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SWEETS BOX  作者: 柚木 ココ
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6

昼休み。

奏と七海は教室でお弁当を広げていた。桜女子高には学食もあるので、昼休みは学食組と教室組に分かれるが、奏たちは大体いつも教室組である。

水木は今日は購買でパンを買いに走って行った。

4時限目終了後には生徒たちが購買へと一斉にダッシュする、『購買ダッシュ』が恒例になっているが、これに乗り遅れると人気のパンやお弁当はあっという間になくなってしまう。



「…あーもう、つばたんから返事こないよー」


奏は愛用のガラケーをパカパカとさせながらため息をついた。

昨日の夜、翼に送ったメールの返事がない。


「私のとこにも返事ないな」


七海も頬杖をついてスマートフォンをいじる。


「学校もお休みみたいだし…本当、どうしたんだろー」


奏は今朝のホームルーム後1番に翼のクラスにむかい、彼女の欠席を確認済だった。


「メールに返信できないほど体調が悪いとかー、ケータイはトイレに落としちゃったーとか?…あ、わかった!ケータイを落としたショックで寝込んじゃったんだ!」


「…そりゃー、仕方ないね」


自分勝手な推理をポンポンと出す奏に、七海は適当に相槌をうった。


「…ななちゃーん、そこはつっこんでよー。それで、正解を教えて?」


「…あんたは私をなんだと思ってるんだ」


「…うきゃ!」



唐突に奏が変な声をあげる。

机に突っ伏していた奏の首筋に、冷たいみかんジュースの缶があてられた。


「あ、水木、おかえりー」


七海が視線をあげると、購買から帰ってきた水木が缶を奏に押し付けていた。


「ただいまー。ほらほら、奏さん、お土産ですよーお土産ー」


「ひゃあああー冷たい冷たい!!!」


奏は悲鳴をあげて跳ね起きると、水木から缶を奪い取った。


「もうっ!普通にわたせないのっ?」


「こら、私の奢りなんだからありがたくいただけ」


「うー…」


不満気な声を出しながらも、奏は緩んでしまう頬を隠しきれない。


「…ふふ、二年生初のミズキからのプレゼント♡」


呟いて缶を頬にあてるとにんまりと笑う。


「プレゼントというか…奢らせたんだろが」


七海がつっこみ、水木はやれやれと奏の隣の席に腰掛けた。正月さんは学食組なのか、不在である。

昨日の一件…隣の席を水木が自ら辞退した、ということをずっと根に持っていた奏だが、みかんジュース一本で手を打つことにしたらしい。

まあ、それに応える水木も水木なのだが。

これで奏の不機嫌がなおるなら、と思ったようだ。


「てか、さっき、里花とひろ先輩見かけた」


水木は戦利品のメロンパンをかじりながら言った。


「りっちゃんとひろ先輩?」


珍しい組み合わせだなーと奏は首を傾げる。


「2人でなにしてたの?」


「さあ?」


水木もメロンパンを頬張りながら首を傾げる。


「私も腹が減ってたから、話しかけないできちゃった」


「ふーん」


「それより、ふじさ」


七海はお弁当のタコさんウィンナーをつまみながら、奏に目をむけた。


「なに?」


「あんた、もし翼がこのままこなかった場合、桃姫だけど大丈夫?」


「うっ」


奏のお弁当を食べる手がとまった。


「セリフとか、何も覚えてないよね?」


「ううっ」


七海の言葉に、図星というようにギクリとした表情をする。


「そっかー、時間もないし、念のためではあるけど、練習しなきゃだねー。問題は衣装だけではなかったか…」


にやにやと笑う水木を、奏はきっと睨みつけた。


「うー!ミズキ、練習付き合ってよね!」


「えー、なんで私が」


「そりゃ、ミズキの代わりに桃姫になったよーなものなんだから、当然っ!」


「や、私の代わりじゃなくて翼の代わりでしょーが…」


そんなことを言っているとき、きゃーっという小さな悲鳴で、教室がざわめいた。


「…何事?」


声のした方に目を向けると、ちょうど同じクラスの白雪美優(しらゆきみゆ)が教室に入ってきたところだった。

小さな悲鳴をあげたのは彼女に気づいた入口付近の生徒らしい。

彼女の周辺は、妙に人口密度が高い。違うクラスの生徒や、一年生や三年生まで紛れており、遠巻きながら、彼女に視線を送っているようだ。



「新学期早々、みんな暇ねえ」


七海は呆れたように呟いた。


「暇って?」


奏も水木もキョトンとした。


「二人とも知らないの?1年のときのミスター桜」


「あー、そういえば、白雪さんだっけ?」


水木は合点が言ったように言う。


「…私はミズキ一筋だから、わかんなかった」


「はいはい」


奏のことは軽く流して、七海は説明する。


「白雪さん。去年1年生ながら文化祭のミスコンで、全校のミスターに選ばれちゃったでしょ。もともと長身で優しくて王子様みたい、しかもバスケ部のエースでカッコいいって学年で人気だったのが、有名になって上級生にまでファンが増えちゃって。まだ登校二日目だってのに、1年生まで見にきてるみたいね」


これはうるさくなりそうだわ、と冷たい目でファンだと思われる少女たちを見やる。



「おまけに、私たちの代のミス候補まで同じクラスだしねえ」


「あ、それはわかる!織原栞(おりはらしおり)ちゃん!」


奏はそこは自慢気に手をあげた。


「お姫様みたいで、可愛いよねえ」


華奢な身体にぱっちりした瞳、ふわふわの髪の毛をお嬢さんらしくハーフアップにしている女の子。栞ちゃん。

去年は1年生のミス候補に選ばれたものの、当時3年生の先輩に惜しくも敗れていた。


織原栞ちゃんも白雪さんと同じバスケ部。

2人は仲がよくて一緒にいることが多い。

今だって、白雪さんが教室に入ってきたあと、同じバスケ部の井野さんと三人でお昼を食べている。

長身でショートカット、スカートを履いていなければ王子様みたいな白雪さんと、ふわふわのお姫様みたいな栞ちゃん。とても絵になる。

取り巻きの仲には、白雪さんのファンと、栞ちゃんのファンも含まれているのかもしれない。


「…なんだか、目の保養?」


奏は目を輝かせるが、水木は興味なさげに言う。


「まあ、でも教室はなんか落ち着かないよねー。なんか騒がしい」


「あ!私は同じクラスに王子様がいてもミズキ一筋だからね?心配しないで?」


「何言ってんだお前は」


水木は上目遣いで覗き込んでくる奏の頭にチョップをくらわした。

いたたとわざとらしく頭をおさえる奏を笑う。奏は頬をふくらました。


「むー、つれないけど、そんなミズキが好きだよ」


「あ、そう」


はずかし気もなく言う奏に少しそっぽをむく水木。


「…いちゃいちゃするなー」


七海がからかうと、水木は顔を赤くした。


「いっ、いちゃいちゃとか…!」




「おーい、弓道部ー!なんか大変ぽいよー!」


そのとき、廊下の方がさっきとは違う感じでどよめき、同じクラスのセトリナこと瀬戸里菜(せとりな)が入ってきた。

小さな三つ編みをゆらしながら、真っ先に奏たちの席の方へ駆け寄ってくる。


「なに?」

「どしたー?」


奏たちが顔をあげると、セトリナは少し慌てた様子で言う。



「なんか、里花ちゃんが先輩殴ったって!」




「「「はあ?」」」




3人は同時に声をあげていた。






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