2.2 抗争介入
2.2
東北の国々では長年幾度と争いが行われている。
今日はその一部の小国のレジスタンスに加勢するらしい。
基本的に死亡や捕虜になる危険性が高い任務故ティア1の仕事となっている。
そして目標は3日間のうちに各隊長の首、戦線の維持、敵部隊の撃退のいずれかである。
抗争への加入なだけあって他のチームからも数人派遣されてるらしい。チーム編成としてはシスターが正面を守り、横から刺す右翼側ヒバナとサメが配置される。
市街地戦のため死角が多く、前線は比較的命の危険を伴う。
そして時は訪れた。
着いた時既に戦は始まっていた。
轟音が響く中詳細を聞かされ、ヒバナ達は先行した右翼のC班との合流からスタートする。
「っしゃ、いっちょ隊長しばいたりますか」
血に飢えたのか、合流前から臨戦態勢のサメを落ち着かせながら先を急ぐ。
前線で神経質になってる味方と合流する為に定期的に信号音を鳴らし、味方から攻撃されるのを避ける。
「えシスター?……こっちだ」
音に気づいて迎えに来たC班の1人が隠れながら、場違いなサメにリアクションをとり、案内してくれる。
小さな音とはいえ的に信号音を聞かれた可能性も考慮し遠回りで本隊と合流し、現状を把握する。本隊の人数は全員で8人とかなり少ない。
「え、シスター?」
「シスター?」
やはり皆場違いな格好のサメに困惑を隠せずにいた。
「子供2人か……でもまあ武国からの応援なら期待していいだろう。な?」
「がんばるっす」
こちら低ティアと中ティアという場違いのコンビ何で期待は御遠慮したいところだが。他のチームはしっかりティア1か2が派遣されてるのだろう。
「ちなみに大将だれか分かります?」
「ここから400m西に敵部隊が陣を置いてる。そこに赤の鎧の男がいる。そいつだ」
「了解、周りはどんくらいすか」
「確認した限りでは弓兵32魔兵26白兵53」
もっといるかもしれないし、応援が来る可能性もあると。
正直なところ大将が分かれば再生飛行で急襲すれば1発だ。
例の予知回避さえなければだが。
「先輩どうすか」
「弓2魔兵4白兵7なら一気に減らせるぜ」
「おぉ、流石武国の精鋭だ。さぞかし名のあるアサシンなんでしょうな」
いえ、低ティアです。
「じゃあ、俺と先輩でとりあえず切り開くんで、バックアップお願いますわ。先輩俺が大将失敗したら大将おなしゃす、取れたらそのまま一緒に散らしますわ」
「え、右翼本隊が到着し次第挟撃開始の予定なんだけど……」
「おいはよ行け」
「うっす」
長い時間組んだだけあり、シッシと手を振られ催促される。
班長がなにか言っていたが聞き取れなかった。
あまりにも得意な状況に緩い2人は少し周りから引かれた。
苦笑いしながら再生飛行で飛び立ち、隊員からは消えたと錯覚される。ヒバナが消えたことを確認し次第サメは抜刀して駆け出す。
「東より一人!シスター!?武器を持ったシスターがこちらに接近!」
「弓兵近寄せるな!」
ヘイトがサメに向いた刹那、空より飛来した黒い影が隊長の首を不自然に抉りとった。斬られたと言うには大雑把で、抉るにしては凶器の痕がない。
常人には理解不能な再生の絶対的攻撃力は鎧すらも豆腐に変える。
「ブラックボックス!」
着地よりも早く地に影を伸ばし、漆黒のカーペットを付近に散りばめ布石を展開する。サメに放たれた雨の如き矢は虚しくも突如目の前に現れた壁に阻まれ静止する。
「ええ、早ッ、俺達も行くしかねぇ!敵を削るぞ!」
「東より続いて6人!って……えぇ!?隊長がやられたぞぉぉぉぉ!」
「なんだコイツは!いつの間に!?」
最寄りの魔法使い3人はカーペットから生やした槍で健を斬り、伏せたところをモヤで作った簡易拘束具で床に束縛。
多方から矢先を向けられ黒もやでドームを展開するが、防ぎきれずに何本か突き刺さる。
しかし隊長を仕留められ指揮系統を失った敵部隊はサメ達かヒバナを狙うかで思考が分裂した。
その隙に減らせるだけ減らそうと槍を展開するが、遠くになるほど操作が複雑で避けられてしまう。
傷を再生で取り消し、再生飛行で詰め寄って敵を斬り裂く。
初見では捉えることが不可能なその挙動は敵に死んだことを悟らせない。
高速で動き、白兵戦を行えば弓兵はヒバナを撃てない。そして、次の脅威である戦場のシスターに目を向ければもうそこに。
「ッしゃあ!ここに告解室はねぇからあの世で懺悔しな!」
「何言ってんだあいつ」
あっという間に詰められ、並んだ弓兵達は次々とククリに血を捧げる。
子供ならではの小柄という特性を活かし、容易に狙いを定らせない。弓兵のカバーに来た白兵の数人は鎧を着込み、ククリでは太刀打ちできないだろう。囲まれたサメだが、正面からの槍の一突きを流し、スカートを持ち上げながら踏みつけ足を首に絡ませると上体を捻り勢いを付けて他の敵に叩きつけた。崩れた敵から回り込みククリからハンマーに持ち替え鎧のない足の裏側を殴りつける。
激しい鈍痛に縛られ動けなくなったら放置し、続けて鎧のない者をククリで切り裂いた。血が滲む前に裂く刃は血を受け付けず次の肉を求める。
振り下ろされた剣は刃で流し、受けた反動を回転に変えて逆の手に持ったククリで首を割る。
詰め寄った白兵にククリを投擲し、頭蓋に刺さった鈍い音を背に、持ち替えたハンマーの鉤爪を最寄りの白兵の側頭部に叩きつけた。
「15」
白兵が減った頃、視界の隅に閃光を捉え、身体を捻りながら跳躍すると足元を光線が走る。
捻った回転から投擲されたククリは命には届かずとも、魔兵の腕の肉を断裂させた。さらにもう片手に残されたククリを着地を狙う白兵に投擲し、残り最後の一本がククリを受けて怯んだ白兵にトドメを刺す。
「20」
矢と魔法を回避しながら拾えるククリ2つを回収し、背後の建物裏に消える。
「さて、後輩君はどんなもんかね」
一息ついて下に位置するヒバナを探すが一目瞭然だった。
辺りは漆黒に覆われ影など写らない。そこで漆黒の鞭と光の刃を振るう男こそヒバナに他ならない。
魔法は壁を作ることで防ぎ、自由に障害物を作って遠距離対策を行う自由な戦いこそヒバナの領分である。
「おら、逃げんな!」
異質な戦い方に怯んで背を向けた敵を、手から溢れたモヤがさらなる腕を生成し、男の胴体を鷲掴みして引き寄せる。
「ひぃ!バケモノ!?」
「そんなに怖いなら撤退してもろて……ってなぁ!」
離れた位置から狙いを定める弓兵に投げつけ崩すと、恐れをなした白兵に釣られて周りの兵達が次々と撤退を始めた。
隊長が死んだ今逃げる指示もなくただ迎撃に走ったが、適わぬ相手を前に兵士達は皆怯えた。
「ふぃーこれで終わりかなー?」
「いやー助かったよって……だれ?」
出会った時の少年ではなく全く別人の青年に困惑しつつも、状況から本人だと無理矢理納得し握手に手を伸ばす。
「お疲れっす」
「おーいヒバナーお前何人?」
高所から建物伝いにぴょんぴょん跳ねながら駆け下りてくるサメは相変わらずの無傷で元気いっぱいだ。
こっちは矢を3本受けたというのに。
「数えてないっすよ。17くらいじゃないすか」
「ならアタシの勝ちだな!アタシは20だ!」
「えぇ!?俺達は6人合わせても10も行かないのに。しかも不意打ちが殆ど……」
「落ち込むことないすよ。先輩が特殊なだけなんで」
とりあえず早くも目標は達成したがどうなるのだろうか。
他の状況が分からない今右翼の保守に務めるのがいいだろうか。
場馴れしてないヒバナの横でC班の隊長が信号弾を打ち上げ目標達成を知らせる。
「伝令係がこちらに来るのを待つ。それまで敵の増援が来ないか警戒してくれ」
「なら機動力ある俺が先の方見てきますわ」
「おう、頼むぜ」
髪を引き抜くとまたもや音もなく消失した。
上空に飛び上がったヒバナは走り去る人の流れを見つけ、その傍に急速降下し物陰に姿を隠す。
「全員で8人だけどバケモンみたいな奴らです!中隊長も一瞬でやられました!特に黒いモヤを操る男とシスターはやばいです!」
「そうか、ご苦労。諸君らは後方に下がり大隊長の指示を仰げ」
「はっ!」
「我隊に告ぐ!この場で移動式バリスタ及び大砲を備え前列に配備!」
物陰から一連の流れを見終えたヒバナは、一旦戻るべく天へ赴いた。
「お、丁度帰ってきたな」
「伝令すか」
戻ると既に伝令係が到着していたらしく、どうやらもう指示を聞き終えたようだ。
よく見たら奥の方に別部隊もいる。あれが右翼の本隊だろうか。
「まったくよぉ!上手くいったからいいけど、お前らの無茶でうちの人間が死んだらどうしてくれんだ!」
「はい、すんません」
怒られた。かなり怒られた。そりゃそうだ。話を聞かずに行ってしまったのだから。
説教が長く続いた後ヒバナは見てきた情報を伝えた。
「バリスタと大砲が待ち構えてるなら進撃は無理だな」
「地形も傾斜が強く戦うには不利だ。どうする」
本来の目的としては右翼で敵を潰しその勢いのまま、敵の正面の部隊の横腹を狙う予定だったが、敵左翼の援軍が追いついてしまったらしく今は攻めるのが難しいらしい。
「これって敵の隊長だけ仕留めれば解決とかないすかね」
「隊長が誰か分かるか?」
「まったく」
「じゃあダメだな」
「あの、提案なんすけど、僕を自由に動かして隊長が割れてる戦場に赴いて不意打ちで隊長だけを仕留めるのどうすか。C班には見せたけど、俺野外での不意打ち得意なんすよ」
あまりにもメタく、あまりにもつまらない戦法のため提案したくなかったが、可能なことは一応提案しておきたい。
「それはダメだ。ズルい」
断られて安心したが、理由はちょっと納得出来ない。
ズルいは流石にないだろう。
「それはお前あっての作戦だ。お前個人がいなければこの先我々に勝利はないだろう」
そういうことなら仕方ない。
「でもどうするんすか」
「一応今思いつく限りでは、うちの魔法士15人で魔法の大砲を不意打ちでぶつけるしかないな」
「バレないように魔法士を射程圏内まで入れて、さらにチャージ中もバレないようにしなきゃならんすなぁ」
「ならこん中で1番強いうちの先輩を囮にしましょや」
しばらく動くことが出来ず、退屈そうに石を蹴っていたサメを見てふと浮かんだ無茶を提案してみる。
「俺ら派遣だし強いし、死んでも損害ないしでうってつけだと思うんすよ」
「お前らが良いなら頼もう」
「じゃあらすぐに行動してくださせぇ、うちの先輩血に飢えてるんで抑えが効かないんすよ」
「よし、ラクラバ、お前に魔法士15人と護衛用に白兵7人と弓兵3人を預けるから準備が出来次第撃たせろ。魔法の直撃を確認次第俺の方で正面から切り開く」
「はっ」
ラクラバと呼ばれる男が魔法士と護衛のメンバーを選び連れていくと、ヒバナはサメを解き放った。
「流石先輩」
アホそうなキャラだがまともな思考を持ち合わせてるサメは、作戦を活かすべく、右から撃ちたい魔法士と反対側の左の林から陽動をかけるように回り込んだ。
「報告!右前方から人影を視認!シ、シスターがこちらへ爆走してきます!」
「報告だと8人。中でもシスターと黒いモヤを扱う男には気をつけろだったか。⎯⎯⎯総員臨戦態勢を取れ!右から一人だ!潜伏を恐れ多方向を警戒しろ!」
隊長と思しき男が指揮をとり兵士達の目付きが鋭くなった。
大砲は正面のままバリスタだけがサメに向けられ、そこから更に弓兵と魔兵が加わりサメに弾幕が降り注ぐ」
木々を盾に駆け回り、木を貫くバリスタに注意しながら牽制を続ける。
「多分あの感じは大丈夫そうかな」
敵部隊の後方に回り込んだヒバナがサメの安否を確認すると、自分に制御できる限界の黒モヤを展開した。
「後方より敵の魔法!人数は不明!」
「なんだと……!?いつのまに!」
半径25mこれがヒバナの現状の限界。
「敵さん見えないけど、数打ちゃ当たるっしょ!」
勘でモヤから生やした槍に光刃を伸ばして敵を貫く。見えないがきっと成功しただろう。そう信じてモヤに穴を開けて奥を見ると。
「あらら……」
展開した黒モヤの壁から生やした槍は敵を数人貫くのみだった。視認出来ないせいで光刃を生やすのを失敗したらしい。
「ってヤバ」
大砲はヒバナを捉え発射される。
「どわあああああ」
黒モヤを貫いて爆発し、後ろにいたヒバナは爆風に内蔵を損傷し、肌は焼け爛れ、爆ぜた砲弾の破片が肉体を刻んだ。
大砲が破壊した黒モヤの穴からヒバナの惨状を目の当たりにし、敵は報告を挙げる。
「大砲の直撃により後方に現れた黒モヤの男の死亡を確認!」
「よくやった。大砲は次弾装填後伏兵に備えて待機」
「だっせぇなヒバナの野郎」
確実な死がヒバナを完全復活させる。
実に10秒。無惨な遺体は疑うまでもなく、見た全員が死を確認した。故に誰も見ていない。ヒバナが不死である証明を。
「やっべぇ……ストック無くてもう死ねないや」
木々が徐々に減り続け、やがて逃げ場を失い始めたサメは少し危機感を覚える。
当然ながら1人では無理だった。
雨のように降り注ぐ魔法と矢。そして逃げ場を潰す驚異的なバリスタの威力。
「そろそろ限界だぜ……」
立ち止まる事の許されない弾幕に疲労が溜まってきた頃、サメは己の油断を呪った。
盾にしようとしていた木が、放たれた矢を受けることなくすり抜けさせサメの服を掠める。
「幻影……!いつのまに」
回避に夢中になっているサメを追い詰めるべく幻影で偽物の木々を紛れさせていたのだ。
近づいて反撃も出来ず逃げるばかりのサメは追い詰められていた。そもそも無理難題出会ったことは気にしてない。
自分がやれると信じて飛び出したのだ。ならばやり通すまで。
「おもしれぇじゃん!」
視界の端に捉えた逃げ場を握った砂を巻いて視線を弾幕から逸らすことなく自然を捉える。
「魔兵、次だ」
幻影の対処に気づいたサメをさらに追い詰めるべく次の魔法が投下された。
「やってくれるじゃねぇの……」
林という戦場に位置するのはサメただ1人。故に有効である嫌がらせじみた手口にサメは舌打ちする。
放たれた魔法が落ち葉や周辺の木々に火をつけさらに逃げ場を奪われた。
「ピィーーーーーーー!!」
味方部隊の方角からホイッスルが響き、作戦の終了を合図する。
敵はその方角を気にしつつサメへの弾幕を怠らない。
次弾装填し終えたバリスタがサメの次の隠木に狙いを定め、放たれようとした時、上空から飛来した漆黒の塊がバリスタを破壊した。
「まだ沢山兵器あるな……」
叩きつけた漆黒のハンマーは地面に触れた瞬間横に薄く広がり、林を隠すように壁を展開した。
「ばかな!黒モヤの男はもう一人いるのか……!?」
視界を覆われサメを追い詰めれなくなった要因を破壊すべく、バリスタや魔法が壁を破壊したが、林にはもうサメの姿はない。
「男とシスター消失!」
「総員、上空の魔法から身を守れ!」
立て続けに更新される状況に情報が纏まらず、空を覆う巨大な影が困惑した思考を1つに纏めた。
「死ぬのか……」
避けられない。防げない。死だ。
頭上を覆う青紫に煌めくの法は、直撃した人間を慈悲を持って焼き尽くし、直撃出来なかった者達をヤスリのように荒くザラついた爆風で切削する。
たった1発限りの魔法だったが、それは敵の半数以上を死滅させるに至った。
巻き込まれないように早めに退散したヒバナはサメを拾って隊と合流した。
到着するとヒバナはサメの服が汚れないように足元にモヤを敷き詰めた。
「流石の先輩も今回は死んだなって思ったんすけど、なんであそこから挽回できるんすか……」
「ヘマして死んだお前とは格が違うんだよ後輩君」
流石のサメもこれには疲れたらしく、黒モヤの上で家のように寛ぎ始めた。自分がシスターであるという認識は持ったことあるのだろうか。
「良くやってくれた2人とも。後は我々が片をつける」
2人の肩に手を置いて労うと戦場に向かって剣を抜き、高らかに吠えた。
「蹴散らせ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお」」
戦場に響く猛々しい声は奥行きを増してゆき、遠くなったことで突破を知り得た。
恐らく半数以上が死に、更にそこから重軽傷者が多数で敵も逃げる他なかっただろう。
「これで右翼が中央を刺せたら初日で帰れるっすね」
「アイツらの実力は知らんけど、数は力だ」
「お、流石の先輩もそう思います?」
「人1人で変えれる戦場なら苦労しないっての」
「ふっ、俺はできますがね!」
適材適所だろう。しかし実際はバレてしまえば警戒されその時点で不可能になってしまうが。
「もうちょっと休憩したら加勢行くか」
「うっす!」
ふと空を見上げた。特に何もなかった。
首を下げたヒバナと入れ替わるようにサメは仰向いた。
「いい天気だなー。なぁ、鳥の獣人なんていないよな」
「聞いたことないすね」
「でっけぇ鳥だなー」
少し気になり同じく仰向くと、確かにでかい鳥が飛んでいる。逆光でシルエットでしか分からないが、それは分離し次第に大きくなり。
「やばくね」
「ブラックボックス!」
影の落下地点から退き、足場一帯に黒いカーペットを敷き詰める。
「サメ先輩体力は?」
「八割ってとこだな」
「十分すね」
相手は大柄の獣人。高所からの落下に難なく耐えては2人の前に立ちはだかる。
見るからに硬そうな獣毛でククリ程度では太刀打ち出来ないだろう。
「左の方がヤバい言うから来てみれば、何だガキ2匹じゃねぇか」
どうやらこの獣人は敵の増援だったらしく、奥の手なのかかなり遅れての登場だ。
「ったく……お前らんとこには人間しかいねぇのか?張り合いねぇ。右に行ったトカゲ野郎とやりたかったぜ。といっても味方でやれねぇがな!ガッハッハッ!」
以外にも1人で喋る鬱陶しいやつだ。こちらの2人は緊張で張り詰めてると言うのに。
「先輩今日では帰れないかもっすね」
どうやら左翼の部隊は竜人に襲われたらしい。
どちらが来ても絶望には変わりない。
人1人で変わる戦場はない。しかしそれは人間に限る話。
人外の怪物代表たる2種。竜人と獣人の傭兵。
数では覆しきれない種族差がある。
「まあいい。降参だけはするんじゃあねえぞ」
両手を広げ身体を大きく見せる姿はまさに野生。
本能が逃げろと訴えかけてくる。
逃げることは容易いが、逃げれば戦局が変わってしまう。
であればやることはひとつだ。こいつの足止め。その間に味方が戦局を変えてくれることを願うのみ。
「嘘だろ……!?」
瞬く間にこちらの戦局が傾いてしまった。
素早い動きで振り下ろされた片足が地面を砕き、漆黒のカーペットを崩壊させながら、足場を隆起させ沈下させる。
立つのがやっとな現状、幸いにもファーストタッチに選ばれたのはヒバナだった。
歪んだ大地を押し込む踏み込みから放たれる横蹴りは受けるには重すぎる。再生飛行で同じベクトルに飛ぶ瞬間的な判断は、残基のないヒバナの命を救った。
「いいぞ!」
続けてサメを狙うが、姿勢を確保しサメは反撃に移っていた。効くかも分からないククリと念の為のハンマーを握って振り下ろされた獣爪をすり抜けて3度両手を入れ込んだ。
「どうすか?」
「やべぇ」
「ですよねぇ」
再生による速度度外視の貫通攻撃が使用できない現状、攻撃を通せるとしたら光刃のみだ。果たしてそれがフィジカルモンスター相手に通せるだろうか。
「先輩、成功するか分からないすけど、過去に妖魔と戦った時のあれやりましょ」
「しくじんなよ!」
「うっす!」
獣人を中心に半径7mのカーペットを展開すると同時、2人で両サイドから詰め寄った。
再生飛行で先に背後に回り込んで光刃を生成し、全速全開の速度で獣人に打ち込むが。
「それはやばいな」
「浅いッ!」
見切られ流れるようにカウンターを受け、ヒバナもまた再生飛行でダメージを流す。そのカウンターから派生した裏拳がサメの頭上を流れ、回転を落とさず硬い獣毛に覆われた膝が飛び出すと同時、黒いカーペットから棒が生え行く手を阻んだ。しかし、強力な膝蹴りを止めること適わずあっさりへし折られ、サメも期待はせずに回避し、折られた棒の根元を握ってククリのようにそれを振るう。
「ッッ!?」
サメの素早く的確な動きは獣人の全身を浅く切り刻み、サメに合わせて伸びる黒モヤは容易く首に到達した。
しかし。
「このボケカスがぁああああ!!!!」
肩から首にかけての斬撃に光刃は残らなかった。
そう。これはヒバナの空間把握能力による力技の技術だったのだ。故に、伸ばされ過ぎた後半はヒバナの管轄外へと旅立ってしまい、敵に手の内を晒して失敗に終わる。
「なるほどな。お前がこの黒いのに触れてる間それができるのか。面白い」
「なんで肝心な時に失敗すんだよボケが!」
「いや失敗すること考えて片足だけでも奪っておけよ!伸びると難しいって前言ったじゃないすか!!」
もう同じ手は通用しない。どうしようか。
「こんなんもう正面からいくぞ!」
「ヤケクソだあああああ!」
万策尽きた2人はヤケクソに駆け出し2人して正面から突撃する。
「もう終わりか?」
「バカにすんなよ!うちの国では有名コンビなんだよ!」
「悪名がな!」
獣人の攻撃を回避し、敵を鎧と仮定して鎧の弱点部位を狙うが、素早い動きに攻撃できずにヒバナと交代する。
ヒバナもそれなりに回避するが、サメほどの速度はなく獣爪を回避した後の回し蹴りをダイレクトに直撃させた。
「ッッ!」
「ふふ!痛かろう馬鹿め!」
あらゆるものを切り刻む光刃で、その攻撃を受け止めることで獣人の足を奪うことに成功した。その代償に体の骨の殆どを持っていかれたかが、すぐさま復元再生で万全に回復する。ダメージを消して刺さった光刃で切り刻もうと振り下ろすが、その前に足を抜かれ奪うこと叶わなかった。
しかしかなり深く刺さった事だろう。現にその足からはかなりの出血が見られる。痛みも酷いだろう。
ダメージを見る前に即座に詰め寄ったサメが床から光刃を受け取り、回復したヒバナと同時に襲いかかる。
残された片足で瞬時に後退し、獣毛ごしでも伝わる筋肉の膨張を露出させた。
ヒバナに連動して動く床はサメの速度に合わせて走り、獣人を間合いに入れると光刃を展開する。
命を刈り取る獣爪が横切るのを眺め、空いた脇腹に光刃を伸ばすが避けられ、その反対からサメが低い姿勢を維持したまま脚を裂いた。
瞬間、再び筋肉が膨張し先程ヒバナに刺された方の足がサメの足場を砕いた。
「……!おいヒバナ!ダメだこれ!」
「……え?」
「切っても埒が明かんぞ!こいつ筋肉を膨張させて力技で傷を塞いでやがる。少し切った刺した程度のダメージは全てすぐに塞がれる!」
「限界まで斬りましょや!」
「っしゃやるぞオラァ!」
2人は馬鹿であった。
「最高じゃねぇのお前ら!」
そしてその正面から突撃するバカ2人に獣人は歓喜に歯茎を剥いて口が歪む。
唾液に塗れた獣牙をむき出しに両手を地に着けて駆け出す姿はまさしく猛獣の走法。パワフルな速度は2人を分裂させ、ブレーキと同時にかけられた強力な急転回は相手に受身を取らせない。
光刃で受けようとするヒバナのガードを、そのまま獣爪が肉を裂いて片腕と脇腹を抉りとる。
「……ごっぷ……」
ヒバナはあまりのダメージに膝を崩して地に伏せた。
傷は深く出血も多く死亡は必死。一方光刃を正面から受け止めたその腕の傷は変わらず浅い。
「……やべぇ」
ヒバナが重症を負った今光刃を作ることはできなくなっただろう。体力もそこが見えず、子供のサメと比べて持久戦は分が悪い。果たして攻撃が通らない現状時間を稼ぐ事が出来るだろうか。
続けて4本の脚から繰り出された跳躍は、距離を置いたサメにたった1歩で追いつき、獣爪を浴びせるが脇腹に潜られすり抜けられてしまう。
「……ッ!」
しかし避けたはずのサメは片腕を抑えて溢れる血を止血している。確かに獣爪は避けた。が、それを潜った先の尻尾が鋭い刃となりサメに斬りかかったのだ。
スピードで負ける現状爪を正面から避けるにはすり抜けるしか出来ないが、尻尾まで刃物となると話が変わってくる。
ましてやずっと同じ逃げ方をさせてくれるほど敵は弱くない。
「チッ……」
唇を噛み締め絶望的な現状にただただ床と接続された黒い棒を握り締めることしか出来なかった。傍らのヒバナはピクリとも動かない。ついに死んだのだろうか。
「……!」
「嬢ちゃん次は避けきれるかな!?」
3度目の突進。全て同じ直線運動だが、轟速故に回避が間に合わない凶悪な技だ。
2度目の回避となるサメはハンマーと黒い棒を両手に握り締め、姿勢を低くし跳躍に合わせて前進した。
再度すり抜けるだろうと呼んで繰り出される獣爪は、軌道が変わりサメの回避を許さなかった。
がしかし、サメもまた同じ回避は使用しない。
紙一重で獣爪を捌き、振られた腕にハンマーの爪を引っ掛けて身体を引っ張り、獣人の力を利用して高速回転すると獣人の左腕が地に落ちた。
「……なにィ!?」
高速回転で削り取られた肉は塞ぐこと間に合わず、骨に達した後、すぐに残りの肉を断裂させた。
光刃の存在を知覚した瞬間、ヒバナに視線を送ったが既に手遅れで光を半分失った。
「……ッ!?」
「…………驚いたぞ。回復なんて1部の獣人の特権だと思ってたんだがな……!」
激しい痛みを抑えお得意の肉体改造で止血を行うと、喜びか口を歪めて牙を剥く。
「まだ慣れてなくて一発目は時間かかっちゃうけどね」
「ナイスタイミングだぜ」
「恐縮っす」
2人は決して獣人から目を逸らさずに、拳の側面を互いに撃ち合って並ぶ。
「もうやられ役は勘弁だから反撃させてもらうぜ」
「こいよ。今度は確実に殺してやる」
「……!」
両者の間に緊張が走る。あらゆる些細な動作に敏感な現状、指の動き1つで全身に激震が走るだろう。
沈黙と緊張が張り詰めた環境下、双方動くことなく時間が過ぎた。
「そういうことかよ……殺してやるよ!」
ヒバナの魂胆に気づき怒りに疾走した獣人に、ヒバナはようやく気づいたかと少し笑ってしまった。
「10分ぐらいは稼げましたかね?」
ヒバナとサメは打ち合わせもなしにやり遂げたのだ。本来の目的時間稼ぎを。サメはもともと突撃するつもりだったが、動かなさすぎるヒバナに違和感を覚え理解した。
「さあ、来るぜ!」
唯一確実にダメージを与えてきたサメを最初に狙い、回避をさせまいと大地を蹴り飛ばす。
小さく形も悪かったおかげか幸いにも衣類は貫通することなく受け止めたが、それでも物量と相当なダメージがサメを襲う。
ヒバナが立ち塞がるように割り込むが、今度はいつの間にか握られていた石を投擲され、黒モヤを展開して防ぐ。
軌道を逸らされた石ころは黒もやを破壊しながら彼方へ飛翔し消え去った。
追撃をさせまいと踏み込み、光刃を展開して獣人の間合いに押し込むと、双方最速を尽くして腕を振るい、軽い血飛沫が地面を染め上げる。
獣爪を紙一重で回避し、形状を変えて歪に広がった光刃が大雑把に獣人の脇腹を裂いた。
背後へ回ろうとするヒバナを尻尾で迎撃するも、躱され背中に切込みが入り、傷を塞ぎながらヒバナのいる場所を踏み抜き反撃に回し蹴りをばす。反応が間に合い再生飛行で後退して回避する。
入れ替わりに潜り込んだサメが獣人の足を刻もうと光刃を伸すと、持ち上げられた足がサメの足元を砕き、伸びた黒もやを破壊する事で光刃は失われた。
「……!」
武器を失い後退を強いられるが、そうはさせてくれないらしく、踏み込んだ足で軸を築き、そこから繰り出される即死の威力を乗せた回し蹴りがサメを襲う。
「間一髪っすね」
「ナイス」
首と胴体をしっかり固定するように抱き締めながら、再生飛行でサメを攫う。
「先輩は死ぬんだから無茶しないでくださいよ」
「お前弱いくせに吠えるな」
「これでも自信ある方だったんすけど……」
この国にいると強欲の子供達が可愛く見えてしまう。
といってもサメの弱点は今まさに顕著に現れている。ジャンケンすぎる強さのためサメが強欲の子供達に勝てるかは定かではない。
土を操る子になら勝てるかもしれない。
「ラウンド制は無しだ!次は死ぬまで追いかけて殺るぞ!」
「らしいですわ」
血に飢えた獣は煮えたぎる本能に全身を委ね、更に筋肉が膨張した。流石にこれで決着をつけたいらしい。
四足歩行。膨張した太腿がその速度の計り知れなさを物語る。グルルと唸りをあげる猛獣は唾液を零して地面に染みさせると力を解放した。
⎯⎯⎯刹那、2人は巨人を見た。
否。圧倒的脚力によって蹴り上げられた大地に幻視させられたのだ。
その中心より迫る巨躯は牙を剥きその喉奥を見せつけ本能的恐怖を炙り出させる。
「先輩!」
獣人が動く直前にサメを再生飛行で連れ去り、慣性を乗せて投げ捨てると、ヒバナは迫る獣人と対峙する。
両者互いの間合いに踏み込み一閃。すれ違いざまに負傷したのはヒバナだった。獣爪は避けたが尻尾を避けきれずに肩を裂かれてしまう。即座に黒モヤを肩に埋め込み、戦いながら代用再生を試みる。再生に頼りすぎるのは良くないと分かってはいるが、実力不足を補うには再生しかない。
痛みは耐えれる範疇である為動きに支障はない。
立て続けに襲う獣爪の連撃は黒モヤで受け止めるには強度が足りない。光刃を可能な限り伸ばし、更に地面からも光刃を生やすことで獣人の気を逸らす。
「小賢しいわ!」
光刃のない黒モヤの根元を折ることで安全に光刃を対処しつつヒバナに牙を剥く。
迷いなく流れるように光刃を捌きヒバナに迫ると、ヒバナはモヤで壁を形成し、視界を自ら塞ぐという自殺行為を行った。
獣人の位置は掴めず床からの光刃は狙えない。即ち獣人がまっすぐ殺しにくるということ。
故にスピード勝負である。
獣人が到達する前に攻撃を仕掛ける。ヒバナは黒モヤで槍を形成しながら投擲の構えを取り、形が完成する前に槍を投擲した。大雑把に極太で作られた刃は、獣人の膨張ですら誤魔化せない傷を残せるだろう。
ヒバナから伸びつつ、勢いを殺さず飛行する槍は壁と接触すると、水面の如くすり抜け壁に迫る獣人に光を放つ切っ先を誇示した。しかし手練の獣人には難なく避けられ、壁を広げながら続けてもう一本、床面スレスレのアンダースローで投擲する。それすらも走りながら回避されたが、外れることを想定して投げていた故、ヒバナはもうそこにいない。
壁を広げて見えにくくし、さらに下に注意を引かせたタイミングで再生飛行し、音一つ立てずに後方から奇襲を仕掛ける。
「ぐッ……!」
光刃を突き立てようと迫った瞬間、背後に伸ばされた手がヒバナの首を捉え、遠心力に逆らうこと適わずヒバナは大地に叩きつけられた。
「………ッッッ!」
全身に響く衝撃は肺を麻痺させ呼吸を封じられる。
「残念だったな!音無く移動しようともそのクセェ臭いは消せねぇ!」
再生のストックがない事が悔やまれる。息苦しい数秒を獣人が待ってくれるはずもなく。首を掴んでいた大きな手が反撃に動いたヒバナの腕を引き裂いた。
肺の不調と激痛が意識を遠のかせ、久しく訪れた死を覚える。
「お前のあらゆる行動は全て手から始まる。床のやつ以外はな。だがその手じゃお前は動けないな。床もその呼吸じゃまともに狙えないだろう」
行けるだろうか。過去に死に瀕した時の全身代用再生。
ダメだ。意識が薄れてまともに操作が出来ない。
無理なことを行うより慣れた守りに専念するべきだろう。
だが黒モヤでは容易く砕かれてしまう。かといって光刃を作れる気力もない。
「嬢ちゃんを相当遠くに飛ばしたおかげでトドメには間に合いそうにないな。あばよ、楽しかったぜ。左目はお前にくれてやるよ、勲章としてな」
僅かな時間の呼吸困難。ようやく呼吸が戻ってきたがもう遅い
死線に瀕したヒバナはイメージした。ひとつの小さな球を。大きな影が球に吸い込まれ、次第に小さくなってゆく。それを掴み取ると手に巻付き、空に放つ。
それは現実となり、ヒバナの影から獣人めがけて漆黒の手が伸びた。しかし速度のないそれは避けるまでもなく、阻むことなく獣人のトドメの一撃を許した。
「お、ついに死ぬかお前も」
今際の際に聞いたサメのリアクションに落胆し、迫る獣爪を眺めていたら、死神が鎌を携え舞い降りる様を幻視した。
黒衣に身を包んだソレはまさしく死神だ。湾曲した刃閃は煌びやかに空を写す。
雲がかかり白く染まった空が赤に変わった時、死神の標的はヒバナでない事に気づく。
「2人ともよくやった。上等だ」
それは死神ではなく、うちのボス、シスターだ。
二振りのショーテルが獣人の胸をクロスを描いて深々と刻み、反撃に伸ばされた獣爪を回避しながら腕を裂く。
「……ッチ、このクセェ黒いやつで気づけなかったぜ」
獣人の形相が一変し、膨張した筋肉が収縮し次第に縮み始めてゆく。それは僅か一瞬の変態なのだが、シスターはお構いなしに変態中の獣人にショーテルを浴びせた。
「ッチ……そっちのタイプかよ……!」
殺すことだけを目的としたシスターに苛立ちを見せ、変態を諦める獣人は表情が少し渋い。
「どうした。戦いが好きなのだろう。どんな姿でも立ち向かえ。そして死んでゆけ」
「そうだったな。分が悪いとか柄じゃなかったぜ!だがこれだけはさせてもらうぜ!」
ひとっ飛びで落とされた片腕まで跳躍し、腕を変態させて接合する。距離を置いたことで出来た一瞬の隙を逃さず全身を変態すると、前に比べて細く小さく纏まった姿となる。
それは筋肉から獣毛まで全てが凝縮し纏まった姿、言わば鎧である。魔道具と言えど簡単に刃は通せまい。
「お前とさっきのガキ同じ格好してるな。あれだろ見た事あるぜその格好!主婦ってやつだろ」
「そうだ」
「いや嘘つくなし」
「多様性だ」
「何が!?」
「あまり長くもたねぇからフルスロットルでいくぜ!」
凝縮された筋力から放たれたパワーは先とは1段階速く、さらに2段階重い一撃を放つ。
「魅せれるか人間!」
受けることなく獣爪を流すが、あまりの重さに骨が軋むのを覚える。
「おいお前ら」
「なんすか」
後退したシスターが目を逸らすことなく問いかけてくると、死に瀕したにも関わらずヒバナは平然と受ける。
「やばくね」
「シスターが弱音吐いたら誰が勝つんすか」
「馬鹿言うな。人間誰しも限界がある。攻撃が効かない相手には流石の俺も無理だ」
サメ同様、回避しかできない無力になったらしい。
「それに関しては俺の再生が終わったら何とかします!」
「復活するならまた殺すまでだ!」
「今終わったよーん」
再生飛行で逃げ切り、黒もやを展開するとシスターに光刃を渡す。
唯一自分を殺せる存在と認識した獣人は執拗にヒバナを狙うが、ヒバナもまた地面から離れることなく再生を利用して獣人の速度に対応し続ける。
「おい獣。懺悔する事はあるか」
光刃を手にしたシスターから放たれた重圧に獣人は釘付けにされ、ヒバナを狙うのを中断して向き直る。
「あんまり伸ばすと接続切れるので気をつけてくださいよ」
「よう、死に損ない」
ゆっくり歩いて追いついたサメが後ろから肩を叩いて観戦する。シスターがいることで警戒心が失われたのか、誰が見ても無防備だ。
「まあいい、お前をやればあの二人は相手にならん」
「言われてるぜヒバナ」
「いやあんたもすよ」
呑気な2人の会話は場違いにも程がある。
「遺言はなしか」
「お前もな!」
ヒバナの光刃の対策は、本人を絶つか、根元を断つかの2択である。それを理解している獣人は四足の姿勢で最高速度の強襲をしかけた。
勝負は一瞬だ。
流水が如く流れるシスターは獣人を過ぎ去って2人の元へ歩き出す。
「汝の罪晴れるかは知らんが、安らかに地獄に行け」
圧倒的強者の余裕というものだろうか。
周囲に血を滲ませる獣人は静かに大地に沈む。
「先輩、あれ本当に同じ人間すか」
「わからん」
「御苦労。上出来だ2人とも」
「おつかれっす、竜人の方は大丈夫なんすか?」
「案ずるな。同じくうちから派遣された華歌家が向かった」
「かかか?」
ふざけた名前のチームがいるものだ。いや、前ギルドのうちのサークルよりはマシだった。
「前話した歌姫んとこのチームだ」
「ふぁー、ナンバーワンのとこも来てたんすね、ならほぼ勝ち確だぁ」
どんな戦いか是非とも見てみたかったものだが、もう終わってそうだ。
「中央の部隊も、右翼が参戦したおかげで俺が離れられるようになった。初日でノルマ達成だ」
「よっしゃ帰れるぜ」
スカートの砂を払い落としながら静かに喜ぶ姿は、口とはかけ離れて慎ましい。
その後すぐにレジスタンスは勝利を掲げ、応援で呼ばれた武国の活躍を称えるべく基地へ案内されかけたが、仕事柄深く関わることはしない為、契約外の事は全て断り何とか帰らせてもらえた。
「お前ら強くなったな」
「この人に言われると実感わかんすよね」
「煽ってんだよ。それくらい分かれよ」
「お前らボスに対して失礼にも程があるぞ」
意外とうちのボスは優しい。ゆるふわ教会という訳分からない名前も今なら納得できる緩さがある。約一名を除いて。
「おいヒバナ!そういえば次の仕事も付き合えよ、おもしれぇの見つけたからよ!」
「えぇ…どうせまた共食いでしょ…?」
共食いとは、同じ武国の依頼同士で敵対する形になることだ。例をあげれば、暗殺依頼と護衛依頼だ。
当然依頼主はそんなこと知る由もないもなく、受け手も知る由もない。しかし何故かこのガキはどこからか嗅ぎつけては妨害を楽しんでいる。
「先輩のせいで俺ごと問題児扱いされて町中でいっつも睨まれてんすよ!?」
「お前もいつもノリノリで楽しんでるじゃねぇか」
心当たりがない。絶対に違う。それを証明してみせる
相手チームに謝りながら護衛をして見せよう。
人格の腐ったサメとは違うんだ。
⎯⎯⎯翌日の昼。
荒くれた町の中で一際目立つ大きな爆発が起きた。
「ハッハー!その程度でうちの主人をやれると思ってんのかァアアン?」
「プロの殺し屋ならしっかりうちの主人殺してみやがれぇえ!」
「えぇ!?」
「あの人達に護衛任せて大丈夫なのでしょうか……」




