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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
48/60

1.21 その男変態につき

1.21






「はぁ……はぁ……ヴッ………はぁ……」


────汝、あと1つ魂を捧げれば願いは叶う。何を望む。


「ハァハァ………あ?……そうか、もう千に到達するのか」


銃声飛び交う戦場。そこは秋国から離れた遠い西の国。

12年前、第二次反乱戦争に巻き込まれた彼は少年兵として戦わされ、銃に家族を奪われ銃を憎みながら今日も銃を使う。


「銃器をこの世から消してくれ」


願うは最初から1つだった。

全ての地獄の元凶。銃器がなければ家族は死ななかった。銃器がなければ自分はこんな地獄を見ることなどなかった。

12年前絶望に泣いた朝、神は訪れ力を与えた。そしてそれのみならずノルマを達成すると世界を書き換える力もあると言う。


「ジルフ……アリヤ…………ナズナ……。イレイス家長男カズナは齢30まで、己が胸に掲げた信念と怨念を糧に戦い続け、ようやく戦が終わります」


天に唄い手に持つ銃を投げ捨て自分の過去を振り返る。

もしも銃がなかったのなら、家族は死ななかったのかもしれない。もしなかったのなら………。

自分はどうなっていたのだろう。


最後に懐に掛けたハンドガンの銃口を加え指をかける。


「……………」


『フフ……愚かな人間よ。銃器を消したとていずれは似た物が生まれるのがこの世。最後まで報われない主よ』


その日、世界から銃器の概念が消えた。



ーーーーー以下本編ーーーーー





狭い一室でホワイトボードを前に並べられた机と椅子。そこにひとり座るヒバナの頭は下を向き、それに嘆息を吐くアヌバス。


「ヒバナ。次寝たらスープレックスだからな」


「あ、へ、はい」


ぶっちゃけ眠気も再生でリセットできるが、起きたままだと時間の流れが遅くて辛すぎる。

何故こんな事をしてるのか。

それは、どんな仕事にもとりあえず資格が必要だからだ。

非公式ギルドといえど、特別教育で済む簡単な資格すら持ってなければ本来は仕事をしてはいけない。

そして今受けてるのは高所作業での教育だ。非公式ギルドとまた別に義賊をやっているため、公式ギルドの仕事も行いながら潜入しなければならなく、今はメンテナンス業の勉強中である。

しかしぶっちゃけた話だと、資格や免許は偽造できるため受ける必要はなく、基礎知識だけあればいいものだ。


「うちのネットワークは広いからな。あらゆる企業とも繋がれてその名前を借りることが出来る。だからその名前を貸してくれた企業が疑われないように俺らがしっかりアリバイを作ってプロとしての仕事をしなきゃならん。暗殺や強盗をして終わりじゃないんだ」


そりゃそうだ。仮にバレてその企業が罪を被ればそこは潰れてしまう。何としても企業を守るためには自分らが演じきらなければならない。


「終わったら簡単なテストをするからな。ちゃんと聞いとけよ!」


「げぇ」


舌を出して嫌な顔をするも、アヌバスは見ることすらなく授業を続けた。


────。

──。


「ふぁー疲れたー何もせず聞いてただけだけど疲れたよー」


「ハッハッハ!授業なんてそんなもんだ。気晴らしに組手でもするか?」


「お、いいねぇ。致命与えたら勝ちで」


合図はなく、ルールが決まり次第2人は拳を交えた。当然リーチのないヒバナは届くことなく殴り飛ばされ、追撃に入るアヌバスを蹴り飛ばして距離をとる。

否、肉の壁を蹴り飛ばすことは叶わずに、ヒバナは1人で吹っ飛んだ。

さすがに分が悪いと踏み、着地と同時に黒繭を展開してシオンに変身する。


「そっちの方が骨があっていいぞ!」


「年季のない俺がどうやったら新世代に勝てるのか考えてみたが………」


黒眉で棍棒を作り出し、地面スレスレを駆けながらアヌバスの足を弾く。当たるまいと飛んだアヌバスを追尾するように漆黒の棍棒が変形し、アヌバスの肛門に刺突をゴールイン。


「はゥァ……!!」


「あ、ごめん」


別に狙ったわけではないが、見事肛門にクリーンヒットし立ち上がれずに転げ回るアヌバスは少し滑稽だ。

この変幻自在の黒もやから光刃を出せば他人とは違う戦い方ができるだろう。

ひとつ問題点をあげるとすれば。


「俺の技全て殺傷力高すぎんだろ………」


光刃は本来マギそのものを変換せずに出す分威力は大抵の防御を貫通する程に高いが、とても燃費が悪く、それは吸血鬼でも数秒しかだせないほどだ。しかしマギが無限のヒバナはそれを無限に展開することが可能で、当てることが出来れば必殺の一撃となる技である。また、他にも使える技となると再生か黒もやくらいしかなく、再生はともかく、光刃前提の黒もやも結局は殺傷力の塊だ。

殺生なしで解決する時に使える技も考えなければ。


「その黒いやつなかなかに痛いな」


「例えるならどれくらい?」


「身構えてない時に受けたカンチョウくらい」


そら悶絶しますわ。


しかし、肛門に当てたからこその威力な為、胴体に当ててもダメージは無いに等しいだろう。これの威力をあげるのは少し難しそうだ。


新技を考えるヒバナの懐で携帯がバイブし、画面を見るとギルマスかららしい。


「もしもーし」


「おつかれーマスターさね、ちょいと頼まれて欲しいんだけど、緊急で依頼を受けてくれるさね?」


何やら忙しいのか、講習を終えたタイミングをみてヒバナに声をかけたらしい。


「なに、簡単な依頼さね。あとついでに三兄妹も連れていくさね」


「あいー」


指名があるということは獣人の五感か必要なのだろうか。

簡単ならなんでもいいか。

ピロンッとメールで送られてきたのは依頼書の概要だ。

直で行っていいあたりもう手続きは済んでいるらしい。


「あーもしもしー?」


マスターからの電話を切ると直ぐに家に繋げた。

各部屋に置くのも面倒だった電話を廊下に置いて共用としてるため、家に誰かが居れば出てくれるだろう。

初めて置いた時は着信がなる度にハバリが尻尾を太くして威嚇していたものだ。今は皆慣れてるため出ないということはないと願いたい。


「はいもしもしー?私だよ私、分からない?私だってば〜」


「おい受信側が言うことじゃないぞ。そしてどこで覚えたソマリ」


また知らぬ間にPCを覗かれて変な知識を身につけたらしい。ソマリのこの無駄な知識欲は一体なんなんだろうか。変なこと覚える度に俺が怒られるからやめて頂きたい。


「ほか二人いるか?ちょっとマスターからの依頼で手伝って欲しいんだけど」


「先っちょだけならいいよ」


「おいやめろ」


検索履歴は全て消してるためそういう類は行き着かないはずなのに、本当にどこで覚えたのだろうか。

文字書けないのにどうしてこんなにも読めているのだろうか。


「もしもしー?」


代わったのがカガリな辺りハバリはいないらしい。


「ちょっと2人の腕を貸してほしいんだけどいいかな?」


「いいよー」


「じゃあちょっとギルドまでお願い〜」


考える間もなく許可がおり、電話を着ると改めて内容を確認した。

内容はとある人物の捜索。

名前は不詳で、最後に確認出来たのはポンティスという町で2日前らしい。ギルドにその人物の持ち物があり、それを手がかりに探して欲しいそうだ。


「これその町から出てたらどう探すんだよ………。まあいい、とりあえず帰るか」


「生きてたらまた」


「おう」


軽い挨拶を交わすと、ヒバナの姿はその場から文字通り消え去った。

瞬きよりも早く景色は移り変わり地元の路地裏に。最近これが便利で衣類を着ずに黒もやを纏っている。


「そろそろ2人も着いた頃かな」


再生飛行であっという間にギルドに着くと、裏口から入って2人を探す。人が少し集ってる机があるが、まさかな。


「かわいいーいつ入ったのー?」


「2週間前かな」


「あらそうなんだー!よかったら私たちと一緒に依頼行かない?」


「俺達も今から行くから行けないんだ」


「ふへへ……行くなら報酬は体で……」


「っておいまて、ソマリお前は黙ってろ」


しばらく見守ろうと思ったが、ソマリが口を滑らした為中断せざるを得なかった。


「うわ……」


小さく聞こえた軽蔑する声は明らかにヒバナに向けられたものだろうが、ヒバナには何一つ自覚がない。むしろ瀕死の神太郎を運んだりといいことはしてるつもりだったが。

いつどこでどうやって嫌われたのだろうか。


「ほら行くぞ」


「一緒にイこ」


「お前は意味が違ってくるから黙ってろ」


口を開く度に息のように下ネタを吐き捨てるソマリにヒバナは嘆息を吐き返す。


「先に預かってもらったやつなんだけど、ターゲットの所持品らしいから、町に着いたらそれの臭いのする人を探して欲しい。……ん?」


所持品は主に下着などの着替えだ。トランクスなあたりターゲットは男だろう。中を漁っていると奥にちょうど人数分の簡易携帯が入ってるのを見つけた。中のアドレスはこの3台とマスターに繋がっているらしい。


「段取りしてくれてありがたいけど、割とこれ実は重要任務なんじゃ……」


転送装置で行き先を選んで3人はポンティスに飛んだ。

数秒にわたる違和感を終え、開けた視界の先は思わず息を飲んで後悔してしまうものだった。


「oh......」


事前に調べてくるべきだった。とても2人を連れてくるべき場所ではなかった。とくにソマリ。


「なんで……」


そう、なんで町の転送ポイント、すなわち町のメインたる場所の正面に風俗街が広がっているのだ。

こんなの子供に見せれるはずがない、というかソマリが暴走してしまう恐れがある。

いやまて、幸い今は昼まで店看板も光らず地味だ。看板の名前はいかにも如何わしいが、ソマリが気づく前に後ろに向かえば────。


「ほら行くぞ」


「ヌキに?」


バレてんじゃねぇか。

鼻の穴を広げ、その場の空気を吸い尽くす勢いで息を荒らげるソマリは、どう止めたらいいのだろう。

こんなところハバリに見られたら命がいくつあっても足りない。


「ヒバナー、あそこ似た店多いけどどういう店ー?」


頼む、お前だけはまともでいて欲しかったのに、そんなこと聞かないでくれよ。


「あそこは何億と生まれる命を1匹残らず大量殺戮を行う場所なんだ。近づいちゃいけないぞ」


頭に疑問を浮かべるカガリにそっとソマリが耳打ちした。


「後で教えてあげるね」


おいこらメスガキ。


「今は早く仕事終わらせるぞ」


「フガッ!!」


口を塞ぐようにソマリの顔にターゲットの下着を押し付けた。異臭がしたのかソマリは嗚咽を混じらせながら半泣きで指を指した。

その先は風俗街だった。


「もう1発嗅いどくか?」


ソマリを追いかけながら依頼内容を再度見返してターゲットの名前を調べると、名前はクジャク・ポントと言うらしい。


「おおー、ポントさんまた来たのか!」


「……ん?」


ちょうど近くの店では聞き覚えのある新鮮な名前が聞こえ耳を傾ける。


「このクジャク、フーミン殿にメロメロでありまして、引退するまで貢がせて貰います!!」


深酒でベろべろなのか、フラ付きながらスタッフに敬礼し中へ案内されていく男が一人。


「………今クジャクとポントって言ってた?」


まさかねと自分の耳を疑い聴力に優れた2人に問うと。


「うん」


「まじかよ」


ターゲットが思ったより早く見つかったのと、ろくでもないオッサンだったのと、風俗に入っていった事実が重なり、次の行動を考えるといろいろ混濁する。


まず最初に風俗に入ったおっさんをハバリを連れた状態でどう呼ぶか。幸いあれがターゲットだとはまだバレてない。

次にあのいいカモになったおっさんをどう連れ戻すのか。

とりあえず話しかけてみなければ。


「へいへいへい!そこのおっさん!お金に困ってるようだね!!!」


「あ?」


死んでるかのような生気のない顔つきでヒバナを見上げ、怪しみながらも少し期待を向けて話の続きを伺う。


「ちょいと話を聞いてくれたら金をくれてもいいぞ」


「話を聞くだけか?」


もちろん本当だ。

金額を指定してない故いくら出してもいい。


「あんたバイオレットもしくはベニゴアという女性を知ってるかい?」


「うげ、まさかお前ら……!!」


何やら焦りを見せて走り出し、瞬く間に遠くへ離れてしまった。


「さあーて、ソマリ、カガリ。行ってこい」


あれだけ必死に逃げるとなるとなにかやましい事でもあったのだろうか。金をパクったとか。


「やめろ!離せ!嫌だ!」


いい大人が小さい子供に引きづられて駄々をこねる様は何とも見苦しい事か。


「あの、聞いて。別に捕らえに来たとかそういうのじゃないから」


「ん?そうなの?」


「まあね。ちなみに過去にマスターと何があったか聞いてもいい?」


内容次第では捕まえる気だが、逃げられるより嘘をついた方がマシだろう。


「べつに、そんな大したことじゃないよ。下の口が疼いただけだ」


こいつ子供の前でなんて事言うんだ。

ソマリが何て反応をするのだろうか。


「パァァァァ」


だめだこいつ。

てかパァは口に出すことではない。


────トゥルルルル。


不意に鳴るバイブの強さに肩を震わせ、物欲しそうに見つめるソマリを横目に電話に出た。


「見つけたなら連絡するさね。さあさ、代わるさね」


「ういっす。マスターから電話だけど大丈夫?」


電話を渡すとなんの躊躇いもなく受け取り、先までの逃げようとしてる姿には見えなかった。


「フシグロは?」


「千円で買うさね」


「………?」


謎の合言葉を交わすが、隣で何にも理解ができずハテナが浮かぶヒバナを置いてけぼりに2人は話を進める。


「カレーのルーはどこで買えばいい?」


「北のスーパーで辛口が売ってるさね。そこのヒバナが飛べるからタクシーにするさね」


カレー?晩飯の話???話に脈絡が無さすぎて本当についていけない。


「了解〜量は大盛りで頼むよ」


晩飯の話を終えたクジャクは携帯の電源をシャットダウンして渡し、新たに付けるのに時間がかかり嫌がらせを疑った。


「お前、飛べるらしいな。ちょいと運送してくれないかい」


「別にいいけど……今日はカレーなの?」


黒もやの創造に慣れてきたヒバナはあっという間に座席を生成し、落下防止の安全バーまでも生み出した。まあ、下げても動かないが。


「とりあえず上空に運んでく……べッ」


最初から最高速度で上昇し、初見殺しなGに不意打ちを受けて舌を噛んだ。

隣の子供二人は何故か慣れてるのか身を乗り出してこの非日常を楽しんでいる。生物がこんな速度を出せるのだろうか。いや無理だ。魔法をどれだけ多重に加速させてもここまでの高速飛行は不可能だ。


「君止まることできるの!?」


「無理!」


「じゃあこの街で1番高い建物が北にあるんだけど!そこに!行って欲しい!」


言われるがままに飛行するが、見る限りその建物の屋上は広くなく、再生飛行の速度で近づけば自分はともかくクジャクは激突して死んでしまうだろう。


「これどうやって降りるの!?」


思えば人外しか乗せたことがなかった為、一般人の降り方は想定していなかった。

さてどうするか。


「あんた魔法使える?」


「まあそれなりに」


「じゃあ身を固めな!!」


安全バーがなくなり、座席も変形して巨大な手の形になる。

それと同時にヒバナの姿は黒繭に包まれ、別人となって背中を伸ばした。


「え、いやそんな急に!!?無り………ッッ!!」


クジャクの心の準備を待たずに急降下を始めると、ヒバナが繭に包まれ座席は原型をなくし、次第に巨大な手が作られ3人を握った。握られ視界が黒に染まる一瞬、ヒバナの姿が別人に見えたのは気のせいだろうか。まるで少年ではなく青年のような。


「あとは任せたぞチビ達!」


漆黒の巨大な手から投げ出され、視界が開けたと思ったら上空に投げ出されヒバナは急降下して行った。

否。落下速度を緩められたのだ。それでもまだ重症か死ぬレベルだ。


「せーの!」


目標地点の屋上が迫ってきたところで、子供2人がクジャクのケツを投げ出しヒバナの倍押し上げた。

それは落下を緩やかにするにとどまらず、空中で一時停止する程だった。


「おい、やりすぎだぁ!今ちょっと浮いたぞ!」


どうやら停止を超えて少し上に行ってしまったらしい。となれば。


「あー、死んだか」


せめて任務だけは果たしたかった。この国民を、反乱軍を、世界を、守らなければならなかったのに。


「なに遊んでるさね」


コンクリートへの直撃を覚悟した直後、その身は煙に包まれ緩やかに落下し優しく地面に着地した。


「いやはや助かりましたよ」


「皆無事ならすぐに行くさねほらポータルに入りな」


手をかざすと何も無い場所に扉のようなものが出現した。

転移魔法も使えるとは、なんとも器用で万能な年老いだ。

まずはマスター次にクジャクとポータルに入るとヒバナは獣人2人を押し込んで最後に自分が入る。追っ手がいないことを確認すると自分も入り、今では慣れた転移魔法の浮遊感に身を任せた。


地に足が着くと網膜が焼けるように白に染まり、現在地を知るために再生を用いた。


「これで全員。ポータルは閉じるさね」


「ここは……平原……?」


「そうさね。内緒話をするなら地平線まで平らなここに限るさね。悪いけどソマリとカガリには感覚を研いで見張っててほしいさね」


「はーい」


内緒話に自分が混じっていいのだろうか。


「それじゃあまずは何から話そうか。まあ大きいものをケツからいいますと、あと2年以内に戦争が起きます」


「……え!?」


唐突で簡潔な報告にヒバナは驚嘆するが、マスターは動じることなく頷き続きに耳を傾けた。


「反乱軍の軍勢はとても少ないです。それに他国が介入することで急激に増大し、勢力が伸びてます。いくら王の秘策と言えど今回はもうダメですね。さらに、武を誇る赳国が支援に加わるらしく秋国の勝利は絶望的」


「………」


ふとこの前アズマに言われた亡命を思い出した。

この先のことを考えるなら霖国に亡命しておくべきだろうか。しかしこの国で生まれた以上愛着もある。それ以上にモルタナの存在がある。命を狙われてる上に、王族として反乱軍に狙われたらたまらない。


「それともっとやばいのが、王族は間違いなく任意転生してます」


「………!?」


流石のマスターも動揺を隠せず口を塞げずにいた。

任意に転生を叶えてるとするなら、今までの傲慢な王達は全て同一人物だったということになる。となれば今の善人を被る王は一体。


「まさかね、いやでもありえないさね。魔法が栄える前、それ以前よりももっと昔からそんな力が存在してるなんてありえないさね。いやそれ以前に人間がそんなことどれだけ時間をかけようと不可能さね……まさか……!」


「そう。同じく短い寿命で代々継承してきた有名な血がもう1つ」


そんな有名なやつがいるのに全く心当たりがなくついていけないヒバナは、何とかリアクションだけで二人の会話に追いつこうとする。


「そう、秋国の王家は数百年に渡って強欲の吸血鬼が後ろにいたんです!!」


「なん…だと……!?」


ありえない。任意転生ですら魔法の域を超えたもはや神の域だ。そんなものを数百年前から可能にしていた挙句、人間に付与し続けてきたなんて。

ましてやそんな魔力の源どこから。


「……まさに恒久的不死。人類だけじゃない、生きとしいける生物皆が憧れる夢物語さね。そんなもの大昔に実現して何故今更公になったさね……!?……この国はもう滅ぶさね……」


「んな……!?」


「そんな大事が今更漏れるってのは、計画の段取りが終わりバレても影響が無いって事さね。つまり、もうこの国の王を利用する必要がなくなり用済み。後ろ盾を失ったこの国はもう、他国の圧力に屈する他ないさね。そして王の首を取ろうとする反乱軍は王家を皆殺しにするさね」


思い返せばこの国の情報は漏れすぎてると道場で聞いた。

裏を返せばむしろ知らせて泳がしてるのだろうか。


「次の情報ですが……」


「待ちな。侵入者さね」


僅かにぴくりと反応を示した獣人二人の動きを見逃さずに、マスターは会話を止めて魔法を展開し始めた。

視線の先にはバラクラバを被った5人が殺意を持ってかけて来ている。


「どうやってつけて来たのか…………。まあまあ、マスターとヒバナ君、ここは俺に任せな!」


二人の肩を退けて飛び出すや、知らぬ間に取り出した片手剣と盾を装備してバラクラバの先頭に斬りかかる。

剣で防ぐが片手と侮ったが最後。あまりの重さに刃が肉にめり込み血しぶきを上げてクジャクに降り注ぐ。

続いて迫り来る男に盾を構え、振り下ろされた剣は右手の剣でいなし、隙ができたその身に盾を叩き込んだ。当たりどころが悪かったのか、バキバキと肋骨が折れる生々しい音が響き渡り、苦痛の絶叫が響くと3人が同時に斬りかかった。

袈裟、逆袈裟、横薙ぎと3方から迫る刃は逃げ場を奪うが、回避という選択肢が無いクジャクには全くもってノープロブレムな状況だ。しかしそんな事を知らずにヒバナは再生飛行で詰め寄るが。


「……ニヒっ……!」


余裕の表情が溢れたクジャクを見て届く前に地に降りた。

そこからは一瞬だった。

上と横の斬撃は両手の武器で抑え、下から来るものは正面から踏みつけ防ぎ切ると、力で弾き怯んだ敵を盾で切り裂いた。


剣じゃなくて盾で斬る闘士とはいったいなんなのだろうか。


「ウォオアアアアアアア!!!!」


獣が如き雄叫びを平野に轟かせ勝利を告げた。その咆哮を目の前で見ていたヒバナは反射的に再生飛行で戻り、咄嗟にソマリの目を塞いだ。グロは2人とも手遅れだが、あれに関しては絶対にソマリには見せていけない気がした。


「まじかよ……」


「あれがうちのギルドで1番の実力者さね。生を感じるために戦う獣。死の淵で戦う快楽を覚えたが故、あんな姿になっちまったさね」


雄叫びを上げる彼のジーンズは今にも悲鳴が聞こえそうなほど膨れ上がり、その中心では長い棒のようなシルエットが漢を表していた。

張り裂けそうなほどくっきりと浮き彫りになり、教育上ソマリに見せる訳には。


「さて、話の続きでも。えと、次はーっと。強欲が仕切る組織が資金提供で建設した工場ですが、機密情報があるとはいえ、工場にしてはあまりにも厳重過ぎるほどのセキュリティ。潜入などとても叶いません」


急に真面目モードなのか、シュンと猛々しさが消え去りメモを広げて確認する。


「そこまで調べてくれたなら上出来さね」


「…………」


ふと疑問が浮かびマスターに視線を送ると「何さね」と目を細めて煙管の灰を落とした。


「マスターはどっち派なの?」


「どっちでもないさね。国には反するけど反乱軍とは思想が違うさね。戦争を起こして国を0にすることが反乱軍の目的だけど、私は国を裏で操る組織を潰すのが目的さね。それがまさか、強欲だったとはねぇ……」


「強欲の子供達1人にすら苦戦してるのに、その親と戦うには戦力が少なすぎない?」


「そんな事ないさね。私の見立てならクジャクは子供達程度には負けないさね」


「え!?」


強いのは見ていてよく分かったが、あまりにも野性的すぎる上に品のない戦い方からそんな様子欠片も見えなかった。

程度と言うほどなら、以前見たユーカと同じようにあっさり倒してしまうのだろうか。


「いやあ、それほどでも」


「それに、そんなクジャクよりも強い人材も勧誘済みさね」


流石と言うべきか、いつでも戦える戦力は既に確保済みらしい。

そう言えば虹対策課とも繋がりがあるし、実は勢力が大きいのかもしれない。


「とはいえ、勝てると言っても出会わなきゃ意味ないさね。そんな簡単に出会えるなら今頃滅ぼしてるさね。ボスも直々にそいつらと会わないって事は、勝てないと踏んでるということさね」


「………!……ちょっと待って」


大体の内容は理解したが、1つ腑に落ちないことがある。


「クジャクはなんで追手に追われてるの?」


「あー、それは」


「まずい……まずい……殺される……ひ……ひぃ……!」


息のある男が地を這いずりこちらに近寄る様子は、クジャクではなく違うものを恐れているようだ。死に瀕し、混乱してる脳は半殺しにしたクジャクではなく、それ以前にそれ以上のものを浮かべてるらしく彼はソレから逃げているらしい。


「まずいさね。どこから来るのか見当も………」


どうやら追っ手の追っ手が本当にいるらしく、警戒を始めたマスターは、緊張に額に汗を滲ませる。


「ンモォォォぉぉおおおん!!!」


突如大地から現れた巨躯の化け物は、耳が裂けるような咆哮を5人に浴びせ、振動はやがて足場を崩しヒバナを後方に押し出した。

今まで人ばかりを見てきたせいかこういった類の経験は浅い。それどころか最後に見合ったのはキメラのため、ほぼ0だ。


「何なんだよこいつは……!?」


体勢を立て直し改めて敵を確認すると、何とも言えない種の造形をしており生物ですら疑わしいほど禍々しい。

上半身は下半身に比べ異常発達し、巨大な手のひらでは人を2,3人握ることは容易いだろう。苔なのか体毛なのか緑に染まるその身は自然に溶け込み、側頭部に生えた角は禍々しく湾曲し、触れる命を全て摘み取ってきたのだろう。


「んんンンン?何だオマエラ。おでが追っデルヤツラじゃなさそうダヤ??」


獣の口から出た言葉は人の言語を話している。どういう訳か化け物が知性を持ちコミュニケーションを図ろうとしてるらしい。


「それってアイツらのこと?」


血まみれに伏してる男達を指さすと、化け物は硬直し顎に指を乗せてポクポクチン。


「あー、ジャアあいつらはオ前達に返リ討チにあったンダヤ?」


「んまー、ね」


本当はクジャク1人だが、こんな化け物相手にヘイトを集めるわけにはいかない。


「ジャア、オマえらが、たーゲットか」


「………。え?────うぉあ!!!」


化け物がトンと手のひらに拳を乗せると世界は暗転し、否。巨大な拳が空を覆って影を生み、ヒバナを空から隠した。

振り下ろされた鉄槌は、間一髪避けた先の大地すらも歪めて足場を崩した。


「クジャク!」


「はい!」


振り落ちた鉄槌をかけ登り首に力任せの斬撃を叩きつけるが。


「んな……!?硬すぎんだろ……!?」


束ねられた獣毛に刃を阻まれその首は健在を誇る。

クジャクの攻撃が通らないのであればどうすることも出来ない。であれば。


「こいつはどうだ!!」


肩に乗るクジャクに気を取られた隙に、シオンになったヒバナが光刃を展開し、枝分かれした鞭と叩きつける。がしかし。


「何でだよ……」


防御不可と見抜いた化け物は地を叩き浮いてムチを避け、突風と地揺れでヒバナを崩して叩き潰した。

硬い強い賢しい、強者の三拍子が揃った化け物を倒すには一体何があれば。


「ヒバナ!!!!」


手のひらが持ち上がるとそこには血溜まりと肉片が転がるばかり。生存本能が逃げを訴えるも、目の前で仲間を失い怒りに駆られたクジャクは、剣を投げ捨て足で地を割り拳は獣毛を貫通させる。


「ウぐ……!?」


並の拳ではない。魔法の気配もない。ではあればこれはいったい。化け物と呼ばれたソレは未知の攻撃に遭遇し次が来るその瞬間まで思考を巡らせた。

確かに防いだ。獣毛は触れてから肌に落ちるまでに打撃の威力を極力減少させる。

それなのに、その拳は腕の中を通って反対側に突き抜けるかのように打撃の衝撃を轟かせた。


「うオラァ!!」


未知との遭遇ながらも次の攻撃が来る一瞬で必要最低限の答えを導き回避に移った。受けてはいけない。自分を攻める上で決定打になりうる危険なもの。


しかし、未知は続いた。


「うグゥ……!?」


今度は腹部に轟く先の衝撃。振り上げた拳はそのまま。腹にあるのは振られることのなかった先方の拳。

この男は勢いも振りもなくノーモーションで攻撃が可能なのか。

侮る小人たる男は巨躯を脅かす程巨大に見えた。


「おいおい、なんだよ。化け物でもうちのゴリラには勝てなさそうってのかい?」


「オマえは……!?」


またしても未知。確実に殺した、跡形もなく潰した、死体も見たはずの人間が無傷で生きてる。


「うわバケモンだや!?」


「お前には言われたくねぇよ!!?」


仇と息巻いていたクジャクだが、その仇も何故か無となり思考が停止し体が硬直した。

クジャクも確かに見たヒバナの肉塊。しかしそんなものは見間違いだと言わんばかりの存在消滅。確かに見たソレはどこにもなく、ソレだった者が目の前にいる。理解が追いつかない。


「悪カッタ。お前らヲ小人ト侮っテいたダヤ。未知だろうと関係ないダヤ」


身を大きくひねり限界まで達すると、その身は突風を生み出して高速で回転する。


「まずい、死ぬぞこれは」


自慢のタフネスも効かないと弱音を吐き捨てると、クジャクはマスターに助けを乞う。


「こっちはとっくに準備出来てるのに暴れすぎさね」


近づき過ぎると吸い込まれるが、離れれば大丈夫だと再生飛行でマスターの所まで引き下がると、首根っこを掴まれ視界は暗転。


「2人とも無事なら切断するさね」


どうやら転移してくれたらしい。先にチビ2人を移動させていたおかげで逃げるのはすぐだった。

あのままあそこにいたら全滅してたかもしれない。

ヒバナも1度全身が消し飛び一体を丸ごと再生したため、今日はもう再生が出来そうになく、まもなく死んでいただろう。

現在地を掴めずに辺りを見回していると、隣でクジャクが頭を抱えて考え始めた。


「あれはなんだっけな……」


ボロボロのメモ帳をポケットから取り出すと、付箋を探して化け物を調べ始める。

あれのことも分かっているとなると、クジャクは相当深いところまで行ったのだろう。


「マスター、ここは?」


「第2の打ち合わせ会場さね。ここで追っ手が来たらいよいよお手上げさね」


「マスターの部屋の遮音では話せないの?」


「あそこに追っ手が来たらギルドは潰されるさね。まだバレてないからいいものの、本来私たちは奴らに顔を見られたらまずいさね」


確かに国ほどの力を持つ組織に1ギルドが適うはずがない。

虹を追うことは国をおうことに等しい。


「そうだ……!あれはペルフェクティキメラ……!」


「ペルフェクティ?」


「完成されたキメラだよ」


「んな……!?」


完成されたキメラとはいったいなんなのだろうか。先のやつを見る限り知性を持っている事しか。


「先見たように完成品は知性を持って行動しています。これがどれだけ恐ろしい事かもう分かりますよね。そう、知性があれば考えて行動し、細かな命令に従い、有り余る暴力を適切に扱うことが出来ます。能動的野性的本能的に動く従来のキメラを超越したハイエンド個体です!」


「それがアンタが追われる要因となった情報さね?」


「ああ、いえ、僕のはあれです。たまたま強欲の心臓を見てしまいまして」


「…………は?」


普段から冷静なマスターといえど、飛びすぎた内容についていけずに硬直してしまう。


「生命線と言えばいいのか、生命と言えばいいのか……とりあえずあれが強欲の心臓となるものだというのは確認しましたね」


「…………は??」


心臓?なんだそれは。記憶の外付けなら可能だが、命の外付けは聞いたことがない上に不可能だ。


「グリードラクリマ。そう呼ばれてるそうです。最初は目を疑いました。なんせ、青白く透き通った結晶の中に吸血鬼が入ってるんですから」


「じゃあそれを壊せば……!」


「ダメさね」


希望に目を光らせるヒバナに否定を食い気味に挟み、口から出た煙でバツ印を作り上げた。


「どうやって突き止めたか知らないけど、そんなもの普通は厳重さね。そして、並大抵どころか核を当てようが壊せる耐久で作ってないさね。ましてや千年生きる吸血鬼。技術力は折り紙付きさね。先に虹を全滅させてそれが残っても、強欲は蘇り続けて永遠のボスとなるさね。この前の地下闘技場でも殺したのに生きてるみたいだし」


「それじゃあ………」


「そう、あれを破壊できる貫通力を手に入れない限り私たちでは勝てないさね。戦闘のプロのシャガやユーカですらね」


「………あ……あるわ万能貫通力」


絶望に浸っていたが、ふと心当たりに顔を上げ、光を灯した。


「俺なら壊せるよ、証明は明日にならないと出来ないけど、とりあえず万物に穴を開けることはできるよ」


「君が??」


信じきれず小馬鹿にするように聞き返すクジャクだが、無理はない。核にも耐えうる心臓を壊すとなると、対人戦ですら役に立てるか怪しいヒバナ程度が飛躍しすぎている。


「いや、たしかにやれるかもしれないさね。クジャクもさっき見たようにヒバナは神憑きで不死身の能力さね。それを使うさね?」


貫通力を手に入れたことによって虹との戦争に必要なピースが揃ったようだ。しかしそれはまだ確信がもてたらの話。


「ところでなんであなたはそこに行けて、それが心臓だと分かって、生きて帰れたさね」


「いやあ、それがよく分からんのですよ。実は1回捕まって捕まってしやいやして、これから拷問受けるのかなーって考えてたら、覆面の男が解放してくれたついでにディスクを渡してくれて、その後はよく覚えてないんですよね。気がついたらラクリマの前にいて自然とそれの内容を確信したんです」


「ディスク……?」


心当たりに反応を示すが、失われた技術だ。神太郎以外にそれを持ってるとしたら、それは。


「………ッチ……」


クジャクの恩人だろうが、ヒバナにとってはラーメルの仇である。首を奪われ脳だけを生かして発明させてるのであれば。


「それを信じるにはまだ証拠が足りなさすぎるさね。わけも分からず理解する。それを聞かされても命をかける理由には至らないさね」


「ですよねー」


「とはいえ、命を狙われてるのも確か。あえてそうやって焦ってるように演出してるようにも思えるけど、そうでない可能性も拭えないさね。私はあなたを信じる」


「マスター……」


誰も信じないだろうとくぐっていたクジャクは、不意の信頼に胸を打たれ視界が滲む。


「そんなことよりさ、ヤバいやつから命狙われてこれからどうするの?」


「義賊の方で匿うさね。あっちも追われる身だから追われるもの同士。それなら気にかけることもないさね」


「おお!またあの人らと仕事できるとはありがたい限りです。ツルミさんはお元気ですか?」


「………」


ツルミとは一体誰なのだろうか。以前あった義賊の中にはいなかった名前だ。クジャクが真っ先に出した名前がそれなら、何かすごい人なのだろうか。


「ツルミは……」


「マスター?」


「ツルミは死んだよ」


「────ッ……ァァ……ああああ………アアアアアア………!!!!」


何も無い荒野にクジャクの叫びが響き渡った。

その声はあまりにも切なく、悲痛なものたった。


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