同郷
その後の動きとしては、とりあえず夕食である。
結局昼間中動き回る事になったので、三人そろって空腹も限界だった。
食堂は一階エントランスの奥だと言うので行ってみたが、もう見られる見られる。四方八方から色々な髪色の人種が『あれが噂の』とか『勇者って何年ぶり?』とか、とにかく千絵や楓子の噂で持ち切りだった。
「テーブルはここ。食事は給仕が持ってくる」
エントランスホールが中々の広さだったので思いもしなかったが、この食堂もかなりの広さがある。
シャルが案内してくれたテーブルは食堂の中でも奥の方の窓際にあり、この窓際は公爵家用のエリアらしい。
と言うのもこの窓際の丸いテーブルだけ他よりも小さめ、と言うか四人で使うのには少し広いかな程度の物なのだが、子爵や男爵が使うテーブルはその約倍で恐らく二部屋分、恐らく一般貴族と言われる集団と家柄的に言えば少数派になってしまっている平民は、会議室とか学食にでもありそうな簡易的な長いテーブルだ。
これは差別では無かろうかとも思ったが、爵位で部屋が分かれている、恐らく広さも違うのだから差別と言うよりかは区別なのだろう。
聞く所によると貴族側からの要望は数多いらしいので、そう言った区別も必要に迫られての事だろう。
幸いにもと言うと少々心苦しくはあるが、俺達も公爵家と同じ部屋を使わせてもらってはいるが、こうなると伯爵家や子爵家や男爵家、ひいては一般貴族や平民階級と積極的に仲良くしておかないと、勇者と言う立場に胡坐をかいた連中と見られかねやしないか。
この世界においての勇者と言う物がどの程度ちやほやされて当然なのかはわからないが、少なくとも同年代で貴族でも無い異世界人が、公爵家と同じ扱いと言うのは行き過ぎな気がする。
テーブルに着くと、すぐに給仕――ここでは王城の使用人と同種では無く、フローラさんみたいにメイド服を着た子――が来た。
「お飲み物は何になさいますか?」
「適当にジュースを四つ」
この場で一番幼く見えるシャルが答えたので給仕の子も驚いた顔をしていたが、恐らく有名人であろうシャルなので特に確認を取る事も無く注文を受けてくれた。
にしても適当にって。
ベスターの所でもチラッと思ったことだが、もうこの際ドリンクバーか何か置いといてくれればいいのに。
「ねぇシャルちゃん。ご飯ってどういうシステムなの?」
メニューを持ってこなかった事に疑問を感じたらしい千絵が、わざわざ椅子を移動させて俺の横に来てるシャルに問うた。
この位置関係のせいで余計に注目されてる気がするんだけど。
「肉と魚で毎日交互にメインディッシュが変わる。メニューは全員同じ」
「へぇ。食堂って言うから自分で注文する物だと持ってたわ」
「個別に作ってもらう事は可能」
わざわざそんな事してもらうのも悪い。
「ね、それだとアレルギーとか嫌いな物があったらどうするの?」
「好き嫌いはダメ。体に合わない食材がある場合は体を調べた時にわかってるから大丈夫」
あの水鏡の亜種みたいなので受けた健康診断の事らしい。
「へー、あれでそこまでわかるんだー」
「ねぇシャルちゃん、もうちょっとこっち来ない?」
「や」
「嫌われたな」
「逆になんで智也は大丈夫なのよ。確かに撫でまわしたのは悪かったと思うけど、そんな嫌われることしてないわよ」
それに関しては各々の感じ方なので何とも言えないが、まぁ二人がかりで可愛がられたのだから警戒する気持ちはわからんでも無い。
「それに智也だって内心では撫でまわしたいと思ってる癖に」
ええ、口には出しませんが頬ずりしてやりたい魔力がありますよこの子には。この場合はリアル魔力じゃなく雰囲気的な意味の方で。
「智也君ずるいよー」
「やかましい。で、シャル。明日って俺達どうすればいいんだ? シェリールに聞き忘れてたんだ」
「八時までに職員室。そこで担任のアルバートと合流して教室へ。通常は八時過ぎからホームルームが実施されるからそれに間に合わせるつもりでいい。そこで自己紹介をして、一般科目の授業を受けた後は各々受ける授業の教室へ行く」
「私達がどの授業を受けるかそこで決めるの?」
「チエとフウコに関してはシェリールが大枠を決めてある。後は二人が他にやりたいことがあれば追加していく形になると思う」
「俺は?」
「トモヤは何をしててもいい。二人と同じ授業を受けてもいいし他の事をしていてもいい」
つまりお前には何をやらしたところで無駄だから好きにしろって事だろうか。
シェリールがそこまで穿った事を考えるとも思えないから、多分俺をフリーにすれば勝手に二人のフォローをすると思ったんだろうけど。
「だからトモヤは、私とお昼まで昼寝してその後は神聖術の講義を受ける予定」
「おう……」
まさかのだった。
「あの、シャルさん? とりあえず初日なんで二人と一緒に動こうと思うんだけど」
「しょうがないの。それなら午後、フウコに組み込まれてる神聖術の講義に一緒に来て」
「まぁそれなら」
うーん。
「やっぱり私たちが嫌われてるってより、智也が妙に気に入られてるだけな気がするんだけど」
「だよね? そう思うよね?」
「そこんとこどうなのロリコン」
「やめてくれ」
シェリールは、自分が同族の中で一番若いと言っていた。
ならばこの子はシェリールより年上なはずで、場合によっては長命なエルフだから見た目だけ十歳くらいでも中身は百歳や二百歳って事も無いとも限らない。
そう言う意味でもロリコン扱いはやめてあげてください。ついでに俺の心に妙に突き刺さる物があるのと、ロリコン扱いされると一気に犯罪者感が増す。
「こんな我儘ボディーを目の前にして手を出さないと思ったら、実はツルペタ好きのロリコンだったなんてね」
千絵はそう言ってチラッと楓子を見る。
「そうだよ智也君」
その視線に気づかない楓子は千絵が自分の事を言ってると思って素で同意していた。
「そうだよじゃない。俺は普通の嗜好だ」
って言うか手を出していいなら出したいぞ我儘ボディー。
「シャルちゃん、私が許すから智也に甘えていいわよ」
「ん」
シャルが一回立ち上がったと思ったら、ズッとイスを横にスライドさせて俺の隣にくっつけてきた。
そして何事も無かったように座り、自然と寄っかかって来る。
「なにかしらその可愛い生物」
「お持ち帰りしたいよぉ」
いや部屋一緒だからな。
そして俺に突き刺さる視線の多さと鋭さよ。
これは、恐らくシャルはかなり多くの人に愛されてるマスコット的な位置づけをされているんじゃなかろうか。
「智也君、鼻の下伸びてるよ」
「……いやほら、可愛いのは事実だから、しょうがなくね?」
「はい、ギルティー」
「まだ罪は犯してないし犯す気も無い」
この後、夕食が来てからもシャルは俺にくっついたままで非常に食べ辛く、と思っていたらシャルがフォークでぶっさして『はい、あーん』と先ほどの会話と同じように抑揚のない声でやってきた。
しかも、お返しで私にもと言い出し、さらに強い視線と悪意にさらされるハメになるのである。
そんな中でも俺達にアプローチしようとするのはいて、それこそ四公爵家の人間だ。
俺達よりも先に来てた人もいれば俺達の後に来た人もいたが、往々にして普段使われいない、もしかしたら今日新たに表れたテーブルを気にしないわけも無く。
多分、今回現れた異世界人が勇者だって噂は流れていると思う。
とすれば、公爵家の人間としては接触しないわけにはいかないのだろう。
問題は、声をかけようにもシャルの行動が目立っていてタイミングを掴めなかった事みたいで、食事が終わったタイミングで意を決したように席を立つ男が一人。
爵位が上の方の貴族は婚姻も家柄を気にすると言う事もあって西洋人系の血が濃くなりがちらしく、公爵家の大半は金髪で彫りがやや深めな場合が多いらしいのだが、それで言えば実にそれな容姿をしていた。
ぱっと見では金髪イケメンで表情も柔らかく、高校にこんなのが来たら大騒ぎになるだろうだろう容姿なのだが、その体は物凄くゴツい。
顔までもゴツくならなくて本当に良かったなと同性の俺でも思う。
昔の勇者の血を引くと言う家も四公爵家にあるが、王城に居た子達を見た感じ顔の作りは殆ど西洋風でアジア系の子は一人としていなかった。
「ちょっといいだろうか」
千絵と楓子から見ると後ろ側の席から来たので声をかけられた時にびっくりしていたようだったが、相手がどうやら公爵家の使うテーブルの方から来たとわかると、背筋を伸ばして張り付けたような笑みを浮かべて黙り込んでしまった。
こいつら、基本的に初対面の人間が来たときはそうだけど完全に会話に参加する気ねえな。
「あ、その、この場合はこちらから挨拶しなくて申し訳ないって言うべきなのか」
「いや気にしないでいい。こちらとしてもこの世界の事を知らない異世界人に、こちらの礼儀作法を押し付ける気は無いさ。僕はカイン。スズウキ家の十五男でこの寮の寮長をしているカインだ。以後よろしく」
「スズウキって言うとシェリールの使用人の兄貴か」
「妹に会ったんだね。どうかな、元気にしていたかな。王城勤めになると守秘義務の関係で中々帰ってこないし連絡も難しいんだよ」
「俺も直接話したわけでは無いけど元気にはしてたんじゃないかな?」
なぁ、と目の前の二人に問いかけると、張り付けた笑顔のまま頷いていた。
「あ、そうだ。俺はトモヤ、こっちの二人がチエとフウコで、勇者なのはそっちだから」
千絵がやめろこっちに話を振るなと一瞬怖い顔をなさりましたが、少しは会話に参加してもらいたい。
がしかし、カインは俺と話す事を選択したようで、俺から視線を外さなかった。
「うん、それは聞いていたからいいんだ。いやいいと言っても蔑ろにしてるわけじゃないよ? ただ噂によると窓口は君だと言うからね」
「……」
窓口とは。
「それにしてもシャルロット嬢がこうも懐くなんて、トモヤは一体何なんだい」
「さぁ、俺にも何がなんだか」
「そこら辺を含め、今度時間がある時にでも公爵家の皆と話そう。では失礼するよ」
どうやら長話する気は無かったようで、と言うか食事が終わって部屋に戻るついでに声をかけたような感じで、そのままカインは同じ部屋の仲間らしき三人と食堂を出て行った。
ガタイの大きさくらいにしか威圧感が無かったとは言え、俺も初対面の人間は緊張するのだが、その緊張が解けた所で再び滅茶苦茶視線を浴びてる事に気付いて緊張した。
公爵家、それも寮の長であるカインがついに動いたか、と言うのが周りの反応だ。
「千絵と楓子も加勢してくれてもよくないか」
「やめてよ」
「私にそんな事出来ると思う?」
千絵はともかくとして、楓子は無理だろうなぁ。
「トモヤ、部屋帰る」
「あ、ああ、うん、じゃあ帰ろうか……」
このままここにいても注目されてしまうだけだし、何となく俺達が出て行かないと他の人たちも食事を終えない気がした。
四人してテーブルを立って食堂の外に出ると、今度は一人の小柄な女の子が脇に立っていた。
「あ、あのっ」
これぞ意を決してと言わんばかりの様相で、両手を胸の前でグーにしてブンブン上下させている。
これはハムスターとかの小動物だ。
「えっと、日本人ですよ……ね?」
そう言われ、そう言えばこの子って黒髪だし顔も日本人だなと気づいた。
それには千絵と楓子も気付いたらしく、二人して小柄な子に食らいつかんばかりに抱き着いていた。
「やっと日本人に会えたわよ智也!」
「やったよー、やっと仲間がいたよー」
ああ、確かに仲間と言われればその通りだ。
多分前に話があった、二年前に入学した子だろう。
「とりあえず立ち話もなんだし、部屋に連れて行けばいい。なんかシャルが凄い眠そうにしてるし」
人の腰をがっつりと掴んでくっついているシャルなのだが、食堂を出た瞬間にこっくりこっくりと船を漕いでいた。
見た目も幼ければ体力も無いのだろうか。
で、部屋に戻ってきたらシャルはすぐにベッドの上で寝息を立て始めたのだが、開け放たれた仕切りの反対側では女子会が始まっていた。
わーわーきゃーきゃーと何やら話が盛り上がっているのだが、まだ戻って来て五分も経っていない。
何とも楽しそうにしているが、少々引っかかる事があった。
それは彼女、元の世界では横山佳苗と言う少女。
この世界に来たのは高校一年の入学式の日でかれこれ二年以上いるとかで、色々とこの学校の事を二人に話しているのだが、どうもその声に恐れがあると言うか演技っぽいと言うか、違和感がぬぐえないのだ。
スヤァーと無防備に眠るシャルの真下でなんとなく観察するが、どうも横山香苗は二人に媚びようとしているわけではなく、友好的に接しつつ貴族への印象を聞いたり貴族とは仲良くしておいた方がいい、何なら私の知り合いがバックアップしてくれるらしい、とまで来た。
そう言う本人の顔がさほど優れない。
これは横山香苗を飼ってる貴族がいるのでは、と思い至るまで十分と必要としなかった。
だがしかし、この世界で普通の子が生きていくには後ろ盾が必要だろうし、勇者以外の異世界人はシェリール案件からは外れるっぽいので、ともすれば変に彼女を問い詰めるのも気が引ける。
予想としては、横山香苗の後ろにいる貴族は千絵と楓子と言う二人の勇者と仲良くしておきたいから、同じ異世界人の横山香苗を使って取り入ろうと言う気なんじゃないだろうか。
と言うか、もしかしたら異世界人を飼う貴族と言うのも低い確率とは言え勇者適正持ちとのコネ作りも兼ねているのではないだろうか。
この学校には他にも同じ世界から来た人がいておかしくは無いので、そこら辺気を付けておかないと変な事になりかねない。
仮に寄って来る貴族が善人ばかりならいいけど、寄って来るって事は何かしらの見込みがあるわけで。
「それじゃまた明日ね」
じゃねー、と物凄く気楽に出て行った。
結局一時間くらい話していたが、二人が貴族に興味ないと知るとシュバインシュタイガー伯爵家と言う家名を出すだけにして、後は楽しい会話にシフトして行った。
二人は同い年らしい彼女と意気投合したし滅茶苦茶楽しそうにしていたが、横山香苗が出て行くと急に大人しくなった。
「ね、智也」
「ん」
「あの子、どう思う?」
どうやら千絵も違和感を覚えたようで、割と天然な楓子も多少気になる風ではあった。
「どうも何も、そのシュバインシュタイガー家とかに庇護されてる、と言うか飼われてるんだろ」
「悪い子じゃないと思うんだけど」
「どうせこれから付き合っていくんだし、不用意に向こうの貴族にいいようにされなければ平気じゃないの。今度シェリールを捕まえてシュバインシュタイガー家とやらの事を聞いとかないとな」
「佳苗、ちょっと気まずそうって言うか言いづらそうにしてたから、多分嫌々だったんだと思うの。もしかしたら強く拒否できないのかもしれないし、変に突っぱねたりしたら可哀想だからいいよね?」
「楓子と二人一緒だったとしても、誘われたからってついてかないようにな。何ならシェリールに呼ばれてるとでも言って逃げろよ。いくら二人が勇者適正持ちって言ったって、魔法にどんなのがあるかわかってないし、何かあってからじゃ遅いんだから」
「わかってるわよ。でもそこまで警戒する必要あるかしら」
「あいつは早いうちから食堂の外で待っていた。って事はテーブルが分かれてる食堂内で指示が出せたとも思えないし、俺達が食堂に来る前から取り入れって言われてたんだと思う。本人も乗り気じゃないって事はシュバインシュタイガー家とやらは良くない家かもしれない」
横山香苗の適正も戦闘向きでは無く、事務処理系の適正だったとか言っていた。
そう言う子がこの学校で生きていくのは辛いと言う噂だから、恐らく飼われているとしても待遇は良くないんじゃなかろうか。
ほぼ全てが自分の想像と妄想によるものだけど、これまで聞いてきた噂や情報を考えると妥当な線だと思う。
ただ、将来的には事務処理系に長けている事で、王城にいた貴族のお付きのように仕事が振られる可能性はあるのだろうけど。
にしても、出会ってすぐだと言うのに即座に名前呼びになるとか、千絵の友好関係の築き方は俺にはマネできそうにない。
「まぁ、少なくとも千絵と楓子は貴族連中にとって注目しないわけにもいかないだろうから、しばらくの間は色々と気をつけような。極力一人にならないとか」
シャルにも起きたら説明して、学校内でのフォローをしてもらうよう頼んでみよう。
さて、いい加減シャワーでも浴びて寝よう。
とは言え未だに服の予備に乏しいので、王城で確保したくすんだ白色の肌着と、クリーム色の薄手で心もとないズボンがパジャマ替わりだ。
そこら辺の荷物も手荷物にまとめて入れられていたので助かったが、俺達の世界の制服も袋に入れて置いてあったので、とりあえずこれだけでもクローゼットにしまっておくかと両開きのクローゼットを開くと、何か色々と服が吊るされていた。
パッと見た感じ女物が多い。
隅っこに申し訳程度に男物の、この街の人が着てそうなシャツにズボンと言う一般的な私服と、恐らくパジャマであろう青と白のストライプの上下もあった。
この世界の服飾事情なんて、そもそも元の世界でも詳しくないのでよくわかりはしないが、どうやら色のハッキリした物程高級品のようで、例えば王城で手に入れたくすんだ白色の肌着なんかは底辺の方で、制服のワイシャツのように真っ白な物は保護魔法をかけて汚れないようにする位には高級品らしい。
そこからすると、このパジャマの青と白の色を見る限り決して安いものでは無いし、他にある女物も恐らくこの世界では高級品なのだろうと言う事はわかった。
「なぁ、何かクローゼットに色々入ってるんだけどさ。どうもサイズも合ってるっぽいから使っていいんだよな」
「マジ?」
「やったー、どんなの?」
割と怪訝そうな千絵はいいとして、両手放しで喜ぶ楓子のメンタルはたまに真似したくなる。
とは言えだ。
どちらかと言えば千絵の方がファッション関係に興味を持ちやすいのだがこれには非常に興味があるらしく、喜びながらこっちへ来る楓子を押しのける勢いで来て、何着か手に取って確認していた。
男子寮なのに女物の服が置いてある時点で察しはついていたが、シェリールが色々と用意してくれたのだろう。
「これ、私達のサイズに丁度合ってるのよ。こっちに掛かってるのが私ので、こっちが楓子のみたい。奥にちゃんとしたドレスまであるわよ」
「ほんと? またこの世界でも服探しに苦労するのかと思ってたけど」
楓子の場合、その手の方々用のデザインとか海外ブランドの一部じゃないと中々サイズが合わないと嘆いていたが、中世ヨーロッパチックなこの世界の服装だと割と選択肢が有りそうに思えるのだが、どうもこの間の採寸で得たデータで各々向けに作られたっぽい。
「小物も結構あるわよ。うわー、このブローチとか本物の宝石じゃないのこれ」
「ほんとだ、私のサイズだよこれ。ほら智也君」
楓子が見せて来たのは薄い青のワンピースなのだが、胸の辺りの縫製がボリュームを持たせているように見える。
お兄さん、今すぐ着てみせて欲しいな。
ざっと見た感じ、やはりこの世界に適応した服装ばかりのようだった。
と言うのも、この世界では元の世界のような露出は基本しないようで、平服に関しては首元までしっかり布地のある物が多かったが、必ずしもそうしなくてはならないわけでも無いようで、中には元の世界のシャツのように首元が開いてる服もある。
これを見ていると、元の世界の制服を着ていた二人はこの世界の人たちにとっては露出多めの女の子扱いされてたんじゃないかと少し心配になる。
そう言えば弓術場に何人かいた女子のスカートは妙に長かった。それこそ昔のスケバンじゃないかと言うくらいに。
だがしかし、今さっきまでいた横山香苗の部屋着のスカートは膝丈だったし、恐らく好みの範疇なのでは無いだろうか。
「じゃあこっちも色々入ってるのかしら」
そう言ってドレッサーの引き出しを開けていく千絵だが、どうやらそっちも色々と用意されているらしい。
「こっちの世界のコスメ関係がどんなのかわからないからちょっと怖いわね」
「千絵って実は肌弱いもんね」
「お風呂入る前に色々試すわよ」
「うんー。あんまり遅くならないようにしようね。起きれなくなっちゃうから」
「この夜の長い世界で何言ってるのよ」
どうやら二人はこれから長い戦いに赴くらしいので、俺は新しいパジャマと、クローゼットの床に置いてあった収納ボックスに畳まれて何枚も置いてあったパンツを手にバスルームへ。
このバスルームも広いせいで一人で入るのは少々気が引けると言うか、慣れない広さのせいで少し怖くも感じるのだが、これもウサギ小屋と揶揄される日本の家に慣れてしまっているせいだろうか。
何にしても普通にシャワーを浴びれる環境があると言うだけで非常に喜ばしい。
ちなみにだが、俺がのんびりシャワーを浴びて出て来るまでに十五分くらいだったと思うが、その間にドレッサーの上には化粧品類が溢れかえり、二人はお互いの顔や腕や手の甲なんかにぺたぺた塗ったりしていて、少なくとも俺が起きている間中風呂に行くことが無かった。
果たして何時に寝たのか知らないが、目覚ましと言う便利アイテムが無いので寝坊しても知らんぞマジで。




