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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
41/60

1.14気配も視線も隠れてれば分からない。

いつも通り、冒頭の物語は1.4話水族館へ行こう!(後)から続いてるスピンオフです。

スピンオフは次回終わります。

1.14


片時も頭から離れない彼女の声を聞くことはもう、クロッカスには叶わない。

全てを失った先で生まれたクロッカスにとって、彼女はクロッカスの全てだった。

それを失った今、自分という空の器も必要ない。穴の空いた器に幸せは微塵も残らず、器はただただ全壊を望むのみ。


そこに現れた宰相は彼を延命させようとするが穴は塞がず、むしろ器を持って己が武器にした。


空の器は5ヶ月以上穴を塞ぐことをせず、器をより鋭利に、より禍々しく変形させていた。幸せを収める器などではなく、器で幸せを叩き割る鈍器へと変貌した。


アイビーは駆け落ちし、国を捨てた。やはりこの国の敵だったようだ。

罪人は駆け落ちした相方が足でまといになったらしく、人質にされ捕まったらしい。


そして時は来た。今日はアイビーの処刑の日。

旦那はそこら辺の男だそうだ。


罪人が目覚めると獣のごとき唸りを上げて鎖に抗う。


「ヴッ」


唐突に鈍い頭痛が遅い膝をつき、隣に心配されるがどうということは無い。2人を殺して自分も死ぬのだから。

それにしても、なぜ王はアイビーに錠をかけなかったのだろうか。あんなにフリーでは反撃のチャンスを与えてるようなものではないか。


「勝手に……諦めてんじゃ、ねぇえええええ!!!」


鎖に繋がれた犬が何やら吠えてるようだ。

頭痛で話が聞こえなかったが、何やら彼を助けるために死ぬ彼女にこの国に抗おうと説得してるらしい。


「大賛成」


彼女の一言で鎖に繋がれた犬は獣となり、体内から湧き出た人鬼のような黒いモヤで装甲を作り身を包んだ。

愚かにも抵抗する2人に王は処刑命令を下し、百の騎士が動き出した。

後方に居たクロッカスは出遅れたが、2分割される騎士の中、真っ直ぐにアイビーに向かう。


「シオン!」


「アイビー!」


肉壁の中をひたすら進み、ようやくアイビーが見え始めた時、クロッカスの脳は鼓膜からの衝撃に膝をつき、後方へ押し飛ばされた。


シオン。聞き間違えじゃない。確かに今シオンと。

肉壁から離れ瓦礫の段差から背後のシオンを見ると。


「あぁぁぁあぁあぁ………………」


あの青年はクロッカスの脳に刻まれた幼い紫苑などでは無い。しかし紫苑の面影は確かに残し、年相応の顔つきの青年。紛れもない紫苑だ。

しかし、その嫁たるは愛しきアーサーを殺害した反逆者のアイビー。

生きる本物の紫苑と、帰らない怨念に悩まされクロッカスは脳がネジ切れるたのかと錯覚した。


アーサー。君の声が聞きたい。

アーサー。もうそれは叶わないんだね。


崩れた膝を直し、全身の武装に意識を巡らせ集中する。

そして落とした剣を握り、怨念から生まれるドス黒いさっきを纏わせた剣をアイビーに近づけると。


「────!」


後ろから手を引かれた。

振り向いた一瞬、網膜に刻まれたのは幼子の小さな手と、見慣れた男よりたくましい少女の手。


溢れる涙が怨念を溶かし、暖かな光をクロッカスに与えた。


失ったものは戻らない。

残らないのであれば、残された復讐を果たすまで。


しかし、クロッカスにはまだ残されていた。

最後の光が。自分を支えた自分の全てが。


「紫苑……!」


あの数とレベルではいくらアイビーと紫苑でも抜けるのは困難。しかしここでクロッカスが数を減らしても、直ぐにバレて1人2人しか減らせないだろう。

であれば。


背中を合わせた反逆者2人を囲う肉壁の中に入り、2人に降りかかる狂気に僅かな切れ込みを入れ援護する。


周りは2人に集中して人混みの中の自分の動きに気づけない。


「不思議!」


「どうしたぁ!」


「私これだけ殺っているのに殺意が湧くどころか笑えてきちゃう」


「重症じゃねぇか!切り抜けたら病院へ連れて行ってやるよ、頭のな!」


紫苑。君は変わらず可愛い笑みを────。


肉壁が減り、ついに訪れた自分のターン。クロッカスは抵抗することなく、剣を捨てその身を投げ出した。



────。

──。



「ここは……?死んだのかな」


いつか見た白一色の寂しい世界。

となればあの男も。


「御明答。久しぶり、つっても俺はずっといたがな」


「もういいよ。早く転生して終わらせよう。人生はいつも奪われるだけなんだ。あと何回だっけ?てか、それ他の人に分けられないの?面倒臭い」


投げやりに死にたがるクロッカスに申し訳なさそうに俯く神は、何とか希望を叶えようと自分の頭に出来ることを算出させた。


「うーん、考えて見たけど、分けるのできるっぽい。じゃあ、適当にその辺に配っとくけど、いい?」


「いやまて、条件加えれるか?」


「条件?」


「自称神様。あんた、器ない存在のくせに多重人格なんだな。喋る度に別人と話してるようだよ」


馬鹿にするような文句にかみは、ムカつくどころか口元を歪めて笑った。


「まぁ、そんなのどうでもいい。神業に等しい転生というこの力を分けれるのはそのおかげだろ。本題に入る。条件は2つ、まずは簡単。お前の人格をバラバラにして力と一緒に配るんだ。勿論記憶もな。2つ目は記憶の共有は主の転生を達成して開放されたヤツらのみだけどする。以上だ。お前にはメリットなくデメリットだけの無慈悲な条件だ。とはいえ、沢山ある人格でそれを好むやつもいるだろ。多数決でもとってやるか決めてくれ」


「算出してみたところ、満場一致でやるみたいだ」


「満場一致!?」


言った本人ですら驚きを見せてその姿を笑う神は口を開く。


「縛られた方が、楽しい世界は広がるぞ」


自称神様はMらしい。神の言うことはさっぱり理解できない。


「そろそろ転生始めるけど、なんでそんな縛りを?」


「稚拙な感情だよ。お前への嫌がらせ」


世界が消えると同時。元の世界では、神の力が玉となり地上に落ち、10に分裂しその場で弾けた。


4つは3人の獣人に。2つは鬼の青年に。3つは青い髪の少女に。そして最後の1つは少女の腹の中に。


1人の多数人生は散り、やがてそれは多くの物語を生み出した。


譲渡された者の気も知らず、クロッカスは消化試合の人生を歩き出した。





ーーーーーーー以下本編ーーーーーーー






暗殺は3人グループで二手に分かれて行動することになった。

Aチームはキムバス、オーキス、キャンベラ。

Bチームはヒバナ、アヌバス、パスグラスとなった。


「安心しろヒバナ。お前の無事は俺が守ってやる」


たくましい筋肉を見せつけられ、その背中にヒバナは安心感を覚えた。


今日はこの地下闘技場のオーナーが直で見に来るらしい。

オーナーを暗殺することがここの運営を終わらせる事に繋がるそうだ。そのチャンスを叩くために今日まで必要犠牲と言い訳し見殺しにしてきた。


「武器は持ち込めないですよね、どうするんです?」


「そこは大丈夫だ。今日はオーナーがいるから厳重だが、人間が管理してれば抜け穴はそこら中にある。プライベートルームに入れれば自由だ」


受付を済ませ個室に案内されるとパスグラスは尻からがま口財布を取り出した。


まさかその中に武器が隠れてるのだろうか。いや口が小さすぎるからありえないだろう。

そんなヒバナの思考を裏切るようにがま口財布は人の顔の大きさほどに口を開いた。


「いや嘘つけ!」


大きく開いた口から財布より大きな小銃が出てきた。これも魔道具というものだろう。


作戦中は皆無口だ。

索敵に長けた獣人対策。今では護衛やスパイを職とした獣人もいるらしいため、それに備え作戦に関わる会話は避けている。他にも銃と火薬の臭いを消し、更に外も加工し触れ合った金属音を抑える事で獣人からは視認するまで透明な武器へと化した。


「続いて2試合目!何と命知らずが自信をエントリー!そんな命知らずはなんと人間!人間です!覆面に顔を隠す馬鹿の相手はァ!?魔獣ビュステンハルターだ!」


うぉぉおおおおお!!と会場に歓声が響き渡る中、暗殺チームは緊張を張り巡らせていた。


「魔獣ってあんなホイホイ使役できるもんなのかな。てかそんなに排出されてるの…………」


「うぉぉおおおっっとぉぉおお!?」


ヒバナの疑問を遮るように実況が声をあげる。

リングの中に一人立つのはなんと覆面の人間。人間かも怪しいその力は観客を湧かせてリングから立ち去る。


「バケモンかよ……最近似たようなおっさん見たけど……」


ヒバナの脳裏にアセムとインパが浮かぶ。そういえばあのまま放置したけど2人はどうなったのだろうか。


「続いてもォ!?同じく自分を売りに来た馬鹿の覆面2号だァ!!」


次の試合も似た体格の覆面が出てくる。2号って言ってるし身内だろうか。


男は獰猛な魔獣を前に服を脱ぎ捨て身軽な上裸になる。

その姿に客は歓声とは違う声を思わず漏らし覆面の男は雄叫びを響かせた。


「な、なんと!次の男は土竜の印が刻まれています!!近づくものは皆不幸になると言われる土竜の印!彼は一体どんなプレーを見せてくれるのだろうか!?」


土竜の印。たしか70年前イスクラヴが刻まれていた印だ。


魔獣はリングに火を吹き会場を熱で包んだ。これこそが自分のフィールドと言わんばかりに辺りを赤に染め上げる。

一方男は腰をひねったまま拳を握って力を溜め続けている。


「おぉっとォ!熱により体が膨張しているのか、魔獣が一回り大きくなったァ!灼熱のリングで長期戦は危険だ!さあ男はどう出るのか!?」


動じることなく姿勢を変えずに力を溜める男はようやく視線を魔獣に向けた。準備OKという事だろう。


「…………?」


しかし、男は溜め込んだ力を全て手放し完全な脱力を見せつけた。

汗ばむ男は迫る魔獣に間合いへの侵入を許し両手いっぱい手を広げて堂々と向き合った。

魔獣はがら空きのその胸に体内で生成した火炎を男に吹きかけた。


巨大な肺から生まれる肺活量は火炎の勢いを増大し、瞬く間に男の目前へ迫るが。


「───ふんッ」


広げた両手を力いっぱいに閉じた風圧に押し負け虚しくも手前で割れて消えてしまった。


「うぉぉおおおおお!!」


先と同じく人間を辞めた力に観客は歓喜する。

そして男は先と同じように手を広げ巨大な鳥の魔獣を挑発する。


同じく炎を生成すると今度は後頭部にある排熱器官から火を漏らした。中で抑えてるのか、チョロチョロとしか出ない炎は少し拍子抜けしそうだ。しかし、その期待を裏切るように抑えた熱は弾け飛び排熱器官を爆破させた。

1箇所の出口から溢れる熱膨張の加速により、鋭利な嘴をより一層凶器に変えた。捉えるのも難しい嘴は男の胸一点を最短ルートで直進し回避不可の間合いまで迫った。


「────」


目の追いつくヒバナはただ男だけを捉え、決着の刹那を見届けた。


何が起きたか分からない観客達は、爆発と同時に魔獣が男の傍らで倒れてるように見えただろう。


「まじかよ……」


しかしヒバナにはしっかりとトドメの一部始終が脳に刻まれていた。


嘴が胸に触れる寸前男の両手がペンチのように嘴を潰し、潰れた嘴を握って引き寄せた頭蓋を下から蹴りあげ喉を潰した。


音速には届かないが、こんなに早い動き出来る化け物インパ以外にもいたのかとヒバナは舌を巻いた。


化け物は拳を振り上げリングの外へ帰って行った。


「本来は1人1試合で終わってしまう本闘技場ですが!オーナーのご意向により!本日限定!トーナメントになりまぁァァァす!」


「うぉぉぉ!!」


熱い歓声が会場を埋めるが、まだ、まだ作戦は始まらない。

今か今かと緊張する暗殺チームを無視して試合は進む。


張り詰める中、試合は準決勝へ。

覆面1号の男が現れた。


相手は準決勝まで同じように秒殺で勝ち昇った吸血鬼。彼はオーナーの出した手札らしい。人間対吸血鬼。現代では互角か人間が不利かのパワーバランスだがどうなるのだろうか。

人間離れした覆面なら何とか勝てそうな気もする。


試合開始のゴングと同時、間合いまで入れた覆面の拳が空中で静止する。

迫った拳を吸血鬼は冷静に対処し、地から鋭角に生やした氷塊で拳を受け止めた。氷は衝撃を地面に流すと触れた拳から腕にかけてジワジワと氷で包んでゆく。既に凍結された拳は今剥がせば皮ごと持ってかれてしまう。避けることが出来なくなった覆面に容赦なく氷の太刀を振るった。


覆面は氷の太刀が振るわれる前に凍結された腕に全力を込め耐えれなくなった氷塊を根元からぶち折る。少し重く感じる右腕を、迫る太刀を振るう吸血鬼の右腕に当て、骨が砕かれ怯んだ吸血鬼に氷塊を持ち上げた。

氷塊の持ち主である吸血鬼は、自分の死に対し痛みを忘れ無となった。腕が頂上まで持ち上がる刹那、死を覚悟した吸血鬼の脳裏に浮かぶ走馬灯は歴戦のデータのみを映し出し、最善手とされるモーションを無意識に肉体へ投影した。


地面から氷を出しては間に合わない。しかし空から出しても支えなくては防ぐ目的すら果たせない。であれば。


振り下ろされた氷漬けの右腕を吸血鬼は脆い氷を出すことで抗った。氷は簡単に砕かれるが、体へ触れるまでに勢いを失い威力は激減した。

しかしそこから再度パワーを爆発させ打撃ない拳をめり込ませるが、腕に合わせて後ろに飛ぶことで勢いを吸収し、あっさり回避された。


折れた腕の痛みは凍らせて麻痺させた。片腕だが魔法に支障はない。


「第2フェーズといこうじゃないの……人間……!」


勝負は準決勝にして最高潮の盛り上がりを見せつけ、決着を付けるべく両者は間合いの中へと走り出す。


両者の火花が散ろうとする刹那。会場に1発の銃声が歓声に埋もれず響き渡った。


6つの視線が集められるオーナーの眉間には銃弾が命中し、乗り出したその身を床に叩きつけた。

それを確認すると同時、暗殺チームは身を乗り出しパスグラスは無線に口を近づけ。


「任務開始ッ」

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