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…夜中に寝酒を飲まなかったモンで、次の日は、朝っぱら早くから目が覚めちまった。
オレは、姉ちゃんや娘っ子を起こさねぇように、そっとリビングを抜け出して、玄関ドアの覗き穴から外の様子を伺ったのよ。
どんな時でも、晴れた朝ってのは気持ちがいいモンだけど、こんないい天気でも、外に出る気がしねぇのは奴等の顔がチラつくからよ。
穴から覗く外の景色に、動くモンは見あたらねぇけど、用心するに越したことはねぇ。…オレは、昨日の残りの菓子パン食いながら、念のため二階に上ってベランダからも外の状況を確認したのよ。
…やっぱり居たぜ。生きる屍野郎がよ。向こうの通りを歩いてら。
何だか知らねぇけど、奴等の顔見るとゾクゾクして来るのよ。…奴等元々人間なんだから、親兄弟も有ったろうがゾンビになった途端、記憶や感情を失っちまって動物以下の生き物に変身しちまうんだ。
けど、よく考えたら、元は人間なんだから、オレが奴等をやっつけるってことは、殺人にはならねぇだろうな?。
…正当防衛や緊急避難って言葉があることぐらい、オレだって知ってるけど、細けぇことは、後で学者先生にでも聞いてみた方が良いかもな。
まぁ、オレみてぇな馬鹿は、考えたってしょうが無ぇ。行く手を邪魔する奴は、ぶっ飛ばして進むだけよ。
それで、オレは下に降りると、姉ちゃんと娘っ子を叩き起こして、「食い物や使えそうな物を集めろ」って言ったのよ。
オレの方も、愛用のレンチやダチの置き土産の散弾銃の他に、武器の代わりになる物は無ぇモンかと、家ん中を探したんだが、包丁ぐらいしか見つからねぇ。
倉庫の方に、何か有るかも知れねェと思って、散弾銃片手に勝手口からそっと外に出たんだが、昨日のドンチャン騒ぎの後が、もの凄い状況になってたから、オレもたまげちまった。
奴等の肉は、腐らねぇらしいけど、あっちこっちに千切れた手や足が散らばってる上に、脳みそ垂らした顔がオレの方を向いてたモンだから、うっかり朝食を戻しそうになっち待ったぜ。
しょうがねぇ。オレは、そいつ等をなるべく見ねぇようにして、倉庫に入ったんだ。ざっと見た限りじゃ、めぼしいヤツは建設足場用の短管パイプにワイヤーロープぐらいしか見当たらねぇ。
…でも、工具の棚を探ったら、いいモンが見つかったぜ。
チェーンソーよ。チェーンソー。
…昔、映画でやってただろ。ホッケーマスク被ってる変態野郎のお気に入りのエンジンチェーンソーが有ったのよ。
しかも、その隣にゃ肩掛け式の草刈り機まで置いてあるから、こっちも嬉しくなっちまった。
…何しろ上下二連の散弾銃じゃ、巧く当たっても二匹が良いところだから、奴等がゾロゾロやってきたら、タマを詰め替えてる時間も無ぇよなぁ。
やっぱ接近戦には、こういうのが意外と使えるのよ。…それでオレは、燃料が入ってるかどうか確認してから、そいつのプルスターターを引いてみた。
ツーサイクルの甘ったるい排気煙が倉庫中に広がって、力強い回転音を響かせたから頼もしくって涙が出らぁ。
そばに置いてあるポリタンクには、混合油が少しだけ残ってたから一緒に外に運び出したのよ。
そんで、さっき見つけた短管パイプやら、ワイヤーロープやら使えそうな物と一緒に、オレのダンプの荷台に積み込んだんだが、ダンプの荷台じゃ固定する物も無ぇから、荷物は暴れて飛び出しちまうかも知れねぇだろ。
倉庫にあった段ボールをクッション材にトラロープを使って、落っこちねぇようにチェーンソウや草刈り機を縛ったぜ。
そうそう、オレの大事なダンプの方も補強しねぇと、どこまで行けるか判らねぇ。取りあえずはヘン曲がったバンパーを何とかしなきゃならねぇだろう…。
ゾンビ野郎を押し潰すには、バンパーは頑丈な方がいいに決まってら。
それでバンパーに鉄パイプでも溶接してやろうかと思ったんだが、オレは土建屋だけど残念ながら溶接の技術は無ぇんだよなぁ。
まぁ、何でもいいから、堅そうな物をワイヤーロープで縛り付けとけば、結構な戦力にはなるだろう。
敷地内を探したら、ちょうど良いのが見つかった。
…ビルを解体したときのH型鋼材の切れっ端だが、長さが二メートルぐらい有るからバンパーの代わりにぴったりよ。
オレは、百キロぐらい有りそうな、その鋼材をダンプの前まで引っ張ってくると、チェーンやワイヤーロープ使ってダンプのバンパーに固定した。
…あんまり重てぇモンで、途中で辞めようかとも思ったけど、肝心なことを端折ったら、生きて帰れねェかも知れねぇから、必死こいてやったのよ。




