1.26 ランプ・ランサス
1.25
『昨晩起きたレッドパンダによるテロ行為ですが警察が現場に着いた頃には、何者かによって阻止されており、死傷者1名と主犯と思われる人物の遺体が確認されたようです』
ニュースに耳を傾けながら昏睡するヒバナを見守る人影が2つ。
「ヒバナはどうだ?」
「まださね。まったく、再生体質じゃなかったんかい」
「いや、そのはずだ。なんで目を覚まさないのかさっぱり」分からない」
「あんたの中身見る能力でもさね?」
「俺のは意識がないと意味がないからな。とりあえずどうしようもない現状だから俺は離れるぞ」
「…………まったく、不死身がどうしたんだい。私も一旦帰るけらあと頼むさね」
大人の2人が退室すると代わって獣人2人が入ってくる。
「ヒバナー早く起きないとブラックボーン2勝手に進めるよ」
「おい待てやめろ!」
「あら、おはよう」
何をしても起きなかったヒバナだが、カガリの一言で飛び起き、呆れた目でハバリに嘆息を吐かれた。
「狸寝入りでもしてたのかしら?」
「いや、なんか本能的に……てか、俺どうしたん?帰った記憶がないんだけど」
「まったく、起きるんだったら帰る前に起きるさね」
怒り混じりに扉の横に経つマスターはどうやら、さっきまで見舞いに来てくれていたらしい。ソマリが後ろにいることからソマリが呼び戻してくれたのだろう。
「昨晩町に黒い影が歩いてると通報があったさね。それで現場にいってみれば、人鬼特有のモヤを纏ったヒバナだったさね」
昨晩の記憶が曖昧だ。
死んだと思ったら何故かダチュラに勝利し、何故かダチュラと仲良くなりアイビーさんと出会いを設けてくれるようになった。そして帰り道何故か意識が飛んで今に至る。
記憶がなくても帰れる。酒と同じだろうか。
「そうだ、虹の情報が……」
「その話をするなら、私の部屋へ来るさね」
マスターの部屋は断絶空間で、プライパシーが約束されている。窓のない部屋には煙が立ち込め視界が悪い。酸欠にならないか不安だ。
「聖戦……国崩し、世界への宣戦布告……まったく、何を考えているさね」
灰を落とすと目の前に煙が色を放ち景色が生まれる。
「計画を早める必要があるさね。ヒバナこの人物を探すさね。これはこれからの虹との戦争に必要になってくる人材さね」
ぼんやりとしていてハッキリと顔は分からないが、これが現在の姿であるなら探すのは用意だ。なんて言ったってどういう訳か現代においてあまりにも古風な格好をしているからだ。
街中に入れば目撃情報も多いだろうし。
「ちなこの人はどういう人なの?」
「彼はランプ・ランサス。クジャクが情報集めてる時に出会った旅人さね。どこにも所属してないから早いうちに勧誘しようってことさね。時間が経てば虹も彼に気づいて狙うさね」
「へぇ、そんなすごい人なのね」
見た感じは若く伸びきった髪と髭がだらしなさを放ち、トドメに覇気のない虚ろな目ときた。双方から狙われる重要人物には到底見えない。
「彼はこの世界の見届け人さね」
「………見届け人?」
世界を見届けるとはいったいなんのことだろうか。
「私も詳しくは分からないけど、この世界の秘密に触れることで、虹の強欲にも関わることらしいさね。そして、見届けただけあって実力も折り紙つきさね。詳しく知りたいなら見つけてくるさね」
ランプ・ランサス。いったいどんな人物なのだろうか。
見届け人という肩書きに少し心躍らせながらヒバナは、目撃情報のあったセルトナの町に赴いた。
「いやー、あんな人が訪れるから関わりあるのかと思ったけど、まさか工業団地だとは」
本当にこんなところにいるのだろうか。
てか臭いなんだここ。
「すみませーん、ここら辺でこういう格好した人みませんでした?」
「いやあ、見たことないねぇ。それより、こんなとこで人探しとは珍しいね。こんなゴム臭い場所誰も来ないよ」
「やっぱりそうですよねー」
どうやらこの異臭はゴム工場の匂いらしい。
衣服に臭いが着く前に撤退したいところだ。
「人探しなら交番にいくといいよ。基本暇で巡回ばっかりしてるから変わった人とかなら分かるかもしれないね。連れてってあげようか」
「わかりましたーありがとうごさいまー」
親切に道も案内してもらい交番まで来てみたはいいが、どうやら今まさに巡回中らしい。
「はい、じゃあここで話聞こうか」
後ろから声が聞こえ振り向くと、腕を抱き抱えられながら連行されるおっさんが────。
「あ……ランプ!」
「ん?君ランプって言うのかい」
引っ張られ歩きずらそうにしながらも気だるそうな顔は崩れず、生きてるのかを疑うほど生気が見られない。
世界を見届けたからこそのこの感情なのだろうか。
「ふ……名前なんてとっくの昔に捨てちまったさ」
「あー、人違いです」
どうやら世界の見届け人では無さそうだ。これは厨二病という名のバカというものだ。
なんでクジャクやマスターはこんな男を信じてしまったのだろうか。
「とりあえずここ座って、はい、お名前と住所と連絡先教えてね」
「そんなものなどない。俺は自由なんだ。そう、何者にも俺を縛ることが出来ない」
あまりにも容姿が似すぎてて着いてきてしまったが、やはり馬鹿だ。馬鹿以外の何者でもないようだ。
「ところで君。尋問とヤラに欠かせない物を忘れてないかね?」
お前はまともな思考を持ち合わせろよ。
「人に物を聞く時はな!まずはカツ丼だろ!カツ丼!」
いや名前だろそこは。
「あー、はいはい。わかりました、頼みますから名前教えてねー」
「ふん。分かればいいさ。あ、私菜食主義だから卵と肉抜きで頼むよ」
カツ丼全否定じゃねぇか。それもうただの米だよ。
馬鹿だろ、やっぱり馬鹿だろ。
「あーもしもし? カツ丼頼みたいんだけど。え?切らしてる?じゃあ、いつもの焼肉弁当でお願いします」
お巡りさん?菜食主義って聞いてた?
「ふん。我が名はランプ・ランサス!」
やっぱりランプだったんか。
「お家は?」
「そんなものない。我は死なぬ故、住処など不要」
「えー、ホームレスっと。ご家族や友人の連絡先はないの?」
「友なら皆死んださ。そう、魔王を仕留めんと立ち上がったあの日に」
どの日だよ。
「仕事とかはないの?」
「使命ならある。この命生まれた時より、この剣を守護せんと友より預かりし命」
「………!」
そう言ってどこからか現れた剣は、触れるもの全ての命を奪ってしまいそうな程禍々しく、あまりの品質に見たものを魅了する。
「それは護身用かな?とりあえず危ないから片付けてね」
「危険などないさ。これは選ばれし勇者しか持つことが許されなかった英雄の証。悪を断ち真を開く無双の一振」
長いし設定が鬱陶しいな。
「じゃあそれを所持する君は勇者なんだね」
「いや、ただ剣を次の勇者に譲るまでのただの守り人さ」
マスターはほんとにこんな奴が御所望なのだろうか。明らかに情報源のクジャクを信頼しすぎてる気がする。
これは紛れもないバカだ。
「ヴ……なんだ、記憶が……」
「あーはいはい、力が目覚める的なあれでしょ。まあ君あれだね、怪しいけど悪くは無さそうだから帰っていいよ」
「ふん。帰る場所なんてない。俺は風に従うだけさ」
「あ、帰る前にこれ、さっき頼んだ弁当」
早いな、大丈夫かそれ。
「ごち」
なんでそこだけ軽いんだよ。
交番を出てしばらくするとヒバナは接触を図る。これを欲しがる2人に疑問を抱きながら言葉を選んだ。
「そこのお前。その力、存分に発揮できる場所に行かないか?俺と共にアヴァロンを目指そうではないか!」
目には目を馬鹿には馬鹿を。恥ずかしいが同族をぶつけることでコイツを連れて行けるなら憂いなし。絶対にテイクアウトしてみせる。
「え、何君、頭大丈夫?」
同族嫌悪だろうか。不審がりイタい目で煽られヒバナの羞恥心が破裂した。
「あ、宗教勧誘でしたか、僕そういうのはやらないんで結構です」
落ち着け。落ち着け。まずは落ち着け羞恥心なんて必要ない。ここには2人。第一印象が最悪になっただけだ。
「いや、冗談ですはい。宗教とかではなくてですね、ちょいとあなたに興味がある方がいて」
「ななななんですか!ホモですか!?僕の貞操は安くないですよ!」
とことん裏切られた感を感じて喋るのが嫌になってきた。
何を言っても否定される気がする。
「おーい、落ち着いてくれよ。気持ち悪いから被害妄想はやめてくれーい」
「あ、ちょっと待ってくださいね、ここ数日食べてないものでお腹が減って減って、お弁当を先にいただきます」
「ああ、お金がないなら今夜とか奢ろうか?」
「お気遣いなく〜。あー美味しそう!」
焼肉弁当を前に目を輝かせる髭面はどこか幼く見える。
やはり菜食主義なのか、肉を除けて米と野菜だけを口に運ぶ。
さっきまでの鬱陶しいキャラは嘘だったのか、比較的常識人のような言動だ。
────って!
「あー!美味しかった完食完食!」
「肉食ってんじゃん!?」
「ん?なにか?」
「肉好きなんですか?」
菜食主義を主張する人に反する質問を投げかけるが、ランプは幸福そうな顔で。
「そらもうね!やっぱり人間肉が1番だね!今朝もカルビ食べたし!」
「飯食ってんじゃん!?」
「ん?なにか?」
ダメだ。こいつとは会話するだけ無駄に思える。何とかして誘導しなければ。
「俺の名前はヒバナ。ランプさん。先日あなたと知り合ったクジャクという男からあなたを匿うように言われて探しに来たんだ」
「匿う?」
「そう。あなたはコレから世界的なテロリストに命を狙われることになる。だから、俺についてきてほしい。あなたを守りたい」
「僕を……守る?」
コクリと縦に振って肯定を示し、真剣な眼差しで訴える。嘘では無いが少し盛った。まだ狙われてないが、いずれ狙われる。だから
「いいね」
よし。これでなんとか。
「いいね、君役者なれるよ!それじゃまた!」
「いやいやいやいやいや!ちょ、待てよ!何で!?何で今の流れでそうなる!?命狙われてんだよ!?」
「いやだって、唐突に現れてあなたは殺されますなんてベタな展開現実起きて信じられる人いないよ?それに……」
泣き付かれて嫌そうに振りほどくが、最後の言葉を飲み込むと悲しげな顔を浮かべる。
「ようやくこの命を終わらせてくれる存在かもしれないよ?」
「何を言って………」
「わかった。そうだ、君が僕と関われなくなるいい方法を思いついたぞ!」
良いわけあるか。やめろ、こっちは仕事なんだ。
「この街には非自然的な臭いが充満してるから魔獣や猛獣が寄り付かないんだ。だから見て!」
指差す方を見ると、魔獣に追われる輸送トラックが街に入るべく爆走している。しかし、街にある程度近づくと魔獣はビタ止まりし、後ろへ逃げ帰った。
やはりこの臭いは激臭なのだろう。
「さあ魔獣を追いかけよう!」
「おいおい、嫌がるって危険なことをさせてかよ……別に魔獣なんか……」
呆れるヒバナを差し置いて魔獣に近ずいて振り向く。
魔獣の後ろにいる自覚がないのか、満面の笑みでこちらに手を振る。
それを見て流石のヒバナも焦り散らかし。
「────ろ!後ろー!ランプ後ろぉぉぉおお!!」
熊の5倍はあろう体格の魔獣の一振は、軽々しくランプの上半身を消し飛ばした。
「あーやっちまったよ、死んじまったよ、どうすんのよこれ」
やらかしたと焦りつつも心は大丈夫だろうと落ち着きを取り戻す。理由も定かではないが、何となくそんな気がする。
先のとある一言、そして軽率な自殺行為。そこから導き出される彼の素性は。
「よっこら」
続いてヒバナを狙う魔獣の後ろで人影が起き上がり。
「せっと!」
「えぇ……!?」
魔獣の胴体に風穴を開かせる彼は不死身だ。不死身だがそこまでの力はないように見えた。しかし彼はその細身で厚く覆われた獣毛の壁を穿ち開通させた。
魔法だろうか。とても肉体技とは思えない。
「ね、バケモンの僕とはもう関わらない方がいいよ。見た通りの不死身の怪物さ」
「ふーん」
指をちぎって見せたヒバナに驚きのあまり、ランプは硬直からドン引きに派生する。
「え、いや、え?僕が言えた義理じゃないけど、体は大切にした方が……てかそんな簡単に取っちゃうの?」
「いやいやそうじゃなくて、ほら見てて」
手品でも見せるかのように見せびらかした指を投げ捨て、欠けた手に注視させたところで再生を見せつける。
「瞬く間もなく再生だよー。実は俺も不死身の怪物なんだ」
「えー!すごーい!感動!じゃあまたね!」
「ちょっと待てや!」
世にも珍しい不死身仲間だと言うのに、素っ気なく逃げようとするランプに必死に食らいつき、力ずくで引き止める。
「なんで!?その流れで逃げようとするの!?わかんないわかんない、お前の思考がまったく読めないし理解できないよ!?」
面倒くさそうに嘆息を吐きながらどう逃げようか考えるランプを、諦めずに縋るヒバナはなんとも見苦しい。
「よしじゃあ分かった!夜焼肉奢るよ!」
「いや僕菜食主義だし」
「説得力ないんだけど!?………じゃあビュッフェは?」
「いやー、そんな僕安くないよォ」
「スイーツパラダイス」
「甘いもの苦手だしなァァ〜」
だんだん否定の発音がうざくなってきている。
「風俗!」
「実は性欲薄くて」
何を言っても刺さらないらしい。どうやらこれは最後の砦たる伝家の宝刀『力ずく』が出てしまいそうだ。
「んだよ、じゃあもうのり弁でどうだよ」
面倒くさくなりすぎたのか、グレードダウンの差があまりにも激しすぎて躓きそうだ。
「じゃあそれで」
「なんでだよ!!?」
自分で提案しておいてなんだが、前者を切り捨ててのり弁を選ぶランプの思考がやはり理解し難い。
「じゃあちょっと……ん、あれ、おーい!ハバリじゃん何やってるの?」
転送機のほうから町の門へ足を運ぶ人影は、既視感を覚えさせヒバナの思考を遮って声を出させた。
「あ、ヒバナ。ちょっとここの地域の集落で依頼があってね」
「へー、こんな工業地帯に依頼ね。討伐系ならいのち大事にで動けよー」
「分かってるわよ。でも討伐じゃなくて調査らしいわ」
なるほど、それで鼻の聞くハバリの出番って訳だ。
「夕飯には間に合う?」
「間に合わせるわ。難易度も1だしよっぽど気にする事はないわよ」
「りょうかい、頑張ってなー」
少々過保護だろうか。否、心配はタダだ。するに越したことはない。
「ごめん、待たせたわ……って、おいゴラァ!!」
こっそりと転送機に移動し、その場から逃げようとしてることろを、再生飛行で追い詰め現行犯逮捕する。
「なんでそんな頑なに逃げるの!?」
「いやいや、今回ばかりは違うよ、それにお金無くてこれ使えないし」
「じゃあなんで」
「早く終わらせたいから」
どうやらようやく観念してくれたらしい。
こちらとしても早くて助かる。
「それより、さっきの子大丈夫?進行方向に鬼人見えたけど」
「大丈夫大丈夫。幼く見えるけどあれでも獣人だから、鬼人よりも早く気づいて逃げてくれるよ」
しかしわずかでも危険が見られたなら意識せざるを得ない。
とりあえず説得はマスターに任せるとして、ハバリの方に行きたい。
転送機で2人は運ばれ再生飛行でギルドに帰ると、マスターはすぐに歓迎してくれた。
「ようこそ〜角兎へ。ささ中へ」
あまりにもあざといが、マスターなら何とかしてくれるだろう。支払いは振り込んでもらって次へ行くとしよう。
受付に立ち寄り、不在用のベルを鳴らしてカウンターに肘をかけながら受付嬢を待つ。
ものの数秒で出てくると、同じギルドメンバー相手にも礼儀正しく頭を下げる。
「お待たせしました。依頼を受けますか?」
「あいや、先に出ていったハバリの依頼を合流したくて、場所を教えて欲しいんだけど」
「わかりました。えーとですね」
冊子の付箋を開き今日の依頼を指でなぞってハバリを探す。
セルトナ付近の集落なのは分かるが、正確な方向や位置や地名がわからない為、聞いた方が早いだろう。
「ハバリちゃんはセルトナから北東に15kmほど少し離れたキキという集落にいますね」
ハバリなら走ってどれくらいだろうか。15分で着いていそうなものだが。
「あざまーす!報酬は全部ハバリでよろしくお願いしま!」
再生飛行で転送機へ向かい、転送後即座に指定地へ向かう。
手馴れた動作で髪を引き抜き再生飛行を発動する。そのあまりにも滑らかな移動は、他の人が見たら瞬間移動や消えたと誤認してもおかしくないだろう。
ふと視界に映った人影はハバリのような華奢で幼い体つきではなく、細身なれどガッチリした体つきの男だ。もしかしたらランプが目撃した鬼人かもしれない。
ハバリは上手く先へ行けたのだろうか。
考えれば考えるほど湧き上がる不安に駆られながらも、上昇して森の上空から辺りを見下ろした。
「あそこは……」
どうやらキキという集落を見つけたらしい。
寂れた集落には田畑しか見当たらず、あまりの静けさに少し気味悪さを覚える。
「………何だあれ」
謎の石像が遠目に見え、近づいてみると。
「うわ……!」
石像に土下座する密集した人々。隙間なく暑苦しく身を寄せあい微動だにせず石像を崇める姿勢はなんとも不気味である。無神論者どころか神を宿すヒバナには到底理解できない光景だ。
ないとは思うが、人混みにハバリが居ないことを確認するために少し辺りを歩いていると、奇妙な歌が聞こえてきた。
『常世降りるは月の影。照らす光は罪の花。眠る赤子は祖の忌み火。赤子揺らす母の影。今宵も謳われ帰鬼の業』
「………!?」
歌が終わると同時、薄暗い空が突然白一色に染まった。網膜を焼き付ける眩い光はすぐに朝焼けと理解するが、浮かぶ矛盾に阻まれ答えが見つからない。
夜を迎えるハズが朝になっているのは一体どういうことだろうか。
「………なんだここ……」
景色は変わらず先いた場所だが、あれだけいた人が一人もいない。
幻術の類にかけられているのだろうか。再生しても戻れない辺り、体外から継続的にかけられているのかもしれない。
「あ、あの……」
「うわ、誰!?」
自分だけと思っていた世界で1人の同居人を見つける。
最近の幻術は他人とのデータの共有もできるのだろうか。
「突然こんな世界に連れてこられたんですが……同じ人がいて良かったです……!」
大人しめの少年はヒバナを見つけてホッとしているらしい。
しかし解術の方法がわからないヒバナとしても、他人がいるだけで大分気が楽だ。
「あぁ、僕はフィストと言います」
「俺はヒバナだ。よろしく」
フィストはヒバナよりも少し年下くらいの見た目に見える。
と言ってもヒバナの中身は街ゆく人の誰よりも歳をとっているが。
「あれ、いつの間にか」
背後に指を刺され振り向くと、石像の周りに次々と人が現れた。現れる人に共通点は見当たらず、どうやら事前に集めた人達を召喚してるようだ。
「あらヒバナ」
「おーハバリいるじゃん、良かった良かった」
人混みからヒバナを見つけたハバリが寄ってきた。思わぬ再会に喜んでる暇はなく、状況は以前わからない。
「ここは?」
「わかんね、石像の近くで歌が聞こえたと思ったらここにいた」
「私も同じなの。でもなんでヒバナがこの集落に?」
「そらお前が1人だから心配して応援に来た」
えっへん!と胸を張るヒバナをふーんと特に反応を示すことなく流す。
「そんな心配要らないって言いたかったけど、これはちょっとありがたいわ」
「任せろ。にしてもよ、俺も助けて欲しい………」
なんとも頼りない兄だろうか。
しかしどうしようもないのだ。再生で戻ることも出来ず、人が増えただけで何も起きない。これを仕掛けた犯人は何を目的としているのだろうか。
騒然とする人々の耳を貫くサイレンが響く。それはなんとも不快で不気味で不安を煽る音色を奏でた。
「……!」
石像に映し出されるホログラムの掲示板に次々と文字が綴られた。
それは状況をどう進めるのか固唾を飲む人々を嘲笑うものだった。
「ルール1。ここは空間魔法の結界内であり、中からの脱出は不可能である。……え、まじ?」
「そんな!」
そこを読んだ一同は揃って声を上げるが、虚しくも状況は変わらない。
ルール2。エリアはこの集落全域である。
ルール3。制限時間は夜までとする。
ルール4。取得可能ポイントの総合上限は人数と比例し固定である。
ルール5。他者のポイントは対象者の許可もしくは、殺害によって奪取可能である。
ルール6。ポイントは各地ショップにて食料と交換が可能である。
ルール7。ポイントを100まで貯めたものはショップにて同伴者1名との脱出を許可する。
ルール8。生き延びるべし。
「ポイント?どういうことなの?何からポイントを得れば……」
「ハバリ!」
ヒバナの反射的な再生飛行による逃亡は正しかった。
素人では捉えれない速度の移動でフィストとハバリを抱き抱え空へ逃げた。理解する前にハバリは自分の元いた場所を見て総毛が立った。
かつて石像がシンボルとなっていたそこは血の海だった。
ポイントの奪取の条件。それを見てバトルロワイヤルと判断するものは多かっただろう。故にそこはすぐ戦場となり、その場の誰よりも幼い3人は誰よりも狙われやすい対象であった。
条件付きの逃げ道を用意して一体何が目的なのか、主催者の意図が理解できない。
「とりあえず高いところを……ここからなら大丈夫かな」
この集落で1番高いであろう場所に飛び降りた。その頃には100人ほどいた参加者の中から20人ほどの遺体が見えた。
逃亡や追跡といったそれぞれの行動が早く、気づけば石像の周りに人はいなくなっていた。




