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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第2章 武国
59/60

2.1 ニューライフ!

2.1




殺しが芽生え、国を追われ住む場所を失った鬼は、聖地へと向かった。そこに罪はなく、あるとすれば殺さぬ事。

人の世ならざる聖地は鬼が集う。

罪を持つ者。持たぬ者。種違えど皆等しく聖地では人である。


「おう後輩、様になってきたんじゃないの」


「うっすサメ先輩おつかれっす。ランク俺より下なんだから威張らないでもらっていいすか」


「……ッ!」


任務の最中、後輩を冷やかしに来たつもりが言い返され無言で蹴りをお見舞いする。


「……ちょっ、バレたらどうすんすか!」


「関係ないね、そしたらお前のティアが落ちるだけだバーカ」


ティアとは、この仕事の難易度の上限を定める階級の事だ。

全部で7つのティアがあり、1人で仕事に行けない初心者はティア7。それを卒業し一人で行けるようになったらティア6。今ヒバナに同行しているサメがそこである。そして教会の一員になって1年が経過し、教会のメンバーに指導され飛躍的に成長したヒバナは現在ティア4である。


「つーか先輩なんだから敬えよ!お前ヘコヘコしてたの最初だけじゃねぇか!」


「あーはいはい、先輩凄い、素敵、尊敬〜満足?」


「はいー焼入れまーす」


ブチッと何かが頭で切れたサメは口に出すより先に咥えてたタバコをヒバナで消火した。


「アッッッツッッ!!何してくれてんだ低ティアコラァ!」


「あー言ったなーお前言っちゃったかー。はい殺すー今殺すー」


火の消えたたばこを投げ捨て、腰にぶら下げたククリを両手に握る。


「あーやってやるよ!毎度毎度俺は死なないし傷が残らないからって好き勝手やってく……」


対するヒバナは黒モヤを展開し周囲を純黒に染めながら腰を持ち上げゆっくり振り向くと。


「オラァ!先手必勝!」


恥も外聞も知らん顔にサメは、背中を向けているヒバナに問答無用でククリを振り下ろした。


「させるか外道め!お前の姑息さは読めてんだよ!」


ククリが下ろされる寸前、いつの間にかヒバナの後ろに黒い棺が出現しており、そこからヒバナはなにか大きいものを取り出して盾にした。


「ッッッ」


確実に急所を狙ったククリは、深々と肉を裂いて鮮血を滲ませた。


「あーあー可哀想に」


無惨にも苦痛の表情を浮かべて死に至った彼はこの依頼のターゲット。

ククリで裂かれる直前に頚椎を再生で消し飛ばし痛みは無いはずだが、怖かったことだろう。ご愁傷さま。


「ッチ。雑魚が横入りするからだぞ。冷めちまったで帰ろうぜ」


「うっすうっす」


約1年もコンビを組まされているおかげか、サメの扱いには慣れている様子のヒバナだが。


「いやー、後輩くんが立派に育ってくれて 先輩 として誇らしいぜ〜」


「このクソガキいつかほんとにシメてやる……」


まあまあ酷い仕打ちを根に持っているのである。


「今回のターゲットもハズレだったみたいすねー」


「あー残念だなー」


ヒバナの初任務の時と、その後数ヵ月後に出会ったターゲット。その2人は全くの他人同士だが、1つ共通点があった。それは未来予知に似た回避行動である。

戦闘力がある訳でもないただの素人がそれを行うのである。

その能力を知ったのは酒場で聞いた噂話からで、とある男が汚職を行い命を狙われた者たちに救済の力を与えているという話を聞いた。

真偽は分からないが、その後に行った仕事で2回目の遭遇となった。そして見た。ターゲットを仕留めた時、確かに近くに男がいたのを。一瞬で闇に消えたが確かに見た。

恐らく能力の回収に来たのだろう。

そしてヒバナはその能力を知っている。

かつてバトルロワイヤルに巻き込まれた時に合ったトリノと名乗る鬼人。彼は能力の譲渡が可能でその時一緒にいたフィストに能力を与えているのを見た。恐らくこの件は奴が主犯だろう。しかし目的が分からない。金稼ぎにしては貰い手が死にすぎて信用を失うだろう。自分の知ってるトリノであればもっと計画的に動き回りを欺くような男だった。似た能力を持つ他人か、別の目的があるのか。

いずれにせよ、次会った時はその能力を回収させない。

そしてトリノを追ってるうちに何故かヒバナよりも夢中になっていたのがサメである。多分再会したらヒバナより先に走るであろう。


「お前さぁ、もっと派手な技とかないの?そんなんじゃ指名貰えないぜ?」


「いや少なくとも先輩よりは派手だと思うんすけどね。先輩ククリ振り回すだけだし」


「アタシは指名とか必要ないからな一生ここだし。でもお前はいつ教会辞めるかわかんねぇじゃん」


「辞めないすよー。尊敬する先輩から離れるわけないじゃないですかー。なんすか、寂しいんすか?」


「……」


肘で腰を突きながら、煽る気全開で棒読みでお世辞を言うが、そっぽ向きながら無言でタバコを吐き捨てられ、期待していた反応と少し違い気まづくなる。

思えばサメ先輩はまだ子供である。所業は子供あるまじき事しかないが。幼い自分に歳の近い後輩が出来てさぞかし嬉しかったことだろうか。


「……ふぅー。あごめん、なんも聞いてなかった」


「シバくぞガキコラ」


「何だとやんのかオォ!?」


いつものように沸騰しヒバナと額を擦り合いながら帰路を進む。

低ティアとかバカにしているが、実際サメ先輩の実力は折り紙付きだ。ヒバナが回復なしで殺しあったら負けてしまうほどに。齢14歳という幼子だが才能に溢れてるらしい。


「お前前はギルドやってたらしいな」


仕事後はいつも飲みに行ってる。何故かこの国ではサメでも飲めるらしい。ジョッキ片手に豆を頬張りながらサメは問う。


「そうすけど」


「今度連れてけよ。お前の先輩としてマスターに挨拶しに行ってやるよ」


嫌だ。絶対に身内に合わせたくない人間ランキング堂々1位連続受賞野郎。


「いや俺国王暗殺未遂及び国王傷害罪で重要指名手配班なんすよ。写真も出回ってるだろうし国に入れないわ」


「そんらもんアタシがお前の顔面歪むまで殴って原型無くせば解決だらう」


正気かこのクソガキ。ろれつが回らないくらい酔ってるが、シラフでも言いそうなのが怖いところ。


「でもまあ近々戦争起きるらしいし、秋国も倒壊するらしいからその後すかね」


「ほーお前の国滅ぶんか!おもしろー」


愉快で何よりです。


「ウチとどっちが滅ぶの早いのかなー?」


「え、教会滅ぶんすか!?」


「いや武国。なんかほかの国々が手を組んでウチを潰そうとしてるらしいよ」


「ふぁーそら大変だー。みんな癒着しててなんやかんや大丈夫だと思ってたわ」


どっちが滅んでも自分は待つのみなので影響は無い。なんなら教会のメンバーとして生き延びていれば何かしらあやかれそうでもある。実際教会のボスのシスターはティア1でかなりの実力とある程度の権力があるらしい。出会い方は最悪だが出会えたことは幸運のかもしれない。


「でもまあ大丈夫っすよね、みんな強いし」


「実際どうらかなー。確かにうちは他に比べて水準が高くて強いけどよぉー、あくまで暗殺だったりで戦争なんてした事ないのがほとんろらぜ?ましてや多勢に無勢」


サメ先輩意外とまともな思考を持っていたようだ。馬鹿だと思っててごめんなさい。


「れもまあ、一騎当千すれば大丈夫らぁー」


「そっすねー、ちなみに教会は武国でどのくらいの位置なんすか?」


「シスターらけならともかく組織で言っらら6番目」


「はえー凄い」


聞いたはいいけど、そもそも組織がどれだけあるかが分からないしみんな個人でやってそうだ。


「1位はどんなチームなんすか?」


「ボスが歌姫って呼ばれてるウチと同じ女のボスらな」


いやうちのボスはシスターだけど女じゃない。


「チームの水準で見ても比較的質が高くて個人で言ってもトップを総ナメするようなバケモン連中ら」


「流石、よくある強豪チームって感じですな」


「戦争なったらそこが中心となって仕切るんじゃねぇかな」


「クローリさんは?あんなに強いんだから1人でも国滅ぼせそうだけど」


「あーアイツは戦わんぜ。自分が戦ったら引退した後国を守れないって理由らしい」


「まあ確かに、頼りすぎて引退されたらそれこそこの国終わりですわなぁ」


「てかまぁ、自分家守れんやつはこの国に要らねぇよってな」


1年以内に秋国が攻められるなら、武国はもっと早いか、その後になるだろう。戦争の規模で言ったらかなり小さいので先にこっちを手早く終わらせ秋国攻めに加入しそうであるが。

秋国攻めになんなら参加したいところではある。


豆が切れたのか、サメは皿をひっくり返しては置いて俯く。

子供だしいい夜更けだしそろそろ上がり時だろう。

教会は悪名高く認知されてるせいで誰も今更違和感を持たないが、一般的な人らが見たら今の飲み会はあまりにもイレギュラーであり、摘発すべき光景だろう。子供が2人、夜更けまで酒飲んでは喫煙する。無法地帯にも程がある。


「先輩帰りまっせ」


しかしヒバナも慣れたものだ。酒に呑まれずにサメを背負って帰る。恒例行事となり当たり前の事となった習慣。

教会にあるサメの部屋に送り届け、ベッドに投げ捨て帰宅。

冬だろうと夏だろうと変わらない。バカなのかサメは風邪をひかない。故に適当に捨てる。


「ゴイルさんお疲れ様っすー」


いつも門番をしていて仕事しているところを見たことがない。もしかして徴収された報酬がゴイルに支払われてるのだろうか。

というかこの国のこの教会という誰も悪事を犯そうとは思わないような場所に門番が必要とは思えない。


「ふぃー今日もお疲れ様俺」


ここに来て1年。沢山の仕事をし、18の暗殺を達成した。

殺すことだけが仕事だと偏見を持っていたが、実際は護衛系が主だった。そりゃそうだ。そんな何人も毎日殺されていたら大問題だし、貴族や王族や政治家が根絶やしになってしまう。

次に多かったのは代理決闘である。割と多いらしく、賭け事や争い事の際に代理で戦わされる。これは割と楽しくて好きだったが、たまにある八百長はどうも苦手だった。


「数日オフだし何しよっかなー」


ティアが上がる事に仕事に行く為のクールタイムが増える。

経験が必要なティア7ではクールタイムがないが、ティア6では1日。5では3日。4では6日とどんど増えていく。

理由としては平等に仕事を回せるようにということらしい。

仕事に行けない分、ティアが高ければ報酬も高いため困ることは無い。しかし、同行ということであればクールタイムは適応されないらしく、自分がクールタイムの間、他の人の仕事に同行して稼ぐことも可能である。

現在ティア4であるヒバナは6日間暇になる訳だが、その間にティア6であるサメの仕事に同行してもいいだろう。


翌朝、ヒバナは骨に響くような騒音で最悪な覚醒を迎えた。


「オラァ起きろ後輩!仕事の時間だオラァ!」


どこかの教会のチンピラが扉を蹴破って金属を耳元で弾いた。心臓が飛び出んばかりの激しい鼓動は再生で鎮め、気を落ち着かせてからベッドをゆっくり降りた。


「うちにご近所さんが出来ないのってサメ先輩のせいなんじゃ……」


思えば教会入る前からサメに突撃されていた。

新しい人が来る度にそんな事してたら一生ご近所さんは増えないだろう。教会付近は本当に誰も住んでない。


「で、なんの仕事すか」


「知らん。シスターから人工補充頼まれただけだ」


たまにあるシスターの手伝いは非常に美味しい。何せティア1の手伝いである。報酬が美味しい分過酷ではある。

基本的に同行に選ぶメンバーはティアは問われず、受注者が自由に選ぶことが出来る。理由は単純で、失敗は自己責任で信用を失う為選ぶ側も考えて選ばなくてはならない。

しかしシスターはいつも下っ端2人を連れていってくれる。

認められているのか誰でもいいのかは分からない。


「すぐに来いってさ」


寝起きで辛いとこはあるがシスターに呼ばれたなら駆けつける他ない。サメだったら無視して2度寝するところだ


「よっしゃ行こうぜ先輩」


向かうは教会ではなく門の馬車屋。

着いた時には馬車が用意されており、乗り込むとすぐに出立した。


「今日は何するんすか」


「レジスタンスの応援だ」

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