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姉ちゃん達は、ダンプの中で、大人しく待ってた。
それで、オレは、安全だって事を話して、建物の方に連れて行こうとしたんだが、思い直して偉い学者先生に無線で呼びかけてみたのよ。
東京の学者先生は、まだ無事みてぇだけど、昨日から丸一日、何にも食って無ぇんだと。…それに、そろそろ都内じゃ水道や電気も危ねぇらしい。頻繁に停電するし、遠くに見える火事は広がる一方で消える気配も無ぇそうだ。
先生がパソコン使って、世界中のあっちこっちに連絡取ったらしいけど、アメリカや中国も同じ状況みてぇだから、どうやら例の隕石は世界中に落っこちたようだぜ。
…日本じゃ、大阪の方も似たような状況で、関東や近畿には非常事態宣言ってのが出されたらしけど、宣言したところでゾンビは大人しくしちゃくれねぇよ。
でもよ、先生はホントに偉い人だよ。…東京はゾンビの比率が七割を越えてるから、自分は助からねぇだろうけど、出来る限り実験続けて資料を残すから、その研究を誰か他の先生に引継ぎてぇんだと。
…それでオレが、自衛隊の偉い人に連絡とって、資料や研究成果だけでも回収して貰えるように手配しろって言ってるのよ。
バカなこと言うなよ。オレが何とかしてやらぁ。
…けど、「ネットの動画サイトに避難情報がアップされてる」って言葉を最後に無線が切れちまったのよ。ヤベェだろ。
オレのガラケーじゃ動画は見られねぇ。…話を聞いてた姉ちゃんが、自分のスマホで幾つかの動画を探し出した。
NHKの公式じゃ「ゾンビ野郎を封じ込めるために、関東と東北の国境を封鎖したんだと。無理に越境する奴は射殺する」とか言ってるぜ。
NHKの奴らは知らねぇみてえだけど、ゾンビになるのは人間だけじゃネェよ。大型のほ乳類は、どれでも感染するって学者先生が言ってたから、野良犬だってゾンビかも知れネェよ。
そんなことはどうでもいい…。中継のアナウンサーは、関東の中で生きてる奴は、近くの避難所に向かえって言ってる。
埼玉の避難所で、ここから一番近けぇのは、「浦和」のサッカー場だから、朝になったら姉ちゃんと娘っ子を連れてってやるか。
それからオレは、取りあえず二人を家の中に案内したのよ。
明かりが点いてるってことが、どれほどホッとすることか。
…今まで緊張し通しだった姉ちゃんと娘っ子も、ダチの家のソファーに座ると、安心したのか食欲が出たみてぇで、オレがコンビニで手に入れた菓子パンを頬張りながら、自分たちのことをポツリポツリと話し始めたのよ。
娘っ子は由佳里って言う名前で小学の一年らしい。…あのコンビニの近くのアパートに、母ちゃんと二人で住んでたんだが、今朝、学童の教室に行く途中、ゾンビ野郎に襲われて母ちゃんが食われちまったんだと。
…それで泣きながら家に帰ったけど、アパートの前で隣のおばちゃんが血を流して倒れてたから、怖くて中に入れネェ。
あっちこっちに隠れながら、大人が来るのを待ってたらしい。そのうち、ひもじくなって誰も居ねぇコンビニに入ったけど、人は来ねぇし、外にゾンビ野郎がふらふらしてたから、『怖くて出られなくなった。』って涙目で言うモンだから、オレもチッとばかしウルウル来ちまったぜ。
姉ちゃんの方は、優子っていう名で看護婦らしい。
…夜勤明けでマンションに帰った所をゾンビ野郎と鉢合わせ。命からがら逃げてきたんだが、疲れて運転してたから、うっかり縁石に乗り上げちまって、野郎どもに囲まれたって訳よ。
姉ちゃんの話じゃ、昨日の夜から、東京の方はおかしかったらしい。…救急指定でも無ぇその病院に、都内の急患引き取ってくれって、警察から連絡が来たモンだから、夜中に先生を呼び出したり、ベッド用意したりで大変だったって言ってる。
患者は昏睡状態で、あっちこっち傷だらけ。それで傷の手当てして、そのまま寝かしといたんだと。
…姉ちゃん運が良いよ。学者先生の話じゃ、噛まれてからゾンビに変身するまでの個人差は、早い奴で二~三時間、遅くても十二時間ぐらいだから、夜勤のまんま残業してたら、命は無かったかも知れネェな。
それからオレは、奴の寝室から毛布を引っ張ってくると、姉ちゃんと娘っ子に渡してやった。
神経が高ぶって寝られねぇかも知れねぇけど、チョッとでも休んで鋭気を蓄えねぇと、明日は自分がゾンビかも知れネェからな。




