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オヤジ  作者: 矢島大佐
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 ここらには、もうゾンビ野郎は居ねぇはず…。いや、ライトが照らす端っこに、モゾモゾ動くモンが居やがった。

 何だか判らねぇが、オレはそいつにユンボを近づけたのよ。

 ダチの野郎だ。シブトいじゃねぇか。…野郎は千切れた下半身を、どっかに置いて来ちまったみてぇで、はみ出た内臓を引き摺りながらユンボの方に這い寄って来やがる。

 オレはユンボのアームと先端のフォークを操作して、野郎を掴み上げてやった。

 …でもよ、奴はフォークの隙間から両手を伸ばして、無駄な足掻きをしてやがる。

 …可哀想だがここまでよ。オレはフォークのレバーを押して、カニの大爪で挟み潰そうとしたんだが…、どうしてもレバーが動かせねぇ。

 いや、壊れた訳じゃねぇ…、オレの手が言うことを効かねぇのよ。それで、オレはしょうがなしに、両手でレバーを握って、目を瞑ったままグイと押したのよ…。

 油圧のキックバックで、レバーがちょいと震えやがった。…オレのダチが、「痛てぇじゃねぇか、この野郎」って言ったみてぇだった。

 …オレは、でっかい溜め息を一つ吐くと、ユンボの頭を旋回させて、作業ライトであっちこっち照らしたのよ。ついでに、手持ちの懐中電灯で、暗がりを探ったりしたんだが、どうやらもう大丈夫みてぇだ。

 でも、ユンボが轟音立てたから、奴等が敷地の外に集まってるかも知れねぇだろ。それでオレはエンジンを切ると、しばらくじっとしてたんだ。

 前の通りを、フラフラっと歩って行く野郎は居たが、門の前に陣取ってる奴は居ねぇみてぇだ。

 ユンボを降りたオレは、奴等の破片を踏まねぇように気をつけながら、ダンプの側に行ったのさ。

 姉ちゃんとガキは、懐中電灯の明かりで、オレが来たのに気が付いたらしい。…けど、オレがゾンビに変身するかも知れねぇって、疑いの眼で見てやがる。

 オレは、小声で状況を説明しながら、噛まれて無ぇってことを伝えたぜ。ついでに、「ダチの家で一休みするつもりだから、ヤツの家ん中を確かめてくる」ってことと、「いつまで経ってもオレが戻って来ねぇ時は、そのダンプで、正面のフェンスをぶち破って、遠くの方に逃げろ」ってこともな…。

 頼もしい相棒のレンチを片手に、オレはダチの家に近づいた。…おっと、玄関の鍵が閉まってら。

 …ドアノブをガチャガチャやったんだが、誰も出て来ねぇし、中の動きも無ぇみてえだ。

 それでオレは脇に廻って、リビングの方に行ったよの。…雨戸が閉めてあるから中の様子は判らねぇけど、ひっそりとして物音一つしねぇのさ。

 もしやと思って雨戸をチョッと弄ってみた。

 …やっぱりダチだ。いいとこ有るぜ。雨戸もサッシもロックなんぞしちゃいねぇ。懐中電灯を照らして、中の様子を確認してから、靴履いたまんま、そっと中に入ったよ。

 …真っ暗だから怖ぇえけど、勝手知ったる他人の家で、電気のスイッチを入れてみた。蛍光灯に照らされた室内は、男やもめの一人暮らしにしちゃ、それなりに片づいたリビングよ。

 それから、オレは、一部屋一部屋確認して廻ったよ。いや、神経が磨り減ったけど、押入れん中まで確認して、やっと人心地ついたぜ。

 そうそう、ここに来た目的が、ダチの寝室で見つかった。…ヤツの散弾銃は寝室のガンロッカーに仕舞ってあった。

 ダチの野郎は、根が単純なヤツだから、ロッカーの鍵なんぞ、リビングのサイドボードの引出しン中に入れっぱなしだったのよ。

 …いや、ここだけの話、オレは以前、ダンプの仕事で長野に行ってた時、地元のダンプ仲間にカモ撃ち猟に連れてってもらったことがあってよ。

 …そん時、山ン中で散弾を何発も撃たせて貰ったから、銃の扱いだって自慢じゃねぇが知ってるぜ…。

 それでオレは、その十二番口径上下二連の散弾銃を取り出したのよ。ズシリとした貫禄で、頼り甲斐が有るってモンだ。

 タマは隣の装弾ロッカーだ。…法律じゃ銃と弾薬を一緒に保管しちゃならねぇんだが、隣にあったら同じだよなぁ。

 昔のことを思い出しながら、その散弾銃のバレル(銃身)を折って、仕舞ってあったタマを込めた…。

 機関部に筆記体で「P.BERETTA」って、彫り込みがしてあって渋いぜ。

 オレはその散弾銃の安全装置が「S」の位置になってるのを確かめると、有りったけのタマを、置いてあったバックに詰め込んで玄関に向かったのよ。


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