報復の為の会談
翌日、サクラからの報告を待ちながら今後の対応をずっと考えていた。
ずっとだ。
夕方になるまで。
来ねえよ。
とりあえずの所、緊急会議の招集が掛かった。
これは明日行われる。
今回の招集はピレネーからで、本家の方も結果を見て動かざるを得なかったらしい。
結局の所、西の国を何とかしたいと言うか奪えるなら奪ってしまいたいのだ。
これまでの不満も何もかもをバウワーにぶつけて、奪えるものは奪う。
戦争であれば普通だ。
ただし領地はノイベルトが得るけど。
場合によってはその辺りを反故にして、議会を通さず勝手に西の国を乗っ取りに動く事も考えられるが、もしそうなったとしたら議会は通ってなくても予定調和だろう。
大義名分は勝ってしまえば後で何とでもなるから、とりあえずはピレネー領にノイベルトからの避難民が雪崩れ込んできて人道支援とか、そこで手を組んでバウワーと戦う事になったとか、そんな所だろう。
勝ったら後付けで色々いちゃもん付ければいい。
「お茶をー」
喉が渇いたからリビングに行ったら、みんな暇してたのかリビングに集まってダラダラしているようだった。
例外はリリアナ達サウスルタン三人娘で、今日も何処かの貴族と会っているようだ。
ようだ、と言うのは既に利権確保に動いている家が多く、面会の依頼が殺到しているのだ。
誰と面会するかは当人達に選ばせている。
選ばせているが、相手の言葉は話半分に聞いておけとか、付け込む気しかないから気を付けろとか、敵と会うつもりで行けと言ってあった。
当人たちはそこまで警戒する物なのかと懐疑的だったけど、一日を終えると理解したようで、二日目からは相手に顔を売る事だけを目的として笑顔を張り付かせて人数をこなしているようだ。
流石に相手方もそこら辺は感じ取ったようで、昨日あたりから面会希望がその家の女子に切り替わってきているらしい。
それはそれでラッキーだ。
と言うのも、結局リリアナ達にも学校に通って貰う事になるからだ。
冒険者育成学校となってはいるが、貴族の学校となってしまっている為に政治経済関係の授業は充実している。
貴族の若者との繋がりも出来るし、今後サウスルタンへ婿を送り込む必要もあるので丁度いいだろう。
その前段階で顔見知りが出来るのは、今後の学校生活を円滑に運ぶために大変助かる。
「ねぇねぇトモヤ、結局どうするのー?」
「現時点じゃどうしようもない。マリーネ、お茶頂戴」
「はい」
今日はコレットが雑用を片付けているようで、マリーネが控えていた。
ちょっとしたキッチンが隣室にあるので言うとすぐ淹れて来てくれるが、これで俺がやってしまうと文句を言われるのだ。
自分の仕事だからと。
何なら趣味でおやっさんと新メニュー開発なんてやってると、調理室一同とマリーネが来て滅茶苦茶不満を言われたりもする。
そこで何でマリーネがと思ったら、一応正式には俺専属の侍女と言う扱いらしく、馬鹿な事をしてたら止めるのも仕事だと言われてしまった。
はい、立場も考えずに料理なんてしてる馬鹿ですごめんなさい。
「マリーネはさ、戦争になるのどう思う?」
「答えが必要ですか?」
「あ、いえ……」
言うまでも無いだろうと軽く睨まれてしまった。
そう言う塩対応はコレットの専売特許だと思っていたのだけど、戦争ともなればマリーネの兄弟も出る事になるだろう。
既に俺達が対応しない事は知っているので、その場合確実に戦闘で死傷者が出る事もわかっているだろう。
多分マリーネも、俺達が動けば何とかなるのにと思っているだろう。
「どうしようもないとは言うけど、一応考えはあるんでしょー?」
シエルさん割と戦い好きな所があるけど、今回は対モンスターじゃ無いんです。
「まぁ何パターンか想定はしてる。でもテオが何をやらかすかわからない以上、こっちが強引に引っ掻き回すかテオの策略に乗ってやるかの二択になる。後者は俺としては頑として拒否だから、実質引っ掻き回すしかない」
「どうするの?」
「いっその事バウワーに付いてやろうかな」
でもその場合、王国貴族と敵対する事になる。
「まず前提として、西の国をどうするかなんだよな」
王国の人間としては、向こうの連中を淘汰して西の国を併合したいのだろう。
俺としてもそれには賛成だ。
賛成だが、それはあくまで敵として向かって来るならだ。
その点は人だろうが魔物だろうが変わらない。
――逆に暗躍してやろうか。
そう思ったら廊下にサクラの気配が。
お茶を一気飲みして廊下に出ると、透明化したサクラが目の前にいた。
「トモヤ、来て」
はいはい。
自分の部屋へ行くとサクラも付いて来て、扉を閉めると姿を現した。
時間的にも、休憩時間なのだろう。
「悪いなサクラ。頼んじゃって」
「全くよね」
「で? あの後どうだった?」
「質問攻めにあってゲロってたわ。で、謹慎だって」
「謹慎?」
「考えてみれば当然よね。実は自分の息子が自分より年上だったんだから」
「……え、あの当主ってそんな若いの?」
見た目三十過ぎ位に見えたのに。
「若いから老けて見えるようにしてたみたいね。今回の件も数年前に父親を亡くして当主を継いで、ここで大成しようと一念発起して計画を練ってたみたい。そこに実は自分より年上の息子がいて、独自の計画を練って動いていたんだもの。殺さないだけマシじゃないかしら」
「でもテオが大人しくしてるとは思えない」
「ええ。別室に押し込まれた後も、トモヤにしてやられたーって愚痴りながら親への弁解と和解案を考えていたわ。あれはしぶといわ」
「じゃあ近い内に結託するな」
「さぁ、そこまで知らないわ」
「まぁとにかく助かった」
「見返りは何かないわけ?」
「えーっと」
参ったな。
「そうだ、夜ならトラ子も帰ってる」
「わかったわ」
そう言うと転移門の魔法で帰ってしまった。
どうやらアレで良かったらしい。
んーむ。
しかしアレだな、テオがいずれ親と結託するって事は、こっちも好き放題しちゃっていいって事だな。
よし。
リビングに戻って、だらけてるエルフ少女の肩に手を置く。
「シャル、西の国でノイベルトを早急に倒せるのってやっぱりバウワーか?」
「ん……。戦力的にはバウワーとオイレンブルク。即座に動けるのはバウワー」
「じゃあバウワーに行こう。今すぐ」
「は?」
「西の国の出来事は西の国で片付けて貰わないと困るからな」
ポカンとしてるシャルを置いて、俺は他の三人にも声を掛けた。
「もしもの為に楓子のシールドが欲しい。千絵とシエルも相手が武力行使してきた時の為に来て欲しいんだ」
「構わないけど、どうする気?」
「どうするって、ノイベルトは王国に情報をリークしてきたんだ。弱体化してるって。逆にこっちがリークしてやってもいいだろ? ノイベルトが画策してるから早急に派兵した方がいいって。何なら送り届けてやればいい」
「うっわ……。流石に私もそこまでは予想してなかったわ……」
「俺もこの手は正直どうかと思ってた。場合によってはうちの貴族連中を敵に回すし」
だからスピード勝負なのだ。
うちの連中が派兵されてしまえば戦闘は避けられない。
が、派兵される前に向こうで戦闘が始まって、しかもバウワーが攻勢だとなれば甘言に惑わされていた連中にもブレーキがかかるだろう。
シャルを除いて俺と三人は外行きの服に着替え、リビングに再集合する。
そしてシャルの周りに集まった。
「じゃあ行こうか」
「ん、わかった。――じゃあ行きましょう」
さっとシェイプチェンジしてシェリールになったシャルが転移門を開いた。
俺達は手を繋いでそれに入る。
出た先は、王都のハイリッヒ別邸よりも大きな建物の真ん前だった。
入り口に守衛が立っていて、いきなり現れた俺達に対して持っていた槍を向けて来る。
「王国王女のシェリール・ユグドラシルです。アルフレート・フォン・バウワー様に折り入ってご相談がありまして参りました。お取次ぎお願いします」
「はっ、はい! 少々お待ちください!」
シャルがシェリールを演じてる時ってやっぱり詐欺だと思うんだ。
誰がどう見ても一国の王女のオーラを発しているし。
あの守衛もシャルだとわかった時には顔も体も硬直させていたし、声を掛けた瞬間背筋が伸びていた。
「ちなみにアポ無しで来たことは?」
「いつも直よ。面倒だし」
まぁ家柄的にも王家と貴族家の差はあるし、敵国とは言え王女自ら使者として来てるからデカい顔をしても問題は無いと思う。
思うがアポくらい取ってやってくれ。向こうにも支度あるし。
今の俺に言えた事じゃないけどな。
「これはシェリール王女殿下、ディナーに招待した覚えはありませんが」
四十くらいの、やたらと着飾った腹の出たオッサンが出て来た。
どうやらこれがドラ息子らしい。
「あら、それは残念ですわ。こちらはディナーに丁度いいお話をお持ちしたのですけど」
「ほー……。そちらの方々は?」
品定めするような目だった。
それも俺に対してじゃなくて他の三人に対して。
「全員私の夫の嫁です」
「始めましてバウワー卿。トモヤと申します」
「ふん」
鼻で笑われた。
おい、笑われたぞ堂々と。
「あまり私の夫を侮辱すると、後ろの三人が黙っていませんわよ? 特にこのチエはあの極大サンバーストを個人で作り出せる勇者ですから」
「む……、失礼したトモヤ殿。まぁ中へ」
一応迎え入れてくれるらしい。
まぁほら、突然来たわけだし? 歓迎されない間柄だろうし? 多少の失礼には目を瞑ろうではないか。
こっちもバウワーをノイベルトにけしかけようとしてるんだから。
屋敷の中に入った俺達は、そのまま応接室に通された。
ディナー云々と言ってはいたが時間はまだ早く、アルフレートの狸親父はソファーにふんぞり返ってワインだかブランデーだかわからないが自分で注いで口を付ける。
「それで、一体何の用ですかな」
「実はですね、最近のノイベルトの動きはご存知ですか?」
「さぁ、あの山猿どもが何をしようと、こちらには大した事ありませんからな」
山猿と言うのは領地の半分以上が山だからだろう。
「そうですか。その程度にしか見ていないようでしたら、我々はこの話をオイレンブルクに持って行くだけですので。では失礼を」
「まぁ待て、若いのはせっかちでいかん」
オイレンブルクの名前を出したら食いついてきた。
ノイベルトは馬鹿にしてるけど、オイレンブルクはそうでも無いらしい。
「実はノイベルトがうちの若いのや血気盛んな貴族に声を掛けているようなのです」
「何故王国へ?」
「馬鹿な甘言なのですが、状勢の悪化でバウワーが簡単に落ちるからと手助けを求めてきているようなのです。実際の流れとしては、周囲の小領地を吸収する話が付いているようで、領地の規模が一位に躍り出る事が内定されていて、それが実現するとバウワー侯爵家が黙っていないので戦闘になる。しかし戦力的に勝ち目がないから王国に助力を願った、と言う事のようです。」
「――ほう?」
「ですが、その実情は王国の人間を惑わしバウワー領に攻め込ませ、自分は漁夫の利を狙っているだけ。問題はこの話に踊らされているのが多く、今のままでは明日の昼過ぎにでも派兵が決まる事です」
「王国がここに攻めて来ると?」
「そう言う事です。そうですね、準備を含め一か月後には戦いになる事でしょう」
「数は?」
「公爵家や伯爵家の人間や私兵で全部で五千と言った所では無いでしょうか」
「なっ……」
通常はそんな集まらない。
コボルトの時だってギリギリ千人集まらない程度だった。
だが、今回はノイベルトとの約束を反故にして領地を奪えば、戦果によっては多くの褒美も得られる。
その褒美の分配が少々普通と違って、王国と言う形ではあるが公爵家の方が力を持っているうちの場合、どこの公爵家が一番武勲を上げたかでまず決まる。
この狸親父を打ち取った家がバウワー領を丸ごと貰えると考えればほぼ間違いない。
そこから各所へ分配されるのだが、公爵家の人間やそこの私兵のみならず、例えばピレネー領の街に住んでる貴族が打ち倒したのであればピレネー公爵家の功績として領地を得、武勲を上げた者に多くの分配をする事だろう。
それが私兵なら金銭と待遇を。貴族なら婚姻による公爵家の威光を。
私兵には一般市民からなる一般兵団も含まれるので、功績目当てにかなりの参加が見込まれる。
正直五千と言うのも雑な計算で、実際はもうちょっと多くてもいいと思っている。
「そちらはどうですか? 今から最低でも同数集められますか?」
「馬鹿を言うな! そのような兵力が簡単に集まるなら西を併合しておるわ!」
王国だって甘言に惑わされなければ三千がいい所だと思う。
「こちらとしても、ノイベルトにいいように使われる結果となって頭に来ています。なので今回、こうして情報をリークして後手に回らないようにと」
「……見返りは何だ」
「いりません、と言えたらいいのですが一つだけ」
狸親父は頭を抱えながらもこっちを睨みつける。
「今後永遠に王国へのちょっかいと賠償だ謝罪だと言って来るのを止めていただきたい。そもそも昔の戦争の原因となった王家は、ノイベルトの親戚らしいと言う噂もあります。どうせならノイベルトを潰してそっちに請求して頂きたい」
「……ノイベルト領を手中に入れられるのならば、それも良かろう」
「ちなみに我々王家側は今回の件には一切手出ししない事になっています。ですので今日の話はご内密にお願いします」
「ああ、わかった」
わかってない目をしている。
「もしこれを強請りのネタに使った場合、この街くらい一瞬で吹き飛びますので」
「……約束しよう」
「以上です。何か質問等がありましたら今の内ですよ?」
「やりようによっては、この情報のリークで大きな利益が得られたはずだ。何故見返りがあの程度なのだ」
「ノイベルトにしてやられた恨みや怒りもありますが、同じように騙して戦わせるのではノイベルトと同じになってしまいます。そして本来なら西の国の内部だけで済む問題ですし、それを内部で処理してもらえるのなら王国には何の実害も発生しません。むしろ人的被害が発生しなくてよかったと言えます。ですから、この情報のリークだけで王国側には利が生まれるのです」
「欲が足らないな」
「欲張っていては出る杭となって叩かれてしまいますから。自分は日々平穏無事な生活を望んでいます」
「なるほど、わかった。では今回はありがたく情報を頂こう」
それではと席を立って、その場で転移門を開いて貰って帰った。
時間にして三十分も滞在していなかっただろう。
「これで終わり?」
さっさと本来のシャルに戻り、椅子に座ってぐでーとしながらシャルは言う。
「もう一つ追加で考えはしたけど、流石に悪どいから止めた」
「何?」
「オイレンブルクにも行って、こういうことがあって近々ノイベルトとバウワーが恐らくノイベルトの領内で戦いになるから、バウワーを落とすなら今の内だって言おうかと」
「極悪」
「これだと順当に行けばオイレンブルクが西を制する。が、バウワーもオイレンブルクも反王国だ。結果的に面倒な事になる事も考えられるから、バウワーにだけ恩を売っておく事で友好関係を築ける可能性を残したんだ」
「オイレンブルクにも恩を売れる」
「棚ぼたで得た物にそこまで感謝はされない。バウワーは今後領地を倍にし、いずれオイレンブルクを飲み込んで西を併合する。そのきっかけを作ったのは誰か、恩人は誰かとなったら俺達だ。貴族に於いて、最も重要な人と人の繋がりを完全に無視できる程に馬鹿な狸親父だったらわからないけど、これをきっかけに表立っては無理かもしれないけど水面下では交友を持てる」
「でもあいつ馬鹿だからオイレンブルクに落とされる可能性もある」
「そうなったらなったで今まで通りだな。西の国は西の国、王国は王国。
「むぅ、どうせなら西の国を制圧してしまえばよかった」
「制圧して誰に統治を任せるのさ。元敵国を迫害も無く良識を持って統治できそうな人材なんて、現公爵家の当主くらいしか思い浮かばないぞ。でもそっちの統治に向かわれたらこっちが滞るからやめて欲しい」
代わりにこっちで政治を出来る人材を育てなければならないが、あの爺様方はまだまだ元気なのでしばらく後進の育成なんて考えもしないだろう。
ルーベルトの爺様は気にしていたようだが、他の三人がまだまだルーベルトの爺様より十以上若いのだ。
復興担当の方で勉強させてはいるが、果たしてどうなる事やら。




