徒の目があるような環境で、二人して俺の両側から腕を絡めて来て並んで歩くとか。

 その程度ならまだ日常茶飯事と言うレベルになるくらい頻度が高かったが、寝起きドッキリ系は半年に一回くらいあった。

 週末の度に人の部屋に来ては夜中まで遊んで雑魚寝して、起きたら両脇には二人がいて、誰が撮ったか知らないけどバッチリ映ってる写真とか。

 いや誰かじゃなくうちの母親が面白半分に加勢したのだろうけど。

 それも、本人たちは完全に寝たフリの顔だったし、わざわざ引き延ばして大型フォトフレームに入れて千絵と楓子が見せて来るのだから、手も込んでれば金もかかってる。

 そんなん千絵や楓子が友達を家に呼んだ時に見られでもしたら大騒ぎだし、噂を聞きつけた男連中に本気で殺される気がするのでリアルにヤバい案件だった。

 二人とも単独ならそういう事も無いのに、どう言うわけか二人揃うと悪乗りなのか色々やって来るから頭痛の種だ。

 でもな、二人ともわかってるとは思うけど、ベビードールって普通にエロ下着だからな。俺の理性をあんまアテにすんなよ。


「ねーふーこー。髪やってー」

「いつもと一緒? 変える?」

「初日だし普通でいいよ」


 二人はと言うと、俺が一瞬でも悶々としてしまってる時に髪を結い始めていた。

 楓子は基本的に櫛を通すだけだが、千絵は大抵両脇から一房引っ張って来て後ろで結んだり留めたりするか、引っ張って来た髪をゆるく三つ編みにするかの二択が多い。

 何でかと聞けば、見た目綺麗に纏まる割に自分でやりやすく、大きく髪型を作ってるわけでも無いから部活の時はゴムで一つに纏めても大丈夫だし、何よりこういうの好きでしょ? との事だった。

 いやまぁうん。

 一時期ロングヘア―系美人が割とそう言う髪型多かったし、ゲームやアニメのヒロインにもその手のが多かったから、どことなくヒロインキャラの髪型って印象がある。

 そして俺はそれが嫌いではない、と言うか割と好き。

 そこら辺の好みは、人の部屋で勝手に漫画を読み漁ったり、人がやってるゲームを横で見てるので把握されているらしい。


「そう言えばシャル遅いな」

「流石にお風呂で寝てるって事無いでしょうし、そろそろ来るでしょ」


 シャワーを浴びて来ると言って扉の向こうに消えてから三十分近く経つ。

 そろそろ出て来て支度しないと朝食の時間がなくなってしまいそうだ。

 と、思ったら扉の向こうから物音がして、何だ心配する事も無かったなと安心した矢先に開いたドアには真っ裸のシャルがいた。

 それも律儀に透き通った緑色の髪が胸元とかに垂れ下がっていて、チラッと見て慌てて目を反らしたから俺の中ではセーフ。セーフだよな? とチラッと二人の様子を窺うと、それどころじゃないらしく二人してドタバタとシャルを扉の向こうに連れて行き、あーだこーだとやっていた。

 シャルは無防備と言うか常識が無いのだろうか。

 本来こういう場合はラッキースケベとか、お前まだ寝ぼけてるのかとか話が展開するのだろうが、わざとやってるんじゃ無ければ相当に抜けてるか裸族かのどちらかだ。

 ちょっと考えてはみたが、昨晩のシャルを見るに極度のマイペースか極端に朝が弱いかのどちらかだろうなと言う事にしておく。

 楓子がシャルの着替えを取りに来て、洗面所で何やらドタバタやってる音は数分で無くなり、出てきたのは朝から疲れた顔の二人と何事も無かった風のシャルである。


「ふーこー、もうざっとでいいから髪おねがーい」

「まだ時間あるから大丈夫だよー」


 投げやりの千絵に楓子は苦笑交じりに答えると、慣れた手つきで千絵の髪を一房取って編んでいく。

 これまで身近に髪の長い子がいたせいかもしれないが、髪の長い子は休み時間におもちゃになる率が高いと思う。

 喋りながらもイメチェンと称して編んだり分け方を変えたりとされている光景を、特に千絵と楓子でよく見てきたのだが、そのせいか知らないが基本髪型を弄らない楓子も慣れた手つきで千絵の髪を仕上げていく。

 シャルはその光景が面白いようで、少し離れてじっと眺めていた。

 自分もと言い出すのかと思ったが、朝食を知らせる鐘の音に空腹を感じたらしく、チラチラと二人と扉の間を視線が行き来していた。

 仮にシャルもとなると、ふわふわの長い髪なので短い時間で弄るには選択肢が少なすぎる。

 こう短時間ではあるがシャルを観察していて思うのは、エルフと言う事で年齢不詳ではあるが、少なくとも行動と見た目の幼さは一致する。

 シェリールの言う自分が一番若いエルフだと言う言葉が嘘なんじゃないかとすら思ってしまうが、彼女の場合は色々思う所があって暗躍しているみたいだし、実年齢よりも大人びてしまう物なのかもしれない。

 まぁ何をどう考えた所で、この世界の常識って物に熟知しているわけでも無ければ、特別視されてるエルフがどんなものかと言うのを知ってる人はどうやらいないっぽい。――と言うのも王城で情報収集していた時に得た情報は、エルフは世界樹の管理人で引いてはこの世界の管理人とも言える存在だ、と言うのが大多数で、残る情報は王位に着いている以上エルフ族がこの王国のロイヤルファミリーであると言う事くらいだ。

 勿論細々とした情報だと、神託によって決まる事が多いので結果シェリールが国政を担っていると言う噂なんかもあったが、基本的にはエルフに関する情報は噂の域を出ない。

 とにかく何も知らないと言っても過言では無いエルフの、見た目も行動も幼いシャルと言う存在。

 結局は彼女の行動に慣れるのが手っ取り早いのだが、もし毎晩ベッドに潜り込んでくるとか、朝シャンの後は全裸で出て来るとか当たり前にされたら堪らないので、シャルを観察して上手い事教え込まねばなるまい。

 さもないと俺の理性か命が吹っ飛ぶ。

 エロスか二人の冷たい視線で。


 朝食はビュッフェスタイルで、パンとスープと何品かある朝食の代表的な料理が並んでいた。

 そう、この世界にもあったのだ。

 卵料理が。

 他にもソーセージのような物もあるが、何の肉を使っているかわからないので少々怖い。

 パンは日本で食べるフランスパンよりも大分硬くて口の中を血だらけにしそうだし、卵もサイズ的に見慣れた物ではあるが何の卵なんだろう。

 スープに関しては中身が得体のしれない葉っぱなので除外しておこう。

 夕食みたいにメニューが決まってて一人分として出て来るのなら頑張る気もするが、ビュッフェスタイルともなれば食べたい物を食べたくなって当然だと思うんです。

 夕食の時は俺達と言う異分子が居ながらも割とわいわいやってた雰囲気だったのが、朝ともなると眠気が抜けきらないのか静かな物だ。

 こうして観察していてすぐに気づくことがある。

 女子の割合が低い事だ。

 そりゃまぁ男の子ですし、女子の存在は気にしますとも。

 寮生活と言う事もあってテーブルも男女で別れてはいるが、それにしたって男子の半分程だろうか。

 それで寮が一杯だと言うのだから、入り口を中心にほぼ左右対称に見える寮だが女子側の部屋は他の用途に使われているのだろうか。

 多分寮のスタッフはおばちゃんが多いから、通いで無いのなら部屋を貸してる可能性はあると思うけど。

 食堂の中は男女で分かれ、さらには貴族と平民で分かれているので実質四つのエリアが存在している事になるわけだが、これが面白いくらい視線を浴びる。

 眠そうな顔をしている人でもこっちの様子を窺っているのだから、それほどまでに勇者と言う物は特別なのだろう。

 昨日の今日と言うのもあるだろうし、やはり昨晩思った事だがシャルがこのテーブルにいるのも要因の一つだろう。

 昨晩の横山香苗が話をしていたのを聞いたところ、シャルがこうして食堂で食べる事は週に一回有るか無いかだったようで、そりゃただでさえエルフだしレアキャラ扱いされてれば視線も集めるわ。

 そう言った衆人環視の中で昨日と違うのは、貴族集団は昨日程こちらを見てこない点だ。

 カインとの会話で一応のカタが付いたと言えばいいのか、こちらに話しかけようとして来る人もいない。

 と、俺が周囲に気を配り軽く警戒している中で、この食堂で唯一男女混合テーブルの女子の方は優雅なランチを満喫しているのである。


「ねね、シャルちゃん。これって何の葉っぱなの?」


 どちらかと言えば食い意地は楓子の方が強いかもしれないと思ってはいたが、シャルが持ってきたあの謎スープの中の葉っぱの事を興味津々に聞いていた。


「ただのハーブ」

「あ、本当だ。でもなんか西洋のハーブよりも日本の三つ葉みたいな味だね」

「じゃあこっちの卵って何の卵なの?」

「そっちの世界で言うにわとりと似た品種。千年ほど前に食用に品種改良されたらしい」

「ん、こっちだと品種改良が上手く行かなかったって聞いたけど」

「それは魔法で無理をするから。何代にも渡って交配を繰り返せば改良は可。ここ数年、シェリールの指揮で色々と品種改良を進めている」

「是非とも俺達の世界の食材に近いものを量産してもらいたい」

「数百年もあれば。でも、その時にはトモヤ達死んでる」


 結局のところ、俺達の世界から来た人も、この時間の壁にやられて品種改良をしようにも諦めるような話を後で聞いた。

 卵ですらはるか昔の異世界人が生涯を掛けて品種改良した物らしく、その熱意に感銘を受け協力していたエルフが引継ぎ、今も品種の維持をしていると言う。

 これで野生種と交配が進むと以前のタイプ、特に大きいわけでも無いのに殻を割るのにハンマーが必要だったり、味も非常によろしくない物になるらしい。

 ちなみに硬い殻は、雛が中で成長をする過程で段々薄くなっていくとかで、最終的にはちゃんと割れて誕生するらしい。遥か昔に乱獲にでもあって割れないように、味も悪い方向へ進化したんじゃないかと言われている。と言う事は品種改良は退化の道だったわけで、生命の神秘と言うか何と言うか。



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