エルフのあれこれ
制服の後は支給品らしい片手持ちの通学鞄、その中には教科書類が既に入っており、翻訳の魔法札があるのに日本語訳された物だった。
鞄自体はさほど大きく無いのに、その中にはちょっと考えられないくらい物が入っていたので、これはフローラさんがベスターからと言って寄越した魔法の道具袋と同種のアイテムであろう事がわかったが、その辺りは内緒なのでとりあえず黙っておく。ちなみに道具袋は普段から下げてると千絵あたりに突っ込まれそうだったので、自分の通学鞄の中に入れて隠し持っている。
色々漁った所、制服のワイシャツやズボンのベルトや靴下まで入っていた。
靴下に関しては男は黒のハイソックスなのだが、女子は好みで選べるとか何とか。
どうやら採寸の時にそこら辺の選択は済んでいたようで、千絵も楓子も黒のハイソックスで極々普通のチョイスになっていたが、俺としてはそれこそベストだと言いたい。
普段見ないニーハイとかも見てみたい気持ちはあるんだけども。
こう考えると、長年顔を合わせて来た幼馴染で、思う所はあるが諸々の感情も割とフラットにして波風立てないようにしていた俺だが、やっぱ二人を異性としてばっちり意識してるんだよなぁ。
とは言え男だからしょうがないと思うんです。
鞄の内容物はとりあえず置いといて、シェリールが外に待機させてた使用人に声をかけると茶髪の子がなんか妙に長いカートに色々な物を乗っけて部屋に入って来た。
この子がスズウキ家のね、とこの間の会話を思い出してよくよく見てみると、顔は過度な西洋風では無く、日本人が憧れるタイプの綺麗な顔をしていた。
彼女がカートに乗せて来たのは、ありていに言えば武器だ。
剣に属する物。
鈍器系。
皮に金属製の鋲がついたグローブ。
杖。
弓。
「実戦系の学科で使う武器を選んで」
「選んでって軽く言うけどな、俺達はこんなもの使った事無いんだぞ」
流石に剣とか見せられたら俺でもビビるし千絵も楓子も「うわー」と目で言っている。
「ええ、なのでアドバイスとしては、トモヤは元々戦闘に向かないから汎用性が高く盾も使える片手剣、チエは勇者適正もあるけどメインはアークウィザードだから杖か、近接戦闘も人並み以上に出来ちゃうはずだから剣で魔法戦士系を目指してもいいと思うわよ。何なら戦斧でもいいし。フウコも勇者適正があるから何でも使えるとは思うけど、貴重なアークプリーストで前に出るよりも後ろで支援する方が多くなると思うから杖がいいんじゃないかしら」
「ね、弓は?」
流石弓道部、楓子はこの中で弓に目が行ったらしい。
「弓だと魔法を使う時に魔力の集中がぼやけるからお勧めは出来ないわね。杖は鈍器にもなるけど基本的に魔力の集中を補佐する物だし、しかもこの杖は私達エルフの母と言われるマザーツリー、世界樹の古い枝から作ってあるから性能は一級品でお勧めよ。地脈や辺りの空間に漂う魔力を吸収しやすいから自分の魔力切れになりにくいわ。ちなみに弓も世界樹で弦は魔法の銀と言われるミスリルから生成した物で、うちの近衛兵団ですら使えない逸品なんだけどね」
「私は昔から刃物を使うなって言われてたから杖でいいわ。楓子は弓も使ってみたいんじゃないの?」
それは単に千絵が包丁を使うと毎回指を切るからだ。
「うん。でも和弓と洋弓じゃ違うから……」
そう言えば本来楓子が使っているのは、人の背丈以上の大きな弓だ。
目の前にあるのはアーチェリー的なサイズの如何にもエルフが使ってそうな洋弓だった。
「あら、あなたも弓を使えるの? 私達エルフも種族的には狩猟能力と魔法力が高めだから弓と杖を使うのよ」
「でもねシェリールちゃん」
口数が多いわけでも無い楓子がシェリールの名前を呼ぶのを初めて聞いたが、王女をちゃん呼びと言うのも考えてみれば凄い物だ。
まぁ俺だって呼び捨てなんだけど。
「弓の引き方から中て方も違うから、私も杖でいいよ」
「そう、ちなみにどう違うの?」
「うーん、歴史の違いからくるんだろうけど、洋弓みたいに胸の前で引けないし片目で見るか両目で見るかの違いもあるし、私が今までやって来た事が使えないなら意味がないから……」
これは弓道に大分未練があるな。
「ちなみにサイズとか造りとか絵に描ける? 作れるか聞いておくわ」
「ほんと? それならお願いしたいな」
「ええ。それじゃとりあえず武器は杖でいいわね。ちなみにその鞄、妙に多く荷物入るなと思ってるでしょうけど、鞄の口から入るサイズの物ならトモヤくらいの重さまでなら入る魔法の鞄だから、杖もそのまま入れちゃって大丈夫よ。トモヤの剣は鞘に入れとかないと教科書ずたずたになるから」
マジかよ。
しかも俺の持つ片手剣には特に注釈が無かったので、別段特徴の無い普通の片手剣っぽい。
「手続き関係も一通り終わってるし、明日から通えることになってるけど――学校見に行く?」
「外行けるの? なら行くわよ」
「うん」
二人は俺程インドアな性格でも無いせいか、外に出れるとなったら食いつきが非常によろしい。
「トモヤは?」
「俺一人残ってる意味も無いし行くよ」
「智也って結構寂しがり屋だからね」
「そうだよね」
「……」
ここ数日の生活で大分余裕が出て来たと見えて、人の事をおちょくれるくらいになったらしい。
お前ら後で覚悟しとけよ。
身支度に関しては丁度この世界の学校の制服を着ているし、そのままでいいやと言うことで準備完了。
隠し通路をつかい四人で外に出た物の、シェリールはシェイプチェンジで町娘に変身していた。
ブラウンのロングヘア―に、数年は大事に着ていたんだろうなと言う色がくすんできている風合いの町娘スタイルで、この姿で王城を出るのも目立つので一部の人間しか知らないと言う隠し通路から外に出た。
普段もこの姿の時はこの隠し通路か、でなければ人気の無い所に転移門の魔法で飛んでしまうらしい。
シェリールに魔法が得意なのかと聞くと、どうやら転移門の魔法を使った事で持った疑問である事はすぐに察したようで、『種族的にある程度は大体みんな使えるんだけど、私はどちらかと言うと補助魔法が得意なタイプなの。立場上、ウィザードやプリーストの勉強もしているし、魔法自体は細かな設定とかしなければ、発動自体は必要最低限の魔力とある程度適正があれば出来るし、決して私が特別ってわけでも無いわよ?』と言う。ちなみに転移門くらいなら日に数回は使えるらしいが、転移門の魔法自体が結構繊細な魔法らしく、エルフ族の中ではシェリール以外だと数人しか使いこなせる人がいないらしい。しかも一回世界樹へ戻って数時間休めば魔力の大半が回復するとかで、現状王国ではシェリール以上に転移門の魔法を何度も使える人は居ないのだそうだ。
転移門自体が繊細な魔法且つ莫大な魔力を必要とする事も、使い手の少なさに拍車をかけるらしい。
あの憎きブライアンが一日一回往復分しか魔力がなさそうだったのに、それで考えるとシェリールの魔力は相当あるようだ。
「ちなみに施設としての転移門って太い地脈が無いと作れないって聞いてる?」
「ああ、それは聞いてる」
「その地脈自体がこの星に根付いている世界樹の根っこなのよ」
「それは初耳だ」
夜通し話してたベスターから聞いてはいたが、アヤメさんから聞いた話にはなかったしすっ呆けておく。
「だから離れれば離れるほど枝分かれして細くなったり地脈が無くなるのよね」
「つまりそれって北の方にあるのか」
「いいえ、ここから星のほぼ反対側にあるわよ。――王国の南が魔力不足だからかしら? 世界樹の根は密度や太さに差はあれど、この星を殆ど覆っているのよ」
「って事は世界樹が地脈で魔力を供給してると?」
「ええ。世界樹はこの星の空の一番高い所まで枝葉を伸ばし、日の光を受けて魔力を生成するとされてるわ。普通だと酸素だろって言うでしょうけど、そこが世界樹の違いね」
「それって自然に生成する分だけで足りるのか?」
「地脈に乱れでも無い限りは、地脈さえ通ってれば供給はされてるはずだけど」
と言うことは、やはり地脈に何か異常があってベスターは大魔王システムに組み込まれてしまっているのだろうか。
「とは言っても、やっぱり南の方みたいに極端に枯れた土地がある以上、既に機能してない地脈は結構ある可能性も否定できないわね。エルフ族の中でもマザーツリーの管理部門の長達が調査しようと案を出したことがあるんだけど、なんせ星丸ごとだし、私達エルフを毛嫌いする種族も少なくはないから難しいのよね」
「エルフを毛嫌いって、俺達の世界のファンタジー小説とかだとドワーフと仲が悪いとかはあったけど」
「ドワーフ族とは仕方ないわよね。後から地底に王国を築いておいて世界樹の根の利権云々言われても困るわ。ドワーフだって根っこから魔力を得てるんだから、私達を毛嫌いする理由なんて無いと思うんだけど。多分私達エルフが世界樹の管理者をやってるから気に食わないだけだと思うわ」
何となしにドワーフと言ったがマジでいたのか。
「単純に世界樹と言う大きな利権を得たい人達ってのはやっぱりいて、そう言う人達からしたら私達エルフなんて邪魔でしかないわよね。他にも虫系のモンスターの中で高い知性を持って群生してるのが何種類かいるのよ。そいつらにとっては世界樹の葉や根は高濃度の魔力を持つご馳走らしくて、いっつも駆除してる私たちが邪魔でしょうがないでしょうね」
それには会いたくない。
「人間の中にも西にある国は、千五百年前の戦争でエルフが介入して邪魔したって恨んでるらしくて、未だにちょっかい出してくるわよ。人間にとって長寿で知性も魔力も高いエルフって言うのは妬ましいものみたいね」
「エルフはそう言う敵愾心を持ってる相手をどうするんだ?」
「どうって、私たちは基本的に何かされない限りは何もしないわ。寿命が極端に長いせいか気も長いのよね。何があっても世界樹さえ無事なら自然の恩恵で食料にも寝床にも困らないもの」
とは言え、それはあくまで世界樹で暮らすエルフに限った話らしい。
「シェリールは気が短いとは思わないけど、聞く限り普通のエルフよりせっかちな気がする」
「まだ十数年しか生きてないもの。二百歳を超えれば一日なんて一時間くらいの感覚らしいわよ」
「それは羨ましくはないかなぁ、長生きしすぎた所で趣味に困りそう」
「そう、それが問題で、エルフで五百年も生きた人達の三割は一回寝ると十数年起きないくらい暇でしょうがないらしいわ」
それこそ俺には無理だ。
「学校はその先よ」
王城の西側の魔法で秘匿された勝手口から出てから、そのまま西方向へ向かっていたと思う。
一軒家を使った個人商店が立ち並ぶエリアを超えたその先で塀で囲まれたエリアに入った。
個人的にはそんな塀に囲まれた学校よりも、手前にあった店を見て回りたいなと思ってしまったのだが、それに関しては俺よりも千絵の方が気持ちが強いようで、先頭を歩くシェリールと俺よりもかなり後ろを楓子と歩いていた。
「学校は王都の全敷地の十分の一程の広さがある、この国でも随一の敷地面積を持つの。授業をする校舎を筆頭に部活棟や研究棟なんかもあるけど、大半は訓練用の施設ね」
「剣で切りあったりか」
「それもそうだし、太い地脈の真上に立ててあるから建物自体に永続的で強力なマジックシールドの魔法が発動していて、魔法師団が魔法戦闘の訓練が出来るくらいには丈夫な訓練場もあるわよ」
「うーん、想像だけならいくらでも出来るんだけど、どうにも実感無いからなぁ」
「いずれ嫌でもわかるわよ。制服自体の魔法耐性が凄くても、ある程度レベルの高い生徒の攻撃魔法なんて直撃したら数日昏倒なんて話も聞いたことあるわ。特にトモヤの場合は肉体自体が平民以下だから低レベルの魔法でもしばらく寝込むかも」
「駄目そうならシェリールの使用人二号になります」
「私としては歓迎だけど、そう言えば一号に二号が出来るかもって言ったらすっごい顔してたわよ。トモヤ消し炭になるかもね。あの子炎系の魔法得意だし」
俺の安住の地は何処でしょうか。
嗚呼、神様覚えとけよ。
「チエ、早くいらっしゃい」
「ちょっと待ってよー。このグラスとかかわいくない?」
「あなたお金持ってないのにどうする気?」
「そう言えばそうだったわ」
金に関しては、学校に入りさえすれば異世界人は月に銀貨十枚支給されるらしい。
最初は必要な物も多くやり繰りが大変だと言うが、三か月もすれば訓練に忙しく買い物に行ってる暇も無いとかで自然と貯まるらしい。
学校に近い店は日用品を扱っている店が多いらしく、今千絵が見ているのは食器類を扱う店で、その隣には小型の家具を扱う店があった。
他にも豪邸と言っても間違いではない屋敷の裏手、イングリッシュガーデンのような庭にテーブルを並べてあり、どうやらカフェとして営業しているらしかった。外だけなのかと思ったら一階もカフェに開放しているようで、今日なんかは天気がいいのでお客が結構いる。
「ここの伯爵家の主人が変わり者で、お茶好きが高じて家をカフェに改造したらしいわよ。実際お茶もケーキも美味しくて学生からも人気なの」
これは今の秋くらいの陽気なら気持ちいいかもしれないが、同時に金も飛んでいきそうだ。




