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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
56/60

1.29 3度目の正直



1.29




「助けてください!」


「いいとも!」


馬車にしがみつき、涙目で喉をふるわせる美少年と目があい、ヒバナの中で何かが爆発した。

しかし只者では無いこの少年。いや少女か。

こんな町外れで1人でここまで来るなど、自殺行為。ましてや未だ生存してるとなると。


「ヒバナ。この子竜だね」


「え!?」


とりあえず手を貸して馬車に乗せてる途中に放たれたソマリの一言に、ヒバナは思わず手を離してしまった。


「ぎゃッ!」


「あごめん!」


嫌とかいう訳では無いが、過去に散々な目に合った体の記憶が反射的に手を離してしまったのだ。悪気は無い。


「助けて欲しいみたいだけど、ちっぽけな人間とメスガキの獣人に何を望むの?」


「む……!」


体を震わせながらヒバナの前に座り込み、深呼吸で身を鎮める。

震えが止まると再度深呼吸を行い、今度は唇を震わせた。


「じじじつつつつわわのまわわわわぬやれはひわ」


「落ち着け落ち着け落ち着け!」


馬車の揺れと恐怖が奏でるハーモニーは言語として扱うには時代が早すぎるようだ。


「はい、あの、はい。先程村が襲われて全滅しました」


「結から言い過ぎだろ!?説明下手かよ…もっと分かりやすく教えてよ。いや結論はわかったけどさぁ」


「はいぃ、すみません。実は森に悪魔が現れて、つい少し前僕達の村を襲い始めたのです……」


「悪魔……?」


「はい……。僕ら竜人は戦争で多くの同胞をなくし、今や絶滅危惧種と成り果てました。大きすぎる力は恐れられ、近づけば迫害を受けます……恐らくあの悪魔も竜人を根絶やしにするために……」


「でも竜人なら無傷でしょ」


鱗もある。そして大食漢の獣人に匹敵する身体能力もある。そんな彼らが何故今更人里に降りて迫害を受けるのだろうか。


「それがですね……実は流行病によって近年の獣人は弱く衰えてしまいまして」


「それで他を頼るしかないってな。ふむふむ」


腕を組みながら適当に頷いてやると、気が抜けた竜人の目から涙が溢れ出す。


「びぇええん!」


「まだ泣くな。続きを聞かせて」


冷たいようだが、本編に至る前に中止されては対策も練れない。


「グズ……すみまぜん……。両親が僕を逃がすために……」


あーよくあるやつね。それで両親失った悲しみに暮れながら逃げて今に至ってるって訳か。


「八百屋に特産物を買いに……」


「ちょっと待てや」


流れをぶち壊す展開についていけずストップをかけるも、シリアスな雰囲気とは裏腹にキョトンとしたリアクションをされる。


「はい、なんです?」


「なんでそこで殿じゃなくて交渉なの?竜人ってスペック高い代わりに馬鹿なの?」


「そんな……酷い!」


「酷いじゃないだろ!この平和ボケ種族!人の同情返せ!利子つけんぞ!?」


「びぇええん!よく分からないけどすみませぇえん!」


「でなに、助けて欲しいのなんなの……?」


最近つっこむことが多かったせいか、どっと疲労が来て1度賢者タイムを挟む。


「た、助けてください!」


「わかったよ。とりあえず悪魔の容姿ってわかる?」


「そうですね、確かボサついた黒髪、まあまあ大きい背丈の中年男、鬼神の如き冷たい表情と不自然に揺らめく髪が特徴でした」


「めちゃくちゃしっかり見てんな。ほんとに逃げてたんか」


両親の行動とこの竜人の証言からあまり緊急性を感じられなく、段々とやる気が削がれてきている。


「ヒバナー遅れちゃうよー」


「大丈夫大丈夫、最悪再生飛行で後から追いつくから」


ちょっと行ってくるとソマリに告げ馬車から飛び降りた。

最悪ソマリひとりでもなんとかなるだろう。


「……って……お前も降りんかい!?」


「ゲフ……」


何故かソマリと馬車に乗り続けた竜人を叩き下ろし、地面に投げ捨てた。


「とりあえず俺も仕事あるから案内して」


「はいぃ……」


「……。そういえば名前なんて言うの?俺はヒバナってんだけど」


「あ、僕はタケミカヅチと言います」


おどおどしてる割にかっこいい名前で少しムカつく。


「たけみっちって呼ぶわ」


「なんかそれはとても嫌です……!そうですね、間とってミカって呼んでください」


あまりにも間を取っているが、呼びやすくていいな。

歩いていると間に合わない為、背中にミカを乗せようとジェスチャーを送る。


「ヒバナさん凄いですね……人間のくせに竜人より早い移動手段があるなんて」


意図が伝わったのはありがたいが、棘を感じる言い方がムカつく。


「それじゃあ飛ぶそ」


「はいぃ……このままこっちの方向に……え、飛ぶ……?……ぐあああ!!」


初速に負けて勢い乗ったまま地面を滑走し、すぐさま戻ったヒバナに抱くようにキャッチされたが、目が回って立つことができない。


「お前離すなよ!?竜人なら耐えれるだろ!?」


「いやいやいやいや!!!?普通あんな速度だなんて思わないじゃないですか!?普通初見であんなのに対応できるなんて思わないじゃないですか!?説明が足らないんですよ!!」


「ぅうるせぇ!!いいから乗れ!はよ行くぞ!」


あまりの正論に押し負けて、負け惜しみの怒鳴りでその場をやり過ごそうとミカを乗せる。


「次は耐えてみせま すぅぅぅうううああああああああああああ!!」


涙ぐむ絶叫が木々に捕まる鳥達を飛び立たせ、生まれる風圧が枯葉を枝からちぎりとる。


「………!」


鼻をつく焼き爛れた肉の臭いがヒバナに嗚咽を呼んだ。

目的地に着いたと臭いで十分わかる。

木々に覆われ全体が見えないが、すぐそこで大きく燃える何かが、生々しい血の匂いを引き立てる。

まさか、もう既に竜人は……。


「パパー!」


「……え?」


ミカに憐れみを向けた瞬間、ミカがヒバナの横を過ぎて走り出した。


「よかったぁ無事でよかったよォ……」


何だこの茶番。いやいや、無事だとわかったならこの臭いは何だ。


「お前こそ無事でよかったよ……。どれ、かぼちゃのジュース飲みたいだろ、さっき仕入れてきたから飲むといい。ん?そちらは」


まさか買ってきた特産品ってかぼちゃジュースだったのか。上位の種族を狩りに来たやつがそんなもので帰るとは思えないが。


「こちらは助けに来てくれたヒバナさん。だけどもう必要なさそうだね」


辺りを見渡し何事も無かったかのような穏やかな風景に、ミカはほっと胸を撫で下ろす。


父親は小さなかぼちゃに木製の飲み口をつけたかぼちゃジュースなるものを両手に持ち、家から出てくるとヒバナにも気さくな笑顔で振舞った。


「これはこれは、お忙しい中ありがとうございます。ささ、息子がお世話になったのでこちらでも飲んでってください」


「お、あざます」


少し気になってたので少し嬉しい。飲み口を加えた際の木の味の不快感に眉をひそめながらかぼちゃを傾け飲むと。


「うわぁお、美味しいですね!」


以外にも口に合う美味にヒバナは喉を唸らせた。

後で買って帰って家族に振る舞うとしよう。


「ところでパパ何焼いてるの??」


「ああ、これか、さっき来た輩だよ」


「ブフォアッ!!」


穏やかに物騒な発言をカマされ思わずかぼちゃを吐き出してしまった。

争いが苦手な穏やかな種族だと思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。しかも弱体化を受けてると聞いていたのだが。そうでもないらしい。


「3人位いて、1人だけかぼちゃを受け取って帰ってくれたよ。おかげで犠牲者は2人で済んだよ」


1人かぼちゃに負けたヤツがいるらしい。


「ほれ、君も食べるかね?」


そう言って差し出してきたのは焼いた人肉の切り身。

食えるかよ。そんなもの誰が食えるかよ。


「あ、いや、俺これから仕事あるんで行きます」


「えぇ、わかりました。お忙しい中、助力して頂きありがとうございました」


「いえいえ、ご馳走様でし⎯⎯⎯」


最後まで言い切ることなく再生で彼方へ飛び立ったヒバナを見送ると、竜人はほっと息を吐き安堵にを落とす。


「他の竜たちも無事なの?」


「ああ、誰もな犠牲者は出なかったよ。でも1部の建屋が崩壊してな。まあ、それくらい建て直すさ。⎯⎯⎯皆が生きていたらな」


「?…………っガ!」


最後に繰り出された唐突な理解不能の一言に惑って見上げると、いつか見た悪魔の男がそこにいた。思考するよりも早く、ツンと鋭い痛みが首から伝わるとミカの意識は遠く沈んだ。




ーーーーーーー


逃げるように飛ぶヒバナは事前に馬車に置いていた髪の毛に再生を行い、自動で目的地へ向かう。


「よっ」


「早いね、さっき行ったばかりじゃない?」


退屈そうに外を眺めてたソマリだが、ヒバナを見るや尻尾を揺らす。


「そら再生飛行だからね。往復2分とかからないよ」


自分で言っててなんだが、再生飛行のせいで所要時間の短縮がすざま過ぎる。滞在時間と併せて10分もかかってないだろう。

便利な能力だが、欠点をあげるなら速度調節が出来ないことだろう。そのせいで人を乗せれば慣性に負け最悪死にかねない。幸いにも周りがバケモンに囲われてるおかげでそこら辺は賄われてる。


「ヒバナなんで移動の時飛んで移動しないの?」


「そりゃあ……なぁ?飛んでるとすぐに着いちゃうし、2人以上なら危ないし、何よりつまんないからね」


「つまんない?」


ヒバナの言葉に納得がいかなかったソマリは首を傾げて聞き返す。


「そうそうこういう馬車を使えばゆったりと風を浴びて景色とか堪能できるでしょ?」


「そうかなー」


子供には待つという行動が苦手らしい。


「それはそうとようやく着くな」


大したことは無い。ウチと変わらないごく一般的な町での依頼だ。この町には非公式ギルドがなく、そういった町は近隣の町に依頼を送ってくる。そのおかげか、仕事が絶えない。


「どうもー角兎ですー。あなたが依頼主様で良かったですか?」


「はい、依頼したサンズです。今日はよろしくお願いします」


依頼主は中年の男で、さぞいい暮らしをおくってるのか、頬の肉が丸々しい。

移動手段は向こうが手配した馬車2台。

まだ少し予定時間より早いが早速出発した。


「いやあ、何もない仕事とはいえ、こんなに可愛い護衛人が来てくれるとは」


脂汗を拭きながら二人を見て微笑むサンズだが、少し下心が見える。ソマリに手を触れようものなら即ブッチで帰る。マスターも許してくれるだろう。


「おじさん嬉しい」


「………」


おっとこの目はソマリじゃなくて俺らしい。

やめてくれ気持ち悪い。俺にそういう趣味はないんだ。

可愛い男の娘だけにしてくれ。


「冗談はさておき、退屈だから昔話でもしようか」


大丈夫だろうか。ソマリが寝てしまうような気がする。


「第一次反乱戦争か第二次反乱戦争か神話か占いか」


前2つは昔話と言うには最近すぎる気もする。

神話とはなんだろうか。てか占いってなんだ。何を見てくれるんだ、恋愛運を見て頂きたい。


「恋占いで」


「ごめんねそれは無理だ。運命しか見れないんだよ」


「運命……?」


「そう、ざっくりだけど、過去とこの先の未来のポイントが見えるんだよ。聞くかどうかは自己責任」


胡散臭いがスピリチュアルに弱い為聞いてみたいところ。


「ソマリも聞いてみる?」


「……ん」


あまり興味無さそうな反応だが、タダなら聞き得だろう。


「じゃあまずはソマリちゃんからだね」


小包から10本の木の棒を取り出し、手の中で念じながら握り、やがてまとめて全て落としきった。

知らない身からすると誰でも出来そうにも見えるが、これで何が見えるのだろう。


「魚……」


「魚……?」


「ソマリちゃんの食べ残した魚をこっそり食べたのは君の弟だね」


「ヒバナ私帰ってい?」


「だめ」


なんてことカミングアウトしてくれるんだ。帰ったら仲介しなくては。


「未来は……。うん、やめておこう。次はヒバナ君」


何その不吉なキャンセル。自己責任ならいいじゃない。

そこまで大変な未来なのだろうか。

ヒバナの眉に皺が増えると同時、マッチ棒がばらまかれた。


「………。」


「………?」


その言うかどうか悩む素振りはやめて欲しい。何も知らない身としては怖すぎる。


「これ言っていいのかな……」


「どうぞ。全て受けいれます」


「うーん。じゃあ……まず君の過去なんだけど、君のお兄さん……?君の訪れたことのある湖で封印……?されてるね」


お兄さん。全く心当たりがない。強いて言えば神太郎だろうか。いや、神太郎は最近あった故過去と呼ぶには近すぎる。一体誰を見たのだろうか。


「で問題が未来なんだけど、これが恐らく2人とも同じでね、2と10がキーワード何だよね、そしてそのキーワードの先にあるのが」


2人が共通とあらば大方予想は出来ていたが、家族に関わる大事だろう。


「身近な人の死」


「………。ちなみにその未来を変えることは?」


「出来たと聞いたことは無いね。不動の未来だから、大雑把で抽象的なんだろうね」


具体的に見えたら改変できてしまう。故にキーワードのみなのだろう。


「にしても2と10か……どういう意味なんだろ」


2月10日なのか、2年後10月なのか、それとも。


「考えても仕方ないな」


「……!すごいなヒバナ君は。大抵の人は絶望するのに」


「そんなことないですよ。内心不安でいっぱいです……は!」


ソマリの事を忘れていた。身近な人の死という言葉にピンと来ないかもしれないが、もしもそれがハバリやカガリだったらと思ったら号泣してしまうかもしれ⎯⎯⎯。


「………」


そんなヒバナの不安もどこへやら、朝早いのもあってかソマリは寝落ちていた。


静かに寝息を立てるソマリの頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす音が耳に心地よい。

緩やかな風が穏やかな空気を運んでくれる。


変えられない運命があるなら、せめてマシな運命にしたいと願う。


「……!」


ピクリと耳を立てて起きると開口一番に。


「雨が降るよ」


「えまじ?」


動物特有の感性だろう。魔力は感知できても自然は分からない。


「馬を休ませれる場所を探さなきゃ」


サンズは辺りを見渡し何も無いことを知ると馬を急がせた。

確かに後ろから暗い雲が迫りつつある。

しばらく進むと山に入り、ちょうどいい洞窟が現れたので一旦そこで休息をとることにした。


「ところでこの洞窟大丈夫なんですかね」


「一応灯り持ってきたから奥を確認してみるかい?」


バッグから灯りを取り出し火をつける。割と奥行きが深いらしく、なかなか先が見えない。万が一の荷物と馬の護衛にソマリを置いてきたが、この闇の中だとソマリの五感がとても欲しくなる。足音と吐息が耳に響き、吹き込む風の音が不気味さを引き立て足がすくむ。


「アアアアアアアアアアアア」


「!?」


唐突に響いた女性の声にヒバナは走り出す。灯りは狭く辺りを照らしながらヒバナの先を赤く染める。

尋常ではない絶叫に汗を滲ませ、だんだん小さくなる声は生命力が失われていくかのようだ。


「……!」


声が近くなり、足を止めそっと影から声を覗くと。


「アァん♡」


見なかったことにしよう。あれはおそらく見てはいけないものだった。いや、俺は何も見てない。


「おいあんた、見たな」


「ギャアアアアア」


走って逃げようとするヒバナの肩を掴んで離さない男。

その力はまるで人ではなく、拘束具のように微動だにせずその肩を捉え続ける。


「まあまあ落ち着けって、悪かったな変なもん見せちまって」


宥めるように諭すが、その状況は羽交い締めで宥めるには強引がすぎる。


「な?落ち着こうな?」


本人は宥めてるつもりだろうが、羽交い締めからヘッドロックに変わり本当に落ちそうだ。


「やぁ、落ち着いたか?」


気がつけば寝ていた。自動再生の作用だから恐らく10秒程だろう。なんなんだこいつは。落ち着かせるために意識を落として平然とヘラヘラと目の前で座り込んでる。


「あれ、さっき女の子もいなかった?」


「ああ、ポルノスは人見知りなんだ、暗いけどまあ大丈夫だろ!」


女の子だけど、名前ちょっとかっこいいな。


「何でこんなとこで?」


「なんでって、たまには人気のないところでヤリたいじゃん?」


「誰もがそんなオープンでやってるみたいな常識押し付けんじゃねぇ!?」


人気がないにしても、ここは人里離れすぎている気もするが、大丈夫なのだろうか。


「………」


だいぶ奥に来たが、ソマリに音は聞こえてるのだろうか。

もし今ここで襲われでもしたらソマリに逃げることは伝えれるのだろうか。


襲われると言っても、性的にだが。


「お兄……発散後だから襲わない……」


「あ、マジすか」


良かったと言っていいのか、初めて声を聞いた。少し低めの声だ。いや待て。


「え、俺襲われるの?」


「大丈夫大丈夫、気にすんな!」


「気にするよ!?」


嫌だ早く逃げたい。


「ところで何でこんな洞窟の奥に?」


さっきも聞いた質問だが、少し意味合いを変えてみる。


「なんでだと思う?」


「うっざ」


「そんなストレートに言われると傷つくな」


冗談は終わりかと笑顔が真顔に移り、少し俯いて答える。


「持病みたいなもんでさ、人に見られるとその人の生気を吸っちまうんだ」


「……」


え、じゃあ……。


「大丈夫大丈夫、吸い方にも条件があって、人が多ければ多いほど単価が増えるんだ」


「つまり1人なら問題はないと?」


なら安心だ。まあ、再生で問題ないが。

しかし奇妙な病気だ。1種の魔法のようにも思えるが、無差別で制御不能となるとそれはもう呪いだろう。


「え、じゃあ鬼人なの?」


「ああ。お前も人間じゃないみたいだが」


「え、なんで?」


なんの情報も出してないのに見抜かれた。何故だろうか。いや人間だども。


「あんまりなくて忘れてたんだが、生気吸っちまうやつは密着してると直で吸収しちまってな、人数よりも影響がでかいんだけど、疲れる素振りもないし人間どころか生物ですらないのか?」


日常的に疲れたら再生を無意識に行っていた為気づかなかった。吸われた際のニュアンスとしては体力が減るようなものなのだろうか。


「そんなことはないけど、それが呪いだとしたら俺は祝福になるのかな。ある意味死なない体質だから」


「えまじ?俺ら体の相性最高じゃん!」


「その言い方やめてもらえる!?」


しかし、抑えれないその呪いは他者との関係に大きな壁を作るだろう。

孤独な生涯に唯一寄り添える存在は互いのみ。そんな寂しい人生に新たな仲間ができるとすれば大変喜ばしいことだろう。


「あんた名前は?」


「カストルってんだ。あんたは?」


「ヒバナ。そっちが性欲抑えてくれれば仲良くやって行けそうな気がするよ」


「あー。うん。キオツケルヨ」


こいつ見境無さすぎるだろ。

しかしカストルしてもせっかくの仲間を減らしたくないだろうから


ところで、ソマリにこの声は届いているのだろうか。

帰って来なさすぎて探しに来た場合どうしたものか。ソマリが目撃してしまった時、どの程度吸われるのだろうか。最悪命に関わってしまう。

早いうちに戻るとしよう。


「悪いけど、ツレが待ってるから帰るわ」


そっと立ち上がりカストルに手を伸ばすと、カストルは嬉しそうに飛び起きその手を握ってヒバナを抱きしめた。

男にされると気持ち悪いが、その手からは寂しさが伝わってくる。


「………」


なんだろう。腹に当たる硬いものは。

考えてはいけない。それを理解した時トラウマになりかねない。いやもう理解してるからそう結論が出たのだろう。


「ぎゃああああああ!俺も帰る!」


髪を抜いて即座に飛行で逃げ帰るヒバナを見送ると、ポルノスが姿を現した。


「お兄、また友達なくした」


「大丈夫大丈夫、アイツからは優しさを感じたから」


⎯⎯⎯。

⎯。


「あ、ヒバナおかえり」


明るいところに出れば雨宿りしているソマリが迎えてくれた。何故だろうか、安心感を感じる。


「ただいま」


「雨止まなさそうだね」


この様子を見るに、どうやら中の声は届いてなかったらしい。不思議なことに猫なら聞こえていそうなものだが。


「……って、あれ?なんで急にやむの?」


今日はよく不思議なことが起こるものだ。

曇天が目を離した隙にきれいさっぱり晴れ上がってる。

一体何が起きたというのか、とても自然の力とは思い難い。


「これは…行っていいのかな?」


「行ける時に行きましょう」


悩むヒバナを置き去りに馬を出す準備を進め、あっという間に支度が完了した。

洞窟奥に潜む二人を気にかけながら、ソマリに手を引かれて馬車に乗り込む。


「いやー2人のおかげで無事終えれそうだよ」


ちょっとやめてそのフラグ。絶対なにか起きるやつじゃん。


町を目前にサンズが物騒なことを口ずさむので、ヒバナは即座に外を警戒する。

しかし、見渡す限り危険はなく本当に無事終えれそうだ。


街で何も起きなければだが。


「ヒバナー。お腹空いた」


「そうだね、何食べたい?」


「魚」


「ごめん聞いたのが間違いだったわ」


魚以外の回答を聞いたことがない。

サンズが門番と話しつつ、物流特有の定期入門書を取り出す。どうやらそれがあれば持ち物検査はいらないらしく、あっさりと町に入れた。


「それじゃあここまでで大丈夫だから、報酬はまた後で振り込ませて貰うね」


「はーい、またの利用お待ちしてますー」


あっさり別れたが、いつかまた会って話してみたいものだ。

彼の占いには目を見張るものがある。


「……!そういえばここ王都の近くだったような。ソマリー、王都で贅沢するかここで簡単に済ませるかどっちがいい?」


「ぜいたく!」


「おけ」


王都はまだあまり行ったことないから探索してみたさがある。

しかしもう暗い時間だ。ここから王都は馬車で1時間ほどかかる。

今朝再生飛行はしたくないと言っててなんだが、早速使わざるを得ないようだ。


「ソマリ飛ぶよ」


「うい」


雑な説明と雑な返事のやり取りは他人からすれば訳分からないだろう。

そう普通でない彼らの日常は他人からは異常だからだ。

たまたま通りかかった通行人は見た。訳の分からないやり取りをした少年少女が一瞬で消えるところを。

そしてそんな出来事を話しても信じて貰えないだろう。

そんな哀れな通行人は王都でもまた現れヒバナは罪を重ねて街に降り立つ。


「そんじゃま今日は寝て、明日朝イチ帰るかー」


「うい」


部屋は共有ベッドは2つ。兄妹に等しい2人にとって何ら違和感はない。

何も考えることなく眠りにつけた深夜。ソマリの耳がひくつき目が覚める。


「ヒバナ、出よう」


「ん…ん…え?」


寝ぼけて頭が回らず、眠気に耐えるストレスを解消するべく再生で脳を稼働させると、ようやく言葉を理解した。


「ここ、危ない」


「おけ」


何ら不思議では無い。

毎日どこかで事件が起きる危険だらけの環境だ。

恐らく他種族否定派がソマリに気づいたのだろう。ソマリの耳の有効範囲300m以内で動きがあったようだ。

それにしても。


「落ち着きすぎだろ」


「ん」


自分が狙われてると言うのに、まるで慣れてるかのようだ。いや、つい最近まではそんな環境に身をおいていたんだ。


「大丈夫大丈夫。お金は前払いだし出ていこうか」


慣れてるとはいえストレスは感じるだろうと、慰めるように頭を撫で下ろし、黒モヤを出す。


「臭い」


「やかましいわ」


追われるより黒モヤの方が嫌な反応をされ少し落ち込む。

いつになったら人類は他種族と共存できるのだろうか。いや、いくら同じステータスになったとはいえ、力を持つ限り分かり合えないのだろう。


再生飛行を使えば移動は一瞬だ。

何も無いちっぽけな街モルゲンロート。

ここはマスターの顔もあってか他種族に対する偏見の目がない。


「実家が1番だわぁ」


「この時間に帰ると夜這いみたいだね」


「おい待て、お前それどこで覚えた」


ソマリの両肩に手をかけ問いただすとソマリは目を合わせようとしない。


「………」


「お前後で絶対問いただすからな」


ソマリを部屋に届け、自室に戻ると封筒が1つ置かれていた。郵便物は大抵マスターからだが、今回は封筒が初めて見るものだ。


「………。え、まじ?」


中を開けて見てみると、それは王都から、それも王城からの招待状だった。内容は要約すると、1週間後、王都にてレッドパンダ討伐に大きく貢献したことによる功績を称える授与式及び報酬が与えられるそうだ。


報酬とはなんだろうか。

以前見た依頼書だと部下の殲滅で星5の報酬らしいが、殲滅はまだしてない。

となれば星4相当の報酬だろうか。それでも半年分は貰えるそうだし、どちらにせよ美味しいのは確かだろう。


「んーふふー楽しみになってきたなー」


「どしたのヒバナ。気色悪い顔して」


「やかましいわ」


変なタイミングで部屋に来たソマリの毒に応え、はよ寝ろと言うかのように手を払う。


そういえば聞いた話だと幹部ともなれば出会うことも難しいそうな。出会いたくて出会える相手ではないのに、6人とあってしまったのか。

なんという豪運。そして不運。いずれもこの体質でなければ死んでいた。であれば不運だ。

それだけじゃない。出逢えば死を意味するボス2人にも出会ってしまった。もはや仕組まれてるとしか思えない豪運だ。

悪いこともあればその分いいこともあるだろう。それが今回の報酬だと思いたい。


「やべぇ、寝れなくなってきた……」


ワクワクは止められない。

幸いにも不眠でも影響ない体質だ。

外に散歩でも行くとしよう。


そういえば街の外を探索したことが無い。

外と言っても、少し離れたとこに山があるくらいで基本的に平野だが。


「常に魔獣が依頼内容のほとんどを占めてるけど、こうしてみるとかなりいるな」


見渡すだけでもちらほらいる。もしかしたら野生動物より多いのかもしれない。


「ツミビトツミビト」


「ん?」


振り返ればマンティコアが数匹こちらを伺っている。どこで覚えたのか、気味の悪い魔獣だ。


「オマエ、コロシタ。オマエ、スクエナイ」


「……!」


なんともピンポイントで傷口を抉ることか。ここまでピンポイントとなると不気味すぎる。早く殺すか。


「トガビトトガビト、サマヨウタマシイワレココニ」


意味を持つように聞こえる暗号が、光刃を展開し段取りを済ませたヒバナの手を止めさせる。


「なんだ?」


「カルメケメ……」


「!?」


背筋にヒヤリと悪寒が走り魔法の展開を予感させる。

マンティコアは魔法を扱えない。つまり近くで誰かしらが発動させたということだ。

ヒバナは反射的に黒繭を生成し、シオンに変身した。


「トガビトツミビト、タイザイオカシタイギャクノオニ。サバキハイマココニ」


「……!」


魔法の反応が強まった。マンティコアが呼応して口数が増えてるのか、それに合わせて魔法が発動してるのか定かではない。


「こんばんわ」


「………ッ」


声が聞こえた刹那。先に光刃を展開した黒鞭を振るい、声を発したナニカを切り刻む。

風を切り高い音を響かせ肉を経つ鈍い音も同時に響かせる。


「おやおや物騒ですねいきなり殺意とは」


「……!」


視認よりも先に手応えを感じていた。ソレは確かに肉を断ち対象を4枚に下ろした。はずだった。なのにソレは目の前で何も無かったかのようにこちらに詰め寄ってる。


「落ち着いて、私はあなたに危害は与えないと約束します。だから殺意を収めて」


「……!」


宥められてようやく自分の現状を知った。

自分は自分が信じられないほどに殺意を放っていたのだ。そんなつもりはない。少しだ。少しのつもりだった。自衛として先手必勝で襲ったつもりだった。


「そんな落ち込まないでお話しましょう、何かお困りのようですね」


雲に隠れて薄暗かった夜空が月光を放ち、声の主が吸血鬼だとようやく気づいた。

暗くてもわかる程の白い肌。吸い込まれそうな妖艶な魅力を放つ彼女はどこかで見たことがあるようなないような。

思い出そうとすると頭がぼやけるような感覚になる。


「どこかで会ったことありますっけ」


「はて、そうでしたか?」


どうやら気のせいらしい。

宥められるままにヒバナは悩みを打ち明けた。


「なるほど。あなたのことはだいたい分かりました。最近あなたは殺しの衝動に駆られてるのかもしれないと」


「そうです。過去に戦った相手に言われたことなんですが、そいつは人の深層心理を映し出す相手で、その時に自分が映したのは、相手に殺され……そうになる妄想でした。その人が言うには相手から殺されかけたという正当防衛の口実を作ることで殺しの正当化を行おうとしたんだと」


俯いたまま話を終え、顔を上げると彼女は眉を寄せながら親身になって聞いてくれた。


「なるほど。そういう時は自身の生い立ちを振り返るといいのですよ。例えば、あなたは戦いが好きだとか、死線の中にいたいとか、今までのあなたが戦いの中に生きていたのならあなたは戦士であるが故に、そうなったのかもしれませんね」


「戦士……」


思い返すと自分の記憶は殺し合いしかない。

平和を願うもいつも事件に巻き込まれる。いや、自分から向かっているのだろう。

自分でも気づかないうちに鬼が芽生え始めていた。

人は力を持つとその力を振るいたがる。自分もそのうちの一つだ。無意識に戦地へ足を運び無意識に命を奪う。

命を奪うことに執着する様はまさしく鬼。


「何も抑える事はないですよ。あなたが戦を求める戦士なら戦に行けばいいですし、それが嫌なら平穏を求めればいい。ではお聞きしましょう。あなたは戦場が好きですか?」


命を奪い合う戦場が好きなはずがない。命を奪うのも奪われるのもごめんだ。


「あなたの本当に欲しいものは……?」


悩むヒバナの耳元で囁く彼女はまるで拐かす悪魔のようだ。

しかし不思議と答えが浮かんできた。

打ち明けることで、彼女の声で自分の中の鬼を知れた。

そうだ、俺は。


「それでいいのです。溜め込むことはありません」


「ありがとうございます。こんな殺そうとしてきた相手の相談乗ってもらって」


「いえいえ、いいのですよ。最後に1つ助言させてもらいますと、もしもあなたが本当に戦を求めるなら北の国を目指すといいですよ。あそこは戦士の集う場所。戦士の天国です」


「戦士の天国」


「それでは機会があればまた会いましょう」


「あの、お名前聞いてもいいですか?僕はヒバナと言います」


「私はメッシーナ・クローリ。ではヒバナ君ごきげんよう」


別れ際に見せた妖艶な笑みは見るものを虜にし思考を奪うほどの威力を持ってる。あまりの威力に彼女が目の前でフェードアウトして消えたことにヒバナは気づくことがなかった。


「………」


唐突な出会いだったが、最後に感じたのは何となくだがまた会えそうな予感だった。

そしてその予感は図ったかのようにすぐ訪れるのだった。


⎯⎯⎯時は流れ1週間後。


「ヒバナどうしたのそんな綺麗な格好して」


カガリを探しに部屋に訪れたハバリが欠伸混じりに問う。


「ふふん。称え給えよ諸君。本日俺は英雄として受勲するのだー!」


「大丈夫?最近大変そうだったもんね」


眠気が冷めたのか、ハバリは眉を寄せて哀れみの目を向けてくる。


「おい待て何故心配する。嘘じゃないぞ本当だぞ」


「まあ王都に行くならお土産お願いね」


任せろと親指を立てて、いざ部屋を出て玄関に向かうと。


「ヒバナくーん!おっはよー!」


「あーキユリちゃん久しぶりー」


マスターと知り合いらしいからマスターとの待ち合わせだろうか。


「さてさて行きますよヒバナ君」


「え、俺?」


「そうですよー。ヒバナ君の送迎を我々が指令されました。ので、責任もって送りますー」


考えれば当たり前だった。国からの招待。言わば国の客。時間を守らせるにも、客を守るにも確実なのは公認ギルドだろう。


案内されるままに馬車に乗り込み、王都まで片道10時間の道のりを行く。

さすが公認ギルドと言うべきか、馬に馬用の強化魔法が施されており、とても早い。民間の馬車であれば1日はかかったであろう距離を、10時間で行けるとなれば倍以上の速度とスタミナで走行してることになる。

魔法が発展させた現代技術はなんとも素晴らしいものか。


「いやーヒバナ君はなんという幸運の持ち主なんでしょうね」


「俺じゃなかったら不運じゃない?これ。いや、俺でも不運なんだけど」


喜ばしい戦績では無い。不死身じゃなければ全て死亡していたところだ。

こういうのは本当に実力者の前に来て欲しいものだ。

とはいえ、こちらとしても敵を減らせてありがたいが。


「そういえばうちの隊長と仲良いらしいですけど、面識はあっても接点はありましたっけ?」


「いやちょっとプライベートでね……」


同じ官能小説家のファンで何市で知り合ったなんてバレたくない。ソマリ以外にはバレてないはずだ。


「あーなるほど。分かりました」


しまった。キユリちゃんはマグネルにちょっかいをかけてるらしいからそういうのも見つけていたかもしれない。

ともなれば。


「いや待てキユリちゃん待ってくれ違うぞ」


途端に冷たい視線を放射され全力で否定するも、悪くなる一方だ。こうなったら事実と嘘を混ぜて良い方向へ誤魔化す他ない。


「違くって、あれは別にエロ本じゃなくて、その…………。男同士のプライベートな奴だから!!」


しまった焦りすぎて最悪な語弊が。


「そーですか」


冷たい視線はマイナスを超え、絶対零度となった。

ヒバナの心は凍てつき今にも逃げ出したくなる。


「なーんて、嘘ですよぉー」


絶対零度のゴミを見る目は太陽のように温かみを帯びてヒバナを包んだ。


「仕事上もっと汚い世界を見てきてるので」


おっと汚い扱いされてるようだ。


「そういえばキユリちゃん、北にある戦士の国って知ってる?」


「武国の事ですかね?戦士の天国って言われてますね」


「そうそうそこ!」


「あそこがどうしたんですか?」


「いやぁ、最近知り合った人に勧められて」


「あそこは世界一危険で世界一安全な国ですー」


「んん???」


ヒバナが矛盾に首を傾げるとキユリは話を続けた。


「あそこは自由な暴力が許されると同時、殺害や強奪行為が禁じられた言わば安全は保証された国です。物騒なのもあってか、人口は1000人ほどで、小さな国家です。とはいえ、常に争ってるだけあって武力単価は世界一です。」


「なるほどわからん」


「暴力の国と言えど、争いの際には互いに仲介人を立てるよう法で定められており、そのおかげで暴力まみれでも世界一の治安を誇ってるんですよー」


「聞いてるだけの情報じゃ物騒以外の何物でもないな」


「あと恐らく戦士の天国と言われてる由縁もそこが暗殺や傭兵派遣を主にした国ですので、戦いが好きな人にはうってつけなんですー」


「国が暗殺を稼業にするっていいのかよ……」


「特殊な国ですからね」


最早国と呼ぶには物騒すぎる。マフィアと名乗って方が良くないだろうか。


「本来は抹消されるべきなんでしょうが、それでも健在ということは」


「各国癒着してんだなぁ」


しかしそんな場所を簡単に勧めて来た彼女は一体何者なのだろうか。

そういえば、会話の内容ははっきり覚えてるのに彼女の声形が思い出せない。


「そろそろ着きますね。直前で再度スケジュールの確認ですが、本日は王城の宿泊室をご利用頂き、1泊してもらいます。本日の夕食と翌日の朝食は部屋にて用意されるので、御心配なく。昼から国王より表彰されます。お召し物はあちらで用意されるようですので、お部屋でお着替えください。また詳しい詳細は部屋にあるそうですよー」


「なんか仰々しいけど、これって年何回くらいあるの」


「年1.2回くらいですー。だいたい毎年プラナタス兄妹がもらってもはや表彰されてないので久しぶりですー」


上を向きながら目を瞑り頭を捻るように記憶を絞り出す。


「バケモンすぎるだろ。でも幹部が討伐されたの初めてっぽいけど、何を討てばもらえるの?」


「主に特級魔獣ですね」


「魔獣にも等級あるんだ」


「5級から特級までありまして、特級ともなると災害クラスですねー」


「特級ってどんなやつ?」


「そうですねー、昨年の特級ですと、人の首を狩る習性があり、全身に人の首を着飾った真っ黒な化け物で、大変な腐敗臭を撒き散らし、さらに不衛生さから、攻撃を受けるとその部位は腐敗した後壊死してしまいます。足止めに先行させた隊員の殆どは殉職か重症を負いました。戦闘能力もかなり凶悪でして、細く長い腕に見合わない筋力で体程の大きさの骨の大剣を片手で扱ってくるんですよ」


「単体では強そうだけど、そんなのが国を滅ぼせるんだね」


聞く限りでは強そうだが、とても国を滅ぼせるほどとは思えない。滅ぼすとなると広範囲高威力な技を持ってるイメージだったが、現実はそこまでのロマンはないらしい。ロマンと言うと不謹慎かもしれないが。


「誰も止めることが出来ないので、時間はかかれど国民を全滅させれるんですよねー」


「なるほど、それなら確かに特級かもね」


「記録員の詳細見ても、とても適いそうには思えませんでしたよー」


なにそれめっちゃみたい。記録があるなら写真もあるだろう。


「今度それ見に行っていい?なんならそれみていた人に直で聞いてみたい」


あわよくば神太郎を連れて記憶読ませたい。その場合、知的財産権的なのは大丈夫だろうか。


「人はともかく、今までの特級魔獣なら図書館の資料コーナーで一通り見れると思いますよー」


「まじか、早く行きたいな」


王都の図書館なら確実かもしれない。写真付きが理想だが、そんな危険生物を撮ることは可能なのだろうか。


「とりあえず着きましたので、この話はまた今度にしましょー」


馬車を降りればなんとも壮観なものか。

以前にもきたことがあるが、改めて見ると正面から入るのは二度目だ。


過去に二度来たが、どちらも大罪人になってしまってる。今回はならないことを願おう。

いや、なる要因がない為大丈夫のはずだ。むしろ今回は英雄だ。

あれ、前も英雄としてきた気がする。いやこれ以上はやめておこう。今回は手を出さない。自分にも立場というものができたから下手なことはできない。絶対だ。絶対。


いらぬ心配に悩ませつつも入城し、案内されるままに部屋に着いた。

高級感溢れる深く沈んだ椅子は、座り慣れないせいか起き上がる為に変に力んだ。


上品な生活を体験しながらふと思い出す絶望。


クジャクが仕入れた情報によれば王は強欲の吸血鬼と繋がってるらしい。つまり今、まさに敵の本拠地に入ってしまってるということ。さらに相手の立場は国王。逃げ出せば罪になろう。なんともまずい状況か。こちらはあちらの子供を殺害してそれを称えるために招待してきたのだ。裏がないはずがない。

嫌な脂汗が顔に滲むのを覚えつつ、この先の対処法を考える。

まず逃げ出したとして最初に迷惑がかかるとすればギルドだろう。

こちらの個人情報が把握されてるなら次に家族だ。

下手に逃げることは出来ない。

しかし向こうとしてもこちらを始末しようとすれば周りが服してない限りは手出しはできまい。

公に始末をするのであれば、こちらをハメる他ない。

仮にそうだとしてどのような罠を仕掛けてくるだろうか。

暗殺未遂、不敬、煽ることによる王族暴行……。


思いつく限りはこれしか浮かばないが、そのどれもは既に過去にやってしまっている。


大丈夫、自分を信じよう。何をされても何もしないと誓おう。確実に潔白にしてみせる


そう決心したヒバナの気持ちを知ってか知らずか、運命は⎯⎯⎯。

否。彼は全ての仕込みを終えていた。

ヒバナは気づくことがない。全て敷かれたレールの上だという事を。


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