懐かしき学校生活
会議は終始派兵に向けての話し合いだった。
時期をいつにするか、主戦力はどの程度集まって、各地の平民がどの程度参加する目算か、それらに配布する低級の安物武具がどの程度必要か。
俺は人的被害に関しては気にしているが、金銭的な方は基本的に公爵家持ちなので気にしていない。
結果的に各地の鍛冶屋が儲かるし。
俺はバウワーに内通した事を知らせていない。
即座に動けるとシャルは言ったが、それでもバウワーが派兵の準備を整えるまでに十日から二週間はかかる。
派兵の動きがあればノイベルトも察知するだろうけど、察知自体は早くても派兵の数日前だろう。
あの国は各領地が完全に独立しているので、行商人さえ買収して黙らせれば完全に情報を遮断する事も十分可能だ。
行商人もバウワーが動くとなればバウワーに付く。
それだけの力の差はあるはずだ。
ノイベルトと懇意にしている行商人が知らせる事は十分に考えられるけど、何らかのいちゃもんを付けて一時拘束してしまえばいいだけだ。
うちは人数が多い事もあって準備に最低二週間はかかる。
ドワーフ王国との交流で鉄はすぐさま買い付けられるし、鋳造の装備なら各地の鍛冶屋がフル回転すれば二週間もあれば不足分の補充はできよう。
バウワーには一ヶ月と言ったが、あれは急かす為の方便と言う奴で、移動にも日数がかかるので恐らく早くても一ヶ月半弱はかかる。
こちらが出兵した頃には両家でドンパチ始まる頃だ。
出発するまで早くて二週間、移動で二週間ほどかけて関所に辿り着く頃には勝敗が決していてもおかしくない。
なら放っておいても問題無いだろう。
「で、今回はトモヤ達は関与しないらしい」
ルーベルトの爺様がそう言うと、他の三人は特に驚いた風でも無かった。
俺がどんな人間か理解してくれていて助かるが、今回は下手に俺達が手を貸して功績を上げられると困るのだ。
何なら最終的にノイベルトを陥れれば俺の直轄地になりかねない。
そうなったら全ての分配やら領地運営やらが乗っかって来る。
元々戦う気も無いのでありえない話だが、もしそうなったらと思うと心労で胃に穴が開きそうだ。
恐らくだが裏では、ノイベルトを排して西の国を併合するつもりなのだろうとある種の確信を抱いていた。
理由としては報酬だ。
ノイベルトが王国からの兵全てにまともに報酬を払えるとは思えない。
そんなの貴族連中ならわかっているはずだ。
とりあえずバウワーを倒し、ついでにノイベルトを倒し、その戦いで得た物の分配や整理をしながら兵を準備してオイレンブルクに向かう。
王国にとっては、バウワーとオイレンブルクが手を組んで戦いになる事が最も嫌なシナリオだ。
ノイベルトの兵力はさほど脅威では無い。
だが、あの二つが合わさると地の利もあって分が悪くなり、ノイベルトが仮に協力してくれたとしても補給がどの程度出来るかの不安もあり、実際の所勝ち目は薄いと判断せざるを得ない。
だがバウワーとオイレンブルク単体なら十分戦える戦力なので、ノイベルトと共謀してバウワーを倒してしまえば、後は焼かれなければ大量の物資があるバウワー領で準備し、王国の兵力だけでオイレンブルクを倒せると思っているのだ。
西の国を併合してしまえば分配もしっかり確保出来るし、何なら戦果を挙げた公爵家の分家に統治を任される可能性も十分ある。
相手は延々王国を恨む西の国だ。
ノイベルトがこちらをいいように使う気である事は承知だろうし、逆にやってしまう事は十分に考えられる。
「ではこんなものだな」
一通り決まった所でルーベルトの爺様が羊皮紙に纏め、各公爵家の印を押した。
この後で既に招集されている議会に持って行き、有識者を交えてもう一回話し合って王の決定で派兵が決まる。
あくまで形式的な物なので、今の会議で決まった通りに進む事だろう。
お義父さんも議会に上がって来た物に関してはまず拒否しない。
普段なら事前に書類が上がって来て目を通すが、今回は取って出しなので目を通すのは議会中だが、お義父さんは恐らく目も通さないだろう。
完全に公爵家やシェリールに任せきりだったし。
俺も議会には出るが、完全に流れに任せて議決させるつもりだ。
議決されたらすぐにでも情報がノイベルトへ行くだろう。
その後で奴らがどう動くかはわからないが、順当に準備をすると思う。
あまり早くに準備して待機させても日常に支障が出るので、こちら側の兵の合流に合わせて動けるようにするはずだ。
となれば、碌に準備が出来てない状態でバウワーと戦う事になる可能性も考えられる。
まぁ戦争目前で、ある程度の準備はしていると思うけど。
今のところ、考えれば考えるだけバウワー有利に事が運んでいると思うのだ。
議会も終わり解散した後は、リビングに行って皆とだらけた。
とりあえずの目途が付いて気が抜けたからだ。
結果が出るのは二週間後くらいだろう。
その頃一回バウワーへ行って様子を聞こうかとも思ったが、向こうで誰かに見られる危険性は冒さない方がいいだろう。
ただ、テオが何をしでかすかわからないので、ある程度調べなければならない。
それが非常に難しいのだ。
ベスターやフローラさんにお願いをするのが一番手っ取り早い。
だが、あの二人も一部では顔が知られてきているので、下手に現れると俺の介入を疑われかねない。
となるとサクラか。
サクラならば転移門の制御さえ出来れば調べられる。
そう、サクラは転移門の魔法の出口設定が甘いせいで、慣れた場所で確実に人や物が無いとわかっていないと飛べない。
シャルに協力してもらって、ノイベルト領とバウワー領の間辺りを覚えて貰おうかとも思ったが、サクラもサクラの生活がある。
これ以上協力してもらったら見返りが恐ろしい。
「なぁ、シャル。こっそり偵察ってして来れないかな」
「ん……」
確実にこの場で一番だらけているのは俺だが、それに迫る勢いで突っ伏して溶けかけているのはシャルだ。
「出来なくはない」
「んじゃあ数日に一回でいい。双方がどの程度準備出来ているかと、開戦した後はどんなかをざっとでいいから調べて欲しいんだ」
「数日に一回?」
「見つかる可能性がゼロじゃないからな」
「ん、なら軽く見る程度にしておく」
サクラ程の隠密性は無いが、シャルも一応の透明化は出来たはずだ。
魔人みたいに魔力を隠すのが苦手だから、魔力探知の得意な人間が居たら恐らく存在に感づかれる。
とは言え人間は目に見えた物を優先しがちなので、意識を切り替えないとハッキリ見えない魔力にはすぐは気付かないだろう。
気付いた所で透明化を暴くには、その身に纏う透明化の魔力を霧散させるだけの魔力をぶつける必要がある。
シャルの魔力量なら早々簡単に破られないだろうし、攻撃されたら即撤退で何とかなるだろう。
「私達はどうするー?」
「シエルは一般兵団の訓練にでも顔出して、実際みんなどう思ってるかとか探ってくれないかな」
「いいよー。訓練は普通にしちゃっていいの?」
「壊さない程度にしろよ……」
となるとだ。
「千絵と楓子は学校で聞いて貰おうかな」
「それなら智也君もいこ? 最近学校行けて無いでしょ?」
行っても友達と呼べる人間が殆どいないからなぁ。
ジャンとアハトくらいだろうか。でもアハトはクラスが違うしなぁ。
まぁ休学してるわけじゃないし、出れるときは出ておくべきなんだよなぁ。
平和な日常を望んでる癖に、最もこの世界で平和な日常だった学校に中々行かなくなったのは何故だったか。
やっぱり友達がいないからだと思う。
それとジャンに質問攻めに遭うのがわかり切ってるのもある。
まぁでも楓子に誘われたら行くっきゃないな。
ついでにリリアナ達も連れて学校案内でもするか。
いや数日後にはアイシア達三人のお披露目と学校編入の発表をする。
その後に纏めてやってしまった方がいいか。
多分リリアナ達はビビるだろうけどな。
「じゃあ明日は学校へ行くか」
シエルはどうするかな、と見ると特に何も言って来ないので一般兵団の訓練に混じって暴れて来る事だろう。
シャルは見た感じ一緒に来る気満々のようだ。
折角の休みが学校と言うのもなんか変な気分だが、まぁいいだろう。
朝から学校に行ったら、視聴率百パーセントだった。
何なら他のクラスからもこっちの教室を覗きに来る位だったが、俺個人は最近そんな目立つ事してないと思う。
となるとあれか、シャルか。
「ん、何?」
視線を独り占めするシャルが何事かと辺りを見回した。
何もなにも、今朝制服を着た時点で気付かなかったのか。
細いから着れてしまうが、セーラー服のお腹はチラッと見える位の丈だしスカートも膝上だ。
あんまりにも自然だったせいで俺達も今になって気付いたが、シャルは成長していたのだ。
「いやほら、シャル成長したから」
「ああ」
ぷにぷにのロリっ子がスマートな少女になって現れたら、そりゃークラスメイトのみならず全校的に噂になっても仕方ない。
「私可愛い」
「自分で言うとイラっとするから」
「むう」
さて、各地の動きを見よう。
まず千絵だ。
つい先日も聖地巡礼の土産配りに来ていたはずだが、自然と女子が集まって和気藹々と何やら話している。
次に楓子だが、特に敬虔な信徒が楓子を慕っているので女子だけではなく男子もチラホラ見える。
どちらとも中心人物になりえるので、光景としては特に何ら不思議もなく通常営業だが、会話の内容を盗み聞くに最近の事ばかり聞かれているようだった。
世界樹への新婚旅行の後はしばらく学校に通えていたので、それ以降に話題になった事がメインとなっている。
マーレンの町の海の魔獣の料理も後から話題になったので、今後どんなメニューが出るのかなんて話をしていたが、料理のしない千絵に聞いても仕方ないと思うんだよなー。
で、千絵もそれに関しては俺とおやっさんの領分だと説明していて、視線が一時こっちに向く。
楓子の方も似たり寄ったりだが、やはりファン層と立場上、聖地巡礼の話がメインのようだった。
それに付随して、聖地の南の森でゴブリン退治があった事も噂になっていたが、それはコボルトが解決した事だ。
オーク出現やサウスルタンの件にも多くの関心が寄せられていたが、主に女性陣メインの会話では血なまぐさい話はあまり出ない。
「でさートモヤよ」
そして俺はジャンに捕まっていた。
「向こうの子どう? やっぱかわいい?」
「美醜の感覚はその人次第だから」
「とか言いながら、トモヤが担ぎ上げたサウスルタンの代表の子達がすげーかわいいって噂になってるからな」
「外野からすると気楽なもんだよなぁ……」
「外野だしな。実際何が大変だったんだ? 俺達はあっちの状況をそんなに知らないからさ」
「男連中は軒並み食われるか渓谷から捨てられ、担ぎ上げた子達も一歩間違えれば胃の中だった」
「……それは大変だな」
そう答えるしかないだろうさ。
「渓谷から捨てられた人達の一部が遠くの浜に打ち上げられているらしい。回収して身元を確認しないとなぁ」
「ああやめろやめろ学校でそんな話するな」
「知りたいんだろ?」
「情報は大事だ。金になるし人の繋がりが作れる。でも聞きたくない話もある」
「最近はそんなのばっかりだぞ?」
「あれか、西の国がどうたらって噂もか」
「俺達王家側の人間は関わらない事にした。殺させたく無いし、参加したら最悪領地を得る事になるし管理が面倒だ」
「トモヤにしては弱気、と言うか後ろ向き、と言うか。戦う以上王国の人間に被害が出るから、意地でも止めると思ったのに」
本来は予定に無いはずの領地を得る云々の話をしたのに、ジャンからは何の疑問も出ない。
やはりそう言った考えは普通に持っているのかもしれない。
「言って止まるなら」
「止まらないか」
「動いている貴族の数が異常だ。頭を抑えつけて無理やり止めた所で、『あの時やっておけば』って後から言われるのは目に見えている。こうなると仕方ない事だし、責任は公爵家や扇動した一部の家が取る事になるからな」
「でも双方死傷者無く収めようと思えば出来るだろ?」
「やって納得させられるかな。元々西の国の中の問題なのに」
「無理だろうな。まぁ一生投獄とかで手を打つ事はあるかもしれないけど、基本的に血を絶やさないと負の連鎖は止まらない。って言うかどうせならトモヤが支配してしまえばいい」
俺達が介入したとして、まず第一に俺が全てを得てしまうから色々面倒。やっかみもあるだろうし。
第二に領地運営をしたくない。いやノイベルトとの約束を守って支援だけにしてもいいけど、ノイベルトからの報酬である分配金が少なすぎて、出た不満を一身に受けるハメになりそうだ。
第三に双方被害無しだと併合してすぐ反乱が起こる可能性がある。それだけ兵力があるわけだし、武装解除して置いておくよりも領地の警備に回さないとオイレンブルクに付け込まれる。
「今回色々あって、考えれば考えるだけ道筋が見えて来るからキリが無いんだ。だから放り投げて責任を負わない事にした」
「まぁ妥当かもな。トモヤは気が付けば国王代理みたいな状態らしいし、適当に力を抜かないといつか潰れそうだ」
「そうならないように休暇を無理やり取ったんだけどなぁ……」
中々思うようにいかない物である。
「で、何でシャルロット嬢は成長してるんだ?」
「オークの国内排除の時に、魔力回復の為に世界樹の樹液ゼリーってのを大量に食べて貰ったんだよ。結果的に避難民を宿に送り届ける事にしか魔力を使わなかったんだけど。そう言えば避難民から苦情来てたなぁ」
休暇前にベスターに頼んで全員帰ってもらったが、一部で火事場泥棒めいたのが出たらしく、家財道具の弁償がどうたらと来ていた。
だがおかしな話なのだ。
元々盗賊団みたいのが山中を根城にしているとかならわかるが、各町の距離はかなりあるし、近隣の町村はまとめて避難なので誰も残っていないはずなのだ。
仮に残っていたら、そいつが犯人だし。
そういった話を聞かないので、恐らく嘘を吐かれてるなと思いはしたが、面倒なので無くなったものを聞いて現物補填した。
金で渡したら絶対隠してあった家財道具を引っ張り出して、別の事に使う。
案の定面白くなさそうな顔をしていたが、すぐ現金化したら足がつくし、しばらく荷物が多くなって苦労するだろう。
「樹液ゼリーとか高く売れそう」
「世界樹の魔力の塊らしくて、成長を促すんだと」
「それでえーっと、五歳くらい? 成長したのか」
「そう。あのぷにぷにのシャルが懐かしい」
「呼んだ?」
声をする方を見たらぷにぷにのシャルがいた。
「こんなとこで無駄に魔力を使わない」
「むう」
戻った。
「元々エルフで人気はあったけど、これは女神フーコを崇める『フーコ教』の連中を超える派閥になりそうだな……」
「崇めてるのがいるのは知ってたけど宗教化してるのか……」
「ジャポニー教の派生宗教と銘打って崇めてるらしい」
それっぽい話は前に聞いた気もするが、信心深いのも少々問題あると思う。
「……本人知ってるのか?」
「知られたら潰されるから内緒らしいぞ」
「はー……」
女神様も大変だ。
「ちなみにそうなると教祖がいるわけだけど」
「噂によると神聖術学科の生徒らしい」
「うわーガチか」
大体が敬虔な信徒なので、拗らせたのがいたのだろう。
最近では楓子も学校で神聖術を習わず教会で習っているので、会う機会も減って更に神格化が進んだのではないだろうか。
「そう言えば猫は?」
「リリアナ――サウスルタンの子達の護衛に付けてる。アレでオークの魔王相手にシャルを乗っけて逃げ切ったし、普通のオークくらいなら瞬殺だから、実力的には問題無い」
「……いやほんとトモヤの周囲だけ強すぎだからな……」
「そうかな。そうだな」
考えるまでもなかった。
ペット感覚だから忘れがちだけど魔獣化した上に魔王化してるっぽいトラ子さんだ。
「で、ジャンとしては稼げそうな話が聞きたいわけだろ?」
「勿論」
「スズウキに連なる人間ならマーレンの町の話を聞いたろ。ここ最近ではあれが一番金になりそうだ」
「流通出来ないからなぁ」
「それよりも資金投入して町の拡張じゃないかな」
「そうだなぁ。サウスルタンは何か無いのか」
「婿なら大募集してる」
「それに関しては噂になってて、既に婿入り先の獲得に動いているのが多いって聞いた」
「獲得って」
「たださ、それもこれもサウスルタンを返還するかどうかにかかってるからな。返還されないなら地方貴族に落ちぶれ、返還されるなら最高で王になれるわけだ」
これは元々返す気だと言わない方が無難だろうな。
だが、むしろ返還するのを期待して婿入りを目指すのもいるのか。
「さぁ、それは復興と人員の育成状況にもよるからな」
「何だよー、教えてくれないのかよー」
「未来までは見えないしな」
そもそも復興とは、婿を取って数を増やす事だけと言っても過言では無い。
人を育てる過程で政治経済を熟知するように教育する必要があるが、本当にそれだけなのだ。
観光資源は土地柄渓谷くらいで、今渓谷ツアーなんてやったら被害者を多く出した場所だから大顰蹙だ。
普通に授業を終えて帰って来ると、千絵と楓子とシエルにどんなものだったか聞いてみた。
「戦争になりそうな噂は殆ど無かったわよ」
「こっちも特に無かったよ」
「すっごいやる気だったよー」
貴族の子と言えど、特に女子にはその手の話をしないのもあると思う。
昨日正式決定したばかりで、まだ準備も済んでいないから発表もされていないのもあると思う。
それでも一般兵団に噂程度には伝わってるようだが。
兵を出す事に関しては、出立する一週間前に告示する事になるだろう。
そうじゃないと情報が洩れてしまう。
逆に告示しないと一般人の志願兵の支度が整わない。
その前に一般兵団みたいに何となく噂になるだろうけど、通常はバウワー領にその話が届くまで最短でも二週間はかかる。
行商人かその仲間に転移門を使えるウィザードが居たら話は別だけど。
まぁそもそもリークしちゃってるわけだし、形式上そうしてるだけで何も気にしていないのだけど。
「戦争になったら男子は殆ど行くんだろうな」
「多いに越したことは無い」
久々に登校したせいか、昨日よりだらけてシャルが突っ伏しながら言った。
「特に貴族の男子は能力が高い」
「みんな殺す覚悟って出来てるのかな」
「元々敵国。いずれそうなる可能性は頭にあったはず」
そうだった。
俺が平和ボケしてると言うか、西の国との確執が何もないから頭に無いだけで、みんな多かれ少なかれ何かしらの感情を抱いている相手なのだ。
「なんかやだなぁ、知ってる人達が人を殺すって」
「そうならないように動いてたはず」
「理想はね。テオが何してくるかわからないから、まだ確定じゃない」
「アレが情報をリークした事に気づくのはバウワーが兵を纏めて国境を超える頃。何か手を打つには遅い」
「だといいんだけど」
転生者だと言う事を暴露してやった事自体を意趣返しと思ってくれていればいいが、実際俺が何かやるつもりで対応策を考えている可能性は十分にある。
俺だったらどうする。
まずは派兵させないように圧を掛けたかもしれないが、既に大勢が内紛に加担する気でいるから流れは変えられない。
物資や装備の供給を止めて妨害する事も少し考えたけど、対人戦に於いては高価な武具はさほど意味を為さない。
軽くてどんな剣でも弾き返す鎧があれば意味もあるだろうが、一般的には軽い剣戟を守る役割くらいしか無く、ユニークスキルによって強化されている兵は多少の防具を物ともせず切り伏せるだけの力を持っている。
なので主に防具は見栄えとどこの陣営に属しているかの識別がメインだ。
よってそっちで妨害を企てたとしても、さほど大きな効果は期待できない。
勿論剣だけは質のいい物を使わないと切れなくなってしまうが、ある程度の貴族や私兵なら、そもそも一通りの装備を持っているから問題無い。
そして一般人の志願兵に渡す装備なんて最低限で十分だ。
俺が何か妨害した所で、話しを聞きつけたノイベルトが用意する事だろう。で、その分の料金は天引きで俺に不満が集まると。
後は行軍の妨害だが、これは身内に喧嘩を売る事になるからやらない。
先回りしてノイベルトを潰す事も考えられたが、これもこれで、王国として議会を通して決まった事に対する妨害なので表立っては出来ないし、裏で隠れてやるにしてもテオが警戒してスムーズには行かないだろう。
スムーズに行かなければ証拠を握られやすく、後で妨害したと叩かれてしまう。
ざっと考えてこの程度は頭に浮かんだが、どれも決定打には成りえず、むしろこっちの立場を悪くしてしまう。
テオもそれがわかっていて早々に勝利宣言なんてしに来たのだろう。
もう無駄な抵抗は無意味だと。
と同時に、こっちが変な事をしないように牽制の意味もあったと思う。
早々に諦めさせて、大人しく協力しろと。
なので転生者だと暴露した事は最後の悪あがきだと思われていて欲しい。
そうすれば余計な妨害も無く、順当にバウワーとノイベルト単体での戦闘が始まって終わるはずだ。
何にしてもシャルが偵察に行かないと何もわからないし、ノイベルトの件を置いといてアイシア達魔人三人のお披露目等をしなければならない。
こっちにはやる事が山ほどあるのだ。




