多分この場で一番の嘘つきは自分
その後は定例会議があり、会議室に一同集まっていた。
定例会議と言っても話し合う事はいつも大体決まっていて、今月の税収がどうだったとか、どこどこで魔物が現れたらしいとか、昨今貴族で流行ってるコレはトモヤ発信なのかと言う追求とか。
いや俺は知らんがな。忙しくてほとんど通えてませんから。
今回は派兵の準備の状況が主体だったが、どうもノイベルトが国を売って王国に吸収されるのが目的かもしれないと言う話をルーベルトの爺様が出し、全員から視線を受ける俺である。
まぁルーベルトの爺様が何か変な事を言う場合、大抵裏に俺がいる事は感づかれているからしょうがないのだ。
俺は仕方なく手を上げて立ち上がる。
「今回自分が手を出さないと言った理由は色々あるのですが、ノイベルトの思惑がわからなかった事も理由の一つです」
そう切り出すと、その点に関しては確かにと全員に頷かれた。
果たしてピレネーが本心からそう思っているのかは謎だが。
「なので色々検討したのですが、結局の所ノイベルトは我々王国を動かせるだけの報酬を用意できないのです」
「だが我々は動くことになった」
スズウキ家当主のオルジフが笑顔になるのを隠したような微妙な顔で言う。
「それは、恐らく裏で何かにかこつけて西の国を制圧する気だからでしょう。こうしてノイベルトを支援すると言う名目で正式に派兵して、西の国の中の中まで無抵抗で進めるなんて、今後無いでしょうから」
そう言うと一同押し黙ってしまった。
こうも図星を付かれて押し黙ったら、完全に認めてる事になってしまうではないか。
「ノイベルトもノイベルトで色々言った来たと思います。バウワー領内での略奪の是非や今後の関税やその他諸々。そしてバウワーを倒した後の資産の分配等。ですが、あくまで一領地の資産はたかが知れていますし、今後の領地運営を考えると全て分配なんて出来るわけがありません。王国側を納得させられるだけの見返りなんて、どれだけ誇張して話したとしても土台無理な話なんです」
「わかった。ではトモヤ、西の国を制圧する気でいる云々と言うのはもういい。それよりもノイベルトが国を売ると言う話にどうしてなるんだね?」
今度はシェーバー家当主のロメオが聞いてきた。
表向きこちらが奪う気であるのは隠しておきたいらしい。
「恐らくノイベルトは王国貴族がどうしたいかを読んでいた、もしくはこうなるだろうと入れ知恵されていたと思います。その上で立地的に地産地消を主体にやらざるを得ないジリ貧な西の国を何とかする方法、ノイベルト家が将来にわたって繁栄する方法は、西の国を統一して王国と国交を樹立するか王国に渡して統治権を得る事です」
「少し話が飛躍し過ぎだろう」
「ノイベルトも小領地と合併した程度でバウワーに勝てるとは思っていませんが、今のバウワーなら以前ほどの勢いも無いので王国の力を借りれば完膚なきまでに倒せます。そして王国もバウワーさえ倒してしまえれば、ノイベルトを退ける事自体は元々出来る戦力がありますし、それらを併合してしまえばオイレンブルクが付けこんできて領地拡大を狙ったとしても抑えられますし、何なら倒してしまえるでしょう。ですがノイベルトとしてはそうなると困るんです。恐らくバウワーを倒した時点でノイベルトは王国へ下ると宣言し、兵を合流させてバウワー領の戦力や物資をかき集めるでしょう。そうして準備さえ出来てしまえば、その流れでオイレンブルクに攻め込んでもいいし、恐らくバウワーとの戦いを聞きつけたオイレンブルクが漁夫の利で領地拡大を狙って進撃して来るので、それの迎撃でついでに攻め込む形になるかもしれません」
そこまで一気に話して辺りを見ると、それなりに納得した風が三人、そして無表情に徹するピレネー家当主のフレデリクだ。
多分取引してると思うんだよなぁ。
仮に取引をしていなくても、ピレネー側が位置的に有利で多くの兵を動員している事や領地が隣接してる事で発言力が大きいだろうし、ノイベルトが下ると言ってピレネー側が歓迎して同列に扱えば、将来的にノイベルトに伯爵位以上の爵位や統治権が与えられても不思議は無い。
もちろんそれだけの功績は必要になるが、西の国の平定をするだけでも伯爵位くらいなら与えてもいいだろうと言う流れになるのは目に見えている。
ここで同列に扱わず下に見た場合だが、西の国を制圧するに当たってノイベルトは無視出来ない家であり、西の国を統治するに当たって使わない手は無い。
完全に統治権が譲られなくても、王国貴族の誰かが統治して、その誰かに雇われる事だろう。
少なくともノイベルトとしては将来安泰だ。
仮に反王国教育を受けていたとしても、ノイベルトが『王国から守る為に、むしろ下った』として統治すれば多少は反感も抑えられると思う。
「仮にバウワー領を制圧して終わりとした場合、やはりオイレンブルクがちょっかい出してくるのは変わらないと思うので、王国が切り上げた場合はバウワー領の半分くらいは奪われるでしょう。オイレンブルクも穀物をバウワーから仕入れていますから、穀倉地帯であるバウワー領は喉から手が出るほど欲しいはずです。そのまま西の国が安定すればいいですが、一度奪った物を横やり入れられて奪われたら、各地で小規模な戦闘が発生しいずれ大きな戦闘になってもおかしくありません。元々の領地の力関係的にオイレンブルクはバウワーとほぼ同列なので、内政が安定していない新ノイベルト領が対応しきれると思いませんし、その隙を付いてガンガン領地を奪っていくでしょう。最終的にオイレンブルクが西の国を併合して完全な反王国国家の誕生です。そうなると困るのは王国、と言うかピレネー領でしょう?」
そう言ってフレデリクを見ると、さっきの無表情よりも気持ち歪ませていた。
「どの程度事が上手く運ぶかとかわかりませんが、状況を考えるにこの辺りは十分起こりえると思っています。で、ノイベルトとしても王国がやる気でいてくれた方が、展開的にオイレンブルクも潰せて助かるはずです。って言うか多分かなり前からノイベルトから打診を受けていた家があるはずで、その家が水面下で『派兵したら西の国を奪ってやればいい』と扇動しておけばいいだけの話なので、ほぼ予定調和だと思っています」
「打診を受けていた家、な」
ルーベルトの爺様が隠しもせずフレデリクを見た。
フレデリクは四公爵家の中でも若い方で、まだ五十代半ばだ。
それでもルーベルトの爺様に直視されて動じない。
「勿論ピレネー本家に直で打診されたとは思っていませんが、一部貴族による採決で派兵の話がここに議題として上がって来たように、水面下で動いている家は結構な数に上ります。が、最初からそれだけ数がいたわけないのです。交友関係的にもピレネーの分家が最初で、そこからどういう経緯を辿ったか知りませんが王国貴族全体に広がって行ったのでしょう」
「それだトモヤ。君はどうしてその件を察知したのだ」
ルーベルトの爺様には毎回『こいつは何なんだ』と言う疑惑の目を向けられがちなのだが、勿論今回の話を出した時に同じような顔をされた。
「ノイベルトの嫡男であるテオが転生者で、聖地へ行った時に会って向こうから声を掛けて来たんです。父親が何やら計画していて、自分も独自に計画しているから手を貸さないかと。色々考えた結果突っぱねましたけど」
流石に転生者の話まで知ってる人は居るわけが無く、穴が開く位こっちを見られた。
「トモヤよ。最初にそれを言っておいて貰えたら、もっと動きようがあったと思うのだが……」
「こちらで動いた矢先に、向こうが俺の休暇のうちにと予定を繰り上げて決を採ってしまったのです。俺の休暇を狙ったって事は、誰かが入れ知恵しています。もうそうなったらどうしようも無いので、テオの話は後回しにしました」
「その転生者は、その何と言うか、トモヤみたいに頭の回る奴なのか?」
「自分への評価がどんなものか知りませんけど、流石に野放しにしたら厄介なので、ノイベルト家の両親がいる前で一芝居打って来ました。テオが転生者で、こちらが何かしら協力する風に宣言して引っ掻き回しました。それによってテオは父親の信頼を失ってしばらく部屋に隔離され、今は和解したようですが立ち回りにくい状況にあるようです」
「ふむ……。では、ノイベルトの当主の思惑通りに事が運ぶと言う事だな」
ルーベルトの爺様がそんな事を言いだして、おっとこれはとなった。
本人もどうせなら西の国を奪ってしまいたい派なので、どうせならノイベルトの思惑に乗っていいなと思っているようだ。
だが、実際王国にとって悪い話では無いのだ。
個人的にテオを恨んでいる事と、わざわざ西の国の問題を王国に持ってくんじゃないと言う怒りがメインで、他にあるとすればノイベルトの親戚らしいシュバインシュタイガー家が台頭してこないかと言う不安だ。
あの家は過去嫌がらせを受けているので、出来る事なら何か変な事にならないように押さえつけておきたい。
元はと言えば横山香苗をスパイとして送って来た事で疑惑を向けた家だったが、実際裏で色々やってるらしいので、出来れば表舞台に出て来て欲しくないのだ。
元が由緒正しい家で方々に繋がりがあるらしいので、ちょっと気まぐれで王国転覆を狙ってみましたとか無いとも限らない。
そう言えば横山香苗は、王城に引っ越したせいで俺は殆ど会っていないが、学校では女性陣と会っているらしい。
最後にまともに話す機会があったのが街へ出かけた時だったから、かれこれ数ヶ月は話していない事になる。
まぁ異性だし俺個人が別段距離が近いわけでも無いので不思議では無いのだけど。
「やはり皆さんは、奪えるなら奪ってしまう方がいいですか」
「長年恨まれて来たからな。いっそ奪って統治してしまった方がいいではないか」
これが貴族に染みつく西の国への感情だ。
「そう言うトモヤは違うのか。そうか違うと言っていたな」
「ええ。自分は異世界人です。特にあの国に何か思う所もありませんし、シェリールから面倒な奴等と聞く程度です。仮に向こうから何かされてもこちらで対応出来ますし、あっちはあっちで勝手にやっててくれれば特に何も思う事も無く、どうでもいい相手と言う事です。むしろ山脈の先に領地なんて持ったら目が届かず、何か変な事をやっていても気づくのに遅れる可能性があるので、それが怖いくらいです」
「なるほどな……。しかし、この流れ止まらんぞ?」
「そうなったらなったで仕方ありません。しょっちゅう赴いて統治の状況を調べる事にしましょう」
そう言うとあからさまに嫌そうな顔をするのがフレデリクだ。
「領地運営に口を出すのか」
「大きな変化があったばかりの場所ですし、細かな査察は必要でしょう。必要とあらば、ベスターに協力を要請して各地の調査をしてもらってもいいですし」
「我々貴族を信用していないと?」
「水面下で変な動きを見せられた後ですし、その調子であちこち争いを生まれても困りますので」
ここでお前が王でも無いのにか、と言われた困るところだったが、逆にそれで王になって全ての決定権を公爵家から奪った場合、困るのは公爵家だ。
俺を王代行辺りに収めておくのが利口なのである。
「まぁ待てフレデリク。トモヤとて無駄な争いを嫌っての事だ。それに領地は正しく運営されねばならん。特に反王国感情が根強い西の国だからな。もし事が上手く――いやノイベルトの当主の予定通り進んだとして、実際統治権をどうするか話し合っておこうではないか」
「ルーベルト殿、我が領地は隣接してる故に、こちらの息のかかった者にしてもらいたい」
「まぁそう言うのも仕方あるまいな。トモヤよ、どう思う?」
「とりあえず変な画策をしたノイベルトには王国に来るのであれば平民に落ちて貰います。それをどう救済してもいいですが、王家が爵位を上げる事は無いと思ってください。国を売ったのだから、領民感情を考えればそれくらい当然でしょう」
実際領民感情がどうなるかは知らないが、むしろノイベルトが治めた方がスムーズだと自分でも思っている。
それでも一国家をどうにかしようとして、それがバレた以上ペナルティーは受けて貰う。
「まぁ統治する誰かの補佐にでも付けてやればいいんじゃないでしょうか。一平民として」
「……珍しく怒っておるな」
「散々王国を引っ掻き回して自分の思うようにしようとしてるんですから」
少なくとも、ノイベルトがそう言う方向で考えているのはほぼ確定した。
それはフレデリクの反応を見ればわかる。
「その上で誰が統治すべきかと言うと、伯爵家の中でも古い家が妥当ではあるのですが、そうなるとシュバインシュタイガー家になってしまいます。ですがあの家はノイベルトと親戚の関係にあるらしいので除外します。その次ですとヴァンダム家でしょうか」
そう言うと、『はて、ヴァンダム?』と四人が頭の上にハテナを浮かべていた。
「ええ、丁度よく今度から暇になりそうなのと、元々家があちららしいので丁度いいでしょう」
「……ヴァンダムとはトモヤ、まさか……教皇猊下の事か?」
「ええ。そのまさかです。近々教皇を退くらしいですし、元教皇であれば西の国の領民も暴動も無く平穏に暮らす事でしょう。そしてあの家は元々ピレネー本家を伝手に西の国から亡命してきたと聞きます。これほど条件の合う人は居ないでしょう?」
「むぅ……。確かに公爵家の傍流ではあるし本人の知名度は付近一帯で知らぬ者はいないお方。だが、高齢だぞ?」
「ここだけの話にして欲しいのですが、当人の依頼で楓子が若返りの魔法の実験を行い、肉体年齢は五十代まで若返っています」
「何だその魔法は」
流石年長者、若返りと言うワードへの反応は素早かった。
「ですが副作用等がある可能性もあるのと、楓子への負担が凄く有るので他の人へ施すつもりはありません」
「そ、そうか……」
「最近なんて、正装で中央噴水広場で女性と楽しそうに話しているのを見かける程元気ですよ。流石に教皇猊下本人と気づく人は居ないようですが」
「……そんな事になっていたとは……」
「本当はもっと若返りたいとしつこかったのですが、とにかく術者への負担が強いのです。ですのでこの場だけの話として、絶対に吹聴しないでください。した所で対応できないので」
「わかった。他の者もいいな」
「金やら家の地位やら全て投げうたれてもやれませんからね。で、肉体年齢的にはそんな物なので、十分やってもらえると思います」
「フレデリクよ、何か問題はあるか」
「……現状、猊下よりも上のお方などありえないではないですか」
「では内定と言う形で。トモヤ、一応話を通しておいて貰えるか」
「ええ、わかりました」
「では今日はここまでだ」
フレデリクがやたらと疲れた顔で出て行った。
多分だが、ノイベルトにやらせるつもりだったんだと思う。
そう言う形で取引が成立していて、シャルの言っていたなんかヤバいキノコとかを回してもらう気だったのかもしれない。
そこら辺の裏取引にまで言及しても答えないだろうし、時間の無駄だからやめた。
――そもそも、俺の予定通りならバウワーにノイベルトは潰されるのだ。
今回の話自体、全くの無意味と言っていい。
が、予定通りに行かない事も考え、第二案として考えていたのが教皇を使った統治だ。
あの人の場合、若返りの魔法の話をチラッとでも出せば食いついてくる。
お年寄りをハメるような事になるのは大変申し訳ないが、楓子を教会の要職に就かせようと画策してるのは教会の連中と言うよりかは教皇が一番推してるような話を聞いたので、これくらい利用させてもらおう。
ダラダラ続けてようやくブックマーク100人突破していました。
ありがとうございます。
自分が割とズボラなんであれですが、結構ブックマークの登録と解除って細かくされる方がいるらしく、あ、増えた。あ、減った、と一喜一憂する要素だったりします。
これで今流行りの傾向の話で爆発的に人気が出ると桁が違うのでしょうが、あくまで細々とやっているのでブックマーク登録や評価点を付けて貰えると大変嬉しいのです。
ただ感想を書かれた方には申し訳ないのですが、感想と言うのは個人が感じた物ですので、それに対して特に反応を返すつもりはありません。
勿論感想を書かれる事も非常に嬉しいのですが、ただ「感想ありがとうございます」以外に返信のしようが無いのです。
感想の内容にこれはこれで、あれはそれで、と書くと今後の展開に影響する可能性があり、自分が殆ど今後の展開を考えず勢いで書いているので支障が出てしまう為です。
なら感想ありがとうございますくらい返信しようかなとも思ったのですが、その一文だけ素っ気なく返すよりは一律返信無しで行った方がいいかなと思いまして。
元々感想に反応を返すのが苦手ってのもあるのですが。
んで話は変わるんですが、マスク売って無いのにマスクしなきゃ立ち入り禁止みたいな仕事先があって滅茶苦茶困ります。
なら外部用に配布してくんないかな。




