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SWEETS BOX  作者: 柚木 ココ
7/21

7

奏たち三人はすぐに現場に駆けつけたが、そこには里花もひろ先輩の姿もなかった。

野次馬と思われる生徒たちがざわざわとしているだけだ。

近くにいた子に話を聞くと、二人とも職員室へ連れていかれたらしい。


ひそひそと、自動販売機の前で話す女の子たちの声が聞こえる。


「見てた子がいうには、二人とも最初は仲良さそうにお話してただけだったそうよ…」

「へえ」

「それが急に険悪な雰囲気になって…」

「大きな音に驚いたら、頬を抑えた達村先輩!冷たい目で2年の子を見ていたって」

「その子も、すごい顔で睨んでたって話よ」

「その子、弓道部の部長さんだって、きいた?」

「達村先輩と同じ部活じゃない!」

「なんだって、そんな野蛮な…」

「二人の間に何があったのかしら…」

「え、もしかして痴話喧嘩っ?」

「そんな…だって達村先輩には大河原先輩が…」


みんな好き勝手なことを言っている。

先輩を殴るなんて、と眉をひそめ、心配そうな顔をしているくせに、声音には黄色い好奇心が見え見えだ。


進学校の桜女子はどちらかといえば上品な家庭の真面目な子が多い。

いつも平和で、大きな事件など起こることは滅多にない。

故に、後輩が先輩を殴るなんて、ちょっとしたスキャンダルなのだ。


しかも、その先輩は三年生の達村寛子先輩。

彼女は二年生のときの部活動紹介で、扇の的、那須与一を演じて以来、ちょっとした有名人になっていた。

長い手足に、ハーフみたいで整った顔立ちが目をひいただけでなく、親しみやすく誰にでも優しい性格が幸いして、同級生、後輩を問わず人気者になっていたのだ。

そんな彼女が後輩に殴られた。

なんて、退屈な毎日に落とされた、良い話題の種なのだろう。



「…本当の話なのかな?」


水木が困惑したように呟いた。


「みんな、この手の刺激が好きだからね。たぶん、大分盛られてると思うけど…とりあえず、本人に聞くのが一番早いよね」


七海も眉をひそめて言った。


しかし、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴っても二人とも職員室からは出てこず、話を聞くことはできなかった。





放課後、部活に行っても、里花の姿はなかった。



[今日は休みます]



里花からの短いメールが、七海の携帯に届いていただけ。



「…本当、りっちゃん、どうしちゃったんだろ…」


練習に身が入らない、と奏はため息をついた。

里花がこんな騒ぎを起こすなんて、らしくない。


「本当に…翼ちゃんのことでも大変なのに、里花ちゃんまで…」


秋巳も一緒にため息をつく。

彼女は昼休みの騒動の噂を聞いてから、落ち着かず、ずっとおろおろしていた。

弓道場にいるものの、危なくて射場に入れられない。


「…まあ、きっと何かの間違いでしょ。里花も明日になれば元気にでてくるよ」


水木はあえて明るい声音でそう言うけど、奏には水木の言うことといえど、納得できない…


「…そうだ!」

「?!」


奏は思い立って立ち上がっていた。


「ひろ先輩に話をききにいこ!りっちゃんは帰っちゃったけど、ひろ先輩はまだ教室にでもいるかもしんない!」

「そうかなあ…」

「うん!いこう!」

「うっ…うん!私もいく…っ!」


秋巳も便乗して、奏の後に続いた。


思い立ったら即、行動。

弓道着のまま飛び出そうとした。


が、奏が道場の引き戸に手をかける前に、引き戸が大きく開けられた。


「…おわっ!」


飛び出してきた奏と正面衝突したその人物はそのまま押し倒されて尻もちをつく。


「いったた…ふじちゃん、今日も積極的だねえ…まあ、こうゆう攻撃的な挨拶も、嫌いじゃないけどさあ」


そう言って、へらっと笑う。


「…あーっ!!!」


奏は思わず大きな声をあげる。

押し倒してしまったその人は、今まさに話題の渦中にいる人。

ひろ先輩だった。












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