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…けどよ。ゾンビ野郎は、諦めるって事を知らねぇらしい。…両手の指を潰してやったのに、何度も何度も、ダンプの枠に飛び付こうとしやがる。
そのうち、また手が出てきやがった。
…でも、おかしいじゃネェか。あいつの指は全部潰したはずだろ。
懐中電灯で照らしたら、…畜生、もう一匹居やがった。…いや、…もう二匹だ。
オレは力一杯レンチを振るったぜ。手の指だけじゃなく、届くようなら奴等の横っ面も、引っ叩いてやったんだ。
だけどよ。片手に懐中電灯持ってて、ダンプの荷台の上から、レンチを振り下ろす格好じゃ、力が入らねぇから、野郎どもに致命傷を与えられねぇ。
下に降りて、ブチのめすか?。でも三対一じゃ、嫌だよな。
そんで…、もっと強力な獲物でも無ぇかと思って、奴等を引っ叩きながら、あっちこっちに懐中電灯を向けたのよ。
…有ったぜ。いいモンが。…敷地の奥に置いて有らぁ。
オレは一匹のゾンビ野郎にスナップ効かせた一撃を食らわせると、思い切ってダンプの荷台から飛び降りたのさ。
そんで、そいつに向かって全力疾走したよ。
そいつが何かって?。…ユンボだよ。ユンボ。…知らねぇかな?。建設現場で長いアームを伸ばして土をほじくり返してる、あの黄色いヤツ。
ダチん所のユンボは、土掘りのバケットの代わりに、家屋解体用のフォークが付いてるのよ。
…フォークってのは、正式にはフォークグラップルって言うんだが、でっかいカニのハサミに似た油圧ユニットで、家の柱や壁なんかを挟みながらバリバリぶっ壊して、そのままダンプに積んじまえる便利な道具なんだぜ。
でもよ、チョッと心配なことがあるのよ。あれを動かすにゃ、鍵が必要なんだが、それがどうなってるかってことだ…。
ダチの事だから、ユンボの鍵は、付けっぱなしだろう。…いや、絶対に付いてるハズだよなぁ。
オレは走りながら、神様に祈ったぜ。
…「オレが真っ当に生きてる」ってことを、神様は、ちゃんと見ててくれた。
ユンボの鍵は付けっぱなしだったのよ。
それでオレは、ユンボの運転席に飛び乗って、キーを捻ったんだが、悲しいかなジーゼルよ。…グローを使って暖めてやらねぇと、すぐにエンジンは掛からねぇんだ。
そんなことしてる間に、目の前に野郎どもが来ちまった。一匹は運転席のドアをバンバンぶっ叩きやがるし、もう一匹は前の方に廻って、汚ねぇ顔をフロントガラス一杯に、押しつけてやがる。
…おっと、その汚ねぇ顔をよく見たら、オレのダチだ…。あんまり、しつこくすると、オレだって、堪忍袋の緒が切れるぜ。
硬質ガラスの窓が、軋んでぶっ壊れる寸前、やっとグロー中のランプが消えやがった。
エンジンさえ掛かればこっちのモンよ。オレだって、伊達に土建屋やってる訳じゃねぇ。ギヤを二速に叩き込むと、作業ライト点けて、フットペダルを思いっきり踏み込んだ。
フロントガラスのダチは、キャタピラに巻き込まれならが、前のほうに吹っ飛んでった。
それからオレは、ユンボを旋回させて、横から迫ってくる野郎に狙いを付けた。そいつとの距離を見計らいながら、アームのレバーを操作したのよ。
奴の横っ面に鋼鉄のフックが炸裂して、ゾンビ野郎がふっ飛んだ。
おっと、もう一匹来やがった。正面から攻めてくる。
奴ら、まったくおバカだぜ…。良い子のお友達でも守れるお約束「作業機械の作業半径に入っちゃならねぇ」ってのを知らねぇのさ。構わず向かってきやがるから、オレもお付き合いしてやった。
…ユンボのベース機はコマツ(小松製作所)のコンマハチ(0.8立米級)だから、重量は二十トンぐらい有るだろ。重たくっても文句は言うなよ。
ユンボに伸し掛かられたその野郎は、キャタの下で煎餅になったみてぇだから、ついでにそいつの上で、ユンボを旋回させながら挽肉に替えてやったのさ。
ユンボを旋回させながら更に周りを見回したら、さっき鋼鉄のフックでリングに沈めたと思ったゾンビ野郎が、力石みてぇに立ち上がって来やがった。
フラフラと立ち上がったそいつに、もう一回アームのフックをお見舞いしてやったら、こっちが力み過ぎちまったのか、手元が狂って倉庫の壁までぶっ壊しちまった。
…けどよ。テンカウントで立ち上がる前に、念には念を入れて、そいつもキャタで踏んづけてやった。