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異世界なんてクソくらえ  作者: 南都河埜
西の国の動乱
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ある意味シャルの執念の結果


 と思ってたら、どこで聞きつけたかその晩にベスターが攻め込んできた。

 そう、攻め込んできたと言うのがイメージとしてピッタリだが、注釈として『拗ねた子供が』と付け足したい。


「私も欲しいぞ」


 まるでおもちゃ売り場で親にねだる子供の顔だ。


「しゃる、しゃーるー、明日どうだー?」


 食後にリビングでダラーっとしてた所だったので、頭を仕事モードに切り替えるまでにタイムラグがあった。


「うー……連日となるとアレクサンドルがうるさいかも。やるなら声を掛けないとやり過ぎだって嫌味言われる」

「それには手伝えないな。あいつら人間をゴミ同然に見てるしな」


 むしろ俺が行く事で逆効果だとすら思う。


「って言うか今日の気づいてるのか?」

「世界樹からワームを持ちだすのなんて私くらい。数が減れば一発でバレる」


 ジャイアントワームの(たぐい)は世界樹と共生しているが、必ずしもいなければいけないわけでも無い。

 むしろ必要なのは世界樹の管理の為に枝に上がるエルフ達で、ワームの糸が張られる事によって枝の揺れが減って仕事がしやすくなるのだそうだ。


「他の国ではワームってどうしてるんだ?」

「他の国は綿花や動物の毛で作る。ワームの糸で布を作るのなんてうちくらい」

「……それって滅茶苦茶外貨稼げる奴じゃないの?」

「ほんの少し輸出してる。基本的に国内消費で終わる」


 それもそうだった。

 生産量が少ないのは頭の片隅にあったが、そのほとんどを貴族やうち等が使ってしまっているのだ。

 しかし、ジャイアントワームの類は魔力と日の光があれば食事がいらないし、生産コストを考えるとほとんどが人件費だ。

 これはボロい商売なのでは。

 コボルトの魔王に提案した時は、自分達が必要な分は自分達で作ればいいと言うのと、王国の布の生産量を増やして価格をもう少し抑えられればと考えていたが、輸出する事を考えると一大産業になるのではと思い付いてしまった。

 だがシャルがそれに気づかないわけが無いので、輸出する程に生産量を増やせないのだろう。


「ちなみにジャイアントワーム製の布って一匹あたりどの程度でどれくらい出来るんだ?」


 なんて聞いていいのかわからなくて大雑把すぎたが、シャルは理解してくれたらしい。


「ジャイアントワームなら十匹で一ヶ月あれば社交界用のドレス三着分くらいの糸を吐く。ジャイアントキメラワームはその半分で、亜種になると更に半分」

「……国外向けに産業化するのは無理か?」

「無理ではない。流通量は少ないけど単価が高い。偶に行商人も買っていく」


 単価の高さはわかっていたが、国外向けにするにはもうちょっと生産量を上げなければ、高級すぎて嗜好品の中でもよっぽど好きな人しか買わない価格になってしまう。

 だが服は貴族のご婦人が貴金属と同程度に本気を出す部分らしいので、質を高い物なら絶対に買い手は付く。

 シャルの言うほんの少しの輸出も、どこかにお得意様がいて対個人で輸出しているのかもしれない。


「コボルトの所だと二十匹? 月六着か」

「ジャイアントワーム製は子爵家辺りの娘の一張羅として買う」

「金額的にそれが限界か?」

「そう」

「需要は?」

「まだまだ沢山」

「じゃあ国内販売は問題無いな」


 自分達が着る服がもう一段階上の素材なのを棚上げにして頭の中のそろばんを弾く。

 商売をやる以上、必ずしも高級品を扱えばいいと言うわけでも無い。

 需要が無ければ売れないし、高級品であればあるだけ売れる頻度は下がるからだ。

 ジャイアントワームの糸で出来た布が子爵家辺りの一張羅として買われるのであれば、伯爵家クラスならば週末のパーティー用のドレス位には使われるだろう。

 その程度の需要なら流通が増えた所で値崩れもそんなしないだろう。


「でだ、都合は付くのか?」


 そうだった。


「むしろベスター連れて行ってみるか。流石にエルフの代表もベスター見たら腰抜かすだろ」

「何てものを世界樹に連れ込むんだって大騒ぎになると思う」


 それはそれで面白そうだが。


「構わん。直接話を付けてやろう」

「ん、面白そう」


 シャルも俺と同意見だったらしい。


「あの年増をぎゃふんと言わせるいいチャンス」

「そう言えばシャルも嫌ってたもんな……」

「多分、今の私を見たら結婚がどうとか言い出す」

「しばらく先でも全然かまわないような口ぶりだったろ」

「私が幼すぎたから」


 つまりアレクサンドルの趣味がそれくらいと言う事か。

 実年齢を聞いたか覚えてないが三百歳とか四百歳のはずなので、歳の差がほぼそれだけあると言う事だ。

 リアルに考えるとやべえ。

 いやエルフ的にはそんなおかしくないのかも知れないけど。


「ふふふ……世界樹が震撼する……」

「俺は行かないからな。絶対俺のせいにされるから俺は行かないからな」

「なんだ、トモヤは来ないのか。つまらないではないか」

「怒りの矛先がこっちに向くって容易に予想が付くのに、何で火の粉を被りに行かなきゃいけないんだ」

「お前はいつも火の粉を被りながらここまで来たではないか」

「望まずともな……」


 今でも別にこんな苦労しなくていいはずなのに、と思う事は多々あるけどさ、なんか立場的にしょうがないなって。


「では明日の朝また来る。頼んだぞシャルロットよ」

「ん、楽しみにしてる」


 ヤバいな。

 シャルが完全に悪だくみモードだ。

 これでエルフと全面対決とかなったらシャレにならん。

 ならんけど、珍しくやる気に満ちているシャルと、コボルトにはやって俺には無いのかと拗ねるベスターの二人を止めらる気がしない。

 ちなみに何でベスターが知ったのかって、ベスターは俺が西の国に掛かりっきりになってたせいでよっぽど暇だったらしく、サウスルタン南でポチを始めとした言葉を理解出来る亜人と交流会と称した暇つぶしをしたり、コボルトの集落へ行ってコボルトの魔王と茶をしばいているのだそうだ。

 今日も俺達が帰った後に来たらしく、それはもう羨ましがったのだとか。

 後でそれを聞いて、順番を逆にすればよかったのかなぁなんて少し考える事になった。


 翌日、ベスターは宣言通り朝から来た。

 辛うじて朝食が終わる辺りの時間を選んでくれたのは良かったが、『まだか早く』と雰囲気で語るので正直邪魔だ。

 口にしたら拗ねるから言わないけど。


「じゃあシャル、よろしくね」

「ん」


 そう返事するや否や、シャルは転移門を開く。

 するとベスターがシャルの手を引いて中に入るのだ。

 下手したら変な所に飛ばされるって言うのに、シャルの転移門の魔法を信頼しての事だと思うが、そこまでワームが欲しいか。

 うーん、むしろベスターから構ってオーラみたいなのを感じるんだよなぁ。

 本当は世にも恐ろしい魔人の王のはずなんだけど、蔑ろにすればするだけ尻尾振って近寄って来る犬みたいに思える時がある。






 濃厚な魔力を感じて目を開けると、そこは形容しがたい世界だった。

 地面が土ではない。

 辺りを見回すと、どうやらここは樹の洞の淵らしいのだが、それにしては巨大すぎて度肝を抜かれた。

 このようなサイズだったのか、世界樹と言う物は。


「ついた」

「ああ、でだシャルロットよ。いきなり敵意を向けられているのだが」

「ん、こないだもトモヤ達がいたからそうだった」

「そうか」


 ならば時空の彼方へ飛ばしても構わんな。

 巨大な木製の柵を門として設置しているが、それの番が大股でこちらに近づいてきた。


「こらシャルロット。また部外者を連れこんだな。見た目が成長しても中身は成長しない奴だな」

「アレクサンドルを呼んで。これ、魔人の王」

「ベスターだ」

「は? そんなアホみたいな冗談を言ってないで――」


 道具袋にクリスタルを仕舞った。

 その瞬間から爆発的にあふれ出す魔力が周囲に充満し始める。


「わーっ! わーっ! ちょっとたんま! 今すぐ呼ぶから抑えてくれー!」

「たまには実力行使と言う物も話が早くていいな」

「そのままだとアレクサンドルも近づいて来ないから、一回抑えて」

「ああ」


 再びクリスタルを取り出して収束し、小型の転移門の魔法を発動させて魔力を飛ばす。

 守衛は慌てて門の中の同僚に何かをいい、その同僚が洞の中へ走って行った。

 今の光景を見ていたらしい一部のエルフは、これはただ事ではないと思ったらしく即座に姿を隠してしまった。


「にしても、これだけ成長してもシャルロットと判別されるのだな」

「幼いエルフは数年で大人に成長する。ある程度生きたエルフにとって数年は数日。見た目よりも魔力の質で判断する」

「それはつまり魔力探知に長けていると言う事だな。なるほど、普段から魔力で物を見ていると言う事か」

「大体そう」

「しかし、この辺りは全てが世界樹の魔力に包まれている。慣れないと世界樹の一部なのかエルフなのかわからないぞ」

「ん? 目で見た映像と魔力探知を同時に認識すればいい」

「やっているが中々微調整がな」


 なんてやってる間にエルフの代表様が来たらしい。

 恐らくボディーガードの類だろう、魔力が高めのエルフを十名以上連れている。


「シャルロット。これは一体どう言う事だ」

「昨日ワームを捕獲しに来た。今日はコレが欲しがってるから来たけど、二日連続だから一応許可が欲しい」

「待て。何故魔人がワームを欲しがるんだい」

「少し前に魔人の国として建国して、発展のためにワームが欲しいらしい」

「その前に何故魔人と仲良くしているんだ」

「トモヤの友達だから」

「あの者か……」


 トモヤよ。

 お前がいなくても火の粉は降りかかったようだぞ。


「魔人よ、この場から去ってもらおう。ここは神聖なる世界樹その物である。其方のような魔人がいてはいけない場所だ」

「と言っているがシャルロットよ。私は許可を取りに来た其方の付き添いと言うだけだったな?」

「そう。許可さえ出れば帰っていい」

「許可か……」


 眉間に皺を寄せてしまった。

 どうやらトモヤの話では人間をゴミか何かと同列に見ているようだが、魔人は無視も出来ないが許容も出来ないようだ。


「どれだけ持って行くつもりだ、魔人よ」

「いいのであれば根こそぎ」

「ふざけるな」

「では五十程頂こうか」

「そんなに許せるわけがあるまい」

「と言っているがシャルロットよ、どの程度が妥当なのだ」

「あそこは魔力が潤沢だから何匹でも大丈夫」

「だそうだが?」


 アレクサンドルと言う見た目は若いエルフは、我々がハナから大量に持って行くつもりなのだと理解して更に顔を歪ませた。

 世界樹からどれだけ連れていくのが妥当なのかではなく、魔人の国の魔力量的にどれだけ飼育できるかで答えたからだ。

 何匹でもと言う事はそれだけ魔力が濃いという事だから、つまりそれは私の魔力がどれだけ高いかを言ってるようなもので、単なる脅しなのだ。


「シャルロット。君は私を困らせる天才だね」

「困らせるだけならベスターを暴れさせればいいだけ」

「彼とて我々とやり合えば唯では済まないだろう? もっと冷静な判断をだね」

「私が何か?」


 もう一度クリスタルを袋にしまい込んだ。

 いくらなんでもこれだけ人数がいれば一矢報いれると思ったのだろう。

 瞬間噴き出す魔力に、連れてきたうちの何人かがうめき声をあげて跪いた。

 恐らく普段から世界樹の清浄な魔力しか受けていないのだろう。私の魔王としての魔力にあてられてしまったようだ。


「シャルロット……。君は一体何と言う化け物を連れて来てくれたんだ……」

「私はお願いを聞いただけ。普段は人畜無害」

「だがしかしだ魔人よ。魔人に世界樹を荒らされるわけにはいかん。申し訳ないが引き取ってくれ」

「ほう、私の魔力を感じてなお気丈に振舞うか。意外とやるではないかエルフの代表よ」

「これでもそこそこ歳を取っているのでな」

「で? 帰れと言うなら帰らなくも無いが、許可は下りるのかな?」

「……」

「ふむ、ではあの辺りの太めの枝を吹き飛ばして丸ごと持って帰るとするか。ワームも多少は付いているだろう。ああ、心配しないでいい。あの程度のシールドなら問題無く破壊出来る」

「シャルロット」


 やめさせろ、と視線で訴えていた。

 シャルロットも人が悪く、それを見て陰でニタァと美しい少女の顔を歪ませて鬼の微笑を浮かべるのだ。


「大丈夫、ここで何かしでかしたらトモヤが責められるから、ベスターは何も出来ない」

「おいシャルロットよ」

「事実。でもアレクサンドルを一瞬で十回は殺せるだけの力は持っている。魔人の王だけど元は人の勇者だから戦闘に関してはトップレベル」

「ぬう……癪だが仕方あるまい。だがシャルロット、同じ場所での捕獲は厳禁だ。最低十か所から捕獲するように」

「ん、了解」

「それと、ソレを上に上がらせるな」

「ベスターは私程では無いけど類まれな転移門の魔法の使い手。ここに来れた以上、枝に上がるくらい造作もなく出来る」

「シャルロット」


 今の発言には本気で怒ったようだ。


「世界樹をなんだと思っているんだい。これは我々の祖先だ」

「根本から間違っている。世界樹は大事だけど樹で、ベスターが枝に上がった所で世界樹が汚されたりすることは無い」

「私とて世界樹の魔力が無ければ困るからな。世界樹で無茶はせんよ」

「それでも許すわけにはいかない」

「むう、頭が固い」

「いずれわかる。世界樹を守ってこそ我々エルフが健やかに生きられるのだと」


 確かに世界樹の魔力あってこそのエルフだろうが、だからと言って他全てを敵認定するのはやり過ぎだろう。

 まぁこれ以上刺激しても仕方あるまい、最終的にトモヤに不満が向きそうだから、これくらいにしておこう。


「ではシャルロットよ。私は先に帰ろう。ワームは城の外に持って来て欲しい」

「わかった。お駄賃に甘味要求」

「……フローラに頼んで何か作っておいてもらおう」

「おっけー」


 アレクサンドルの苦虫をかみつぶしまくって口からあふれ出る寸前くらいの厳しい顔は、私が帰ると言った事で多少改善された。


「それはそうとシャルロット。急に成長したと言う事はエルフの社会に戻る気になったと言う事だろう? 式はいつにしようか」

「戻るわけが無い。私はトモヤが先に寿命で死んでも、自分が死ぬまで子孫を見守る」

「そんな事が許されるわけが――」

「私の人生は私の意思で決める。邪魔をするならアレクサンドルと言えど敵」

「そうか、我が友の嫁の敵となれば、私も黙っては居られないな。さて、とりあえず半身を焼かれてみるか」


 一瞬で超高密度に圧縮されたサンバーストをアレクサンドルの前に発生させた。

 その高熱と光に一瞬で後ろに飛んで逃げたアレクサンドルだが、そのサンバーストの威力を見極めると諦めたようにため息をついた。


「わかったよシャルロット。この話はまた後日と言う事で」

「後日もなにもない。ベスター、やっちゃっていい」

「後で問題になってもいいならやるが、それは本意では無かろう?」

「むう」


 どうやら性格的にも精神的にもアレクサンドルとは合わないようだ。

 向こうはシャルロットを気に入っているようだが、こうも世界樹を最優先に考える頭ではシャルロットのような自由人を嫁に迎えるのは無理だろう。


「じゃあ私は上層に行く。ベスターは自分の城で待ってて」

「ああ、任せたぞシャルロット」


 クリスタルを出しておき、とりあえず転移門の魔法で自分の城まで飛んだ。

 そしていつものように収束した魔力を城の地下に飛ばす。


「おかえりなさいませ、旦那様」

「ああ、ただいま」

「お早いお帰りでしたね」

「エルフの代表に毛嫌いされてしまったのだ」


 さて、シャルロットはどれくらいで帰って来るかな。


「フローラ、済まないが後で来るシャルロットの為に、何か作っておいてやってくれないか。甘いものが食べたいらしい」

「わかりました」


 さて、来るまで読書でもして待つか。


 シャルロットの魔力を感知したのは、戻って来てから何と五時間は経った昼過ぎだった。

 城の前に現れた魔力を感じ、転移門の魔法で外に出ると表にはうじゃうじゃといた。

 同じく気付いて転移門でやって来たフローラは固まっている。


「フローラ、どうした」

「――旦那様。害虫は駆除してよろしいですね」


 疑問形ですらなく確定した未来を言うようにして、掌に白く輝く程に炎を圧縮する。

 どう考えても頭のねじが飛んでいると言うかセーフティーが外れている状態だ。

 ふむ。


「フローラはワーム系が苦手だったのか」

「ああ……なんとおぞましい……」


 恐らく唯一であろう苦手を発見出来た物の、これを使って脅かしたりした日には恐らく抹殺される事だろう。

 それくらいの殺意が今もフローラから溢れている。


「だがシャルロットよ。これは普通のジャイアントワームではないではないか」

「ん、亜種を根こそぎ取って来た。残りはジャイアントキメラワーム」

「普通のはいないのか」

「差別化を図った方がいいと思った。コボルトの集落よりも環境がいいからこっちの方が確実に生産性は高い」

「ふむ、まぁ物は試しだ。駄目なら王国でワームを飼育してる町に寄付すればいい」


 シャルロットの狙いはわかっている。

 この地で作ったとしても、今回は全てトモヤやシャルロットのおかげで実行できる産業だ。

 となれば王国へ売る時はそれほど値段を盛る事は出来ないし、納入も転移門の魔法で纏めてやってしまうからコストもかからない。

 かかったコストの殆どが人件費だ。

 飼育場の整備費用なんかもかかるが、工事も自分でやってしまうので実質無料(ただ)だしな。

 となると、国内流通よりも気持ち多めに取る程度で商談がまとまる事だろう。

 王国産よりも染織等で付加価値を付ける手もあるが、下手な事をして無駄にするのも最初は勿体ない。

 さて、残りは機織り機だが、勿論用意してくれているのだろうな。


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