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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
46/60

1.19 作られた運命と娘と愛

1.19





雪のように白い肌は、季節外れながらも冬を連想させた。

幼さを残す美貌は少年の心を締め付け、懐かしさと愛しさと切なさを植え付ける。


「こんばんわ」


平静を装うように柔らかい笑みで挨拶をかけて見ることにしたヒバナだが、内心は今にも飛びつきたい衝動に駆られている。


「………こんばんわ……。あなたは……」


静かにしっとりとヒバナを見つめる瞳は暖かく、柔く穏やかな唇は優しく囁く。


「俺はヒバナ。君の名前を聞いてもいいかな」


「アイビー……アイビー・クローリ」


「…………!!」


普通はつけると思えない名前に、ヒバナは驚きを隠せず息を飲んだ。どんな意図を持ってその名前にしたのか。

彼女と初めてあった日、強欲はプレゼントを渡したくなったと言っていた。それは恐らく暗殺チームにヒバナを見たからだろう。

強欲はなぜヒバナがシオンであることことを知っていて、どこで知ったのか、そしてアイビーのことも。


「…………ッ」


「何か……?」


「いや、ちょっと見惚れてしまって」


ふと浮かんだとある言葉を否定し飲み込んだ。

それを肯定してしまえば、彼は完全に黒ということになってしまうからだ。しかし、この仮説に彼が入れば、辻褄があってしまう。


未来で俺がうっかりパンドラの箱を開けて世界を潰す結果になっちまうかもしれない


「…………んんんあああ」


「……?何か悩んでいるのですか」


頭を抑えて悩むヒバナを心配し、少し歩み寄るアイビーを手出して制止させる。


「いや、大丈夫。ところで時間ある?」


「ごめんなさい、待ち合わせをしていて」


男だろうか。


「そっか、じゃあその人が来るまで少し一緒にいてもいいかな」


こくりと肯定を示し、2人は近くのベンチに腰をかけた。

一瞬の沈黙だったが、その時は数十秒にも感じるほど緊張をしていた。確証はないが、おそらく彼女は転生後のアイビーだ。記憶をなくした彼女に執着するのはエゴかもしれない。だが、もしも彼女にわずかでもアイビーの魂があるのであれば、それは他の誰にも渡したくない。


「あ、あの。どうして敵の私を殺さないのですか」


「え?あー、敵だっけ」


そういえば少し前に命の取り合いをしていた仲だ。こちらはどうも思っていないが、向こうからすれば自分の命を狙う脅威そのもの。


「んー……。引くかもしれないけど聞く?」


「引きません」


「君のことが好きだから」


「…………」


さすがに驚きを見せた様子だ。そりゃそうだ。命を取り合い、そしてヒバナは不死でなければ凍結して死んでいた身だ。そんなヒバナが彼女に惚れてるとなれば異常以外のなにものでもない。


「キモイでしょ。この前殺しあってたのに、さっき初めて会話をしたのに、初めて見た時から君のことが忘れられないんだ」


「……ごめんなさい」


「…………」


分かりきっていたことだ。

彼女はアイビーじゃない。彼女は彼女だ。


「でも私も、あなたと剣を交えて頭に電流が走った時から、胸の奥が締め付けられるように痛いの。もし、これが、あなたの事が好きだという感情なら…………」


「…………」


「これは私の意思じゃない………!私は母様に作られた命。でも、私の生き方は作らせない!」


力強い眼差しにヒバナは映ることはなく、その目は深い闇を見ているようだった。

作り物として生まれ、作り物として育てられた彼女の心のヒバナに対する感情は、それすらも作り物だった。その感情は例えアイビーであっても、決して彼女の意思ではない。


「だからごめんなさい。私はあなたを思うことは出来ない」


「だよね」


フラれるというのはこんなにも辛いことだったのか。

だが、これで躊躇うことも無くなった。


「アイビー、お待たせ!……ん?」


「…………」


「…………!」


向こうからアイビーと同じく真っ白な男がたくさんの買い物袋を持って歩いてきた。

アイビーの曇る瞳から目を背け、そっと髪を抜きながら目の前の男を一瞥する。


「おっと……!」


再生飛行で詰め寄り不意をついた一太刀だったが、どうやら攻撃前に殺意が露出してたらしく、間一髪受け止められた。


「お前ら虹はぶっ潰す!」


アイビーとの決別で腹は決まった。

いずれぶつかる障壁だったが、彼女がアイビーの疑いがあるうちは覚悟が決まらなかった。もし虹との戦争が起きた時、彼女のみを生かそうとすれば、その時何人の仲間が死ぬか分からない。


彼女は彼女の道を選んだ。アイビー・ゴア・カルメではなく、アイビー・クローリとしての道を。なら俺は────。


「いやあ参った。キンキンに冷えた氷の剣を…………」


荷物で動けずとっさに生成し、一太刀を受けた氷の剣は、刃折れの刀を刀身の半分まで斬り込ませた。

凍結し氷剣に固定された刀は吸血鬼に吸い込まれるように少しずつ迫っていく。

吸血鬼の後ろでは氷塊がうごめき、荷物を氷で包んで隅へ運ばれた。


「荷物の避難も済んだし……。いいよ、相手になってあげる」


ニッコリ微笑み余裕の表情でヒバナを煽るが、鍔迫り合いはヒバナが制している。


「君、今までしょぼい魔法使いとしか戦ったことないでしょ」


押され気味ながらも笑みを浮かべ、殺意全開のヒバナを一瞥する。


「僕はアイビーみたいに剣術は使えないし、君みたいに筋力はない。つまりこのままだと一生勝てないわけだ。でも僕は吸血鬼。魔法を主力とする種族なのさ。だから……」


氷の剣は少しずつ変形し、刀を掴んだままヒバナの胸に迫る。


「お前、強欲の組織の中でも上の方だな」


「お、君でも流石に分かる?そうそう、僕は強欲の吸血鬼の子供の1人、ミサロって言うんだそこら辺のモブ吸血鬼とは違うよ〜。君みたいな剣士は何人も相手にして正直飽きてるから早く終わろ〜」


「あーはいはい、聞き飽きたからそういう出落ちキャラのベタなセリフ。早く死ねよ」


氷の刃が胸に触れても尚、怯むことなく煽りに煽りを返すヒバナは、刀越しにミサロを押し倒す。

バランスを崩して倒れるミサロから氷剣を取り上げ、刀を剥がして氷を捨てた。トドメを刺しに来なかったヒバナの隙を有難く受け取り、ゆっくり体勢を立て直すと再度氷剣を作り、ヒバナに斬りかかる。


「アイビー、悪いけど先帰ってて〜。この子片付けてから僕も帰るね」


「アイビーさん!携帯とか持ってる?良ければ連絡先交換しない!?」


剣戟を交える2人から愉快に声をかけられるという歪な光景に少し引きつつ、アイビーは無言で暗い街路に溶けた。


「くそ〜連絡先ないから次からどうやって合えば……」


「君さ〜いくら僕の剣術が弱いからって考え事はちょっと傷つくなぁ」


「だったら辞めればいいじゃん。魔法が得意なら魔法で戦えよあんちゃん」


剣術はヒバナが防戦一方だが、素人のミサロ相手では思わずあくびがこぼれてしまう。片手で氷剣を流しながら、もう片方の手であくびを抑えるが、隠しきれずミサロは落ち込む。


「あんたの親玉の子供って何人いるの?」


「ん〜死ぬ君にそんな情報いるのかなぁ?」


「お前が死ぬ前に聞いておきたかっただけだよ」


「君がまだ勝てると思ってることに正直驚いたよ。魔法を見たがっていたね。いいよ」


刀を弾いて交代すると、床面に手を当て魔法陣を生成する。

すると、触れたとこから床が凍結し、あたりは氷の床に染められる。動こうとすると踏ん張りが効かずにバランスを崩すヒバナに対し、ミサロは自由に滑走して凶器をヒバナに振るう。


「くっ……」


「ハハ……!この程度で音を上げるとはさっきまでは随分と痩せ我慢してたみたいだね!アイスランサー!ほらほら避けなよ〜!?」


氷の床から無数の槍が出現し、避けることに必死になるとミサロから追撃が飛んでくる。


「まだまだ!」


空中に魔法陣が複数描かれそこから更に氷の槍が降り注ぐ。

無数に飛び交う槍を捌くのに必死でミサロを見れていないが、この槍の中で直接攻撃は出来ないらしく、魔法をひたすらに練り上げている。


「ぬおッ!」


槍を弾いた右腕を氷の鎖が捕え、背面に出現した氷の壁に叩きつけられるとびったり張り付き拘束されてしまう。


辺りが影で包まれ上を見ると、巨大な氷塊が生成されている。2秒後自分が潰れることを悟る。大きく振りかぶった刀は鎖を断ち切り、手から離れミサロに放たれる。しかし当たる訳もなく虚しく地に転がる。


「バイバイ〜」


騒音に駆けつけたギャラリーが最初に見たのは、地面に無数に生える槍ではなく、広場に落ちる巨大な氷塊だった。


氷塊が頭に触れる瞬間身をかがめ、ギリギリまで足掻くヒバナを嘲笑し見えなくなると勝ちを確信した。

しかし、コンマ5秒と間を置くことなくその勝ちは腹部に襲う衝撃と引き換えに消滅した。

衝撃が留まることなくその身を弾き、吹き飛んだ先でようやくミサロは状況を理解した。


「軟弱な吸血鬼だ。今ので内蔵と骨は逝っただろ」


再生飛行の速度で蹴りを受けたミサロは、衝撃が抜けず立ち上がるのでやっとだ。


「うん、効いたね。舐めすぎたかな」


「うわー余裕そう…………」


にこやかに笑みを見せつけ、ご馳走を食べたかのような満足な表情でダメージを訴える。ボスの息子となるとタフさも他と違うのだろうか。また先程の猛撃に捕まればもう勝ち目はない。


「今のどうやったの?瞬間移動に見えたけど、魔法の気配は微塵もなかった。ふむ、君は面白いね」


感情に任せて挑んだはいいが、勝てる未来が見えない。

そして今ギャラリーも増え巻き添えを考えると非常に戦い難い。


「でもさっきの本当に効いたからなぁ、謎のままこのまま戦ってまた受けても痛いから嫌だし、」


痛いだけで済むのかよこの化け物一家は。


「そうだ、ちょうど野次馬も増えてきたことだし……」


ミサロが地に触れると、氷の床が一瞬にして広場全体を包むように広がり、周りにいた見物客全てがその場で凍結された。


「嘘でしょ……」


一瞬にしてこの規模の魔法をこなすとは、どうやらさっきまで本当に舐めプだったらしい。そして、圧倒的実力差を前にした上に人質もとられた。いよいよ勝ち目はなくなってしまった。


「どうする?やる?」


「…………ッ!」


このまま戦って大丈夫なのだろうか。唐突に人質を使われたらいよいよ勝ち目がなくなる。一瞬で即死させる方法はあるが、当てるまでに犠牲を出しかねない。


とりあえず、ミサロが正面から戦ってくれるうちに隙を作り、その一瞬を突いて仕留める。


ヒバナは覚えたてのムチを両手から10本伸ばしその先に光刃を生やす。ついでに黒モヤを固めた棒を追加し、光刃をまとい威力の底上げを図る。


「へえ、それが君の魔法を使った戦い方ね」


「第2Rいくか?」


ヒバナの挑発に魔法で応え、2人を包む鳥籠が生成された。

隙間は人1人がすり抜けれる程度のガバガバな籠だが、戦いながら逃げれる広さでは無い上に、利用はしずらい設計だ。

刀を無くしたヒバナはムチと黒い棒のみ。


お互いが殺気を放ちぶつけ合う修羅場の中に、氷から逃れたのか1人の老人が滑り転げて踊り出た。


「はうあああ……!?痛たた……。む……!お前だな!この街をこんなことにしてくれたのは!」


滑りそうなのを耐えながらふらつく足を進ませ、不用心にミサロに近づく老人に、ヒバナは流石に吠えて寄りかかるが。


「おやおやお爺さんどうしたのかな〜?」


氷の滑り台が出現し、流れるようにミサロに捕まり人質にされてしまった。


「余計なことを……」


ヒバナはどこまでついてないんだと自分の運を呪い唇を噛み締めた。


「どうする?続ける?殺るならまずこの老人を片付ゲブベボ」


「……ん?…………え……?」


ミサロが唐突に首と口から血を吐き散らかし、ヒバナは理解が追いつかないまま彼が息絶えるのを見届けた。

地に伏すミサロの横で先程のお爺さんが、カバンから能面を取りだしようやくヒバナは理解する。


「おいお前」


「は、はい!」


そう、ミサロをやったのは最強の老人、名も知らぬ道場の師範。面の下の顔は恐らく他人の顔をしたマスクだろう。


「お前、アシか来なかったらどうするつもりだった……?策無しだろ。実力も知らない相手に挑んで、追い詰められ関係ない人を危険に晒す。自分の被弾を減らしたのは褒めよう。だが、所詮それだけ。お前の戦い方はテロリストどもと変わらない。戦うなら他を巻き込むな。他を巻き込めば結果的に不利になる」


「はい」


「まあいい。今日のことは反省して次に活かせ。それと、そいつの首持って帰れば喜ばれるんじゃないのか」


「え、そうなの?」


首を見つめて死体と目が合い気味悪さに目を背けた。

持ち帰るというと、首をもいで警察に届けるということだろうか。生首と1時間程のランデブー。気が狂いそうだ。


「そいつは公開されてる5人の強欲の子供のうちの一人。さぞかし歓迎されるだろうよ」


「キユリちゃんに写メ送ろ……。───って返信早ッ」


送って数秒で返信が来たことに驚きながら、死体の写真は直ぐに消した。


「帰る前に最後にもう一度だけ教える。敵を欺け。取るに足らないと思わせろ。勝てないと思わせろ。万策尽きたと思わせろ。どんな奴にも心がある限り隙は生まれる。格上相手は隙をつかねば勝てんぞ。……で、なんと来た」


「……あ、はい。えー……ちゃんと仕留めてから送ってくださいって」


「だってよ」


「……え?」


死体を見るとそこには顔面が血で真っ赤に染ったミサロが立っていた。


「ちょっと師範さん!?生きてますけど!?」


「生かしたんだよ」


「わっつ!?」


息を荒らげるミサロからはこれ以上出血は見られないうえに、切られた喉で僅かながらに呼吸をしている。傷を氷で固めて塞ぎ止血したのだろう。しかし出血量はかなりのものだ。1回の被弾で人質をとる奴の性格ならすぐにでも逃げるはずだが、逃げないということは逃げる力がないか、もう助からず死ぬ前にこっちも殺す気でいるか。


「さあ2択だぞ。俺に来たら俺が仕留める。だが、お前に来たらお前だけで仕留めろ。被害は出すな」


「もち!」


手負いに負けていては彼女の解放すら叶わない。

できることならタイマンで勝ちたかったが、今回は無理らしい。


意識が朦朧とするミサロが選んだ相手はやはりヒバナだった。

向かってくると分かるとヒバナは足元にモヤをカーペットのように広げ、続けて光刃を付けた黒い短刀を作り迎撃の姿勢をとる。


「く……かは……」


カーペットに入ろうとしたところでミサロは力尽き地に沈んだ。


「…………ッッ」


刹那の間、2人は同時に打ち上げられた。

片方は氷の柱に、片方は黒い柱によって空へ運ばれた。

黒い柱に仕込まれていた光刃がミサロの腹を穿つが、直ぐに塞がれさらに氷の鎧を纏う。

鋭く伸びる鉤爪がヒバナを掠め、青く硬い鎧が下のヒバナにのしかかる。


「ダジギル!!!!」


「こいよ!」


文字通りの死力を尽くすとの宣言にヒバナは勇んで応え、氷が赤くなるミサロに黒もやを展開する。


「…………!」


死のないヒバナだが、死神に鎌を向けられるのを覚えた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!(アイスメイデン)」


ミサロから伸びた氷の壁は瞬く間に2人を包み、中に針を無数に生やした。ミサロも共に入ったのは、道連れ覚悟で確実に仕留めるためだろう。


「んなッ…………」


氷の中の光景にヒバナは絶句し、自分の死を悟った。

無数の針の上からさらに魔法陣が展開され槍が顔を出してヒバナの出を伺っている。これが発射されれば黒モヤを盾にしても砕けて肉片に変わるだろう。

この中に入った時点でヒバナの死は確定だ。完敗だ。


爪を伸ばし詰め寄るミサロは同時に槍を射出し、ヒバナを捉えた。


「強欲の子供たち、強すぎるぜまったく…………」


槍が触れる直前、ヒバナの最後の言葉は尊敬だった。


2人を包んだ氷は地に落ちると砕け散り、煌めく氷晶を散らせながら黒煙を張った。


「お前、どうやって勝った」


師範が黒煙に語りかけると、勝者に吸い込まれるように黒煙が消え去った。


「ひ、み、つ。…………これが正解ですよね」


傷一つなく、背後の血の海からヒバナが現れた。背後には歪に体を切り取られた遺体が1つ。


「そうだ。それでいい。明かせば対策される。そしておめでとう、お前が仕留めたんだ。誇れ」


「これより強いやつと同等のやつがあと何人いるんだよ……」


「その調子だと親玉は比にならんぞ」


ヒバナはふと、この人なら虹の全てを相手取れるのではないかと閃いた。不意打ちでミサロを仕留めたとはいえ、師範なら正面からでも秒殺は容易いだろう。


「親玉は師範が仕留めてくださいよ」


「嫌だ。危険を犯してまで戦いたくない」


この臆病さが強さの秘訣なのだろう。

臆病であればあるほど死から遠のく。


「…………」


ふとヒバナが思い浮かんだのは、後にも先にもこの上がいるのだろうかと疑う2人の姿。確かに師範は強いが、もう1人、神太郎を殺そうとしたあの鬼も恐ろしく強く、到底敵わない相手だった。もしもその2人が接敵したらどうなるのだろうか。とても気になる組み合わせだが、互いが敵視することはなさそうだ。


「ヒバナくーん」


遠くからキユリが駆け寄ってきた。居場所を教えた覚えはないが、特定してすぐに来てくれたようだ。


「じゃあアシは帰る。あれ警察だろ?いずれ敵になる国、アシの事言うなよ」


「あ、はーい、お疲れ様です」


「お知り合いですか?」


ヨボヨボと立ち去る師範は最強とは程遠い気配を放つ。誰が見ても戦えない老人だろう。現にキユリも見抜けていない。


「助けたお礼を言いに来てくれたの。あ、私服なんだ、非番で呼び出しちゃった?」


「いえ、他国に外国の警察は介入しにくいので、回収だけしに来ました」


その行いは国際的に大丈夫なのだろうか。この街の警察ももうすぐ来るだろうが、他国が回収したと知ればこちらの国の刺客と見られないだろうか。


「ダミーの吸血鬼のサンプルを置いてすり替えておくので、なんの問題もないですね!解剖されても同じ氷属性が検出されるので。あ、こちら先日の地下闘技場で回収した吸血鬼ですー。なかなかの手練だったんで十分ごまかせるかと」


「………………」


何故キユリは死体を保存しているのか。それは聞かない方がいいだろう。知らない方がいいこともある。


「ささ、お巡りさんが氷壁を超えてやってくるかもしれないので行きましょー」


マジックバックに死体をしまうと早足で転送まで行き、直ぐに屯所のあるアニモンローの街に着いた。

この前急ぎ帰って気づいたのだが、アニモンローと我が家のある街、モルゲンロートはどうやら隣街らしい。隣と言っても、壁と平原を超えて隣だが。高いところから見ると少し見えるくらいの位置だ。


「ねぇねぇキユリちゃん、ちなみにこいつで報酬って出るの?」


「そうですねぇー。強欲の子供達となると…………。星4くらいでますね!」


確か部下の殲滅で星5の報酬が貰えるとか。そのうちの幹部の一人を討ち取れば星4相当の賞金らしい。吸血鬼の幹部は確か強欲の子供達だとか。そのうちの一人がアイビー。いずれ彼女も討ち取られてしまうだろう。


「させるものか…………。じゃあ親玉倒すとどれくらい入るの?」


「1人では使い切れないほどの莫大な賞金ですね」


そんな金が7人分もあるのだろうか。

今のところボスに勝てる見込みどころか、触れることすら出来なさそうだ。以前会った2人のボスですら前に立つだけで死を錯覚する程だった。


「いつか戦うことになるだろうけど、キユリちゃんは怖くない?」


「怖いですよー。でも恐らく私の実力では誰も相手にすることはなさそうですけど」


「…………?」


「もし虹と戦争が起きたらまず7色のボスと戦うのは、この国のトップを上から49人選出し、7人ずつ各色と対峙する感じですね」


国のトップの実力はどれくらいだろうか。アセムとかそのレベルではなさそうだ。師範レベルになるのだろうか。


「選ばれそうだなって人思い当たる?」


「私の中ではートップは間違いなく公認最後の砦と呼ばれてるシャガ・プラタナスさん、時点にその部下のユーカ・プラタナスさんですかねー」


「兄弟?」


名前からして親族だろう。揃って国のトップとは何とも才能に恵まれた家だ。旧世代の自分とは天と地の実力差だ。


「いえー、シャガさんが身寄りのないユーカさんを拾って育てたみたいでぇ、最強の下にいたらあんなに育ってしまったみたいですー。まだまだ16歳だと言うのに、すごい才能ですよね〜」


「16……!?」


「はいー、シャガさんは25ですがーユーカさんは16ですー」


16歳で虹と戦わされるレベルとは、一体どれほどなのだろうか。16歳の肉体でそこまで強くなれるのだろうか。


「え、てか公認ギルドが16歳を働かせてるの?」


「なにやら特例みたいで」


この国のことだ、闇深い訳がありそうだ。


「さささ、着きましたよ〜………おや?」


「……………?」


なにやら荒れてるのか、外にいても騒ぎが聞こえてくる。

隊員が走り回るロビーを抜けると、ヒバナを待合室に残してキユリは出ていく。


「あー、はいはいー。なるほど〜」


待合室のすぐ側でキユリの声が聞こえる。

いつもの声というよりは、少し焦りと警戒を感じさせる。


「ヒバナくーん、まずいですよ〜」


「………?」



────。

──。


隊員に殺意を向けられながら囲まれ飄々とする、露骨にやばい2人がヒバナを待っていた。


「oh......」



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