episode4. 状況?ええ、もちろん、わかっているわ
side:アルテナ
XX13年__ヨルナシ7日目の祝福で町が活気付く中、わたしとおばさんは既にお疲れモードに入っていた。
「まったく。町の連中は元気があるねぇ。カナトもラミも、また屋台へ行ったのかい。やれやれ、ロフィはもう疲れたよ。」
紹介しそびれていたが、わたしのおばさんの名前はロフィーネ、自分で自分のことをロフィって呼んでいるわ。
わたしとカナタは普通に、おばさんって呼んでるけどね。
おばさんといってもまだ30歳くらいなのよ。
おばさんは、美容に関する魔法がとても秀でていて、いつみても美人なの。
でもよく、「あんたの母親の方がよっぽど美人だったわよ」って言われるわ。
わたしのお母さん、かぁ。
どんな人だったんだろう。
またふと、いつものように考え込む。
すると、おばさんが戸棚の引き出しから1枚の写真を持ってきた。
「ほら、これがあんたの母親よ。半分成人した年頃だし、なんてったって世間はお祭り騒ぎなんだから、今日は特別にこの写真をあげるわ。」
わたしはびっくりしたままおそるおそるその写真を受け取り、伏せられていた写真を裏返す。
「ーッ!」
あぁお母さん、やっと会えたわ、写真の中でだけど、これは間違いなくわたしのお母さんだわ。
物心がついて以来はじめて対面した母に対し、アルテナは感動で胸がいっぱいになった。
アルテナが受け取ったそれは、まだ生まれたばかりの喋ることさえままならない彼女を抱え、にっこりと微笑んでいる母の写真だった。
アルテナ本人は自覚していないが、月白の艶やかな髪と愛嬌がありながらも大人の女性らしく艶麗な容姿は、いまここに生きているアルテナそのものだった。
写真を再び渡されたときのように元に裏返してみると、掠れた文字で何か書いてあった。
〈アルテナ Code:074(ゼロナナヨン):シンカク複数有、ハニエル、スラオシャ〉
アルテナははじめてみる情報があまりにも多くいろんな感情が混ざり、それこそ泣きはしなかったが、少し、顔を歪めた。
「おばさん、この、コードってなに?なんで、番号がついてるの??シンカクって、本当に私の中にもいるの??ねぇ、教えてよ!」
珍しく声を荒げたアルテナに、ロフィーネはこうなることが前々からわかっていたかのように淡々と話をし始めた。
「いい?ゆっくり話すけど、1度で聞いて憶えるのよ。時間がないからね。」
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おばさんによると、わたしたちが生まれた時期、そう、ほんの10年、15年程前から、シンカクの在り方が少しばかり、変わったのだという。
本来ならばシンカクは1人につき1体、これはだれもが口にせずともわかっていることだった。
しかし、とある町で1人の子が複数のシンカクを所持して生まれた。
それを境に、シンカクを研究する学者たちが各地を調べた結果、国中に複数シンカク所持者がいることが判明した。
そのうちの1人がある日 犯罪へと手を染め、複数のシンカクを駆使できるのが都合のいいことに 大規模な残虐殺人事件を起こした。
そのような事が起きてから、複数のシンカクを持ち産まれた子らは 周りの人々に禁忌の子と呼ばれていた時代もあった。
そのため、いまでも一部の地域で差別が続いていることもあるんだとか。
後にこの特別な子たちは発見され次第、危険な可能性があるとみなされ、コード・ネームを付けられた。
その1人がCode:074、アルテナだった。
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「安心して、あんたの核の中にいる子たちは特に害を起こすことはない筈よ。」
わたしの中にいるのはどうやら、"ハニエル"と"スラオシャ"という天使らしい。
おばさんはわたしが疑問を入れる隙さえ許さない程に途切れることなく喋りながら、年期の入った少しカビ臭い分厚い本を、どこからか引っ張り出してきて、わたしの元へと無造作に置いた。
あわててその本をやさしくキャッチして、中身をパラパラとめくる。
どうやらシンカクに宿る者たちについての図鑑らしい。
わたしは索引からまず最初にハニエルを探し、ページをめくった。
ハニエルは、美を司り、男女に愛と絆をもたらすのだという。
ハニエルねぇ、きっとかわいらしい容姿をしているのね、と思いながら続いてスラオシャのページをめくる。
スラオシャは男性の天使で、いわゆる地獄耳の持ち主だ。
そして、悪を裁く。
ページの下の部分に付け加え的な感じで小さく、「太陽が降りる頃、夜が訪れるとき」と書いてあったが、なんのことかしら?そんなの毎日のことだわ、とアルテナは自己解決し、パタン と本を閉じる。
図鑑にはこれといって有力な情報はなかったが、曖昧ながらもアルテナは自分のシンカクについて少し理解した。
そして慌てふためくでもなく、ふぅ、とひといきつくと、さぁ、ヨルナシの続きを祝いましょう?とばかりにロフィーネをみつめる。
ロフィーネはアルテナの切り替えの速さに自分が驚いてしまったことを若干恥じる。
さすがアルテナ 男勝り、といったところだ。
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そして刻は8日目を祝う寸前、あの大災害が起きる頃、ロフィーネは重々しい口調で、これから起こることを話し始めた
アルテナは、おばさんが何故このような事情を知っているのか不思議でならなかったが、話の内容が内容であったため、うんうん、と頷きながら、鈴の音が60回鳴り終えるまでに身支度をした
そしてそっと、写真を硬いケースにしまい、そのケースを持ち運び用の小さなポシェットへ滑り込ませた
ロフィーネがいった通り、時が満ち 外の世界ではありえないようなことが起きていた。
アルテナはそれでも動じなかったし、おばさんにいわれたことを守り、カナトたちの無事を祈りながら、やがて迎えに来たある者たちへと連行されていった
ロフィーネはそれを見届けた後、彼女もまたそっとどこかへ姿を消した
ロフィーネに再び会える時が来るのは、おそらく、また何年後かの話
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