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それからオレはシェルのタンクローリーのギアを入れて、金杉通りに乗り出した。
アクセルの踏み加減と、ローリー車の加速のノリ具合から、どうやらタンクの中は満タンみてぇだ。
姉ちゃんが運転するダンプとは反対方向にタンクローリーを進めながら、オレはフッと、昔見た映画を思い出したのよ…。
あのタンクローリーには、「油」の代わりに「砂」が入ってたんだっけかなぁ。
…信号が消えた昭和通りの交差点で、一旦停止したオレは、下谷警察署の方を確認したぜ。
丁度、姉ちゃんのダンプが向こうの交差点を曲がってくるところで、ゾンビ野郎が何匹か、そのダンプに向かって行くのが見えたなぁ。
オレは、奴等が向こうに気を取られてる隙に、そっと運転席を降りて、ローリー車のタンクの放出バルブを捻ったのよ。
茶色い液体が、勢いよく噴き出して、これで準備は完了ってこった…。
「てめぇら、覚悟しやがれ」…オレは自分の行動に踏ん切り付けるように呟くと、ローリー車のアクセルをグイと踏み込んだ。
何匹かのゾンビ野郎が、こっちに気づいて向かって来やがる。
なるたけガソリンを道一杯播き散らすように、オレはローリーを蛇行させながら警察署に近づいたのよ。
…けど、そんなことしてるから、たちまち二~三十匹のゾンビ野郎に囲まれちまったが、そいつ等のほとんどは、ガソリンまみれになったから、こっちの思う壺ってこったろう。
さぁて、警察署の正面まで来たけど、敷地の中もゾンビどもで一杯だ。…オレは、「やっちまったかも知れねぇ!」と思ったんだが、ここまで来たら止めることなんて出来やしねぇ。
正門の前で一時停止すると、運転席の窓を細めに開けて、中の奴等に「これからローリーで突っ込むから、鉄砲撃つんじゃねぇぞ」って怒鳴ったのよ。
ゾンビ野郎がローリー車のフロントガラスを撲っ叩きやがるから、今にも割れるんじゃねぇかと、ビクビクモンだったけど、オレが怒鳴り終わるまで、何とかそいつは持ちこたえてくれた。
…だけどよぅ。助手席側のサイドウインドウは根性が無かったみてぇで、ゾンビ野郎のヘッドバットに降参しやがったのよ。
その割れたサイドウインドウに、真っ白い「ばばぁ」の顔が見えた瞬間、オレは狙いすまして散弾銃の引き金を引いてやったのさ…。
それから、その「ばばぁゾンビ」が地面に落ちるより先に、タンクローリーを発車させたぜ。
警察の敷地の中にゃ、パトカーや一般の車が止めっぱなしになってるから、タンクローリーを動かすのは手狭なんだが、出来る限り建物に近づくようにローリー車を走らせた。
…駐車してる車両に激しくぶつけたりしたら、衝撃でガソリンに引火しちまうかも知れねぇから、慎重に走らせなきゃならねぇけど、あんまりトロトロ走ったら、ゾンビ野郎に乗り込まれちまうから、そっちも気を遣いながらローリー車を運転したぜ。
何匹かのゾンビ野郎を轢き殺し、パトカーを押し除けながら、やっと下谷警察署の玄関の車寄せにタンクローリーを近づけた。
まごまごしちゃ居られねぇ。…オレは、ギアをニュートラルに入れるが早いか、助手席側の割れたサイドガラスから身を乗り出して、ついでに下からオレを睨みつけてる中年おやじのゾンビ野郎に、十二番口径の散弾を一発お見舞いすると、ローリー車の屋根の上に這い上がったのさ。
ざっと見た感じ、そこらにはゾンビ野郎が三百匹近くは居たろうなぁ。
それからオレは、急いでローリー車の屋根から警察署の車寄せの屋根に飛び移った。
…「移った」って言っても、建物の屋根の方が高かったから、「何とか這い上がった」って感じだったがよ…。
ゾンビ野郎はオレを追いかけて、タンクローリー車に昇りはじめたけど、警察署の三階から、何発かの援護射撃があって足止めを食らってた。
オレは三階の窓から顔を出した自衛隊のヘルメット野郎に、「すまねぇな」って怒鳴ったのよ。
それで、チッと時間が出来たから、散弾銃のタマを替えてから、ジャンパーのポケットからタバコを取り出し火を点けたのさ。
…余裕の一服なんか、してる暇は無ぇだろうって?。
そりゃそうだが、やっぱり幕引きはこれに限るし、ここで言うべきセリフも決まってる。




