一番大事な物は何ですか? 一
日揮が探偵事務所に来て約一時間。ようやく探偵である勝に事件を話せる。カバンから取り出した事件の資料は、机を埋め尽くしていた。日揮がせっかくまとめて持って来たのに、勝はバラバラにしてしまったのだ。双子姉妹、不明と未明にも見ているが、子供に見せるものではない。
現在勝が見ているものは残酷な現場写真だ。撮った写真には身体がバラバラにされ、どれがどこの身体か分からなくなっている。
「お前達が情報規制していたのはテレビで分かっていたが、こういうことか……」
テレビでは情報規制のことは言っていないが、勝はすでに分かっていた。こんな酷い殺し方を、世間に流すのは禁止されてる。勝は見ていた資料を机に投げると、ヒラヒラと舞った紙は未明と不明の前に落ちていった。
「やるね〜。でももうちょっと綺麗に殺せないのかな?」
「………下手」
この言い方に、日揮は注意したいが、言っても無駄だろうと放っておき、説明を続けた。
「……一人目は具流目大輝、三十七歳。性別は男だ。発見されたのは十日前、彼のアパートのゴミ捨て場で、袋詰めにされて発見された。彼が最後に確認されたのは、それから五日前だそうだ」
日揮は勝に具流目大輝の写真を渡す。茶髪の髪で耳にはピアスと、いかにも遊んでそうな姿だ。
「うわ〜、遊び人か〜。やる気失せる〜」
「……クズ人間……死んで万々歳」
いつの間にか勝の後ろに回り込んで、写真を覗き見る不明と未明。相変わらず酷い言葉だ。二人を無視し、日揮は二人目の被害者の写真を勝に見せる。
「二人目は倉井美久、二十三歳。性別は女性だ。発見されたのは先日、同じく彼女の家のゴミ捨て場だ」
「二人目は一日前なのに、よく身元が分かったな」
「逆だ。彼女が分かったおかげで一人目も判明したんだ」
「どういうこと〜?」
日揮は二人目の被害者、倉井の写真を勝に見せるように机に置くと、彼女の目を指差した。
「彼女の目が義眼だったんだ。それを調べた結果、ある病院がヒットし彼女は入院していたそうだ。DNA鑑定の結果、倉井美久ともう一人、具流目大輝だと判明した」
「もう一人も入院してたの?」
「いや、彼はこの病院の院長だ」
「えー! こんな名前なのに医者なの?!」
名前からして不明はグルメ関係と思っていたが、どうでもいい予想外な事で驚いた。勝は彼の名を聞いた時からその病院が浮かんでいた。
「具流目病院……三年くらい前にこの街に出来た病院か。だがこんな奴が病院のトップとは思えんな」
「創設者は父親だったが、二年前病気で亡くなって、息子が跡を継いだそうだ」
「なるほど。こんな奴病院の恥だという輩がこの人を殺っちゃった! みたいな感じなのかな?」
「だが病院が怪しいと睨んではみたが、何も出なかった。だから俺達の所へ?」
「まだ調査中だ。怪しい人物が一人いるんだが……」
「俺の所に来たのは、そいつが容疑者から外れてしまったから。結局何も出なかったと答えは変わらん」
日揮は言いたくなかったが、さすがにバレてしまったか。勝はただ資料を見続けていた。遺体の写真にもう一度目を通す。写真には具流目大輝と書いてあるが、どの部分が顔か、腕なのか全く分からない。一つの肉片に注目した。
「……不明、未明。これ見ろ」
勝は二人に写真を渡した。不明は口を尖らせながら愚痴を言う。
「いくら私達でもここまでされてる上に、写真じゃあ………おや?」
「……これ……気になる」
「何だ? 何か分かったのか? 」
日揮にはさっぱり分からない。写真に何か手掛かりが残っていたのか。
「まあ普通気味悪がって、見続けたりしねえだろうな」
だが警察の鑑識も見逃していたりはしない。日揮は鑑識結果の資料を見直したが、体の傷という
「でも勝さん。これじゃあちゃんと分かんないよ?」
「そうだな……遺体はどうした?」
「具流目大輝の遺体は、すでに葬儀に出された。警察も調べ終えたからな」
「ざーんねーんーでーした」
不明は残念そうにしたが、実際に遺体を調べさせる訳にはいかない。子供に検死させたなんて世間に知られたら、何を言われるか。日揮は心に誓う。彼女達には絶対に遺体に近寄らせない。
「………その容疑者……教えろ」
命令口調の未明に日揮は言いたくないが、いずれ分かる事だし、彼等には協力しないと事件が解決しない。
「……具沢差紳助。彼は院長である具流目が死んだ事で、新たな院長になる男だ」
「……いかにも犯人は私ですと言う動機だな。だがそいつを知らんから何とも言えん。そうだ。会いに行こう」
スッと立ち上がると勝は、床にある資料を御構い無しに踏みながら、外に出て行く。
「おい! 全く……あいつと協力してなんて、出来るのかよ」
愚痴をこぼす日揮を、不明は馬鹿にするように笑った。
「別にこっちは頼んでないよ。あの人は自分の為にやってるんだから」
「自分の為? どういうことだ?」
「ええ〜、それ私に聞いちゃう? ちゃんと本人から聞かないとね〜」
「………遅れる」
話してる場合じゃなかった。三人は急いで勝を追った。