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いつかのラグナロク  作者: q6
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episode3.どうして?

side.カナタ Code:008

年が明け、ヨルナシのお祭りがはじまり、ぼくはお母さんを連れて待ちに待った祭りに出かけていた。


ぼくたちが住んでいる町 イザナギタウンでは、とにかく美味しい食べ物が手に入るところとして、毎年祭りがあるたびに 色とりどりの食材たちが「わたしを食べて」「いやいや、僕を食べて」ときこえてくるくらい、魅力的な屋台が(ヒシメ)いているのであった。


そして今年の屋台では みたことのないような綺麗な羽をした妖精が屋台の店主と一緒に客を呼び込んだり、目も合わせたくないようなものすごい強面のケンタウロスがピンクのふわふわのかわいい綿アメを売っていたりしていた。


ぼくは、そこではじめてギャップ萌えというものを学んだ。


まあ、あのケンタウロスから綿アメを買う者はきっと勇者しかいないだろう。


「カナト、あっちに美味しそうなブラックベリー・パイがあるわよ」


お母さんも強面ケンタウロスのおにいさんにびっくりして、ものすごい営業スマイルを浮かべながらぼくの手を引っ張っていった。


(ケンタウロスのおにいちゃん、がんばれ)


ぼくは心の中でそっと応援しつつ、光の速さでブラックベリー・パイの屋台へと移動した。


お母さんが買ってくれたこの屋台のパイは、銅貨1枚でこの量なのかってくらいボリュームがあり、ベリーの程良い酸っぱさと甘さがサクサクのパイと相性がマッチしていて 思わず笑みがこぼれるくらいおいしかった。


2人でサクサクとパイを頬張っていると、町のアナウンスが流れた。


〜♪


「みなさん、いよいよ、8日目の朝日が昇ってきますヨ!それでは予定時刻までカウントダウンをはじめます!」


アナウンスの人も祭りの勢いで酔いがまわったのか、上機嫌な声色でカウントダウンへのスタートを切る。


この町の中心にある巨大な鈴のようなものが、60回鳴ったら朝日が昇る時間になるのだ。


ガシャァアン、ガシャァアン


賑やかな町の騒音に負けないくらいの大きな鈴の音が響き渡る。


ぼくとおかあさんはそれをいっしょに数えてた。


「「58〜59〜60!!」」


2人で60回まで数え終わり、同様に周りの人々も60回の鈴の音を数え終わり、祝福の歓喜の声が湧き上がっていた頃だった。


空が急におかしくなって、大きな爆発音がした。


お母さんはこのときとっさにぼくのことを守るようにして、ギュッとぼくを抱きしめていた。


音に驚いて瞑っていた目と 塞いでいた耳を開けると、ぼくの頭では理解しきれないようなことが目の前で起こっていた。


人々が奇声をあげたり暴言を喚き散らしたり、わけもわからないような言葉をブツブツと吐き続けてはニコニコと笑い、血塗れになっていた。


ぼくは怖いという感情が出てくる前に、まずびっくりして思わずお母さんのお腹に顔をうずめた。


「カナタ、逃げなさい。カナタ、強くなりなさい。そして、強くなったらお父さんの町へ行きなさい。お父さんの、いる町は、ラグナイトシティ、よ、あとね、お父さんは、決して、あ、なたのこトヲ、嫌ってなんかイナイワ、オ、カアサ、ン、はカナタのこと、イチバンに応援してるからね。…大好きよ。…愛は決して忘れないで。逃げ、ナサッws°82>$$5☆☆♪=6?!.?!!」


「…へ??え、……えっ…え??」


目の前のお母さんを見上げると、血塗れになりながらぼくを見つめて微笑んでいた。


不謹慎だとは思うけど、ぼくがいままでみてきたお母さんの笑顔とは比べ物にならないくらい、綺麗な笑顔だった。


美しいと思った。


そう思ったのはほんの一瞬であり、それでもぼくの目には 血塗れのお母さんがぼくをみて笑った顔が一生焼き付けられた。


このあとお母さんはみんなと同じように発狂して奇声をあげるようになった。


ぼくは正気を取り戻すと辺りを見回した。


血塗れになってにこにこしながら踊り狂う、化け物、ばけもの、バケモノ、バケモノバケモノバケモノバケモノ………


そして狂い疲れたのか、取り憑いていたものがパッと離れたようになった途端に呆然と立ち尽くし、なんの表情も浮かべずに合掌し、空をみつめる人々。


中にはぼくと同じように唖然として辺りを見回している人たちも何人かいた。


不思議と涙は出てこなかった。


それでもぼくはいよいよ怖くなって、走って走って走って逃げた。


「お母さん、まっててよ!」


それだけ言い残し、町の中心部から抜けてアルテナたちがいるであろう町のはずれの方まで逃げた。


場所は変わっても、人の状況は変わらないもんだな。


どこか冷静に分析する頭の中のぼくがいて、それと同時に必死でアルテナを探すぼくがいた。


「アル、アル!!!!!どこなの!!アル!!!」


町にいる発狂した人々と大して変わらないんじゃないかってくらい、このときのぼくは理性がとんでいた。


ハァ、ハァ、ようやくアルの家に着いたぞ。


家の前のベルを鳴らすこともせず、ずかずかとアルの家へと入る。


しかしアルもおばさんも、家に居なかった。


ぼくは目の前が真っ暗になった。



強くなるって誓ったのに、お母さんを待たせているのに。


でも、でも、アルがいなきゃぼく、どうしたらわかんないよ。


どこなの?アル


返事してよ…


置いてかないでよ


この前みたいに、お茶会しよう?


クッキー作って、持ってきてよ


ぼく、お腹すいたよ



ぼくはその場で力尽き、微かに暖かみがある暖炉の側で崩れ落ちた。


あぁ、ぼくもここまでか。_____










_____


Code(コード):008(ゼロゼロハチ)、生存確認、複数のシンカク有、只今より本部へ帰還する」


横たわるカナトを抱き上げ、何者か数人が機械的な声で他の何者かに連絡をとる


そして、その者たちは町の、抜け殻のようになった人々を一瞥し、プチ、ペキペキ、コキ、と、まるで玩具のような感覚で首元を捻り潰した


そこにいたカナトの母親であるラミは、死んだ


そして抜け殻になった人々は世界中から姿を消した


世界の人口は約半分になった


誰かがその出来事を「リセット」と呼んでいた



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