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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
36/60

1.9 あなたに救われました。

1.9




人気のない野原でカンカンと木剣の弾く音が響く。

アーサーは力任せに剣を振り、下がりながら防戦一方となるクロッカスをひたすら攻め続ける。


「ふんッ!ぬんッ!はァア!!」


「うわぁ」


弾かれた木剣は宙に踊り、件を持たぬクロッカスの腰は地に落ちた。


「少しは手加減してよ…………」


「何言ってるの!年下の女子にやられるクロッカスが弱すぎるの!そんなんじゃ騎士になれないよ!」





────少し遡り数日前。


アーサーの家に招待されたクロッカスは、数えきれない量の木刀を目にした。

手作りなのか、どれもサイズはバラバラで形も汚く表面が荒い。

それと半数は使用後らしく虚しくも折れてしまっている。


見た目に似合わず武闘派なんだな。

それにしても折れたやつは必要ないだろうに。


そこで「何で使えないのに保存するの?」と聞いてみたら。

「いつか使うかもしれないから」と返された。


あ、これ一生使わないやつだわ。


「どうして強くなりたいの?」


「私の…………いや、父と母が騎士で私もそれに憧れたから」


「────」


これはめぐりあいだろうか。


クロッカスは彼女と紫苑の面影が重なり、胸が苦しくなるのを覚えた。

と同時に自分の心に使命を刻み、誓いを立てる。


「僕も騎士を目指すよ」


僕は彼女を守り抜くことを誓う。

彼女は紫苑だ。騎士になり傷つくことを恐れたかつての僕は死んだ。だが、今の僕は違う。紫苑の騎士となろう。


クロッカスは手作りの木刀を両手で握り彼女に決意を見せた。


「持ち方が違うッ!!」


「えぇ!?」









ーーーーーーーーーー







歓声に包まれる中、ヒバナは肉壁に逃げ場を阻まれ、仕方なく勝負を受けた。


「同じ手は効かなくても、今の俺はこの前と違うよ」


全身から汗のように黒モヤを分泌し、全身を覆う繭を形成した。

秒も経つ前に繭は崩れ、中からは少年ではなく青年が姿を現した。


「この体は嫁を口説くために鍛え上げた体だ。お前らの天性の肉体にゃ簡単にまきゃせん」


「以前と違って大口叩けるようになったじゃねぇか」


素手の殴り合いがルールだが、金がそこをつきそうな為ギリギリのラインで勝負をさせていただきたい。


ヒバナは再度分泌した黒モヤを今度は吸収し体内に取り込んだ。

人鬼にとって黒モヤは言わば鎧。それを全身の筋肉と骨に纏わせ身体をより硬くする。


「インサイドアーマーだ」


「ダサ」


直球な神太郎の感想が心に刺さりつつも目の前の肉の鎧に戦闘態勢を向ける。

互いが準備完了となると観客の1人が開始の合図に膨らました風船を破裂させた。


「どうしたァ?来ないなら行くぞ!」


筋肉で身体が重たいアセムは隙だらけすぎる。


アセムが一歩ヒバナに近づこうと踏み込む手前、ヒバナは身軽かつ最速の一呼吸で間合いまで迫り、慣性捻り腕力体幹技術を用いてアセムを殴り飛ばした。


ズパァァーン!!!!


その威力は新世代にも計り知れない程すざましく、拳と腹筋が触れた際の衝撃は風となって2人を囲う肉の壁を怯ませた。


乗せれる全ての力を乗せた渾身の一撃は、肉を弾けさせ、骨を砕き、行き場を無くした血溜まりを放出させた。


「ンガァ!」


確かな手応えの一撃だったが、悲痛な声を上げたのはヒバナだった。

肉が弾け、骨が砕け、血を吹き出したのも全てヒバナだ。


「どうしたどうした小銭でも落としたのか?」


対するアセムは一撃を受けてもなお、無傷かつ余裕を保ち、ヒバナに歩み寄る。


「何で………!?」


予想外の出来事に頭が回らなくなったヒバナは簡単な理由に気がつけない。

そう、敗因は至って簡単なのだ。


「身体が反作用に耐えれなかったそれだけだ。お前はお前が耐えれる限界の力を使ったみたいだが、俺はその限界の膜をぶち破ったまでだ」


アセムは拳が肌に触れた瞬間、筋肉に力を入れ拳を弾き返したのだ。

静止するものを殴るより、多少の力で押し返される方が反作用は強い。それを利用することにより崩壊一歩前の腕を完全に破壊したのだ。


「お前の負けだ」


一瞬にして視界が暗転し、ヒバナの意識は途絶えた。と思いきや5秒後、何事も無かったかのようにムクリと起き上がり人の壁の中に潜って行った。


「は?」


「いやぁ負けた負けた。そんじゃな、ドロン!」


確実に意識を奪った筈なのに、何事も無かったかのように逃げてくヒバナに思考が追いつかず、アセムは追いかける事が出来なかった。


ヒバナは体内の鎧を分解し、人混みの中で黒煙を撒き散らして姿を消した。


見た目に騙され咳き込む人が少々見られるが、マギの感知などできない人間が影響を受けるはずがない。

そんな勝手な被害など見向きもせずにヒバナは4人を連れて走る。


遅れてアセムは1つ思い出した。


「あ、アイツ金払ってないじゃん」




────。

──。


帰りのタクシーの中、5人も座れるスペースはなく、すし詰め状態だ。


ちび2人のどちらかが神太郎の膝に乗れば済むのだが、神太郎は何故かそれを拒み助手席に座った。

であれば、消去法で俺の上に乗ればと鼻の穴を広げたヒバナ自信が提案するが、「臭いから嫌だ」と直球に断られ、仕方なく今に至る。

ヒバナはシオンから子供に戻ったが、それでも後部座席4人は流石にきつい。


おかしいな。乗る前は案外乗れそうにも見えたのに、乗ったらキツくなった。


いや、本当におかしい。幼児2人と少年少女2人だ。少しはお釣りが来てもいいサイズだ。


「これだけギュウギュウだと互いの体温や心拍数が丸わかりになっちゃうすね」


「え…………誰!?」


横を見るとヒバナにベッタリと抱きつく1人の少女が座っていた。

全く気が付かなかった。いや、それどころか獣人3人ですら気がついていない事からこの子は何かしら特殊な────。


「青い髪…………!」


「今どき青い髪を見てカルメ家と思う人なんていないと思ってたけど、いる所にはいるんすね!」


やけにテンション高いなこのカルメ家。。。


「いや何で乗ってんの…………?狭いから降りてくれな…………」


「まぁまぁ、そんな事言わずに…………ほら、ちびっ子ちゃん達はこれがいいかな〜?」


少女がポーチから取り出したのは────。


「うわクッサ!」


なんということでしょう。

彼女が取り出したのは炙られたスルメでした。


「そのチョイス何!?…………うわ、3人めっちゃ喜んでるし」


3人の心を掴まれ相手にペースを奪われることに焦りを覚えた。

いや臭すぎて狭いよりも勘弁して欲しい。


「お願いだから出ていっ…………」


「タクシー代全額私が払いますよ」


「いや、金はまだあるから不要」


「まぁまぁそんな事言わずに…………ほら、最近寒いでしょう暖をとるのもいいかと」


あー言ったらこう言うの繰り返しでなかなか降りる気がないようだ。

狭いことで体が変な曲がり方し体勢が辛い上に痛い。

痛いのは再生で何とか出来るが、持続的な痛みにはあまり効果がない。


「どうしても降りないのね、分かった。だけど何で?何で乗ってんの?」


「乙女にそれを聞いちゃいますか…………」


少し頬を赤らめ横目で見つめる瞳は琥珀色に美しい。


その目は夜という時間帯を忘れさせ、あの日の夕空を想起させる。シオンとして生まれたての自分が見た夕日は、寒空の下なのに暖かく感じた。


「私は────」


震える唇。

思いを伝えようとする繊細な動揺がその先の内容を知らせてくれる。



「あなたに伝えたい事があるんス。……恋しく愛しいあなたに!」


もうほぼ言ってない?


アノンだったら大喜びかもしれない。

しかし今の自分はヒバナだ。

3人全ての人格と記憶がある。


つまり答えは一択だ。


「今夜部屋くるかい?」


「おいこら」


神太郎の視線が痛い。


「冗談だよ…………はぁ……。俺は既婚者だからな」


「えぇ!?そうなんすか!?」


驚いてるけど祖先だからね。言っても信じないだろうけど。


「そういう事だから、ごめんね。…………で、キモイかも知れないけどさ聞いていい?何で今初対面の俺に惚れちゃったの?」


見た目も良くない、話したこともない。そんなヒバナに何故彼女は惚れてしまったのだろうか。

その問に彼女は耳横の髪をクルクル回しながら俯いた。


「私の事覚えてないんすか…………?」


「え…………?」


否を示す反応をみて少し目の色が曇ったように見えた。


「そうですよね…………70年前の事なんて覚えてないですよね…………」


「…………え…………!?」


70年前って…………まさかこの子もギルマスのように姿を偽って………………。


「あの時…………人鬼の私が分家のカルメ家に殺されかけた時に救っていただたいた人鬼です」


心当たりがない…………。

70年前はアノンの時だ。アノンの時は多くのことがありすぎて…………というか、救えた人間はフィーリア以外心当たりがない。

人鬼と出会ったのもフィーリアの帰省の時くらいだ……し…………?


「………………え?」


本来ありもしない記憶が事実と重なり、ヒバナは混沌とした記憶に頭が捻れる。


「あ…………あああ!あー」


確かに助けたけども。けども。

確かに自分だけども。けども。

自分じゃないんだよ。


何とも不思議な感覚なのだろうか。自分のことなのに他人事に見える三人称のような記憶。


「例え、俺が既婚者でなかったとしても、君と付き合うことは出来ない。訳も説明できない」


言っても信じない。信じるのはオカルトマニアくらいだ。


「…………?……。付き合う気なんてないですよ?ただ貴方に惚れてるだけで」


「?」


「それにまだ私は何も伝えてないですよ?」


「え?」


嘘でしょ?これ無茶苦茶恥ずかしいやつじゃない?

おい後ろの長女、窓を向いてこっそり笑うな。肩が震えてバレてるぞ。


「私は70年間ずっとあなたに伝えたいことがありました」


「…………」


「絶望から鬼となった私は、辛くも苦痛によって救われました。しかし、久しい自我は四肢とともに刻まれ、生き地獄でした。そこを救ってくれたのがあなたです。その時のあなたの言葉が今も私を支え続けてくれています。『私はあなたに救われました。ありがとうございます』あなたは自分は救ってないと言い張るでしょう。あなたでないあなたが私を助けたからあなたは救ってくれても、それはあなたです。同じ状況にあなたが居合わせたら同じことをします。それがあなただから。だから例え、今のあなた出なかったとしても私はあなたにお礼を言うのです。本当にありがとうございました」


「…………」


なんだこの子。まるであの自分のことを知っているかのような話し方を…………


「お姉ちゃん魔法使ってないのに若いんだね」


「………………え?」


ハバリの指摘に反応したのはヒバナだった。


魔法を使ってないと言ったか。

「魔法使ってないなら…………その姿は……え……?」


「ああ、申し遅れました私、神憑きっス!」


口調が軽くなり本調子に戻ったらしい。

しかし、この光景どこがで見たことがある気がする。


いや、光景じゃなくて口調か。

本心とのギャップというのがどうしてもフィーリアに…………まさかフィーリア、、、なわけないか。完全の別人だ。


「神聖No.4っス」


「神聖No?」


知ってる単語の組み合わせなのに聞きなれない言葉だ。


「神太〜神聖No.ってなんだ?」


「簡単に言うなら製造番号。名前がないんじゃコミュニケーションとれないだろ?教えなかったのは、当然、どうでもいいからだ。だがしかし、No.4なら確かに自ら名乗るかもな。そこら辺気にしてるから」


「お前何番だ?」


「3」


ならこいつはこの子の神の兄貴になるのか。


しかしなんで番号なんか気にするのだろうか。ましてやNo.4。

三本指でも5本指でもなくてキリ悪い数だからとかくだらない理由じゃないよな。

四天王でもいいんじゃない?


「ケイアスは何ば………………」


ゴガーン!!


「うおお!びっくりしたぁ!?なにぃ!?」


突然の轟音に肩を跳ねさせ窓の外を覗くと星はなく、星ではなく紫の空の中に光る竜を見た。


竜は威嚇するように再度轟音を発し、地にいる者の鼓膜を震わせる。


「お前、雷知らないの?」


「雷ってあの竜のこと!?」


神太郎はヒバナの反応が面白そうなので放置することにした。


「えー大丈夫かなこれ、なんか、竜、え、竜じゃない?」


窓の外を指さして肩を揺らすが、3兄妹は耳を塞いで縮こまってる。

以外にも雷苦手らしい。


「あの竜、雷っていうんだ…………」


竜は架空の存在とされている。実在するのは蛇のようなニョロニョロではなく、人型である竜人のみ。


「あいつら、降りてこなきゃいいな」


「あいつらって誰だ?」


「雷のこと」


「あー……ププ」


なんか笑ってるなこいつ。



少年の双眸に映る雷は、人型で真っ黒なシルエットだ。


遠すぎてハッキリ見えないが、あれは竜人ではないだろうか。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

誰も読まないものを長々と書いても仕方が無いので、パパっと話をあと30話くらいで終わらせようと思ってたのですが、ばらまいた足跡が多すぎて全て回収すると200話で収まるかも怪しいです…………。

固定読者様が10名になったら全てしっかりと回収してスッキリ終わらせたいと思います。


宜しければ感想お願いします。

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