好きな作者様(マイナー)の小説を本屋で見つけた時に来る高揚による心の叫び
「あっ」
その瞬間。
僕の血液は、大自然を流れる川の水の様に冷たく、煮えたぎる火山のマグマが如く熱くなる感覚に襲われた。
目の前には。
『異世界で×××するうぃる!〜何するかは、まだちょっと決めてない〜』
(ふ、おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!)
く、口がっ、かかかか勝手に、開いてっ、え? え゛っ? ウソだろおおおおぉぉ!?
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち落ち着けねぇええええ!!
こーゆー時は深呼吸だ!
スーハースーハースーススススゥゥゥハアァァ〜~~〜〜。
右見て、左見て、後ろ向いて、はい! もう一度!
『異世界で×××するうぃる!〜何するかは、まだちょっと決めてない〜』
………………ある。
目の前に眼前にすぐ側に真ん前にふおおだから落ち着けっ!
心臓が尋常じゃないくらいバクバクいっている。
さらにやって来たのは身体への違和感。
これは、その、アレだ。
徒競走で走る直前の時とかの、胃もたれが来たような。
階段から落ちそうになった時の、後から来る背筋の震えのような。
好きな子にありがとう、って言ってもらえた時のような。
そんな。いや、それよりもっと───
膀胱が、パンパンになっているような…………
よし、うん、そう、とりあえず、トイレだ。
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_(:3」∠)__(:3」∠)__(:3」∠)__(:3」∠)__(:3」∠)_(:3 」
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「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
この無駄に長い「ふ〜~」は、己への喝である。
よし、落ち着いた。
………………
………………
………………
──────説明しよう!
この『異世界で×××するうぃる!〜何するかはまだちょっと決めてない〜』は、発売から一年が経っているのにもかかわらず、一向に続刊でない、マイナーの中のマイナー小説である。言うのが遅い。
実はこの本、僕の近所のすべての本屋には一冊も置かれていなかった。
ちなみに、古本屋にもなかった。それは元から誰も売買していないから。哀しい。
まさに奇跡である。
しかし、そんなマイナーにだってファンはいる。たとえば、僕。
この作者が連載を始めてから、スランプに陥り更新をストップ、再開するまで、ずっと見守ってきた。
……ストーカー? いや、違う。
ある時は、ドキドキしながら評価ポイントをつけ。
またある時は、恐る恐る感想を送り。
そのまたある時は、お気に入りユーザ登録をしようとしたが……いや、もう、なんというか、怖すぎて出来なかった。多分、好きな子ほど目が合うと逸らしてしまう法則と同じだ。
自己分析、ストーキングがなっていない。
僕は、作者への膨れあがった尊敬心に負けてしまったのだ。
ハッキリ言えば交流したい。
僕は貴方のファンだよ、ずっと前から! って伝えたい。
言いたい。
大好きです、って。
でも、僕には勇気がない。
口に出さなくても伝えられる方法があるなら、とそれを探し求めていた。
……この降って湧いたチャンスを、やすやすと逃すのか?
僕は目をつぶり、自分の本心へと問いかける。
─────────決めた。
買う。本、絶対買ってやる。
そして、どんな時でも、肌身離さず守ってやる。
本。今日からお前は僕のヒロインだ。
僕氏、再度入店。
「はひっ!?」
棚の前には、若い女の子が立っていた。
(お、おおおおお女の子いるよ!? さっきまでいなかったのに!?)
「うーんと」
女の子は「the異世界!男のロマンだぜ!デデーン!」系コーナーのおとなり、「悪役令嬢だけど、ヒロイン無視よ☆」的なピンクな背表紙が多いコーナーを凝視していた。
──────が。
(うわああああぁぁぁ!! 異世界の方行っちゃったあああああああぁぁぁ!)
そう、女の子は、異世界系のヤツを一冊棚から抜き出して、パラパラと挿絵だけを見だした。
挿絵だけ。
中身は見たくない=読んだ事があるor読みたいとおもっている、つまり異世界の方が本命……?
僕の決意が、ガラガラと音をたてて崩れていく。
女の子が持っている本を颯爽と抜き取れないよぉ!!
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〔イメージ〕_(:3 」∠)__(:3 」∠)__(:3 」∠)__(:3 」∠)_
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女の子『(手から本が消える)えっ?』
僕『フッ、コイツは俺のモノさ。手を出さないで貰おう』
店員『お客様。まだお支払いを済ませていないでしょう?』
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_(:3 」∠)__(:3 」∠)__(:3 」∠)__(:3 」∠)__(:3 」∠)_
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かと言って、店員さんに「在庫、ありますか」なんて聞けないし!! コミュ力的にムリです!!
(頼む! この推理、間違っていてくれ! いや……)
彼女の手が『異世界で×××するうぃる!〜何するかは、まだちょっと決めてない〜』に伸ばされ───
(それに手を出すなああああああああぁぁぁぁっ!!!)
パラパラパラ。
「…………やーめた」
(え?)
彼女は『異世界で×××するうぃる!〜何するかは、まだちょっと決めてない〜』を雑っぽく本の間に入れ込んだ。
「面白くなーい。別の別の、っと」
そう言うと、ついさっき取った異世界系のヤツを掴み、レジへ駆けて行った。
………………
………………
………………
(……助かった……のか?)
フツフツと込み上がってくる、勝ったという実感。
ジワジワとよみがえる、「面白くなーい」。
(いやったあああああぁぁって良くなあああああああい!!)
複雑な心境ながらも、僕は女の子が精算を終えるのを見届けた後、レジに向かうのだった。
閲覧ありがとうございました。
マイナーと言っていますが、書籍化されているので支持は一応されてます。女の子の言動は、俗に言う「※個人の感想です」です。
というかアマ◯ンで買えよ…