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オレは「さいたま」で土建屋やってる「オヤジ」だ。
前の晩、しこたま飲んじまったオレは、あれが起こった日、良い気分で寝てたのさ。
そしたら、かかあが慌ててオレを起こしに来やがった。「テレビに変なモンが映ってる」ってんだ。
寝ぼけ眼でテレビを見たら、死人みてぇな顔色したニュースキャスターがアシスタントの女を食ってるじゃねぇか。
まっ昼真っからスプラッター映画なんかやるんじゃネェよ。…ガキの教育に良くねぇって、テメぇらもさんざん言ってたろ。
…でもよぅ。あっちこっちチャンネル回しても録画らしいドラマは映ってるけど、生放送のワイドショーはスタジオの壁しか見えやしねぇ。…たまに動くモンが映ったと思ったら、白い顔の口当りから、どす黒い涎を垂らしてフラフラ歩くゾンビ野郎じゃねぇか。
それでオレは、かかあに外の様子を見に行かせたんだが、何時まで経っても帰って来やしねぇ。
そのうち、物がぶっ壊れる音が響いてきたり、男の叫び声や女の悲鳴が聞こえてきたから、こっちも慌てちまった。
何だか判かんねぇけど、やべぇことが起こってる。
オレは玄関に置いてあったボウズの金属バットを持って外に出たのよ…。
かかあは、商店街の方に二百メートル行って見つかったよ。…白い顔の死人野郎が五、六匹、寄って集ってオレのかかあを食ってやがった。
頭に血が昇っちまったオレは、金属バットを振り回しながらゾンビの群れに飛び込んだ…。
…三匹目のゾンビの頭を吹っ飛ばしたところで、ふと我に返って驚いた。内臓と両足を食われて死んだと思ったオレのかかあが、真っ白い顔で唸り声を上げながら、地面を這い擦って来るじゃネェか。
背筋に粟が立っちまったオレは、一目散に家まで飛んで帰ってボウズを呼んだのよ。…ボウズも片腕が無かった。
情けねぇ。オレは…、その…、愛情ってやつより…、恐怖が先に来ちまった。
気が動転しちまったオレは、裏に止めてあった十トンダンプに飛び乗って、一目散に逃げ出しちまったのよ。…かかあやボウズの恨みじゃねぇが、途中で何匹かのゾンビ野郎を引き殺してやった。
…そりゃ、涙で前が見えなくて、避けようったって出来やしねぇさ。
郊外の田舎道で頭を冷やしたオレは、車のラジオを聞いてみたんだが、やっぱりウンともスンとも言わねぇ。
…思い直してパーソナル無線のスイッチを入れてみた。
どこの誰とも判らねぇ奴と話し合えたけど、相手の野郎もてんやわんやの大騒ぎで、何が起こったのかは教えちゃくれねぇ。…意地になって無線のダイヤルを捻っていたら、そのうち東京の偉い学者先生と繋がったのよ。
その学者先生の話じゃ四日前の夜中に、でっかい隕石が神奈川の山に落ちたんだと。そんで、そこから何かが出てきたらしいな。
…いや、化け物じゃねぇ。目に見えねぇ細菌みてぇな物だとよ。そいつが人間の体に取り付くと、遺伝子ってのを弄くって人をゾンビに換えちまうらしいじゃねぇか。
ああ、学者先生の話じゃ、風邪みてぇに空気感染はしねぇみてえだ。奴等の体液がこっちの体内に入らなきゃ大丈夫なんだとさ。
学者先生は、研究室にずっと閉じこもって実験してたから、未だに噛まれちゃいねえけど「構内をゾンビ野郎が彷徨いてるから脱出は無理だ」って言ってるぜ。
聞いちまったからには、何とかしなくちゃならねぇだろ。…それでオレは、ダンプのギアを入れて走り出したのよ。
…でもよ、その前にちょっと寄っていく所があるんだ。
ダチがクレー射撃の散弾銃の所持許可を取ったって言ってた。まだ使える携帯で、そいつに電話してみたけど、呼び出し音だけで応答は無ぇ。
…けどよぅ。オレとあいつの仲だから、勝手に使ったって文句は言わねぇだろ。
そいつが使えりゃゾンビ野郎も、ちっとは大人しくしてくれるかも知れねぇからよ。
十数年前に2チャンネルに投稿したものを加筆訂正しています。




