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七罪華〜傲慢の花〜  作者: 鰍
第1章 2Die6Life
33/60

1.6 容赦はしない

1.6




「今日から出て明日まる一日町に売りに行くので、何か欲しいものがあれば買ってきますよ」


今日は村を出て町へ売り出しに出る日だ。

うちで作った生地は特別売れるわけでもなく、売れない訳でもない。

でも量が少ないからいつも完売し心地よく帰って来れる。


「そうですねぇ…………では、羊毛を頼んじゃおうかな」


「羊毛ですねわかりましたー。紫苑は何か欲しいものある?お菓子とかなんでもいいよー」


「竜宮城!!」


「それは無理かな」


何でもという単語に目を輝かせていたのに、無理だと断られ拗ねる紫苑に二人は苦笑いした。


数年弟のように可愛がってきた紫苑は、自分から見て……いや、誰から見ても素直でいい子だろう。

子供特有の弱いものいじめも見過ごさず、無関係にも関わらず入り込み相手を牽制。


『浦島太郎に憧れた』と本人は言っているが、浦島は亀を助けただけで自分の私生活などは全く語ってない。

ただ気まぐれで亀を助けた悪人かもしれない。


「紫苑、久しぶりに聞いていい?」


「……?」


「大きくなったら何になりたい?」


昔は何度も聞かれては正義の味方と答えられた質問。

この歳でもまだ正義の味方と言って欲しいという、わがままを抱え聞いた紫苑の解答は。


「みんなを守れる騎士になりたい」


「────」


ああ、やっぱりこの子はあいつの子供だ。

騎士になるために騎士学校へ行って、遠くへ行って、正義の味方として逝ってしまうのだろう。


僕が浦島太郎を見せたからだろうか。

───否。

この子はどんな育て方だろうとこうなるだろう。


「そっか…………強くなってね……」


止める資格などない。

否定を押し付けようと震える唇は噛み締め、不安を伝える動悸を握り締め、青年は街へ馬を走らせた。




────。

─。


────!


──。

────。



「────ッ!」


日は落ち空は暗い今は何時だ意識を失っていたのかここはどこだ荷物は無事か馬車に外傷はないか変な夢を見た…………。


「ええーーああい!落ち着け!見渡す限り何もいないから安全!一つずつ整理していこう!」


時間帯は夜。朝から村を出て昼から意識を失った。荷物は無事。荷台も馬も無事。夢…………。

そう、変な夢を見た。

昼間に輝く星を見たんだ、そして星が降りてきて、地面に衝突せず空中で静止、そして胸を貫かれて目を覚ました。


「そうだ!僕は死…………!」


服を脱ぎ捨て胸を一瞥するが、貫かれた穴などどこにもない。

ではやはり夢だったのだろうか。唐突に気を失ったように感じたのも、眠る前の記憶がないだけなのか。


「夢ならいい……急がなきゃ!」


青年は馬を走らせた。

背中の傷に気づかずに。



──

────。


普段は賑やかな町だが、今日はまだ深夜前なのに静まり返ってる。

3ヶ月に一度開催されるこの『何でも市場』は、その名の通り何でも売ってる場所だ。

野菜果物獣肉魚衣類武器防具異国製品etc……。


ここで物を売るには会員になる事が必須で、当然会員費も必要になってくる。

だが、一度売れば会員費など気にもならない。

3ヶ月に一度だが、その一度で売れれば赤字など知らずに利益が入る。それほどの客が来るという事だ。


夜に会場に入り品をセットし、早朝に備えて皆眠りにつく。

それほど明日は疲れる。青年も本来ならもう眠りにつきたいところだが、道中で眠ってしまった上に、到着したばかりで準備等を全く出来てない。


「明日寝坊しなきゃいいな」


いや、寝坊の心配はいらないか。

専用の宿屋があるのだが、そこの宿屋は全員売り手側が泊まっているため、朝になると気合が入ったのか非常にうるさい。そこら中の部屋から気合いの雄叫びという名の奇声が轟き、関係ない近隣住人は早朝から目覚めの悪い目覚ましを浴びせられるため、前日から離れた宿に泊まっているらしい。


「さて、設置も完了した事だし僕も寝よう!」


と言っても、少し前に昼寝してしまったせいで寝れなさそうだ。

瞼を閉じて何も変わらない虚無を見つめるだけで、眠気が微塵も来ない。

眠ることだけを考えているせいか、他の事が浮き彫りに頭に掘り起こされ、背中が熱くなってる事に気づく。


熱を持つのは、不思議と一部分だけで何か熱のあるものが張り付いているようだ。

擦っても取れず、肌と一体化しているかのような……いや、肌なのだろう。


「…………ん、体が固すぎて届かない……。柔軟しとくべきだったなぁ……」


気になるがどうしても届かず諦めざるを得なかった。しかし、熱がだんだんと増していき、意識を離れさせてはもらえずやがて火がついたかの様な熱さになり青年は悶えた。


「くあ……ッッッッツ!……何……これ……!?」


苦しむ青年にさらなる追い打ちをかける頭痛が到来し、刺激の強すぎるショックに耐えきれず青年は意識を失った。


────。


痛みはない。

熱もない。


体は、動く。全身動きそうだが、手足が鉛のように重く、瞼はなくそこには皮膚しかないかの様な重さだ。

これが金縛りというやつなのだろうか。


運動不足だが、ここまで重く感じるのは初めてだ。

今度運動しよう。


『あれ、おかしいな……。動けないのか?』


耳の中で聞こえた誰かの声。

聞き覚えはない。幻聴だろうか、今日は変な事ばかり起きる。幻聴だろうな。


「気づいてないだけで結構疲れてたんだな…………。…………あれ、声が……」


視力は機能せず何も映らない白一色の世界の中響いた自分の声。

金縛りが解けたのか体も軽い。


「…………あれ、体がハッキリ見える…………。でも背景は見えない」


ああ、夢か。


『夢じゃないぞ』


さっき聞こえた男の声が青年を否定した。


『ここはお前の中だ。マギって聞いたことあるか?』


「マギ……?知らないなあ…………ところでどこにいるんです?姿が見えないと喋りづらくて」


『姿はない。が、作ることは出来る。待ってろ』


「………………?」


『ほらよ』


わけも分からずただ待たされた青年。

肩を叩かれ振り向くと、声の主と思われる見覚えのない男に迎えられた。


「…………誰?」


『神様』


「…………ッ…………!…………」


青年は唐突に自分の頬を挟むように思いっきり掌で引っぱたき、赤く染まる頬の熱を求めた。


『…………何やってんの?』


「痛くないから夢だね」


判断の曖昧な確認の仕方に呆れた男は短足を吐き青年の頬をつねった。


『夢じゃねぇよ。夢だと痛くなくても痛いと感じるもん、だ。…………お前、他種族を知ってるか?』


「吸血鬼や人魚とか人間でない人間でしょ?」


『知ってるなら早い。そいつらの使う魔法っていう技の動力源となる場所、マギ。それが一応お前ら人間の中にもあって、俺はその中にいて今のお前もその中にいる』


確か過去に『悪い子は吸血鬼にマギを吸われちゃうぞー』って脅されてる子供を見て、マギって一体なんだろうと思ってたが、気づいたら忘れてた位の興味且つ1回聞いただけでは思い出せないくらいのものだ。

それより今は。



「どうやったら元の場所に帰れるの?」


『おいおい早いな。もっと興味を持ってくれよ』


「別にいいけど、目が覚めたら現実で疲れ残ってない?寝坊とかない?」


『わかったわかった、ちゃんと調整するから少し話をしようぜ』


どうしてそこまで話をしたいのだろうか。

夢か現実かなんて実際は区別出来ない。

夢なら夢で済む話だろう。特に損得はない。


「話?いいよー」


『まずお前、神聖って知ってるか?』


「知らないなあー」


『そうかなら説明しよう。この世には知的生命体がお前ら人間とその他種族がいるはずだ。そいつらはそれぞれの種族に見合った個性を伸ばし各々を主張している。マギを失う代わりに身体能力を底上げした獣人や、非力な代わりに特殊な魔法の操作に長けた吸血鬼、基礎的な魔法だがそれを丁寧に扱える妖精その他諸々。それらに比べて人間はどうだ?体内のマギも扱えず、それ補える程の力もなく、使えるようにマギを解放したら暴走し鬼となる。全くいいとこないよな』


説明かと思いきやいきなりダメ出しをされた。


『────だが実際、本当の知的生命体はおまえら人間だけだ』


「────?」


あれらを知的生命体と呼ばずしてなんと呼ぶのだろうか。



『あいつらは俺ら神聖から生まれた生物、本来は存在しない生物、存在してはならない生物。そしてそれらを生む俺らもまた、人間から生まれた種族であり、本来存在してはならない生物。いや、俺らは生物ではなく生命と言った方がいいのか』


「生命……?」


『ああ、生物は形を成し生命を宿しているが、俺らには形というものがない。……が、命を保有している』


「よく分からないなぁ……」


『生まれたよりも、育てられた、の方が正しいか。俺らは言わば寄生虫だ。生物にとり憑き解放という名の栄養を貰い、外へ出る。ただ違う点を上げれば、取り付いても害があるかどうかは本人次第。害でなければ、益となるか、も本人次第』


「僕は?」


『それはお前が決めろ。神聖は取り憑いた母体に可能を与える』


「可能……?」


『そう可能だ。不可能を可能に変えてしまう力を与える、それが神聖。また、それを使うのは母体である主、俗に言う神憑きだ』


「神憑き…………で、君が僕にくれたのはどういう力なんだい?」


『引き継ぎだ。人は死ねば遺体から魂が抜け、あの世へ帰ると言われている。あの世で死後の行き先を決められ転生する者も入ればしない者もいる。だがこの力は、あの世の審判を受けさせずこっちで勝手に転生させちまって、本来なら転生直前に消される記憶をあえて消さずに引き継がせるっつー能力だ』


「死んで効果出るのか…………。神聖を解放するまでにいったい何人を母親と呼ぶんだろうね」


『おっと悪い。転生と言っても記憶を引き継げるように、1から生まれ変わる訳じゃない。俺が勝手に存在を形成し、お前は突然現れたのではなく元からそういう奴がそこに居たって世界を書き換えるんだ』


「つまり、身寄りない子供からスタートするかもしれないし、老人からスタートする可能性もあるって事?」


『そうだ。だが年齢は安心しろ、オッサンにすると短くてつまらなさそうだから長めの20歳以下のどれかにしてやる』


「それはありがたいな。…………ん……ちょっと疑問なんだけど、何回転生出来るの?」


『ああ、えーと…………30回だ』


「3じ……!?それもう流石に脳持たないんじゃない!?」


『安心しろ神憑きだ。存在形成で多少細かい所もいじれる』


「……パンクしないと言っても……。流石にそこまでいくといくら僕でも生に執着湧かないなぁ…………」


『なら俺は害虫だな』


「いや待て…………。もしも紫苑が子を残したとしたら僕は子孫をずっと見てられるのか……!」


『うわー、ポジティブー……。────話は変わるが、俺ら神聖には主の未来が見える。だが、それを明確に伝えてはならない。先程言った通り、神憑きには不可能を可能にする能力がある為、未来を変えてしまえるからだ。たまに神憑きでもないやつが予言者だと言って人に伝えその通りになる事例もあるそうだが、所詮そこまでだ。未来が見えても明確に伝える事は出来ない。出来てしまったらそいつは神憑き同様可能の力を持っているということだ。だが神聖は教えない、いや、教えれないのだ。教えれるとしたらそれはその神聖が与えた力となる。…………だが、人間がするように、俺らも予言くらいは出来る、文字通り神のお告げだな』


「急に話の路線変えてきたけど、どうしたんだい?僕の未来に何かあったの?」


『あー、神は言う。近いうちに主は枯れ果てるだろう』


「枯れる?そんな花や草木みたいな…………」


『お、そろそろ時間だ。目覚めの悪い朝だろうがしっかり起きろよ』


「あははー。慣れっこだよ」


『…………やな慣れだな』


「働くってそういうもんじゃ……な…い?」


唐突に眠気に襲われ青年は地面へ突っ伏した。

結構勢いよく頭を打っただろうが、やはり痛みはないから夢だったのだろう。

ただ、打った衝撃が脳に伝わると琴線が切れたかのように、プツンと意識が途絶えた。


─。

───。


「────!」



聞きなれた轟音に意識を覚醒させられ、第一に部屋を見渡し居場所を確認する。

さっきまで起きていて誰かと話していたかのような気がする。しかしそれと同時に、さっきまで眠っていたかのような感覚に矛盾を覚え頭を抱えたが、気持ちを仕事に切り替え、考えない事を選択した。


「よし、頑張るぞ!」



ーーーーーーーーー



何も無い。質素などではなく、文字通り何も無い。

マギの中と違い黒一色の世界は以前体感した人魚の空間魔法と同じだ。

今回この魔法を展開したのは自称神こと神太郎。以前から見せつけることなく地味に多彩な魔法を使っていた神太郎だが、何やら基礎から特殊まで色々と使えるらしく、気絶させた吸血鬼を作った異空間に転送し、気絶してる間に家の椅子も転送し拘束。

そして最後にヒバナを転送すれば完成だ。



「少しお話しようよ」


「うるせぇ死ね」


縛られた少年に友好的に話しかけるが、予想通りの辛辣な返答を渡され苦笑いを返した。


「あははーですよね…………。でも言ったよね、油断はするけど容赦はしないって。────そこでだ。君にもう一度選択肢を上げよう。テロリストを脱退するか、この場で死ぬか」


拳を交互に差し出しながら掌を見せる。

右手には生を左手には死を。

しかし、少年にはどちらをとっても結末は死一択だ。


「…………そして第三の選択肢、テロリストを止めてうちのギルドに入るか」


「…………………。…………………は?」


「今提示した3つの中から選んで欲しいんだけど、決めるのは話の後にして欲しいな。それと、全部死ぬと思ってるみたいだけど、3つのうち二つは生き残れるよ」


「…………?……でまかせを……」


信じれないなら信じないでいい。

後で体に教えるまでだ。


「まずはー…………そう、君のお兄さんについて。君のお兄さんは。王都で集団リンチにあって殺されたみたいだね……気の毒に。でもさ、疑問に思わない?人間と同じくらいの生命力なのにそこまでされて生きてるっておかしくない?」


「………………!」


こみ上がる怒りしかなく今まで気が付かなかった。

人間にも生命力が強い人がいると聞いた事がある。何やら熊に胸を喰われても生きていた人がいるそうな。


だが、そんな事は今どうでもいい。

兄が受けた苦痛……死んだほうがどれだけ楽だったか。


「意図的に死ぬまで生命力を上げれるとしたら…………どう考える?」


「回りくどい事はいい、要点だけ言え」


「うへぇー……でもそうだよね、うん。じゃあ一気に行くよ。君のお兄さんは、他種族を嫌うゴロツキじゃなくて何かしらの組織に殺されたと思うんだ。まず、先言った生命力を上げることなんだけど、獣人の牙にある毒を注入すると、例え首だけになっても死ねなくらしい。とはいえ頭がなければ死んじゃうんだけどね。となれば、獣人が犯人ということになる。でも相手は獣人だけじゃないかもしれない。獣人と他種族かもしれないし。俺の考えではさ、君みたいな怨念の塊を欲してる誰かがさ、さらに怨念を強くする為に最後の家族を殺し、両親と同じように人間の仕業に見立てた。誰が欲してるか、君が今所属しているテロリストグループは?」


「…………レッドパンダ…………!!」


確かにレッドパンダは多種族で構成されている。

獣人の知り合いがいてもおかしくない。

思い返せばあの後直ぐに吸血鬼に保護された。

そしてテロリスト集団に育てられ力をつけた…………。


「君が行方を知らないだけで、もしかしたら君を引き込む計画は父親が死んでから始まっていたのかもしれない。ましてや吸血鬼は強欲を司っている。欲求に忠実で、得るためなら何でもするかも。君を引き込む際の口説き文句はどうせ『その怨恨、仇、自分で叶えてみたくないか』みたいなベタなんだろ」


「────」


自分は幼かった。

全て兄に頼ってきたせいか、思考が鈍く自分で考えられないから誰かに頼ってた。

成長した今考え直すと不自然な事ばかりだ。

怨みに考える事を忘れ、今まで何も疑問に思わなかった。

いや、思っていたら腹に描かれた忠誠の印が発動してしまうかもしれない。これは今のように気づいてしまった時の為のものだろう。

だがこれで確信した。

犯人は強欲の吸血鬼だ。


「死なないを前提に改めて問おう。ここで死ぬか、テロリストを辞めるか、辞めてうちに入るか」


死なない前提か。

利用されていたと分かっても、やはり人間を恨まずにはいられない。


「…………人間と過ごすなんて御免だ。二択目だ」


「………………………………はぁ…………そっか。うん。分かった」


深く深くため息をつきながら残念そうに肩を落とすヒバナは、ポケットに入れた神太郎の暗記を取り出す。


「これはー、ええっと何だっけ……手首でいっか…………。君の体は変形できるみたいだけど、今はちゃんと正常に機能してる?白い肌に透けてるこれは血管でいい?」


何をする気なのだろうか。

まさかあの細い針を血管に刺すのか。


「少し意識失うけど、起きたら自由だから我慢してよね」


言葉を聞いてから考える間もなく少年の意識は手首の痛みとともに連れ去られて行った。


「…………おし、始めるか。」


縛り付けられた少年を解放し、仰向けに寝かせ服を脱がす。

決して欲情した訳では無い。


へその上から腹直筋の終わりまでに大きく記されたパンダの印は、霞むことなく禍々しく存在感を示す。


神太郎によってよく磨かれたナイフはエンチャントが付与されており、触れるだけで皮膚を横にのけ、あっという間に臓器へ達した。


「うひゃあ……グロ……。……ん?」


真っ赤な臓器にうっすらと見えた謎の模様がヒバナの脳裏に何かをよぎらせる。

それはさっき見たもので……。


「…………まじかよ……」


模様はパンダだ。しかし模様などどうでもいい。

大事なのは印が体内にもあるという意味。

おそらくこの印は腹から背中まで続き、それを結ぶ枠の中にある体内でさえも導火線とされているという事だ。

しかもサイズがデカすぎる。

いくら小さな少年のへそから胸の距離とはいえ、体積で捉えれば頭半分入る大きさだ。


以前ザィスという吸血鬼が似た魔法を作動させた際に、通路を焼くほどの爆発を引き起こした。


あれの火薬がどれだけ大きかったかは分からないが、起爆した際の規模が大きいのは確かだ。


触れたら爆破なんて事はないだろうが、今にも起爆しそうでハラハラする。

不死身だけど。


印が背中まで続いてる事を確認すると、傷は塞がず形は戻し元通りにし、自分の太ももから下を切り落とし痛みに悶える。


「…………ッッッ!!!」


熱い熱い痛い痛い痛い。

出来るだけ自傷はしたくないが、今はやるしかない。


パンダの描かれた腹に太ももを置き、触れた断面の激痛にお別れを言うようにヒバナは叫ぶ。


「………………ッ再……ッ生ッッタアアア!!!」


叫びとともに少年の腹に巨大な穴が空き、穴の中からはヒバナの足が現れた。


「ンアもういっちょうぉぉぉぉぉぉ!!」


もう一度足を切り落とし、今度は腹を失った少年の穴に切り落とした足を埋め、ヒバナはまたも叫ぶ


「ジョウトゥッサイッセイ!」


魔法の言葉を唱えると、少年に空いていた穴は見間違えだったのか、傷一つなく塞がっている。


「うし、一件落着」


『終わったか?』


見計らって黒い空間に響く神太郎の声は何故かエコーがかかっている。

自分の生成した世界だとやはり掌のように分かるのだろうか。


『そいつ仲間にならないだろうな』


「だろうな。自由になったら復讐に出て、ボスにも届かず返り討ちで死ぬな」


『そこまで思うなら助けたりしないのか?』


「他人の復讐に関わるもんじゃないだろ。ましてやテロリスト、関わればろくな目に遭わない。平凡に暮らしたいよ」


『と、言いつつ今回も水族館も 自分から物騒に入って行ったよな。何なのお前』


「結果オーライだろ、救えた命2つ!」


「…………っ」


予想より早く目が覚めた少年は、無意識に腹に手を当てゆっくりと瞼を開けた。


「おはよう。腹の調子はどうだい?」


「………………あれ、印がない……」


裾を捲り上げ腹を一瞥するとそこにあるはずの印がなく、触れた手のひらにべっとりと付いた血が思考を困惑させた。


「こ、これは俺の…………」


「……と俺の血のちゃんぽんだね」


「…………ひッ」


知らぬ間に広がる大量の血が少年の恐怖を煽り、気楽に返答するヒバナに情けない声を発した。


「威勢があるのかないのか…………。まあ、とりあえずおめでとう、君は今日から自由だ。主と交わした契約はさっき破棄された。逆らって死ぬことは無い、これで晴れて穏便に余生を送ることも自由な相手に復讐する事も出来るね!」


「………………!!」


腹の印。

それが無くなった事が何を示すか。

答えはヒバナの言う通り、自由だ。


「復讐のプランはどんな感じなのかな?ボスまで行って死にたいのか、ボスに殺されたいのか、ボスに辿り着く前に死にたいのか」


『全部バッドエンドだな』


「そりゃそうでしょ。未だに潰れない実力を持ったテロリスト集団のボスの首を、俺らみたいなのに捕まる様な奴が取れるわけない」


「………………」


実力を痛く理解している少年は俯き、黒一色の地面を睨む。


「…………で、どうする?死ぬ?…………言っとくけど、君を犬死させる為に救った訳じゃないよ」


「……………………」


不可能だ。分かっている、ボスを取り巻く親衛隊にすら負ける。しかし、復讐を諦められるわけじゃない。


「そ、こ、で、だ。いい方法がある」


「…………!」


「君からテロリストの情報を貰うってのはどう?その中にボスの情報があれば、間違いなく君を消しに来るだろうね。だが当然ボスは現れない、なら部下だろうが、端から少しずつ削っちゃえば最後はボスになる。だけどもし敵わないって思ったら俺らのとこにこればいいよ。そしたら全力で逃がしてあげる。俺らは正当防衛としてそいつらをシバけばその後も無害だろうし。この中なら誰かに声を聞かれることもないから俺らに話した後公認ギルドに話を持ちかけるのもありかも。その後君捕まるだろうけどさ。…………あ、でも俺らに話したって事は内密によろね。まぁ…………それでもこっちに刺客送るんだろうけど」


「…………」


確かに。復讐したいという気持ちがある。

少しでもボスに辿り着く確率を上げるなら、味方を増やしたりボスの情報を漏洩した方が高くなる。

そうなれば親衛隊も…………。


「親衛隊が水族館に…………水族館で変な人間に……」


「ん?」


「親衛隊…………ボス……今から会いにいく」


「…………んん?」


突如様子が変わった少年はブツブツとワードを吐き出すが、組み立てられないパーツばかりで何を言ってるのか理解できない。


「ボス……レッドパンダの幹部……幹部……?何だそれは」


「…………んんん!?おいおいまさか…………!?」


「同じ吸血鬼に会って……人間殺す」


『マジかよ……』


「人間憎い人間殺す人間殺す人間殺す人間殺すぅうう!!」


挙動が変わり果て、僅かな希望にすがる目は憎悪との悔恨の目でヒバナの胸を冷たく突き刺す。


これは以前に見た……いや、水族館の時よりももっと黒い。

これが怨恨の塊か。


「やばいやばいやばいどうしよう!?これ記憶が退行してるよな!!?なんでだぁあぁ!?まさか脳にまで魔法陣……!?」


『いや、これはお前がさっき消した印が記憶媒体だったんだ。大きかったのは爆弾だけじゃなく記憶も収納されていたからだ。テロリストに入団してからの体験を脳へ伝達する前に印へ書き込み印から脳へ伝える。印が消えれば記録していたデータが消え、接続していた脳の残りカスの記憶がこうして消えていった。その証拠にこいつは今入団前の記憶に退行し終えた』


なるほど。

記憶媒体まで作れるほど魔法は便利なのか。

だが違和感がある。


「なんで入団する前にボスへ逢いに行くところも消えてるんだ」


水族館の記憶から急にボスに会いに行くまでに退行し、怨念の塊から今までの記憶が全て空白になってしまった。

なのに、何故だ。

ボスに会う前の記憶は僅かに残り少しずつ退行した。


『恐らく最初に出向いたのがボス自身で簡易的な印を施したんだろうな。もしかしたらまだそこら辺は覚えてるかも知れない』


「覚えていてもよォ…………この状態どうすんの?こいつの精神も記憶も幼年期だぞ。しかも今にも襲ってきそうだし」


『襲われる心配はないから安心しろ。魔力をスーツみたいに纏わせて固定したから指一本動かせないだろうよ』


魔法が便利なのか、こいつが便利なのか…………。


「どうするか……こいつ退化してるなら話聞かなさそうだし……逃がしても大量殺人鬼になるだけだし…………なぁ神太、刷り込みとか書き換え出来る?」


『そんなハッキリとした事は出来ないが、似たようなことなら出来るぞ』


「え、マジ?」


『催眠術だ』


魔法よりもこいつが便利のようだ。


『催眠術を採用するとしても、条件がいる』


「また限られたご都合主義な条件か?」


『ご都合主義……ってお前、手段が一つしかなくてさらにその条件が今しかないみたいな時に使うもんだ。まぁいい、こいつを眠らせる方法なんてあの針以外にもまだ沢山あったんだ。そのうちの一つを今見せてやるよ』


「見せるって神太、姿なくてもやれるのか?」


『忘れてないか?そこは俺のマギで構成された世界だ。有限あれどやる事成す事万事自由だ』


「矛盾してないか……?」


『いつか詳しく教えてやる。とりあえず今はこいつを鎮める…………だが、体は大人でも中が幼いからなぁ…………。ヒバナやっぱり出ろ』


「え、うそ……うわ』


入る時は一瞬にして視界が暗くなると同時に浮遊感に包まれたが、出される時は黒一色の幕が踊り開き庭の景色を映し出す。

視界から幕が消えると魔法陣は、反発し合う磁石の様にヒバナを弾き追い出した。


「何で俺まで追い出すんだよ」


「自由と言えど、細かい事は裁縫の針に先端の裂けた糸を通すようなものだ」


「ほう、よく分からん」


「要するにそれだけ細かい事をやるから邪魔だって事だ。時間かかるからお前はもう寝に行って…………いや、寝なくていいか。いつも通りTVでも見て休んどけ」


「おうよ。後で聞きたいこと沢山あるからよろしくな」


庭から廊下へ上がり、木製の床の軋む音を聞きながらヒバナは自室へ戻った。


一人になり静けさに耳を傾け、草木の奏でる唄に集中力を研磨される。

庭に描かれた魔法陣の中央に目を向け神太郎は手をかざした。


「本当は禁忌だが、いたしがたない」


神太郎は腰に携えたポーチから小さな円盤を取り出し、魔法陣の中央へ投げ入れた。




ーーーーーーーーー



皆が寝る時間帯。

神太郎は庭の術式に意識を絞り、アノンはイラストが動き喋る番組を視聴し、我が家であるこの宿に迫る悪意に気づくことが出来なかった。


「目的を再度確認する。違反者のサンプル回収だ、いいか。無駄な殺生はするな、殺るとしたら見られた時だけだ」


「でも隊長、俺ら来る時既に二人に見つかって二人とも殺ってまっセ」


黒一色の布で全身を包んだ六人の集団は、街灯の少ないこの街に上手く溶け込み、影と一体化している。

影を求め、影を渡り、ターゲットのいる宿の前へ。


「ポイントへ到着、これよりターゲットの回収に…………」


「こんな時間にそんな怪しい格好して何するのかしら」


「────!」


人はいなかったはず。

気配も何もかもを遮断し、影の中ゆえ姿も溶け存在を無とした筈なのに。

いや、今は反省ではなく対処だ。

姿は見えずとも人間とは分かる。

新世代だろうと問題は無い。


部下もそう判断してくれたらしく、同時に目撃者まで詰め寄…………。


「遅いわね。反射くらいの即対処じゃないと誰の不意も取れないわよ」


「んな…………うぇ」


声出せぬよう喉から深く切られた吸血鬼御一行は揃って地に伏せ地面に血を飲ませた。


「さて、この吸血鬼の死体どうしようかな。……!」


真っ赤に染めていたはずの地面が元通りに白くなった。

月明かりの届かないところで見えにくいとは分かっているが、4年ほど前からこの街では奇妙な事が起きている。

この血を吸う地面もそうだ。他にも実体のない影を見た等の怪奇現象も耳にする。


吸血鬼の魔法という説もあるが、目撃者が少なく正体は不明だ。


「さて、とりあえず近くの森に埋めと────!」


転がっていた吸血鬼の遺体は六人。しかし、今足元にあるのは四人。

逃げられたか。いや、自分なら気づくはず。


「………!?また一人」


神隠しなんて噂は聞いたことがない。

だが死体が消えてる以上、これを怪奇現象と呼ばずして何と呼ぶ。


「…………!…………まさか」


足元に転がる死体を眺め、予測通りの光景に驚愕した。


双眸に映る光景。

それは地面が死体を食べているかのように飲み込んでいた。

ゆっくりと沈む遺体をひっくり返せば、沈んだ面は戻らず皮膚も筋肉も失った体は内蔵を露出し、地面に転がっては咀嚼された。


「これは…………」


存命してる自分が飲まれてないことから死体のみを捕食してると思われる。

魔法とも思えないこの現象はいったい────。





ーーーーーーーーー




ピクリと頭上に生えた耳を跳ねさせ外の異音に傾けた獣人の少女。

よく研がれた刃が肉を断ち、地面に沈む音を聞き総毛立つのを覚え双眸を見開いた。


「………………」


隣の部屋にいるヒバナは光る板に夢中で、気づいていないようだ。

妹と弟を起こす訳にはいかない。

警戒心からか、歪に小さく隆起した指先から鋭利な爪が無意識に露出し、荒らげる吐息と共に独特な臭いを放つ毒を持つ牙を剥く。


金具が軋む振動を感じながらゆっくりと窓を開け、気配の感じる方へまん丸く虹彩を開いた瞳を向けた。


「………………」


しかし、その目には何も映らず、地面に染み込んだ血の臭いすらも無くなっていた。


気配すらない。

死体の気配も、そこに立っていた気配すらもなく静けさだけが取り残された夜の街道。


移動したのか。

だとすると足音に気づけなかった。

いや気づける。

なら魔法か。

いや、魔法ならよりもっと感知できる。

だとすれば────。


「カルメ家…………」


種族の能力が均一化された現代では、人鬼を恐れ忌み嫌われる必要がなくなり今は忘れられてしまった種族。


そんなカルメ家がいるのならば────。


「お姉ちゃん…………?」


流石に器官が未発達な弟妹でも気づいて起きてしまったようだ。

力んだ全身から空気が抜けていく感覚を浮かべながら脱力し、いつもと変わらない声色で妹に問うた。


「怖い夢でも見た……?」


「ううん……お姉ちゃんが怖かった」


「あっふ」


ショックを受け床に沈む姉の頭を愛妹がそっと撫で顔を覗かせた。


「いっしょに、寝よ…………?」


ガラス玉の様にまんまるくキラキラ光る純粋な瞳は心を浄化してくれる。

そうだ。

ここは獣人も受け入れてくれるんだ。

非難もされない、命も狙われない。

神聖もいてくれる。


安堵に心身共に崩れ、愛する弟妹を包むように布団に潜った。


「寝るーー!」



──────。

────。

──。



眩い朝日が窓から覗き、雀の唄が朝を知らせ、風に揺れる草木が穏やかな毎日を告げる。


ギシギシと軋む床を踏みしめヒバナは、小さな寝息が三つ聞こえてくる旅館の一室の扉をノックする。


「おーい、朝…………て、気持ちよさそうに寝てらっしゃる」


危険だらけの世界で生きてきた獣人が本能を忘れ、らしくなく三人固まって寝る姿を見てそっと扉を閉めた。





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