学校案内
オークの侵攻関連でベスターの活躍が世に知られて来た。
最初は作り話だとか俺の工作だと噂されたが、実際ベスターに救われたリリアナ達三人が貴族との面会でなんとなしに話した結果、ベスターがいなければサウスルタンは終わっていたとすら言われるようになっていた。
人間、話は面白い方がいい。
面白く脚色されていく。
今回はさほど脚色されてないが、どう扱えばいいかわからなかった魔人が本当に人間の味方として動いていた事実がわかり、一気に親近感が湧いたのだろう。
で、そこに魔人の留学生、と言う形で人間の王国の勉強をしに来た三人のお披露目が行われるのだから、以前とは打って変わってちゃんと人が集まった。
基本お祭り騒ぎは大好きな国民性だ。
休みの日に設定した事もあって近くに屋台を出してくる程だが、高々一時間程で終わると言うのに設営の手間と釣り合うのだろうか。
「トモヤさーん、おはようございまーす」
「おはようアイシア。ミハイルとニコは?」
「フローラ様に挨拶してますよ」
ニコニコ愛らしい笑顔でリビングに顔を出したのはアイシアで、サキュバスではあるが魔力を抑えているのでサクラと変わらない感触だ。
同族最強のフローラさんの事は敬愛しているようなのだが、フローラさんの魅了の魔力は同族だろうが容赦なく効くらしいので、敬愛と言うか親愛と言うか熱愛と言うか、二人でいるとほんのちょっとヤバい空気を感じる事がある。
インキュバスのミハイルとヴァンパイアのニコも結局はフローラさんの魔力に中てられ、見事に素直に言う事を聞くようになってしまっている。
それを見ると、ハーゲン・フォン・ノイベルトを魅了してもらって、好き勝手操れるようにしてもらった方がよかったかなーなんて思わなくもない。
西の国の件に関してはベスターやフローラさんの手を借りる気は無いけど。
アイシアなんかはリリアナ達と同性で歳も近いし、仲良くしてくれればいいなーと期待している。
ちなみに今日に関してはリリアナ達もお披露目に参加で、今は部屋でドレスに着替えている事だろう。
うちの面々も式典用のドレスに着替えて待機しているが、今日はただ居るだけだ。
「おはようトモヤ」
「ベスター。ちょっと漂着物について相談があるんだけど」
「ああ、こっちでやっておこう。どうせ暇だしな」
暇、と少し協調して言った。
今回の西の国の件で協力を仰がなかった事を少し根に持ってるっぽい。
ベスターは亜人の様子を見てくれているので、恐らくそこで漂着物の話も聞いたのだろう。
話が早くて助かった。
「いいのか?」
「集めて防腐処理してまとめて転移門に突っ込めばいいだけだろう。任せておけ」
「……その前にサウスルタンのリリアナのお母さんに一言入れておかないと。いきなり大量の漂着物が届いたらパニックになるだろ」
「ああ、そうだな」
漂着物とは言わずもがな、渓谷から落とされた男達だ。
何で落とされたのか当初はわからなかったが、被害者の年齢層が軒並み高いので食用に向かなかったと言う事だろう。
恐らく探せば渓谷のどこかに引っかかっている人もいるかもしれないし、底に沈んでいる人もいるかもしれない。
それらを探せればいいが、そこらの貴族の魔力程度だと死んで数日で霧散してしまうので、流石に俺でも魔力探知では探せない。
「お待たせいたしました。準備が整いました」
フローラさんが来て、後ろにミハイルとニコがくっついて来ていた。
二人ともスーツを着ているが、特にニコは幼いので正装だろうが可愛く見えてしまう。
それでも魔力量は三人の中で一番で、暴れると結構ヤバいらしいけど。
「じゃあ行きますか」
少しすればドレスに着替えている組が来るだろう。
毎度のバルコニーに出る手前で待っていると、嫁ーずとリリアナ達三人がドレスに着替えてやって来た。
見慣れた四人は何着かのドレスを持っているが、一度使うと杏里さんの店に持ち込んで多少のアレンジを加えて再利用している。
そうでもしないと金が持たないからだ。
リリアナ達は以前間に合わせで買ったドレスとは違い、式典用のちゃんとした物を用意させた。
杏里さんの話だと、元々ベースとなるドレスはある程度準備してあるらしい。
だとしても三人分仕立てるのに数日と言うのが早すぎだが、それが杏里さんの特性の一つのようだ。
「じゃあ打ち合わせ通りに」
俺達夫婦が先に出て行き、俺が軽く挨拶の口上を述べる。
今回の主役はアイシアとミハエルとニコだ。
三人に前に出て来て貰い、順に挨拶をしてもらった。
挨拶の文を考えて貰ったわけだが、どうやらフローラさんの話だと十数回に及ぶ添削の末に完成したらしい。
そんな添削すんのかよと思ったが、実は元々殆ど問題無く書けていたらしい。
むしろ殆ど問題無く書けてしまったが為に、フローラさんが百点満点を目指してしまって添削地獄が始まったようだ。
そのせいだろうか、三人とも暗記は完璧で非の打ちどころが無く、ノーミスで終えて戻って来た。
その後で三人が冒険者育成学校で勉強する事、リリアナ達も編入する事を発表したが、アイシア達三人が入るのは一部で噂があったので大騒ぎにはならなかった。
早めに会議に掛けておいて大正解だ。
勿論一般市民にまで広がる噂では無いが、今のところあの学校は一般市民が易々と入れる状況にない。
なので不満は貴族から出るはずだったが、思いのほか噂の浸透が早くて覚悟を決める時間はあったようだ。
幸いにもベスターが受け入れられて来たので、同じ魔人として大きな反感は持たれていないらしい。
これでニコ辺りが暴走して騒ぎを起こさなければいいのだけど。
元々一時間程度で全て終わらせるつもりだったのだが、あまりにもスムーズで時間が出来てしまったのでベスターに登壇してもらった。
内容は主にサウスルタンの復興に関してで、自分も関係してしまった以上全力で復興に力を貸すと言った内容だった。
戻って来たベスターが何やら含みのある笑顔だったのだが、多分公に絡む事を宣言した事を『してやったり』と思っているらしいのだが、むしろこっちとしては願ったり叶ったりなのだ。
やっぱり西の国関連で突っぱねた事を根に持ってるな。
そんなに絡みたいなら、と思わなくもない。
だが、なんでもなんでもベスターが絡んでしまうと、隣国から『王国は魔人の国の属国だ』とか言われかねない。
俺個人としては何と言われようが気にしないのだが、王国民全員がそう言う目で見られるとなると話は別だ。
王国にもっと力があれば魔人の国と対等に見られるようになって解決するのだが、今回は特にベスターの手柄だった事もあり、本来矢面に立って人気を集める役割の勇者二人が機能していなかった。
まぁ魔人を受け入れられるように、あえて情報操作をしないで放っておいた結果だから狙い通りではあったんだけど。
台風一過な王城前は特にゴミ等の散乱も無く静けさを取り戻す。
王城はエルフ様の住む場所、と言うのが一般的な解釈らしい。
だからこそ、何かあって王城前に集まったとしても、誰もがマナー良く振舞ってくれるらしい。
「さて、それではこれから六人に学校を案内する。基本的に全員纏まって行動するけど、リリアナ、フェリシア、パトリシアの三人は千絵や楓子に付いて回るように。これは有力貴族の子女とのお目通りがメインだから。アイシアとミハイルとニコは俺やシャルやシエルから離れないように。何かあった時に責任取るのは俺だから、気になる事があったら勝手に調べないでとりあえず俺達に聞いて欲しい。まぁフローラさんから太鼓判押されてるし大丈夫だと思うけど」
昼食を終えて一休みし、一応集合場所を王城前にして前庭の片付け具合を見がてらざっと説明した。
別にサウスルタン組と魔人組で分ける必要も無いとは思ったのだが、何かあった時に誰を頼ればいいか、一応でも決めておけば聞きやすいし対応しやすいだろう。
今日は休みだし学校で何か問題が起きると言うのも考えにくいが、休みだろうが活動している所はある。
特にリリアナを筆頭としたサウスルタン三人娘は貴族の間でも可愛いと噂になっているとかで、平日だと野郎どもに囲まれる心配があった。
既に六人には制服が用意されていたのだが、実はリリアナ達三人は割と近々に決めた事なので、もしかしたら制服が間に合わないかもと言われていた。
そりゃドレスの用意も杏里さんにお願いしていたし、制服まで手が回る方がおかしいと思ったのだが、制服は中々破けない防御力に優れる一品であれど消耗品の一面があるのと、そろそろ新入学の時期なので、制服に縫製しやすい形で布のストックが大量にあるらしい。
割とラフな格好を好むリリアナ達は千絵の着こなしを参考にしたとかで、上の丈はやや短いしスカートも膝上だった。
逆にアイシアは見た目はこの王国の一般的な所に準ずる気らしく、上の丈はやや長めだしスカートも膝下だ。
ミハイルとニコは普通に貴族の男子っぽく見える。
「じゃあシャル」
「ん」
転移門を開いて俺達は中に入る。
出た先は正門だった。
こうして見ると、なんと言うか自分が通ってる学校なのに親近感が湧かないと言うか見覚えがそんな無いと言うか。
そりゃ寮と校舎とドームを行ったり来たりの生活で外に出る事が滅多に無く、出ても転移門だったから、外から正門を見る事なんて片手で数えるほどしかない。
俺本当にここに通ってるんだよな? と心配にすらなる程だ。
「正門だけど、魔人の三人は寮生活をしてもらうから基本この学校の敷地内での生活になると思う。放課後や休みの日は夕食までに帰って来れれば寮的に問題無いとは思うけど、まだ王都の人も魔人を怖がる人達がいるから、勝手に出歩かないってフローラさんから聞いてると思う。一応週一回、外を見て回れるように誰かしらが引率するから、それ以外は学校内で友達でも作って暇をつぶして欲しい」
通達が行き届いていない部分があるが、どうしても魔人が怖いから入ってこないで欲しいと言う店には入店お断りの札を出してもらう事になっている。
昨今の雰囲気から殆ど大丈夫だとは思うけど、大勢が魔人受け入れムードだから受け入れろ、と強制も出来ない。
「リリアナ達は今まで通り好きにしてもらって構わないけど、買い物等で外に出る時は必ずトラ子を連れて行く事。勝手に別行動取らない事。通学はこのシャルが転移門で送り迎えしてくれるか、手が空いてない時は徒歩で行き来してもらう。その時も必ずトラ子を連れる事。トラ子、任せたからな」
「みゃ」
ある程度放っておいたらどうせ甘えん坊に戻るだろうと思っていたのだが、聖地巡礼から帰ってきた時に飛びついてきたくらいで、基本的に甘えん坊なトラ子さんは鳴りを潜めていた。
リリアナ達を部下か何かと捉えて精神的に成長したのかとも思っていたが、どちらかと言うと妹が出来てお姉さんぶってると言った方がしっくり来る。
甘えん坊が鳴りを潜めていると言っても、やはり毎日普通にゴロゴロすり寄って来る程度はある。
元々猫は甘える事もあるが自由奔放な生き物だし、トラ子本人が三人を守る気があるようなので任せておいて問題は無いだろう。
「正門から入って右にずっと行くと、あの見えてる建物が寮。あそこは最後に行くから。とりあえずアルバート先生辺りに挨拶をして――」
休みの日だからいないかな。
楓子のフルヒールで完全回復してからと言う物、熱血先生になってしまったので休みの日でも近距離戦闘用のドームで指導してる事があるらしい。
おかげで生徒の技量が上がってるとは言うが、あの人も普通の人間の枠で考えれば常識外の強さの人だから、中にはそれなりの怪我をさせて保健室送りにする事もあるらしい。
それで問題にならないどころか、アルバート先生の指導が一種のプラチナチケット扱いで大人気らしく、『怪我をするのは自己責任で怪我を防げるだけの技量が無いのが悪い』と言われてしまうのだとか。
それを聞いて、アルバート先生には程々でお願いしますと言っておいたが、果たして効果はあったのか。
極稀にシエルを貸してくれと連絡が来て、シエルが多少の手加減をして手合わせするらしい。
そうする事でアルバート先生の戦闘の感が戻るらしいのだが、加減の理由はシエルの本気を受けると内臓にダメージが来るかららしく、人間としても常識外の強さを持つアルバート先生でもガーディアンのシエルとはまともに戦えないようだ。
そう言えばアルバート先生も西の国へ行くのかな。
「しつれーしまーす」
どうせ居ても職員室じゃなく勇者養成学科の方だろうと思って顔をだしたら、案の定そこにいた。
「おう、さっきはご苦労さん」
「面倒だって言って来ないと思ったら見てたんですか」
「そりゃ受け入れる生徒だしな」
アルバート先生は勇者養成学科の担当と言うある意味閑職に付いている。
そりゃ勇者が現状千絵と楓子しかいないのだから当然だが、勇者に指導出来るだけの技術を持っていると言う事でもあり、だからこその指導の人気の高さなのだが、アイシア達魔人を預けるとなるとアルバート先生以上に妥当な人は居ないだろう。
と言うわけでお願いしておいたのだ。
リリアナ達は戦闘関係はからっきしのようなので、護身程度に授業は受けて貰うが基本的に貴族向けの政治経済の学科を履修してもらう。
一応転入先は六人とも俺達と同じなので担任はアルバート先生だが、アルバート先生は戦闘関係はスペシャリストだけど政治経済はからっきしなので、そっちの担当教諭との方がリリアナ達は打ち解ける事だろう。
なんつーか人間版シエルと言うか、ある種のバトルジャンキーなのでリリアナ達とは生きる世界が違うのだ。
「この人がアルバート先生。元々近衛兵団の第二の方の団長を務めてた人だから人間の中でも大分強い」
最近ツヴァイから聞いたのだが、実はアルバート先生って家柄の関係で二十位の第二師団団長として近衛兵団にいたとかで、実力的には申し分なく第一師団の上位に食い込むレベルだったらしい。
実は家柄も決して悪くはないのだが、分家では無くスズウキ家の傍流で本家から結構遠くに位置してしまったらしく、そのせいで貴族の血を優先する近衛兵団では順位を落とされてしまったようだ。
どうやら実はジャンとは割と近い親戚らしいのだが、公爵家は家系図に残そうにも人が多すぎて本家と分家くらいまでしか書き切れず、結果としてよくわからん状態だ。
それを考えるとシュバインシュタイガーが十数代前からちゃんと家系図を残していた事が驚きだが、それも多分本家と近しい家のみだとは思う。
「でもニコ、腕試しと言って戦わないように。魔人の力で戦ったら人間なんてひとたまりも無いからな」
「うん」
素直な良い子だ。
見た目はな。
ニコはショタ好きには非常に受けそうな小柄な男の子なのだが、この三人の中では一番魔力が多く攻撃性も高く、将来ヴァンパイアの中でも上位に位置するだろうと言われているらしい。
成長期に入って魔力が増えないとわからないが、大体何十倍にはなるよ、と言う指針はあるらしく、それによるとフローラさんには遠く及ばないが一般的な魔人の中では上位に位置するのではとの事。
だからこそ、少し幼いが今回の人間社会勉強の第一陣として大抜擢されたと言う。
「アルバート先生も、ちょっとくらいとか言って戦わないでくださいよ。多分現時点でアイシアとミハイルなら同等くらいですけど、ニコ相手を相手にするのは無理だと思います」
「わかってるよ」
半部くらいしかわかって無いだろうなぁ。
技術面では圧倒的にアルバート先生の方が上だが、元々の身体能力が違いすぎるのだ。
技術で翻弄出来たとしても、三人ともすぐに学習して対応してしまうはずだ。
それを計算に入れて、恐らく今の内ならアイシアとミハイルは同等、ニコは無理と言う判断をしている。
でもアルバート先生は一回戦ってみないとわからんと言うタイプだ。
「この後はどこに行くんだ?」
「ざっと見て回ります。今日って学科専門の先生って来てないですよね」
「ああ、休みだしな」
じゃあ政治経済関係の担当の先生はいないな。
それは通学を始めたら挨拶に行こう。
「そう言えば、将来的に貴族の子の学校になってる状況を変える気だって聞いたけど、目途は立ってるのか?」
「いいえ全然」
「おい」
「いや公爵家には話を通してはあります。ただ各所から反発が出るのは必至なので、とりあえずは新規入学のハードルを上げて生徒数を少し減らして、来年度はもうすぐだから再来年度から平民や貧民の枠を拡充しようと思っています。恐らくある程度ちゃんとした戦闘向けのユニークスキル持ちか、一定以上頭が良くないと入れなくなると思いますよ」
「まぁ確かに一部の質が非常に悪い。そいつらの席を、ちゃんと冒険者として生きたい奴にくれてやった方がいいとは俺も思う」
だがな、と続いた。
「貴族が多い分、寄付も増えて何とかなってる部分はあるだろ」
「ちゃんと冒険者育成が果たされるなら、ギルドと契約して資金を投入してもらえます。問題無いと思いますよ」
冒険者ギルドと言うのは王国では王都にある名ばかりの事務所かマーレンの町に誘致してる所の二か所しか無いようだが、全世界規模で展開している一大ネットワークなのだ。
その資金力は大国の資金力を優に超えると言われているが、あまり詳しい事は知られていない。
と言うのもギルドのトップに君臨するのが誰か知ってる人がいないのだ。
ざっと調べたけど何もわからなかった。
利権の塊だからあえて伏せているのだろうけど、どうやら別の大陸に本部があって数万人規模の冒険者が登録されているらしい事くらいしか調べられなかった。
「俺は給料が出るなら何でもいいけどな」
「仮に給料が減って生活出来ないって言うなら、個人的に雇いますから大丈夫です」
「お、マジか」
「ツヴァイから近衛兵団の訓練用に強いのはいないかって無茶振りされてるんですよ」
「……それはちょっとお断りかなぁ」
無事で済まないと判断したらしい。
ツヴァイもこの間の模擬戦を見るに変態じみた強さを持っていた。
それでも魔王の影響下にあるオークと一対一なら何とかなるかな、と言う強さなのだけど。
この世界、魔物と人間とで力量の差があり過ぎて不公平だと思う。
それでも人間が絶滅しないのだから、上手い事バランス取れているのだろう。




