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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
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1.24 覚醒

1.24




────あ、これ死ぬ


止まない嗚咽、回る視界、身体中巡る毒による全身の痺れ、胸を貫き心臓に達した毒牙。


次の再生が最後となるだろう。活路が見えてない現状で再生しても同じことを繰り返すだけだ。しかし間もなく死は訪れる、この死ぬまでの刹那で何か突破口を────。


「……これで、使い切ったか?」


「……ッチ!」


再生後僅かに与えられた猶予、コンディションは問題ない。今やることは。


「あー、そっか、使い切ってもそれはできるんだったな」


空に駆け出し魔法の射程外へ緊急離脱する。

しかしこのままでは何も変わらない。降りればデバフがかかる。しかし降りねば触れない。


「…………やってみるか」


旋回で視覚外へ回り込み、再生飛行の轟速で展開した鞭を叩きつける刹那。


「くそ!やっぱりダメか」


息を止めて外部からの摂取を無くし、超スピードで駆け抜け影響を受ける前に離脱するという戦法だったが、どうやらそういうものでもないらしく、範囲に入った途端具合が悪くなった。


「こんなものか……」


地に転がるヒバナの頭を踏みつけ首にナイフを突き刺した。


「カハッ……!」


「起きろ。お前の次はお前の連れだ」


再生できない苦しみに悶え、痛みも吐き気も受け入れる。

辛い痛い熱い苦しい。

少しずつ死に近づいて行くのが分かる。自分はもう助からない。


「嫌だ……死にたく……ない……!」


この身になって初めて発したであろう生への渇望。今まで感じることのなかった迫り来る死への恐怖。確定された死は不死者を赤子のように喚かせた。


死ねない、死にたくない。自分の命ですら失いたくないのに、ここで死ねばさらにもっと多くの命が、家族の命が奪われようとしているんだ。死ぬ訳には。


「ごぷッ……!」


口いっぱいの血の味が無くなった。もう死ぬのだろう。死にたくない……。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


「…死に…たく……ぐぽ」


「勝てると思い込んで挑む。傲慢な奴だ。お前は誰も救えない」


最後に血溜まりをブローすると、瀕死のヒバナは大人しくなった。

最期に聞く言葉は何度も聞いた聞きなれた聞き飽きた言葉だった。


「命令は殺害の方が完遂された。………妹を弔って帰るか。────なんだ?」


毒がめぐり死んだと思われるヒバナの体からは黒い液体が大量に分泌され、それはすぐにヒバナの体積を超えるほどの量となり、辺り一面を覆い尽くす。

溢れる漆黒の液体はヒバナを飲み込むと体を吸収しその場から消し去った。


「んな……!?遺体は……!?」


黒一色で立体感を失ったのではない。確かにヒバナの死体が消え去った。


「…………ハッ!?」


不意に後ろから感じた攻撃的なマギの気配に身を捻り防御耐性を取ると、思わぬ相手にダチュラは息を飲んだ。


「どういうことだ!?」


死んだはずの、殺したはずの、消えたはずのヒバナがそこにいた。


「情報と違うじゃねぇか……。一定数再生させれば死ぬんじゃないのか。いや、あれはヒバナなのか……?」


無言で立ち尽くし、漆黒の衣を纏う青年は殺気を放っているが、その目はダチュラを映しておらず、虚空に見惚れている様子から意識はないように思われる。


「…………ない……たくない……」


何かをブツブツと呟くヒバナはダチュラに手を伸ばし、開かれた掌を握りつぶすと、漆黒の大地から無数の槍が突き出しダチュラを掠めた。


「……ッチ!」


どういう訳か毒もデバフも効かないらしい。

可能性としては、血清を独自で生成し服用した。もしくは人鬼として感覚を失い辛さを無視して死ぬまで暴走しているか。どちの可能性も高いが、どちらも先程の消えた原理の証明には至らない。

事前情報による再生の種類は大きくわけて3つ。

1つ目は完全再生によるもの。その部位もしくは全身をストックを削って再生すること。落とした髪の毛からでも再生が可能でそれを使ってワープが出来る。

2つ目は誘導再生によるもの。切り離れた部位を再生すると本体目掛けて一直線に移動し元の形に戻すこと。これはストックを消費せずに行えるためメインとなる再生だ。

3つ目は触媒再生によるもの。最近身につけたらしい相手の欠損部に切り離した部位を必要な質量で再生させることで相手に部位を譲渡させること。


可能性が高いのは3つ目だが、これは失った部位を再生するのにストックを消費する為不可能なはず。いや、予想外の事が起きている以上ありえない事も考慮すべきだろう。相手は不死身の怪物。そして追加条件としてマギが無限というのも視野に入れて再検討を。


彼は今人の亜種だ。人鬼は人の亜種と呼ばれているが、実際は違う。あれは人の持つ潜在能力を解放及び暴走させ、あの姿となっている。つまりあれは人の本来の姿であり本来の力だ。最近の医療技術で人鬼から人に還る方法が確率されている為、人の潜在能力の解放がすすんでいる。

だが彼は違う。完全な暴走であり、さらに人の潜在能力を凌駕した超常体質を得ている。これは人ならざるもの。人鬼はセカンドステージだがあれはサードステージなるものにはなり得ない。


「人を超えた生物……」


漆黒のカーペットからは立て続けに槍が湧き出し次第に足場を失っていく。ダチュラは槍を回避しながら近づき、無防備な顎にナイフをアッパーで突き刺し、更にそこから雑に斬り裂いた。


再生によって毒を消したのであれば、再度毒を送れば何かしらの正体が見えるはず。


「……なるほどな」


痛々しく裂かれた顎は黒モヤが穴埋めを行うと、何事もなかったかのように再生する。


「人を超えた生物だとは分かってはいたが、まさかそこまで反則技するとはな……」


どうやら自分の固形化した無限に湧くマギを、触媒として再生することで永久機関になるらしい。まさに不死身の怪物。

再生の謎は解けた。しかしワープする原理が分かっていない。いや、原理などイレギュラー個体に求めても無駄だ。考えられる可能性で1番有力なのは、やはり触媒再生の応用。足元の黒いカーペットから必要な質量の塊さえ作ればいくらでもその場にワープができる。その仮説が正しければ、視界からヒバナが消えた時は。


「後ろにワープしたか!」


案の定背後から胴体を穿つ一突き。

腕を掠りツンとした切り傷の痛みが神経を刺激する。


「死にたくない」


そっと伸ばされた手のひらに連動して、床から生える黒槍を避けるダチュラを囲うように高波が覆う。

包まれる直前、間一髪脱出脱出するとそれに包まれた時を想定して脂汗が滲む。


「いい加減目を覚ませよ」


時間が経つにつれて創造の速度が早くなっていく。持久戦になれば追い込まれるのはこちらだ。


「────そうか……そういう事かよ!」


ダチュラが下された命令はヒバナの討伐及び、追い詰めた結果の敗北。勝っても負けてもいいという曖昧な任務の目的はよく分からなかった。だが、暴走したヒバナを見て納得した。目的はヒバナの覚醒だったのだ。死ねばそこまで。しかし格上とも言える幹部達との一騎打ちで勝利すれば経験にもなる。が、それは対応力が身につく程度だ。ヒバナは違う。無限のマギによるマギの酷使及び自由度によって、今まで戦った幹部の技をインストールしてしまった。それこそがボスの狙い。創造のミサロ、変幻自在のステラ、自由のサテラ、そしてトドメに再生と相性の悪いダチュラ。どういう訳かこの先驚異になるヒバナの覚醒を促すようなことをさせるとは、なんとも理解し難い。


「ここまでか……!」


ヒバナに連動して移動するカーペットは、広範囲にダチュラを囲み続ける。

最初は慣れてないおかげか避けるのは楽だったが、今では慣れたのか創造が早くなってきている。死ぬのは時間の問題だろう。

そして早くなるだけではなく。


「んな……」


下から絡みつく手のようなものに不意を突かれ、下から湧き出た槍に右足を奪われた。


「ここまでか」


バランスを取れずにカーペットに倒れ込み、兄弟を思うと漆黒のドームに包まれる。その中にワープして馬乗りになったヒバナは、生やした槍を持ってダチュラに矛先を見せる。


「……たくない」


「この状況でまだそれを言うかよ……そりゃこっちのセリフだよ」


それが彼の遺言となるのか、その言葉を最後に槍は振り下ろされた。


ぬるい水滴が顔を伝うのを感じる。

出血が激しいのだろうか。

改造されたこの身は過度なダメージを受けると痛みを受けにくくなる為、体の異常に気づきにくい。


「殺したくない……」


「は………?」


どうやら生かされているらしい。

槍は首の横を通過し床に取り込まれている。

否、槍は確かに首を穿った。そして首に描かれた組織の印である呪いを消し去ったのだ。穴の空いた部位には再生で補いさらに失った右足すらも治っている。


「なんでだ?」


「殺したくないからだ。テロリストといえど、あんたみたいな穏やかな奴は誰も殺したことがないはずだ」


「……それがどうした。お前を殺した男だぞ」


つなぎ止めた理性を抑えるのに必死で、疲労と涙を溢れさせるヒバナは誰よりも辛そうだ。


「生きてるからノーカンだ。それにもう呪縛がないから俺や他を殺す必要もないだろ。ダチュラは死んだ」


「そうかい………」


息を切らして胸を抑えながら一面のカーペットを消滅させる。


「助けた代わりと言ってはなんだけどさ、オタクの妹さんのアイビーさん紹介してよ」


「………アイビー?」


「そうそう、一目惚れしたんだけど、連絡先も知らないし出会いの場が欲しくて」


テロリストの末っ子を紹介しろというふざけた頼みに、不思議そうな顔で対応する。


「ああ、わかったよ。じゃあとりあえず俺の教えとくでよ、見合いの場でも設けさせてもらうわ」


「まじすか!あざーす!」


疲労でふらつく足を進めながら壁に縋り、一息つくと遠くからサイレンが聞こえて後退りする。


「警察来ちゃったか。お兄様良かったら近くまで送ろうか?」


「悪いな、そうさせてもらうわ」


明かりの薄い場所で黒繭を展開し2人を包み込む。漆黒の繭は闇夜に溶け込み空を駆ける。

轟速故少しの沈黙でどうやら目的地につけたらしい。


「ここら辺でいい。助かるよ」


「いえいえ、アレお願いしますよ!」


「ああ、また会えること願うよ……」


少し寂しそうに手を振るとダチュラは木々の影に消えていった。

近くとは言っても、上空から見て辺りには何も無い場所だ。暗くてよく見えないのもあるが、とても人の気配がある場所には到底思えない。


「それにしても……。よっしゃあ……!やっとアクセスの可能性を見つけれた!」


以前はかなりキツめにフラれたが、過程がないからだ。まずはまともに出会ってまともに関わってみる事から始めよう。


「さあさ、帰……ろ……」


不意に落ちる意識に耐えきれず、モルゲンロートが近づいてきたところでヒバナの意識は沈下した。



────。

───。



時は並行しダチュラは暗い夜道をただ歩く。

そろそろだろうか。月明かりの乏しい森の中はいつ獣に襲われてもおかしくないが、ダチュラに近づける猛獣は存在しなかった。1人を除いて。否、猛獣ではなく怪物だ。


「悪いなヒバナ……約束守れそうにないわ」


「あら、約束?任務の事かしら?あなたの役目は終わりました。お疲れ様です」


上品な佇まいでヒラリとメイド服のスカートをまくり、一礼を見せつけダチュラに敬意を示す。何故こんなとこにコレがいるのかはだいたい察しがつくし、むしろそれを考慮してヒバナと早々に別れた。


「ダチュラ様、ごゆっくりお眠り下さい」


「ダチュラは死んだよ……!」


無数の光の円がダチュラを包むと同時、ダチュラもまた毒となるマギのガスを一帯に噴射した。

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