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女は何を愛したか? fin

 夜九時、二台の警察車が豊の家の前で停まる。車から出てきた野々路と日揮が玄関に目を向けると、探偵が座っていた。


「遅かったな。推理ショーは終わったよ」


「終わったって…犯人は!?」


 探偵は玄関のドアを指差すと、中から豊冬一が未明に連れられて出てきた。日揮の顔を見るなり、覚悟を決めたかの様だ。


「……豊冬一さん、貴方の家にあったと思われるカーペットから、豊毎夏さんの血液、そして縛っていたロープから、豊毎夏さんの首の索条痕さくじょうこんが一致しました。豊毎夏殺人容疑で貴方を逮捕します」


「……はい」


 日揮は手錠を取り出し、豊の手に掛けると、一人の警官が車へ連れて行く。これでこの事件の犯人は捕まった。


「もう一人いる。豊冬一殺人未遂の男がな」


 豊の家からもう一人、三高新季が不明と一緒に出てきた。警察達は何故、彼が殺人未遂を犯したのか。探偵は事件の真相と、その時の状況を語った。




 三高が包丁を振り上げた。その手は止まり、震え出し、包丁を落とした。


「俺には……出来ない……毎夏は友達だった……でも、お前も友達だ」




 彼は豊を殺さなかったが、殺人未遂は変わりない。黙っていたら彼は無罪だろう。だが探偵達は許さない。彼は罪を償う必要がある。


「まさか貴様! その為に我々を遅らせたな。そのまま豊冬一を殺したらどうするつもりだった!?」


 日揮から聞いた時に、野々路は気付くべきだった。この探偵の言葉を信用すると、ろくな事にならない。


「もしあいつが殺そうとしても、一歩手前で止めてたから安心しろよ。でもこれで、あいつは復讐をしないと分かったんだ。別の日になって、新たな事件が起こらず良かったじゃないか?」


 探偵の考えは正しかったのかもしれない。だが日揮は信頼していた探偵


「本当に……止めていたのか?」


 日揮の質問に探偵は鼻で笑ってと答えた。それはどんな意味なのか、日揮には分からない。


「……いつから豊冬一が犯人だって分かってた?」


「そんなのあいつが遺体を見た時からだ。いったい誰がこんな事をなんて言ってただろ。普通に見ただけなら溺死に見える筈なのに、誰かに殺されてると分かっていた。いや知っていたんだ。犯人だからな。もう一つ言うと解剖すると言われた時も、彼女をもう傷付けないでと言った。遺体に傷がある事も知っていたんだよ」


「私も同じだねー!」


「……まさかあんな事言うなんて、本当にバカなんだ」


 探偵は最初から彼が犯人だと思って、事件を調べていた。日揮は彼の考えが分からない。警察に言えばすぐに事件が解決した。第二、第三の事件が起きるとも限らない。


「その時に犯人だと分かっていたのなら、何故言わない!」


「頭の良い奴なら気付く筈だが……どんな小細工してるか楽しみたかった。だが彼は嘘が下手だし、アリバイ工作は少しは考えた様だが、なっちゃいない。本当につまらない事件だった。俺達はさっさと帰らせてもらうよ」


 それはくだらない理由だった。ただ事件が面白いかどうか、探偵はそれが一番だ。颯爽さっそうと帰ろうとする探偵達は、歯を食い縛る日揮に気付いても、無視をして通り過ぎた。野々路が相変わらずの行動に、嫌味を口から漏らした。


「……マスコミが嗅ぎつけて来る前にいつも消えやがって。我々を貴様の気分で振り回すな。無名探偵」


 探偵の耳に入り、足を止める。気付くのに遅れた不明は、探偵に顔をぶつけた。


「俺が世間に知られていいのか? 警察共は探偵に協力していた無能集団扱いされるぞ。今のお前の地位も、誰のおかげかな野々路警部?」


 野々路は自分の立場が分かっている。怒りの拳を抑え、またこの男に負けた悔しさを実感する。


「貴様のせいで頭が痛い……さっさと消えろ!」


 その時、野々路のケータイに着信音が鳴る。すぐに出ると探偵達から離れて話した。


「ああ……解剖の結果……!」


 驚きを隠せなかった。それは事件の謎になったままの事だった。


「……そうか。二人は知っていたか聞く必要があるな」


 野々路はパトカーの近くにいる豊と三高の元へ駆け寄った。二人は落ち込んで、互いの顔を見る事は出来ない。そんな様子だが野々路は話を始めた。


「豊毎夏さんを解剖した結果、ある病気が見つかりました。先ほど行き着けの病院も分かり、かなり重い病気だったらしいですが……お二人共ご存知でしたか?」


「………え?」


「いや……知らない」


 豊と三高は初耳だった。病院の名を聞いたが、この辺にはない病院だ。頭の中が整理出来ない豊に、探偵達は代わりに説明した。


「やはり豊毎夏は病気だったか。二人には心配させない様に隠してたんだな。悲しい事に、それが勘違いを引き起こした」


「つまり、あのカツラは今後の為に必要な物だから用意してたんだ! 髪が抜けるなんて女は辛いからね〜。あーあ、やっちゃった」


「……持ってたメモ帳……死んだ時のために書いていたかもね。もう水に濡れて何も読めない……聴けないね。愛する人の最期の言葉」


 不明と未明が次々と豊に心を折る言葉を吐く。理解していく豊は顔がクシャクシャに崩れていく。


「…………じゃあ…あ、僕は……ああああああ!!」


 豊は悲しみのあまり崩れ落ち、頭を地面に何度も何度も叩きつけた。頭から血が溢れ、警官が止めに入っても必死にもがき続ける。三高は何も喋らず、ゆっくりと座り込んだ。まるで魂が抜かれてしまったかの様だ。


「これで事件解決だ。俺達は帰らせてもらうよ」


 探偵達は帰ろうとした時、日揮は探偵を胸ぐらを掴んだ。探偵は驚きもしなかった。


「人を散々と騙し、殺しに手を貸して……それで何が探偵だ! 人殺しと変わらないじゃないか!!」


 息を荒くしながら言う日揮に、探偵は答えた。


「俺は探偵だ。探偵は時に正義にもなるし、悪にもなる」


 探偵は手を器用に使い、日揮が掴んでいる手を簡単に外した。


「分かったか新米君」


 掴まれたシャツを整える。歩いて行く後ろ姿を、日揮は睨むことしか出来なかった。悔しく思う日揮に、野々路は教えた。


「覚えておけ。奴は神利しんりしょう。名の通り、神を利用して勝つ、史上最悪の探偵だ」


 探偵、神利勝は月が照る道を歩いて行く。不明と未明を引き連れて。

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