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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
47/60

1.20 発芽

「oh......」


キユリに案内されるがままに訓練場について行くと、二人の男女が臨戦態勢の隊員に囲まれて椅子に座っている。正面にはマグネルとハタエと呼ばれる男が睨むように腰をかけている。どういう状況なのかよく分からないが、この2人が敵であるのは何となく察せる。しかし何故今なのか、そして何故ヒバナが呼ばれたのか、早く知りたいものだ。


「ああ、君だな………。君がうちの弟を殺ったんだろう?……ああ失礼、ミサロを殺害したのは君だろう?」


「………まあ、うん、はい」


口ぶりからして同じ幹部の兄弟だろう。向こうからわざわざ対策本部に来てくれるとはなんともありがたい話だ。しかし敵地に単身で乗り込むほどの実力の持ち主だ、油断は出来ない。


「なんとも弱そうなやつに負けたんだな、慢心を捨てきれずに終わったらしい」


どうも落ち着いた態度でヒバナを一瞥し、鼻で笑いながらミサロを憂う。


「やっぱそうかよ。ミサロ兄が簡単に負けるはずがないもんな!」


ギザ歯が性格を表すように強かで好戦的な様子の少女は今にもヒバナに飛びそうだ。


「遺体を拝ませてくれるかな、触れはしない、なんなら遠目でもいい」


遺族の懇願はあっさり拒否され、悲しそうに俯くが嘆息とともに感情は吐き捨てられた。


「仕方ないな。では、帰るぞステラ」


「 お い 」


立ち上がり去ろうとする二人の足をマグネルのドスの聞いた声が止めさせた。

煙草を指に挟みながらゆっくり煙を吐き出し、見上げるように二人を睨んだ。


「このまま帰すと思ってんのか?テロリストがよ………」


刀を持って立ち上がるマグネルは抜刀をせずに男に詰め寄った。その後ろから普段の様子ではイメージがつかないほどの威圧を飛ばしながら腰を持ち上げるハタエ。両隊長の剣幕及び剣圧で訓練場に緊張が走る。


「ヒバナくん戦闘態勢をー。戦闘が起きたら確実にあなたは標的になりますー。それと、あの二人はデータによると、兄のウィンディは風を操り、妹のステラは土を扱うそうです」


「了解……!………。……。ねぇ、風はともかく土を操るってどういう………ドワァッ!!」


ヒバナの疑問を遮るように答えは自ずと訪れた。

土を操ると聞いたが、今の攻撃を妹がやったとしたら、それは土ではなく大地を操作してると言った方が正しいだろう。


「クソッ」


目の前の光景を一言で表すなら土一色。突如沈黙の中大地が隆起し、陥没し、世界を一変させた。


「ミサロ兄の仇………」


殺意のこもった声に目を向けると、そこだけ大地が避けるように広がり、目の前にステラと呼ばれる吸血鬼の少女が重たい足をヒバナに進ませた。

大地のリングに囲われ逃げ道も応援もない絶望的状況の中、ヒバナはリラックスしていた。


「落ち着け……まずは様子を見ろ……ダメージを受けるな」


「死ねぇ!」


地面の隆起と同時に飛び上がったステラは空中で身をひねり、回転の加わったハイキックをヒバナに叩きつける。

隙だらけの攻撃だが、反撃をしてそこを狙われるより回避で様子を見た方がいいだろう。────と、そんな考えは甘く、避ける寸前ヒバナの退路は地面の隆起によって絶たれた。


「クッ………!?」


人一人分の通路となり逃げ場を失うと、残された選択肢は受ける他なかった。いくら強気に格闘を振る舞っても、相手は吸血鬼であり、さらに少女だ。蹴りを受けてその後の動きを見て動く。────以前ならそうしただろう。今のヒバナには師範の言葉が刷り込まれ、油断を許すことはなく少女の股下に潜り込み一撃。

反撃を予想してなかったステラは姿勢を無理やり防御に移そうとするも間に合わず、顎を狙った一撃は股間へと直撃し、その場に落ちて悶え転げた。


「あっ………ごめん………」


「ちぎしょう………お前……なかぬかやるな……ミサロ兄を殺っただけある………」


「いや、あの、ごめん……。大丈夫?」


駆け寄って心配するも突出した岩壁が2人を塞いで拒絶する。


「うるせぇ!お前は敵だ!仇だ!同情なんかするな!」


涙ぐむ悲鳴はヒバナに哀れみを叩きつけ、帰って罪悪感を増大させる。


「ほんとごめんね、女の子でもそこは痛いのか………」


「うああああん!!殺してやるぅぅぅ!!!!」


地団駄を踏み鳴らし、それに反応するように周りの壁や床が歪に変形し、バランスを崩して転倒するとさらに地面への八つ当たりが加速した。丸めた手を交互に地面に叩きつける様は幼子の駄々を見ているようだ。敵の前なのにすこし和んでしまう。そんなヒバナの気分など知らずか、ステラの体から放たれた魔法は地面を通し大地を剣山へと変換させた。


「んなッ……!?」


見た目の広さから恐らくこれは広場一帯に放たれたものだろう。となれば何人が犠牲となったのだろうか。


「んがぁぁぁあああ!!!」


野生の如き雄叫びを上げ、手と手を力強く合わせると、何十倍もの大きさに拡大された土の手がヒバナを押し潰す。


「くっ……!」


一瞬何か放送が聞こえたが、内容はわからなかったし、そんなこと気にしてる時では無い。


魔法とはイメージだ。そして彼女の使う魔法は土を、大地を操る魔法。変幻自在の存在はイメージを最も具現化しやすい。まさにベストマッチだ。

────だがしかし。


「ふん!」


「あ?」


土は脆く簡単に砕け散った。


「悪いけど、女の子でも容赦できんのだわ」


「ああ?」


刃折れの刀がステラの首を掠め、その小さな首に赤い線を描かせた。


「容赦するとかしないとか、あまりずにのんなよ」


煌めく眼光に萎縮し、彼女が地に触れたことに気づくのが遅れ、大地の剣山にその身を突き飛ばされる。何とか先端は避けたものの、衝撃と摩擦によるダメージはヒバナの体を軋ませた。


「……ちっ、動くなよ!動くと殺せないだろうが!」


「動くわさ!死にたくないんだから!」


剣山に挟まれながら隙間から動く右手で刀を投げつけ、少女の顔面を横切った。


「あっぶね!……しゃーなし…………奥の手……」


「………!?」


────刹那、ヒバナの視界は暗転し、その身は動くことが叶わなくなった。



──。

───。

────時は数分戻り分断後のウィンディへ。


「おいおい、いきなり襲うなんて何とも恐ろしいチンピラ集団だよ。ましてや1人相手に……情けないな……」


「黙れ、お前らを殺るのに2人で行ったほうが確実だろ」


自分を倒せると思い込んでる2人に呆れ、嘆息を吐き捨てながら一瞥。


「………。で、そっちの君は喋らないのかね?」


「………………。」


「……………。」


沈黙。それがいつまで続くのか、誰が終わらせるのか。もし先に動く者がいるとすれば、それは能無しか、相手より強いかだ。


「君らつまらない。動きでは期待させてくれよ」


先に動くはウィンディ。1歩前進しようと足を出すと、ハタエの向けた銃口がその胸を捉えた。地面に足跡を付けると同時、火を噴く弾丸が知覚を超えてその身に迫るも、それは体の手前でぽとりと自由落下した。


「……!!」


続けて横腹に回り込んだマグネルは防ごうとする右手に長剣を叩きつけるも、弾丸同様届くことなく静止した。


「クッ……!なぜ届かねぇ!」


「悪いが、いくら弱くても手加減とかはしないタチでな。風破………!」


間髪入れず腰を屈め、螺旋を描いた手がマグネルの腹部を中心に止まると、それは破裂した。

否。不可視であり認識しがたいそれを破裂と呼ぶには被害者が足りなすぎた。それを受けたマグネルはそこにある何かの破裂を錯角し、その衝撃は大の大人であるマグネルを後方へ押し飛ばす程であった。


「グフッ………!!」


土壁に叩きつけられ地に足が着くと、込上がる胃液に抗えずにその場で吐き散らす。


「ヴ……グポォェ…………」


「爆風と似た衝撃だから内蔵へのダメージが大きいだろう?暫くは立てないだろうよ」


血混じりの嘔吐を抑え込み、あと残りした吐きグセを唇と一緒に噛み切って払い落とす。


「ほぉ……流石は隊長、良い根性だ」


「………ッ!」


余裕に拍手を送るウィンディの背後をつき、ナイフの投擲と同時に槍で斬りかかる。投げられたナイフはデタラメな方向へ飛ばされ、土壁に叩きつけられるが、全て勢いを殺さず跳ね返り不規則な起動を描いてウィンディに襲いかかる。


「……………」


半目で気だるそうに手を振りかざすと、辺りのナイフは一斉に地に叩きつけられ、槍はその手の前で動かなくなる。


「………何とも厄介な能力を持ってるよね。でも理解した…………っぬお!」


「知ったところでどうする」


睨み合う二人を割くように隆起した大地が剣山を創る。


「うごええええええ!!?」


一瞬見えた悲鳴をあげるマグネルの直前を見るに、大地の隆起で吐いたゲロが口に帰ってきたらしい。つくづく足下に運がない男だと笑わせてくれる。


「フフ……」


「風刃」


空中に複数現れた透明な何かはウィンディの言葉と同時に放たれ、視認性の悪いそれは避けるハタエの腕を掠め鮮血を見せた。


「ふむ、避けづらい!」


「どわ!………ぬぉぉぉおおお!!?」


マグネルも間一髪回避に成功したが、臀部を掠めて尻が破れたらしい。隊長ともあろう者が立て続けに情けない姿を見せつけ、ウィンディも呆れたのか目を送ることが無くなった。


「アハハハハー。マグナム君真面目に頼むよー」


「俺は真面目にやってるし、マグネルだ!」


「…………」


ウィンディは油断を見せず、無言で追撃の魔法を展開した。

視認性の悪い魔法に意識を集中を割く一報が、放送を通して広場に響いた。


「報告!応援を受けユーカ・プラタナス中佐が到着されました!」


「「!?」」


その一報は2人の意識を目の前の凶器を一瞬忘れさせる程の事で、反応が遅れたハタエは胴体にめり込んだ感触でソレを理解した。ソレは空気のカッターであり、固定した大気を高速回転させて切れ味を持たせているものだった。

深く斬られる前に仰け反り致命傷を避けることは出来たが、下手に戦い続ければ傷はどんどん深くなるだろう。

マグネルも同様だ。ソレ もとい、風刃は回避したものの内蔵の損傷が大きく、継戦は命に関わる。

だが関係ない。ここで2人が仕留められずとも、足止めさえすればユーカ・プラタナスが仕留めてくれる。

2人にやれることはユーカの到着を待つこと。


「フゥ……ン……!!」


長剣を振り回し、止められようと短剣による追撃で回避を促すも、顔色ひとつ帰ることないウィンディに嫌気を感じつつ、ハタエに注意を向けさせまいと猛攻を続ける。とはいえ、ウィンディは強敵も強敵。マグネル程度でヘイトを集めきることは不可能だ。しかし、それでもマグネルはハタエを信じきり、彼に全てを託した。


「はぁ!!!」


背後から迫るハタエの槍の渾身の一振は、刃ではなく柄で殴るように振るわれるが、向けられた手の平に近づくと壁に当たったかのように急停止し、両手が塞がったところを突くべく振られたマグネルの短剣を蹴り上げ無力化を図る。

がしかし。


「………グッ!!」


3つに折れた槍の穂先は内側に弧を描き、ウィンディの横腹を浅くだが切り裂いた。初の負傷に怯みを見せたウィンディの隙を狙って両サイドから刃閃を輝かせる2人の息は、2人の長年のコンビネーションを知らしめている。


「…………いいコンビネーションだった」


油断だ慢心だと言い訳をせず、素直に相手を褒める潔いウィンディの目は既に二人を見ておらず、一瞥もくれずに2人の攻撃を避けきって両手に武器を吸い寄せた。

謎の吸引に反応出来ず武器と共に吸い寄せられた二人は、その時ウィンディの間合いに入ったことを後悔する。


「……しまッ……!」


「風破」


静かでゆっくりとした時の中、二人は己の死を悟る。ハタエはキユリや団長、部下一同を思い不安が残った。

一方マグネルは。


「……………ッ!!………やべぇ、レンタルしてたDVD返すの忘れてた………!!」


最期の言葉と相応しくない台詞に思わず吹きかけ、穏やかな表情でハタエは死を迎える。

がしかし。死神はハタエを通り過ぎてウィンディに鎌をかけた。それが意味することはつまり。


「…………僕達の勝ちだね」


3人を囲む土壁が吹き飛び、立ち込める煙を裂いて少年が飛び出した。その手に握られた得物は、全長を見れば彼より少し大きく、まさに命を刈り取ることを目的とした大鎌だ。


「…………!!!!」


軌道が見て読める大振りの一撃だが、先の2人のように手のひらで受け止めれば、間違えなくそこからの追撃が自分の体を追い込むだろう。

振られる直後、ウィンディは後ろに跳躍するが過ちに気づいたのは跳んだ直後だった。


大きな弧を描き遠回りに迫る鎌はユーカの手から離れて、ワイヤーで繋がれ伸びたリーチで退いたウィンディの左足を切り落とした。


「ヴッッ…………!!!」


ウィンディは痛みを抑えながら、鮮血を撒き散らしながら土壁を破壊してステラと合流する。


「ウィン兄!!?」


「ステラ退くぞ。アイツは相手にするな、絶対だ」


動揺しながらも土壁と同時に巨大な穴を生成し、広場一同を谷底へ落として、追われることなく逃走した。


「………ッチ。アレが例のユーカ・プラタナスか………あれは俺たちじゃ勝てないな。足1つの犠牲で逃げれたのは運が良かった」


「そんな……ウィン兄……グス……」


ステラは魔法で地中を自動的に掘り進めながら、ウィンディの胸で泣きじゃくる。

後を塞げば地中を追えるものはいるはずもなく、足跡も残らない。最強の逃走ルートだ。


「ユーカか。誰が倒せるか…………」



────。

──。


「ぶはァ……!!!」


「大丈夫ですかー?」


何事もなかったかのようにいつもの風景に戻った訓練場では、多くの隊員が寝そべって地に伏している。

同じく息を荒らげて起きる気配の無いマグネルを、見下ろすように空の笑顔を向けるユーカ。


「助かったよ、ありがとな」


「いえいえー。えーっと、あそう、たまたま近く通りかかっただけですー。ご無事で何よりですー。」


誰が見ても空っぽな笑顔と意味持たない言葉を送り、立ち去ろうとするユーカは面倒臭いというオーラが溢れだしている。最初は労いはおろか、敬語すらなく舐め腐った腕っぷしだけのクソガキの印象だったが、シャガの教育で最近ようやく丸くなったらしい。


「くっそ……何だってんだ……あのデタラメな魔法……!」


人間やそこらの吸血鬼を相手にしていると、幹部レベルとの魔法の質の差についていけなくなる。


「ふー助かったー」


近くから何事も無かったかのように無傷なヒバナが現れた。

ついでにほかの隊員を見渡すと皆どうやら外傷はなく無事らしい。

それもそうだ敵2人のうち1人は隊長2人が相手にし、もう1人は誰かが相手をしていてくれたから他は閉じ込められただけで済んだ。途中現れた隆起もあれくらいなら回避は容易い。


「ハタエ、大丈夫か?」


「ああ、僕はともかく君の方がダメージでかいだろう?」


痛みに動かせない体は2人の動きを制限し、医療班に運ばれるのを静かに待つ。


「ウィンディもヤバいが…………」


「恐らく妹のステラの方がポテンシャルが上だねあれは……」


戦わずとも測れた彼女の魔法の性質。地のある場所こそ彼女のホームグラウンドであり、その片鱗とも言える力を先で度々見せられた。

彼女が成長し戦い方を覚えれば勝つのは至難の業だろう。


「とはいえ、ウィンディにすら勝てる気しねぇな」


散々こちらの攻撃を防いできた手の平の謎の空間。あれは恐らく風破の応用で、凝縮した空気のクッションを手の平に創ることでいかなる力も吸収して押さえ込んでしまうのだろう。さらにその応用で凝縮する際の吸引で人すらも引き寄せてしまう程の力があり、先はそれに吸い寄せられて危うく死にかけた。

クセが強く矛盾共に強力な技を持っているが、クセがあるだけに対策は易い。


「ユーカ君は随分あっさり足切ってくれたね」


あれだけ苦労して軽く横腹を切れたのに、ユーカは現れるやプレッシャーで敵を誘導して出会って即座に片足を奪った。


「まったく、自分の凡才っぷりが嫌になるよ」


「本当よねー。俺なんて旧世代なのに鍛えても再生して強くなれないし」


瀕死の2人の間に入って寝転ぶ元気なヒバナと目が合い、状況に置いてかれて静止しているとキユリが駆け寄ってきた。


「キユリちゃん、どこ行ってたの?」


「御三方のバックアップしてましたー」


バックアップと言われてもその場にいなかったうえに、3人のうち二人は離れていたためどう何を行っていたのか検討もつかない。


「ターゲット2人への発信機の取り付けに成功しました」


「お前優秀すぎるだろ…………」


担架に乗せられ運ばれるマグネルは部下の優秀さに落ち込み、自分の情けなさに打たれた。


「では僕は逃がした奴らを追うのでー。ではではー。…………ユーカ隊の皆ー、強欲の幹部2人の追跡しますよー。」


「「ハッ!」」


強敵との死線を幾多もくぐり抜けてきたユーカ隊は、ウチとは比べ物にならないほどの気迫を放っている。


「ではヒバナ君も元気みたいなので行きましょー」


「お、いいね行く行く」


聞けば兄の方は片足切られてるらしく、さらに噂のユーカの腕前まで見れるのはヒバナにとって絶好のチャンス。

キユリについて行くと大量の車が用意されており、そのうちの隊長機らしい紅一点なバンに乗り込んだ。応援という名の見学で着いてきたキユリとヒバナの2人であれば、ユーカと同乗が良いらしく、それは客を優先的に守るそれと同じであった。


「対象とのバッティングは20分後を予定しております。対象は地中を走行しており、空気の入れ替えで定期的に地上に上がってくると思われ、発信機のパターンからそれは10分おきに行われ、仕留めるのであればその瞬間しかないでしょう。一度バレれば発信機がバレて破壊されるはもちろん、さらに早く深く遠くへ逃げられてしまうでしょう。ユーカ隊長。よろしくお願いします」


「はいはーい。手負い1人と子供1人ですので、お二人は見てるだけで大丈夫ですよー。万が一敵側の応援が来ても、問題ないですし」


「それは頼もしいですねー」



────。

──。



時は進み地中の2人は。


「ウィン兄……」


自分の誇り高き兄の痛ましい姿に涙を堪えていると、ウィンディがそっと頭を撫でて微笑む。


「いいかステラ、3つよく聞け。お前は地に触れてさえいればなんでも出来る。お前はみなと違って自由で伸びしろがあるから、この先ああいうやつと出会っても動じなくていい。勝てないなら逃げればいい、逃げて対策して、強くなるんだ」


「うん」


「それと、棍を使ってみてはどうだ?お前の空中ダイブは威力はあれど避けられ易い。だから棍で接地していれば空中でも魔法を隙なく使用出来る。それと最後だ」


「ウィン兄……?」


背中を撫で下ろされながら抱かれると、寂しそうな顔でウィンディは告げる。


「愛してるぞ────。…………悪いなステラ、先俺だけ上に上げてくれ、少し寄り道する。それと、空気も1人ならまだ保つだろうからギリギリにでるんだ」


「うん!待ってるよ!」


泣き止んではにかむと大地のトンネルは2つに分岐し1つは地上へ投げ出された。


「鎌風」


空中で魔法を展開すると、遠くで複数の影が分散するのが見えた。

発信機に気づくのが遅れ、近づかれてしまった。定期的に空気を入れ替える以上、逃げるのは困難だ。


「貫風」


近接に備えた鎌風を維持しつつ、遠距離の敵を穿つ貫風を指から放つ。当たりどころが良かったらしく、遠くで火球が瞬いて影が一つ減る。距離にしてまだ500はあるため、狙撃を見て避けるのは難しいだろう。

しかし、あと5秒もすればもう白兵戦となる。それまでにどれだけ減らせるかが勝負だ。


「貫風!」


近くなったことにより、威力と範囲を広げた貫風は命中精度が上がり容易く燃料を爆破させる。

見えた限りの車両の台数は7でそのうちの2つを破壊した為、残る敵は5台分のみだ。


「貫ぷ……ッ」


最後の一突きを撃とうとするも、旋回を始めた車より先に降りた隊員が忍び寄り、白兵戦に持ち込まれた。


「クッ……早いな……風縮」


4人相手だと手が足りないため、何とか1人ずつ相手にしたいところだが。


「囲め、手の内は知れてるから連携を崩すな」


両手の風縮で二人を無力化しても残った2人が追撃させまいと攻撃を差し込み、数を減らすことがなかなか難しい。

距離を置いても再度立ち回りがリセットされ、敵に攻撃のチャンスを与え続けるのみだ。

繰り返される連携に同じように2人を無力化し、対処を変えて即座に風縮を破裂させて風破で反撃し、仰け反った所を貫風と鎌風で追撃し仕留めたかったが。


「……クッ」


身をひねりつつ脱力した隊員は風破を転がるように避けてダメージを減らし、弾かれた剣を手放して腕の負担を減らしつつ懐から短刀を引き抜いた。

止まることのない隊員に追い詰められ、手札を新しく増やすことを決意し、その手から新しい手札をこぼした。


「風竜」


可視化が可能な程に透明な球体の中で荒れ狂うそれは、4人を一斉に待避させ、一時的に間をとることに成功した。

球体から離れて外周を走るように遠回りに回り込み詰め寄るが、風竜と呼ばれたソレはブラフであったとしても敵の意識は確実に分散させれた。弧を描きながら詰め寄る隊員は容易く片足のウィンディを追い詰め、さらに隊員が合流し8人で1人を囲う。


「鎌風」


四方八方に放たれた不可視の風は無惨にも8人の体を切り裂き鮮血を浴びる予定だったが、そのうち練度のある3名が剣先の動きで軌道を読み、味方の鮮血を浴びてくぐり抜けた。

どうやら不意打ちでの使用は効果が見られないらしい。


「よくも!」


そう吠える隊員は動揺を浮かべず剣先をウィンディに向け、その命に触れようとした。その時。

ソレは爆発した。


「………」


気づいた時には3人の肉は弾け飛び、骸となった彼らはもう立ち上がることはない。

突然巨大な竜巻が発生し、その近くにいたウィンディ以外の者はたちまち巻き込まれ、鎌風が吹き荒れるミキサーの中でその身を散らした。


「片足とはいえ、幹部の一人」


「……!!」


背筋が凍るのと同時、ウィンディの手には鎌風と風竜が握られていた。


「また部下達に教えないといけないみたいですねぇ」


「………」


自分の片足を奪った時の彼なら声をかける前に不意打ちで仕留めてくると思ったが、どういう訳か声をかけて攻撃の様子がない。


「なあ、出頭する代わりに頼みを聞いてくれないか?」


「出頭する必要ないですよ〜」


どうやらチェックをかけられてるらしい。

死を悟ったウィンディはダメを承知で話を続けた。


「妹はまだ人を殺してないし食べたことも無い。犯罪者の子は犯罪者か?だから妹は助けて欲しい」


「………。一つ。妹さんは殺してなくても僕らを敵対し、暴行及び殺人未遂を犯しました。ましてや国家転覆を目論むテロリスト集団の幹部。どこに助ける要素がおありで?」


確実なNOを聞き終えその手に握った風竜を即座に起爆させた。近距離では回避不可能な爆弾だ。いくら死神と言えども────。


「まぁ、口実が必要なだけで、実際は殺せればなんでもいいです……」


「………!!」


腹部に伝わる強烈な熱と痛みが、穏やかな声よりも先に死神の生存を知らせた。

何故、どうして、どうやって。回避不可能な攻撃をどういう訳か回避して腹にナイフを刺した死神に謎は深まるばかりだが、今は反撃に集中する。


「………ッッ」


遅れてやってきた痛みでようやく背中にナイフが刺さってることに気づく。


「風爆」


風竜と同様に視認できる球体が破裂すると、それは突風と呼ぶには弱すぎる程の爆発的な風を生み出し、辺り一面を更地にしてその場にいたウィンディを彼方へ吹き飛ばす。


「…………はぁ……君……ほんとに人間かい?」



瞬く間に見えたその光景は、風すらも切り裂き道を作る異常な生物が自分に迫り来る姿。風竜もそうやって正面突破してきたのだろう。まったく。人間とはこんなにも恐ろしい生物なのか。


「八竜」


二人を囲うように8つの竜巻が旋回しながら詰め寄り、やがて1つに合わさるルートで二人を閉じ込めた。

例え切ったとて、残る竜巻が立て続けに襲いその身を切り裂くだろう。


「金輪罪」


竜巻が合わさる前に詰め寄ったユーカの大鎌は大きな弧を描くと同時、刃から光が分離し、輝く光は円盤となって鎌と違う軌道でウィンディに襲いかかる。

防ごうと光に手を伸ばし風縮を構えて、円盤の先端を捉え動きを止めるが、十字架の形をしていたそれは、止めても尚左手に突き刺さった。理解と判断と痛みで大鎌への対処が遅れ、そのまま鈍くなった左腕を刈り取られる。


「バケモンめ!!」


魔法と接近戦を両立するその戦い方を技術力が底上げし、隙のない連撃に弱点が見えてこない。

過去にも似たことをするやつとは少数と言えど戦ってきたが、ここまでの練度を持つものは誰一人、近いものさえいなかった。


「風爆!!」


どれだけ魔法で足掻こうとも死神は表情一つ変えずに直進という最短ルートで近づいてくる。

そしてそれを、可能にするのはあろう事か、魔法のみならず自然である風すらも斬ってしまう。


「………まさかな」


過去に陸海空を斬ったなんて生物はカルメ家以外聞いたことがない。そうなると、こいつはまさか……!


「君はカルメ家だったのか」


手足を落とし、ダルマとなったウィンディは痛みなど感じず、抗えない死を受け入れ平静を保つ。


「カルメ家……?いえいえー、僕はそんなんじゃありません」


あっさり否定され、残された答えにふと笑いが混み上がる。

カルメ家でないのであれば、最初の特異点であるアイビーと同様の変異種とも呼べる人の亜種だ。


「………あなた、つまらないですね……。四肢を失いながらも、そんな平静だなんて……」


そう、自分ら兄弟の数人は母から改造を受け、一定以上のダメージは痛みが遮断されるように作られてる戦闘マシーンだ。


「そうか、君は……君らは亜種ではなく…………」


最後まで言えることなくその首は撥ねられ血に落ちた。

血を流しすぎていたのか、首の断面からはそこまで血は吹かず、静かに辺りを染め上げた。


「うわ、まじか……これだけ犠牲を出した幹部を1人で」


「…………」


関心をする横でどこか気分悪そうなキユリに気づかず、ヒバナはユーカに近づいていく。

強欲の子供すら雑魚だとみなして舐めプで勝ってしまうとは、どっちが怪物かわかったものではない。

自分は不死身でなければ確実に負けていたのだが。


「やはり、幹部相手だとすこし多い犠牲ですね……」


「ですねぇー」


部下の死になんの関心もなさそうに適当な返事を返し、2人にはユーカが無慈悲な鬼に見えた。

敵はもちろん味方の死でさえ何も感じない。彼こそ正しく殺戮が為に生まれた戦闘マシーンだろう。


最初からユーカが戦えてれば、ここまでの被害は出ずにむしろ0で終われただろう。

しかし運が悪く、ウィンディの狙撃で最初に撃たれて爆破したのがユーカの車だった。

いち早く回避に動いたユーカは車両の側面を切り取り、2人と隊員をそれを盾にして爆風から守った。本人は自信にプロテクターを展開して防ぐも、爆風に後方へ飛ばされ遅いスタートをきって駆けつける。先行した隊員が足止めに留まらず、討伐を狙ったことにより返り討ちにあい、ユーカの到着前に全滅してしまった。


「ではでは、片方は逃げられてしまったので、帰るとしますかー」


「ご遺体はこちらで回収し、整えてそちらにお帰しします」


「………」


回収してもほとんど骨しかないのだが、それでも遺体を帰そうというキユリの優しさが見られた。


────。

──。


「ただいまー」


1人地中を進み無事辿り着いた先は強欲の館。ここは自分たちの家であり、レッドパンダの集合場所でもある。多くの吸血鬼を従える為、帰宅と同時にメイドが現れ即座にステラの世話を始めた。


「ウィンディ様と一緒では無いのですね」


「うん、ウィン兄は寄るところがあるみたいなんだ。そうだ、ウィン兄!足を切られちゃったから、母様の力で何とか出来ないかな!」


「分かりました、すぐにお聞きします」


そう言うと後ろで待機していた侍女が携帯端末で連絡を取り始めた。


「そうだ、それと武器にできそうな棍とかないかな?」


「それも手配します」


穏やかに微笑みながらステラの脱いだ衣類を畳んで了承すると、あまりにも早く戻ってきた侍女が穏やかとはかけ離れた形相で耳打ちする。

それを聞いたもう1人の侍女は、青ざめた唇を震わせステラの肩を掴んだ。


「単刀直入に言わしてもらいますと、ウィンディ様が亡くなられました………」


「なくなる………?」


言葉の意味は理解できなかったが、彼女の表情で全てを悟り、その小さな身は床に沈み声にならない声で泣いた。

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