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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
35/60

1.8 Doll girls have a human heart than humans

冒頭の物語は1.4話【水族館へいこう!(後)】の冒頭から繋がっております。

冒頭と本編は時間軸が違うためスピンオフとしてご覧下さい。


それでは本編スタートです。

1.8



目が覚めるとそこは白一色の世界。


天も地も白一色で方向感覚も平衡感覚も掴めない。

頼りは五感のみ。臭いはない。音も自分だけ。視覚も自分のみが映し出されている。味覚は変化なし。触覚は足の裏に伝わる自重のみ。


何だここは。以前にも来たことがあるような。

今は何時だ。最後の記憶はいつだ。何も思い出せない。


『早いお出ましで』



聞き覚えのある男の声が頭に響いた時、青年は頭に電流が走るのを覚えた。


「────ッあ…………!」


全てを思い出した青年は口元を抑え、混み上がる感情を喉に詰まらせた。


「ゲホゲホ…………うぅ……オェ…………!」


『大丈夫か』


形となって姿を現し耳に声を届けた男は、具合の悪い青年の背中をさすって様子を伺う。


「おぼろろろろろろろろろ」


「うおおおおお!?大丈夫!?」



────。

──。



「落ち着いた?」


「ん、ん。あれは夢だったのかな」


現実だと答えて上げたいが、伝えれば再度吐き出しそうだから男は話を逸らした。


「夢か夢じゃないかなんて覚めたら分かる事だ。村人の生死よりも身近な生死について話さないか?」


「仮に夢じゃなかったとしたら、村人以上に大切なものはない。自分よりもだ」


自己犠牲とは違う価値観を押し付けられ、威圧された神聖は取り付く相手を間違えたかと少し後悔した。


「そ、そうかい。ところで、この前の話は覚えてる?転生のやつ」


混沌とした記憶の整理に意識を取られながらも、青年は肯定を示すように無言で顎を落とす。


「もうそろそろ次の人生始まるから。待っとけよ」


「待っとけって、何が始ま…………え?俺死んだの?」


「おし、完了。では、よい人生を!ご主人様」


「うは気持ち悪っ」


自分より年上のおっさんに言われ、舌を出して嗚咽する青年は突如頭痛に襲われ昏倒した。


「あんた、ほんと親しくないやつには冷たいな」


死んだ?死因は?村人は?次はどうなる?誰だ?俺は?


溢れ出す疑問はやがて意識とともに吸われ、眠る様に瞼が落ちた。



────。

──。



「────うぅ」


意識の覚醒と共にうめき声が上がる。

瞼は赤く染まり、隙間から見える光は眩く瞳を開けさせてはくれない。


「────ここは」


体を起こせば重たかった瞼は軽くなりすんなり開いたが、その先の視界に映る覚えのない景色に困惑した。


「うううんんん??」


これは自分の声か。

以前の声より少し若いような。


「若い…………?────若い!!」


以前は20代後半で独身だったが、今は前半、いや、10代末期かもしれない。

自分を客観視する手段がないため確証はないが、肌の艶や筋肉から滲み出るエネルギーの誇張が、若さを感じさせてくれる。


「────フフ。変な人」


「…………!?」


唐突に呟かれた少女の声に反応し振り向くが、声の元は見つからず自分の気を疑う。


辺りは黄色い花に一帯を覆われている。


「なんの花だろう。ふわふわした見た目の花…………。んー」


花の図鑑は何市で買って割と花に詳しいつもりだったが、この花はどうも心当たりがない。


「菊だよ」


「うぉあ!びっくりした!」


肩から顔を覗かせる少女に心臓停止信号を送られ、咄嗟に仰け反り花畑に体を潜らせた。


「だ、誰!?」


辺りの花と同じ黄色の髪をなびかせ、花の如く淑やかに微笑む少女は背景の花畑に溶け込んでいるようだ。


「私はアーサー。歳は12、星座は門座、血液型はYB、両親の顔はしらない、髪が黄色いのは何でだろうね」


「結構情報くれたけど、名前だけでいいかなぁ。僕は…………」


花の海から体を出して名乗ろうと口を開いたが、名乗る名前がないことに気が付き口を閉ざした。


「…………?もしかして記憶喪失とか?」


アーサーはロマンめいた瞳を輝かせて不謹慎にも興味を示した。


「そう…………だねぇ…………。気づいたらこの場所にいたし、僕は誰なんだろうね」


今さら疑問に思ったのだが、転生するなら赤子からだと勝手に思い込んでいた。しかし、実際はなんだこれ。唐突に若々しい姿にしてくれまして。


「私が名前決めていい?」


「いいよー」


名乗る名がない以上名前は必須だ。名前を貰えるなら都合がいい。とは言っても、こんな精神年齢で名前を付けられるというのはどうも違和感に痒くなる。本来は自然と名を自分と認識し体の一部となるのだが……。


「アニサキスなんてどう?」


「却下」


「えー!なんで、かっこいいと思ったのに!ならフィロメトラは!?」


「嫌だよ、もう自分で決める。…………そうだな……クロッカスにするよ」


「えーオンコセルカの方がかっこいいと思ったのに」


何でこいつは全部その部類なんだ。


「記憶がないクロッカスはどこに住むの?」


転生早々詰みました。


衣食住のうち、衣があっても食住がない。

最初から大人に育ててもらえる赤子とは違い、今は体以外が0に等しい。というか0だ。


「よかったら私の家に来る?」


「え、いいの?年頃の子が男を連れ込んで」


「別にいいよ。子孫繁栄も私の義務だから」


「…………?」


少し俯いて寂しげに呟くアーサーは自分の生を呪っているようにも見える。

12歳にして子孫を残すことを義務付けさせられるとは、なんとも物騒な国なんだろうか。


「────!ねぇアーサー、ここはなんと言う国?」


「秋国だよ」


「秋国…………秋国なら年号があるはず…………年号は?」


「王政110年だよ」


王政110年。

前世の時の国は隣の緋国で、国が生まれてから374年だった。

その時の王政は108年つまり、死んでから2年後に転生したという事だ。他国と交流できる何市で身につけた知識がこんな形で役に立つとは。


シオンは今10歳になった辺りだろうか。


「シオン………………う!」


前世の記憶が混じり、沸き上がる吐気に息をせき止められる。そうだ、村人も、自分も、シオンもあの場で全員死んだんだ。


「大丈夫?」


「う…………ふ……ふぅ…………大丈夫、ありがとう」


再度同じ事で吐きかけたが、何とか飲み込み押さえ込んだ。

自分を亡くすというのは一生に体験できないだろう。

死んだという実感はなかれど、事実が胃液を持ち上げる。


唯一の救いなのが、あの場で死ねたことだ。

矛盾に聞こえるが、あのまま生き延びるより皆について逝く方が、自分にとっては幸福となるはずだったのだが。


「落ち着いた?……案内するね」


「うん」




僕は死して生き延びてしまった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「どうしてこうなったあああ!?」






昨日の昼に、安楽木の納品のために硏脳都市ブレインに訪れた訳だが。

あまりにも派手かつ禍々しいかぼちゃの馬車のせいで検問を受け、目的を説明するも獣人三兄妹とライシャウルフが認められず、テロリストの容疑でただいま勾留中だ。



「何で!?獣人連れてるだけじゃない!?その子分のライシャウルフを連れてるだけじゃない!?何が問題なの!?」


鉄格子に頭を挟みながらヒバナは訴えるが、意思などない監視カメラに搭載されたAIに銃口を向けられた。


「警告。檻カラ離レナサイ。従エナケレバ処罰ヲ与エル」


「うるせぇ!テンプレしか言えないポンコツAIが!さっさと責任者連れてこ………………ウギャウアアアアアア!!」


銃口から放たれたレーザは対象に魔法の加わった電流を与え、思考と行動を1時間程休止させる。


「ってえぇ〜…………。何すんだこのポンコ…………ウギャウアアアアアア!!」


人の代わり管理するAI。あくまで人工知能。感情など持つはずがない。

持つはずがないのだが。


「あいつ今絶対ポンコツに反応した!ポンコツに腹を立てて撃ちやがったよ!」


「もうやめとけって、いつか俺らまで巻き添いをくらいかねんから…………てか、思考も止められるはずなのに何でお前再生出来てんの?」


鉄格子からできるだけ離れるように端に寝転ぶ神太郎は、幼い2人が近づかないように一緒に端で遊んでる。

幼いと言っても、戦闘力は全盛期の獣人に近い気がする。


「あーこれ?なんか、俺の制御管理が出来なくなると強制的に再生が行われて状態がリセットされるらしい。気絶した時や頭がなくなった時とか。でも洗脳や暴走時は意識あるから再生出来ないけどね」


なるほど。ギルマスの煙で再生できなかったのはそういう事だったのか。


「ねぇ、蹴破っていいかな。こんなとこ退屈すぎてキツいんですけど」


「やめとけ。現代技術にかかれば、どこへ行ってもカゴの中だ。それと、ギルマスにも迷惑がかかる」


「それもそうだが、俺らはいつまで入ってるんだよー」


「遅くても明日までかな」


ところでどうして獣人三人がダメだったのだろうか。

そういえば、門番が怯えた時「雄の狐と雌の猫……!」とか何とか言ってたな。

フランコの時も確か「父が狐、母が猫」と言って怯えるやつもいた。


「なぁ、雄が狐で雌が猫の獣人って、何か特別なの?」


「知らん。そもそも獣人と言っても獣だ。イヌ科とネコ科に子を作れるとは考えられない。特殊変異の一族なんじゃないか?」


暇だから考えだすヒバナの前に、隊服を着た男が思考を止めに来た。


「あなた方の無害は証明されました。もう出ても大丈夫です」


証明された?どうやって?ひたすら監視AIに反抗してただけなんだが。


「まったく…………何やってんのさね」


階段の奥から一人の老婆が呆れた顔を出し鉄格子に嘆息を吹きかけた。

それは聞き覚えのある声と語尾を発し、見覚えのある形となって5人の前に現れた。


「おおおお!マスタアアアア!!…………アヴアヴアヴババババ!!」


ようやく開けられた鉄格子から顔を出し、ヒバナがギルドマスターに駆け寄ろうとした時、監視AIが誤作動を起こした。


「あれ、認証解除し忘れたっけ」


男は腰部から取り出したタブレットを起動し監視AIの監視対象からヒバナを解除した。


「神太郎……全部あなたの監督責任さね」


半目で神太郎を見つめ、懐から取り出したキセルを胸に突き刺した。


「私のキャリアがなかったら、あなた達ずっとこの中で過ごしてたよ、感謝するさね」


「ありがとうございまァす!」





──────。

────。

──。




疑いが晴れて一日ぶりに吸う外の空気は何とも絶品だ。

たかが1日かもしれないが、経験がない以上1日でも十分なストレスだ。



「ふぁ〜。なんか、詫びか何か知らんけど安楽木の納品をやってくれるならありがてぇ。後は受付の人に報告するだけか」


そういえばここは研脳都市とかいう名前だった。

名前から察するに、この国の技術力の最先端を行ってそうな感じがする。


「ここってお店とかあるの?」


「ああ。ここにある物は全て最先端のものだから、欲しい物は買ってく価値はあると思うぞ。欲しいものがあればだが」


よかった。

テレビで見ていてPCやらゲーム機やら携帯端末やら楽しげな物がいっぱいCMで流れてて欲しかったところだ。


「じゃあ、帰るのは夜か明日にしようや。夜の8時にここで会おう」


「分かった。俺は三人を見てるからお前は一人で回ってていいぞ」


物欲がないのか神太郎は三人の子守り担当を進み出た。

いや、周りの目を見るからに他種族補正だろう。

三人だけだとトラブルに巻き込まれかねない。


「んじゃ、有難く回らせてもらうわ。────フッフー!」


人混みに飛び込むように走り去る様子を見るに、相当欲しいものがあったのだろう。


「てめぇ!今まで俺の事騙してたのかァ!?」


「きゃ!やめて!騙してなんかない!お願いやめて!」


近くで喧嘩と思しき声が聞こえ目を向けると、既に野次馬の囲いが出来上がって状況が見えなくなっていた。

仕方なく近寄ってみるが、それでも肉の壁の先が見えず神太郎は魔法を使用する。


右目の前に魔法によって生成された透明なレンズが5枚並び、宙に上がると各配置に付き静止する。

1番離れたレンズが中の様子を広い間のレンズを中継として目前のレンズへと映像を繋げる仕組みだ。


透明なため周りの人間は意識しない限りはレンズに気づかないだろう。


「ねぇねぇ、神太郎。なにが見えるの?」


裾を引き興味を示す獣人3人は何だか鼻がキツそうだ。

獣人であることがまだ受け入れられてないらしいこの街で耳を晒すのは危険だと感じ、ヒバナが即興で作った簡易麦わら帽子風黒モヤが3人には臭いらしい。


そうだ、野次馬するよりも先に帽子を買いに行かなければ。


「中はただ男女が揉めてただけだったよ。さて、帽子屋さん行くか」


「うんー」


どこでもありそうなただの喧嘩だった為、期待が外れた野次馬が神太郎と同じく次々と火種から離れていく。


「さて、看板を見るにファッション系の集まる場所は、あっちだな」


人混みではぐれぬよう手を握るが、獣人には要らぬ心配だったかもしれない。

それでも握った手に喜ぶ下二人を見てそんな心配がどうでも良くなった。


懐かしい。

百を超える人生だが、十余年位前が懐かしく思える。

三人とマキモが重なってしまい、握る手が少し熱く感じてしまう。


「さて、ファッションエリアに着いたが、思ったより店が多いな」


技術力に優れた街だからファッション系などそこら辺のショッピングモール程もないと思っていたが、しっかりとそれに匹敵する程の店が並んでいる。


「お前らに合う帽子あるといいな」


困ったな。

生憎ファッションには疎い身なため、どれがオシャレとか全く分からない。変に合いそうなの選んだとして、他人が見てダサいと思うかもしれない。


「…………」


助けてマキモ……。助けてギルマ…………


「そうだマスター。ハバリ、まだ近くにマスターはいるか?」


「いないよ」


ならもう転送で帰ったのか…………。


「く…………仕方ない。こればかりは自分には頼れないからお前らが気に入ったやつを選んでくれ。ハバリは分かってるだろうが、商品を持ったまま店の外に出たらダメだからな。出る時は俺と一緒だからな」


「うんー」


多分わかってないなこれ。


「ハバリ監視頼むぞ」


ハバリがコクリと頷き二人の後ろにつくと神太郎は店の外に置かれたベンチに腰をかけて3人を見守る。

店と店の間の道は広く、真ん中にはベンチが一定距離間で並べられている。


頬のホクロをポリポリと人差し指で掻きながら空を仰いでいると、突然知らない女性に抱きつかれ身を跳ねさせた。


「え、誰……」


強い甘い匂いがする。

女性の骨が当たっているのか、接触面が硬くて少し痛い。


「助けて………!」


騒ぎは勘弁して欲しい。

今はいないが、ただでさえ歩く厄災と行動を共にしてるのに、いない時まで問題を持ってこられると…………。


「助けて……て、警察も留置所も近くにあるからそっち行った方がいいんじゃないの?」


「ダメなの。私じゃ…………?」


「ダメって何が……って、あんたさっきの…………」


助けを乞う女性は先程野次馬に囲われていたカップルだ。

喧嘩から逃げ出してきたのだろう。


「…………ん?ちょ…………まて、誤解するな!」


正面を見ると、二人の目を手で覆い隠し視界を閉ざすハバリがドライアイスな目付きでこちらを見つめていた。


「追いついたぞ…………このドール!今からお前の身ぐるみ全部剥いで破り捨ててやるよ!そしてこの場の全員に晒されるんだな!その醜態を!」


「うわ…………あんな変態と付き合ってたのかよあんた。というか何をしたらあそこまでキレるんだよ」


「何だァ?今度はそいつを騙すのか?俺のように。なぁどうなんだよドールがよ!」


彼女をドールなんて言う男初めて見た。

肉体だけの薄い関係だったのだろう。


「…………ん……お前……人間じゃないな。……いや、そもそも生物か…………?」


透視を試みたが、何も見えなかった神太郎は失礼にも女性の存在を問う。


その者の未来以外の全てを見通す透視能力は、何故か彼女を見通す事が出来なかった。

見通す事が出来ないのは妖精、精霊、そして神聖のみのはず。

何れの種族にしても必ずその種族特有の気配がある。

しかし彼女にはそれが全く感じられない。


「そうだよそいつは生物なんかじゃない!ただの鉄人形だよ!!」


「────」


彼女の沈黙が肯定を示している。

なるほど。通りで分からないはずだ。

ここまで感情のこもった喋り方ができるロボットを作れる技術者がここにはいるのか。


関心している神太郎の顔を覗いて、女性は涙ぐみながら訴えてきた。


「お願いします、助けてください…………」


「────」


女性のプログラムとは思えない感情表現に人間よりも人間味を感じた。


「まぁいいよ。早く厄介事を済ませたいし」


「姉ちゃんあれがつんでれってやつ?」


「そうねあれがツンデレね」


子狐と子猫がやかましい。


「おいあんた。こいつに何しても罪にはならないと思ってるだろうが、やめといた方がいいと忠告するぜ」


「ああ?」


「人と同じ体重、肌の感触、感情表現を持った技術力。こいつを破壊したら、器物損壊で相当な値を生涯背負うことになるぞ」


「う……」


金銭が関わり男の目も少し緩んだ。

法という武器は市民に対して最強とも言えるほど強力だ


「他の国だとどうか知らんが、ここではその物の値の78%を支払わなきゃダメらしいぞ。さあどうする。壊したきゃしばって差し出すぞ。仮にお前が言った身ぐるみ剥いでさらすとかしたら、こいつは羞恥に耐えられず自決するかもな。人間は自力で自殺は出来ないが、ロボットはどうかな」


「う…………。……………んガアアアアア…………どうにも出来ないやるせなさが残るが……仕方ない。おいドール、二度と俺の前に姿見せんなよ…………」


そう言い捨て男は人混みに潜り去った。

なんか、哀れな男だな。


「ありがとうごさいます!」


「どうやったらあんなに怒らせるんだよ…………」


「その件なんですが────」


彼女の話を縮めるとこうだ。

彼女は嫌がるが無理やりホテルに連れ込み行為にいたろうとした所、ロボットの為外見しか作られておらず、穴がなくてロボットだとバレたそうだ。


さっき哀れに思った自分が馬鹿みたいだ。

知らなければ幸せだったものを、無理矢理やった男の自業自得じゃないか。


「私は、型式番号GCIED-02。自分で勝手にアーリンと名乗っています」


「それよりも、どいてくれ。重いしチビの目が痛い」


安堵で頭が回らないのか、初期位置の神太郎の腹に抱きついたまま自己紹介をされた。

そんな絵面にハバリは、さっきよりも鋭くキンキンに冷えた双眸でこちらを蔑む。


「ごめんなさい!」


飛び起きると恥ずかしそうに頬を赤らめ感情を表すアーリンに神太郎は、再度関心を抱いた。


「その恥じらいもプログラムなのか?」


「いいえ本心です。恥じらいも悲しみも喜びも恋も、全て私の感情です」


そう考えるようにプログラムされているのか。

それによって人に近い表現が可能だとは。


「む……。あなた疑ってますね。いいでしょう、そんなに信じられないなら私のパパの所へ連れて行ってあげます。パパを見れば信じてもらえるはずです」


「いやいいです。興味無いんで」


名乗らなくて良かった。怪しげな女だ。


透視が通じない相手には警戒を怠らず寄せ付けない神太郎は、今すぐにでも逃げ出したそうに見える。


「なら!これならどうでしょう!私のパパは神聖なんです!あなたと同じ!」


「あっそ。別に同窓会に興味はないんだ。神聖だろうが嘘だろうがどうでもいいよ。またな忙しいんだ」


神聖と認識できる機能を晒し、ますます神太郎の不安を煽ったアーリンに怯え神太郎は立ち上がった。

早歩きで3人の所へ向かおうとする神太郎の手を引き、アーリンは最後のねだりを持ち出した。


「分かりました!私の事はもういいです!せめて!せめてお礼だけでもさせてもらえませんか!?」


お礼という都合のいい言葉に耳が反応し足を止めさせた。


「アーリンさん見た感じルックスいいよな。ファッションとか関心ある?」


「…………?」


「ちょっとチビ達に合う帽子を選んで欲しい」



────。

──。



日は落ち空に星がよく見える時間帯。

買い物を済ませたヒバナは一足先に待ち合わせ場所に来ていた。


「さっすが技術力の最先端都市だなぁ。あれだけの機器を買って、ポケットの中に収まるなんて……」


少し高めだが、大荷物を抱えるには必須の袋だと聞いて購入した魔道具だ。

最大120リットル分の荷物を入れれるらしい。しかも重さは限界まで収納しても1キロという軽さ。


神太郎が以前にモルスという吸血鬼を布袋に入れていたが、あれとはまた別の能力だろうか。


「それにしても、どれも高いものばかりだな。有り金の8割なくなっちまったよ」


「そりゃあ、生活必需品じゃなく、人の技術力の結晶だからな。それだけの価値があるってこった」


いつから後ろにいたのか、ヒバナの独り言に応えを返す神太郎はどこか疲れているようにも見える。


「…………ん?おおおーお!可愛いじゃない3人とも!」


神太郎の背後にはそれぞれが帽子を被り嬉しそうに喉を鳴らす3人の姿が見える。


「ヒバナ今俺入れた?かわいいじゃなくて、いかすだろ!?」


反論したいカガリはキャップを頭に、つばを掴んでポーズを決めながら主張するが、やはり可愛い。


いや、ホモじゃないよ。


「ところでさ、神太が疲れてる原因は後ろのお姉さん?」


「間接的にはそうね」


「………………?」


何だろう。このお姉さんの神太郎を見る目が恋する乙女のように見える。


「ヒバナ……早く帰ろう」


「いいけど…………大丈夫?」


何があったのか知らないがこの人から離した方がいいとは分かった。


「とりあえず外に車呼ぶわ」


袋から端末を取り出し運送会社に連絡するヒバナの手つきは、使い慣れたものだ。

もともとシオンの時から覚えが良かったためか、ヒバナとなっても引き継がれ、操作や説明を簡単に覚えられる。


「…………」


さっきから定期的に目につく見回り警備員。

テロが増える現代ではそれほどまめな警戒が必要なのだろう。ましてや国の脳とも言える都市だ。王都と同様の扱いをする必要がある。


そしてちょくちょくヒバナを見つめてくる。

まだ80年前の手配書でもあるのだろうか。


「ところでヒバナ、お前、その真っ黒な格好はどうしたんだ?」


「あーこれ?待ってる間暇だったから携帯で動画見てたらさ、氷の女王が氷でドレス作ってたもんで、俺も出来るかなってやってみた」


「どーりで三人が鼻を曲げる訳だ」


腐卵臭は大丈夫なのに対し、マギの腐った臭いは苦手なのだろうか。


「仕方ない。これは全身再生した時に使うよ」





手を振って見送るアーリンから逃げるように神太郎はせっせと足を進めるが、またもや肉の壁が出来ていた。


昼夜人口が多いせいか、1つ話題があればすぐに肉壁が出来てしまう。


「そういえば、人の中が見れない俺でも目に見えたんだけどさ、さっきの女の人、神太にベタ惚れしてるように見えたけど何かあっ───」


「ヤってらっしゃい見てらっしゃい!!今月も来ました出張アセム屋です!!」


知ってる声と名前がヒバナの声と足を止めた。


筋肉の鎧を来た男の横の樽は以前の半分にも満たない大きさで、何だか寂しい。

神太郎が売上の八割パクったせいだが。


しかし、今月も来たというがもしかして各地へ出張しては喧嘩で稼いでいるのだろうか。


「よっしゃやらせろや!」

「待ってたぞおお!!」

「なんだその小せぇ樽は!まさか俺らの知らないところで負けたのかよォ!?」


大衆の反応を見る限りそうらしい。

次々と負け試合に金を入れてまで参加するが、皆揃って負けては爽やかな笑顔で観客に混ざる。


「おおおあああ!!ヒバナじゃねぇか!!」


「うげ見つかった」


さしずめリベンジマッチを挑まれるだろう。

前の手はもう通用しない。つまりもう本当に目潰しか金的くらいしか手がない。

となれば勝負を断ればいい。


「やってけよ!金はあるだろ俺から無駄にパクったぶんがよお!!」


それきた。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!」


「え……」


観客の視線が一点に集まりヒバナの体に穴が空きそうになる。


やばい、これはまずい早く逃げ───。


背を向け逃げようとするヒバナだが、観客に襟を掴まれ肉壁の中へ投げ入れられた。


「………………」


「ようこそアセム屋へ。リベンジマッチと行こうや18番目のヒバナ君」







────次回、ヒバナ死す。


1章8話を読んで頂きありがとうございます。


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