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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
45/60

1.18 能ある鷹は爪を隠す

1.18




「……チッ雨か。傘もってねぇ時に……」


ここは店などあるはずのない町の外。神太郎は木陰に入り雨宿りをしている。

危険な生物が多くいる外では経営など腕に自信がなくては叶わない。あったとしても、店が狙われたらあっさり壊されてしまうだろう。ましてや客も滅多に来ないから経営も難しい。

濡れるのは好きじゃないが、ここは仕方がないと足に強化魔法を付与した。


「ふふん」


背後で機嫌よく鼻を鳴らす声に神太郎は振り向くと、そこにはドヤ顔で2つ傘を持ったマキモが立っている。


「何でいるんだよ」


「雨の臭いが下から傘を届けようかなとー」


獣人の鼻はどこまで索敵能力を持ってるのだろうか。

褒めてと言わんばかりに胸を張るマキモに、神太郎は鼻をひとつ鳴らしながら頭を撫でた。


「外に1人で出たら危ないだろ」


「生き肉食べてないとはいえ獣人なのよ?シンさんより腕に自信あるわよ?」


ニヒヒと腕を叩くマキモに言い負かされると、嘆息を吐き捨て2人用の傘を手に取った。

それはマキモの日常の1つの一時の幸せ。

静かに揺れる尻尾はマキモの穏やかさを代弁している。

ああこんな日がいつまでも続けばいいのになと、マキモは穏やかに空を仰いだ。


────ふと、何も変わらないそんな日常がマキモの頭を過ぎった。

仕事が終わり、更衣室で腰をかけながら髪を縛り直すと、飲みかけのコーヒーを飲み干してバッグを背負う。

この町からモルゲンロートまでは走って1時間程だ。

仕事に行く時の決まったスポーツウェアは、少しぴっちりしつつも尻尾を隠してくれる。深深とキャップを被り屈伸を終えると、人に見つからないように町から飛び出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーー





「さて、全員揃いましたね」


円卓を囲う8人の前に並べられた豪勢な食事は、とても吸血鬼が作った物と思えない代物だ。


「全員……?なんだ……そちらの水人形がありなら、僕も適当に言い訳つけて代理で良かったよ」


「まあまあ、そう言わずに。こうして虹が揃うのも初めてなんですから」


用意された椅子に座らず巨大な左手の上に座り、あくび混じりに不満をこぼすと、広い円卓の端から強欲の吸血鬼が穏やかな笑みでなだめる。


「ああ……うまい……感謝……感謝……」


その横で1人震える手先で並ぶ料理を食べる妖魔の老人は生きてるのが不思議な程にヨボヨボだ。

50年と言われる妖魔の寿命を倍近く超えたその姿は年相応とも言える。


「ん……ん……っ!」


食卓に目もくれずにひとつの席で2人座りながら、口腔を舐め合う2人の鬼人を気にするものはこの場には居ないらしい。


「ねぇねぇ、私あなたが1番気になるの!」


テーブルの上で寝転び、手に顎を乗せながらくつろぐ褐色の獣人は、食事を前に手をつけようとせずに机に手を置くだけの神聖ケイアスをまじまじと覗き込んでいる。

寝転ぶスペースの料理はいつの間にか平らげられ、白くなった皿は端に積み上げられている。


「はて、私は特に尖った個性は持ち合わせてないと思うのですが」


「そうねー逆に普通すぎて、一般人みたいなあなたが何でテロリストみたいなウチにいるのー?」


テロリストという単語に違和感があったのか、ケイアスは首を傾げて問い返してきた。


「テロリスト……我々は種の平和のために今この場に集まっていると存じているのですが」


「んみゃあ、あながち間違ってはないねー」


血気盛んな一同とは場違いな穏やかさを主張するケイアス。その後ろで時間が来たと吸血鬼は手を叩き視線を集めた。


「それでは皆さん。そろそろ自己紹介とでも行きましょう。私は強欲の吸血鬼、メッシーナ・クローリ。以後お見知りおきを」


椅子の上で胸に手を当て丁寧に挨拶すると、奥の方で飛ぶように起き上がった獣人がテーブルの真ん中でウインクしながら目の上にピースを置いた。


「私は暴食の獣人のイクリプス・タッカ・シャンリエよろしく〜!はい次君!」


「めんどいパス」


即答で拒否され落ち込むシャンリエを慰めながら、クローリは流れを進めた。


「彼は怠惰の妖精ミシンガン・ピューロ。ご覧の通り左手は魔の箱に取り憑かれ巨大化しています。それと、そちらのお嬢さんは御本人ではありませんが、嫉妬の人魚のグルウェイグ・マリー・ゴールド」


「魔の箱……そんなものが本当に存在するとは」


長く伸びた顎髭を震える手で撫でながら老妖魔は感情豊かに驚きを示す。

関心を示した老妖魔は、ふと視線が刺さる方を見るとクローリが優しくこちらに微笑みを送り、言葉なく意図を受信した。


「…………むぅ……ワシか。ワシは……なんだったか……罪で呼んでくれて構わんよ。……ほれ次はそこの2人」


「……あ?俺たちか?俺はカストルでこいつがポルノス!んまぁ仲良く宜しくな!」


陽気に振る舞うカストルに対して、ポルノスはカストルの胸に顔を隠し黙り込む。公然わいせつを行ってる人とは思えない程に内気だ。


「最後は私ですね。私は傲慢が神聖、ケイアスと申します」


「むぅ……ケイアス……。よもや癒しの神がワシらのような悪党に与するとは……」


「悪党……?はて、あなた方が悪党であれば今頃この組織は存在していなかったでしょう」


傲慢と言わざるを得ないケイアスの発言に妖魔はやれるもんならやってみなと嘲笑する。


「ハッハッハ!さすがは傲慢の罪を持つだけあるわい!」


「あなた方のテロ行為は勿論存じてます。しかし、平和という存在にはいつも犠牲は付き物。来る平和のための必要犠牲というのを私は承知してます。そうでしょう……?クローリ殿」


「ええ、勿論ですとも。70年前、美しい獣人が哀れな少女を慈しみ人の脆さを知り、神の力で種族のパワーバランスの埋め合わせは終了し、そこから生まれる闘争やテロ行為による武力の強化もやがて終わります。次は種族間の────」


長年に渡る計画を語るクローリの話を、遮るようにミシンガンは巨大な指を1つ立てながら声を上げた。


「ねぇ、それ僕に関係ある?もう帰っていい?」


「ええ、構いません。残念ですが、関係を崩したくありませんし」


寂しそうに承諾するクローリの言葉を聞き終えることなくにミシンガンは部屋から出ていった。巨大な手に乗りカサカサ移動する姿は蜘蛛のようだ。


「さて、長話も好まない方の為にも、一言だけお伝えしましょう。───神喰が現れました。お気をつけください」


「「───!」」


神喰。長く生きてる者にしか知ることの無い存在。

数百年前より突如として現れた神兵を喰らう者。目撃例もなく神出鬼没で人間以外を襲うと言われている。


「強欲の。お主はなぜ目撃例のないあやつが現れたとわかるのじゃ?何かしらのコネクションでもあるんか」


「コネクションはありませんが、確証はあります。アレが最も活動する時期は、必ずひとつの種族の存在が消滅します。存在が消滅したため、皆様の記憶から消え思い出すこともなく、納得することも難しいのですが、かつて私の知る限りでは虫人、天人、怪人が存在しておりました。が、いずれも数が急速に減り、やがて絶滅してしまいました。そしてつい最近、巨人という種族の存在が史実から抹消されました」


「おいおい、ならあんたは何で消えた存在を認識できるんだ」


クローリの話に興味を持つカストルに嫉妬したのか、ポルノスはカストルの胸にかじりつく。


「私は神聴を所持しているため、神の声が聞こえるのです。世界から消えた存在も神には記憶されます。それ故に、消えた存在は私と神のみが知る存在となりました」


「その神ってのはなんなんだ」


「さあ、私にも分かりかねます」


微笑みながら嘘をつくクローリにカストルは問いただそうとは思わなかった。こういうのは何を言っても答えないからだ。


「ホッホッホ……では、強欲の。会食は実に美味で、ワシはまだ死にたくなくなったわい。また呼んで欲しい」


「是非とも」


憤怒の罪に似合わぬ優しい妖魔はクローリと握手を交し、扉の奥へ消えてゆく。

解散の空気を察したのか、挨拶もなくカストルとポルノスの2人は消えていた。恐らく我慢できなくなったのだろう。


「さて、私もこれで」


変わらぬ優しい笑顔を振りまくケイアスだが、その心は無に見える。癒しの神などと言われているが、クローリにはあの場の誰よりもおぞましい獣に見えていた。


「ふふ……。子は親に似るものですね」


「親……?ケイアスの?」


せっせと片付けを行う吸血鬼のメイドは、作業を止めて疑問を口にした。


「そうですよ。ほら、今はメイドなんだからしっかり働きなさい」


「はーい。そういえば憤怒の妖魔のおじいちゃんすっごく穏やかだったね!」


注意されても聞いてないかのように話を続けるメイドは相当図太い性格なのだろう。


「ええ、彼はとても優しいお方ですよ」


「へーなのになんで憤怒の罪を?」


「よく言うじゃないですか、怒らない人ほど怒ると怖いって。あなたも私が怒る前に仕事に戻りなさい。ね?」


起こる様子を見せないクローリは実に穏やかだ。納得したメイドは、流石にと仕事に戻り片付けを始めた。


「さて、次のピースは………。フフン……」





ーーーーーーーー




「たぁ……だいまぁ〜〜!!」


扉を蹴破らんばかりに勢いよく帰宅したマキモは、帰宅早々服を脱ぎ散らかした。下着だけになると椅子にかけられたTシャツに首を通しラフな部屋着を完成させた。


「……シンさんまだ出てるみたいだし冷やしとこ〜。…………あ、雨の臭い……」


冷蔵庫からリビングに戻ると窓から入った風が、天候を知らせてくれる。


「ふふん……!傘を忘れた夫に傘を届けて共に帰る……まさしく正妻……!待っててシンさん今行くから!」


新しいスポーツウェアに着替えると傘を持って飛び出した。

匂いを辿りながら町の中を走ると、神太郎はどうやらギルドにいることが分かった。それと同時に、ギルドからはマキモの嫌いな臭いが漂ってることも嗅ぎとる。


「……使命を果たすためここは我慢よ!」


マキモは苦手な臭いに抗いながらギルドへ入ると、入った瞬間マキモは血相を変えて神太郎に飛びついた。


「ねえ!シンさん!大丈夫なの!?」


マキモは血の臭いが大の苦手だった。その臭いが神太郎から出てるとなれば、苦手など心配が押し勝ちどうでも良くなる。


「………ああ、大丈夫だ、そんなくっつくな」


心配するマキモを引き剥がし何事もないと神太郎は訴える。

しかし神太郎の服の胸には穴が開き、そこから大量出血したであろう血痕が残っている。返り血にはとても見えない痕跡は余計にマキモの不安を煽る。


「ああもう泣くな。見た通り俺は無事だ、骨折と打撲があるだけだ」


収まりつかないと体を見せて証明しながら宥めると、神太郎はヒバナとマスターの部屋へ上がって行った。

本人は問題ないというが、居合わせたギルドの一員たちは神太郎の実力を知っているため、その深刻さに息を飲む。


唐突な押しかけに応じたマスターはいつもの少女ではなく、本来の姿である老婆の姿で2人を迎えた。


「あんたがそんな怪我を負うなんていつぶりさね……」


「難易度5行った時の方が傷は酷い」


傷はという言い回しに引っかかったのか、ベニゴアは神太郎の服を脱がし体を一瞥した。しかし、特に目立った損傷は見られず理解が出来なかった様子だ。


「1回死んだよ」


「…………。……。……は……?」


単純だが、理解の難しい言葉にベニゴアは深い沈黙の後に頭に浮かんだ一言を発する。


「死んだと言っても、死にきる手前だったがな、ヒバナが治療してくれなかったら間違いなく俺は終わってた」


「…………は?」


「マスターも知ってる俺の再生、これ他人にも使えてそれで神太郎の失った部分を埋め合わせて、輸血して何とか命をつなぎ止めれたって訳」


「神憑きの能力ってそんな万能だったさねぇ……。……じゃあ、私の治療も要らなさそうさね」


緊張が無くなり、ベニゴアは沈むようにクッションに腰をかけて煙管の灰を落とす。リラックスしながら煙管を机に向けると、ティーポットが浮きながら傾き、2つのティーカップに紅茶を注いだ。


「いや、マスターには骨折とかを治して欲しい」


「なんでさね、神様の能力で癒せるなら私の力もいらないさね」


神太郎を床に座らせると浮遊したティーカップが手前の机に置かれた。


「俺が直せるのは体の譲渡みたいな感じで、できるのは見るからに失った部分で、骨折とか細かいのは直せないんですよ」


「だったら互いに首とって神太郎に体を譲渡すればいいさね」


「さらっと怖いこと言わないでくれる!?」


サイコパスを疑う発言に身を抱きながら1歩引くヒバナは少しテンションが高そうだ。


「冗談さね。さあさ、その茶飲んで再生力高めるさね」


「悪いな、助かった」


出されたお茶は湯気が出てるにも関わらず神太郎は一口で飲み干した。


「で、誰にやられたさね」


「それが、御三家の神眼持ちってのに────」


先の出来事をヒバナの口から説明をした。神太郎を疑う訳では無いが、第三者の口の方が偏りが減るだろうと思ったからだ。


「世界の脅威さね……。神太郎、あんたは昔から分からない男だが、誓ってくれるかい?」


神太郎を黒と疑うベニゴアは神太郎に魔法をかけ始める。


「あんたはこの先私たちの敵でも、世界の敵にもならないと誓うさね」


ベニゴアの腕から伸びる光の鎖は神太郎の胸に突き刺さり心臓をロックする。

見た感じ誓いを立てて破ったら死ぬ的なやつだろう。

しかしそこまでやる必要があるのだろうか。


「誓わない」


「────!!」


神太郎の応えにヒバナが息を飲むと、ベニゴアの鎖は蒸発して消えた。

誓えないということはつまり────。


「あんたは黒さね」


ベニゴアは寂しそうな顔をしながらドス黒い鎖を生成し始める。


「待て待て、話を聞け。何も俺は敵になるつもりは無い。俺が誓えないのは、未来で俺がうっかりパンドラの箱を開けて世界を潰す結果になっちまうかもしれないからだ。そのつもりがなくても可能性は消えない」


神太郎の言い分を聞くと鎖は蒸発しながら部屋に煙を充満させた。


「そうかい……。神太郎、あんたとの付き合いは長いさね。でも、もし本当にうちの敵になるならその時は分かってるさね?」


「…………。ああ」



悲しみ混じりの殺意を浴びた神太郎は総毛立つのを覚える。


「とりあえず、今は休むさね。その怪我で動いたら治りも遅くなるし、何よりあの子が心配するさね」


「そうだな」


「それじゃあ俺はちょっと新技思いついたから、魔物退治依頼行ってくるわ〜。神太郎お大事にー」


煙の中から消えるヒバナは手すりを越えて1階に飛び降りる。自信があるのか、難易度は3を1人で行くらしい。

依頼を受けると再生飛行で南東に進んだ。

依頼内容はマンティコアの討伐。

現場環境が悪く、現在付近に蜘蛛男が出現し1部通行に規制がかかっているそう。本来であれば行くことすら許可が降りないのだが、ヒバナの能力を知ってるマスターが特別に許可を出してくれた。


「俺の運なら確実に出くわすな……ハハ……泣けてきた。仮に返り討ちにしたならこれ難易度5の報酬も出るのかな……?」


悲観に涙を浮かべながら空を飛ぶこと1時間。目的地の森林公園に着いた。

70年前魔物が出現するまでは猛獣もいない穏やかな観光スポットだったらしいが、ある日突然マンティコアが住み着き繁殖を初め住処にしたそう。


場所が田舎だったこともあり、依頼料が少なく多くのギルドに断られウチに届いたらしい。

難易度3となるとなかなか依頼できるものではないだろう。


「おほー。木がでけぇ……」


子供じみたコメントしか出てこないヒバナを迎えるように、マンティコアはお出迎えしてくれた。公園全体が住処なのか、入口に入っただけで3体のマンティコアが現れた。

名前からイメージしていたのはキノコの化け物だったのだが、実際は獣の胴体に人の顔が付けられた気色の悪い生物だ。


「タスケテ、シニタクナイ、オカアサン」


「あ〜あ……」


人の言葉を真似る鳥がいるらしいが、人の言葉を喋る獣もいるらしい。知性がないからその言葉の使い方も知らないようだ。


「お前ら、理解できるか知らんけど、ひとつ言わせてもらうわ。その言葉開幕言われて躊躇う奴いないぞ。死にそうな時に使うもんだ。って……。ああ、今がまさにそうか……」


言葉の通じない魔物に教育しながらひとりでに納得し頷くヒバナを気に止めることなく、3匹のマンティコアは3方向から飛びかかる。


「まずはウォーミングアップ!」


体を捻り回転するヒバナの手のひらから飛び出た黒もやは長く伸びると3本に分裂し、回転で勢いの増した3本のムチがマンティコアを襲う。がしかし、硬く太く逞しい獣毛が重なる胴体にはダメージが薄く、少しよろけただけで止まりなどしなかった


「……マジ?」


目前に迫る三体の人面獣は口を広げ、ヒバナの顔面に迫った。

歯並びの悪い歯型は柔らかい皮膚に付くことはなく、虚しくも硬く臭い黒い繭に深く残る。


「戦闘ならやっぱりこっちっしょ」


破れた繭から逞しい青年の腕が伸び、マンティコアの顔面を鷲掴みにして別の個体に投げ飛ばす。


「…………」


別人になったヒバナを警戒したマンティコアは少し距離を取り、こちらの出を伺う受けの姿勢に入った。

その間にヒバナは自分の戦闘の記憶を振り返り、思いついた新技へのヒントをイメージする。


神眼の鬼が神太郎を仕留める際に放った閃光はマギをそのまま具現化させたエネルギーの塊のようだった。

そしてネットで調べた魔法を扱うコツ。自分の思い描く技をイメージする事で実現をしやすくできるらしい。イメージが強ければベニゴアの鎖のように細かい創造が可能になるだろう。

今、ヒバナが浮かべるイメージは。


「おううるるる!!!」


「おおおぉぉぉぉぉ!!!」


マンティコアの咆哮に呼応するようにヒバナの腕から光刃が少し生えた。


「よし出来た!」


喜べるのも束の間。マンティコアはヒバナを脅威とみなし仲間を呼び寄せていた。気がつけば数えるのも面倒な数のマンティコアが囲んでいる。


1度出来てしまえば感覚は掴める。感覚を忘れないうちに慣れさせるだけだ。


ヒバナが光刃を納め、黒モヤを再度出すと開戦の火蓋は切られた。


「うおおおおぉおおお!!!!」


物量で攻めるマンティコアに対し、ヒバナは複数本の黒モヤのムチの先端に生やした光刃を振るう。

シオンの筋力なだけあってムチの威力はヒバナの比にならず、頑丈な獣毛の鎧を越えて皮を抉る。仕留めきれずともしなる先端に光刃が追随し、命を刈り取ってゆく。

近距離と中距離の両立により物量で押し切ることは不可能になった。魔法や道具といった遠距離の能力を持たないマンティコアは為す術なく狩り尽くされるのみ。


「君面白いなぁ」


「────!」


木の上から降り注ぐ男の声に手を振るいながら目を向けた。見上げると木の枝に腰をかけた能面をつける変態が見下ろしている。


「僕もその技真似していい?」


「いいけど、何でお面?」


木の上から飛び降り軽々しく着地する能面はヒバナの新技を気に入ったらしい。真似をすると言ったが、魔法の扱いが得意なのだろうか。

そんなヒバナの疑問は質問と同時に解決された。


「ちょっと顔に傷があってね」


能面の手から白い糸のようなものが無数に伸び、それが何本も重なり数本のムチが完成する。そしてその先端にはヒバナと同じ光刃が生えた。


「おう……やっぱりやめとこ」


一瞬ダルそうな挙動を見せた後、直ぐに光刃を納めてムチの先端を刃に変形させた。


「君凄いね、君の武器真似は出来なかったけど、戦い方だけは頂くね!」


見るからにひょろひょろな肉体の彼にムチ部分の威力はどう補うのだろうか。


「……!」


一瞬で腕を紅く染め上げ剛力でマンティコアを薙ぎ払う姿は、まさに魔法武闘家と名乗れるほどに武と魔の両立を完成させている。


「楽しいねこれ!悪いけど、残り全部仕留めちゃっていいかな!」」


「んー、……だめ!」


「あ……そう……」


高ぶった感情に静止をかけられ落ち込むように腕が落ちた。襲い来るマンティコアは紅い腕で弾いて木の上に戻り、再び見下ろす形で傍観を始める。


「君とはもっと話してみたいから、終わるまで待つよ」


木の上で泳ぐ足はどこか楽しげに揺れる。


「待ってな、すぐ終わらせる」


ヒバナは刃折れの刀を抜くと、折れた剣先を光刃で再現する。


「ほう……」


ヒバナの戦い方に感心しながら見下ろす男は、ヒバナの剣先に思わず意識を奪われた。


「剣持つとイメージしやすいな」


光刃はマンティコアの胴を容易く両断し、吹き出す鮮血をすり抜ける。


「やっぱり振り回すならこいつだな!」


使い慣れた武器による猛攻は止まらず、20分程で森林全てのマンティコアを狩り尽くした。

疲れ知らずの体質だが精神は再生しにくく、ひと仕事終えた疲労感が腰を落とした。


「お疲れ様、君の戦い方面白いね」


「ん、ああ、えーと」


「ああ、ごめんごめん、僕はスイセン。君は?」


「ヒバナ。面白いって、黒モヤのこと?俺はスイセンの糸の方が面白いと思うな」


先程面白いと言って真似をしてきたスイセンだが、光刃をやめて糸で刃を作っていた。繊細な創造から繊細な造形をこなすその戦い方は芸術といえよう。


「僕のは昔から続けてる個性みたいなものだから真似出来ないね。とはいえ、君の光る刃のやつも誰も真似出来ないけど」


「あ、そうなんだ」


以前見たものを見様見真似したから先駆者はいるけど。


「それは常にマギを放出してるから威力はあれど燃費が悪いんだ。マギは直出しよりも物質に変換して出した方が燃費が良くなる性質があるから、ほら、さっきヒバナが出した光る刃のマギ量は僕の糸だとこんなに」


指から伸びた糸はスイセンの傍らに等身大の人形を3人分作り出した。マギが無限で燃費など気にしたことなかったが、他の人が見ると相当な高燃費だったらしい。


「時間が経てば経つほどその燃費はどんどん倍になるから、やめた方がいいってアドバイスしようと思ったけど、何故か大丈夫そうだね」


無限のエネルギー持ってますから。


「だねー」


「ヒバナがこの仕事受けた理由ってまあ、試し斬り目的だよね」


「そうだね」


「新技を作るってことは、強くなりたいってこと?」


先からアドバイスくれたりして、ライバルや戦友が欲しいのだろうか。

だとしたら他を当って頂きたい。


「そうだね。いつかは戦争も来るだろうし、こんな世の中だし、力は持ってて損はないからね」


「ならさ、うちの道場に来ない?うちの師匠世界一強いから」


どうやら勧誘だったらしい。

自分は世界一強い女を嫁にしてるが。


「世界一ね。まあ、見学くらいならいいよ」


「よしじゃあ、行こう!」


「いや今からかよ」


強引な姿勢に少し引きつつも、胡散臭い道場に行くことを決めたヒバナは、依頼終了の手続きを担当に依頼し、報酬は振込に変更した。


「で、どれくらいかかるん?」


「霖国だからここからだと半日かな」


「ざけんな」


胡散臭さの塊のような男だ。いきなり道場に誘ったと思ったら目的地が外国だとは。


「大丈夫大丈夫、最寄りの街に転送装置あるから、そこに行けば一瞬さ」


もはや何を言っても胡散臭いため、信用に欠ける。

しかし乗り掛かった船のため、最寄り街まで同行し転送装置を使用した。料金はスイセンが払ってくれた為、負担は特になかった。


「俺外国初めてだなー」


といっても、あまり対して変化はない。どこにでもある山と街があるだけで秋国と何ら変わらない。その国の文化や特産物があれば別だが。


「着いたよ」


「山しかないけど?」


街に行くと思いきや、後ろに歩き出し山に向かって指を指す。


「山頂だからね」


なるほど。通う所から修行は始まってるのか。

大抵の人なら山を登ったら体力を使い果たし修行に体力を使えないだろう。

しかし、実戦を生き抜いてるスイセンと疲れを知らないヒバナにはないようなものだった。


あっという間に山頂に到着すると、以下にも師匠と呼べそうな貫禄のある大男と、寒くないのに厚着をする能面の老人が出迎えてくれた。


「なんだ、入って少しのペーペーが勧誘してきたのか!」


「アズマさんこの人なかなか面白いよ」


大男はアズマと言うらしい。

アズマはヒバナを一瞥すると、少し苦い顔をして鼻を鳴らす。


「お前も1度は死線を抜けたことあるみたいだな。体験するなら俺と手合わせするか!」


「いいですね。世界一の道場見せてください」


師匠自ら相手してくれるなら、道場の実力を見るのに1番早い。


「…………」


能面の奥で鋭く睨む老人はアズマの肩を叩くと二人の間に入った。


「アシが……師範よ……」


「え?ああ、すみません。あなたが師範でしたか」


黙りこくっていたのは自分が師範と認識されずに凹んでいたかららしい。


「あと、アシがお前の相手をする。本気で殺しに来い」


親指を道場に向け来いよと挑発する老人はどこか若々しさを感じる。

師範と言っても老人だ。怪我をさせる訳には行かない。

とは言わない。相手は相当年期の入った達人だ。触れることも出来ないかもしれない。


「お願いしまーす」


「…………」


道場に上がると老人は動く気配がなく、ヒバナの出を待ってるようだ。そして奇妙なことに老人からは達人のようなオーラというかなんというか、気迫を感じられずそこら辺の穏やかな老人と変わらない存在に感じる。

殺しに来いと言われたからには本気で答えねばなるまい。


「…………ふぅんッッ!!」


最速で打ち込んだ拳は虚しく空を泳ぎ、老人の体は棒立ちのままだ。


「嘘でしょ……」


避けたと思っていたが、気づかないうちに胸に打ち込まれていたようだ。ダメージは再生で消せるが、攻撃を当てれなければ勝ちはない。


「アシはお前が嫌いだ」


おっといきなり嫌われたらしい。


「お前は自分の体を大切にせず、命すらも守ろうとしない。アシが殺す気だったらお前は既に死んでる。お前は自分を大切にしろ」


「自分を大切に……」


「ほれ、殺りにこい」


たしかに体質のせいで自分へのダメージはもう忘れてしまっていた。そしてシオンの体のデメリットで再生の上限も減っている。再生が出来なくなった時、ダメージを受けたら本当に死んでしまう。


「ウスっ」


深く息を吸い気合いを入れると、いつかアセムに繰り出した最高の一撃を打ち込んだ。

しかしそれすらもヒラリと避ける師範は拳が限界点に到達する前にヒバナの顔に手を押し付け、前傾に乗った重心をへし折るように頭を床に叩きつけた。


「反撃を想定しろ。攻撃が当たると思うな。油断はするな。敵を見ろ。1人とは限らない。敵はどう見える。敵にどう思わせる。自分をどう見せる。最初のお前はアシが強いと思いつつも信じきれずに油断したから簡単に仕留めれた。侮らせろ。侮るな疑え。常に狙われてると思え。いかなる状況も対応しろ。反省しろ。これはうちでの基礎だ」


「ウスっ」


反撃を誘うように伸ばした手に反撃してきた師範の手を掴むと、波打つ師範の体に吸い寄せられ、バランスを取ろうと踏み込んだ足を掬われ横転する。

そこから崩れた重心を弄ぶように回され、倒れるまでに3度殺された。


リスタートと言わんばかりに立て直しの時間が与えられ、距離を置きながら師範の動きを待つ。

ヒバナが受けに入るのを見て、真っ直ぐ無警戒に歩み寄る師範からヒバナは一秒たりとも油断を見せなかった。

互いに手の届く範囲に入ると、構えるヒバナに対し師範は棒立ちだ。そこからゆっくり挙げられた右手はヒバナの警戒を誘い、左手を腹に伸ばすとすぐさまヒバナは止めに入る。

互いに片手が塞がったところで右手に加速を見せ、ヒバナの視界を覆って塞ぐ。


右手を弾いて視界を戻した時には既に左手は首を捉えていた。


「くぅぅぅうう!!」


歯が立たない実力差にヒバナは悔しがるが、それを見守るふたりは当然だろうと楽しそうに傍観している。


「まあ落ち込むなって、うちの師匠は道場設立から1度も攻撃を受けたことがないらしいから」


勝ち目のない戦いにヒバナは何度も挑むが、結局1度も敵うことはなかった。


「強すぎんだろ…………」


仰向けに空を仰ぐヒバナは疲れ果て隅で嘆く。

後ろで指を2本立てピースする師範は疲労を感じさせず、とても年老いとは思いがたい。


「こんなにやばい生物がいたのか……」


世界は広いものだ。対人戦となると敵無しではと思えてくる。いや、ここまで来ると他種族相手にしても敵無しだろう。


「来てよかったでしょ」


「うん、面白いわ」


寝転ぶヒバナは、伸ばされた義手を掴み起き上がると師範を一瞥する。戦わなければ本当に強いとは思えない。ましてや能面がなかったらそこら辺の爺さんにしか見えない。


「師範が面をつけるのはスイセンと同じように顔に傷があるとか?」


「失礼な。面を付けるのは、顔を知られたら知ってる相手が油断してくれなくなるからだ。素顔を知った時には死んでるものよ」


今さらっと裏稼業を口にしたか。

この人に暗殺を依頼されて生き残れたターゲットは存在しないだろう。


「お前、出身地と名は」


「秋国から来たヒバナです」


「秋国……?…………。悪いことは言わんから、亡命した方がいい」


秋国の名前を聞いた途端、スイセン以外の2人は眉をひそめ、アズマに亡命を提案される。そこまで言われた我が母国は相当危険な状態にあるようだ。


「秋国はあまりにも強大で、長年もの間、他国からの侵攻を許さなかった。しかし、他種族との戦争や現代科学の発展。それにより国同士のパワーバランスは崩れ始めている。だがそれだけでは秋国は崩れない。そこで、他の小さな国たちが協力しあったら、それは秋国と同じか、それ以上の力になると思わないか」


「でもそれは戦争が起きたらじゃ………」


起きる前提で話を進められてるが、今こうして他国を自由に出入り出来てるあたりしばらくは起きると思えない。


「それが今の秋国はいつ開戦してもおかしくない状態なんだ。最近だと、戦争中の他国に武器を売って間接的に介入したり、スパイを送って他国の情勢を見ている」


そんなに情報が流れてる上に一般人であるヒバナにまで話されてて大丈夫なのだろうか。


「奇妙なことに、どうぞ知ってください、いつでも戦争する準備は出来てると言わんばかりにこういった情報が筒抜けなんだ。だから早いうちに亡命した方がいいんだ。うちの霖国は難民をよく受け入れてくれるからうちに来るといい」


「考えときますわ」


もしこの話が本当なら今の国王は偽善ということになる。もしくは王に隠れて軍が勝手に動いているかだろう。

いずれにせよ戦争が起きる日は近い。


「ヒバナ、帰る前に1戦やらない?」


師範との勝負でうずうずしていたのか、我慢できなさそうな表情で頼み込むスイセンにヒバナは承諾を示し道場へ上がる。


「勝敗は?」


「命に触れるまで」


「おけ」


開始の合図はなく、互いの沈黙が既に始まっていることを諭す。

先に動くはスイセンだった。

床面を滑走するスイセンは手前で飛び上がり、全体重をヒバナに押し付けるが、あっさり避けられる。大振りな攻撃から一転、変形させた義手による小刻みな乱舞がヒバナを確実に攻めていく。逃げるヒバナを逃がすまいと壁を蹴り、背後を取ると、槍となった義足がヒバナの臀部をえぐろうと伸びるが、それすらも既のところで避けられてしまう。

反撃をすべく伸びた5本の黒モヤは先端に光刃を発生させ、ムチの如くしなる黒モヤは、弧を描きながらスイセンに迫る。空中に浮いて身動きが取れなくなったスイセンは、義手から伸ばした糸を天井に張りつけ、天井を引っ張り天井に張り付く。


低姿勢だったり飛んだりと狙いを定まらせない戦い方はまさしくここの弟子と呼べる戦法だ。そして何より地、壁、天を縦横無尽に這いながら糸を使いじわじわと攻める姿はまさに蜘蛛だ。


「……ふはッ」


1歩後ずさりして距離を置こうとしたヒバナだが、なにかに足を引っ掛け体勢を崩してしまう。そこを突くように、糸を張り巡らせながらヒバナの背後の間合いの外ギリギリを最短で取り、ヒバナの行動を待たずに先手を狙った。

勝ちを確信したスイセンだったが、1つ見落としていたものがあった。隙をさらしたハズのヒバナだが、その目は冷静にスイセンを追いかけ敗北を浮かべてなどいないことを。

それに遅れて気づいたのは首に義手を伸ばした時だった。


漆黒に包まれた大きな腕が真っ直ぐスイセンの面と顔を鷲掴みし、床に押し付けた。衝撃を感じつつも、首をの狙った義手の感触に意識を送るが、どうやら外れたらしい。


素手で触れた感じ本物の腕ではないらしく、糸で形成した刃で切断するとモヤとなって消えていった。

床に背が着く一瞬の出来事だったが、体勢を整えるには十分な時間だったらしく、ヒバナは距離を置いていた。


「ハイハイそこまで」


アズマが二人の間に入り手を広げて制止させる。

まだやる気満々の2人だが、アズマが止めなければいつまで続くか分からない。


「スイセン。ルールを設けたのはお前だろ。お前は負けても戦い続けるゾンビ行為を行っているんだ」


「そんな、いつ……!?」


「それに気づけないからお前は実力あるのに初級なんだ。たしかに攻めは強いが、守りが欠けすぎてる。攻めの過程で守りが発生してるだけで、そこを突く相手の攻撃にお前は対処をするどころか気づいてすらいない」


「うう……」


「ヒバナの黒いムチみたいなやつは初めて見たが、俺でもわかる。あの先端の白い刃は外れはしたものの、本気で殺しあっていたなら変形して確実にお前を仕留めていた。それと────」


「え、2回も殺されていたの………」


「黒い手に顔を掴まれた時には死んでるよ。最初のムチに白い刃が付けれるならお前は掴まれる前に、刃が先に刺さってるよ」


「くそーう」


悔しがるスイセンを背に空を見ると、気づけばもう夕は過ぎ夜だった。


「あー、帰りますわ。今日はありがとうございます。教えてもらったことを活かして精進します」


「おう、一応名刺を渡しておくから、もし亡命したりうちに来たくなったりしたら電話してくれよな!」


「わかりましたー」



────。

──。


帰り道に暗くなった街道を少し寄り道しながら散歩する。


「飛んだ方が金かからなくていいかな」


転送装置に行くか否かで迷う帰り道、ヒバナは季節外れな真っ白な雪を見た。


────否。


それは真っ白な雪ではなく、いつか見た強欲の吸血鬼の娘の白い肌だった。

そして彼女は。


「アイ…ビー………」


かもしれない人だ。




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