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それでオレはダチの家にダンプを走らせたのよ。…そいつの家は東の方で「岩槻」って所なんだ。
あっちこっちに車が止めっぱなしになってるから、大通りだってなかなか進めやしねぇんだが、ぶっつけたって構やしねぇ。
ダンプで押したり、踏み潰したりしながら進んだのよ。
たまぁに、車で逃げてく奴等とすれ違ったな。…そいつ等も、何だか訳がわからねぇけど、ゾンビ野郎が怖くって逃げて来たんだと。
オレは学者先生が言ったことを教えてやったのさ。
噛まれたりするんじゃねぇってことと、頭をカチ割らねぇと、野郎はどこまでも追いかけて来るってことをな…。
夕方ってのもあったけど、火事らしい煙が南風に乗って来やがるから、そのうち辺りは薄っ暗くなってきやがった。
…そしたらよぅ。上の方をヘリコプターが飛んでいくじゃねぇか。薄茶と緑色のだんだら模様だったから、ありゃあ自衛隊のヘリだろう。
どっから来たのか知らねぇけど、いつも高けぇ税金払ってんだから、ゾンビ野郎をみんな纏めてぶっ殺してくれよ。
オレは、挨拶代わりに、ホーンをガンガン鳴らしてやったのよ。
奴等、気が付かなかったみてぇで、南の空に飛んでっちまった。…けどよ。そのホーンに答えるクラクションが有ったじゃねぇか。
何だか知らねぇけど、気が狂ったみてぇにクラクションを鳴らすモンで、オレも気になっちまって、そっちの方向にハンドルを切ったんだ。
そしたら、道路の縁石に乗り上げて、亀の子状態になっちまった乗用車に、ゾンビの野郎が群がってるじゃねぇか。
…かかあの事を思い出して、オレは、またカッときちまった。
ダンプのアクセルを踏み込んだ頃には、野郎どももこっちに気が付いて向かって来やがる。
ゾンビ野郎が何匹か、ダンプに飛び付いてきやがった。オレはその乗用車にぶっつけてサンドイッチにしてやろうと思ったのよ。
…でもよ、車に、まだ噛まれてねぇ人間が乗ってたら、可哀想じゃねぇか。それで思い直して左の電柱にハンドルを向けたのよ。
バンパーに挟まれて、一匹のゾンビ野郎の首が胴体から離れたんだが、そいつは窓越しにオレに歯をむき出しながら後ろの方へ飛んで行っちまった。
ざまぁ見ろってんだ。
一度バックしたオレは、乗用車にダンプを近づけた。ゾンビ野郎は恐怖って事を知らねぇみてぇで、構わずダンプの前に寄って来るじゃねぇか。背筋がゾッとしたぜ…。
…けど、それで車の中の人間が、チラッと見えたんだよ。
どうやら女らしいヤツが、泣き叫んでいやがるぜ。
オレは、乗用車の脇をすり抜けながら、目の前に迫ってくる野郎どもを轢き殺してやろうと思ったのさ。
それで思いっきりアクセルを踏んだんだが、一匹のゾンビ野郎を踏んだ拍子にタイヤが滑って、乗用車のケツにダンプをぶち当てちまった。
乗用車のガラスは砕け散って、女はますます悲鳴を上げやがる。…その上、一匹のゾンビ野郎が割れた乗用車のフロントガラスに首を突っ込み始めやがった。
オレは焦っちまって、足下に放り込んだままのボウズのバットを持って、ダンプを飛び降りたのよ。
乗用車のボンネットに乗っかってた一匹を、金属バットで殴りつけてフッ飛ばすと鈍い音がしやがった。チクショウ!バットが曲がっちまった。
…しょうがねぇ。バットを放り出すと、乗用車に潜り込もうとしてた、もう一匹のゾンビ野郎の足首を掴んで思いっきり引っ張り出した。
そのゾンビが女だったんで、ちっとビックリしたけど、オレに突っかかってきたモンで、構わず出足払いを掛けて、アスファルトの路面に叩きつけてやった。
若けぇ頃、柔道やっててホント良かったよ。
ゾンビ野郎が集まって来ねぇうちに、乗用車の女を助け出してやろうと思って助け声をかけたんだが、女はギャアギャア叫いて、訳が判らねぇみてぇだぜ。
仕方が無ぇから、そいつの横っ面を引っ叩いて黙らせると、構わずダンプの助手席に押し込んだ。
それからオレは、曲がっちまった金属バットを拾ったのよ。ボウズの形見だから、置いてく訳にはいかねえよなぁ。