エルフの王女様はとてもフランクでした
馬車はのんびり漕ぐ自転車くらいのスピードで街道を行く。
特に舗装はされていないが、結構往来があるのか、それとも長年街道として使われているからか、舗装道路程良くないが地面が綺麗に踏み固められている為に悲鳴を上げるほどガタガタとしない。勿論尻は痛くなるけど。
どうやらおじさんはクッションとしてボロ着を重ねて縫った物を敷いているようだが、こっちにはそんなもの無い。
おじさんとはこっちの世界の事、異世界での事を軽く話して時間を潰したが、行商人と言う職業柄色々な所へ行くし、それこそ異世界人と会う機会も割と多いらしく、行商人と言うのは多くの情報を持つらしい。
事実、魔物では無く国家間の戦争があると行商人が一番スパイとして疑われると言うし、実際に行商人をスパイとして雇う事もあれば副業がスパイですみたいな事もあったらしい。
もう長い事王国では戦争が起きていないが、隣国では十数年前にも戦争があったとかで、対岸の火事ではあれど対岸程度には見えてしまう割と身近な問題なんだ、とテリーは言う。
「王国だって王様が穏健派で、喧嘩売られても上手い事回避してるだけで実際危険性はあるらしいぞ?」
なんて言うが、まだ異世界生活一週間過ぎた所の平和な現代日本人には今一危機感がわからない。
勿論日本だって緊張感が無い事も無かったけど。
馬車に揺られ四時間ちょっとくらいだろうか、『この辺りでいいだろ』と言っておじさんは馬車を止めた。
この辺りは道に起伏があり、丁度落ちたあたりのこの場所からは王城の上の方だけ見えた。
「ありがとうございます」
「おう、今度会う事があって何か面白い話でもあったら聞かせてくれよ。行商人なんて寝る前に飲む酒と、金が入った時に買う女以外には面白い話を聞く位しか楽しみなんて無いからな」
「真ん中のは余計だと思います」
「何だお前、まだ未経験か」
「ええまあ、異世界人の俺くらいの年齢なら割と普通かと」
「それで貴族に買われるとは可哀想に」
「いや買われないっす。意地でも逃げるっす」
冗談だ、なんて言っておじさんは馬車を走らせた。
うーん、遊び人の俺にも良くしてくれるなんて、辺境の村が遊び人にキツ過ぎたんじゃないかと思うくらいベスターといいテリーといい、遊び人に寛容だ。
さぁ、俺も行こう。
起伏である丘を登ると王都が一望出来た。
周りを壁で囲まれてはいるが、何か妙に高い建物がチラホラ見えるし、王城もどこぞの夢の国にある城みたいなのではなく、ヨーロッパあたりで文化財として残してあるような古城みたいだ。
小高い丘ではあるが、王都の奥までは霞んで見えないので、どうやらかなり広いようだ。
目算で何キロくらいあるかなと考えてみたが、だだっ広い平野で距離感がつかめないのでどの程度かはわからない。
とりあえず行けば着くんだ。
なんか怪訝な顔で荷馬車が二台俺の横を通り過ぎていくし、こんなところでぼやぼやもしていられない。
結局一時間くらい歩いてようやく門まで辿り着いたが、検問なのかフルプレートの鎧を着てヘルメット無し姿の兵士が荷馬車のチェックや通行手形の確認をしているようだった。
テリーがつい今しがた通過した所で、チラッとこっちを見て親指を立てていた。こっちにもあるんだそう言うの。
他の荷馬車は俺を追い抜いてった二台で、一台ずつ臨検している。
俺を一番後ろの一台の従者だと勘違いしたらしく、行商人に『アレは?』と聞いていたが、勿論知る由も無いので訝しがった兵士がこっちへ来た。
「お前はまさか徒歩で来たのか。街道とは言え魔物が出ないとも限らないのに」
「実は王国のアークウィザードの方の転移門の魔法からはぐれてしまい、街道に落ちてしまったんです。昨日来た異世界人二人と一緒に来た者なんですが」
「異世界人なのか。確かに遠い国の人種と似ていて、しかも黒髪は異世界人に多いから否定は出来んが、中央に問い合わせをさせてもらう」
「はい」
「長い事歩いて疲れたろう、詰所でお茶でも飲んでいけ」
「マジっすかありがとうございます」
やっぱりここの所いい人と会う機会が多い気がする。
兵士に案内された詰所で、どちらかと言えば色の付いたお湯のような不思議なお茶を頂き、暇つぶしに検閲する兵士を眺める。
荷馬車は十分から十五分くらいのペースで来て、テリーの使っていた小型の物から馬六頭頭引きの大型トラックみたいなサイズの荷馬車もあった。
荷物は基本的には各町の特産品で、大型トラックサイズには家畜が生きたまま積まれていた。
「お前の名前を聞いていなかった」
確認を取ると言っていた兵士が戻って来た。
「トモヤです。斎藤智也」
「ふん、確かに特徴は一致するな。お前、適正は?」
「……遊び人ですが」
「立て。すぐに連れてくるようにとの事だ」
遊び人と知れた瞬間雑になりました。
やっぱ遊び人のせいですかそうですか。
詰所から出ると、やたらと大きい門をくぐってようやく王都内へ入る事が出来た。
中は街道から続く大通りらしく、門前宿や商店が続く。
「やっぱり遊び人ってどこ行ってもダメなんですね」
「当たり前だろう。あいや、すまん、あくまでこの世界で一般的に遊び人とされる者が酷かっただけで、異世界人のお前に辛く当たる必要は無いんだが、何か問題を起こすとなれば大体遊び人関係なんだ。人の嫁を寝取っただのヒモ男が他所で女作ってて刃傷沙汰に発展だの」
俺をそんなのと一緒にされても本当に困るんだが。
って言うか、アヤメさんのいた村に昔いたと言う遊び人みたいなのは、他の場所にもいたようだ。
大通り自体は日本で言う四車線の道路くらいの広さがあり、色々な人や荷馬車が行き来しているのだが、観察していると荷馬車は左側通行だった。
異世界なのにすげーなーと思った時に違和感に気付き、何でかとしばらく考えてみたら、地球において左側通行を採用してるのって日本とイギリスで、イギリスを真似て日本がそうしたような事を勉強した記憶がある。このイギリス方式を採用している事や、テリーの話では色々細かな政策を施行してる事を考えると、王様だか王女様は異世界人――と言うか日本人――の意見を多く取り入れているようだった。
しばらく歩くと大通りが広場にぶつかった。
広場は郊外の大型スーパーにありがちなだだっ広い駐車場くらい広い。
中心には辺境の村と同じく噴水があり、今来た道と交わるように横にも大通りがある事から、どうやらこの噴水広場を中心に十字に大通りがあるようだ。
広場の隅っこでは様々な屋台が立ち並び、大道芸人が何組かいて火を噴いていたり馬の上で逆立ちしてたりしてた。
人種も様々で、基本的にはヨーロッパ系の人が多いように思えるが、髪の色だけは非常にカラフルで、ブラウン系が一番多いようだが緑や青や黄色や赤等々、この星の全人類を集めれば細かく分類された色でも大半揃ってしまうんじゃなかろうかと思う程だ。
そう言えばアニメの登場キャラってこんなんだったなぁ。
「それにしても、すぐ移動になったって事は自分の事で何か通達でもあったんですか?」
「ああ、もしかしたら来るかもしれないから、来たら最優先で案内するようにとな」
詰所では多分三十分ちょっと待っていて、今現在同じ時間くらい歩いていたので、恐らく現場の上司への報告等々やっている時に通達の事を知ったか思い出したかしたのだろう。
もしそう言った通達が来てなかったら、ベスターの予想通り結構な時間待たされてから案内になっていたと思う。
で、恐らく俺が転移門の魔法から放り出された時点で、千絵と楓子はかなり大騒ぎしていると思う。
何なら本気で暴れた可能性すらある。
それによって駄目元で手配されたとかだろうか。
やっとの事で王城の手前までたどり着くと、王城の兵士に俺を取りついでさっきの兵士は引き返して行った。
一時間くらい歩いてたと思うんだけど、なんか手間をかけさせて申し訳ない。
って言うか広すぎ。
今度は王城の兵士に連れられて城門をくぐり、前庭のような場所を通り過ぎ城内に入ると、真正面にはビル三階分くらいありそうな階段が。
それを上がって更に直進し、何度か曲がったり上がったりしながら歩く。
方向感覚が正しければ、結果的には城門から直進方向に進んでると思う。
しばらくして、多分何だかんだ十階分くらい上った気がするが、着いたのか兵士がいる大きめの二枚扉の前で立ち止まる。
どうやら兵士の会話から、王城の兵士は近衛兵らしい事がわかったが、今度はその扉の横にいる近衛兵に俺を引き継いで王城の兵士は戻って行った。
あの道のりを戻るのかと考えると面倒じゃないかと思うが、本来城内と言うのは戦争の事を考えて単純な作りをしていないとか言うし、これも仕方ないだろうか。
もしくはわざと難しい道を歩かされただけで、最短ルートがあるのかもしれないけど。
「これより王に謁見する。異世界人とは言え度の過ぎる言動や不敬を働いたら容赦なくたたっ切るからな」
俺の命ピンチらしいです。
マジかよと思ってる間に扉が開く。
中は体育館くらいの広さがあるが、あるのは五段程上がった所にある王座とちょっとした調度品くらいな物だ。
王座には五十代くらいの王冠を被ったいかにも王様って感じの格好をした人が座っていたが、隣には俺と同い年くらいの女性が立っている。
そう言えばエルフだとか言う話だが、エルフと言えば耳が長いとか尖ってるってイメージなのに、王様は天パなのか髪のせいで見えないし、女性も長いプラチナブロンドで耳が隠れてしまっているので見えない。
うーん、残念。――とか言ったら前を行く兵士に切られるんだろうなぁ。
「お連れしました」
兵士が傅いてそう言うので、俺も倣って片膝立てて傅こうと思ったのだが王様が前に手を突き出して止めて来た。
「よく来た」
見た目の割に声が年老いてる。
しゃがれた声と言えばいいのだろう、声量はあるが聞き心地のいい物では無い。
「まずは我が国のアークウィザードの不手際を謝ろう。一歩間違えれば命に係わる事、よくぞ自力で辿り着いた」
喋っていいのかわからないので、取り合ず黙って頷いた。
「でだ、昨日招いた異世界の勇者二名だが、お主がどうやら転移門の魔法から振り落とされたと知って取り乱してな。今は部屋で休んでいるのだが、早い内に会ってもらった方がいいだろう」
再び頷く。
「連絡があって先に伝えて置こうとも思ったのだが、また取り乱されても大変なのでな。では案内を」
隣の女性に言うと、頷いてこちらに降りて来た。
うーん、すんごい綺麗な子なんだけど、その前に王様がこの程度の話の為にわざわざ遊び人の俺と会うか?
ぶっちゃけ大した用でも無かったわけだし、そもそも勝手について行こうとしたのは俺だし。
建前上はそう言う事にしておいて、遊び人なんていらないよと置き去りにした事を王との謁見で有耶無耶にしようとしている気がしないでもない。
まぁ二人が取り乱したって言うのは、二人にもこっち側の人にも申し訳ないと思うけど。
「ではついてきて」
促されるままに回れ右して扉を出る。
少し前を歩くこの子は平均身長よりもやや高めに見える、と言うのも千絵がやや高めで同じくらいだからだ。
後姿を眺めていてわかる一番の特徴は、やっぱりプラチナブロンドだろう。
城内の廊下の薄明りしかない場所では白髪に見えるが、日の光が当たるとキラキラと光って見える。
さっき玉座の隣に立っていた時は同い年くらいに見えたが、こうして後ろから見てると年下にも思える。
残念なのはスリーサイズの上だけかなりパワー不足かなと言う所だが、大き目の千絵やビッグな楓子を見慣れているせいで、よくよく考えればこれが普通なんだよなぁと変に感慨深く思ってしまった。自分が恵まれている事を再確認だ。
「珍しい?」
割と緊張した場面が続いた所で急に声をかけられたので、流石にびっくりした。
「私の髪」
「あ、ああ、はい」
「種族の中でも珍しいのよ? それもあって一番の若輩者の私でも特別扱いなんだから」
くるりと振り返り後ろ向きに歩きながらニコニコと笑いながら言う。
綺麗なプラチナブロンドも去ることながら、瞳の色が透き通った緑色をしていて印象深い。
遠目には髪が目立つが、面と向かって目を見てしまうと否応無しに引き込まれそうな魔力を持っている。が、それなのに人懐っこい笑顔で話しかけてくるのだ。
何だこの可愛い生物は。
その可愛い生物は、じーっと俺の目を見ると一瞬目を潤ませたように見えたのだが、すぐに歩き出したのでよくわからない。
「それにしてもあの二人には参ったわ。あなたが転移門の魔法から落ちたって聞いて、チエは大騒ぎするしフウコは倒れちゃうし」
「多分会ったらボコボコにされるんだろうなぁ」
「でも本当に自力で辿り着けて良かったわ。普通なら野垂れ死によ? 魔力が強ければ探しようが無くは無いけど、ざっと探した感じ見つからないから諦めてたのよね。そうしたらこんな魔力が少ないだなんて、見つかるわけないわ」
「やっぱ少ないんですか」
「――別に普段はタメ口で大丈夫よ? 私はシェリール・ユグドラシル。ユグドラシルは世界樹の事で、最初のエルフは世界樹が産みの親と言われてる事から私達エルフの家名は総じてユグドラシルなの。一般的にこの王国では家名を名乗るのは王族と貴族だけだから、家名を名乗るのが居たら貴族だと思って気を付けてね」
「はあ、うん」
「魔力に関しては全王国民中一番少ないんじゃないかしら、ってくらい微量ね」
「マジかー……」
「ま、人間何とかなるものよ。何なら私が個人的に飼ってあげてもいいし」
買ってじゃなくて飼ってと言うニュアンスを俺は聞き逃さない。
それも楽しそうに言うんだからヤバい匂いがする。
「ここよ」
外から見た感じ普通の個室だ。
どうぞと促されたので、軽くノックして扉を開ける。
アンティーク調の椅子に座ったまま振り返った千絵と目が合った。
「よう」
「――はあぁぁぁぁっ!?」
ダッシュで突っ込んできた。
ヤバい飛び蹴りが来ると思って目を瞑って身構えたら、あろうことか千絵が抱き着いてきた。
一体どうしたと思って目を開けると、あの千絵がボロボロ泣いているのである。
千絵の声に驚いたのか、ベッドに横になって壁を向いていたらしい楓子が飛び起き、これまたこっちに突っ込んできた。
そうして俺は二人分の重さに耐えきれず後ろにぶっ倒れたのだが、案内役の王族――この場合は王女なのか、シェリールはニヤニヤとこの状況を楽しんでいるようだった。
ボロボロ泣くわギャーギャーうるさいわな二人を何とか宥めて落ち着いてもらい、ベスター関係の事は伏せて事情を説明したのだが、千絵は何だかずっと睨んでるし楓子は俺の裾を掴んで離さない。
俺は平謝りするしかなかったが、状況的に俺悪く無くね? と思わなくも無く、全くどうすりゃいいんだこの状況はと放り投げたくなる。
どうやらずっと外で待っていたらしいシェリールは、二人が落ち着いたのを確認して部屋の中に来た。
「それで、そろそろ水鏡での再検査と冒険者養成学校への入校手続きを済ませたいのだけど」
「あ、はい」
ベッドに腰かけて両脇を固められていたので、立ち上がろうにも立ち上がれず軽くもがいた。
それでも二人は俺を放す気が無いらしい。
「あ、トモヤだけじゃなく、そこの二人もね」
「まだ終わって無かったんですか」
「そりゃ昨日からずっとトモヤの事ばっかりだもの。魔力も安定しないから正確な計測出来ないし」
「千絵も楓子もそんな俺の事好きか」
「そうじゃなくて! またトモヤが死んだかと思ったら!」
「そうだよぉー、ばかぁー」
千絵はともかくとして、楓子がまたボロボロと泣きながら非難の声を上げる。
流石にちょっと言い方が悪かったか。
「とりあえずやる事やらないと。ほら二人も立って」
「うー、ちょっと待ってよ顔洗ってくるからー」
「私も行く……。智也君も一緒」
「いやいや、そんな一瞬で蒸発するような世界でも無いんだし、待ってるから二人で行ってこいよ」
楓子が頬を膨らませてむすーっとむくれた。
一足先に立ち上がって部屋を出ようとする千絵について行こうとはするが、俺の裾を掴んだままで俺まで引っ張って行こうとするのでこっちも抵抗をし、結果として色々葛藤があったようだが楓子は大人しく千絵の後をついて行った。
「仲いいのね」
「まぁ、幼馴染としては割といい方だと思うけど。それだけじゃなくて一緒に死んだ仲と言うか、この世界で一緒に生きていく仲間と言うか、一蓮托生と言うか」
「これまで二人以上まとめて異世界人が来たことが無いから、そう言う物なのかしらとしか言えないわね。
「長い歴史の中でも?」
「そうね。どういう基準で選ばれてるのかわからないけど、あの二人が勇者適正持ちって事もあるし何らかの選考基準があって、偶々三人同時に亡くなって選ばれたのでしょうけど」
「残りの一人が遊び人だけど」
「そこら辺はあのジジイが幸運値でも弄ったんじゃないかしら。多少の操作は出来るらしいから」
「――ん、ジジイ?」
「私、これでも神託の巫女で神からの神託を得られるの。色々と条件があるから二か月か三か月に一回くらいだけど。あのてっぺんがハゲてて白い髭を蓄えてる自称神様と会ったでしょ?」
「いや神託の巫女が自称神様とか言っちゃあかんだろう」
「いいのよあのエロ爺なんて。自分好みの女の子には優遇して、イケメン男子には不遇にするんだから」
俺、別にイケメンでもなんでもないんだけど。
ん? って事は元々俺はただの遊び人って事になるわけだが。
「予定では今月中に神託の儀を行うから、そこで今回の選考の理由を聞いてみるわ」
「……いや、他に何か聞く事あるんじゃないの?」
「大抵は大魔王を倒せる勇者がいないかどうかのお伺いを立てたり、疫病が発生すれば原因を教えてもらったり、王国内で不正を働いてる者を教えてもらったり」
「神託……? 最後のとか内部調査で何とかするような物な気が」
「ええ、そうよ、神託なんて言ったって神様は必要最低限しか教えてくれないし、かと言って他に何か知りたいことがあっても大体が人間には教えられないと言われたり、神託の巫女なんていてもいなくても変わらないのよ」
どうやら大分フラストレーションが溜まっているようだった。
「エルフ族で神託の力もあるからこそ私はここにいるけど、実際それによって何か変わるかって言われると特に何も変わらないのよ。所詮その程度の力なのよ」
「別にそこまで言わなくても。道中会った行商人も王女が色々国を良くするため動いてくれてるって言ってたし」
「結局この世界には勇者が必要なの。とにかく強い勇者さえいれば、その勇者を味方につけられれば貴族の不満も抑えられるし、魔物が暴れたとなったら討伐に行ってもらえるし、王国にとっては利益しか無いんだから」
「それを俺の前で言うか」
「ええ。決して二人には悪い風にはしないから、是非とも仲良くさせてもらいたいの。その為なら路頭に迷いそうな遊び人さんを囲うくらいわけないわ」
「――それはシェリール個人でなく国の意向として?」
「勿論よ。ここ数十年勇者が現れていないとか、現れた勇者も能力が低くてあっさり死んでしまったから、簡易式の水鏡の検査でスキルモリモリの勇者の存在と言うのは今の王国にはとても大きく意味のある事なの」
「噂によると、勇者とあらば魔王を倒してこいって送り出されると聞いたけど」
「勿論、勇者ならばそうしろと言う貴族もいるけど、対魔物の戦力として重要な勇者を死地に送り込むのなんて馬鹿らしいわよね。少なくとも私がここにいる限り魔王側が攻めてくるか、攻めて来そうな場合以外はそんな事させないし、そもそも学校があるから独り立ちまでは時間が出来るわよ」
「ちなみに例外は?」
「有事の際には協力要請と言うほぼ強制での出兵がかかるから、それがネックかしら。でも隣国が攻めて来るとか至近距離に魔物のテリトリーが出来て、しかも魔王が出現したとかよっぽどの事が無い限りは無いわよ」
「なるほど」
少なくともしばらくは安泰なのかもしれない。
「でも、神託の巫女ってそんなに発言力あるのか」
「どうせ神からの言葉なんて私しか聞けないんだから、適当に捏造して神託として言えばいいのよ。この遊び人を大事にしろとか」
「是非とも仲良くさせてください」
「悪い話じゃなかったでしょう?」
「それはもう」
二人が洗面所へ行ってる間に悪だくみの相談が終わり、ここに協力体制が成立した。
妙に協力的過ぎる気がしないでも無いが、どうも貴族との確執みたいなのが見え隠れしていて、上手い事バランスを取る為に勇者と言う存在が必要なのは何となくわかった。
遊び人の俺の保護を言い出すのだから俺に断る理由は無いし、勇者適正があるからと言って無暗に魔王討伐に派遣する気が無いと言うのだから、断るわけが無い。
とりあえず現状では、急いでアヤメさんの所に帰る必要は無さそうかなと一安心した。




